第3回同人恋姫祭り作品
【あなたの温もりを感じたい】
《華琳視点》
「……くちゅんっ!」
身震いと共にクシャミが出てしまった。
「……大分冷え込んできたわね」
(ガタッ)
席を立ち窓から外を見る。
「……あら?」
外は既に暗くなり灯るのは灯篭の光と月の光りだけだった。そして、その暗闇の中を白い何かが降っていた。
「寒いわけね。雪が降っているんですもの」
空から降ってくる白い雪、地面に辿り着けばたちまち消えてしまう儚い寒い日の贈り物。
「……一刀」
私はポツリと愛していた者の名前を呟いた。
三国が共に手を取り合ったその日の夜にあいつは天に帰ってしまった。それはまるで私の行く末を見届けたかのように……
「……バカ」
私は窓から離れ席に着く。
「……」
だけど仕事を再開しようにもその気にはなれなくなってしまっていた。
「まったく……あんたはどこまで私を苦しめるつもりなのよ」
あいつはいつもそう。居ても居なくても私達を苦しめる。
あいつが天に帰った翌日。私は玉座の間に全員を集め真実を告げた。
『一刀は天命を終え、天に帰った』っと。
最初は誰一人信じるものは居なかった。
『そんなの嘘だ!兄ちゃんがボクに何も言わないで居なくなるはず無いよ!』
季衣はそう言うと玉座の間から飛び出し一刀を探しにいってしまった。
季衣の行動に最初は驚いていたが一人、また一人と玉座の間から一刀を探しに出て行った。
『……居ないのよ一刀は、もう……』
『華琳様……』
その時、力なく呟く私の傍に秋蘭だけは居てくれた。
まったく情けなかったわ。誰一人私は止める事ができなかったのだから。いいえ、止めることなんて出来ないわよね。みんな一刀の事を好きだったのだから。
そして、一刀が本当に居ないことを自覚した季衣たちは一日中泣いていた。
あの桂花ですら泣いていたのよ?それだけみんなの中の一刀の比率が大きかったことを実感した。
許せなかったわ。私の可愛い娘達を泣かせたのですもの万死に価するわ。でも、一番許せないのはこの私……一刀が居なくなると知っていてその覇道を変えようとしなかったこの私。
でもきっと覇道を変えようとすれば、一刀は私を一喝したでしょうね。
『華琳は華琳の信じるものの為に前に進むんだ。俺の事は気にするな。何があってもずっと華琳の傍で見ているから』
「何が『ずっと華琳の傍で見ているから』よ。約束と違うじゃない……」
一刀が約束を破ったのはこれが最初で最後だった。
「……今あなたは何をしているの一刀」
天井を見上げてポツリと呟く。
「あなたが居なくなってから大変だったのよ」
それからの魏は火が消えたかのように静かになった。
季衣と流琉、そして凪。この三人は一刀の事をとても慕っていた分、その落ち込みようは酷かった。
季衣は春蘭に負けるとも劣らない食べっぷりが一時期は普通の人が食べる様まで落ちていた。
流琉は作る料理、全て失敗するようになってしまった。今ではそれも無くなって来てはいるが味は見るからに落ちていた。
凪に至っては自分の不甲斐無さを嘆き、無茶な鍛錬のせいで体を壊し見張り付きの長期の休暇を与えた。今では大分体の傷は癒えた様だけど、心の傷はまだ治りそうには無かった。
そしてもう一人、何よりも驚いたのは天和だった。
天和は哀しみの余り歌が歌えなくなってしまっていた。
別に、会話する時は何の問題も無く会話をしていた。しかし、歌いだそうとすれば声が出なくなってしまうのだ。鼻歌ですら歌えない。
華陀の話では精神的要因で一時的に歌えなくなっているだけと言っていたけど。天和は今でも歌えていない。それでも落ち着いてきたのか鼻歌程度であればある程度は歌えるようになったようだ。
「はぁ。種馬で女たらしでどうしようもない奴なのに。なんでこんなにも胸が苦しくなるのよ」
分かっている。それだけあいつの事を、一刀の事を愛しているってことなんだから……
「……ダメね。何で今更あいつの事を思い出しているのよ。一刀はもう居ないのだから」
きっと雪のせいね。切なくて儚くて、でも見る者の心を温かくする雪。それが一刀に似ているから思い出してしまったのよ。
「……切ないわ一刀」
目から熱いものが込み上げて来る。
ダメよ。曹孟徳。泣いてはダメ。あなたは魏の王なのだから。
「……」
でも、あの場所なら曹孟徳ではなく、華琳で居られる……そう、あの場所なら。
私は立ち上がり、あの場所へと向かった。
(ギィー)
静かな夜に不釣合いな音が響く。
『ん?やあ、華琳。どうかしたのか?』
「っ!かず……」
(……)
扉を開けた瞬間、一刀の幻を見てしまった。いつものあの笑顔で私を呼ぶ一刀を……
「はぁ、まだ吹っ切れてないのね。私も……」
あの日から半年も経つというのに、私も人の事が言えないわね。
「そもそも、ここに来ること事態、一刀を忘れていない証拠でもあるのだけどね」
忘れられるはずが無い。私を華琳として愛してくれたたった一人の男よ?そんなやつ、一刀以外この大陸を探したっていないわよ。
「……バカ……バカなのよあんたは。自分が消えるかもしれないのに黙って、苦しんで、それでも笑顔で居るなんてホントにバカなんだから……」
もう限界だった……視界は涙で霞み見えなくなる。零れ落ちる涙を拭うこともせず、私は一刀が寝ていた寝台へと足を進ませた。
(ボフンッ)
「一刀……お願い。また私を呼んで……いつもみたいに笑顔で私のことを呼んでよ。ねぇ、一刀ぉ」
誰も居ない一刀の部屋でただ一人……私は愛する者の名を呼び続けた。
「……か、ず……と……」
そして、いつしか泣きつかれた私は一刀の寝台で眠ってしまった。
………………
…………
……
「か、り……」
ん……誰よ、眠っている私を呼ぶなんて首でも刎ねてやろうかしら……
「……りん……か、りん」
煩いわね。本当に首を刎ねられたいようね。
「起きないとこうだぞ華琳」
その瞬間、私の唇に何か柔らかいものが当たった。
え?な、何今の!ま、まさか!誰かが私の唇に!?
「……っ!」
(がばっ!)
私の唇に口付けしたものを切りつけようと起き上がった、が……
「お、ようやくお目覚めか?」
「……か」
なんで……なんであなたがここに居るのよ……
「一刀?」
「華琳?」
「一刀!」
(ガバッ!)
私は一刀の胸に抱きついた。
「うぉ!ど、どうしたんだ華琳?」
「バカ……バカァ!」
自分でも訳が分からなかった。目の前に一刀が居る。月が綺麗に出ていたあの日に消えたはずの一刀が今ここにいる!
でも、そんなことは今はどうでもいい。夢でも幻でもいい……今は、今だけは一刀を感じていられる。
「……」
(なでなで)
「~~~っ!」
一刀は何も言わず私の頭を撫でてくれた。
こんなことされたのはお母様とお父様以外。一刀が初めてだった。
「今日はどうしたんだ?こんなに甘えてきて」
「煩いわね……怖い夢を、見たのよ……」
「怖い夢?華琳でも怖くなるようなことでもあるんだな」
「あなたねえ。私だって人の子よ。怖いことくらいあるわよ」
「そっか。ごめん」
一刀はすんなりと頭を下げて謝って来た。
「それで私が許すとでも?」
「それじゃどうすれば許してくれるかな?」
「そうね……なら、私を抱きしめて……何処にも行かないようにギュッと私を強く抱きしめて」
「……わかったよ華琳」
一刀は笑顔で頷き抱きしめてくれた。
ああ……ここに一刀が居てくれるそれだけで私は……
「……ごめんなさい一刀」
だけど私は直ぐに一刀の胸を両手で押しのけた。
だってこれは絶対に夢ですもの。これがさめた時、私はきっと耐えられない……また、また泣いてしまうかもしれないから。
「華琳?」
「ねえ、一刀。私の怖いものってなんだと思う?」
「え?」
「……」
「う、う~ん……」
一刀は腕を組んで考え始める。
「はぁ……ホントに分からないの?」
「う゛……あ、あはは。降参」
一刀は両腕を上げて降参の意を示した。
「それはね。大切な人が目の前で居なくなることよ」
「……ごめん」
「っ!な、なんで謝るのかしら?」
「やっぱり怒ってるんだろ?その……俺が消えちゃったこと」
「当たり前でしょバカッ……あなたは嘘をついたのよ。私の前にずっと居るって言ってくれたくせに勝手に消えて……」
「……」
一刀は何も言わずずっと私を見つめていた。
「あなたが消えた夜。私は悔いは無いと言ったわ。でもあれは嘘。本当は後悔で一杯だった」
「華琳……」
「本当はもっと他の方法があったんじゃないかって何度も思ったわ。書庫の書物を読み漁り、同じような事例が過去にもなかった何度も、何度も調べたわ。でも見つからなかった」
「これが運命だったんだよ。華琳は大陸を統一して。俺はそれまで華琳を支えるって」
「っ!なら、なんでずっと支えてくれないのよ!私は……私は一刀にずっと一緒に居て欲しかったのに、あんたは消えていなくなった!私の夢は……全部叶って無かったのに!」
一刀の言葉に思わず大声を上げてしまった。
なんて情けないの。一刀に逢う前の私ならきっと想像も出来なかったこと。でも、情けなくても構わない。だって所詮、ここは夢の中なんだから……言いたいことは全部言ってやるわ。
「私の夢はね!大陸を統一して、争いを無くす事」
「ああ。だから華琳は劉備や孫策と戦って勝ったじゃないか。それが願いだろ?」
「それは曹孟徳としての願いよ。もう一人の私、華琳としての願いは叶ってないのよ!」
「華琳の願い……」
「私の……華琳としての願いは、あなたと……一刀と一緒に居ることなのよ……」
段々と言っていて恥ずかしくなり声が小さくなっていく。
「あ、あの。最後のほう聞こえなかったんだけど」
「だ、だから……――――――よ」
「え?」
「~~~~っ!だから!一刀と一緒に居たいって言ったのよ!何度言わせるのよこのばかずと!」
(ドグッ!)
「はぐっ!あ、相変わらずいい拳ですね。か、りんさん……」
「ふんっ!」
はぁ。何やってるのかしら私。バカらしくなってきたわ。
「……ああ、そうよね。これは夢なんですものね」
「……え?」
一刀はお腹を押さえながら私を見上げてきた。
「……ふふ」
私は見上げてくる一刀にニヤリと笑った。
「あ、あの華琳、さん?」
「ここにいるのは一刀であって一刀じゃない」
「な、何言ってるんだ?俺は北郷一刀」
「これは夢。そして一刀じゃない。その答えは……殴っても支障は……ない!」
「いや、ちょっと待て華琳!さっきまでのセンチメンタルな華琳は何処に行った!?」
「また分けのわからない言葉を……天の世界の言葉なんて私が判るわけ無いでしょうが!安心しなさい。死なない程度には手加減をしてあげる『かも』しれないから」
「か、かも!?」
「ふふふ。私を悲しませた分に私を辱め多分。きっちりと支払ってもらうわよ一刀!」
私は自分の拳を握り締め一刀に殴りかかっていった。
「い、いや~~~~っ!!!ぐはっ!」
「うぅ~。酷い目に遭った……」
「自業自得でしょ。まったく」
「だからってあそこまでするか普通?あれは人間としての自尊心を根こそぎ剥ぎ取られた気分だぞ」
「あら?あなたは人間ではないでしょ?このた・ね・う・まさん?」
「うぐっ!」
自覚があったのか胸を押さえて苦しみだす一刀。
「まったく……私はこの半年こんなやつの事を振り払えないなんてどうかしてるわ」
「俺は、華琳の事を一度たりとも忘れたことは無いぞ」
「えっ?ちょ、ちょっと一刀!?」
一刀は私を後ろから抱きしめてきた。
「は、離しなさい一刀」
「だめ。離さないよ。ずっとこうしたかったんだから」
「……」
「俺だって、後悔でいっぱいだったよ。華琳と離れたくはなかった」
「一刀……」
私は後ろから抱きしめている一刀の手に手を添えた。
温かい……こんなに温かかったのね一刀の手は……
一刀の手は大きく、とても温かくて私を安心させてくれる。
「……一刀?」
だけど私はそこで違和感を感じ始めた。
「ああ、そろそろ時間みたいだね」
「時間って……っ!」
一刀の手を見ると段々と薄くなってきていた。そう、あの時のように。
「一刀……また私の前から居なくなるのね」
「ごめん……でも、今回はちょっと違うよ」
「何が違うって言うのよ」
そう言うと一刀は自らの服から何かを取り出した。
「華琳。左手だして」
「ええ」
一刀は私が手を出すとそっと添えて私の指に何かをつけてきた。
「……綺麗な指輪ね」
「その指輪は約束の形だよ。必ずまた華琳たちに会いに戻ってくるって言う俺の誓いだ」
「たち?」
「ああ、華琳、春蘭、秋蘭、桂花、季衣、流琉、霞、風、稟、凪、真桜、沙和、天和、地和、人和。みんなだよ」
一刀は笑顔で答える。はぁ、そこは嘘でも私の為にって言うところじゃないの?まあ、一刀らしいけどね。
「そう……なら、これは私からの命令よ……必ず戻ってきなさい」
「ああ。必ず戻ってくるよ。俺の愛した人たちが居るこの大陸に……俺が誰よりも愛している華琳の為に」
「ん……」
一刀はそう言うと私の唇にそっと誓いの口づけをしてきた。
(必ず戻ってくるよ……)
「……」
次に目を開けた時には一刀の姿は無くなっていた。
「ふふっ。ホント、私もバカよねあんな奴を愛してしまうなんて……」
思わず今までの一刀との日常を思い出して笑ってしまった。
「……待ってるわよ一刀……っ!」
そこで強い光りが辺りを真っ白に染め上げ私は思わず目を閉じてしまった。
………………
…………
……
「……ここは」
次に目を開けた時には一刀の寝具の上だった。
「……あのまま眠ってしまったのね。私としたことが……」
窓から外を見てみると既に陽は上り始めていた。
しかし、朝だと言うのに私の体はとても温かかった。さっきまで誰に抱かれていたかのように……
「……っ!これは」
陽の光に照らされて私の指が輝いていた。
「なんでこれがここに……だってこれは夢の中で」
そう。私の指に輝いていたのは夢で一刀が私にくれた指輪だった。
「夢、なのよね?」
しかし、その答えに答えるものは誰も無い。
「……ふっ、そうね。夢でもなんでもいいわ。だって約束したんですもの……一刀は必ず私に会いに戻ってきてくれる」
『華琳様ーーーーっ!どちらにおいでですかーーー!華琳様ーーーーーっ!!』
『華琳様っ!朝議の時間です。お早くお戻りください!』
その時、桂花と春蘭の私を探す声が聞こえてきた。
「……はぁ。ひたることも出来ないのね。ふふっ」
思わず苦笑いを浮かべてしまった。
『華琳様ーーーーーーっ!!』
『華琳様っ!』
「はぁ、早くここから出たほうが良さそうね」
私は起き上がり軽く服装を整え歩き出す。
なんだか昨日の私とは違う見ない。とても足取りが軽かった。
(ガチャッ)
一刀の部屋を出て桂花たちの下へと向かう。
「朝から煩いわよあなたたち」
「華琳様っ!こちらにおいでだったのですね!」
「探しましたよ華琳様。さあ、そろそろ朝議が始まります」
「ええ。直ぐに行くわ。先に行っていて頂戴」
「「はっ」」
春蘭と桂花は返事をすると先に歩き出した。
「……」
二人を見送った後空を見上げる。
「……待ってるわよ一刀」
空に向かい今はここにはいない一刀に向かい語りかける。
「でも、私の気が変わらないうちに早く来るのよ」
そして私は玉座の間へと歩き始めた。
《END...》
葉月「恋姫祭り皆勤賞~~~っ!」
華琳「浮かれすぎよ。ギリギリだったじゃない」
葉月「ま、まあギリギリでも皆勤賞なんです!」
華琳「それより今回の話はどういう話なのかしら?」
葉月「簡単に言えば一刀が居なくて寂しい思いをしている華琳を慰めようと言う……ひっ!」
華琳「それ以上言うと首が飛ぶわよ葉月」
葉月「う゛……」
華琳「それにしても私はあんなにか弱くなんか無いわよ。何処をどう見たらあんなになるのかしら?」
葉月「え?だって本編の最後なんか……」
華琳「(ニッコリ)」
葉月「いえ。なんでもありません」
華琳「よろしい」
葉月「まあ、今回はクリスマスってお題でかいたのでちょっと切なくしてみたかったんですよ」
華琳「その割には。ちゃんとツッコミどころもあるのね」
葉月「まあ、そりゃ。一刀ですから。無いと一刀じゃないですし」
華琳「それも言えてるわね」
葉月「まあ、今回はこれでお開きにしましょう」
華琳「あら。今回は随分と早いのね」
葉月「ええ。まあ、命がほしいので」
華琳「何か言ったかしら?」
葉月「いえ。なにも!」
華琳「まあいわ。そのことについてはじっくりとあとで聞くから」
葉月「ひぃぃぃぃっ!!」
華琳「ふふっ。いいわその表情。ゾクゾク来るわ。葉月も一刀と一緒でいじめがいがありそうね」
葉月「そ、それではみなさん。またお会いしましょう!」
華琳「ふふ。また会いましょ……春蘭、秋蘭!葉月を捕まえなさい!」
春蘭・秋蘭「御意!」
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ギリギリの投稿になってしまいましたがなんとか完成しました。
注意:かなり私の偏見が入っているのでイメージと違うかもしれませんがご了承ください。
えっと自分の作品の紹介ですよね……えーっと
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