クリスマス。
かの世界に広まった宗教の創始者として有名なイエス・キリストの誕生日として、多くの国ではこの日を公休日にしているが、それは別にその国の国教がキリスト教だからというわけではない。
12月25日という日は、年末にて最後の休日となる。この最後の日、冬も半分がすぎたこの時期に、人々は今年を良く暮らした互いのことを励まし合い、明ける年もよろしく願うという意味でこの日を祝うのだ。
そして恋人同士では、特にこの日はとても大事な日でもある。
日本でのクリスマスの大事さは、彼女の誕生日と百日記念日の次と言っていいほど重要な日と言えるだろう。
男たちはこの日彼女と良い思い出を作るためイベントを用意したり、彼女が普段欲しがっていたものを買ってあげたりなど、何か感動をもたらすことをしようとする。
「それで、お前は何かするの?」
「いや、何もないけど」
………
「何もないと?」
「うん、ないよ」
「もう倦怠期かよ」
「何故そうなるんだよ」
北郷一刀…お前はこの日をなんだと思ってるんだ。
この日はな、実はネロとパトラッシュが死んだとても悲しい日なんだ。
こんな悲しい日を祝うなど恋人たちは正気ではないといつも僕は思ってるよ。
でもだからと言って、お前たちがこの日をいい機会として使うことに異議を唱えるつもりもないし、そもそもお前と雛里ちゃんのことなら全力で助けてあげたい気持ちもある。
なのに、何もないと?
「まぁ、お前がそう驚くのも無理はないさ」
「ほんとだよ。…つかクリスマスイーブの夜に家に居るということがもっと驚きだよ。しかも雛里ちゃんも居ないだろ。二人でどこにでも行って幸せな思い出を作って今頃ギシギシアンアンしてるだろうと思ったのに、あイタっ!」
「お前は僕を何だと思ってるんだよ」
「ロリコン」
「ちげーよ。僕は雛里ちゃんが好きなだけで幼女なら誰でも欲情するお前とは違う」
「僕もロリコンじゃねーし……」
でも、そんな恥ずかしいこと平気で言えるお前と雛里ちゃんの間に倦怠期なんてありえないということは良く分かったぜ。
「じゃあ、何だ?今雛里ちゃんはどこにいるんだ?」
「服屋に……百合さんのデザイン室に無理を言って作ってもらったんだ」
「何を…?」
ピンポーン♫
「お、来たようだな」
一刀はソファから立って玄関の方に行って扉を開けた。
「お帰り、寒いでしょ」
「ふぅ…はい、でもそれほどじゃないよ」
「こんばんわ、雛里ちゃん、お邪魔してるよ」
いつもの魔女っこぼしの代わりに水色のウール帽子を被ってマフラーとミトンをした雛里ちゃんを見て僕は挨拶した。
ちなみにあのウール三種セットは全部一刀の手作りだ。雛里ちゃんの目を盗んで僕のところに来てちょこちょこっと作ってたから分かる。
「あ、TAPEtさん、こんばんわ」
雛里ちゃんに挨拶された。今年のクリスマスは成功だな。
「おい、人の女見て顔を緩めるな」
「あわわ、一刀さん」
「おっと、失礼。それで、僕が見るには、その雛里ちゃんが抱えている紙バッグに僕の疑問に答えてくれるアイテムが入ってありそうだけど」
雛里ちゃんが持ってきた紙バッグは、少し大きめがもので、前にあるロゴは街で雛里ちゃんの親友の朱里ちゃんの姉の百合さんが運営する服屋のものだった。
「あ、これはですね……」
雛里ちゃんは中にあるものを取り出した。
その中には赤と白が入った殺人鬼の服でなければ……
「……サンタクロース?」
「実は、最初は紫苑さんから頼まれてたんです」
ソファに僕一人、反対側に雛里ちゃんと一刀が座る形になった。前のガラスのテーブルには生姜茶が用意されてる。
「璃々ちゃん、今年小学校に入ったんですけど、学校でサンタクロースが居ないって言う男の子と喧嘩したみたいで…」
「ああ、良くあるパターンだね。てか、璃々ちゃんってサンタ信じてたんだ。やっぱいい子だよな、璃々ちゃんって」
「手出すなよ」
「お前今後殺すぞ」
ロリコンちがうっつってんだろうが。
「それで、紫苑さんが、一刀さんにサンタに変装して璃々ちゃんのところに来てほしいって頼んできたんです」
「それで、サンタクロースの服を百合さんのところに頼んだのか」
「はい」
「でなんでサンタガールの衣装もあると」
「あわわ……いえ、最初は一刀さんの一着だけお願いしたんですけど、百合さんが勝手に……」
百合さん、GJ!
「そっか、じゃあ、今年二人のクリスマスイベントって、これってこと?サンタ夫婦になって一人の子供の純粋さを守ってあげるって」
「あわわ……そ、そういうことに……なるんでしょうか///////」
きっと今夫婦といったところに照れてるんだろうな。わざと言ったけど可愛いな。
「で、それが最初は璃々ちゃんだけだったんだけどな」
「うん?まだなんかあるの?」
「ああ、どこで噂を聞いたのか、桃香と蓮華も来て欲しいというじゃん。後、春蘭も酔った勢いで「うちにも来てください!」と言ってたから」
説明しよう。
桃香んちには鈴々ちゃんが居て、蓮華のところには雪蓮と小蓮が居る。春蘭は秋蘭と季衣と流琉と一緒に住んでる。
目当てが誰かは明らかである。
「皆本当妹たちのこと大切にしてるよな。一人は姉の方も考えんといけないけど」
「まぁ……な、その家は………」
「あわわ、と、とにかく、そういうわけで、私たちが家を周りながらプレゼントを送るということになったわけです。
雛里ちゃんが慌てて話をまとめると、なんとなく全体的な話は見えた。
この家からこの家たちを全部回るとすると…先ず桃香のところで蓮華の家、次に春蘭ち、最後が紫苑さんのところか……
「歩いて回ったら夜が明けるな。車要るか?」
「お前車ないじゃん。免許もないし」
「免許は先月とったし、車は及川の借りれば良いよ」
「及川さんなら、確か今日デートがあるとか」
………
ピピピッ
「……もしもし、あ、及川、僕だぞ……そっか、そりゃ大変だなー(棒読み)。ところでさ、かくかくしかじかで、ちょっと車が要るんだけど……うん、ああ、ありがとよ。後で奢るからさ……って泣くなって……あ、おうよ。クリスマスは非リア充同士で飲み潰そ―……オッケー、ありがとう」
ピッ
「借りれた」
「及川……あいつ…」
「あわわ」
あいつも色々あるんだよ。
というわけで、二人ともサンター服装に着替えました。
「サンタのおっさん、行ってみてくれ。これをどう思う」
「凄く……綺麗です」
「あわわ、恥ずかしいでしゅ」
男二人で結構サンタガール服装の女の子の姿を視姦してる姿は、知らない周りが見ると直ぐに通報される図だった。
……割りと知ってる人でも通報されるかもしれん。
「でも、これって結構寒そうじゃないか。ミニスカだし、真夜中だと寒いぞ」
「外に居る時はコートかけて、入ってる時だけこの服装にしたらいいさ」
「そうしたらいいですね。…でも、なんかこんなの他の人に見られたら……あわわ、やっぱ私も行かなきゃ駄目ですか?」
「今更引くの?せっかくのクリスマスイベントなのに」
「あわわ、でも……恥ずかしいです」
大丈夫だろ。雛里ちゃんが見られて一番危ないのは多分僕だからな。
「もしもし、警察ですか?」
「おい、そこの赤いの、通報すんじゃねーよ。車誰が運転するんだよ」
「あわわ、TAPEtさん、鼻血出てます」
「え?ちょっ、マジで!」
やばっ、通報される!
「まぁ、冗談はこの辺にして、そろそろ行くか」
時間は丁度0時。今からクリスマスだ。
あ、ここから僕は黙るから、ここからは二人だけで出すよ。
一刀SIDE
桃香の家
桃香の家の前に来て、僕はベルを鳴らした。
「はーい、ちょっと、待ってね」
「あわわ、一刀さん」
「大丈夫だよ。雛里ちゃん凄く似合ってるし、恥ずかしがることないよ」
「あわわ……」
ここが最初の家ってわけだが、先ず言っておこう。
このイベントは別に寝てる子供の頭の元にこっそりプレゼントを置くというものではなく、単にサンタの服装をして未だに起きている現代の悪い子供たちにプレゼントをあげながら遊ぶという企画だ。
後、サンタガール服装で恥ずかしがる雛里ちゃんを見て可愛がる企画でもある。
「今凄く酷いこと思ってませんでした?♪」
「そうだね。雛里ちゃんは普段着でも十分可愛いのにね」
「あわわ、そういう意味じゃありません。もう…」
横腹に軽くパンチする雛里ちゃんの姿を見てるとこの先僕が正気を保っていられるか心配になる。
「おまたせー♪寒いでしょ?二人とも上がって」
「「お邪魔するよ(します)」」
・・・
・・
・
桃香の家に入ると、テレビを見ていたのかテレビの前のこたつには姉妹たちでクリスマスを祝った跡が見受けられた。
鈴々ちゃんは寝ていて、愛紗も顔を赤くして寝ているのを見てると、多分酔いつぶれたのだろう。
「……ン?待て。これはケーキ屋で売るシャンペインだろ。これで酔ったのか?」
「アハハ、愛紗ちゃん、酒弱いから」
弱いってレベルなのか、これは……
「あ、雛里ちゃん、その服凄く可愛いね」
「あわわ、あまり見ないでください」
きっと今雛里ちゃんは他の二人が寝ていることに安心しているだろうと思う。
一人でも結構恥ずかしいだろうに、三人に騒がれたらたまらないだろう。
臨界値越えると暴走して僕を殴ってくること間違いなしなのでそこんとこ気を付けないといけない。
「にしても、桃香さんも大変だよな。妹たちのせいで」
「ふえ?」
「TAPEtから聞いたんだが、この前付き合ってた奴、愛紗にボコられてもうこないようになったとか」
「あ、うん……でも、愛紗ちゃんも私のこと心配してそうしたんだって」
「あわわ、どういうことですか?」
「あの人、なんか変な会社の人で、私をそこに入らせようとしてたみたい。なんと言ったかな……確かなんとかピラミッドって会社だったかな」
「「…………」」
何でこの人に絡む男は皆裏があるんだろうか。
桃香に下心があって付き合うというのならまだいい。
金絡みとか、何かの詐欺をしようとするからいつも後で分かった愛紗や鈴々がその男とその裏の連中まで全部ボコって姉を救うというレパトリーがテンプレである。
さっき桃香が大変だと言ったのは、ただのお世辞で実は本当に天然で騙され易い姉を持って大変なのは妹たちなのかもしれない。
この家で一番サンタクロースのプレゼントに相応しい人はこの人かもしれない。
「というわけで桃香にはこのプレゼントをあげましょう」
「ふえ?私?鈴々ちゃんのは」
「鈴々ちゃんのはこっちにありますよ」
雛里ちゃんは他のプレゼントの箱を持ってそう言った。かなり大きめで、雛里ちゃんが両手で抱えても後ろで両手が合わない。
雛里ちゃんはこたつの中で寝ている鈴々ちゃんの頭の上のソファにそのプレゼントをそっと置いた。
「にゃー、もうたべられないら……」
「……へへっ、鈴々ちゃんたら」
「大きいね。ね、何入ってるの?」
「前から本人が欲しがってたものだ。ほら、街のゲーセンのUFOキャッチャにある一番でっかい虎の人形あるじゃん」
「あ、あの半年数百人が挑戦して涙を呑んだという伝説の…」
「そう、アレだよ」
「すごいねー。一刀君が取ったの?」
「んや、ゲーセンの人と協商して持って来た」
「協商?」
協商=虎以外の人形を全て1コインで取ることによってすごい被害を受けたゲーセンの人に、『この人形たちを返してほしければあの虎の人形を渡せ』ということ。
ぶっちゃけあれは普通に取れない大きさだったし、ゲーセンの連中もこれに懲りたらあんな釣りまたしないだろう。
「ありがとう、一刀君」
「メリークリスマス、桃香」
「うん、メリークリスマス」
雛里SIDE
桃香さんのお家から移ってここは蓮華さんの家です。
ピンポーン
「……雛里ちゃん、僕の後ろに隠れてて」
「はい?……はい」
良く判らなかったものの、取り敢えず、一刀さんの言うとおり私は後ろに下がりました。
間もなく開かれた玄関の扉から……
「かーずとーー♡」
SYSTEM>>雪蓮さん(酔っぱらい)が襲いかかった。
「ていっ!」
「うぐぉっ!」
一刀さんはニーキック技を使いました。効果はばつぐんです。
「うげぇーーー」
「ってうわぁっ!」
「姉さま、ちょっとまって…って……」
「………あわわ…」
…大惨事です。
・・・
・・
・
「ごめんなさい、うちの姉さんが迷惑かけて……せっかく無理言って来てもらったのに」
「いや、いいさ…服が汚れなかったことはクリスマスの奇跡だと信じることにするよ」
「うぅぅ……気持ち悪い……」
この家の次女として、家で一番頼りになる蓮華さんは、顔を暗くした姉を膝に乗せて一刀さんに謝りました。
一年の鬱憤(という名の他の何か)を全て吐き出した雪蓮さんは、多くはお願いしないから来年からは少し黙って居てくださったら凄く助かると思います。何なら沖縄当たりに行って戻って来なくてもいいですし。
「小蓮は?」
「今部屋で寝てるよ。一刀が来るまで待つってこねてたけど、まだまだ子供よ」
「そうか。もっと早く来た方が良かったかもな」
「そんなことないわ。二人の事情もあるでしょうに、無理言ったのはこっちの方だから。それにどっちかは黙ってくれないと私が持たないわ」
「あはは…大変だな」
小蓮ちゃんが起きちゃった状態で、雪蓮さんまで酔っ払ってると、この家ほど騒がしい場所もありませんからね。
「んじゃ、僕はこれ小蓮の部屋に置いてくるから、雛里ちゃんはここでちょっと休んどいて」
「あ、はい……」
一刀さんが小蓮ちゃんの部屋のある二階へ向かうと、残ったのは私と蓮華さんだけになりました。(崩れ落ちた雪蓮さんは数に入りません)
「………」
「………」
気不味いです。
いえ、なんというか、蓮華さんと二人きりで居るとなんとなく気まずくなっちゃいます。
「あ、あの、雛里」
「…はい、なんでしょうか」
「最近はその……仲良くしてる?一刀と」
「はい、それはもう、これ以上ないほどに…」
「そう、なんだ……」
「はい」
この前、ハロウィーンの時、一刀さんと私と喧嘩してた時、私が朱里ちゃんとTAPEtさんの家に行ってた頃、一刀さんは蓮華さんと一緒に居たそうです。
…いえ、別に浮気とか思ってるわけじゃありません。ありませんけど、たまに一刀さんと喧嘩する時がありますよね。そういう時に、何故か一刀さんの隣には、いつも蓮華さんが居るんです。
まるで私たちが別れたらその隙を狙ってくるかのように……だから蓮華さんに関してはいつも油断しないようにと気をつけています。
なにせ………
胸が!
尻が!
「……もげろ」
「へっ、なんか言ったの?」
「あわ、何でもありませんよ」
「そう……でも、やっぱり羨ましいわ。あなたと一刀のこと」
蓮華さんはため息をつきながらそう言いました。
「あのね、雛里、正直に…言ってもいいかしら」
「……はい」
「私、まだ一刀のこと好きよ」
「…っ」
「でも、一刀がこの前私のところに来た時ね、雛里と喧嘩したって泣きながら酒に絡まれた時、私のところに来てくれて嬉しくもあったけど、やっぱ雛里には叶わないなーとも思った」
「………」
「私はまだ一刀のこと諦めてないけど、私が知ってる一刀なら、いつまでも雛里のことしか好きにならないだろうと思うわ」
「……私だって、一刀さんのことが一番好きです。他の恋なんて、したこともないし、やるつもりもありません」
蓮華さんが入る隙なんて、作らせませんから…
「ふふっ……そう」
「…はい」
「キャー―――!!!一刀のへんたーい!!!」
「「!!」」
一刀SIDE
春蘭の家の前…
「まだ怒ってる?」
「知りません」
「だから誤解だって……」
「そういう問題じゃありません」
小蓮の部屋に行ってプレゼントだけ置いてこようとしたら、床にあった小蓮のパジャマにに足ひっかかって倒れて、その音で小蓮が起きて目が合っちゃって、おまけにパジャマは脱いで肌が透けるキャミとパンツ一丁で寝ていた小蓮ちゃんが叫びだして、蓮華と雛里ちゃんが上がってきた時は、もはや僕が小蓮の服脱がしていたずらしようとしてる図にしか見えなかったとか……
どう考えてもこれは小蓮の罠だろうが!くっそー!あのマセガキ、来年のクリスマスには石炭を送ってやる。
結局ただの小蓮の悪戯だったってことは蓮華にお尻ペンペンされて自白した小蓮によって判明されたけど、それでも雛里ちゃんはまだまだご機嫌斜めだった。
きっと僕が悪いんだろうな、うん。
「……開けるよ?」
「………」
………今年は、無理かな…
ピンポーン
がちゃっ!
「って早いな!」
「お待ちしておりました、お師匠!」
そう言いながら敬礼するのが、この家の主人、元言い、年長者の春蘭だ。僕たちが来るまで玄関で待機していたんだろう。
お師匠というのは、彼女にちょっとの間、うちの道場で剣を教えたことがあるからだ。
以前から剣はずっと習ってきたはずなのに、完全に僕の弟子として振舞おうとしている辺り、彼女の真面目さというか、一直線なところには叶わない。
「メリークリスマス、春蘭」
「はいっ!師匠も…メリーくり(ピー)スです!」
「「……へ?」」
「はい?」
しゅん……らん?
「姉者!違う!クリスマスだ!」
そう言いながら慌てて玄関に来たのは、春蘭の妹の秋蘭だった。
「む?秋蘭、私はちゃんとくり(ピー)スって言ったぞ」
「だから、違うと…」
「秋蘭…春蘭ってさ」
「あ、北郷殿、雛里殿申し訳ない。うちの姉が少し勘違いしただけだ」
「あわわ……」
「秋蘭、何を謝っておるのだ。めりーく」
「姉者(お前)は少し黙っていろ」
「しゅ、しゅうらん、ししょう。私が何をしたっていうんだ……」
お前はな……
・・・
・・
・
「あ、兄ちゃんだ」
「兄様、こんばんわです。雛里さんも」
「お、二人とも起きてたんだ。すごいな」
中に入ると、昼間の時とまったくかわらない(はずの)姿で、食卓でフォークとナイフ持ってる季衣と、厨房でエプロン姿で料理を作ってる流琉の姿が居た。
「こらこら、今朝二時だぞ。まだ食うのか、季衣」
「へへー」
「ふふっ、実はだな。北郷殿。この二人、今夜二人が来ると知ってお昼早めに寝ていたのだ」
「へ?マジで」
お昼寝して今まで起きてるというのか…
「へへー、でも、この時間まで起きてたらなんかお腹空いて来ちゃった」
「兄様たちも食べますよね?」
「うん?ああ……どうしようかな」
僕は隣の雛里ちゃんを見た。
彼女も夜遅くまでこんなことしていて少し疲れ気味な気もした。
ちょっと食べながらくつろいでもいいかも知れない。
「じゃあ、お願いしちゃおうかな」
「はい、任せてください!」
と、流琉は嬉しそうに料理を始めた。
「あ、それならさ、これ、良かったら今から使ってよ」
「え?何ですか?」
「流琉にするプレゼントだよ」
僕は流琉用のプレゼントを渡した。
「これって……もしかしてこの前に行ってた…」
「ああ、この前有名な匠のところに連れて行ったじゃないか。あの時の匠さんに言って、流琉に合う包丁作ってもらったよ」
「あっ……」
実はこの前、このプレゼントとは何の関係もない他の用事に、流琉と一緒に剣の匠のところに行ったことがあった。
当時の目的は僕の剣の定期検診だったのだけど、ふと帰る時に、その匠さんが流琉の手を見て料理師なのかと僕に尋ねたので、そうだと言ったら、これを作ってもらったわけだ。
丁度良い機会だったので、クリスマスということで、この包丁をクリスマスプレゼントにすることにした。
「ありがとうございます!」
プレゼントを開けてみた流琉は、自分の名が柄に書いてあるその包丁を見て、凄く嬉しそうな顔で礼を言ってくれた。
「早速使ってみます」
「うん、期待してるよ」
「ねー、お兄ちゃん、ボクは?」
「季衣ちゃんのはこっちです」
雛里ちゃんは季衣に小さな封筒を渡した。
「なに、これ?」
「季衣、お前にだけは渡すことを禁じられた『あの品物』だ」
「!!」
それを聞いた季衣は、直ぐに僕の言う言葉の意味を理解した。
「……本当に、良いの?」
「…クリスマスの奇跡ということだ。後は任せて、お前は食え」
食店街の食べ放題チケット(一日、一店限定)である。
恐らくこのプレゼントたちの中で二番目で高い奴だ。
ちなみに半分は春蘭が払ってくれた。
「ありがとう、兄ちゃん!」
そして、今までで誰よりも嬉しそうな顔をする季衣を見たら、お金が痛いのは大した問題じゃなかった。
「……」ジーッ
いえ、雛里ちゃんさん、どうして僕をそのような目付きで御見つめになられるのでしょうか。
「……春蘭さん、携帯貸してください」
「春蘭、駄目!その方にケータイを与えちゃいけない!」
「これで最後だな」
紫苑さんち
メインディッシュとも言える場所だ。
「ここは、玄関から入らないんですか?」
「紫苑さんがもうちょっとサンタっぽい登場の仕方して欲しいと言ってさ。璃々の部屋まで壁登って入ろうと思うよ」
「…周りにバレたら下手すると通報されますよ?別の意味で」
「どっちが本来の意味なのかは分からないが……まぁ、気をつけるよ」
そう言いながら、僕は持ってきた梯子を璃々ちゃんの部屋の窓際にかけた。
「んじゃ、行ってくるわ。雛里ちゃんは寒かったら車に戻ってっても良いよ」
「いいえ、ここで待ってます。何かあったら大変ですから」
「…そう、ありがとう」
「あわわ…」
雛里ちゃんの一度笑ってみせて、僕は梯子を昇った。
・・・
・・
・
開けている窓を開いて中に入った。
「と……」
「……いらっしゃい、一刀君(小声)」
「紫苑さん、……こっちにいらしたんですか(小声)」
中に入ると、璃々の部屋で一緒に寝ている紫苑さんが起きていた。
「璃々がサンタさんが来るまで起きているって無茶しちゃってね。サンタさんが来たら起こしてあげるって嘘ついちゃったわ」
「……そうですか」
「…いけないお母さんよね」
「いえ、紫苑さんは……良い娘を持った良い母と思います」
璃々の父が璃々がまだしゃべることも出来ない頃に亡くなったことは解っているし、紫苑さんは今まで一人で璃々ちゃんのことを良く育ててくれた。
「証拠として、璃々ちゃんなんてまだサンタを信じる純粋な娘でいるのですから」
「…そう言ってくれると嬉しいわね」
「……サンタおじいさん?」
「…あら」
璃々が起きてしまった。
「……璃々ちゃん」
「…サンタのおじいさん…」
「そうだね…どっちかと言うと、お兄ちゃんと呼んでくれた方が嬉しいかな」
「………」
「璃々ちゃんはとても良い娘だから、今年は特別にサンタお兄ちゃんが、璃々が欲しいものは何も叶えてあげるよ」
「……璃々、良い子じゃないよ」
璃々は眠い顔でそう言った。
「…どうして、璃々ちゃんは自分が悪い娘だって思うのかな」
「だって…一刀お兄ちゃんに無理言っちゃったから」
「……知ってたのか」
「………学校のね、友達がね……サンタさんは実はお父さんだよ、って言ったの……でも、璃々ちゃんの家は、サンタさんなんて居ないでしょ」
そうか……だからだったのか。
「璃々は悪い娘じゃないよ」
「でも……」
「璃々ちゃん、サンタさんがどうして良い子にだけプレゼントをくれるか知ってる?」
「……どうして?」
「それはね。悪い子は、プレゼントはもらっても感謝しないからだよ。良い子は、プレゼントをもらうと、凄く喜んでサンタさんに感謝するからその子供の嬉しい顔を見てサンタさんは来年もまたその子の笑顔を見ようとプレゼントをくれるんだよ。でもね、子供が自分のプレゼントをもらって喜んでくれなかったり、こんなの欲しくなかったと不満を言うと、サンタさんも凄く辛いんんだよ」
「…………」
「僕はね、璃々ちゃんが僕のプレゼントもらって喜んでくれたら、お父さんじゃなくても、来年も、その次の年にも、璃々ちゃんのサンタさんになれるよ。だから、自分を悪い子って思わないで。璃々が良い子だってことは、誰もが知っていることだから…ね?」
僕は持ってきたプレゼントを璃々ちゃんの前に置いた。
「メリークリスマス、璃々ちゃん」
「ありがとう……一刀…お兄ちゃん…。。………めりぃ………」
……
璃々ちゃんは、そのまま目を閉じて眠ってしまった。
「………良い子ですよ、璃々ちゃんは」
「…そうね」
「…紫苑さん……」
僕は敢えて紫苑さんの顔を見ないで話した。
震えている紫苑さんの声から、その顔が想像できた。
「ありがとう、一刀君、メリークリスマス。最後のプレゼントも、ちゃんと渡すのよ」
「……はい、メリークリスマス」
雛里SIDE
「車、ありがとうございました、TAPEtさん」
「どんまい、あ、僕のプレゼントは雛里ちゃん一日貸し切りでいいよ」
「やらん、帰れ」
「ちっ」
私たちの家まで戻って来ました。
時間はもう4時が過ぎています。もう本当に眠たいです。
「んじゃ、僕は行くわ。二人ともちゃんとお楽しみもいいけどちゃんと睡眠とれよ」
「下ネタ言わんで早う行けよ。こっちも寝るわ」
いつもの調子で話し合うTAPEtさんと一刀さんを見て、いつまでもこんな感じで過ごせたら、私は毎日幸せだなぁと思いました。
一刀さんとこうして居られることこそが、私にとっては一番のクリスマスプレゼントです。
「じゃあ、本当に行くぞ。二人ともメリクリ」
TAPEtさんはそう言って車で行ってしまいました。
「……私たちも行きましょう、一刀さん」
「……そうだな。雛里ちゃん先にシャワー、浴びて良いよ」
「ありがとうございます」
私たちは玄関を開いて入りました。
・・・
・・
・
「ふぅ……あわ?一刀さん、何でまだ着替えてないんですか?」
風呂から上がったら、一刀さんがまだサンタさんの服装のままでした。
「まだ、プレゼントが残ってるのでな」
「……はい?」
そう言って、一刀さんはポケットに手を入れてまま、パジャマ姿を私に近づいてきました。
そして、一歩手前で片脚だけ跪いてついて、私に手を伸ばしました。
そして、その手の先には……
「……え」
「一刀サンタからの、雛里ちゃんへのプレゼントだよ」
一刀さんの手に置かれているものは、箱でした。
指輪を入れた、箱。
「雛里ちゃんが負担に思うかもしれないって今日、明日と延ばしていたら、いつの間にかクリスマスにまでなっちゃってさ……これ以上延ばすと、僕が多分持たないかなぁと思ったから。
「……あぅ……あわわ、あの、」
「取り敢えず、婚約指輪ってことで………丁度新年だし、雛里ちゃんのこと、実家の祖父さんにも紹介したい」
「……もらって、もらっちゃっていいんですか」
「寧ろ、もらってください」
「……あわわ」
恐る恐るその箱を手に取って箱を開けると、一双の綺麗な指輪がはまってありました。
「綺麗………」
ボロっと涙が流れて来ました。
泣くことじゃないのに……嬉しいのに。
「………」
「……一刀さん」
「…何?」
「……これ、嵌めてください」
12月25日という日は、
年末にて最後の休日となる。
この最後の日、
冬も半分がすぎたこの時期に、
人々は今年を良く暮らした互いのことを励まし合い、
明ける年もよろしく願うという意味でこの日を祝うのだ。
「「これからも、よろしくお願いします」」
メリークリスマス。
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どうも、TAPEtと申します。
恋姫同人祭りも第3回を向かいました。
正直、クリスマスというネタが思い浮かばなくて今回は諦めようとしていたのですが、昨日の深夜、つまり聖夜イーブにてネタの神様が舞い降りて、やっとかけた所存でございます。
夜明けに上げられたら最高だったのに…と思ってはいますが、なんとかいけました。
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