No.352164

聞こえてくるでしょ?

第三回同人恋姫祭りに参加しようと思い、投降しました。
ということでいくつか決まりごとがあるので確認します。

1つ目
「『同人恋姫祭り』の作品の投稿期間ですが、12月19日から12月25日までの1週間の間に投稿してください。」

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2011-12-24 23:26:23 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:3949   閲覧ユーザー数:3383

「なぜ私がこんなことを…」

寒さに耐えかねて、彼女はひとりごちる。

あの男さえ余計なことを言わなければ…と。

いまさら言っても仕方のない恨み言がこぼれるのも、偏に自分の不甲斐無さが許せないから。

「これが終わった、文句の一つでも言ってやらねば、腹の虫が治まらんな。見ていろ…」

恨み言と鈴の音一つを残し、気配は闇へと消えていった。

そもそものことの発端はというと、もちろん三国一の女たらし、といいたいところだが、今回の件で、三国を股にかける種馬一人に責任を被けるのも少々酷である。

彼はただ単に困っていた彼女を助けたいがために彼の国の風習を少し話だけで、なにも悪いことはしてない。

むしろ、彼女に助け船を出したのは、ほかならぬ彼だった。

しかし、その後に出てきた厄介事を考えると、彼女はどうしても、こう思わざるを得ないのだろう。

おのれ北郷、余計なことを…と。

これだけでは、それでもまだ不十分かもしれないので、そうなった事情をもう少し詳しく説明しよう。

それは年の瀬の押し迫った頃のことだった。

割り当てられた部隊の調練を終え城に戻るための帰路についた彼女の前に、偶々、本当に偶然、璃々が飛び出してきた。

街の中を璃々が一人で飛び回ること自体はさして珍しいことではなく、むしろよくある光景であった。

美羽や美以、季衣や鈴々、小蓮などと元気よく走りまわっている姿は、城下町の平和の象徴であり、住民たちの暖かい目と警邏隊たちの血の滲む(様な、は付かない)不断の努力によって守れられている。

だからそれ自体はさして珍しいことではなく、彼女自身も何度も見かけてはいた。

ただ今回、いつもと少しだけ、ほんのちょっとだけ事情が違っていた。

その道は普段よりもすこしだけ通行量が多く、璃々ちゃんも普段より少しだけ勢い良く飛び出した。

繁盛している町の大通りである。

飛び出した小さい女の子に気が付かなかった馬車も、残念ながら存在した。

当然、璃々ちゃんに気が付かずに直進する。

璃々ちゃんは馬車に轢かれそうになる。

それを彼女がたまたま見ていた。

彼女とて、璃々ちゃんがどれほど大事にされているか知らないわけではない。

それとは別に、璃々ちゃんはようやく彼女に慣れ始めてきていたという事情もある。

彼女にとってもそれは同じであった。

彼女とて、仲良くなった女の子が危ない目に合っているのを見て動かないほど薄情ではない。

鈴の音一つをその場に残し、彼女は璃々ちゃんを助けた

そこまではよかった。

助けて、めでたしめでたしであれば、それで終わった話だったのだが…

彼女は怒鳴ってしまった。

「何故飛び出した。危ないだろう」

それは彼女が璃々ちゃんを心配しているからこそ出た言葉だった。

そもそも、怒鳴るつもりもなく、ただとっさに出た言葉であったために、知らず声を張ってしまっただけだ。

その内容も彼女なりの心配の言葉であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。

しかしそれは、ただでさえ大きな馬に踏まれそうになって気が動転している璃々ちゃんにはその言葉は少々強すぎた。

璃々ちゃんは泣き出してしまい、彼女は我に返る。

やってしまった、と。

そう思ったときには時すでに遅し。彼女には泣き出した璃々ちゃんをどうすることもできず、ただ一つ出来たことは璃々ちゃんの母親である黄忠こと紫苑が来るのを待つことのみであった。

それからだった。

璃々ちゃんは、また彼女を怖がるようになった。

もちろん、璃々ちゃんは賢い子だから、彼女に叱られたのは自分が悪かったということはわかっている。

わかってはいるのだが…

どうやら鈴の音を聞くとどうしても事故前後に怖い思いをしたことを思い出してしまうらしい。

だから彼女が近づくと、璃々ちゃんは怖がって逃げてしまうようになった。

彼女のほうは、いつも通りといった様子で生活していたが、傍目に見ると、彼女も璃々ちゃんを避けているように見えた。

璃々の顔を見て、表情を変えずに、しかし寂しげな鈴の音一つ残して去っていく彼女の背中は、璃々の母親・紫苑からはその背中は少し寂しそう見える。

そんなことが二、三日続くと、子供を助けてもらった立場の紫苑は申し訳なく感じてしまうった。

「璃々からもお礼をさせたいのですけれど…。」

紫苑自身もいろいろと言い聞かせて彼女にきちんとしたお礼を言わせようと試みたが、効果はあがらずお手上げ状態。

「鈴の音だけでこの状態ですとちょっと難しくて…。」

そこで、北郷に白羽の矢がたった。

「どうにかなりませんか、ご主人様。」

そう頼まれた北郷一刀も、最初は渋い顔をした。

なにかいい方法は…と考えてるうちに、ハッと閃く。

そして、彼のもといた世界に伝わる風習を一つ、璃々ちゃんにしてあげた。

聖夜の奇跡とでもいうのだろうか。

その者、赤き衣を纏い年末の世に降り立つべし…

年の瀬も押し迫ったある夜に、鈴の音とともに現れる人物がいる。

もちろん、北郷だって詳しくは知らないからかいつまんでの説明にはなってしまうのだが…

「俺も、小さいころには毎年楽しみにしててさ。」

この時期になると、毎年親に脅かされていた。いい子にしてないと、今年は来ないかもねと。

一年間良い子にしてたこの枕元に贈り物を置いて去っていくその人物の話を聞くうちに、璃々ちゃんの顔は次第に明るくなっていく。

「これまでは現れたことはなかったらしいけど。

今年は俺みたいな別世界から人間もいるし、もしかしたら来てくれるかもしれないね。」

そういって、その場は話を締めた。

最初、鈴の音と聞いた時に体をビクリと硬直させた璃々ちゃんも、最後には目をキラキラと輝かせて話を聞いていた。

璃々ちゃんも喜んでくれたし、紫苑には事前に話をしてある。

これで、あとは数日中に彼女を通して贈り物をさせれば万事解決…するはずだった。

だがそうはいかなかった。

説明を終え、部屋を後にしようとしたとき、もう一つ、キラキラと、それはもう璃々ちゃんの比ではないくらいに輝いた瞳が目に入ってしまった。

「本当かの主様!それは本当に本当なのかの!?」

璃々ちゃんを遊びに誘おうと、訪ねてきていた美羽の輝いた瞳がそこにあった。

部屋には璃々ちゃんがいる。

璃々ちゃんを喜ばせようとした話を、そのまでおじゃんにできようはずがない。

それにもまして、こんなに目を輝かせた女の子に対して、嘘だよと言える人間がはたしているのだろうか。

「あ…あぁ、本当だぞ、いい子にしてたら美羽のところにもくるかもしれないな。」

北郷には、そういう以外には残されていなかった。

興奮した美羽の口に戸を建てることなど不可能だ。

その口づてに、噂が城内全域に広まるのに時間はかからなかった。

例えば合同会議の席では、

「一体どんな贈り物なのかしらね。楽しみにしてるわよ~?」

と雪蓮が言えば、

「良い子にしてると、贈り物をしてくれる人がいるんだって!すごいよねご主人様!」

と桃香があわせ、

「あなたも大変ね。ま、期待してるわよ。」

と華琳が締める。

明命はお猫本尊さまにそのことをうれしそうに話しており、風は北郷を見てはにやにやし、冥琳はただ肩を叩き、哀れむような目で彼をみるばかり。

凪が夜の警備を強化すると言って聞かず、おそらく事情を察しているだろう真桜と沙和に言い含められる場面にも出くわした。

蓮華もなにやら遠巻きに北郷の様子をうかがっているかと思えば、星や蒲公英はそれをだしに北郷をからかい、春蘭に至ってはすでに人間が入れるほどの馬鹿でかい靴下を作り上げる始末だ。

朱里雛里は冷静さを失い、鈴々音々音小蓮は普段より必死に仕事や手伝いをこなす。

たった数時間で他のみんなもこれらと大差ない状態となり、場内はにわかにお祭りの様相を呈していた。

こうなってはもはや璃々一人のための方便ではなくなっている。

もう、後には引けなかった。

幸い、北郷が恥も外聞もなく、なりふり構わずねじ込んだおかげで歳末のボーナスはいただけている。

贈り物は準備できるだろう。その点については問題がない。

問題は、たった一つ。

北郷では全員に贈り物をすることが不可能であるということ。

百戦錬磨の武将たちの部屋に気づかれずに侵入し、贈り物を置いてでてくる。

不可能だ。

入った瞬間にバレること請け合いである。

『順番』の問題もある為、ばれたが最後北郷が朝までに解放されることはないだろう。

そうなっては翌日の朝、物を届けられなかった子たちに何をされるかわかったものではない。

どうしようかと頭をひねった挙句、彼女に頼るしかなかった。

「すまん、力を貸してくれ!」

名だたる武将を音もなく昏倒させる技量をもつ彼女であれば、北郷の目的を達成することも容易いだろう。

だが、紫苑から璃々を頼まれてその話をしたという北郷側の事情を知らない彼女から見れば、単純に厄介事を持ち込まれたのと同義だ。

彼女からしてみれば、いつもの北郷の軽口が災いしてこうなっているとしか思えなかった。

「貴様なんぞを手伝う義理がない。自分でまいた種だろう。」

と、一蹴される。

通常の北郷だったらここで折れただろう。この時点で諦めていただろうが、今度ばかりはそうもいかない。

「頼む。どうしてもやらないといけないんだ!」

額を地面にこすり付け、必死に食い下がる北郷の姿に、ただならぬものを感じた。

そこまでされて、手を貸さないというのもどうにもバツが悪い。

鈴の音とともに頷き一つで、彼女は、手を貸すことを渋々ながら承諾した。

夜。

「これ、お願いします。ここに書いてある人たちに配って欲しいんだ。俺はこっちをやるから。大体は外装に誰に渡すのか書いてあるから!」

渡された荷物の多さに愕然とする。

北郷は、軍師や比較的に早く寝る子たちのほうを回る。

彼女は、北郷がいっては仕事にならない方を回る。

そういう分担だった。

そういう分担だったのだが…この量は尋常じゃない。

これをもって動き回るというのかと、彼女は恨みがましく北郷を見るも、北郷側とてそれどころではない。

何せ命がかかっているのだから。

それじゃ、よろしく、と一言残し、闇夜に消えていった北郷の背に向かって、彼女はひとりごちる。

「なぜ私がこんなことを…」

あの男さえ余計なことを言うからこんな目に…と。

いまさら言っても仕方のない恨み言がこぼれるのも、あの場で流された己の不甲斐無さが許せないから。

「これが終わった、文句の一つでも言ってやらねば、腹の虫が治まらんな。見ていろ…」

恨み言と鈴の音一つを残し、気配は闇へと消えていった。

ある程度予想はしていたものの、やはり、ほぼ全員が彼女が来ることを(正確に言えば彼女の持っている贈り物であり、さらに細かいことを言えばそれを運んでくるであろう北郷一刀を)待ち構えていた。

だが、そこはそれ、彼女もさるもので、ある者には首筋に一撃、またあるものには気取られさえさせずに贈り物を置いていく。

各人の部屋に鈴の音と贈り物と、場合よっては強烈な攻撃一発(主にばれそうになった時)を置く。

着々と仕事は進んでいった。

そっと侵入し、物を置いては去っていゆく。

この繰り返しにも慣れ始め、ついには背中にしょった袋の中身もなくなった時、あることに気が付く。

「あの馬鹿が…一つ足りないではないか。」

最後に書かれた名前の分、贈り物が足りなかった。

「だがまぁ…ここに私が届けるのもな。」

彼女とて、避けているわけではないのだがそこに近づくのは少々気まずい。

私が持ってないのであれば、

きっとあの馬鹿が代わりに届けているさと、思い直し、早々に立ち去ろうと、歩を進めた。

 

鈴の音が、聞こえた。

 

彼女のつけている鈴の音とは少し違う、しかし彼女のもとの同じくらい澄んだ鈴の音が聞こえた。

はっとして振り返るも、そこには誰もいなかった。

誰もいなかったが、何かあった。

小さな小さな箱が一つ。

宛名にはこう認められていた。

「怖がりな女の子達へ」

「はっ…気障な奴だ。」

しかし、これで言われた仕事は完遂できる。

彼女はそれをもって、最後の一人のもとへと走った。

 

鈴の音をならし、扉を開ける。

 

最後の一人、璃々ちゃんはすでに寝ていた。

これで終わり、と枕元にその箱を置き、立ち去ろうとしたとき。

また一つ、彼女の目に飛び込んできた。

小さな小さな紙に、丁寧に丁寧に書かれた手紙。

ししゅんおねえちゃん

このあいだはたすけてくれてありがとうございました

それと、おれいをちゃんといえなくてごめんなさい

思わず、息をのんだ。

怖がりなのはてっきり…

そうか…私も確かに…

 

そう思っていた矢先のこと。

「思春ちゃん、わざわざごめんなさいね。」

思春は手紙に気を取られすぎたのか、背後に迫る紫苑に全く気が付かなかった。

「本当はもっとはやくお礼を言いに行きたかったんだけど…」

そういって紫苑はいままでの経緯を思春に話した。

やっと、事情を知った思春は、北郷の態度に納得し、そして少し、恥ずかしくなった。

「あらあら、ご主人様ったら、何も話していなかったのね?」

くすくすと笑い、思春の持ってきた箱を取り上げた。

「あら。かわいらしいわね。きっとこれ、あなたとご主人様と璃々の分ね。なんだか妬けちゃうわね。」

 

そういって紫苑が取り出したのはお揃いの三つの鈴だった。

帰り道。

北郷の分と自分の分の鈴を受け取り、それを眺めながら彼女はつぶやく。

「本当に、気障な奴だ。」

白い息となって、消えていくつぶやきと、手の中でなる小さな鈴の音が耳に心地よかった。

「これもが終わったし、あいつに礼の一つでも言ってやらねば…」

そんな強がりも、突き抜けるような寒空に消えていく。

聖なる夜に鳴る鈴の音は、どこか楽しげだった。

翌朝になって、思春は北郷に揃いの鈴を渡しにいく。

「すまん思春!きのうの夜璃々ちゃんの分の贈り物渡し忘れてたんだ!」

北郷はそういって懐から小さな鈴を取り出した。

そうすると…これはいったい…?

「ほんとうに、ごめん!」

謝る彼をよそに、彼女は噂を思い出す。

にわかには信じられないが…だがしかし。

そんなこともあっていいだろう。

彼女は彼にこう返した。

「ふん、知らん。そんなお前にはこれがお似合いだ。

 璃々の件だ、一応礼だけはいっておく。」

ありがとうだけは、口元を隠し早口でいって、揃いの鈴を手渡した。

突きだされる鈴を手に、北郷は理解できないといった顔をするばかりだった。

その後、璃々、北郷、思春の三人で歩いている姿はよく目撃された。

三人の笑い声にあわせて鳴る鈴の音は、とても綺麗だと聞く。

 


 
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