とりあえずレイあす
「……レイシェンさんが、『力』を使っちゃったら……」
そして、そんな中で、レイシェンが己の内にある力を解放してしまったら。
船医として乗艦しているクロイツァーの協力もあり、レイシェンに施されている強化の解析は日々進んでおり、日常において予期せぬ発動はないようになってきていた。だが、それでもなお、『あと一度発動させれば生命の保証は出来かねる』という現状は変わらないままだ。
とは言いながらも和平の成立した今では、そんな不安な状況に置かれることは少ないであろうと思っていた。それなのに。
艦長という立場を思うと、冷静に、客観的に物事を捉えなければならないし、このような状況下でのやりとりは簡潔に終わらなければならない。勿論分かってはいるのだが、目の前のモニターに映し出された幾つもの光点が次から次へと彼女の不安を煽り立てる。
「大丈夫だ、心配するな……『藍澄』」
今現在は艦長とパイロットとして相対しているはずの彼からふいに『藍澄』と、自らのファーストネームを呼ばれた。
日ごろ、オンオフのラインは明確にしすぎだと周りから言われてしまうくらい明確にしている彼からしてみればこれはかなりイレギュラーな行為なのだが、その声音はこの状況かとは思えないほど穏やかで、冷静だ。そう聞こえた。その意図が何であるか。彼女はもう理解していた。
パイロット組(おまけで雪乃)
「ルシオくん」
「ん。聞いてた。その図面、こっちにも送って。――サンキュ。んじゃ、SG隊はフェンネル機を起点にフォーメーション組むから。いけるよな、フェンネル?」
「……んなこと、勝手に決めんな」
モニターにフェンネル機からの通信が割り込む。その声音はやや不機嫌にも聞こえる。
「フェンネルさん!?」
「フェンネル! 何言って」
「凪人! 貴方と言う人は」
藍澄とルシオと雪乃が同時にリアクションを返す。兄である雪乃に至っては、とっさのことで素に戻ったのかプライベートの際にしか使わない本名呼びだ。
「人の話はちゃんと聞けお前ら。個々のスキルとか今現在の機体状態とかを考えて配置振らねえと泣き見るっつってんだ」
「……あ、そっか。ごめん――ってことはフェンネル機どっかまずいの?」
「俺のSGは今のところ稼働はしてる。が、推進が微妙にダウン気味だ。ブリッジからなら分かるだろう、バカ兄貴?」
「バカは不要です、凪人。――確かに、『フェンネルさん』のSGについては、本人の指摘通りです。推進系に破損が見受けられ、トップに据えるには厳しいかと。その点から四機のSGを鑑みると恐らく一番適役なのは――」
一瞬素に戻った口調を再び戻しつつ、四機のデータを並べ、分析結果を提示する。そこへ、
「俺に、やらせてくれないか」
ふいに、別の通信がまたしても割り込んだ。
「ヨシュアさん?」
「ヨシュア!」
「俺のSGは今のところ弾薬が尽きそうだが稼働には問題ない。機体状態から考えたら俺だと思う」
「――やれんのか? お前」
フェンネルが問い掛ける。
「――ああ、やれる」
一呼吸置いて答える。
クロイツァー
「先生! レイシェンさん、レイシェンさんが!」
「艦長、落ち着いて。大丈夫……かどうかはまだ判断付きませんが。クロエからあらかた聞いてます。とりあえず、そちらへ伺います」
とやりとりを交わした直後、音を立ててブリッジの扉が開き、
「はい、来ましたよ」
クロイツァーが現れた。
「先生……? え?」
「先程一報を頂いたときに、もう移動を始めてましたよ。もう少し詳しく聞きたいし、状況を早く確認したかったのでね。さて、クロエ」
ヴィオレとクロエとアルヴァと雪乃
「来たぜ藍澄ちゃん! 呼ばれて飛び出て真打ち登場!」
ドアが空いた瞬間、勢いよく登場したヴィオレに、
「ぶっちゃけヴィオレさんが真打ちってのはどうかと思います。艦長、違うってべしっと言ってやった方がいいんじゃないですか?」
クロエが情け容赦なく突っ込んだ。
「……ひでえ、クロエちゃん。超必殺ヴィオレフラッシュ級のネタ持ってきてるのに」
「そもそもヴィオレフラッシュじゃあ必殺にはならんだろうよ」
アルヴァも参戦し、やや賑やかになったブリッジだったが、
「ヴィオレさん、漫才やるためにこちらに来たわけではないでしょう。必要な機材とか仰ってください」
雪乃がその話の流れを元に戻すべく断ち切った。
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冬コミ新刊リトアンレイあすメインのクルー話のプレビューです。あちこちを寄り抜きました。