No.350928

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 幕間3 朱里√・華琳√

TAPEtさん

雛里ちゃんは次回に

2011-12-22 19:13:27 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5225   閲覧ユーザー数:4117

拠点:朱里 題名:有能な助っ人

 

朱里SIDE

 

それは、

桃香さまと私たちがが平原に落ち着いて、日に日に続く民たちからの嘆願からもなんとか息抜きできるようになった頃の出来事でした。

 

先ず、私の北郷さんへの考えを言わせてください。

北郷さんは曹操軍で行った政策や改革案たちを、私たちに教えて、それがここで使えるように出来るか訪ねました。

いや、尋ねたというより、『やるからやってみるといい』的なノリだったのですが。

 

「じゃ、後は任せた」

「はわっ、手伝ってくれないんでしゅか!?」

 

曹操軍は私たちのような新興で弱小な勢力とは違います。

状況や時期、色んな条件が違うため、そこで上手くいった政策だからといってここでもそれぐらいの結果が出るとは限らず、寧ろ悪影響を与える可能性もあります。

そのため、曹操軍での資料を参考にしつつ、ここで試せるような政策をいくつか絞り出して、試験的に実行してみようと思ったら問題が起きたんです。

私たちは平原に来たばかりで、民たちから好印象を受けるために、税収を下げていました。

そのため私たちには、大々的な政策を施すほどの資金が不足していました。

そういう訳で、その件について北郷さんに相談してみたら、

 

「……持ってくるか」

「資金をですか?でも、どこから……」

「孟徳から」

「はい?」

「奴が俺のおかげで節約できた資金がある。退職金ももらってないしな」

「ま、待ってくだしゃい!良いんでしゅか?」

「別に問題ない」

「でも……」

 

仮にもこっちは曹操軍から有能な人材を一人引きぬいてきた立場です。

曹操軍ではまだ北郷さんがここに居るってことも知らないかもしれないのに、私たちが恥知らずに姿を現して、しかも金なんて貸してほしいと言ったら、金を貸すどころか私たちを潰しに来るかも知れません。

 

「孟徳はそんなことは出来ない。俺がこの軍に居る限りは」

 

でも、北郷さんは淡々と話して、曹操軍手紙を送りました。

そして、一ヶ月後、

 

「孔明、受け取れ」

「はわわ!?なんですか、この金額は!」

 

もらった手形(てがた)には有り得ない金額が書いてありました。

とても新興勢力で、知りもしない軍に貸してくれる金額じゃありません。

 

「それ持ってどっかの富豪に売れば良いだろう。ただ袁紹軍の所には売るな。後でどんな目に会うか知らないからな」

「北郷さんは大丈夫なんですか?!こんな金額、おかしくありませんか?」

「……そもそも送ったこと自体が驚きではないか?」

「そこはもう悩むだけ無駄でしゅ!あぅっ」

 

そもそもこっちは引き抜きした側なのに、そんな軍に資金を貸してくれるってどういうことですか?

 

「まぁ、資金を借りることは普通にやけくそだったのだが、借りれたからには使うまでだ」

「はぁ……でも、本当に良いんですか、北郷さんは?」

「……俺は興味が向いたことは積極的に押す方なんでな」

「………」

「それじゃ、俺は帰る。後は任せたぞ」

「あ」

 

基本的に、北郷さんは政に深く関わることはなく、大体のことは任せてくれてます。

 

丸投げされてるのでそう考えることにしました。

 

 

 

 

こんなこともありました。

 

この前、試しに手が回らないって言い訳をして、何日か些細な嘆願に付いてお願いしました。

その嘆願の解決の仕方を見て、私はこの人の噂が本当だって確信しました。

 

北郷さんには全部で五つの嘆願に付いて頼みました。

どれも平原の有力な豪族や富裕な商人からの頼みだったので、下手に断ることは出来ないものの、色々と面妖な要求が多かったのですが…

 

北郷さんに任せてから三日後、その中で四つを送った所から嘆願を取り消しますという嘆願書が上がって来ました。

その中では『助けてください。私には養うべき妻と子たちが居ます』などとの文章が文字を書くとき手が震えていたかのように汚い字で書かれていました。手紙の隅に落ちてあった血の後が血の涙を流したのか、吐血したことでないことを願うまでです。

一体何をしたのか、読んでいる私の手まで震えてた記憶は、今でもいい思い出です(遠目)

 

残った一つに関しては、ちゃんとした対応をしたようで、後ほどその商人さんからは私たちの軍に対しての協力してくれるという約束をいただけました。

 

「ちなみにその商人さんがした嘆願ってなんでしたっけ」

「……遠回しだったが、要は他の四つ潰して欲しいと」

「…へ」

「暫くは引っ込んでるだろう」

「はわわ……」

 

・・・

 

・・

 

 

 

…………と、こんな感じで、

仕事のやり方は素晴らしいものの、その方法というのが非常識であることは間違いないと思います。

 

普通の人なら、こんな方法思いもしませんし、思っても実行しない、と言ったことでも、この人は平然と実行し、そして成功させちゃうのです。

この人には、まるでこの先のことが全て目に見えるかのような行動をとる姿は、凄いと思いながらも怖くも感じてました。

 

「ふぅ……」

 

なんとか草案を片付けることが出来ました。

実行に移すにはもうちょっと時間がかかりそうですけど、早く片付かなければなりません。

黄巾の乱が終わって間もなくというもの、この短い平和もそれほど長く続かないだろうということは、私も雛里ちゃんも重々承知しています。

これからが本当の乱世の始まり。

私たちは桃香さまがこれからその乱世の波をうまく乗り越えられるようにするため、全身全霊をもってお支えするつもりです。

 

「孔明さま!」

「はわわ!」

 

突然入ってきた文官の人を見て息抜きをしていた私はびっくりして立ち上がりました。

立った所でなんとかなるわけではありませんけど……。

 

「あの男は一体なんなのですか!」

「あ、あの男?」

「あの北郷一刀とか言う男です!」

 

この文官は元からここ平原で働いていた人で、桃香さまのことに付いてはあまり良い印象です。

でも、ここの文官さんたちを今まで良くまとめている人で、本人も凄く優秀だったので、以前のような立場で私を手伝うようにしたのですけど……

 

「天の御使いかなんだか知りませんが、あのような無礼な人間が我々の職場を荒らしている姿をただ見てるつもりですか?」

「お、おちついてください。一体何があったのですか?」

「あの男に仕事を邪魔されているという文官たちからの嘆願が絶ちません。上にあげようと運んでいた報告書はバラバラにしたり、人の政策案を勝手に読み上げ千切ってしまうなどと、無礼極まりない行為が絶ちません」

「はわわ…それは本当ですか?」

 

そんなことならこの人が怒っても当然ですが…しかし、あの北郷さんが何の訳もなくそんなことをしたとも思えません。

 

「取り敢えず、本人に事情を聞いて」

「事情も何もありません!これは明らかな越権行為です!」

「はうっ!」

「あのような者が平原に居ては、今まで築いてきた規則が乱れしまいます。孔明さまも我々のことを無視しているのではありませんか」

「い、いえ、そういうわけではありません。…分かりました。北郷さんに関しては私から制止しますので皆さんにもそのようにお伝えください」

 

私がそう言いましたけど、まだこの人が怒りが収まらないようです。

 

「…聞く話ではあの人間は曹操軍に居たあのエセ御使いだそうではありませんか。一体劉備さまは何を考えてあんな気色悪い者をここに置いているのですか」

「……あ」

「あんな胡散臭い、いや、変人を部下に入れてる様では劉備軍の未来も見えているというものです」

「………少し言い過ぎなのでは?」

「言い過ぎですと?あんな無礼者がこの城に残っていることを黙っていることことがやり過ぎなのです。裏であの曹操と組んで我軍を転倒させようとしているに決まっています」

「証拠もなくそんなことを言うのは良くありません。見た目がどうであっても、彼は桃香さまが認めた私たちの仲間です。それに関して己の気持ちだけで事を決め付ける資格なんてあなたにも、そして私にもありません。○○さんが自分の役割を無視した行為に怒っている気持ちは十分理解できますが、そのような物言いは控えてください」

「これは私だけが勝手に言っている言葉ではありません。文官の中では既にこういう噂が広まっているのです。一部では、彼を追放するまで仕事を放棄するとまで言う群れまでも居ます」

「………」

「孔明さま、ここは劉備軍の未来のためにも、劉備さまに諫言すべきです」

「……………」

 

確かに、北郷さんは色んな意味で奇人で無礼な人ですが、その無礼な仕草は己の実力から来ているものです。

その政の独特さは、これから桃香さまを支えるべき私にとって大きな力となります。もちろん、他の皆さんににもです。

……今私の前に立って、文官たちとお頭というちっぽけな権力で私を振り回そうとしている人間よりはマシな能力を持っていることでしょう。

 

「…分かりました」

 

だから、私は

 

「桃香さまには…いえ、桃香さまに申し上げることもありません。今日にでも直ぐに追放しましょう。

 

 

 

 

あなたのことを」

 

 

「なっ!」

「今までお疲れ様でした。明日からは来なくても宜しいかと」

「い、今、自分が何を言っているのかわかっているのですか!私がここを出れば、同じくこの軍を出る文官たちが何十人は居るのですぞ!」

「構いません!あなたみたいな人、こっちから願い下げです!」

「なっ!」

「桃香さまは皆にやさしい気持ちで当たることを一番大事なものと心得ています。そしてそれは、あの方に仕える私たちも見習うべきものです。あなたのように自分が気に入らないからって人のことを侮辱して切り落とそうとする者なんてこの軍に必要ありません」

「くっ!……小娘が待遇をしてあげてれば舐めた口を叩きやがって…!!」

「!」

「俺は貴様らが来る前からこの平原に居た!貴様らと劉備ごとき、俺が手をかければいつでもこの平原の中で踏み潰せ……ぐぉっ!!」

 

 

「……なんか踏んだか?」

「ほ、北郷さん!」

「き、貴様……何をす…っ!」

 

北郷さんの足に頭を踏まれた文官の頭の人は更に踏みにじる北郷さんの足の下で言葉も出せずに居ました。

というか「なんか踏んだか」って、明らかに上から足で押しつぶしたじゃないですか。

 

「…貴様を横領、強迫…他13件の重罪で逮捕する。貴様の部下らも既に軍部から捕縛した」

「なっ!……馬鹿な……こんなに早く動いただと…」

「…そういうことだったのですか」

 

北郷さんが文官たちの中で無礼なことをしていたということは、つまりこの人の悪行の証拠を探すための動きだったわけです。

その動きを察知したこの人は、文官たちの中で北郷さんに関しての悪評を流し、私に彼を追放することを強要しようとしたわけです。

 

「け、けへへ、俺の裏に誰が居るか分かってんのか?あの方の手にかかれば、お前たちなんて……」

「袁家の長老の一人が貴様を操り、平原から金を奪取していたことは既に分かっていた。集めた証拠と貴様の家から見つけたあいつとの密書を袁紹に証拠と出す。その意外でも様々が悪行をした証拠があるし、袁紹に適当な文とともに奴の処断を要求すれば、俺が知っている情報通りの袁本初なら貴様の親分どころそいつに関係した手下まで全部片付けてくれるだろう。確か『華麗』でなければ要らないとか言う者だったな。あの袁本初もなかなか興味深い奴らしい」

「な……ば、馬鹿な」

「あ、あの北郷さん、いつから動いていたんですか?」

「一週間前だ」

 

たった一週間でこれを全部一人でやったというのですか?!

 

「っ…!!」

「おっと、舌は噛ませないぞ」

「うごぉっ!」

 

北郷さんが自決しようとするその人のうなじを一度蹴ると、その人は獣みたいな叫び声と共に気絶しました。

 

「……騒がせたな。静かに片付けようとしたのだが」

「本当に…騒がせすぎです」

 

私が知らない所で、こんなことまでしていたなんて……私……

 

「北郷さん、明日からこの人とこの人の部下たちの仕事、全部北郷さんに任せます。しっかりやってください」

「……奴の部下が何人か分かるか。全部で48人だ。俺に48人の仕事をやらせるというのか」

「はい」

「………」

「北郷さん、私は怒ってるんですよ?私が怒る側なんですよ?」

 

人が知らない所で勝手に危ないことやらかして、人を脅かすにも程があります。

幾ら正しいことだとしても、私に一言ぐらい言ってくれたら、手伝ってあげることだって出来ましたし、この人を前にあんなに焦る必要もなかったわけです。

北郷さんには少しお仕置きが必要です。

 

「……好きにしろ……俺も暇でこんなことやってたわけではない」

「はい、それはありがとうございます。本当に感謝します」

「………俺からも礼を言ってもらおう」

「はわ?」

「なんでもない。俺はコイツを軍部に渡してくる。当分はまた見えないだろうから探すな」

 

北郷さんはそう言って気絶した文官の人を倒れたそのまま足で蹴ってころがせながら外で出て行きました。

 

「………はぁ…」

 

やってくれる仕事はありがたいんですけど……やっぱ北郷さんってどこかちょっとおかしい人だなぁ、と尚更思ってしまいました。

だけど、だからと言ってそれが信用できないということと同じ意味なわけではありません。

寧ろ、その才に限っては、全面的に信用してもいい、とまで思ってます。

だけど、そういう人だからこそ一緒に居る限りいつか『とても大事な場面』で、私たちを裏切るかもしれないという危険があるということは、避けられない事実でしょう。

だけど、今はまだそんな時期ではありませんし、今は頼りになる人、ぐらいに考えておこうと思います。

 

ガラッ!

 

「朱里!アイツがここに来ていなかったか?」

「愛紗さん?さっき出て行ったばかりですけど、どうしたんですか?」

「ちっ!一歩遅かったか。アイツが私の名を使って勝手に軍を動かしたんだ。あ奴、ついに本性を表した!」

 

……あぁ……北郷さん………

 

「奴を見たら私に言ってくれ!鈴々にも見つけたらその場で切り落とすように伝えておいたから」

「はわわー!駄目です、愛紗さん!誤解です!とにかく帰ってきてくださーい!!」

 

今は取り敢えず、一大事になる前に愛紗さんを追うことにします。

 

 

拠点:華琳 題名:残された絆

 

桂花SIDE

 

アイツが何の説明もなく消えて一ヶ月が経ったわ。

一番衝撃を受けたのは流琉だった。

三日三晩は泣いていたと思う。アイツの汚い部屋の布団の上で季衣や秋蘭が慰めることも聞かずに今でもその部屋で過ごしている。

 

次に大変だったのは凪だったわ。

張三姉妹を二度目捕まえてきた部隊が凪の所から来たことを知った途端、凪は彼らを半殺しにして、沙和と真桜が止めてなければ奴らは二度と立てない体になってたかもしれない。にも関わらず誰があいつらに直接そんな命令をしたのかは判らなかったわ。

 

アイツが行なっていた政策の半数以上が中止された。

アイツの頭がなければ出来ないことが多かったのよ。

その中でいくつかは私が引き受けて、特に街の政策に関しては最終計画までみっちりと計画されているものを発見(発掘と言った方が正しいかもしれないわね)したため、私がまとめようと思ったのだけれど、凪が、

 

「私にやらせてください。お願いします」

 

と必死に頼んできたので本当に重要な部分だけ私が手を加えて凪に一任した。

 

居る時は鬱陶しくて、皆に嫌われる立場だったのに、いざいなくなれば不便なことこの上なかった。

おかげで私も以前の倍は忙しくなった。

アイツが消える前に助っ人が必要とかそんなこと言ってたらしいけど、いまさらそんなこと言ったって意味ないし、そもそもそんな者が見つかったら私から華琳さまに進言したいぐらいよ。

……どの道アイツほどの人材はもう居ないでしょうけれど。

 

「……これは?」

 

書類の中でどこから来たのか不明が書簡が含まれていたわ。

明らかに報告書ではなかった。

 

開いてみると、そこには……

 

「…!!!」

 

 

 

華琳SIDE

 

「華琳さま!」

「あら、どうしたの、桂花。そんなに慌てて」

 

朝からいきなり私の政務室に現れた桂花の顔は蒼白になっていたわ。

まるで黄巾党の本城を叩いてから陳留に戻った時部屋に一刀が居ないのを見た時のように…

 

「これを見てください!」

 

桂花は竹簡を一つ懐から出した。

 

「何なの?」

「…アイツからです」

「……!」

 

アイツからって…まさか、

 

「一刀から…ですって?」

「はい、華琳さまに書いた手紙です」

「……」

 

どういうこと……。

 

私は桂花からその竹簡を開いて中身を読み始めた。

竹簡には長い内容で、胡麻ほどの大きなの文字が続いていた。

 

<<この手紙を読んでいるのが元譲や妙才でないことを先ず願おう。彼女らならお前に渡すことなくそのまま燃やしてしまうか、竹とんぼにしてしまいかねない>>

 

「…この文章は確かに一刀のね」

「はい、誰から来たのかはないものの、こんな忌々しい書き方、アイツ以外できません」

 

そう……

少なくとも今どこかに生きているということね。

そして、私にこれを送ったということは……

 

<<俺には病気があった。それは、お前もある日聞いた通り、大局の流れに逆らう行動をした場合、己の身の破滅が訪れるという予言の通りだった。俺がお前の前から消えたあの日、俺は激痛により気を失った>>

 

「華琳さま、これってどういうことですか?」

「……」

 

以前街であったことを思い出す。

とても昔のことに感じるけど。

 

『………大局の示すまま、流れに従い逆らわぬようになされ。さもなければ、貴方の身はあなたの言動一つ一つで破滅されていくであろう』

 

「あの占いが本当の本当だったというの?」

 

<<お前への占いに偽りがなかったように、俺にも俺の未来があった>>

 

「…一刀は天の御使いよ、桂花」

「しかし、それは華琳さまが己の覇道に一刀を利用しようと広めた噂……」

「天の御使いの噂はその以前からあったわ。私が一刀を利用してそれに乗っただけ。それ自体が嘘だったとしても、彼があの日行ったことが自分の身を苦しめたことには間違いないでしょう」

「ということは……」

 

あの日、一刀は私に何も言わずに張三姉妹を逃した。

あの戦の中で、それが唯一彼が自分の意思だけで行った事だった。

その戦の中で、誰も張三姉妹をそのまま逃がすことを望んでなかった。もちろん私も。

逆に言えば、そのことこそが一刀の体の異変の原因となったということ。それはつまり、彼の身に異変があったとすれば、それは彼が意図していたことだという話よ。

 

<<俺の推論だが、大局に決められた流れがあるというのなら(勿論、お前も俺がそれに従う人間ではないことに同意するだろう)、それを変えようとする異変が起きる時、それを元に戻そうとする強制的な力も存在するだろう>>

 

……私のせいじゃないと言いたいの?

そういう話をするぐらいなら帰ってきたらいいじゃない。

今どこにいるのよ。

 

<<俺は今河北に居る。河北で義勇軍として名をあげた劉備玄徳という者が平原の相として就任した>>

 

「桂花、劉備という者を知っているかしら」

「はっ、確か義勇軍として、河北一帯で黄巾党を掃討し、名をあげた者です。周りには関羽や張飛という猛者がついており、劉備本人も徳のある善人と称されているらしいです」

「善人ね……」

 

あまりあなたと相性が良いとは思えないわね。

だけど、にも関わらずあなたは今そこに居るというわけね。

そして、あなたがそこに残っている理由は、私が知っている限りならただ一つしかないでしょう。

 

<<劉玄徳の理想の儚さについてお前と語り合うことは時間の無駄だろう。だが俺が不可能なことに興味を持つような人間でないことをお前が理解しているだろうと勝手に思っている>>

 

そう。確か一刀が出来ないことに力を浪費するような男ではない。

彼が興味を向けることは難しくても、不可能ではないこと。

…時々彼が興味を持ったら不可能だったことも出来てしまう場合も多々あったけれど。

 

<<これ以上の情報をお前に与えることはお前への欺瞞になるだろう。俺に関してどう思ってもお前の自由だが、これだけははっきりしておこう。お前と俺、どっちもどっちを裏切ってなど居ない。俺はお前に行うべきことを尽くしたし、お前も十分をの得をみた。互いの契約を十分に履行したはずだ>>

 

……あなたは、それで良いの?

このまま、帰ってくるつもりは……

 

「っ」

「…華琳さま」

 

馬鹿ね。何を考えてるのかしら、私は。

彼の言うとおりを、彼と私の関係は……そういうものではない。

 

<<お前が俺にもう用済みだと思っているわけでなければ、いつかまた会うことが出来るだろう。割と早く、敵としてかもしれない。それは関係ない。重要なのは、俺はまだお前に関しての俺の興味失っていないということだ。ただお前よりも興味深い対象と遭遇しただけだ。そしてそうさせたのはお前だ。俺が何故黄河に落ちていたのか俺は知らん。お前は知っているかもしれないが、それがお前の答えでないことを期待していよう。再見

 

追伸:金を貸せ>>

 

…そこで文は終わった。

 

「桂花、今河北にいる間者の数を倍にしなさい。平原の劉備と一刀の動きを中心的に観察できるように」

「分かりました」

「それと……」

「はい?」

「……この文を他の皆にも見せなさい。皆心配しているでしょうから」

「宜しいのですか?」

「構わないわ。ただし、彼を連れ戻してくるなんて許さないわ。そうしたからって帰ってくる一刀でもないし、そのような行為自体、私への冒涜よ」

「わかりました。それと、アイツが言った金というのは…」

「新興勢力だから資金が足りてないのをこっちから出して欲しいと言っているのでしょう。軍資金を使うわけには行かないわ」

「ですが、出さなかったらアイツの場合」

「ええ、後が怖いわね」

 

色んな意味で……

 

「まぁ、替えて言えば、彼がそれほどの無理を私に言うほど興味のある者という話でしょう。劉備という者が……」

 

私を置いて他の女の所に行くなんて、大したものね。

 

「金は私の私財から出しましょう。個人的な投資ということで、ね」

「分かりました。返事は華琳さまがなさいますか?」

「そうね……私は書くけど、もし彼に手紙を書くという者が他に居たら書かせなさい。言いたいことも沢山あるでしょうよ」

「はっ」

 

これであなたとお別れ、とは思わないわ。

あなたも言ったでしょ?

 

 

再見って……。

 

 

 

 


 
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