No.347580 IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~第二十六話2011-12-15 02:39:32 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:6212 閲覧ユーザー数:2596 |
「貴方のお名前は?」
「なまえ…」
初めて交わした言葉は、誰もが経験したこともある有り触れた言葉でした。
「3510…ううん、ミコト。ミコト・オリヴィア。クリスがくれた。ん。私のなまえ」
最初に言いかけた『3510』と言うのは恐らくこの子の開発ナンバーか何かだと思います。でも、白い女の子はすぐにそれを言い直して『ミコト・オリヴィア』と、誇る様に笑顔でそう名乗りました。
「………そう、良い名前ですね」
「ん♪」
褒められて嬉しかったのか白いその頬をほんのりピンク色に染め、私もこの和やかな空気に感化されたのか気が緩んで微笑み返します。
…正直にいうと、最初にあの子を見た時は怖かったんです。最強と呼ばれたあの人の遺伝子で、戦う為に造られ、育てられたクローン。そんなの兵器と変わらないじゃないかってそう思っていました。とても怖い子なんじゃないかって…。でも、そんなことはありませんでした。ただ人を傷つけるだけの兵器がこんな笑顔を浮かべることなんて出来ないから…。それに、笑顔を見て分かったんです。この子は兵器としてでもあの人のクローンとしてでも無く、ミコト・オリヴィアとして生きてるんだって…。
「私は、山田真耶って言います」
「やまだまや…真耶?」
「はい♪」
「………あ」
「え?どうかしました?………へ?」
何かに気付いたのか声を漏らすミコトちゃんに私はどうしたのか気になって顔を覗きこもうとしたら、ずいっと指を刺されてきょとんとしてしまう。
「ええっとー…?」
な、何なんでしょう?一体…。私何かしたかな?
「逆から読んでも『やまだまや』」
ごけっ
少し自慢げに言うミコトちゃんの発言に、私は盛大にベッドにこけた。
…これが、私とミコトちゃんの最初の出会い。優しくも悲しい物語の最初の一ページだった…――――。
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「……んっ……ぁ?」
目を覚ましのっそりと身を起こすと、頭がぼんやりとした状態できょろきょろと辺りを見回す。すぐ横にはミコトちゃんが安らかに寝息をたてて寝ていた。そっとおでこに手を当ててみると熱も完全に引いたみたいでほっと胸を撫で下ろす。…どうやらずっと看病をしていてそのまま寝てちゃったみたいですね。うぅ…畳の上で寝た所為か身体が痛いです…。
「夢……ですか」
随分と懐かしい…と言うにはそこまで経っていない。つい最近のことなのにずっと前の出来事の様に思えてしまう。それだけ充実した毎日にだったのかな?
…確かにそうなのかもしれない。少なくてもこの子にとって、この半年は十分に価値のあるものだった。充実した日々だった筈です。短い時間を生きるこの子にとっては…。
「そうでないといけないんです…」
託された者として、この子を想う者として、この子の生涯を無意味な物なんかに絶対にさせたりはしない…。
「でも…」
―――オリヴィアの余命はあと一年程だそうだ。
昨晩、突然織斑先生から告げられたミコトちゃんのあまりにも短い残りの命…。何も言えなかった。ただ呆然と、全身の力が抜け落ちて…。そして、泣いた。ずっと泣いていた。声を堪えて、ずっとずっと…。
「短すぎ…ですよ」
最初に告げられたリミットの半分も満たない。せめて、せめて卒業までもって欲しかった。皆と一緒に卒業して欲しかった。楽しい学園生活を送って欲しかった…。でも、それはもう出来ないと言うんですか…?
「……………」
壁に掛けられた時計の針はチクタクと音を立てて時を進めている。私には、それがカウントダウンにしか見えなくて…。
「…やめましょう。こんな考え方は」
ふるふると頭を振り暗い気持ちを振り払い、パチンと頬を叩いて気を引き締める。先生である私までこんな調子じゃ駄目でしょ?しっかりしなさい!山田真耶!
時計の針は6時前を指している。生徒達が起き出す起床時間まであと少ししかない。私も支度しないと…。
「…あっ!」
そそくさと支度を済ませ、部屋を出ようとした私は大事なことを思い出し足を止めてくるりと部屋を振り返り。
「行ってきますね。ミコトちゃん」
まだ寝ているミコトちゃんを起こさない様に小さくそう呟いてから部屋を出た―――。
第26話「夜はまだ明けない」
――――Side 織斑一夏
ミコトが倒れたあの夜が明けて、合宿二日目の朝がやって来た。今日から本格的に合宿が始まり朝から夜まで丸一日かけてISの各種装備試験運用とデータ取りを行われるのだが、浜辺に整列する皆の表情は優れなかった。皆、昨日倒れたミコトの事が気になって仕方が無かったんだ。
「よし、集まったな。それではこれより装備試験を行う。各班に振り分けられたISを―――」
「あ、あの~…織斑先生」
一人の生徒が遠慮気に手を上げた。
「何だ?説明している途中だぞ。質問は最後にしろ」
「え、えっと…その、オリヴィアさんはどうしたんですか?」
「またそれか…」
もううんざりだと頭を抱えて面倒臭そうな表情を浮かべる千冬姉。実は起床時間になった直後に俺と箒達は山田先生の部屋に行こうとして千冬姉に止められている。その際に千冬姉は質問攻めにあった訳だ。
「オリヴィアの事は心配するな。熱も引いたし今は寝ている。合宿中は授業に参加は出来ないがな」
「そ、そうですか…」
それを聞いてほっとする生徒一同。ミコトを知らない奴なんてまず一年には居ないし、一年のマスコット的存在なためか一年の殆どがミコトの事を心配していたんだと思う。しかも皆が集まる食事中に倒れたんなら尚更だ。
「まったく、朝からずっと同じ質問をされる私の身にもなれ」
「ひゃ、ひゃい!すいましぇん!?」
不機嫌な千冬姉に睨まれてびくびくしながら謝る名もなき女子生徒。すまん、俺達の所為だね。朝も早くから押し掛けるのような真似をしたのが悪かったか。結局、ミコトにも会えなかったし現状を考えると見事に空ぶってるな…。
「では各自配置に着き装備試験を行え。時間は有限だからな。迅速に行動しろ」
千冬姉が不機嫌な為、はいっ!とハッキリとした生徒一同は返事をすると、きびきびと班に分かれて行動を開始する。そんな中、女子達が移動する最中に交わす会話の殆どがミコトに関する事ばかりで、本当にミコトは女子の間で人気があるのが窺える。
「…心配か?」
「ああ、はいそうですかってな感じにはなれないな…」
話しかけてきた箒に俺が渋い表情で頷く。
他の女子達は納得している様だが、昨晩ののほほんさんの言葉を思い出すとどうもモヤモヤした感じが晴れない。それはあの場に居た箒達も同じだろう。
「こうなる事は分かってたのに…か」
あの時、のほほんさんが言っていた言葉を呟く。すると、箒の目が鋭くなる。
「一夏、気持ちは分かるが…」
「分かってる。のほほんさんに聞くつもりはないよ」
正直、今直ぐにでも問い詰めたい気持ちで一杯だが、あの時ののほほんさんを思い出すと…な。
「なら良いが…。くれぐれも軽率な行動はとるなよ?理由はどうあれ本音も辛い思いをしている様だ。無理に話を聞いて傷つけるのは友人としてするべき事ではない」
「分かってるって。一体どれだけ信用されて無いんだよ俺は」
そう言いつつも気になって視線を泳がせてのほほんさんの姿を探してみると、相川さんや谷本さん、あと女子数名で班を組んでいるのほほんさんを見つける。専用機がある俺や候補生メンバーは班を組み必要が無いのでどうしてものほほんさんはあぶれちゃんだよな。…ん?ちょっと待てよ?
「箒も専用機は無いだろ?班の所に行かなくていいのか?」
いつまでも此処に居ると鬼が来るぞ。これ以上怒らせるのは利口とはとても言い難いんだが…。
「あ、ああ、それは…えっと…だな」
「? 早くしないと怒られるぞ?」
何だかちらちらと周りを気にしながらハッキリしない箒に、はてなマークを浮かべる俺だったが、そこへ声をかけて来たのは鬼…ゲフンゲフン!千冬姉だった。
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」
「あっ!は、はい!」
箒は千冬姉に呼ばれて逃げる様にそちらへ向かう。一体何だったんだ…?
「アイツから聞いているかもしれないが、お前には今日から専用―――」
「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!!」
ずどどどど…!と地響きを響かせて砂煙を上げながら何かがこちらへ近づいて来る。いや、千冬姉を「ちーちゃん」と呼ぶ人物はこの世で一人しか居ないので分かりきってる事なんだが…。問題はその近づいて来ている人物の移動速度だ。無茶苦茶速い。たぶん、ISっぽい何かをつけてるからなんだろうけど、流石は天才。世界中から逃げ回ってる事はある。あれじゃあ捕まえられんわ。
「はぁ…もう復活したのか。念入りに処置したのだがな」
聞き覚えのある声を聞いてまた面倒な奴が来たと溜息を吐く千冬姉。え、何その危険な言葉。とても聞きたくないんだけど。
「やあやあ!昨晩ぶりだねちーちゃん!まさか用件が済んだ瞬間に首を180°回転させられるとは思わなかったよ!しかも今度は間接まで外されるし!さすがの束さんも地中から脱出するのは苦労したね!でも分かるよ!これもちーちゃんも愛だっt――――ぎゃふっ!」
千冬姉の容赦ない蹴りが束さんを吹き飛ばし、束さんは頭から砂浜にめり込む。犬神家状態だ…。
…しかし何でこの人生きてるんだろう。
突然現れた束さんに皆ドン引きである。いや、皆が引いてるのはこの人に対する千冬姉の扱いかもしれない。デンジャラス過ぎる。普通なら警察沙汰だぞさっきの話…。
「(夕方あたりから追いかけて来ないと思ったら埋められてたのか。千冬さんナイスです)」
しかし何尊敬の眼差しで千冬姉を見てるのかなこのファースト幼馴染は。真似するなよ?絶対に真似するなよ?
「…………っ」
「…ん?」
ふと気が付けばのほほんさんもまた熱心に何かを見つめていた。けれど、その目は尊敬とは真逆の憎悪に満ちていて、しかもその視線の先にあるのは未だ地面に埋まっている束さんだったのだ。
あののほほんさんがラウラ以外に…いや、もしかしたらそれ以上なのかもしれない。他人をあんな風に見るのは。いや、それより驚くのはのほほんさんが束さんと面識がある事だ。束さんはアレな性格だから知り合いと認識される人なんて極少数で片手の指さえあれば余裕で足りる程度しかいない筈なのに。
「ぬぽっと……相変わらず容赦の無い一撃!それでこそちーちゃんだ!」
もう復活したのか。あの蹴りを受けて平然としている束さんって…。
砂浜から顔を引っこ抜くと、束さんは箒の方へぴょんぴょんと跳ねていく。格好が恰好なだけに兎みたいだなぁ。
「やあ!」
「…どうも」
「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」
斬ッ!
「斬りますよ」
「し、真剣を振りおろしてから言ったね。ちょっとバイオレンス過ぎじゃないかな箒ちゃん?受け止められなかったら流石の私も死んじゃってたよ?」
目にも止まらぬ斬撃をめっちゃギリギリのところでぱしっ!と刃を受け止める束さん。ホント無茶苦茶だなこの人。まさか真剣白刃取りをこの目で見る日が来ようとは。あれって架空の技なんだぜ?何で出来るのさ…。ほら、他の皆も束さんの勢いついていけなくてぽかんてしてるじゃないか。
「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っている」
「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」
そう言ってくるりんと回ってみせる。それを聞いてぽかんとしていた一同も、やっとそこで目の前で異常な光景を繰り広げている人がISの開発者にして天才科学者・篠ノ之束だと気づいたらしく、女子の間がにわかに騒がしくなる。まぁ、気持ちは分からないでもない。何たって世界で知らない人が居ないってくらいの有名人だからなぁ。それに、女尊男卑の社会を更に強くした原因でもある人だ。ある意味女性の英雄と言えなくもないし、そう考えている人も結構いる。本人にそんなつもりは一切ないだろうけど。
「はぁ……。もう少しまともに出来んのか、お前は。お前達、テストを再開しろ。あと、気になるのは分かるがこいつの事は無視しろ」
「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでも良いよ?」
「五月蠅い、黙れ」
再び蹴り飛ばされる束さん。こんな人がたった一人でISを開発した天才なのか…。信じられるか?この人、天才なんだぜ?
「それで、頼んでおいた物は……?」
砂浜に頭を突っ込んでいる束さんにややためらいがちに箒がそう尋ねると、それを聞いた束さんは砂浜からずぼっと頭を引っこ抜いてキラーンを目を輝かせた。
「うっふっふっ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」
ずびしっ!と上空を指差す束さん。その言葉に従って箒も、そして他の皆も空を見上げる。すると、青い空にキラッと何かが陽の光を反射させて輝き―――その直後。
ズズーンッ!
「のわっ!?」
激しい衝撃と共に、金属の塊が砂浜に落下してきた。
それは、コンテナ…にしては取っ手も無ければ隙間もない銀色の四角形の箱。先程の衝撃からして相当の重量だと予測されるが何が入ってるんだろう?そう思った次の瞬間、箱の壁がばたりと倒れて箱の中身が姿を見せる。そして、そこにあったのは―――。
「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを大きく上回る束さんお手製ISだよ!」
束さんの言葉に応えるかのように、その深紅の装甲が太陽の光を反射して輝かせる。しかし待って欲しい。今、とんでもない事を言わなかっただろうか?全スペックが現行ISを上回ってるって…それって最新鋭機にして最高性能機じゃないか。しかも束さんのお手製?これって凄い事だよな?
「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!私が補佐するからすぐ終わるよん♪」
「……それでは、頼みます」
「堅いよ~。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチャーな呼び方で」
「はやく、始めましょう」
そんなつもりは毛頭ないとでも言うかのように束さんの要求を完全にスルー。
「ん~。まぁ、そうだね。じゃあはじめようか」
何処から取り出したのか、いつの間にか手に持っていたリモコンのボタンを押す束さん。すると、紅椿の装甲が割れて、操縦者を受け入れる状態に映る。
「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さて、ぴ、ぽ、ぱ♪」
コンソールを開いて指を滑らせる束さん。さらに空中投影のディスプレイを六枚ほど呼び出すと、その六枚のディスプレイをぎっしりと埋め尽くす膨大なデータに目配りしていき。しかも、それと同時進行で同じく六枚呼び出した空中投影のキーボードを操作していた。とても人間技とは思えない。流石は天才と言った所か。
「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。あとは自動支援装備もつけておいたからね!お姉ちゃんが!」
「それは、どうも」
相変わらず箒の態度は素っ気無い。姉妹なんだし、もう少し仲良くしても良いと思うんだけどなぁ。
「ん~、ふ、ふ、ふふ~♪箒ちゃん、また剣の腕前が上がったねぇ。筋肉の付き方を見れば分かるよ。やあやあ、お姉ちゃんは鼻が高いなぁ」
「…………」
「えへへ、無視されちった。―――はい、フィッティング終了~。超速いね。さすが私」
本当に速い。いや速すぎる。俺の時は時間掛かってギリギリの所でってな感じで散々だったのに何この差。うちの姉、気合で何とかしろって言って来たんですが?
「………何か言いたそうだな?織斑」
「イイエ、ナニモ」
ちらっと千冬姉を見たらギラッと睨み返された。これが格差社会って奴か…。
「あの専用機って篠ノ之さんが貰えるの……?身内ってだけで?」
「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」
ふと、群衆の中からそんな声が聞こえた。それに素早く反応したのは、なんと意外な事に他人に全く興味を示さない束さんだった。
「おやおや、歴史を勉強したことが無いのかな?有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」
言い返し様の無い事実に、女子は気まずそうに作業に戻る。平等じゃない―――それは、今の社会もそうだ。『女尊男卑』の社会。これが平等だと言うのならその社会は歪んでいる。
「―――はい終了!あとは自動処理に任せればパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ。さあハリーハリー!」
「あ、はい」
束さんがギラーンと目を輝かせてターゲットをこっちに変更。男性でISに乗れるのは俺だけな訳だから根っからの科学者な束さんにとって興味をひかない訳無いよなぁ。入試の時も、あの後検査やらなんやらで大変だったし…。
まぁ、それは置いておくとして。俺は束さんの要求に従い右腕のガントレットに意識を集中させた。
―――来い、白式。
俺の呼び掛けに応えるかのように右腕のガントレットは強い光を放ち、俺の周囲に光の粒子が発生しそれは少しずつ人の形を成していく。そして―――俺を覆う光が晴れた時には、俺の身体を白式が装着されていた。
「ほいほい。じゃあデータ見せてね~。うりゃ」
ぶすりと白式の装甲にコードを刺す束さん。すると、また紅椿の時と同じようにディプレイが空中に浮かびあがる。
「ん~……不思議なフラグメントマップを構築してるね。なんだろ?見たことないパターン。いっくんが男の子だからかな?」
『フラグメントマップ』。ISは操縦者と共に成長する兵器だ。各ISがパーソナライズによって独自に発展していく道筋の事を言うらしい。まあ簡単に言えば人間で言う遺伝子みたいなもんらしい。そう考えると改めてISは不思議な物だと思い知らされる。…と、不思議と言えばもう一つ気になる事があったな。
「束さん、そのことなんだけど。どうして男の俺がISを使えるんですか?」
「ん?ん~……どうしてだろうね。私にもさっぱりぱりだよ。ナノ単位まで分解すれば分かる気がするけど、していい?」
殺して良いですか?と聞かれてYESと答える人は自殺志願者しかいない。そして俺はまだ死にたくない。
「言い訳ないでしょ…」
「にゃはは、そう言うと思ったよん。んー、まぁ、分かんないなら分かんないでいいけどねー。そもそもISって自己進化するように作ったし、こういう事もあるよ。あっはっはっ」
開発者がそれでいいんですか…。
「ちなみに、後付装備が出来ないのはなんでですか?」
「そりゃ、私がそう設定したからだよん」
「え…ええっ!?白式って束さんが作ったんですか!?」
衝撃の事実。まさか俺もISの開発者である束さん自ら手掛けた機体に乗っていたとは…。
「うん、そーだよ。っていっても欠陥機としてポイされてたのをもらって動くようにいじっただけだけどねー。でもおかげで第一形態から単一仕様能力が使えるでしょ?超便利、やったぜブイ。でねー、なんかねー、元々そういう機体らしいよ?日本が開発してたのは」
「馬鹿たれ。機密事項をべらべらバラすな」
今度は拳が束さんの脳天を降下。うん、我が姉は相変わらず容赦が無い。
「いたた。昨日から続けてそろそろ私のHPも限界に近付いて来てるよちーちゃん。ちーちゃんの愛は幾らでも受け止められるけど蓄積量は限られているのです」
「やかましい」
がんっ!再び降下するげんこつに束さんは頭を抱えて蹲る。ああ~…タンコブが鏡餅みたいになっちゃって…。
「………おお~…、みかんさえあれば完璧だねこれ」
束さんも同じこと考えてたのか、てかアンタも大概頑丈ですね。
と、そんな時だ。ハイパーセンサーが妙な声を拾ったのは。
「は、放してくださいな本音さん!これは篠ノ之博士に機体を見て貰うまたとないチャンスですのよ!?」
「やめときなよセシり~ん。あんなの関わらない方がセシりんの為だよー」
…ん?なんかあっちの方でのほほんさんとセシリアが騒いでるな。何やってんだ?…まあいいか。セシリア達が騒がしいのはいつもの事だしな。それより今はこっちに集中しよう。
「よしOK!データは取ったよ!いやはや満足満足!なかなかに興味深かったよ!」
「はぁ、それはよかったです」
何か面白かったのか凡人の俺には分からんけども。
「箒ちゃんの方もそろそろかな~。お!ジャスト三分!今の時間でカップラーメンが出来たね!惜しい!」
最近じゃ3分じゃない方が多いですけどね。
「んじゃ、試験運転もかねて飛んでみよ。箒ちゃんのイメージ通りに動く筈だよ」
「ええ。それでは試してみます」
プシュッ、と音を立てて連結されたケーブル類が外れていく。そして枷が完全に外され、箒はそれを確認するとまぶたを閉じて意識を集中。その次の瞬間、紅椿は物凄い速度で飛翔した。
「おわっ!?」
その急加速の余波で発生した衝撃波に砂が舞い上がる。それから箒の姿を追うと、200メートルほど上空で滑空する紅椿を白式のハイパーセンサーが捉えた。
「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
「え、ええ、まぁ…」
束さんもISを装備しているんだろうか、オープン・チャンネルでの会話がこちらにも飛び込んでくる。そして、その通信に箒は予想以上の性能の為か戸惑うような形で返した。まぁ、見ている俺でも驚くくらいだからな。操縦している本人はもっとびっくりだろうさ。
「んー。機動性は及第点ってところかな?スペックだとイカロス・フテロより上の筈なんだけどねぇ」
「ミコトのイカロス・フテロより速く飛べるってことですか!?」
「そだよ?さっき言ったよね、現行ISを大きく上回るって。んー…少し不満だけどしょうがないね!チビちーちゃんは『素が素』だもんね!」
「? は、はぁ…」
『元が元』?…ああ!才能的な意味か!確かにミコトは凄いよな。うん。あの機動を真似しろって言われて出来る奴なんてそうはいないだろう。
「じゃあ気を取り直して!箒ちゃん刀を使ってみてよー。右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器特性のデータを送るよん」
そう言って空中に指を躍らせる束さん。武器データを受け取った箒は、武器の特性を確認して二本の刀を抜き取る。…うん、やっぱり箒には刀が良く似合うな。刀を構える姿も様になってる。
「親切丁寧な束ねーちゃんの解説付き~♪雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出、連続して敵を蜂の巣に!する武器だよ~。射程距離は、まあアサルトライフルくらいだね。スナイパーライフルの間合いでは届かないけど、紅椿の機動性なら大丈夫」
届かないなら届く距離まで近づけばいいじゃないってか。普通ならそんな簡単に言うなって所だけどあの機動性なら確かに全然問題ない、寧ろおつりが来るくらいだ。ミコトに武装を武装を持たせたら箒の紅椿みたいな感じになるのかな。
そんな事を考えていると、箒が試しに突きを放ってみせた。突きを放つと同時に、周辺の空間に赤色のレーザー光がいくつもの球体として現れ、その光は光の弾丸となって上空にただよっていた雲を穴だらけにした。
「次は空裂ねー。こっちは対集団仕様の武器だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよー。振った周囲に自動で展開するから超便利。そいじゃこれ打ち落としてみてね、ほーいっと」
言うなり、束さんはいきなり16連装ミサイルポッドを呼び出す。光の粒子が集まって形を成すと、次の瞬間に一斉射撃を行った…っておいおいおい!?
「箒!」
俺は思わず箒の名を叫ぶが、箒はその場から微動だにせずもう一振りの刀『空裂』を構える。
「―――やれる!この紅椿なら!」
右脇下に構えた空裂を一回転するように振るう箒。すると、刀が空に絵を描いたかのように帯状の光が現れて16弾のミサイルを一掃した。
『………………』
「すげぇ…」
全員がその圧倒的なスペックと、その威風堂々とした真紅のISの姿に驚愕し、魅了され言葉を失う。そんな光景を、束さんは満足そうに頷いていた。
…けれど、皆が上空に視線を向ける中、一人だけ厳しい表情で束さんを睨んでいる人物が居た―――。
「…………」
千冬姉…?
いくら殺人事件一歩手前なコミュニケーションをしていたとしても二人は友達な筈。なのに、いま千冬姉が束さんに向けるその視線はあまりにも友達に向ける物とは思えなかった。それはまるで―――。
「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」
いきなりの山田先生の声に、千冬姉は鋭い視線をやめてこちらへ走って来る山田先生へと向き直る。
一体どうしたんだろう。あんなに慌てて…まさか!ミコトに何かあったんじゃ!?
「みこちーに何かあったの!?」
素早く反応したのはのほほんさんだった。のほほんさんは普段見せないスピードで山田先生に詰め寄ると、山田先生はそれにビックリしてぶんぶんと首を振る。
「ち、違いますよう!?ミコトちゃ…オリヴィアさんは大丈夫ですから!?」
「布仏。お前はあっちに行っていろ。…どうした?」
千冬姉はしっしっ、とのほほんさんを追い払うと改めて山田先生に問う。
「こ、これをっ!」
山田先生は小型端末を手渡すと、千冬姉はその画面を見て表情を曇らせる。
「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」
「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働していた―――」
「しっ。機密事項を口にするな。生徒達に聞こえる」
「す、すみませんっ…」
「専用機持ちは?」
「オリヴィアさんと例の生徒が欠席していますが、それ以外は……あ、あのオリヴィアさんは…」
「安心しろ。奴は参加させん」
なにやら、千冬姉と山田先生が小さい声でやりとりしている。ハイパーセンサーを使えば声は拾えるかもしれないが―――と、考えた時、千冬姉と目があって、二人は会話では無くなんと手話でやり取りを始めた。生徒に聞かれちゃまずい内容なのか?
「そ、それでは、私は他の先生達にも連絡して来ますのでっ!」
「了解した。―――全員、注目!」
山田先生が走り去った後、千冬姉はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせる。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」
「え………?」
「ちゅ、中止?なんで?特殊任務行動って……」
「状況が全然分かんないんだけど……」
不測の事態に、生徒達はざわざわと騒がしくなる。しかもその中には戸惑いとは別の不満の声もあった。最近の学園行事は不測の事態が立て続けに起こり全てが中止。ISを乗る為にこの学園に入学した彼女達にとって学園行事は大切な物だ。それをまたアクシデントで中止といわれれば不満の声も上がるだろう。
しかしそれを、千冬姉の声が一喝した。
「とっとと戻れ!以後、許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!」
『はっ、はいっ!』
全員が慌てて動き始める。その様は、まるで蜘蛛の子を散らす様だった。
「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!―――それと、篠ノ之も来い」
「はい!」
妙に気合の入った返事を返したのは箒だった。―――そうか、今まで専用機が無いってだけで見ているだけだったもんな。それで悩んでた時期もあったし。これで箒も専用機持ちか……。
でも、大丈夫なのか?
この胸の中でざわつく不安。何か嫌な事が起きそうなそんな気がしてならなかった。嫌な事は続くものだ。ミコトの件に続いて何か起こらないといいんだが…。
――――Side スコール
「………これ」
「あら、何かしら?」
シャワールームを出たところでオータムから小型端末を手渡され、それを受け取り画面に目を通すと、その内容に思わずくすりと笑う。撒いていた芽が出て来たか。しかも予測される移動ルート上には…うふふ、本当に面白い。
一人楽しそうに笑っていると、オータムは呆れたように溜息を溢す。
「また面倒な…何で手っ取り早く奪わないんだよ?」
「例のアレの操縦者は織斑千冬にも匹敵する操縦者よ?まともにぶつかるのはリスクが大きすぎるわ。なら、故障して持ち主から手が離れている所を奪った方が楽じゃない?」
「………確か、アレの移動ルートには」
「ええ、丁度、IS学園がルート上付近で合宿を行ってるわね。しかも専用機持ちが複数。ぶつけるには丁度良い駒でしょ?」
今度は、あの子はどんな面白い事をしてくれるのかしら?正直、そっちの方が気になるのよね。
「アレの暴走にはまたBerserker systemを使うの?」
「少し違うわね。アレの改良…になるのかしら?まぁ、さほど変わりはしないようだけど」
結局、あれは第二形態移行しなかった。第二形態移行の一歩手前の状態までは持ちこめたらしいけど第二形態移行にまでは至る事は出来なかったらしい。今回は、前回のデータを参考にして改善したらしいけど…。
「実際にやってみないと分からないらしいわ。まったく、開発部にも困ったものね」
「いや、そんな危険な代物使いたいと思う奴はいないって…」
まぁ、どうでもいいわねそんな事。さ・て・と、ミコトちゃんは何をしてくれるのかしら。楽しみ♪
あとがき
ここまで屑だと逆に綺麗な束さんがみたいよね。中身がなのはさんみたいな(チラッ
誰か書いてくれないかなぁ(チラッ
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真紅「真紅のIS…まさに私にふさわしい機体なのだわ!」
ジュン「搭乗者のヒロインも同じ不人気だしなゲフゥ!」