No.347371

Fate/Zero 遠坂時臣は“常に余裕をもって優雅たれ”を心掛けている

pixivより
Fate/Zero 僕らの優雅王時臣くんの作品。
3日で閲覧6千ぐらいで、結構お気に召してくれた人が多い作品。
Fate/Zeroはどう書くべきなのか悩んでいたのですが、一つの答えが出た作品。

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2011-12-14 20:51:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7432   閲覧ユーザー数:6745

遠坂時臣は“常に余裕をもって優雅たれ”を心掛けている

 

 

1 遠坂時臣は優雅の探求者である

 

 

 遠坂家当主遠坂時臣は常に優雅であることを忘れない。

 そして彼は探究心に満ちた敬虔な求道者でもある。

 

 遠坂家の家訓は『常に余裕をもって優雅たれ』である。

 この家訓、時臣が当主に就任してから作られた。

 それまで遠坂家の家訓は『同じアホなら踊らにゃ損々』だった。

 遠坂家の当主は代々割とそんな感じだった。娘の凛も未来ではかなりそんな感じだ。

 だが時臣は優雅なので、優雅ではない家訓は最初からなかったことにした。

 遠坂時臣は優雅の求道者なのである。

 

「さて、今日も優雅に俗世を啓蒙しよう」

 遠坂時臣は優雅の探求者にして冬木の管理者を任されている一流の魔術師でもある。

 時臣は冬木の管理者として市井の啓蒙も忘れない。時臣は不断の向上心に満ちている。

 時臣は冬木の構成員のすべてが優雅になることを望んでいる。

 冬木の全ての市民が昼間からワイン瓶を持ち歩いて路上で嗜み、赤いドレスを着てバラを咥えながらモデル歩きで行き来する、そんな理想世界を望んでいる。理想の高さに溺死してしまいそうな程に。

 そして時臣はそんな理想世界の実現の為に努力を惜しまない。今日も冬木市の公式コミュニティーサイトに入って啓蒙活動に励む。

 

 

 50::冬木の管理者 さん

    うちの娘が世界で一番可愛い

 

 

 時臣は数十年に及ぶ探求の末に到達した世の理の根源を一般市井に惜しげもなく披露する。だが……

 

 

51:王の中の王 さん

    >50 何を世迷言をほざいている? 世界で一番愛らしいのは王の王たる我に決まっておろうが。この痴れ者めが!

 

 52:俺の寿命後1ヶ月 さん

    >50 桜ちゃんマジ天使ww 時臣は死ね!

 

 53:魔術師殺し さん

    >50、51、52 うちのイリヤの方がもっと可愛い

 

 54:貧乳はステータス王 さん

    >50、51、52、53 あの、Fateのヒロインって私、ですよね?

 

 55:趣味は人殺し さん

    >50 俺の旦那は目が大きくてクリッとしてて超キュートなんだぜぇ~。今時の愛されヒロインって言うの? 誰かは知らないけれど54よりは絶対ヒロインだな

 

 

 時臣の辿り着いた真理は冬木の一般市民たちにはなかなか伝わらない。それどころか心無い反論が次々と返って来る。

「ヤレヤレ。一般市民の啓蒙は手間が掛かるな」

 名前も素性も全く知らない冬木の構成員を相手に再び時臣は啓蒙活動を始める。

「フッ。愛娘の可愛さを認めない奴らはみんな死ねば良い。死ぬか、啓蒙か。好きな方を選べば良いさ。フッ、フフ、フフフフ」

 不屈の闘志と優雅さをもって時臣は真理の伝達に挑む。

 優雅の求道者にして冬木の管理者である遠坂時臣の1日はふけていく。

 

 

 

 

2 遠坂時臣は常に優雅である

 

 遠坂時臣は常に優雅である。

「ワインは乾くまで転が~す転が~す。イッツ・ダンディ~~」

 優雅とワインは相思相愛の仲。故に時臣はワインを愛す。

 優雅たる時臣は誰が見ていなくてもワインのグラスを回すのを忘れない。

 何故ならそれがダンディーの証なのだから。

 回し過ぎて口にする時にはアルコールがすべて飛んでいるが気にしない。

 何故なら時臣は下戸だから。缶ビール1本で酔い潰れる自信がある。

 だが、優雅たる時臣が酔い潰れる醜態を晒すなどあってはならない。

 時臣には以前甘酒で酔い潰れて寝てしまった際に、額に油性マジックで“肉”と書かれた苦過ぎる経験がある。額の文字は1週間消えなかった。

 時臣を陥れた犯人の名は間桐雁夜と言った。時臣は優雅を妨害された恨みを忘れない。時臣は深夜の神社で優雅にわら人形に釘を打ち込んだ。途中誤って手を思い切り打ち付けたが、優雅かつトレビアンに痛がった。

 そんな青春の苦過ぎる1ページを再び繰り返してはならない。遠坂家の家訓は『常に余裕をもって優雅たれ』なのだから。

 時臣は家訓を汚し屈辱を与えた雁夜に激しい感情を心に秘めていた。心の中でうんこ雁夜と呼んでいるほどに。

 

「ワインに最も合スナーキ(snack)、それは“おっちゃんイカ”」

 優雅とフランス語が相思相愛の仲であることは言うまでもない。

 一流魔術師にして語学堪能である時臣は当然フランス語も嗜んでいる。時臣は他にもバームクーヘンとナポリタンというフランス語を正確に発音することができる。

 そして優雅の求道者たる時臣は長年の研究の末、ワインに最も合うつまみが“おっちゃんイカ”であるという真理に到達していた。時臣はその発見を魔術の名門遠坂が生んだ数々の栄光の中でも最高の成果であると自負している。

「“おっちゃんイカ”なくしてワインを嗜むなど優雅たる私には許されない」

 時臣は家訓に従い常に優雅であることを自身に義務付けている。その為にワインを嗜む際の作法にもこだわりを持っている。

 ワインの友は“おっちゃんイカ”のみ。他のつまみは認めない。そのこだわりはガンダムはファーストしか認めないと息巻く中学生のように強固な信条に支えられている。

 

「出でよ、“おっちゃんイカ”」

 20年間の弛まぬ鍛錬の末に遂に音を奏でるようになったフィンガー・スナップ(指パッチン)を伴いながら時臣は魔術を発動させる。

 優雅たる時臣は形式美にも強いこだわりを持っている。

 だが、時臣の指はピチッと微かに音を奏でたにも関わらず、彼の元には“おっちゃんイカ”が自宅地下倉庫から転送されて来なかった。

「馬鹿なっ? この私が魔術に失敗したというのか? いや、失敗したのなら次に成功すれば良いだけのこと。ゲッツ!」

 時臣は、優雅さを競うライバルと心の中で認めている明るいスーツの男の動作を真似しながら再び魔術を発動させた。

 しかし、自他共に認める一流魔術師の眼前にワインの友が現れることはなかった。

 

「一体、何が起きたと言うのだ?」

 優雅たる時臣は予想外のことが起きても慌てない。

 取り乱すことは優雅の最大の敵である。

 時臣は30年の弛まぬ鍛錬の末に突然目の前に毛虫が現れても冷静に対応出来るようになっていた。心霊特集を見ても夜中に1人でトイレに行けるようになっていた。もう愛娘を起こして付いてきてもらう必要はない。今の時臣に隙など存在しない。

 

「さて、何が起きたのか調べてみるか?」

 時臣はワインの赤い液体の表面をジッと眺めた。すると、その表面に遠坂家の地下倉庫の様子が映り始めた。

 一流の魔術師たる時臣にとってこのような魔術は造作もないことだった。

 確かに監視カメラを使えば魔術を行使する必要はない。だが、優雅たる時臣はそのような無粋なデジタル機器を用いたりはしない。

 以前時臣は愛娘の成長記録を撮る為に部屋に隠しカメラを設置したことがあった。しかし愛妻にみつかって死にたくなるほど怒られて以来カメラは見るのも嫌になった。

 時臣は自身の信じる最高の優雅を実現しながら“おっちゃんイカ”の様子を確かめる。

 倉庫の中は酷い有様になっていた。

 “おっちゃんイカ”が満載に詰められていた箱は無残に切り裂かれ、その残骸だけを晒していた。 そして“おっちゃんイカ”と並んで時臣の重要なカロリー摂取源となっている“うめぇ棒”も全滅していた。

 魔術により鮮度が保たれている穀物、野菜、果物、肉類などには全く手が付けられていなかった。

「フッ。セロリは全てくれてやったというのに、無粋な奴だな」

 時臣は泥棒被害に遭っても優雅さを忘れない。決して当惑せず、泥棒の落ち度を冷静に指摘する。時臣はセロリを人類の敵として敵視していた。

「しかし、この様な偏食を堂々と晒すとは……英雄王にも困ったものだな」

 時臣には犯人の目星が付いていた。

 聖杯戦争の最中、要塞と化している現在の遠坂邸に侵入できる外部者などいる筈がない。時臣暗殺を試みたアサシンのサーヴァントなど邸宅に突入する前に消失してしまった。

 つまり、内部の犯行しかあり得なかった。

 そして、このような稚拙な犯行を起こしそうな人物といえば、時臣自身が召喚したサーヴァントである英雄王ギルガメッシュしかあり得なかった。

 

「ヤレヤレ。この聖杯戦争を優雅に戦い抜く為には“おっちゃんイカ”の補充が必要不可欠。おいっ、葵」

 愛妻の名を呼んだ所で気が付く。

 愛妻と愛娘は今この遠坂邸を出ており時臣の側にいないことを。

 

『似非優雅に浸る貴方にはもう付いていけません! 実家に帰らせて頂きますっ!』

 

 聖杯戦争の災禍に巻き込まれることを懸念した時臣が市外に疎開させたのだった。

 時臣は愛する家族が聖杯戦争に巻き込まれないように2人には連絡を取っていない。時臣が何度電話を掛けても着信拒否の案内が流れる万全の体制が敷かれている。

「葵に買い物を頼めないとなれば……」

 時臣はグラスを優雅に回しながら意識を内部へと集中させる。

 

  綺礼よ、頼みたいことがある

 

 時臣は念話を通じて、魔術の弟子にして聖杯戦争の協力者でもある言峰綺礼に連絡を取った。

 

  何の御用でしょうか、時臣様?

 

 ほどなく綺礼から返答がきた。

 相変わらず仕事が速くて従順だと好ましく思いながら、時臣は優雅にグラスを回す。3時間回し続けたワインは既に何か別のものに変貌している。

 時臣と従順な協力者の会話は続く。

 

  “おっちゃんイカ”がなくなった。買って来てはくれまいか?

 

  …………今日はマーボーの日なので教会を空けることが出来ません

 

  私は、君の魔術の師だと自負しているのだが?

 

  特別手当は出るのでしょうか?

 

  私は雇用契約の中に、師への奉仕も含まれていると考えるのだが?

 

  …………マーボーの鍋が気になるので今日はこれで失礼致します

 

「フッ。所詮人間は生まれる時も死ぬ時も独りということか」

 時臣は優雅にグラスを置いた。

 優雅な時臣には、優雅を共有できる対等な存在がいない。そんな時臣が最近愛好している番組は“僕は友達が少ない”だった。番組名にとても親近感を覚えていた。

 

「綺礼のマーボー狂いにも困ったものだな。モナムゥ~」

 時臣は綺礼との交渉が失敗に終わり、優雅に溜め息を吐いた。優雅な溜め息とは息を吐き出す時にモナムゥ~と口にすることは今更説明するまでもない。日本の常識だ。

 時臣は再び意識を内面へと集中させる。

 

  王の中の王よ。お願いが御座います

 

 時臣は自身のサーヴァントに念話を求めた。

 

  時臣か。今日の夕食にはハンバーグとオムライスを所望だ。オムライスには花丸とウサギさんを描くのを忘れるなよ

 

「ヤレヤレ。相変わらず困った御仁だ」

 自由奔放な英雄王は時臣の手に余る相手だった。より正確にはギルガメッシュは時臣が相手にしたくない性格の持ち主であり扱い方に困っていた。

 だが、当惑している様を見せるなど優雅たれを家訓にしている時臣に許される訳がない。

 気を取り直して、優雅にそして物腰柔らかに再び英雄王とコンタクトを取る。グラスの中身を遠心分離に掛ける勢いで回しながら。

 

  王の中の王よ。聖杯戦争勝利の為に貴方に食料調達の任を引き受けて頂きたい

 

  貴様が行けば良かろう。食事の調達は下男のすることと相場は決まっておる

 

 マスターである時臣を堂々と下男呼ばわりするサーヴァント。時臣はどうせならマスターを敬う従順なセイバーやランサーが召喚されれば良かったのに心の中で舌打ちしながら気を取り直す。優雅たる時臣が音を出して舌打ちするなど決して許されない。

 

  しかし王よ。この遠坂邸が他のマスターから一斉に監視を受けている以上、私がここを留守にする訳にはいきません。万一ここを他勢力に占拠されるような事態になれば戦争の遂行が難しくなります

 

  この屋敷には我が続けて残る。貴様1人が欠けようと守りに何の支障もない

 

  残ると申されますと?

 

  我は今、ネット世界の征服に忙しい。聖杯戦争など我が本気になれば一瞬で片が付くが、こちらの世界はなかなかに骨がある。この我を荒らし呼ばわりして一歩も引かぬ

 

  ああ、左様でございますか

 

  特にこの、自分の娘が世界で一番可愛いなどと抜かす無知蒙昧な輩が昨夜から我に歯向かって止まぬのでな。英雄王たるこの我が徹底的に潰してくれる

 

  目の曇り切った親ばかはどこにでもいるものですからあまり熱心に相手されませんように

 

 時臣は英雄王との念話を切った。

「モナムゥ~~~~っ」

 思う通りに事が運ばない現実に思わず溜め息が漏れ出る。

「うちの娘以上に可愛い娘がいる筈がないのに、フッ、まったく困ったバカ親が世の中には多くて困る」

 こうして時臣は自らワインの友“おっちゃんイカ”を入手しに出掛けることになった。

 

 

 

 

3 遠坂時臣は孤独な魔術師である

 

 

 魔術師とは孤独な存在である。

 生涯を掛けて自らの工房に篭り魔術の研究に勤しむ。

 しかし、そこで得た成果が世に知られ渡ることはない。ただ、自身の研究を受け継ぐ子にその成果がひっそりと伝えられるだけである。

 更に魔術師は自身が魔術師であることを知られてはならない。むやみに魔術師であることを知られれば魔術協会から制裁が下されるばかりでなく、他の魔術師から狙われる危険も増える。そして非魔術師である一般人や統治権力と摩擦を引き起こすことになり、流血沙汰や迫害に繋がりかねない。

 それは魔術の名門として世界的にも名が知れ渡っている遠坂家の場合にも当てはまる。遠坂時臣の正体を知るのは魔術師のみである。

 時臣は豪邸と呼ばれるその邸宅にひっそりと目立たぬ様に住んでいた。

 

「外出するのも久しぶりだな」

 敬虔な真理探求家である時臣は滅多に自宅から出ることはない。特に聖杯戦争の準備が本格化してからは全く外出したことがなかった。

「この外出……私の優雅さの真偽を神が試そうと言うのだな? 面白い。受けて立とう」

 時臣に掛かれば、近所に“おっちゃんイカ”を買いに行くだけでも神との名誉を掛けた戦いになる。

 優雅とは背負う物の重さの裏返しでもある。尊き使命と悲愴な覚悟を秘めてこそ優雅たる要件を満たすのである。

 時臣は優雅の証であるワインレッドのスーツに加え、ダンディーの証である黒いシルクハットを手に取り、紳士の証である白い手袋を嵌めて外出スタイルを整える。ステッキを振り回して歩きたい所だが、今日は代わりにワインボトルが握られている。

「いざ行かん。神との聖戦に」

 こうして時臣の聖戦、”はじめてと呼んでも差し支えないほど久しぶりのおつかい”が始まった。

 

 

 魔術師とは孤独な存在であり、決して他者に理解されない存在でもある。

 それは一流の魔術師にして人格者として魔術師世界で広く知れ渡っている時臣にしても変わらない。

 彼は冬木の管理者ではあるが、その正体が市井の一般人にはまるで知られていない。その為に彼は近所から正当な評価を受けていない悲しい存在でもある。

 

「見て、奥さま。遠坂さんの旦那さんよ。ワインレッドのスーツにシルクハットで出掛けるなんて正気なのかしら? 昔、フランス帰りを自称するイヤミという漫画のキャラクターがいたけれど、あれとそっくりよ」

「遠坂さんの旦那さんって、遭遇率がウォーリー並の引き篭りなのでしょう? 親の財産を食い潰して引きこもって遊んでいるって専らの噂なのよねぇ」

 

 時臣は正体を明かせない冬木の隠れた守護者である。故に正当に評価を近所の主婦たちから受けていない。

 

「遠坂さんの奥さん、この間娘さんを連れて実家に帰ってしまったそうよ」

「ええ。家の中でワイングラスをグルグル回すしか能のない格好付け夫に愛想が尽きたと奥様が直接言っていましたもの。こんなことなら障害を排して雁夜くんと一緒になれば良かったと大きく溜め息を吐きながら」

 

 時臣は自身に偏見の目が向けられることを厭わない。事実無根の偏見が募れば募るほど自身の真の正体が露呈する危険が減るのだから。

「フッ。葵の偽装工作は上手く機能しているようだな」

 それどころか時臣は近所の主婦から悪評が立っていることに対して愛妻を誉めていた。

 葵がご近所にまで響き渡る音で時臣の頬を3度本気で叩き、夫の悪評を触れ回る迫真の演技をしてくれたおかげで、近所の住民たちは愛妻が喧嘩の果てにこの邸宅を出ていったのだと錯覚している。

 疎開の為の偽装工作は完璧だった。更に愛妻は疎開後時臣との連絡を完全に絶つという徹底した演技を続けてくれている。自分の期待を上回る愛妻の立ち回りに時臣は鼻が高かった。

「ならば私も本分を全うするまで」

 時臣は近所の主婦たちに軽く頭を下げると、優雅に買い物を遂げることを心に誓い直す。

 

「優雅な買い物は、優雅な歩き方から始まる」

 優雅を探求する時臣に際限など存在しない。それは歩き方1つ取ってみても言えることである。

 時臣はその人生の全ての期間を通じて最高に優雅な歩き方を探求して来た。時臣は魔術に触れるようになる前に既に歩いていたのだから。

 そして、時臣が全人生を賭けて辿り着いたたった1つの答え。

「最高に優雅な歩き方……それは、これだっ!」

 時臣は右手をシルクハットに優雅に添える。

 そして、優雅にハイテンポなリズムに乗りながら足を交互に滑らし、前に歩いているように見せながら後ろに滑り始めた。

 

「ムーンウォ~ク。これこそ優雅たる遠坂魔術の最高峰」

 

 かの天才アーティストが世界に知らしめた究極にして至高の歩行法。優雅の極みであることはもはや説明を要さない。

 時臣は目的地のスーパーに向けて後ろ向きに進み始めた。

 通常、後ろ向きに歩行するなど常人にとっては危険極まりない。だが、一流の魔術師たる時臣にとっては何ら危険も存在しない。

 何故なら、魔術を駆使して後方の様子を常に確認できるからである。ムーンウォークとは魔術師が駆使してこそ初めて安全、そして完璧なものになるのである。

 日常生活でムーンウォークを駆使しながら移動する人物を見つけたら、その者は魔術師と見てまず間違いない。

 ムーンウォークと魔術師は切っても切れない仲であり、かつ優雅の象徴なのである。

 

「見て、奥さま。遠坂さんの旦那さんが格好ばかりでなく奇怪極まる動きで後ろ向きに歩き出しましたわよ。父親があんなのじゃ凛ちゃんも可哀想に」

「そう言えば最近桜ちゃんの姿を見ないのだけど、児童相談所があの父親の悪影響を受けないように引き離したって専らの噂ですのよ」

 

 相変わらず近所の主婦たちからは心無い事実無根の中傷が流され続けている。だが、優雅にして一流の魔術師である時臣は少しも動じない。

「魔術師とは難儀な存在だ。誤解されれば誤解されるほどに偽装が上手くいっているという証拠なのだからな」

 時臣は自身に向けられる冷たい視線を誇りに思いながら、一路後ろ向きにスーパーへと目指すのだった。

 

 

 

4 遠坂時臣は冬木の管理者である

 

 遠坂時臣は一流の魔術師として冬木の地の管理者の役割を担っている。

 管理者とはただ名目上その地位に就いている訳ではない。冬木の地に危機が訪れた際には問題解決の為に危険を承知で自ら乗り出すのである。

 今回の聖杯戦争への時臣の参加もその一環であると言える。

 聖杯戦争の勝者が手中に収める聖杯はどんな望みでも叶える力があると言われている。だがその強大過ぎる力故に、願いの内容次第で世界の秩序と安寧が根底から崩れかねない。

 そこで聖杯戦争を取り仕切る教会側が白羽の矢を立てたのが時臣だった。高潔な人格者にして敬虔な真理探求者である時臣ならば聖杯を悪用しないだろうと裏交渉を持ち掛けたのである。

 即ち、時臣に勝利をもたらすべく聖杯戦争の監督役自らが裏で様々な支援を彼に行い、時臣は聖杯を根源への探求にのみ使い世界の安寧を維持するという相互協力である。綺礼が時臣の弟子入りしたのもその一環であった。今回の聖杯戦争はその全てが仕組まれたものだった。

 時臣自身は裏交渉による暗闘に対して特に思う所はなかった。

 彼にとって重要なのは正々堂々と戦うことではない。冬木の、そして世界の安寧であり、根源へと至る道の確保であった。それが魔術師にして冬木の管理者としての使命だからだ。

 そして何より優雅であり続けることが時臣にとっては重要なことだった。

「私の優雅を乱そうとする者は誰であろうと容赦しない」

 それこそが時臣にとって唯一無二の正義であった。彼は正義の信奉者でもあった。

 即ち、冬木の平和とは彼の優雅が保たれる時空間を指し、平和の危機とは彼の優雅が揺れ動くことを意味している。時臣の元に俺様英雄王ギルガメッシュが召喚されたのはきっと偶然ではない。

 

 時臣は平和を愛している。

 だが、時臣の愛するその平和を私利私欲の為に乱そうとする者は数多存在していた。

 そう、時臣は冬木の管理者である為に数多くの者から狙われていたのである。

「ムーンウォークは優雅だが、移動に時間が掛かるのが難点だな」

 真理の探求者である時臣は、究極にして至高の歩行法である筈のムーンウォークの僅かな欠点にも既に気が付いていた。

 時臣は優雅な歩行の為にリズムにも細心の注意を払っている。更に30秒に1度はバックターンを加えその場で優雅にステップを加えるので1分間に進める距離は通常の歩行に比べて短くならざるを得ない。

 優雅の代償と言えば仕方ない。だが、時臣が長い間路上に姿を晒していることは、襲撃者にとってみればそれだけ攻撃する機会が増えることを意味していた。

 そして、実際に時臣は恐るべき強敵に狙われていたのである。それは、一流の魔術師にして冬木の管理者である時臣の宿命でもあった。

 

「一刻も早く“おっちゃんイカ”を手に入れて食さねば冬木の平和が崩れてしまう」

 “おっちゃんイカ”の供給が絶たれてから既に数時間が経つ。その間時臣はワインを1滴も口にしておらず、食事も採っていない。ワイン抜きの食事など考えられず、“おっちゃんイカ”抜きのワインなど考えられない。そんなものは優雅に反する。

 ムーンウォークでカロリーを消費している時臣にとって“おっちゃんイカ”の入手は死活問題と化していた。

 もし、腹の虫が音を奏でるようなノット優雅な事態になれば時臣は死をも辞さない覚悟である。時臣に残された時間は多くなかった。

 だが、そんな危機的状況にこそ敵は満をじして現れるのだった。

 

「おい、お前。私の同胞を食すとか、平和が崩れるとか物騒なことを言っていなかったじゃなイカ?」

 時臣の正面には、中学生ほどの年齢に見える青色掛かった長い髪を持つ白いワンピースの少女が立っていた。少女の頭には掃除で使う三角巾のような白い帽子がのっていた。

「お嬢ちゃんは一体何者かな?」

 時臣は少女に見覚えがなかった。

 更に近付いてよく確かめてみようとする。だが、ムーンウォーク故に近付こうとするほど遠ざかってしまう。

「昼間から酒便を持ち歩き怪しい服装で怪しい歩き方をしながら私を威嚇する。やっぱりお前……変態でゲソね!」

 少女は時臣に向かって指を突き刺した。

 だが、正体を隠し誤解されていることに慣れている時臣は少しも動じなかった。

 時臣は右手に持っていたワインボトルの封を切り、左手に持つワイングラスへとその赤い液体を優雅に注いだ。

 そしてその香ばしい匂いを鼻で味わうと優雅にグラスを回しながら少女に向かって微笑んだ。

「フッ。お嬢ちゃん、変態は……雁夜だけで十分だよ」

 時臣はうんこ雁夜と言ってしまいそうになるのを寸前の所で留めた。年端もいかない少女に向かってそんな単語を発すれば舌をよく噛んで死ぬしかない。

 時臣の外出は常に死と隣り合わせだった。

「雁夜? そいつは誰でゲソ?」

「優雅とは対極にいる無粋な男だ」

 首を捻る少女に時臣は優雅かつ端的に回答して見せた。だが、その内心には間桐雁夜に対する激しい感情が渦巻いていた。愛娘が自分より明らかに懐いている怨敵に。

 

「ていうか、お前は誰なんでゲソ?」

 少女の時臣を見る視線が厳しくなった。

 だが、その敵意剥き出しの視線は時臣にとって慣れたものであり、正体を尋ねられることも多かった。時臣は少しも動じず慌てずに優雅かつ爽やかに答えてみせた。

「私の名は遠坂時臣。優雅の探求者にして冬木の管理者を任されている正義の味方と言っておこう」

 時臣の自己紹介を聞いて少女は後方へと大きく飛び退いた。

「冬木の管理者っ!? 正義の味方っ!? つまりお前は、私の敵でゲソねっ!」

 “敵”という単語に時臣の表情が僅かに強張る。だが、優雅にグラスを回す手は止めない。動揺を見せるなど優雅の探求者たる時臣には許されない。

「お嬢ちゃん、君は一体何者なのかな?」

 見た所、魔力のようなものは感じない。だが、彼女の存在が放つ波動が人間とは異なるように思える。そしてその波動に時臣は親近感を覚えていた。

 こんなこと、人外とも数々の死闘を繰り広げて来た時臣の人生の中でも初めてだった。

 時臣の質問を聞いて、少女はニヤリと笑った。

「よくぞ聞いてくれたでゲソ」

 そして少女は胸を張りながら自身の恐るべき正体を述べたのだった。

「私は海からの使者。地上を侵略しに来たイカ娘でゲソ! 今日はアレックスの散歩の途中で人生という道に迷ってここに来たでゲソ。人間め、私にひれ伏すが良いじゃなイカ!」

「イカ娘? 地上を侵略、だと?」

 時臣の目が鋭くなる。もしかするとこの少女は新手のサーヴァントなのかもしれない。マスターかサーヴァントの使い魔である可能性も捨てきれない。

「そうでゲソ。海を汚す愚かなる人間どもをこの私が支配して、海を汚さない清く正しい存在に変えるでゲソ。そして海老をお腹一杯食べたいじゃなイカ」

「つまり、君の正体は?」

「見ての通りのイカでゲソっ!」

 イカ娘と名乗る少女は薄い胸を堂々と張った。外見的にはどう見ても人間の少女にしか見えなかったが。

「そうか」

 特に害のなさそうな存在だと察して警戒を緩める。

 だが、それが大きな間違いだった。

 

「隙ありだゲソっ!」

 突如イカ娘の髪が伸びて時臣を襲って来た。魔術が発動されなかったので時臣は対応に遅れた。

「クッ!」

 時臣は体を髪でグルグルに縛られて空中高くへと一気に持ち上げられた。

 時臣は咄嗟に魔術を発動させ、逆さまになってもワインが毀れない様に重力制御するのが精一杯だった。

 優雅の求道者たる者、敵に捕まった時でさえも優雅を失ってはならない。注いだワインを乱暴に零すなどあってはならなかった。そんな醜態を晒せば死ぬしかない。時臣の戦いは常に命懸けである。

「ゲッソッソッソッソ~っ! 冬木の管理者を倒してしまえばこの街は私のものになるも同然じゃなイカ」

 イカ娘が黒い顔をしてニヤリと笑ってみせる。

「君は一体、冬木を征服して何を望む?」

 時臣は捕まりながらも得意の炎の魔術の発動を密かに試みる。だが、意識の大半はワインの重力制御に傾けられている。残った意識で攻撃用の魔術を練り上げようとするが、まるで生のイカの足に触っているようでヌルッとして気持ち悪くて出来ない。時臣はヌメヌメが嫌いだった。ヌメヌメには優雅さが足りない。

 

 時臣は優雅な態度を取り続けているが大きな危機を迎えていた。

「私が望むもの、そんなものは決まっているでゲソ!」

 上空に縛り上げている時臣を見ながらイカ娘は鼻高々に告げる。

「この街の人間全てにゴミとタバコのポイ捨てを止めさせるに決まっているじゃなイカ。後、お腹一杯海老が食べたいでゲソ」

 やっぱり放って置いても良いかなという気分になる。

「それから、困っているお年寄りや子供がいたらみんなで助け合える街に変えようじゃなイカ。後、お腹一杯海老が食べたいでゲソ」

 魔術師同士で腹黒い死闘を繰り広げて互いの領域を削りあうよりも、この娘に冬木を任せてしまった方が安寧に溢れた世界になるのではないか。そんな気分にさえなって来る。

 だが、時臣のそんな甘過ぎた夢想は次の一言で打ち砕かれることになった。

「そして我が同胞を弔う為に、この街にある全てのイカ食品、特に“おっちゃんイカ”を回収し尽くして地中深く埋葬しようじゃなイカ。後、お腹一杯海老が食べたいでゲソ」

「なっ、何だとっ!?」

 イカ娘のその恐ろし過ぎる計画を聞かされて、さすがの時臣も驚かざるを得なかった。

 聖杯で冬木市を半分焼き払うと聞かされても別に驚かないが、“おっちゃんイカ”の買い占めなど許されることではなかった。神が許しても時臣が許さない、この世全ての悪な所業に他ならなかった。

 震える手でグラスを落とさないようにするのが彼に出来る精一杯だった。

 

「それでは君は、この冬木から全ての“おっちゃんイカ”を一掃するつもりなのか?」

「当たり前じゃなイカ! 私の同胞が長方形に切り裂かれて袋詰めにされている現状なんて堪えられないでゲソ!」

 イカ娘は頭を左右に振りながら怒りを露にしている。

「ヤレヤレ。君にこう血が頭に昇っていては話し合いだけで解決するのは難しいようだな」

 イカ娘に拘束されたまま時臣は冷静に状況を分析する。

 とはいえ、冷静に現状を把握した所で打開する為の具体的な策がある訳でもない。

 更に加えて時臣の体には重要な異変が起き始めていた。

「バカな……この私が、空腹のせいで力が出ない、だと?」

 時臣は火系統の魔術を発動させイカ娘を怯ませようと内側に意識を集中させようとした。だが、それすらも出来なかった。極度の空腹感が集中力を妨げている。

 今の時臣は顔が水に濡れて力が出なくなってしまったあの丸顔のパンで出来たスーパーヒーローのようなものだった。

「もはや、私に待つのは死、のみということなのか?」

 空腹により腹が音を奏でるような屈辱が生じれば舌を噛み切るしかない。

 集中力低下によりワインを地面に落とすような屈辱が生じれば舌を噛み切るしかない。

 時臣の眼前にあるのは死へと繋がる道ばかりだった。

「屈辱を受けてから自害するぐらいならば、いっそ先んじて自ら……」

 魔術の名門遠坂が生んだ最高の魔術師は辱めを受ける前に自ら命を絶とうと考えるようになっていた。

 時臣の心はもう折れる寸前だった。

 

「時臣……新しい“おっちゃんイカ”だぁ~~っ!」

 時臣が優雅たれの家訓を守り、優雅を貫いて自害して果てようとしたその時だった。

 1cmほどの長方形の物体が時臣の口の中へと飛び込んで来た。

 その物体を舌で感じた瞬間に時臣は急激な力が湧いてくるのを感じた。

「わ~、大量の蟲が襲って来たでゲソ~っ!? 地上の蟲は苦手でゲソ~~っ!!」

 地上ではイカ娘が大量の歪な形をした羽蟲に襲撃を受けて混乱していた。実は触手であるらしい髪を駆使して懸命に追っ払おうとするが数が多過ぎる。

 イカ娘は蟲に気を取られている為に時臣を拘束する力が緩んだ。

 時臣はその好機を逃さずに右手を動かしてワイングラスを口の元へと持っていき、その赤い液体を可能な限り優雅に口の中へと注いだ。

「ルネッサ~ンスっ!!」

 時臣の両目が大きく見開かれる。

「復活っ! モースト・エクセレント遠坂時臣っ!」

 ワインを摂取したことにより時臣の体力と魔力が急激に回復する。

 体調さえ元に戻ってさえしまえば、もはやイカ娘は時臣の敵ではなかった。

「遠坂魔術究極秘奥義、“カッコいいポーズ”っ!!」

 時臣は転送した真っ赤なバラを口に咥えてダンディーに微笑んだ。

 その瞬間、現代科学でも魔術でも解析不明な眩い光が時臣の全身を包み込む。

「捕まっているのにバラを咥えて微笑んで光るなんて……コイツやっぱり、真性の変態でゲソ~~~っ!!」

 イカ娘は時臣を拘束していた触手を放すと一目散に逃げていった。

「フッ。覚えておくが良い、お嬢ちゃん。真の優雅の前には全てが無力。そして、遠坂家の家訓は“常に余裕をもって優雅たれ”だ」

 時臣は逃げ去っていくイカ娘の背中を見ながら勝利のキメ台詞を述べた。

 

 

 こうして冬木の管理者は死闘の果てに海からの侵略者の魔の手から平和を守り抜いた。

 だがこの勝利は時臣1人の手によりもたらされたものではなかった。

 時臣は表情を引き締めると路地裏の奥の光の届かない薄暗い空間をジッと見た。

 すると、その路地裏から1人の白髪の若い男が出て来た。男は汚れくすんだ青色パーカーのフードを頭からかぶり、俯いて顔が見えないようにしていた。

 だが、時臣には男の正体がすぐにわかった。

「間桐、雁夜……っ」

 男の正体、それは変わり果てた姿になってしまっているものの、かつての友にして時臣の優雅たる存在を害する最大の宿敵でもある間桐雁夜に他ならなかった。

「勘違いするなよ、時臣」

 雁夜は顔を上げて時臣に述べた。

 その瞳は片方が明らかに変色しており、頬の部分には血管が浮き出て脈打っていた。

 健康体だった筈の雁夜の変貌した有様を見て、時臣は目の前の男の身に何が起きたのか一目で推測がついた。

「桜ちゃんが寝言で“お父さま”と寂しそうに呟いていたからな。だから俺が代わりに貴様のバカ面を拝みに来たまでだ」

 時臣は何も言わない。何も言う資格がないことぐらい自分にもわかっている。

「桜ちゃんに“君のお父さんはイカに敗北して死んだ”と報告する訳にもいかないだろう」

 ただ、1年前まで自分の娘であった少女のことを思い出す。1日たりとて忘れたことはない娘の顔が脳裏に浮かび上がると、自分という存在に嫌気がさして死にたくなる。

「だが、忘れるな。貴様を殺すのは……この俺だっ!」

 時臣は雁夜の敵意に満ちたその言葉を聞いて何故か心が安らいだ。

「君程度の急造魔術師に、私が殺せるとはとても思えないのだが?」

 時臣はワインをグラスに優雅に注ぎ、優雅にグラスを回しながら雁夜を鼻で笑った。

「覚えておけ。次に会った時が貴様の最期だっ!」

 その言葉だけを残して雁夜は再び路地裏へと姿を消していった。

「フッ。うんこ雁夜め。アジな真似をしてくれる」

 時臣は雁夜が姿を消した光が差し込まない路地の奥をジッと見ていた。

 

「ママぁ~。あのおじちゃん、うんことか道の真ん中で言っているよ~」

「シっ。見ちゃいけません」

 

 魔術師とは、その誰もが孤独であり決して理解されない存在なのである。

 

 

 

 

 優雅の探求者にして一流の魔術師である遠坂時臣は冬木の平和を守ることに成功した。

 だが、時臣は“おっちゃんイカ”を手に入れてはいない。

 時臣の優雅にして命懸けのおつかいはまだ始まったばかりなのだった。

 

 

 

 了

 

 

 

 

あるかないかの次回予告っ!

 

 イカ娘の撃退に辛くもしかし優雅に成功した遠坂時臣。

 だが、彼の前に現れる難敵は海からの侵略者ばかりではなかった。

 

「きっと何者にもなれないお前たちに告げるっ!」

 

 よくわからない世界からの侵略者が時臣を襲う。

 

「我は気の強い女が好きだ。特別に我の頭を踏み付ける栄誉を与えよう。さあ、存分に我の頭を踏むが良い」

 

 留守番をしている筈のサーヴァントは勝手に家を抜け出していた。

 しかも、役に立たない。

 どうする、遠坂時臣?

 

 そして時臣の前に現れる優雅を巡る最強のライバル。

 

「優雅の探求者だと? この世界で唯一優雅を会得できるのは誉れ高き英国紳士のみ。東洋の島国の猿に優雅が体現できるとはとても思えんのだが?」

 

 その敵の名は、優雅に最も近い存在、英国紳士ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 聖杯なんか関係なく己の優雅を賭けて争う時臣とケイネス。

 

「私をその辺の矮小な人種差別主義者と一緒にするでない。私は英国人ならば誰でも優雅が会得出来ると言っているのではない。例えば、そこの黒いスーツを着た如何にも素性の悪そうな自称騎士の男装小娘を見よ。優雅の欠片も見当たらない」

「ええ~っ!? 私、こう見えてもブリテン王ですよっ!? 優雅さないんですかっ!?」

 

「英国貴族……この世界で唯一絶対の優雅さを誇る真の紳士がどれほどトレビアンであるか貴様に見せてやろうっ!」

 

「ケイネス・エルメロイ・アーチボルトよ。君に良いことを教えてあげよう。ワインレッドカラーのスーツは伊達ではないとね!」

 

 果たして時臣は優雅が守り抜いたまま“おっちゃんイカ”を手に入れることが出来るのか?

 

 

 遠坂時臣は“常に余裕をもって優雅たれ”を心掛けている 第二杯 に続く?

 

 

 


 
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