No.344285

双子物語-23話-

初音軍さん

過去作より。高校生編。一年生夏休み編の最後の話。最強おバカコンビが一旦最後のお話となります。 そして、またそれぞれの舞台へと戻り、どういう話になるでしょうか。

2011-12-07 00:21:48 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:994   閲覧ユーザー数:380

嘘だ。こんなの、嘘だ。私は手に持った無機物な平べったい棒状のモノのスイッチを

懸命に押し続けるが、その先にあるものは一切の反応を示さない。じ、地獄だ・・・。

 

――――――――――雪乃 視点――――――――――――――――――

 

 今日も暑いな。家の中のじっとりとした空気に露出した肩や顔から汗が滲み出る。

ハンカチでふき取りながら今日のやることを思い出す。今日はたまった宿題をみんなで

やることと、家の手伝いをすること。がんばれば報酬を出すとお母さんに言われたっけ。

 そうなると、部屋から出てこない彩菜のところで勉強を始めるか。そうすれば逃げ道も

ないし、いいだろう。隣には嬉しそうにしている先輩がいる。先輩みたいなタイプは

彩菜みたいに嫌いなはずで今すぐにでも嫌がりそうだと思っていたが、そうでもなさそう

に見える。そして、勉強道具一式を手にした私達は今、正に彩菜の部屋の扉を開けようと

してドアに手をかけて開いた。

 

 もわ~ん

 

「うわっ、何この暑さ!」

 

 先頭に立っていた私はもろにその蒸し暑さの餌食にされてしまった。だが、それ以上に

中にいるはずの彩菜のことが気になった。すると、隣にいた先輩が指を差しながら私の

耳元で囁いてきた。

 

「あそこでぐったりしてるよ?」

「彩菜ー!」

 

 ぐったりとベッドの上に上半身を預けている彩菜に近寄って体を揺さぶると、軽く

トリップしていた彩菜が正気に戻って私に抱きついてきた。この抱きつきは前の嫌な感じ

ではなく、単に悲しくて泣きついてくるような、そんな感覚であった。

 

「うわーん、私の部屋のクーラー壊れちゃったよー!」

「えぇ?」

 

 理由を聞くと、解るような解らないような。解決方法は探せばたくさんあると思うけど。

とにかく、彩菜に落ち着いてもらわないといけない。私は抱きつく彩菜を支えながら

歩こうとするが、重くて動けない。そこに、先輩がため息を吐きながら、一人で軽々と

彩菜を抱き起こして、この灼熱の部屋から出て行った。

 

「あいよ。わかった。業者呼ぶから、とりあえずは雪乃の部屋で勉強しといて」

「ええ!?」

 

 抗議の声を上げたのは私。中学までの趣味が丸出しの部屋に二人を入れろということ

ですか、お母さん。だが、お母さんの言葉はこの家では絶対で逆らうことは許されない

ことを知っている私は渋々頷くこととなった。対照的に喜んでいるのは後ろにいる

立ち直った彩菜と先輩が手を上げて「わーいわーい」と子供のように喜んでいた。

 

「何か異議が?」

「ありません・・・」

「よろしい」

 

 お母さんはにこっと微笑むと、私達はその場から離れることとなった。階段を上り

彩菜の部屋と反対にある私の部屋に案内をする。中を開くとつけっぱなしだった冷房が

効いた部屋に入るとそれまで拷問のようだった暑さから開放されるようだった。

 特に拷問な場所にいた彩菜は私のベッドに飛び込んでゴロゴロと嬉しそうに転がる。

しかし、彩菜の幸せそうな顔を見ることが目的ではない。現実逃避をしたいのはそれなり

にわかるが、今は宿題を進めなければいけないのだ。彩菜と学校は違うがひどく内容が

異なるとは思わない。ここは一緒に進めたほうが得策である。

 

「ほらっ、休んでないでさっさとはじめるよ」

「何を?」

「イラッ」

 

 前日に話をしていたことをすっかり忘れている彩菜に軽くイラつきを覚えながら私は

簡単に彩菜に説明をすると、暑さとは違う類の汗がドッと噴出していた。

 

「アッ、アッー・・・。ウン、ベンキョウネ。モチロン、ワカッテルヨー」

「あからさまな片言で済まさないでさっさと始めましょう」

「う、ううぅ・・・」

 

 この世の終わりとばかりに、絶望の淵に立たされたような顔をした彩菜がしぶしぶと

私の部屋の中心に置かれている四角いガラステーブルに近づいて腰を下ろす。それぞれの

宿題をテーブルに並べて、解らない所があったら、教え合うということを決めて、勉強会

を始めるのであった。

 

「ねぇ、雪乃・・・ここ教えて」

「さっそく・・・えと、ここはね」

 

「ねぇ、雪乃~」

「またか、これは、こうして・・・」

 

「ねぇ。雪乃」

「だぁっ!何、何度も何度も!どこからどこまで解らないの!?」

「全部」

「やる気のない人は出ていってください」

「そんな・・・!」

 

「ふふふ・・・」

 

 私と彩菜のやりとりを見て、笑いを堪える人がいた。先輩は軽く俯きながら口元を手で

押さえている。目に涙を浮かべて相当我慢しているようだ。

 すると先輩は、私の隣から彩菜の隣に来て、彩菜に勉強の指導を始めた。聞いていると

驚いたことに、私が教えるよりも解りやすく丁寧で、彩菜もいつもより理解しやすかった

のか、すらすらとさっきまでわからなかった箇所を解いていた。

 

「えっ、先輩って勉強できるんですか?」

「まぁ・・・普通に。それに私は一年お姉さんだしね」

「人のを見るより、まずは自分のを済ませては?」

「あぁ、大丈夫。1日の時間をフルにすれば全部解けるわ」

 

 バカっぽいけど、実はこの人。頭が良いのではないか?そう思わずにはいられない

発言。伊達で生徒会の重役の位置にいるわけではないということか。

 

「うっ」

「どうしたの?」

 

 今度は私にも解らない問題が出てきた。しかし、先輩に聞くというのは、なんというか

私のプライドが許せないような気がしてならない。ここはなんとしても自力で解かないと。

 

「解らない所があった?私が教えてあげる」

「いえ、いいえ!解けます、解いてみせます!先輩は手を出さないでください!」

「そこまで拒絶しなくても・・・」

 

 しょんぼりとしている先輩には悪いけど、本当に解らなくなったら教えてもらおうとは

思っている。彩菜もようやく要領を得てきたのか先輩にも頼らず少しずつだけど宿題が

進んでいるように見える。しばらくはそうして個々の勉強をしていると、息抜きなのか

終わったのか、先輩が一つ伸びをしてから立ち上がる。何をするのかわからないけど、

私は自分のことで精一杯になっている状態だったから先輩が何をしていても気にしない

ようにしていた所。

 

「あ!」

 

 先輩が少し大きめな声を出していた。私は顔を上げて先輩の方を見ると、仕舞って

おいた漫画道具を持って目を輝かせながら見ていた。

 

「ちょっ・・・!」

 

 何、人の部屋を勝手に漁ってるの、この先輩は!?私は冷たい眼差しを先輩に

向けるが、好奇心のスイッチが入った先輩にはまったく感じられていないようだ。

嬉しそうに私のペンを握りながら問いかけてくる先輩。

 

「もしかして、雪乃ちゃんは漫画描いてるの!?」

「勝手にあちこち探るのは最低じゃないですか?」

「あっ・・・ごめん。つい・・・」

 

 私の一言で、我に返った先輩は探り当てたモノを元の場所に戻して、元の位置に

座る。私は自分の宿題をしながら、さっきの質問にさらっと答えた。

 

「描いていましたよ。だけど今は・・・」

「そう・・・」

 

 先輩はそう呟くと、宿題を再開して、それっきり口を閉ざしていた。ふと、先輩の

横顔を見ていると、いつもと違い、すごく真面目でかっこよく見える。

彩菜の方を見ていると、もう少しで今やっている数学が終わりに近づいているようだ。

 途中、お母さんからのお菓子とジュースの差し入れで一息入れている時、彩菜がトイレ

で席を外した。その瞬間に、ずっと閉ざしていた先輩の口が開いた。

 

「漫画、描くの楽しくなかった?」

「え・・・?」

 

 なんでいきなりそんなことを聞くのだろうか。

 

「いや、道具が使い込まれているみたいだし、大切にしているように見えるから」

 

 嫌いじゃないんでしょう?そう、囁かれたとき、私は頷く。だけど、私があの時

一生懸命だったのは、あの人と同じことをしているという感覚が強かったから。

でも、私がペンを置く少し前から、それとは別に描くことの楽しさを知った。

 

 冷房がついているのに、少し肌が汗ばんできた。描くことを捨てていたつもりが、

まだ未練が残っているように、心のどこかが引っかかる。先輩の一言で楽しかったことを

少しずつ思い出してきたが、今の私に何を目的で描けばいいのかわからなかった。

 

「はい・・・」

「だったら描いてみたら?」

「でも・・・」

「楽しいことに理由はいらないでしょう。目的も無く、ただのんびり好きなことを

描くだけでもいいと思う」

 

 まぁ、今すぐとか、無理に、とは言わないけど。そう、先輩は言葉を区切ると、

入れ替わりに彩菜がいそいそと、部屋に戻ってきた。私はチョコがコーティングされて

いる生クリームが入ったパイを齧りながら見上げた。

 

 今、私が描きたいものは・・・。

 

 

「はい、お疲れさまでしたー」

 

 キリがいいところで、先輩が手をパンパンッと叩いて終了の言葉を発した。あまり

長時間やっていても、頭に入らないというので、そこは先輩の言うとおりにさっさと

終わらせることにした。

 

「先輩はこの後、どうするんですか?」

「雪乃ちゃんの写真見せてもらえるまで、お家の手伝いするつもり!」

「あっ、先輩さんずるい!私も行く!」

「・・・」

 

 そうして、疲れも見せずに二人は慌しく部屋を出て行った。静かになった部屋を見渡し、

そのままにしておいた理由を改めて考えることにした。どうして、一時的にでも辞めた

部屋を変えず、残す必要があったのだろうか。先輩の言うとおり、私は絵を描くのが好き

だからだ。

少し抵抗を感じながらも私は、以前のように漫画の道具を置いてあった机についた。

少しずつ、感覚がよみがえってくる。脳から、絵が描きたいと指令が来て手が疼いていた。

普通のペンを握り、一枚の用紙の上で走らせた。だいぶ、下手になっているかもしれない。

けど、今は気持ちを乗せてひたすら、ペンを走らせることが気持ちよかった。

 

――――――――――――――――彩菜視点――――――――――――――――――――

 

 私が少し席を外していた間に、雪乃の様子が少し変わっているように感じた。

何か先輩さんとの間にやりとりがあったのだろうか、気になりながら手伝いをしていると

凡ミスが目立ち、その度に先輩さんにフォローされている辺り、悲しくなってきた。

一体何年ここで暮らしているんだっていう話。洗濯物、皿洗い、部屋の掃除。対決方式で

母さんが採点しながら監督をしている状況下である。少しでも点数稼ぎはしておきたい。

 だが、もはや私に残された競技は何一つ残っておらず、全体的に先輩に差をつけられて

の結果に終わり、ガクッと沈む、私の体。まるでチャンピオンベルトを取られたボクサー

な気分であった。そこに母さんが私を起こして私の手に何か厚紙のようなものを手渡す。

 見えないように渡されたために、よく見えなかったが、少し指をどけるだけなのに

その行為に恐怖すら感じる。なんだろう、負けたから、何かの罰ゲームを記された紙か

何かだろうか。それにしては、角の方の表面はつるつるぴかぴかしている。

 

「こ、これは」

 

 恐る恐る手を開いてみると、まばゆいほどの光を発しているかのように感じたそこには

念願の雪乃のスク水着てプールで遊んでいる写真が私の目には映っていた。

 これは、夢じゃないのか。先輩さんに頬を抓ってもらったが、すごく痛い。ヒリヒリ

している頬を摩りながら私は喜びと同時に負けたのに何で、という顔を母さんに向ける。

 

「これだけ苦労したんだから、それ相応の報酬をあげないとね」

 

 と、私の視線に気付いた母さんはそう言って微笑んだ。そして、枚数こそ私の方が

少ないが先輩さんも見事ゲットしたようで、私達はタイミングぴったりにハイタッチを

交わした。そして、無意識に同時に叫んでいたのだった。

 

『天使の写真、ゲットだぜー!』

 

 大声を出して喜んでいると、後ろから冷めたような声をかけられた。その声は

今、手にしている写真の中の人が大きくなった者であった。一気に固まる二人。

 

「もう、本当にキモいんだから・・・!」

『す、すみません・・・』

 

 どっちが双子かわからないくらいに、台詞の息が合う私と先輩さん。振り向くと

雪乃は一枚の用紙を手にしていた。少し照れくさそうに先輩さんの方へ向かって

歩き出して、それを手渡した。先輩さんはその紙を見るとさっきまでの私と同じ

変態顔がどこへやら。すごく優しい表情を浮かべて、雪乃と同じように照れていた。

 

「すごく、楽しそうに描けてる」

「まぁ・・・。でも、今回ですからね。描くの・・・」

「えっ、何。私の知らない所で何があったの!?」

 

 さっきまで3人一緒に勉強していたのに、ちょっと席を外しただけで、この疎外感は

たまったものじゃない。と、先輩さんの持っている用紙を後ろから覗いてみた。

 

「あっ・・・」

 

 すごく久しぶりに見た、雪乃の絵。久しぶりに描いたせいなのか、線が歪なものの、

それを、懸命にフォローしようとする先輩さんのデフォルメキャラが可愛らしく描かれて

いる。それも複数に。どこだかわからないけど、今の時点で私は先輩さんに全てにおいて

負け・・・もしくは遅れているのだと感じた。双子なのに、他人の方が雪乃のことを

理解できるなんて・・・。私は視界がぼやけているのに気付かずに見ていると、先に雪乃

が少しあわてた様子で声をかけてきた。

 

「彩菜、何泣いてるの・・・!?彩菜も描いて欲しければそう言えば・・・」

「違う・・・」

 

 だけど、まだ終わっていない。私は、昔の私とは決別するんだ。雪乃に依存してばかり

の自分から抜け出さないといけない。私は溜まった涙を拭き取って、無理やり笑顔を

作った。おそらく、ひどく引きつっていると思うけど。こうしていないと、いつ泣いて

しまうかわからない。だから、今は二番煎じでもいい。

 

「雪乃、私にも描いて!」

「違わなくないじゃない・・・」

 

 私の気持ちは、まだ雪乃には気付かれなくてもいい。成長していないと思われるのは

癪だから、私は無理にでも強がるんだ。せめて、雪乃より心も強くならなくちゃ。

そう思えば、少しは頑張れる気がする。

 

――――――――――――――――雪乃視点――――――――――――――――――――

 

 彩菜が急に涙ぐんでいたときは驚いた。だから、ついその場の空気を変えるために

よく考えもせずに口に出してしまった言葉。「違う」と言われた時、私は彩菜を傷つけて

しまっただろうか。でも、その後に訂正する前に絵を描いてと言われて、再度私は驚いた。

 表情には出さなかったが、ここでの彩菜のふんばりに私はすごいと思えた。今までは

感情に任せて泣きじゃくったり、わがままを言ったりする彩菜が、堪えたのだ。

 

「はい、彩菜」

「おおっ、私が小さい。私が可愛い~」

「普通、自分で言うかしら・・・?」

 

 双子とはいえ、相手の気持ちまで完全に把握することはできない。だから、何に対して

彩菜が「そこまで」の気持ちになっていたのかは、聞かないと私にはわからない。

でも、今の喜んでいる彩菜を見ていると、とても聞く気分じゃないし、頑張っている

彩菜にも失礼だと感じた。だから、私は気になった疑問をそっと心の引き出しに

しまった。

 

 

 夏休みといえど、充実した日々を過ごしていると日数が進むのはあっという間であり、

手伝い、お出かけ、宿題をローテーションに回していたら、いつしか、私と先輩が学校へ

戻る日になっていた。

私が戻るのを聞きつけ、見慣れた人たちが送りに来てくれた。おじいちゃん、

サブちゃん、彩菜、お母さんとお父さん、春花に大地くん。県先生。最初に向かう時期

より人数が増え、まるで今、私がここから遠くへ行くような錯覚を感じるような

大所帯である。

 

「変わったことがなくてよかったわ。今の調子で今後も頑張りなさい」

 

県先生・・・。

 

「これからは、携帯にいつでもコミュニケーション取れるわね」

 

春花、お母さん・・・。

 

「がんばれよ」

 

口数が少ない、お父さんと、大地くんと、泣きそうなおじいちゃん。

 

そして・・・。

 

「彩菜・・・」

「雪乃・・・」

 

電車が発車する前、私は彩菜の傍によって、手を握った。ほどよく暖かくて少し

汗ばんでいる。本当は彩菜もおじいちゃんみたいに寂しいのだろうけど、我慢しているの

がよくわかった。私もそう思えたから。それ以上は、彩菜には触れずにそっと、手を

離した。

 

『お互いに頑張ろう』

 

それは先にどっちが発した台詞だっただろうか。そんなことを考える暇もなく、

列車から音が聞こえてきた。まもなく発射する音だ。私は先輩と一緒に列車に乗り込み、

座席に乗った。ここからは一直線、短時間でつくことだろう。

窓の外を見やると、手を振る複数の、私の家族たち。先生も含めて。私も軽く手を

振ってみる。みんなと同じように手を大きく振るのは恥ずかしいから。だけど、先輩は

そんなのお構いなく、大きく手を振っていた。

 

 そう、家を出る前に。名残惜しそうにしていた、先輩にお母さんが近づいてきて。

 

「また今度来なさいよ」

「えっ・・・?」

 

お母さんは誰にでも分け隔てなく、特に気に入った人なら家族じゃなくても大喜びで

迎えてくれる。そんな、暖かい人だ。でも、先輩は始めてだし、少し気にはしている

ようだ。

 

「でも、やっぱり、そんな図々しくは・・・」

 

 痛々しい表情でそう呟くとお母さんが先輩を引き寄せて抱きしめてナデナデ

し始めた。普通ならここで嫌がって放そうとするはずだが、先輩は抵抗していなかった。

 

「もう、私達は家族のようなものよ。そんな気負わないで。気軽に来なさい」

「はい・・・」

 

少し息を吸って吐くと同時に先輩はお母さんの手から逃れて、直立に立って直角の

真横に曲げてお礼を言った。まるで軍人か、体育会系である。よほど嬉しかったのか、

この道中、変なことを口走ったりすることはなかった。やはり、先輩の実家は厳しかった

のだろうか。でなければ、ここまで「家族」に対して喜ぶことはないだろう。

 疲れていたのだろうか、いつの間にか眠っている先輩の横顔を眺めながら私はため息を

吐いた。また、いつもの相手のことを考える癖がついていたようだ。少しは気をつけない

といけない。人にとっては余計なお世話という言葉もあるから。

 それに、自分のことだってある。少しは慣れたとはいえ、まだあそこは私にとって

アウェーであることに違いはない。そう、考えながら。私はウトウトとしている内に

瞼が下がっていき、眠りに就くのだと感じた。

 

 さぁ、次に目が覚めた時から、私の次のステージの幕が開くことだろう。

 

 


 
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