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Destiny/Domhan Eagsula(デスティニー/ドムハン エアグスラ)  第6話    真実のかけら

BLACKさん

この物語は作者が「Fate/Zero」を見た影響で「Fate/Stay night」の話を基に作った作品です。
基となった話はアニメ化されてないルートをメインとしているため、ネタバレが嫌な人はあまりお勧めできません。
また話によっては原作のシーンなどを見ながら作っている場面もあり、原作で出てきたセリフと全く同じやほとんど同じなところもあることをご了承ください。
なお、サーヴァントにつきましてはクロスオーバー的にまったく別の作品からの参加となっています。

続きを表示

2011-12-06 12:10:29 投稿 / 全18ページ    総閲覧数:1390   閲覧ユーザー数:1374

 

 

エリオとの正式な協力を得て翌日になる。

 

「う~ん、よく寝た」

 

恵生は起きて、部屋から出ると庭の方で鍛錬をしているエリオを見る。

 

「エリオは今日も鍛錬?」

「はい! 特訓は日課ですから!」

「そう」

 

恵生がそのまま居間に行ってみるが、いつもはいるはずの右策がいなかった。

 

「あれ? 右策がいない。エリオ!」

 

恵生が庭のエリオに尋ねる。

 

「なんですか?」

「右策は?」

「そう言えば今日はまだ見てませんね」

「まだ寝てるのかしら、珍しいわね」

 

恵生が右策が現在使っている部屋に行ってみる。

 

「右策、起きてる?」

 

恵生が部屋のドアをノックするが返事がない。

 

「入るわよ」

 

恵生が部屋のドアを開ける。

するとそこには息が荒れ、うなされている右策がベッドで寝ていた。

 

「はあ、はあ…」

「右策! どうしたの!?」

 

恵生がすぐに右策の額を触ってみる。

 

「すごい熱……、待っててすぐに氷とか用意してくるから……」

 

恵生は急いで部屋を後にした。

 

 

 

第6話    真実のかけら

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか? 右策さん」

「エリオ君……大丈夫だよ」

 

鍛錬をしていたエリオも心配になり、見舞いに来ていた。

 

「とりあえず今日は学校休みなさい。

熱が38度もあるんじゃ、まともに授業なんて受けられないわ」

「そう……します」

「私も休みたいところだけど、幸いと言うかなんていうか…他に見てくれる人がいて助かったわ」

 

恵生はエリオの方を見る。

 

「僕ですか?」

「お願いできる?」

「はい!」

 

エリオは思わず敬礼のポーズを取る。

 

「そこまでかしこまらなくても……、おかゆとかは台所にあるからそれを食べさせてあげてね、エリオのお昼分は悪いけど、朝の残り物で許してね」

「分かりました」

「それじゃあ私、学校の準備して行くから」

 

恵生はおかゆが入っていた器を持って、部屋を去る。

 

「いってらっしゃい」

「いって……らっ……しゃい……」

 

恵生は部屋で制服に着替え終える。

 

「……セイバー、いる?」

 

恵生がいつもは自分の部屋の隣の部屋に隠れているセイバーに声をかけるが返事が返ってこない。

 

「セイバー?」

 

恵生が部屋の襖を開けるがセイバーの姿はなかった。

 

「どこかに行った? でも一体どこに…」

 

恵生は考えようとするが、時計を見るとそんなに時間がなかった。

 

「あら、もうこんな時間。じゃあ行ってくるからね!」

 

恵生はエリオと右策に聞こえるような大きな声で学校に行くことを告げ、学校へ向かった。

 

「セイバー、どこに行ったんだろ」

 

 

幕間

 

 

 

 

 

 

恵生が学校に行っている間、セイバーはある場所を訪れていた。

 

「まさか俺が一人でここに来ることになろうとはな…」

 

セイバーの前には一つの教会が建ってあった。

セイバーは教会の扉を開け、教会に入った。

 

「うん? 誰かと思えばセイバーか」

 

その教会の礼拝堂にいた人物、それは終死郎であった。

 

「お前にいくつか聞きたいことがあってな」

「聞きたい事?」

「お前は桐生神社にいるサーヴァントは知っていたようだが、マスターは知っているか?」

「ああ、知っている」

「それは誰だ?」

「それは言えんな、仮にも俺は監督役。本来は中立でなければならん」

「陰でランサーのマスターをやっていた奴が言うセリフではないな」

「そうだな、しかしこうして令呪がない以上、もはやランサーのマスターとは言い難い。

ランサーはその気になればお前のマスターである八子空恵生と契約することも出来る。

それにな本来ランサーは俺を殺してもおかしくない」

「何?」

「俺はランサーの正式なマスターではなかったのだ」

「どういうことだ?」

「実はと言うと俺はランサーを召喚し、本来ランサーのマスターだった者をから奪った」

「なんだと!」

「そして俺はその者から令呪を奪い、ランサーのマスターとなった」

「何故そんなことをした」

「何故か……」

 

終死郎はもったいぶるように返事の間を開ける。

 

「いやな、実はそのマスターと言うのがこの聖杯戦争の監督役のサポートをするエージェントなのだよ」

「エージェントだと」

「そうだ、何かあった時のために聖杯戦争をコントロールするエージェント。

そのためにそのエージェントはエリオ・モンディアルをランサーとして召喚した」

「だが何故エージェントと争う必要があった?」

「そうだな、簡単に理由の一つとしては私怨。私怨と言っても俺があいつのことが嫌いだったんじゃない。

あいつが俺のことが嫌いだった。そのこともあってな…、そのエージェントはランサーを使って俺を殺そうとした」

「何!」

「俺もその時は命からがらだった。ギリギリのところで俺はランサーの攻撃をかいくぐりランサーのマスターだったエージェントを返り討ち。

その後エージェントには丁重にお引き取り願った」

「殺したのか」

「いや、半殺しにはしたが死んではいない。もっとも魔導協会に返した後はどうなったかまでは知らんがな」

「そうか…」

 

セイバーはなぜか納得した。

 

「それでまだ聞きたいことはあるか?」

「ああ、お前はアサシンがどこにいるか知っているか?」

「アサシンを? 何故また…」

「恵生はキャスターを倒すためにキャスター以外のサーヴァント全てに協力を求めている。

もうすでに倒したライダーは別だが、後はバーサーカーとアサシンだ。

バーサーカーの方は昨日マスターと会って交渉したが、失敗したと聞いた。

恵生が一度の失敗で諦めるとは思わないがな……。

そしてアサシンの方は探しても見つからない。お前なら分かるんじゃないのか?」

「それがここに来た本来の理由と言ったところか」

「そうだな」

「それならお前の考えはとてもいい線をいっている」

「どういうことだ?」

「アサシンならそこにいるぞ」

 

終死郎が指をさすとそこには普通に聖堂の間の椅子に座っているセラフィムがいた。

 

「あいつが……」

「お前より先に来ていた、と言うよりお前が俺と話している間ずっとそこに座っていたぞ」

「なら何故俺は気づかなかった」

「アサシンは気配遮断を持つ。実体化はしていても気配遮断をしてしまえばサーヴァントとしての魔力も感知できず、普通の人間と勘違いするだろう」

「それであのアサシンもお前のサーヴァントか?」

「誰がそんな気持ち悪い男が我が主ですか」

 

セラフィムはセイバーの言葉を聞いて立ち上がる。

 

「気に障ったか?」

「ええ、このポンコツが……」

「………」

 

セイバーは思わず背中の剣を取ろうとする。

 

「まあ待て」

 

終死郎が二人の間に入って来る。

 

「邪魔をするのですか?」

「当たり前だ、こんなところで戦ってみろ。聖杯戦争のことがすぐに分かるぞ」

「…それもそうだな」

「だが俺は争うなとは言わん。とは言っても勝手に争うことはそっちはともかくセイバーのマスターはよしとしないだろう」

「……」

「ここは手合せと言う形でどうだ?」

「手合せ…」

「互いの力を見せるかどうかはお前達に任せるが、自分達の腕を磨くにはいいだろう。

特にアサシン、お前は一度も戦っていないだろう」

「よく言いますね、あなたは」

「手合せなどする場所は俺が提供しよう。ついてくるがいい」

 

終死郎はセイバーとセラフィムを教会の奥の方へと連れて行った。

 

「どこに行くんだ?」

「地下だ」

「地下?」

 

教会の奥の方には地下に繋がる一つの階段があった。

 

「あ、ちなみにあっちの部屋は俺の部屋だ」

「いらないことは教えなくていいです」

「利用するかもしれんぞ」

 

終死郎は二人を地下へと連れて行き、地下の部屋に入る。

その地下部屋は石で出来ており、とても広かった。

 

「広いですね」

「だが少し傷がついているのはなぜだ?」

「それはさっきも言ったように俺がここでランサーに襲われたのがここだからだ」

「それで……」

「だがこの部屋の石は丈夫でな、ランサーとの戦いでも壊れなかった。

お前達の全力がどのくらいのものかははっきりは知らないが、よほどのことがない限り壊れることはない。

ただし全力でやろうとするな。手合せ程度にしろ。勝負がはっきりしたり、お前達が全力を出そうとした時は俺が戦いを止める」

「出来るのですか?」

「監督役に選ばれた者の腕を信じろ」

「ふん……」

 

セイバーはセラフィムから距離を取る。

それと同時にセラフィムも距離を取り、終死郎も巻き込まれないように離れる。

セイバーは剣を抜く。

 

「いくぞ、お前も武器を構えたらどうだ?」

「そうですね」

 

セラフィムの手の周りには木の葉が現れ、木の葉は刀のような刃を形成する。

 

「それはお前の宝具と言ったところか」

「サーヴァントの力で言えばそうなりますね」

 

セイバーとセラフィムは無言で立ち尽くす。

 

「!」

 

最初に攻撃を仕掛けてきたのはセイバーであった。

 

「ふっ!」

 

セイバーの剣がセラフィムの木の葉の剣とぶつかる。

 

「ぬっ!?」

「見くびりましたね、この剣の固さを……はああっ!」

 

セラフィムがセイバーを振り払うように剣を振る!

 

「くっ! パワーも思ったよりあるようだ」

「女だと思って油断しましたか?」

「そう言うわけでもないがな……、どちらにしろ簡単に勝てる相手ではないようなのは分かった」

「そうですね、今の一太刀であなたも簡単に倒せそうにないポンコツでないと分かりました」

「ふ……」

 

二人は再び距離を取る。だが……。

 

「はああああああああ!!」

 

セラフィムの剣は伸び、遠く離れたセイバーの所まで届いた!

 

「!!」

 

セイバーは紙一重でセラフィムの剣を避け、そのままセラフィムの方へと突撃していった。

 

「はああああ!!」

 

セイバーが剣を振るうもセラフィムは上へと飛ぶ。

 

「!」

 

セラフィムが避けたがそのセラフィムが落ちてこない。

セイバーはすぐに上を見てみるとそこには羽のようなものを付けたセラフィムが飛んでいた。

 

「飛べるとはな……」

「ええ」

「しかし見たところその羽もその剣と同じ木の葉……、お前は木の葉を自分の自由に形を変えることが出来るんだな」

「そうです、ですが上をとった以上あなたに勝ち目はありません」

「どうかな」

「では見せてあげましょう。秘剣……」

「飛燕脚!」

 

セイバーは自分の必殺技で一気にセラフィムの所まで間合いを詰める。

 

「燕返し!」

「閃墜斬!」

 

セイバーの剣がセラフィムの翼を貫き、セラフィムの体を自分の体を押し付けて落とそうとする。

対するセラフィムは燕返しの衝撃波でセイバーの体を傷つける。

 

「「!!!!」」

 

セイバーの攻撃によりセラフィムは床に落ちる。しかしセイバーはセラフィムの攻撃が原因で離脱できず、セラフィムと一緒に落ちる。

 

「くっ!」

「飛燕脚!」

 

セイバーがすぐにセラフィムと間合いを取りなおす。

 

「やるな」

 

セイバーの押さえてる部分には傷が出来ていた。

そして落ちたセラフィムは所々打撲が出来ており、服も少し破れていた。

 

「そちらこそ……その身のこなしと技の切れ……。

そしてその剣……、あなたはもしや特Aランクのイレギュラーハンターのゼロ」

「そう言うお前は吸血忍者のセラフィムだな」

 

互いに自分の真名が分かる。

 

「まさかイレギュラーハンターの中でも上級の者と手合せできるとは思いませんでしたよ」

「俺もだな、吸血忍者の中でも実力者と聞いているぞ」

 

二人は思わず笑みをこぼす。

二人がまた激突しようかとした時、突然二人の間に短刀が投げられる。

 

「「!!」」

 

その短刀を投げたのは終死郎であった。

 

「ここまでだ、これ以上はお前達二人が本気になりかねないからな、ゼロにセラフィム」

 

終死郎が短刀のところまでやって来て短刀を回収する。

 

「気持ち悪い男ですが、監督役がそこまで言うならやめておきましょう」

「ふん」

 

セラフィムは木の葉を分解して剣を解き、ゼロもゼットセイバーをしまう。

 

「しかし二人とも思ったより傷があるな。俺の部屋に来るといい、俺の部屋はサーヴァントの魔力回復にいい魔力が溜まった部屋だからな」

 

終死郎は二人を自分の部屋に連れて行った。

 

「確かに魔力が回復して落ち着きますね」

「……ああ」

 

セラフィムとゼロの傷もそれなりによくなっていった。

 

「……もうこんな時間か」

 

ゼロが思わず時計を見てみると時間は既に午後の12時となっていた。

 

「お前達は対峙時間が長かったからな。戦いに集中すれば時間も早く経過するだろう。

お前達の怪我はそうだな……3時間すれば完治するだろう。

それまでは大人しくしていろ」

 

そう言って終死郎は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

幕間終了

 

 

 

 

「それでランサーは正式にお前のサーヴァントになったのか?」

 

昼休みになり、恵生と彬渡はまた屋上にいた。

 

「いやいや、あくまでベガ討伐のために置いておくだけで未だに裏影さんのサーヴァントよ」

「まさかあの神父がな…、元々胡散臭さがあるとは思ったけど本当にエセとは思わなかったぜ……」

「そう言うのってエセって言うのかな?」

「真面目に仕事をしてなかったらエセでいいんだ」

「そうかな~…それで今日の呼び出しは何?」

「お前の魔術適性を知りたい」

「魔術適性?」

「ああ、キャスターを倒すにはサーヴァントだけじゃ無理かもしれん。

それにキャスターの性格を考えると恐らくマスターに対して油断している。

そんでもってキャスターの不意を突くためにお前の魔術適性を知りたいんだ。

俺なら魔法石を使った攻撃がメインになる。それでお前が何が適正かしれば色々作戦パターンが出来るからな」

「そっか、それでいつ見るの?」

「今日の放課後からだ!」

「え!?」

「どうした? 何が問題が?」

「まあ……」

 

恵生は考える。

 

(う~ん、右策のことは心配だけどエリオがいるから大丈夫かな。

それに……あ、いけないフィリーとの約束があったんだ)

 

フィリーとまた公園で会おうと言う約束を思い出す恵生。

 

「ねえどうしても今日じゃないとダメ?」

「ダメだ」

「それじゃあ放課後になっても数分待ってくれない」

「? なにか用でもあるのか?」

「ちょっと約束事があって…」

「どうせ対しことないんだろ、さっさと済ませろよな」

「うん……」

 

そして昼休み、授業が終わりあっという間に放課後になった。

 

「さてと、とりあえず急がないと……」

 

恵生は手紙を持って公園に急いだ。

しかし公園にはフィリーの姿がなかった。

 

「あれ、いないや……。じゃあこれは目立つところに……」

 

恵生は手紙を地面に置いて手紙の上に石を置いて重石替わりにした。

 

「とりあえずこれでいいかな。誰宛てかも書いてあるし…」

 

恵生は急いで学校に戻った。

 

「遅いぞ」

 

彬渡は少しご立腹であった。

 

「ちょうど数分でしょ、それで適正はどこでやるの?」

「俺の家、あそこならお前の家以上に魔術に関する本とかあるし……何かあった時対処しやすいだろ」

 

そして恵生は彬渡に家に向かった。

 

 

 

 

 

幕間

 

 

ゼロとセラフィムの戦いが終わって二人が教会で休み、恵生が彬渡の家に行っている間のことであった。

 

「はあ…はあ……」

 

右策は気分がよくなったとして居間の方でご飯を食べたのだが、また気分が悪くなっていた。

今はエリオが部屋まで運んでベッドの上で寝ている。

 

「えい! やあ!」

 

エリオはストラーダを持って、鍛錬をしていた。

 

「ふう…」

 

エリオが一息つこうとした時であった。

 

「!!」

 

恵生の屋敷に張られていた結界が反応をしだす。

 

「なんだ!?」

 

エリオが結界が反応したとする場所に行ってみるとそこには何もなかった。

 

「何もない? 一体どこに……」

 

エリオがあたりを見まわってみるが特に異常が見られなかった。

 

「異常がない? いや、だったらなんでこの屋敷に……」

 

エリオは考える。

 

「ダメだ、相手が何者か分からない以上目的が見えてこない。

キャスターならすぐに僕を襲っているはず……。

なら残りのアサシン? いや、アサシンなら気配遮断があるから攻撃しない限り結界に反応はしない。

セイバーなわけないし、アーチャーでも結界反応はしないようになってるし……、バーサーカー?

いや、バーサーカーなら正面で来るタイプのはずだ。残ってるのは……ライダー?

でもライダーはセイバーが倒したって聞いてるけど……もしライダーなら…………まさか!?」

 

エリオは急いで右策の居る部屋に戻ると右策の姿がなかった。

 

「やられた! 相手の目的は右策さんだったんだ!」

 

 

 

 

 

幕間終了

 

 

 

 

 

恵生は彬渡に連れられて彬渡の家に来ていた。

出迎えはアーチャーだった。

 

「こんにちは」

「…こんにちは…」

 

アーチャーはかなり無愛想に返した。

 

「なんでこう無愛想に返されるんだろう、同族嫌悪?」

「そんなことより早速だが、お前の魔術適性を見たい。とりあえずは……」

 

彬渡はテーブルに転がっていたペンを取り、恵生に手渡す。

 

「ほれ」

「ペン?」

「魔術にも当然何種類か存在するが、このペンはその人物が魔力を注ぐことで何が得意魔術なのかを判断するものだ。

とりあえずそれに魔力を注いでみろ」

「魔力を注げってどうやって……」

「適当にだ、とにかく何かを注ぐようにイメージしてみろ」

「う、うん……」

 

恵生は言われて通り何かを注ぐようなイメージでペンに魔力を入れてみる。

すると……。

 

「きゃっ!」

 

ペンは破裂した。

 

「破裂した」

「ねえ、これってどういうこと?」

「ペンが破裂するなんて初めてだ……、ちょっと待ってろ」

 

彬渡は近くの本棚から一冊の本を取り出す。

 

「え~と、魔力判断ペンが破裂する理由は………これだ!」

 

彬渡は本を恵生の所まで運び、恵生に該当するページ部分を指で押しつける。

 

「どれどれ、……強化」

「そう、強化。単純に物の強度を上げる魔術。

だけどそれだけじゃない。これも含まれる必要がある」

 

彬渡は指をずらしてもう一つの該当する部分を見せる。

 

「投影魔術……」

「そうだ、強化と投影、両方が入ってあのペンは初めて破裂する。

強化だけだとペンが固くなるだけで投影だけだとペンの偽物が近くに出来るだけだ。

けど強化と投影の二つが一緒だとペンが破裂するんだ」

「なんで?」

「投影するオリジナルを強化して投影する物の自然と強化される。

けど、強化と投影の複合した強化術をかけられたオリジナルのペンはそれに耐え切れなくなり破裂するって書いてある」

「ふぅ~ん」

「まあ投影と強化ならこれでお前の魔術スタイルが分かった。

剣とかそう言う武器を投影すればいいんだ。

ただお前の身体能力はどうあがいてもサーヴァントには勝てないからどうしても剣を投げたりする方法になっちまうな」

「要は飛び道具扱いなのね」

「そういうこと」

「それだったら拳銃とか出した方が……」

「あのな……基本的に魔術ってのはそう言う機械的なのは出来ないんだ」

「なんで?」

「まあ単純な話、魔術師ってのはそう言う機械とか現代的なものは好きじゃないんだよ。だからかな、それ以上は俺も知らん」

「………」

 

彬渡にはそう言われたが、恵生はあることを考えた。

 

「どうした?」

「いやね、なんかアーチャーの武器はそのまま投影できそうな気がするんだよね」

「アーチャーの? それって中身のともわない武器しかできないと思うぞ。バーサーカーの戟やセイバーの剣とかも……」

「セイバーやライダーに呂布のはそう思うけど、アーチャーのだけはそうとは思えないのよ」

「それどういう意味?」

「さあ? なんとなくそう思っただけ」

「アーチャー、分かる?」

「………」

 

アーチャーは黙りこんでいた。

 

「…………アーチャー?」

「あ、すみませんマスター」

「何か思い当たることある?」

「私には何やら……」

「そっか、ま、それが普通だよな」

 

そんな時であった。

 

「魔力反応!」

「え!?」

 

アーチャーが魔力を探知する。

 

「マスター、下がってください!」

 

アーチャーが彬渡を庇うように前に立つ。

すると窓からやって来たのはエリオであった。

 

「「ランサー(エリオ)!!」」

 

恵生がすぐに窓のカギを開ける。

 

「エリオ、どうしたの?」

「大変です、恵生さん。右策さんが誘拐されました!」

「な!?」

「え?」

 

 

恵生は急いで自宅に戻った。

当然彬渡とエリオも一緒である。

 

「それでなんで、ランサーは分からなかった?」

「すぐに結界が反応したところには行ったんですけど、そこには何もなくて……、僕が気づいた時には右策さんはもう……」

「土足で入った形跡はなし……、随分ご丁寧…いや誰か分からないようにするためか…」

「でも仮にライダーだとしたらマスターは……」

「真浦茜雫だろうな」

「けどなんでこんなことを……、エリオ、セイバーは?」

「まだ戻って来てません」

「……」

 

恵生は令呪を見る。

 

「令呪が消えてないってことは契約はまだ続いている。つまりはセイバーは生きてるってことだ」

「でもセイバーは一体どこに……」

 

そんな時家の電話が鳴り始める。

 

「!」

「電話……」

「もしかして……」

「出てみるね」

「ああ」

 

恵生は電話に出てみる。

 

『はあい、八子空』

「茜雫、あなたなの? 右策を連れてったの」

『連れてったって人聞きが悪いわね。

姉が弟を迎えに行くのは当然でしょ』

「あのね……右策の体調が悪いのは右策を見て分かるでしょ。

それなのに無理矢理連れて行くなんて……」

『いいでしょ、別に…。あの子は私のものなんだから……』

「あんた………、それで目的は?」

『簡単な話よ、あなた右策を連れて帰りたい?』

「当たり前でしょ」

『だったら一人で学校に来なさい、セイバーやランサーを連れてこずに一人でね……』

「一人でね…、あんたの目的は私ってこと?」

『そうよ!』

 

茜雫の大きな声が屋敷に響く。

 

『あの時はあんたのセイバーに負けたけど、今度はそうはいかないわ!』

「え、なに?」

『あんたはあの時、あんたの実力の実力で勝ったと思ってるでしょうけど、違うわ! セイバーが優秀だっただけよ!

あんた自身は優秀じゃないわ! それを思い知らせてあげるわ! 一人で来なさい!

一人で来なかったら、右策がどうなるか…分かってるわよね………」

 

茜雫は電話を切る。

 

「これは…」

「ひどい…茜雫……」

「なんて卑怯なことを……」

「まああいつの卑怯っぷりは今に始まった事じゃないけどな」

「それで恵生さんは……」

 

エリオが尋ねる前に恵生は出かけようとしていた。

 

「ちょっと待て!」

 

彬渡が止めようとし、アーチャーが恵生の前に立ちふさがる。

 

「どいて」

「どきません」

「どいて!」

「どきません!」

 

アーチャーが珍しく感情的になる。

 

「恵生さんもアーチャーも落ち着いて……」

「「落ち着いてられないわよ(落ち着いてられません)!!」」

 

二人がハモる。

 

「ランサーの言う通りだ。二人ともとにかく落ち着け」

 

彬渡が二人の間に入る。

 

「茜雫の奴はお前に一人で来いと言ったよな」

「ええ」

「けど、つけられるななんて言ってない……」

「……そうか!」

「どういうこと?」

「つまり俺達が勝手にお前について行けばいいだけってことだ。今のあいつはそこまで頭は回ってないだろ。

とりあえずお前は学校に行け。

俺達は見つからない範囲でお前の後をつけるからさ」

「分かったわ」

 

そして恵生達は学校に向かっていった。

それを外で聞いている者が一人いたのを知らずに……。

 

「なるほど、真浦右策が真浦茜雫とライダーにか……」

 

その者はすぐに去っていった。

 

 

恵生と彬渡達は学校の校門前へと着いた。

 

「さてと、当然だけどこの学校の敷地には結界が張られている」

「はい、この学校を球状に囲んでいます」

 

アーチャーが彬渡の言葉を付け足す。

 

「あ、あそこにいる!」

 

窓から見える廊下には茜雫と茜雫に捕まる右策、そしてライダーの姿が見えた。

 

「こいつはいい、よく見える位置にいやがる。それじゃあ俺達はとりあえず窓が見えるここで待機している。

お前は右策を助けだせ。俺達が助け出そうとすれば確実に結界の探知機に引っかかってアウトだ。

まあ茜雫から右策が離れても大丈夫だな、ランサーの高速移動なら恐らくは……」

「出来る、エリオ?」

「任せてください!」

「それじゃあいってくるわね」

「気を付けて」

 

恵生は結界内に入る。

 

「来たようね、それも一人で」

「当たり前よ、あいつは正義の味方を目指しているのよ。こういう条件は飲むわよ」

 

恵生は茜雫達の居る階にたどり着く。

 

「来たわね、八子空」

「茜雫、約束よ。右策を解放しなさい!」

「はあ?」

 

茜雫は何を寝ぼけてるんだと言う顔をする。

 

「何言ってんの? 私は一言も右策を解放するなんて言ってないわよ」

「なっ!」

「それに、私の言ったことは約束じゃないわよ。命令よ!」

「!」

 

恵生は身構えようとする。

 

「あら、そんな態度とって良いの? この子がどうなっても……」

 

茜雫の手にはナイフがあり、下手に動けば右策の首に刺さる。

 

「でも本当にセイバーを連れずに来るなんていい子ね。

そのお礼と言ってはなんだけど……ライダー!」

 

茜雫がライダーに声をかけると横にいたライダーは前に出る。

 

「八子空を痛めつけてあげなさい。武器なしの素手で……」

 

ライダーは槍を出さず、拳を鳴らす。

 

「ふん!」

 

ライダーの拳が恵生の腹部に命中する。

 

「あっ!」

「てぇい!」

 

ライダーは蹴りで恵生を蹴り、恵生は壁に叩きつけられる。

 

「くっ……」

「言っておくけど、抵抗もなしよ。抵抗した時は……」

「………」

 

恵生は無言で立ち上がる。

 

「そうよ、一発で終わったら私の気が済まないもの。よく立ち上がってくれたわね、八子空」

 

茜雫はほくそ笑んだ。

 

「ライダー、やりなさい」

「ええ」

 

ライダーは恵生の体を殴り続けた。

顔を殴らないのは女としての考慮をしているのであろう。

だが相手はサーヴァント、体だけを殴られても痛いものは痛い。

しかし……。

 

(思ったより痛くない……もしかして手加減されてる……)

 

恵生は気づいた。いつの間にかライダーよりも自分の方が茜雫と右策に近いことを……。

恵生はそれを悟られまいとし、ライダーの体にしがみつく。

 

「みっともないわね、八子空……、いいわ、終わらせてあげる。あなたが死んだらセイバーは私がもらうわ、ライダー!」

 

ライダーは恵生を思いっきり蹴り飛ばす!

恵生は思いっきり吹き飛んだ。

茜雫達の方向へ……。

 

「…………そこね!」

 

恵生は床に落ちそうになるのと同時に茜雫の体勢を崩す。

 

「なっ!」

 

茜雫は体勢を崩したのと同時に右策を離してしまう。

そして茜雫の横を黄色の光が通り、完全に過ぎ去った時は恵生と右策の姿はなかった。

 

「なっ!?」

 

茜雫が体勢を立て直して立ち上がると目の前には茜雫と右策を抱えるエリオ、そして彬渡とアーチャーがいた。

 

「なっ! 小坂、なんでお前がここに……?

八子空、あなた破ったわね………!」

「八子空はお前とのことを破ってないぞ。事実ここには一人で来た」

「じゃあなんでお前達がここにいるのよ!?」

「勝手に八子空の後をつけてきただけだ。あの時の電話の近くには俺達三人もいた。

それにあんな大きな声、聞きたくなくても聞こえちまうぜ」

「ここまでです!」

「覚悟を……」

 

エリオとアーチャーがライダーと茜雫の前に立つ。

 

「ぬぬぬぬ……ライダー! こいつらをやってしまいなさい!」

 

茜雫が令呪の本を取り出してライダーに命令する。

しかしライダーは言うことを聞かない。

 

「どうしたの!? ライダー! こいつらを殺しなさい!」

 

やはりライダーは言うことを聞かない。

 

「ライダー!!」

「!!」

 

ライダーは槍を取り出す。

すると令呪の本は突然燃え出す。

 

「なっ、なっ!!」

 

令呪の本をすぐに手放し、後ずさりする。

 

「もうあなたの言うことは聞いてられないわ」

 

ライダーは槍を茜雫に向ける。

 

「な、な、なんで……?」

「ライダー……」

 

ライダーの名前を呼んだのはなんと右策であった。

すると右策の右手の掌には令呪が浮かび上がっていた。

 

「え」

「まさか、ライダーの真のマスターって……」

「右策ってことだ」

「小坂、知ってたの?」

「その様子だとお前も薄々気づいてたようだな、八子空」

「茜雫と右策のお爺さんが茜雫には魔術回路がないって言うのを聞いてなんとなく……」

「そうだ。サーヴァントを呼び出すとしても魔術回路なしじゃ無理だ。

俺はてっきりその爺さんの賢蔵がライダーを呼び出して茜雫にやったものだと思ってたけど、どうやら呼び出したりしたのは右策の方だったようだな」

「………」

 

右策の意識はまだ朦朧としていた。

 

「右策……」

「早く逃げたら? さもないと、今までの鬱憤晴らしにあなたを殺しちゃうわよ」

 

ライダーは茜雫を脅迫する。

 

「ひっ、ひぃいいいいいい!!」

 

茜雫は怯えながらもポケットからあるものを取り出し、右策の方に投げる。

そのあるものは小瓶であり、小瓶は簡単に割れる。

すると小瓶から異臭のようなものが出てきて、右策はそれを吸ってしまう。

 

「うううううう、わあああああああああ!!」

 

右策はひどい悲鳴を起こす。

 

「右策!」

 

ライダーがすぐに右策の所に駆け寄る。

その隙に茜雫は逃げる。

 

「茜雫!」

「それよりも右策だ!」

「右策、右策!」

 

ライダーが右策をゆするも右策は動転したままであった。

そうしているうちに周りの景色は赤い色に染まっていた。

 

「これは……うっ!」

「あああああ!!」

 

立っていた彬渡は跪き、立ち上がろうとした恵生も倒れてしまう。

 

「マスター!」

「恵生さん!」

「これは……吸収結界………」

「吸収……結界……?」

「簡単に言うと……魔力や生命エネルギーを吸い取る結界だ。

くそ、茜雫の奴、賢蔵からこんな仕掛けをもらってたとは………」

「私とランサーはなんとか耐えられますけど…」

「これの中心はどこに…………」

「ここよ」

 

ライダーが右策を守るように立つ。

 

「まさか……」

「そう、右策がこの結界の中心よ」

「だったら!」

「けど、そうはさせないわよ」

 

ライダーが槍を構え、エリオも槍を構える。

 

「あら、同じ槍使いなのね」

「ランサーですから…」

「それもそうね」

「Artemis(アルテミス)!」

 

アーチャーの翼からミサイルが飛んでくる。

 

「はあああ!!」

 

ライダーはそのミサイルを風圧ですべて落とす。

ミサイルの爆風で周りは見えなくなる。

 

「でゃあああああ!!」

 

エリオがストラーダで突撃していく。

 

「でぇい!」

 

ライダーの槍はエリオのストラーダを防ぐ。

 

「なっ!」

「いい速さと腕ね。でも私には及ばないようね」

 

ライダーはエリオを弾き飛ばす!

 

「うわああああ!」

 

エリオは吹き飛ばされるもすぐに体勢を立て直した。

 

「このままじゃ……」

「悪いけど、今は時間をかけてられないの。これで終わらせてもらうわ」

 

ライダーの槍に蒼い雷が溜まっていく。

 

「あの雷……そしてその雷を纏うあの槍は………」

「まさか、あなたの真名は……ジュディス!?」

「そうよ、私の真名はジュディスよ。そしてこの槍はブリューナク」

 

ジュディスは雷を宿した槍を振り回す。

 

「まずい! 僕の魔力資質は雷だから雷属性には耐性があるけど、あの雷は広範囲で恵生さん達も攻撃に巻き込まれる!」

「!」

 

エリオの話を聞いたのか既に体がボロボロの恵生が立ち上がろうとする。

 

「恵生さん!」

「はあ、はあ……はあああああ!!!」

 

恵生がジュディスの方に向かって突撃していく。

 

「Artemis(アルテミス)! フルファイヤ!」

 

アーチャーは恵生なんかお構いなしにジュディスに向かって撃つ!

 

「アーチャー!?」

 

この行動に小坂は驚きを隠せなった。

 

「煌華月衝閃(こうかげっしょうせん)!」

 

ジュディスの必殺技により発生された周りの雷がArtemisのミサイルを破壊し、雷を纏った槍が恵生とエリオに対して振りおろされようとしていた。

しかし………。

 

「!」

 

窓から何かが飛んでき、その何かによりジュディスの槍は弾かれる。

 

「これは!?」

 

ジュディスが外の方を見ると校舎の外には腕をバスターに変えたゼロがいた。

 

「セイバー!?」

「秘剣燕返し!」

 

そして上空には翼を作り、木の葉の剣を持っていたセラフィムがいた。

セラフィムの燕返しの衝撃波が恵生達のいる部分の校舎を破壊する。

ゼロとセラフィムは壊れた部分から校舎に入っていく。

 

「お前、俺のマスターまで殺す気か?」

「聖杯戦争としては当たり前だと思います」

 

ゼロとセラフィムがエリオとアーチャーと合流する。

 

「大丈夫ですか?」

「あの、あなたは……」

「本来は隠れるべきなのですが、私はアサシンのサーヴァント」

「アサシン、あなたが……」

「ええ、初めましてランサーとアーチャー」

 

セラフィムはにこやかに答える。

 

「アサシン……あなた……」

 

燕返しの衝撃で思わず倒れていたジュディスが起きあがる。

 

「私がここに来たことは出来れば他言無用でお願いします、ライダー」

「二人とも……知り合い………?」

「ええ」

「黙ってあげるのは言いけど、私も引き下がれないのよね」

 

ジュディスは飛ばされたブリューナクを拾う。

 

「止めて…くれ、ライダー!」

 

右策はライダーを止めようとする。

 

「飛燕脚!」

 

ゼロが右策の所に移動する。

 

「ふ!」

 

ゼロは素手で右策を気絶させる。

すると赤い結界が消滅する。

 

「これでいいのか、アサシン」

「ええ」

「右策!」

 

ジュディスが槍をしまい、右策の所に駆け寄る。

 

「右策、しっかりして! 右策!」

「う~ん」

「ひとまずは気絶させただけだ」

「けど状態がよくないわ」

「それじゃあ……あの教会に……」

 

恵生が立ち上がろうとする。

 

「恵生!」

 

ゼロが恵生を抱き留める。

 

「まったく、お前も無理はするな」

「ありがとう、セイバー」

「とりあえずこの場にいる全員で教会にいるあのクソ神父に会いに行くとしましょう。

また会うのは癪ですが」

 

そして全員、教会に行くことになった。

 

 

恵生はゼロ達に運ばれている間に気を失ってしまい、気が付いたらすでに教会の礼拝堂にある椅子で寝かされていた。

 

「ようやく目が覚めたか」

 

目の前には終死郎が立ち、隣には彬渡が座っていた。

 

「ここは…」

「俺がいる建物と言ったら教会だろう」

「そっか………」

 

恵生はふとあることを思い出す。

 

「右策! 右策は!?」

「真浦右策のことか。あいつなら俺の部屋で寝かせている。ライダーも一緒だ」

「それで状態は?」

「芳しくないな」

「え?」

「あいつが何故吸収結界を張ったか分かるか?」

「それって…」

「あいつの命が危ういからだ」

「ど、どうして危ういの!?」

 

恵生が終死郎の胸ぐらをつかむ。

 

「あいつの体の中にはな……時璽石(じじせき)が入っている」

「時璽石?」

「時限式の爆弾……とは少し違うな。

あれはちょっとした呪いだ」

「呪い?」

「ああ。あれを埋め込んだのは真浦賢蔵、そうだろ? セラフィム」

「真名で呼ばないでください、気持ち悪い」

 

恵生達から少し離れたところにセラフィムが座っていた。

 

「セイバーのゼロにはもうばれているだろ。遠からずこいつらにも分かるだろ」

「ゼロ? それって……」

「セイバーの真名だ」

「そっか……それじゃあ改めてよろしくね、ゼロ」

「今更言うことではないだろ」

「……それで時璽石って何? セラフィム」

「早速私を真名で呼ぶのですか、あなたは」

「だってクラス名で呼ばれるよりやっぱり本名で呼ばれる方がいいでしょ」

「それはそうですが、聖杯戦争ではクラス名で呼ぶのが基本です」

「そんな基本よりやっぱり気分よく本名がいいでしょ」

「はあ……」

「それでまた聞くけど時璽石って何?」

「申し訳ありませんが、私もそれは初めて聞きました」

「では俺が俺の分かっている範囲で教えてやろう」

 

終死郎が説明する。

 

「時璽石、それは真浦賢蔵が真浦右策を無理矢理自分の意のままに操ろうとする術式だ」

「精神操作とか肉体操作ってこと?」

「簡単に言えばそうだな、賢蔵はそれを埋め込み、なじませるために右策の体を改造している」

「改造……」

「それも昨日今日、1ヶ月1年前と言うものではない。俺の見立てからすると8年くらい前から改造手術をほぼ毎日受けていた跡がある」

「改造手術…」

「真浦右策は改造人間と言うことだな」

「そんな……その石を取り出すことは出来ないの?」

「おそらく完全には無理だろう。8年以上も石を体になじませていたんだ」

「けど、それだけで右策の命が危ないとは思えないけど…」

「時璽石は無理矢理体になじませようと言うのもあって魔力を常に吸収している。少し見ていて分かったが、魔力吸収量が日に日に増しているようだな。

それがどういう意味か分かるな?」

 

終死郎の言葉でようやく右策が危険な状態であることを知る。

 

「だがやれるだけのことはやってやろう。だがそのためには本当に精神を集中したい」

「?」

「ようは出て行けと言うことだ。精神集中、摘出手術、それらを考えると5時間はかかるな。

もしまた来るなら5時間経ってからにしろ」

 

終死郎は右策のサーヴァントであるジュディスを残し、それ以外の者を教会の外に出した。

 

 

「右策………」

「………」

 

彬渡は黙り込んでいた。

 

「小坂…」

「あ、いやすまん。少し考え事を…」

「それって右策のことだよね。でもなんでそこまで右策のことを心配するの? 小坂と右策は赤の他人じゃ……」

「ないよ、あいつと俺は実の兄弟だ」

「え?」

「だから俺とあいつは実の兄弟、あいつの旧名は『小坂 右策』だ」

「兄弟って…なんで右策は真浦家に…」

「小坂家と真浦家が最初の聖杯戦争からの付き合いだってお前ももう知ってるよな?」

「ええ」

「それで俺もよく知らないんだが、ちょっとした約束事があったらしい。

その約束事にのっとって右策を真浦家に入れたんだ。

元々小坂家は俺が長男ってことがあって跡継ぎじゃない右策が入れられた」

「でも……なんでそうだって言わなかったの? それらしい行動なんて……」

「右策が真浦家に行った後、俺と右策は他人としていることを課せられたんだ。

兄弟らしいことをするなとかさ……」

「そんな……」

 

恵生は言葉を失った。

 

「まあその理由としてはあまり仲良くするなってところだ。

とりあえず俺が気になっている所が一つある…………。

なんでセイバーがアサシンと一緒に学校に来たんだ?」

「それはあの神父が俺達に知らせたからだ」

「裏影さんが?」

「けど二人が一緒にいないとあんな同時に……」

「私とセイバーは朝から一緒にいましたよ」

「え?」

「朝から一緒にって…」

「私とセイバーは朝からあの教会に行ってました。一緒になったのは偶然ですけど……」

「ゼロはなんで教会に?」

「キャスターのマスターの正体とアサシンの居場所が知りたかったからだ。

奴は中立の監督役としてキャスターのマスターを教えてくれなかった。

そこのアサシンは俺が教会に行く前から教会にいた」

「じゃあセラフィムはなんで?」

「私の主の命令です。それに私個人としてもあの気持ち悪い男、私の行く先々でよく会ってしまうのが気に入らなかった。

見張ろうと教会の外で見張っていたら、あの男に簡単に見つかってしまいました」

「見つかったって……気配遮断持ちのアサシンが?」

「はい。あの男、どうやって私の居場所を知ったのか私の後ろにいました。

そしたらあの男は……。

『そんなところで見張ってないで、中に入れ。俺を見張りたいなら外よりも中にいた方がいいぞ』

そう言ってきたので中に入って見張っていたらセイバーが尋ねに来たと言うことです」

「それでも一緒にいる理由としてはイマイチだな」

「ええ、私とセイバーは教会の中で戦ってましたから」

「戦ってたって、ゼロ! 勝手に戦ってたの?」

「聖杯戦争に参加するサーヴァントとしては当然だ。

だがあの男は本気を出さず、手合せ程度にしろ言ったがな。

…手合せのおかげでアサシンの真名が分かったがな」

「その代償としてあなたの真名も分かりましたが…」

「お互い様ってところだな」

「手合せの後は魔力と傷を癒すためにあの教会にあるあいつの部屋に二人で休んでいた」

「休んでいた時にライダーが自分のマスターを攫い、セイバーのマスターを亡き者にしようとし、そしてその罠にあえてかかろうとするセイバーのマスターの話を盗み聞きしたあの男が私達に知らせたのです」

「でもそれならゼロだけでいいんじゃないの?」

「まあそうなんですが……」

 

口を濁そうとするセラフィム。

 

「アサシン、お前のマスターは賢蔵だな」

「え?」

「お前がライダーとの顔見知りの理由と、終死郎がセイバーだけじゃなくてお前にも教えた理由として考えられるのはそれくらいだ。

違うか?」

「…まったく、あなた達は本当に勘が鋭いと言いますか、頭が冴えていますね。

その通りです、私の主は真浦賢蔵です。そして私が主から言われた任務はサーヴァント同士の戦いの監視」

「戦いの監視…」

「ですから、今日起こったことも当然報告します」

「ねえ、セラフィム」

「なんです?」

「私達と協力してベガを倒さない?」

「私個人としては協力したいところですが、主が許してはくれないでしょう。まだ令呪も残ってますので……、私はこれで……」

 

セラフィムは霊体化し、気配遮断もしてその場を去っていった。

 

「行っちゃった……」

「あの様子だと下手すればアサシンとも戦わなくちゃいけないかもしれんぞ、八子空」

「そんな……」

「………」

 

恵生の態度を見て、アーチャーは何を思ったのか口を開く。

 

「八子空恵生さん」

「何? アーチャー」

「話があります、いいですか?」

「話? 小坂にも言えないこと?」

「はい、マスター申し訳ございません」

「いや、俺は良いけど…」

「セイバーは?」

「お前が手を出さないという保証はないが…いいだろう。

ただし何かあったら俺もすぐにいくからな」

「分かりました」

 

アーチャーは恵生と二人っきりになるため適当な場所に連れて行った。

 

 

アーチャーと恵生は人の気配などが全然ない広場らしきところにやって来た。

 

「それで話って何? アーチャー」

「あなたは何がしたいのですか?」

「何がしたいって?」

「あなたは正義の味方を目指しているのですよね?」

「うん、それが死んじゃったお父さんとの約束だからね」

「けど、今のあなたにはその正義の味方の心が見えません」

「え?」

「今のあなたは可能であれば誰とも戦いたくない、特にあの真浦右策とは……。そう見えます」

「だってそうじゃない! 右策は身内だよ! 右策だけじゃない! 小坂だって……」

「…………あなたは甘いです」

「え?」

「それで本当に正義の味方と言えますか!?」

「!?」

 

恵生はなぜかその言葉で全てを悟ったような気がした。

 

「……ねえアーチャー」

「はい」

「あなたの心臓ってひょっとして私と同じ、小坂のペンダントで出来てる?」

「はい、私の心臓となるコアも最初は破壊され、小坂彬渡のペンダントの力で新たな心臓を作り出されました」

「やっぱり……あなたと会った時からなんとなく感じた。

そして最初に呂布に襲われた時と今日、ジュディスに向かってった私を無視してジュディスを攻撃しようとした。

それでもう確信してたのかな……。

あなたの真名は……私の名前でしょ」

「はい、そうです。ですが今の私は八子空恵生と言う名前の人間ではありません、私の名は『イカロス』。エンジェロイドに改造された改造人間です」

「改造人間……」

 

距離を置いていたイカロスが恵生に向かってゆっくり歩いて近づく。

 

「言うなれば私はあなたの理想の果て……」

「けど、なんで私を……自分で自分を消すような真似を…」

「私はあなたの理想、正義の味方になるために自らを改造した」

 

イカロスの口調が変わって来る。

 

「私は小坂からもらったペンダントの力、私が元々持っていた力、そして父であった八子空断が使っていた重火器類、それから後に出てくる作品から得た武器の知識を使って私はあれらの武器を投影などして、その力を使って正義の味方になった」

 

恵生はそれで納得した。恵生が何故か妙にイカロスの武器を投影しやすかったのか。

それは恵生とイカロスが同一人物であったからだ。

そしてイカロスの武器精製もまた投影であるからだった。

 

「正義の味方になるために私は悪となるものを殺してきた。殺して、殺して……その殺した人の数の何千倍の人を助けて救った……。

でも人々からは私の名前は知られず、『イカロス』と言う名前をもらった。

けどその果てに私が得たものは後悔だけだった………」

「後悔って…何があったの?」

「人々は私の力を恐れて、私を殺した」

「殺した……」

「正確には私が疲れて倒れたところを私を恐れた人達が私を太陽に向かう宇宙船に入れた…」

「そして死んだのね」

「そう、私は正義の味方として戦った。でもその見返りが死と後悔だけ……」

「だったら私とあなたはもはや別人ね、私は後悔なんてしない!」

「ええ、もう私とあなたは別人になろうとしています。

私は多くを救うために正義の味方になった。

でも今のあなたは違う」

「私が違う?」

「今のあなたはあの右策のためだけの正義の味方になろうとしている」

「右策のための……」

「自分でも気づいてなかったのね、未来の自分から見て言うわ。

あなたは私がなった正義の味方とは全く別のものになろうとしている」

 

イカロスと恵生の間合いは拳一つ分くらいになる。

 

「あなたはこれから決めなきゃいけない」

「何…を……」

「私と同じような正義の味方になるのだったら、真浦右策は殺しなさい」

「!」

「あの人をあのまま生かしておいたら、必ず他の人間に危害が加わる。

それでもあの人を守りたいのだったら……、好きにすればいいです。

それこそ私とあなたは別人になるでしょう。

ですが、そうなった時……それ相応、いえそれ以上の覚悟は必要。それを決めるのはあなたです」

 

イカロスはそう言いながら恵生の横を過ぎ去り、歩いて立ち去っていった。

 

「決めた時以上の覚悟…か……」

 

恵生もふらふらと歩いていく。

 

 

幕間

 

 

 

 

 

 

イカロスが歩いていると……。

 

「マスターにセイバー、いい加減に出てきてください」

 

イカロスが自分の近くの木に向かって話しかける。

すると木の陰から彬渡とゼロが姿を現した。

 

「やはり気づいていたか」

「私は魔力探知できるので……」

「しかしお前、記憶喪失ってのは嘘だったのか?」

「確かに嘘はついてましたが、まったくの嘘ではありません」

「まったくの嘘じゃないだと?」

「はい、私が覚えていたのは自分がイカロスであると同時に八子空恵生であったこと、八子空断に助けられその理想に憧れたこと、そしてセイバー、あなたと出会ったことだけです」

「俺と出会った?」

「はい、私は今の八子空恵生の時に聖杯戦争に参加してました」

「じゃあこの聖杯戦争の結果を知っているのか?」

「知ってましたが、結果は覚えていません」

「そっか……、けど八子空は生き残った。それは揺るぎない事実だな。

それとアーチャー、もうそんな丁寧口調にする必要はないぞ。お前が未来の八子空だって分かった以上、ごまかす必要なんてないからな」

「分かりました、小坂」

「本当に分かってるのか?」

 

彬渡は頭をがっくしと下げる。

 

「それで覚えてるのはそれだけで、なんで他は忘れてたんだ?」

「私は改造し、投影と強化の力を上げることが出来ました。

けれどその代償として記憶が摩耗を始めた」

「そしてさっき言ったこと以外を忘れたんだな」

「そうです」

「それでアーチャー、いや八子空、お前はこれからどうするんだ?」

「また俺のマスターである過去の自分を殺そうとするのか?」

「もう私の正体を知られた以上、殺そうとするのは不可能に近いでしょう。

それに今の私を見ていたらもう私と同じになることはないと思いますので……」

 

イカロスは霊体化した。

 

「……セイバー、どう思う?」

「今のところ信用は出来るだろう。

とりあえず俺はあいつがどうなるかを見届けるしかないがな」

 

 

 

 

 

 

幕間終了

 

 

 

 

「はあ………」

 

恵生はいつの間にか公園のベンチに座ってため息をついていた。

 

「未来の私に言われるまでもないよ……」

 

恵生は終死郎の言葉を聞いて既に分かっていた。

右策をこのままにしておけば必ず周りの人間にも危害が加わる。

 

「かと言って右策を殺すなんてこと、私にはできない……」

 

どうすればいいのかと考えていると……。

 

「エ~ミ♪」

 

恵生の前にはフィリー、そしてバーサーカーの呂布がいた。

 

「フィリー……呂布!? まさかフィリー、私と聖杯戦争を!?」

「ううん、恋は無理矢理ついてきただけで今日も戦う気はないよ」

「れん? 何それ、バーサーカーって呂布って名前じゃ…」

 

呂布はいきなり方天画戟を取り出し、その刃先を恵生の首元につきつける。

 

「こ、これって…」

「恋! 武器をしまって! この人はわざと恋の真名を言ったんじゃないよ! 分かるでしょ?」

「………!!」

 

呂布は武器をしまう。

 

「ふぅ…」

「ねえ、これってどういうこと?」

「確かにバーサーカーは呂布だよ。でも呂布って言う名前の真名(しんめい)にはもっと別の真名(まな)があるんだよ」

「真名……」

「うん、この呂布がいた世界の武将には真名(まな)って言う本当の名前があるの。

家族や親しきものにしか呼ぶことを許さない、神聖なる名。

その名を持つ人の本質を包み込んだ言葉で親しい人以外は、例え知っていても口に出してはいけない本当の名前。

それが真名(まな)って言うの…」

「それで……まあごめんね呂布」

「…(コクッ)」

 

恵生の謝りの誠意に免じたのか黙って頷いた。

 

「よかった……」

「ねえ、エミ。エミはなんでため息をついていたの?」

「なんでって……」

「僕はね、いいことがあったんだよ。

ライダーのマスターが脱落するかもしれないってこと」

「!」

 

恵生は突然立ち上がる。

 

「エミ」

「なんで……なんで、そんなことを私の前で言うのよ!」

 

恵生はフィリーに対して怒鳴り散らす。

 

「エミ……」

「確かにフィリー達他のマスターにとってはいいことかもしれないわよ?

でもね……私にとっては全然いいことじゃないの!

むしろ、悪いことなの! 分かる!?」

「……」

 

恵生の怒鳴る言葉にフィリーはただ黙るだけであった。

 

「あ、ごめんなさい……私………」

 

恵生はすぐに冷静さを取り戻し、またベンチに座る。

 

「こんなことフィリーに言ったところでどうしようもないのに……」

 

恵生は手を目に当てて泣きそうになる。

 

「よしよし」

 

フィリーが恵生の頭を優しくなでる。

 

「フィリー?」

「エミはつらいんだよね、ごめんね、エミのこと考えなくて……」

「私の方も悪いのよ、ごめんなさい」

「エミはどうしたいの?」

「私がどうしたい?」

「うん、それがすごく大事なことだよ。

何をするにしてもどうしたいのか、まずそれがないと行動なんてできない。

僕はね…何があってもエミの味方になるつもりだよ」

「どうしたの? 急にそんなこと…昨日はそんなこと言ってなかったのに……」

「うん、昨日帰った後に考えたんだ」

「考えたって何を?」

「僕はダンに復讐するつもりでこの町に来た。でももう復讐相手のダンはもういなかった。

それでダンの養子のエミに復讐するつもりだった。けど…」

「けど?」

「エミは僕がエミを殺すって言ったのにエミは僕を当然のように受け入れてくれた。

そんなことをされても復讐するようにアンベルツインは教育してたのに……」

 

フィリーの方が頭をうつむかせる。

 

「フィリー」

「でも復讐はやめない。けれどエミの味方をしたい、そんな板挟みが僕にあるの。

エミもそうなの?」

「……そうかも……しれない」

「だからね、エミはどうしたいの?」

「私は……」

 

恵生は考える。未来の自分であるイカロスはこのまま右策の味方をしてしまえばイカロスのような英雄になれず、断との約束を破る。

そして今までの恵生は死んだも同然となるであろうことを…。

それでも恵生は右策の味方をしたい。なぜなら恵生の中では右策の割合は気づかないうちに大きくなり始めていたのだ。

恵生は一つの大きな決断をする。

 

「……私は………」

 

 

 

 

 

 

フィリーと別れ、教会の前に戻って来た恵生。

そこにはゼロ、彬渡、そしてイカロスがいた。

 

「ようやく戻って来たな」

「八子空……」

「それはどっちに言ってるんですか?」

「お前はアーチャーだろ」

「……はい」

 

イカロスは返事をした。

 

「私決めたよ」

「何を?」

「それは右策の前で言うよ。とりあえず入ろう」

 

4人は教会に入る。

 

「戻って来たか」

 

礼拝堂、そこには終死郎がいた。

 

「終死郎、結果は?」

「失敗はしていないが成功もしていない」

「え? それってどういうこと……」

「真浦右策の中に会った時璽石は大半は取り除けた。

だが体に深く根付いた時璽石は無理だった」

「そう…」

 

彬渡は険しい顔をして右策がいるとされる部屋に向かおうとする。

 

「小坂!」

 

恵生が小坂の体を抑える。

 

「離せ! 八子空!」

「嫌! 小坂は右策を殺す気でしょ?」

「ああそうだ! このままだと右策は賢蔵の操り人形となって俺達を……いや、賢蔵のことだ、町中の人間の敵となる!

そうなる前に俺は脅威となる右策を殺す!

それが先祖代々からこの町を見守っていた小坂家の使命の一つなんだ!」

「嫌よ! 私は何があっても右策の味方でいることを決めたの!」

 

そんな時であった。

突然教会の奥の方で窓ガラスが割れる音が聞こえてきた。

 

「!!」

「今の音は……」

「言ってなかったけど、俺の部屋はここの音を聞き取れる構造になってるぞ」

「手前……」

「当たり前だろ、神父は懺悔とかを聞かなきゃいけないのだからな」

「そんなの懺悔室でいいだろ!」

 

彬渡は恵生から逃れ、すぐに教会を出て行った。

 

「待ちなさい!」

 

恵生は彬渡の後を追う!

彬渡が自分よりも先に右策を見つけてしまったら彬渡は右策を殺すことは分かっているのだから……。

 

 

恵生は探し回る。そうしているうちに雨が降り始める。

 

「雨か……」

 

雨は勢いを増していく。

 

「どこにいるんだろう……」

 

そんな時恵生はふとあることを思い出す。

 

「そう言えば…こんな雨の日だった……右策と初めて会ったのは……」

 

恵生は右策が今いるだろう場所に行ってみた。

そこは恵生と右策が一番最初に出会った広場である。

そこに右策とジュディスがいた。

 

「右策……」

「あなたはセイバーの…」

「恵生先輩………」

 

恵生は右策に近づこうとしている。

 

「右策、帰ろう。まだ風邪、完全には治りきってないでしょ」

「来ないでくれ!」

 

右策が恵生を拒絶し、ジュディスが恵生の前に立ちふさがる。

 

「あなた、何をしに来たの? 右策を殺しに来たの? だったら私が許さないわよ」

「あの時の会話を聞いてるんだったら私が何しに来たのか分かってるはずよね、右策……」

「………」

「そう、あれは本心なのね」

「私、黙ることはあっても嘘をつくことはないから」

「……」

 

ジュディスは黙って霊体化して消えた。

そして恵生は右策の側に立つ。

 

「右策…」

「帰ってくれ、僕にはもう帰る場所なんて……」

「あるじゃない、私達の家が…」

「先輩、もう俺に無理に構う必要なんてないんだ。もう知ってるんだろ? 俺が何者で、俺の体がどうなってるのかも……」

「ええ聞いたわよ、けどそれがどうしたの? あなたはあなたでしょ」

「けれど僕は先輩が思ってるようないい人じゃないです。

僕は先輩がマスターになったことも知ってた。

家にセイバーが隠れてたことも知ってた。

その上で俺は知らないふりをしていた。ライダーは僕が戦いたくないと言う意思があって義姉さんに預けたのもあるけど、本当は先輩をごまかすためだったんだ」

「私をごまかすってなんで?」

「だって僕が聖杯戦争の参加者だって知れば、僕と先輩は殺しあわないといけない仲になっちゃうから!」

「そんなことにはならないよ、現に今私と小坂は戦ってないじゃない」

「だけどそれは時間の問題……。

それに、僕があの時義姉さんに吸わされたのは毒とかじゃなくてただの匂い付きのもの……僕は暗示をかけられてただけだったんだ。

それなのにそれだけで先輩や兄さんを傷つけたんだ。いつ同じことが起こってもおかしくない……。

僕はそんな自分が怖かった。けれど自殺する勇気さえ持てなかった!

所詮僕は臆病者なんだ! 卑怯者なんだ!」

 

右策は涙混じりで吐露する。

 

「泣かないで、右策」

「……ごめん、先輩。僕はずっと先輩を騙してた。

僕はいつも思ってた。僕は先輩と関わるのはよくない人間、だからなれ合うのもやめて本当に知らない人として接しようと考えた。

けど……出来なかった。正直、死ぬより先輩と関わらないことの方が怖く感じてた……!」

「右策………」

 

ほとんど黙っていた恵生が突然右策に対して抱きつく。

 

「!!?」

「もういいんだよ、右策」

「恵生………先輩」

「右策が悪い人だってのは分かった」

「じゃあ殺すんですか? 正義の味方として……」

「正義の味方……か…。ううん、右策は殺さないし、殺させない」

「…どうして? それって正義の味方の信条に反するんじゃ……」

「一般的のならね…。でも私、教会に戻る前に決めたんだ。

正義の味方であり続ける。でもそれは一般的な正義の味方や私が今まで思った正義の味方じゃない。

ただ一人の人のために存在する正義の味方だって……」

「それって……」

「私が、右策を守る。約束よ、私は右策だけの正義の味方になる。

例え、右策が右策自信を許さないとしても私は許す。

右策が悪い道に入った時は私が必ず連れ戻す」

 

恵生は右策を強く抱きしめる。

 

「先輩……、先輩の心臓の鼓動がよく感じる…」

「そういうのは当ててるって言うのよ……」

 

二人は雨が降り続く中黙って抱きついていた。

 

「………仲の良い二人ね」

 

ジュディスは黙ってその場を立ち去っていった。

 

 

幕間

 

 

 

 

 

 

雨が降り続く中、ジュディスが恵生と右策の元から離れていく。

 

「いいのですか?」

 

そこには傘をさして立っているセラフィムと傘もささずに歩いて近づくゼロがいた。

 

「アサシン」

「お前、帰ったんじゃなかったのか?」

「帰りましたよ。ですが我が主が右策の様子を見に行けと仰られたので……」

「それでわざわざ様子を見に来たのか」

「はい、傘は雲行きが怪しいのを察して持ってきました」

「準備の良い奴だな」

 

セラフィムの準備の良さに思わず笑みを浮かべるゼロ。

 

「それで先ほどの質問ですが、あなたはあれでいいのですか? ライダー」

「いいのよ、右策をどうするかは本来私じゃなくてマスター通しが決めるものよ。

それに今のあの二人の間にいるなんてとても無粋じゃない」

 

ジュディスが見る方にはまだ抱き合っている恵生と右策がいる。

 

「セイバー、あなたが自分のマスターを連れ戻しに来たのならもう少し待ってあげなさい。

せめてあの二人の体が離れた時ね。私もそれくらいには戻ろうと思っているわ。

アサシンはどうするのかしら?」

「ライダーの言う通りですね。ではあの蟲の主には適当に言っておきましょう」

 

そして三人は邪魔者として二人の邪魔をしないよう立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

幕間終了

 

 

 

 

しばらくして恵生と右策が離れ、ゼロとジュディスが迎えに来、四人は恵生の屋敷へと戻ろうとしていた。

 

「……」

「右策、どうしたの?」

「このまま本当に帰っていいのかなって……」

「いいのいいの、私の家に誰を連れてきたって文句言う人なんていないんだから……」

「俺やランサーの意見は聞かないんだな」

「二人とも居候でしょ」

「………」

「言われたわね、セイバー」

「ふん」

 

そして四人は正門までやって来ると……。

 

「遅かったな」

 

玄関前には彬渡とイカロス、そしてエリオがいた。

 

「小坂!」

「小坂先輩!」

「アーチャー!」

「それにランサーも…」

「小坂、ここで何しに来たんだ? まさか右策を殺しに…」

「その気は失せた」

 

彬渡は後ろを振り向く。

 

「けど、右策が危険なのは変わらない。だから見張ることにした」

「見張ることにしたって……」

「俺とアーチャーも今日からこの屋敷に泊まる。いいよな?」

 

彬渡は恵生に答えを求めるが、正直な話強要に近かった。

 

「いいよ」

 

恵生はそれを分かっているのかいないのか、簡単に受け入れた。

 

「部屋は右策から少し離れるけどいい?」

「まあ仕方ないな」

「それでイカロスはどうするの?」

「私はこの体になってから眠れなくなってるので……」

「この体って…」

「それは明日くらいでも私が話すけど……」

「おいおい、八子空! いくらなんでもアーチャーの真名とかばらすなよ!」

 

彬渡は懸命に恵生を止める。

 

「それでランサーはどうして家にいるんだ?」

「小坂さんに家で待ち伏せすると言われて……」

「それで家に入れたと…」

「はい…、ごめんなさい」

「怒るのは恵生の役割だ。俺達は所詮は居候だ」

 

ゼロはそれだけを言い残し、家へと入っていったのだった。

 

 

 

今回明らかにされた情報。

 

 

サーヴァント名「セイバー」

マスター     八子空恵生

真名      ゼロ(出典作『ロックマンX』シリーズ)

男性

 

クラス保有スキル

 

「対魔力」B          魔力の乗った攻撃に対して防御が働く。対魔力はランクと同格以上でないとダメージを与えることは難しい。(魔力が乗ってない攻撃でダメージを与えることは不可能ではない)

 

「騎乗」 B          機械類なら何でも乗りこなせる。(生き物類は乗ることが出来ない)

 

個人スキル

 

「魔力察知」B         魔力反応を察知することが出来る。ランクBなら半径20メートル内の魔力反応を感知可能。

 

「戦闘続行」A         致命傷でもしばらくは動くことが可能。完全一撃の技でないとすぐには倒れない。

 

所有宝具

 

「ゼットセイバー」       宝具ランクA+

 

ゼロの持つ剣。その剣から魔力を込めた攻撃を何通りも持っている(例として魔力波をそのまま飛ばしたり、炎や氷を纏うことが出来る)。

また刃の形をある程度変えることが出来る。

 

「ゼロバスター」      宝具ランクA

 

ゼロの右手をバスターに変えることで出来る。バスターから魔力を込めた魔力弾を打ち出せる。

 

 

必殺技

 

飛燕脚

 

ランクC  簡単な高速移動をする技。飛距離は短いが相手の後ろや上に回り込みやすい。

 

 

閃墜斬

 

ランクB  ゼットセイバーに魔力を纏わせ、敵に向かって下に突撃していく。

 

 

 

サーヴァント名「アーチャー」

マスター     小坂彬渡

真名       イカロス(旧名 八子空恵生)(出典作『そらのおとしもの』ただし改造人間はオリジナル設定)

女性

 

クラス保有スキル

 

「対魔力」 C         魔力の乗った攻撃に対して防御が働く。対魔力はランクと同格以上でないとダメージを与えることは難しい。(魔力が乗ってない攻撃でダメージを与えることは不可能ではない)

 

「単独行動」A         魔力供給が無くても現界出来る。Aランクだと1ヶ月は現界可能。

 

個人スキル

 

「魔力察知」B        魔力反応を察知することが出来る。ランクBなら半径20メートル内の魔力反応を感知可能。

 

「戦闘続行」A         致命傷でもしばらくは動くことが可能。完全一撃の技でないとすぐには倒れない。

 

「千里眼」 B         遠くを見通せる力。ランクが高いと透視や未来予知が出来るがランクBでは無理。

 

所有宝具

 

「Artemis」           宝具ランクA+

 

永久追尾空対空弾。狭い場所であろうと障害物をよけ、対象物に当てることが可能。最大発射数は不明。

 

「APOLLON」           宝具ランクEX

 

弓矢型最終兵器。その威力は最低でも日本国一つは滅ぼせると言われている。イカロスの投影でも完全ないところがあるため威力は若干下がるがその威力は並のものではない。

 

「aegis」            宝具ランクA+

 

アーチャーの持つ絶対防御結界。その防御範囲は自分の目の前のみから日本一つは覆いかぶせるほどに広げることが可能。

 

 

備考

 

原典ではイカロスはエンジェロイドと呼ばれる最初からアンドロイドであるが、この物語ではイカロスは未来の八子空恵生が改造人間となったものの設定。

ちなみにこの物語では『そらのおとしもの』は未来でも存在しない物語であるが、似たようなお話は存在する設定。

 

 

 

サーヴァント名「ライダー」

マスター    真浦右策

真名      ジュディス(出典作『テイルズオブヴェスペリア』)

女性

 

クラス保有スキル

 

「対魔力」C          魔力の乗った攻撃に対して防御が働く。対魔力はランクと同格以上でないとダメージを与えることは難しい。(魔力が乗ってない攻撃でダメージを与えることは不可能ではない)

 

「騎乗」 A+         機械でも生き物でも何でも乗りこなせる。

 

個人スキル

 

「解読」 A          暗号を解読したり、結界の元の場所を見抜くことが出来る。Aランクだと、見ただけですぐに分かる。

 

「直感」 A          戦闘時に対する第六感。ランクが高ければ高いほど冴えわたる。

 

所有宝具

 

「ブリューナク」        宝具ランクA

 

ジュディスが長年愛用していた槍。かつての偉人が作ったとされている。

 

 

必殺技

 

煌華月衝閃

 

ランクA+ 周りに魔力の雷を発生させると同時に槍を魔力の雷に纏わせ、攻撃する。

 

 

サーヴァント名「アサシン」

マスター    真浦賢蔵

真名      セラフィム(出典作『これはゾンビですか?』)

女性

 

クラス保有スキル

 

「気配遮断」A+        どんな結界内でも探知されずに侵入可能。気配遮断中は探知不可能だが大がかりな攻撃は出来ない。

 

個人スキル

 

「単独行動」B         魔力供給が無くても現界出来る。Bランクだと1週間は現界可能。

 

「戦闘続行」A         致命傷でもしばらくは動くことが可能。完全一撃の技でないとすぐには倒れない。

 

「千里眼」 B         遠くを見通せる力。ランクが高いと透視や未来予知が出来るがランクBでは無理。

 

所有宝具

 

「葉形変状(リーフ・ヘレクト)」 宝具ランクB

 

セラフィムが持っていたり、周りにある木の葉を武器にすることが出来、それを翼にして飛翔することが可能。

また宝具ランクはBだがセラフィムの必殺技によりランクが上がる。

 

「不死存現(アンデット・フロー)」宝具ランクA++

 

人間の生き血を吸うことによって、完全一撃必殺の攻撃を受けない限りは死ぬことはない。

ただしその反面、吸わないと死んでしまう。

 

 

必殺技

 

燕返し

 

ランクC~A++  セラフィムが得意とする必殺技。

          主に剣から出す魔力の斬撃波であるが、セラフィムは適当な時(遊んでる時)でも必殺技の燕返しと言っている。

          最低ランクの時は戦闘時ではなく遊んでる時のもの。最高ランクの時はセラフィムが全力を出してる時である。

 

 

 

サーヴァント名「バーサーカー」

マスター    ルフィリーヤス・アンベルツイン

真名      呂布(さらなる真名は恋)(出典作『恋姫†無双』シリーズ)

女性

 

クラス保有スキル

 

「狂化」 B          大きな力を得る代わりに理性を失うが、このバーサーカーは理性を失っていない。

 

個人スキル

 

「直感」 A          戦闘時に対する第六感。ランクが高ければ高いほど冴えわたる。

 

「千里眼」B          遠くを見通せる力。ランクが高いと透視や未来予知が出来るがランクBでは無理。

 

所有宝具

 

「方天画戟」           宝具ランクA

 

呂布の愛用武器。これと言った能力はないが、対魔力をやすやすと無視して切り裂くことが可能。


 
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