No.343631

Fate/Zero イスカンダル先生とウェイバーくん つぅ

Fate/Zero アニメ第三話の台詞に地の文付けて、一部オリジナル展開が加わっています。
癒し系ヒロインウェイバーくん、いいですよね。


僕は友達が少ない

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2011-12-05 12:30:45 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2955   閲覧ユーザー数:2204

 

Fate/Zero イスカンダル先生とウェイバーくん つぅ

 

 

登場人物紹介

 

イスカンダル先生(CV:大塚明夫):征服王。性格は豪快にして優しい。現代の悩める若者たちに喝と愛を与える人生の先生。人間界の文化的制服を目論む異世界の小説家ムーミンパパを尊敬している。

 

ウェイバー・じんタン(CV:浪川大輔ときどき入野自由):現代を生きる悩める若者。実力はそれなりにあるがプライドが高すぎて学校に馴染めずに不登校。Fato/Zeroのメインヒロインにしてぶっ飛ばされて泣き入っている姿が最もよく似合う特異な少年。

 

 

 

 僕は念願叶ってサーヴァントのマスターになった。

 後は、聖杯戦争に勝利すればムカつく教師ケイネスやミド高のバカどもを見返すことができる。

 けれど、その考えは甘かった。

 僕が召喚したライダー……征服王イスカンダル(先生)はマスターである筈の僕の言うことなんか少しも聞きやしない。

 これじゃあどっちがマスターなのだかわかりやしない。

 大きな牛2頭建ての戦車を乗り物に持っており、ライダーの実力が並じゃないことはわかっている。

 けど、こんな傍若無人が服を着たような男と組んで聖杯戦争に勝利できるのだろうか?

 いや、弱気になっていちゃいけない。

 僕はケイネスを、バカ高のアイツらの認識を改めさせなきゃいけないんだ!

 ここはやっぱり僕がしっかりしてこのバカを上手く使って戦いを勝利に導かないとな。

 ヨッシャ! やったるぜ!

 

 ……まあ、ライダーが僕の言うことを聞くなんてないと思うけどな。

 

 

 

 ライダーを召喚してから数日が経った。

 僕が調べた所ではキャスター以外の現界は確認している。

 キャスターに関しては、あれは闇に潜むんで裏でコソコソするタイプだから既に召喚されている可能性は高い。

 おそらく7人のサーヴァントは全て召喚されていると考えた方が妥当なはず。

 となると、そろそろ誰かが動きを見せるはず。

 そう読んでいた僕の読みは当たった。

 偵察用に放っていた魔術を施したネズミが凄い情報を掴んだのだ。

「アサシンがやられたっ!?」

 自室にいながらネズミを通じて僕は遠坂邸で起きたその出来事を目撃した。

 サーヴァントの1人、アサシンが遠坂邸に進入を試みて返り討ちに遭ったのだ。

「おいっ、ライダーっ! 進展だぞ! さっそく1人脱落だっ!」

 ネズミの報告を見て僕は喜んだ。

 だって、そうだろう?

 敵の数は1人でも減ってくれた方が良いに決まっている。

 けれど、ライダーは僕の報告を聞いてもまるで興味なし。暢気に寝そべって煎餅をバリバリ齧りながらテレビを見ている。

 タンクトップに短パンというその辺の体操好きなおっさんみたいな格好で尻まで掻いている。

 僕の方を振り返りもしないどころか目線すら向けない。完全無視。

「おいっ!」

 怒りの声を上げる。

 けれども世界に名だたる征服王は僕の方を相変わらずに見もしない。

 ライダーは僕の持っているテレビアニメをずっと見っ放し。

 

『いきなり秘密がばれちゃったね。クラスのみんなには……ナイショだよっ』

 

 特に近頃はたった1つの願いと引き換えに魔女と死ぬまで戦う過酷な運命を描いたアニメをずっと見ている。

 まあ、あのアニメを録画したのは僕だし、僕だって割と好きな方だ。

 けど、今は暢気にテレビを見ている場合なんかじゃない。

 命を賭けた聖杯戦争の最中なんだ!

「おいっ! わかってるのかよ! アサシンがやられたんだよ!」

 大声で怒鳴る。

 するとようやくライダーは尻を掻きながら一瞬目線だけ僕に向けた。

「う~ん?」

 聞いてなかったことが丸分かりのライダーのやる気のない態度。

 サーヴァントの癖にその傍若無人ぶりは僕の頭に火を付けた。

「おいっ! もう聖杯戦争は始まってるんだっ! 僕がこうして偵察しているのに、お前は毎日毎日毎日毎日っ! 煎餅齧って! ビデオ見ているだけじゃないか! 使い魔以下だぞっ! ネズミ以下だっ!」

 拳を硬く握り締めながらライダーに不満を述べる。ほんと、ムカつくっ!

「大体、必要ない時は霊体化してろって言ってるだろっ! その為の魔力だって僕が供給しているんだぞっ!」

 とにかくコイツは色んな意味で燃費が悪い。魔力はすげぇ吸い上げるし、飯だって菓子だってガツガツ食う。英霊というよりもごく潰しという表現の方が良く似合う。

 ここまで怒ってライダーはようやく僕に目だけ向けた。

 そのライダーは恐縮するどころか呆れ顔で僕を見た。

「あのなあ。暗殺者如きが何だと言うのだ?」

 目線も表情もみんな僕をバカにしていた。

「隠れ潜むだけが取り得のアサシンなんぞ、余の敵ではあるまいに」

 コイツの声は雄弁に語っている。小物相手に何騒いでんだと。

「それより坊主。凄いのはこれだ! これっ!」

 ライダーが騒ぐのでテレビ画面に目を向ける。

 

『ティロ・フィナーレっ!』

 

 巨乳の中学生魔法少女が魔力で生成した巨大な銃で魔女を吹き飛ばしていた。

 マミさんは僕の嫁というやつだった。異論は認めない。最萌トーナメント優勝も僕は10年前から予言していた。

「ほれっ。この魔法少女とかいう、ピンクだったり黒だったり赤だったり青だったり黄色だったりするヤツ。素晴らしいっ! コイツらを10人ほど雇いたいのだが、どうか?」

 ライダーの提案を聞いて僕は溜め息を漏らさずにいられなかった。

「ハァ。その契約対価で宇宙を書き換えた方が早いぞ、きっと」

 世の中に魔法少女がそんな都合よく沢山いるのなら聖杯なんぞ要らないっての。

「おおっ、そうか。やはり問題は資金の調達か」

 ライダーは腕を組みながらあぐらをかいて座り考え込み始めた。

「どっかにペルセポリスぐらい富んだ都があるのなら、手っ取り早く略奪するのだがのぉ。はぁ~」

 征服王さまは現代世界の貧しさが御気に召さないらしい。

 ほんと、フザけたヤツだ。

 ライダーは再び視線をテレビに向ける。

 

『ボクと契約して魔法少女になってよ』

 

 少女たちの希望が絶望に変わる際のエネルギーを徴収に来た、猫のようにもウサギのようにも見える宇宙生物が画面一杯に映っている。

「とりあえずこのキュゥべえとかいう淫獣が当面の難敵だな。ダレイオス王以来の手強い敵になりそうだ」

「地球の次は宇宙を征服するつもりかよ?」

 ライダーならやりかねないと思った。

 だってコイツ、真正のバカだから。

 

「ま、まあ何にせよ、真っ先に脱落したのはアサシンだったのはありがたい」

 気を取り直して自説の披露に入る。

 が、そんな僕をライダーはバカにした瞳で見ている。

 何言ってんだ、コイツ?

 そう言わんばかりに両手まであげてくれている。

 ほんと、ムカつく。だが、良い機会だ。

 僕がどれだけ思慮深く考えているのかコイツに示してやる。

「お前はどうせ真正面から敵にぶつかって行くタイプだろう?」

 乗り物の戦車から判断してもそれ以外の戦い方があるとは思えない。

「変に奇策で足元掬おうとするヤツがいなくなったのは好都合だ」

 コイツはマリオやらせたら最初の穴に必ず落ちるタイプだ!

「このロッソ・ファンタズマとかいうのも使えそうだ」

 ライダーはいつの間にかまたテレビにがぶり付いていた。

 わかった。

 それがライダーの僕への回答というのだな。

 なら、意地でも聞かせてやる!

「セイバー、ランサー、アーチャーの三大騎士クラスっ! そして暴れるだけが脳のバーサーカーはお前のあの宝具をもってすればまったく恐れるに足りないっ!」

 純粋な剣技なら、三大騎士クラスの連中が上だろう。だが、それはあくまでも人間、いや、英霊と英霊が合いまみえた場合のこと。

 だが、ライダーは違う。コイツが扱うのは神獣を使った戦車だ。

 人と戦車だったら、幾ら相手が達人だろうと戦車の方が強いに決まっている。

 だから、力押しのタイプはむしろ怖くない。僕たちが注意すべきなのは……。

「後、厄介そうなのはキャスターだっ! あいつの正体さえ掴めばもうっ!」

 キャスターにさえ気を付ければ勝てる。

 僕の気分は最高潮に盛り上がっていく。

 けれど、ライダーの反応は違った。

 

「アサシンはどうやられた?」

「えっ?」

 ライダーの顔はテレビ画面を向いたまま。けど、その声は今までになく真剣だった。

「だから、アサシンを倒したサーヴァントだ。見ていたのであろう?」

 ライダーの質問に対して僕は戸惑った。

 ネズミの目を通じて見た情報を思い出してみる。

「多分、遠坂のサーヴァントだと思う」

 あの魔術の名門遠坂の邸宅に堂々と居座っていたのだし間違いないと思う。

「姿格好、攻撃といい、やたら金ぴかで派手なヤツだった」

 暗がりの中、2階のテラスに姿を現したヤツは、ほんの一瞬しか見えなかったけれども金ぴか成金としか言いようがなかった。

 黄金の鎧、そして黄金の髪。悪趣味なぐらいに全身金ぴかだった。

 そいつは恐ろしく強いヤツだった。ただ……。

「ともかく一瞬のことで何が何やら……」

 あまりにも一瞬で勝負が決まってしまったので、金ぴかが何をしたのかよくわからなかった。

「たわけぇえええええええぇっ!」

 突然、僕の額を凄い衝撃と痛みが襲って来た。ライダーが僕にでこピンをかましてきたのだ。

「うわぁあああああああぁっ!?」

 英霊の力によるでこピンは凄まじく、僕は大きく吹き飛ばされた。冗談抜きでメートル単位で吹き飛んだんじゃないかと思う。

「余が戦うとすれば、それは勝ち残って生きている方であろうがっ! そっちを仔細に観察せんでどうする?」

 でこピンされたおでこがすっげぇ痛ぇ。

 何、この暴力サーヴァント?

 反論したらもう1回でこピンされそうで言い返すこともできない。

 

「ま~何でも良いわ。その金ぴかだか何だかを見て、他に気になるようなことはなかったのか?」

 僕はおでこを抑えたまま考える。

「そ、そんなこと言ったって! 夜中だし、ほんと一瞬の……」

 ライダーが再びでこピンの構えを見せた。

「うわぁああああああぁっ!」

 僕はおでこを両手で強く抑えて警戒する。いや、あのでこピンをもう1度食らったら脳細胞が壊死するっての。

 ライダーの機嫌を損ねないように必死になって分析する。

 アサシンが一瞬にしてやられた時のあの場面を。

 すると僕は一つ奇妙なことに気が付いた。

「なあ、ライダー。サーヴァントの宝具って、普通は一つ限りだよな?」

 僕の調べた限りだと、聖杯戦争に召喚される英霊の能力にはそういう縛りが存在する。

 戦力のバランスを保つ為だ。1人で100も200も宝具が使えたら戦いはとてもつまらないものになるだろう。

「原則としてはなあ」

 ライダーは考え込む表情を取った。

「まあ、宝具を数で捉えようとするのは意味がない。知っておろうが、宝具というのはその英霊にまつわる故事や逸話が具現化したものであって、一つの特殊能力、一種類の攻撃手段といった場合もある」

 意外なことにライダーは戦争のルールをきちんと把握していた。僕よりも詳しいぐらいだ。

「じゃあ、剣を10本も20本も投げ付ける宝具ってのもアリか?」

 僕が目にしたもの。

 それはほんの一瞬のことだが、大量の武器が一斉にアサシンに向かって放たれる壮絶な光景だった。

 大量投擲。

 それこそがヤツの宝具なのかもしれない。

「無数に分裂する剣、か。……あり得るな。それは単一の宝具として定義しうる能力だ」

 ライダーは僕の言葉に同意した。

 なるほど。宝具というのは定義が可能ならどういうものでもオーケーなものらしい。

 けど、僕は、ライダーが同意したのにも関らず何か違和感を感じていた。

 もう1度あの光景を思い出してみる。

「あっ!」

 僕が思い出したこと。

 それは、アサシンに向かって放たれた武器の一つ一つがあまりにも特異な形をしていたこと。

「でも、あれは分裂したというにはあまりにも一つ一つの形が違いすぎる……」

 もしあれが、1本の剣の複製だと言うのならあまりにも稚拙すぎる。形がてんでバラバラだ。

 それに、飛んで行ったのは剣だけじゃない。

 槍もあった。打撃武器もあった。とにかく色々な武器があった。

 それに……銀髪の髪の毛のカツラ、白いワンピース、携帯ゲーム機。

 いや、それらはさすがに見間違いだろうが、とにかくアイツは色々なものを投擲した。

 

「まあ良いわ。敵の正体なんぞは、いずれ会いまみえた時に知れることだ」

 そう言って……ライダーは僕の背中をポンッと叩いた。

 英霊の力で叩かれた僕は先ほどよりも更に激しく吹き飛んでいく。

「ゲホゲホッ! そんなんで、良いのかよ」

 痛ぇ。そして苦しい。

 僕は年がら年中戦争ばっかりやっていたライダーと違って体力にはあんまり自信がない現代の若者だってのに、気を付けろっての!

 一方、僕をぶっ飛ばしたライダーは実に楽しそうな表情を浮かべている。

「良いっ! むしろ心が躍るっ!」

 戦いバカのコイツは実にコイツらしいことを述べている。

「食事にセックス、眠りに戦っ! 何事につけても存分に楽しみぬく。それが人生の秘訣であろう。フッ」

 ライダーは僕を見ながらニヤッと笑った。

 コイツの人生哲学は僕とは違い過ぎる。

 バカすぎる。

 でも、今の自分をどうしても好きになれない自分にとって、コイツのそんな生き方は少し羨ましくもあった。

 

「さあ、そろそろ外に楽しみを求めてみようかっ! 出陣だ、坊主。支度せぇっ!」

 ライダーが大声で号令を発する。

 けど、僕にとってそれはよくわからない提案だった。

「出陣ってどこへ?」

 僕はまだ他の組の動向を把握していない。どんな奴がどこにいるのかも知らない。

「どこか適当に、そこら辺へ」

 ライダーの答えは物凄くアバウトだった。

「ふざけるなよぉ」

 僕はライダーが冗談を言ったのだと思った。

 でも、そうじゃなかった。

 ライダーはふんぞり返ってみせた。

「遠坂を見張っていたのは貴様だけではあるまい。となれば、アサシンの死も知れ渡っていよう。ここからは他の連中が一斉に動き出すぞ」

 ライダーはアサシンがやられたと大はしゃぎしていた僕よりも一歩先を見据えていた。

 意外と軍師的なスキルも保有しているらしい大男は窓から外を眺める。

 そしてまた、凄いことをのたまいやがった。

「そ奴らをみつけて端から狩ってゆく」

「みつけて狩るって……そんな簡単に……」

 コイツの言っていることは無茶ばっかりだ。

 相手がどんな能力を持っているか、どんな罠を仕掛けているのかもわからないのに、出会い頭に戦いを仕掛けるなんて……。

「余はライダー。こと、足に関しては他のサーヴァントより優位におるぞ」

 電撃戦法は得意と言うことか。けど、なあ……。

 僕が渋っているとライダーは剣を引き抜いた。

「ふふふん」

 そして意味あり気に笑ってみせた。

 って、もしかしてこの構えは!?

「まっ、まあ待て待て待てぇっ!」

 コイツ、家の中で宝具を発動させようとしてやがる!

 この、バカがぁっ!!

「ここじゃマズイっ! 家が吹っ飛ぶ~~っ!」

 家が吹っ飛んだら、僕が大切に保管して来たDVDやフィギュアまで吹っ飛んでしまう。そんなことは断じてさせない!

 僕はこの考えなしのバカを必死に説得して、崩壊した家の下敷きになってリタイアという不名誉をようやく免れた。

 

 

 

 ライダーは出発直前になって、腹を満たしてから戦場に出ると言い出した。

 サーヴァントの癖に食欲旺盛なんてどんだけ規格外なんだ、コイツは?

 そのライダーはエプロン付けて自分で料理に励んでいる。僕の作る料理はみみっちい感じがして嫌なのだという。

 アイツだって、肉を豪快に焼くぐらいしか料理スキルを持っていないのでその言い草は何かムカつく。が、自分で勝手に作って勝手に食べる分には僕の迷惑にはならないので好きにさせておく。

 とはいえ、アニメ以外には時間にルーズなライダーの食事はいつ終わるのかよくわからない。

 僕は痺れを切らして玄関前をうろうろしていた。

 と、そんな時に、玄関の扉が呼び鈴も鳴らさずに開かれた。

「へっ?」

 僕の目の前には冷めた目をしたツインテールの巨乳女が立っていた。

「何やってんの?」

 派手に爪を光らせた女、安城鳴子は玄関前を無為にうろつく僕を白けた瞳で見ている。

 安城鳴子、通称あなるは僕の所謂幼馴染に該当する。子供の頃はよく一緒に遊んでいた。

 現在は同じミド高に通うクラスメイトでもある。

 とはいえ、僕はここしばらく聖杯戦争の準備の為に学校には通っていない。不登校の僕にしてみればあなるをクラスメイトと認識する必要もないだろう。逆もまた然りだ。

 そして何より、コイツと僕は今相性が悪い。

 お互いに過去をよく知っていて、現在の零落した姿に嫌悪感を抱いているからだ。

 僕は本命の高校に落ちて最底辺のミド高に通い、今じゃ不登校の落ち毀れ。おまけに捻くれて世の中を斜にしか構えて見ない。

 一方、あなるはミド高にさえギリギリ引っかかったというどうしようもないバカ。おまけに高校デビューだか何だか知らないけれど、やたらと派手な格好をするようになった。

 そんな僕たちはお互いに対して良い感情を抱けず、おまけにピカピカ輝いていた気がする過去の自分まで思い出して激しい自己嫌悪に陥る。

 あなるというのはそういう厄介な存在なのだ。

「まあ、落ち着け」

 とりあえず玄関前をグルグル回るを止めてあなるに声を掛ける。

「別に焦っちゃいないけれど……」

 あなるは僕と視線を合わさない。僕もコイツを正面からは見ない。何とも気まずい瞬間。

「何か肩重い」

 あなるは自分の右肩を撫でた。

 あなるが体に異変を感じているのは簡易な結界がこの家に張られているから。人を攻撃する類のものじゃないが、敵マスターの使い魔は探知できるようにしている。

 ていうか、あなるも一緒に魔術師養成の授業を受けている筈なのに、何で自分が結界の中にいるって気が付かないんだ?

 本当にバカだな、コイツは。

「で、何?」

 あなるは肩に下げていたバッグからプリントの束を取り出して僕に見せた。

「これ。先生に頼まれていた今月分の課題。今月中に全部やって先生に出して」

「今頃? 今月中ってもう何日も残ってないじゃないか」

 あなるは僕の文句を無視してプリントを押し付けてきた。

「ウェイバーと違って色々忙しいのっ!」

 あなるは苛立っていた。けれど、僕も売り言葉に買い言葉でイラッと来た。

「だったら、捨てりゃいいだろ、こんなもん。どうせあんなアホ高校行く気なんてねえし」

「ウェイバーが来なくたってどうだって良いけどさ……」

 あなるは辛そうに俯き

「けど……アンタみっともないよ」

 とても痛い一言を放ってくれた。

 反論したいけれど、できなかった。今の自分が半端で情けないことは僕にもよくわかっていた。

 だからこそ、聖杯戦争で勝利して自信に溢れた僕を取り戻したかった。僕をバカにする連中に僕の本当の実力を見せしめてやりたいと思った。

 けど、それはまだ達成されていない。

 

 僕もあなるもそれきり黙っていた。

 重苦しい雰囲気の中で時間だけが過ぎていく。

「おぅっ、坊主。肉が焼けたぞ。一緒に食わんか?」

 台所からライダーが出て来た。

 いつもは鬱陶しいと思うライダーだけど、今だけは出て来てくれて助かった。重苦しい雰囲気が溶けた。

「ウェイバー、あの人、誰?」

 あなるがライダーを見ながら首を捻る。

 まあ、僕の家から身長2m以上ありそうな筋骨隆々の大男が出て来たら誰だって驚くに決まっている。

「ああ、あの人はイスカンダル。父さんの知り合いで、今は訳あってこの家に居候している」

 あなるに聖杯戦争のことを喋る訳にはいかない。そもそも喋った所で理解できるとは思えないし。

 自分の目の前のこの大男が実は英霊で、この世に存在する者ではないと言っても信じないだろうし。

いや、信じて騒がれでもしたら困るのだけど。

「って、あの人……何て格好しているのっ!?」

 あなるが大声を上げながら目を丸くした。

「へっ?」

 僕も振り返ってライダーを見る。

 ライダーはノースリーブのシャツに短パンという服装に前掛けエプロンをしていた。

 でも、僕たちの位置からだとシャツと短パンが見えない。

 それって、つまり……。

「何であの人っ、裸エプロンで家の中をうろついているのよぉ~~っ!!」

 あなるが言うようにも見えなくはなかった。

「男の裸エプロンなんて気色悪いだけだろうがぁっ! おかしなことを言うなぁ~~!」

 だが、僕は自分の尊厳に掛けてあなるの言葉を否定する。

 裸エプロンなんて男のやるものじゃ決してない!

 あなるみたいに胸と尻がやたらでかい女がやってこそ華があるんだぁっ!

「おぅ、坊主。何を女と揉めている?」

 ライダーが玄関前へとやって来た。と、ライダーはあなるを見てニヤリと笑った。

「もやしみたいなガキと思っていたが、坊主にもコレの1人ぐらいはいたのだな」

 ライダーは気味の悪いニタニタ顔のまま小指だけを突き立てた。この英霊、こういうつまんない知識だけはしっかり覚えてやがる。

「ちげーよっ!」

 首を振って否定する。俺とあなるはそんな仲じゃない。

「照れるな照れるな。見た所、丈夫そうな女だ。子作りに励み、家を、そして国を栄えさせるが良い。ハッハッハ」

 豪快に笑うライダー。

 コイツの存在は21世紀の現代ではセクハラ以外の何者でもない。

 

「あの、私はウェイバーのクラスメイトの安城鳴子と言います。それで、貴方は?」

 あなるが引き攣った表情のままライダーに尋ねた。

「小僧の伴侶となれば、名乗らない訳にもいくまい。余は征服王イスカンダルっ!」

 ライダーはボディービルダーのように腕の筋肉を強調するポーズを取ってみせた。

 ちなみにやっぱり、僕やあなるの角度からだと裸エプロンにしか見えない。最悪だ。

「それで、イスカンダルさんはウェイバーとは一体どういう関係なのですか?」

「関係って、あなる。お前、何かとんでもない誤解をしてないかっ!?」

 俺がこのゴツい大男とどうにかなる訳がないだろうが!

 変な小説や漫画に嵌ってんじゃないだろうな、コイツ!?

「余と坊主の関係か。フム」

 ライダーは顎に手を添えてしばらく考え込み──

 

「坊主は余の……ご主人様だっ!」

 

 最悪の一言をかましてくれた。

「ご、ごっ、ご主人様っ!?」

「この国ではマスターのことをそう呼ぶのであろう? 知っておるぞ。フッフッフ」

 得意満面に血迷ったことをぬかすライダー。誰だ、その、秋葉原か池袋ぐらいでしか通じなさそうな偏った知識をコイツに植えつけたのは!?

「余はそこの小僧と契約を結んでおってな。身も心も捧げておるのだ。ご主人様の命令となれば、どんなに虫唾が走る無茶な命令でも実行しなければならない」

「身も心もっ!? どんな命令でも実行っ!?」

「令呪をおかしな風に説明するなっ! 最悪だぞ、それっ!」

 何でコイツはあなるの誤解を更に煽る方向に話を持っていくっ!?

「余は先ほどまで坊主の部屋で寝ていたのだが、坊主がやる気になったのでな。外に出て共に修羅と化そうと思っていた所だ」

「寝ていたっ!? やる気になったっ!? 外で修羅と化すっ!?」

「ライダーお前、わざと言ってるのかぁあああああああぁっ!?」

 この1分ほどの会話で俺の評判が地からマントル部分ぐらいまで下がった気がする。

 恐る恐るあなるの顔を見る。

 あなるは体を震わせながら瞳を大きく見開いて俺を見ていた。

 そして──

「イスカンダルさんを肉奴隷にしているなんて……ウェイバーの変態~~っ!」

 大声でとんでもない誤解を絶叫してくれた。

「待てっ! それはお前の大きな誤解だっ!」

 必死にあなるの誤解を解こうとする。

「ウェイバー・じんたんの男色王~~っ! バカぁ~~っ!」

 だが、あなるは僕の話を聞かずに泣きながら駆け去ってしまった。

 

 終わった。もう、凄い色んな意味で………………。

 

「フム。小僧も王と呼ばれるとは少しは余のマスターとしての風格が出て来たという所か」

「いっそ、今すぐ僕を殺してください」

 僕の願いはこの後まもなく、半分叶えられることになる。

 ライダーが観察の為に連れて行かれた鉄橋の上で、高所恐怖症の僕は何度も死ぬ思いをすることになった。

 

 

 つづく

 

 


 
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