No.343480

リング・ル・ヴォワール 4話

さん

映画「リング」と恐山ル・ヴォワールからの影響を受けた小説です。
ある日、呪いのブルーレイを見てしまった和行。その1週間後、彼の元に出てきたモノは……。
http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana/  こちらの日記にも絵を書いています。なお日記絵は描いている時の様子を見ることができます。アニメ塗りの講座に使えるかもしれません(笑)

2011-12-05 00:18:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:407   閲覧ユーザー数:399

 

――コッケコッコーッ!

 

ぐっ……。

混濁した意識が現実に戻されていく。

 

――コケッ、コッケコッコーッ!

 

 

ご近所のおじいさんが最近買ったニワトリの声。

今は朝の6時頃か……。

そういや昨日のことは何だったんだ……。

昨日起きた非日常がまどろんだ頭に渦巻く。

なんでかは知らないが、あいつの顔が脳裏にこびりついている。

「……ん……」

薄目を開けて、ベッドのほうを見やる。

 

――。

も抜けの殻だった。

 

「……」

目を擦っても整えられたベッドしか存在しなかった。

 

やっぱ……。

夢だよなぁ……。

 

俺は惰眠をむさぼるため、もう一度目を閉じた。

 

――トン、トン、トン、トン

 

リズミカルな音が台所から響いている。

なんだか懐かしい音だ。

いい匂いが鼻をくすぐり始めた。

この匂いは味噌汁か……。

………………。

…………。

……。

 

「味噌汁!?」

「あ、おはようございます、和行さん」

 

 

「……」

 

声がした方に目を向けた。

台所で黒髪をなびかせ、俺の少し大きめなシャツとズボンを身につけ、腕まくり+たすき掛けをしている奴が立っていた。

昨日の睡眠不足の原因――物の怪――さだこだ。

そこからトントントンと小気味良い包丁さばきが聞こえてくる。

 

「冷蔵庫の中の食材を使わせてもらいましたから~」

「……お、おう」

上体を起こすと、昨日は掛けていなかったはずのタオルケット。

ちゃぶ台に目を移すと、いつもは並んでいないモノが並んでいた。

 

だしが効いていそうなだし巻き玉子。

かつお節がかかった豆腐。

和風ドレッシングがかけられたサラダ。

 

「……あーっと……」

理解が追いつかない。

「和行さん、顔を洗ってきてください。もうすぐ朝ご飯ができますよ」

「……あ、ああ」

俺はまだ夢でも見ているのか?

 

 

 

 

「へぇ……うまいな」

口に運んだ玉子からカツオのだしの風味が口いっぱいに広がる。

しかも玉子はふんわり仕上げときている。

俺も料理は得意なほうだがこのようには作れない。

「本当ですか! ふふっ、よかった。「まずいっ!」なんて言われたらどうしようかと思いました。――私もいただきます」

嬉しそうにはにかんださだこは白米を少しだけ割り箸で掬うと、これまたその量にあわせて開いた小さい口でパクつく。

由緒正しい家柄出身です、とコイツから言われてもなんら不思議ではない雰囲気だ。

いつも大口で飯を食い漁っている美沙とは大違いだな。アイツの口からは庶民ですと言われてもなんら不思議ではない。

どれ、味噌汁のほうは……。

ほう………………。

…………。

 

「じゃなくてだな!」

「きゃっ、もしかしてお味噌汁、お口に合いませんでしたか? もっと薄口の方が良かったでしょうか?」

「味噌汁もうまいよ! ……そこじゃなくて、なんでお前が朝飯を作ってるんだよ」

俺の言葉を聞いてきょとんとしたさだこだったが、

「泊めて頂いたせめてものお礼です。あの、ご迷惑だったでしょうか……?」

「ご迷惑ってことはないが……」

律儀な物の怪さんが目の前で困り顔をしていらっしゃる。

むしろ嬉しいわけなんだが、何か違うような気がする。

俺が思い描くステレオタイプな物の怪(突然砂をぶっ掛けてきたり、100m5秒で疾走する方々)とどこか違う気がする。

「こう、物の怪なら物の怪らしさってもんがあるだろ?」

「物の怪らしさですか? 物の怪らしさ……物の怪らしさ……そうですね……うーん……」

「……」

本格的に考え込んでしまったようだ。

 

「……うーん……ご飯を作るのが好きなのですが、ちょっと違いますよね……」

 

やっぱり玉子が絶品だな。

ぱくぱくぱく、もしゃもしゃもしゃ

 

「……ううーん……あまり怖いのは得意ではなくて……」

 

サラダもうまいぞ。手が加えられているわけではないが。なめこの味噌汁はハマりそうだ。

ぱくぱく、もしゃもしゃ、ごくごく

 

「……うーんっ……」

 

ぱくぱく………………――。

 

「あ。おかわりを装(よそ)いましょうか?」

「頼む」

 

ぱたぱたぱた……(ご飯をよそいに行った)

……ぱたぱたぱた(戻ってきた)

 

「はい和行さん、どうぞ」

「サンキュ」

めちゃくちゃ健気な物の怪さんだった。

 

どうやら俺はディスプレイからメシスタントさんを引っ張り上げてしまったらしい。

本人はというと、また俺の向かいに座ると食事に箸もつけずに物の怪とはなんぞやを悩み始めた。

 

堅いと言うのか律儀と言うのか健気と言うのか……。

難儀な奴だというのだけはわかった。

どうしたもんかね。

 

とにかく今日は竜司のところにさだこを連れて行ってみるか。

 


 
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