/風
「十万と三千銭、これ以上は出せねえ」
「……はい。娘を、よろしくお願い致します」
「あー、まぁよろしくするのは俺達じゃねぇがな。ほら、来いや」
「はい……」
風は、とうとう売られてしまいました。
まだ会った事すら無い姉様の残した本と、母様がくれたお人形、宝慧ちゃん。
それだけ持って、風は、売られました。
十万三千銭あれば、母様は随分楽になって、姉上様達の学費も納められるのです。
なら、一番小さな風は、こうなるのも仕方のない事、なのです。
……そう、風は風自身に言い聞かせています。
離れたくない。母様と一緒に居たい。
そう言う事が出来ればどれだけ良いことか。
でも、風には出来ない。
“良い子”な風には、そんな事言えない。そんな我儘、願えない。
母様の確かな愛、それに、何時までも一緒に居たい。
でも、風はそんな我儘を言う様な悪い子じゃないのです。
だって、もう十歳になるお姉ちゃんなんですから。
「……っ、待ってください!」
「ああ? あのなあ奥さん、俺らだって暇な訳じゃ」
「半刻、いえ、四半刻だけでもいいんです、風と、風と話させてください……」
「ちっ、さっさと済ませてくれよ」
「はい。ありがとうございます……」
母様が、何を思ったのか引きとめました。
止めてください、折角の決心が鈍ってしまいそうなのです。
なんて、風にはやっぱり言えないのです。
それに、風も一瞬でも長く母様のお傍に居たい、なんて思ってしまうのです。
「風、本当に、ごめんなさい……」
「……謝らないでください、母様」
「っ……まだこんなに小さいのに……ごめんね。本当に……」
「……ぅ……っ」
優しい母様の温もり。
風は……風は……っ。
「仲徳」
「……っ?」
「仲徳。駄目駄目な母からの、貴女への贈り物。 本当はかんざしも一緒にあげるつもりだったのだけれど……」
仲徳……それは風の字でしょうか、それに、かんざし。
それは、親が子どもにしてあげられる最後のお祝い、元服の儀なのです。
「あ、ありがとうございます……母様」
「ごめんね……貴女を売るなんて、母親失格よね……本当に……」
母様はずっと泣き続けています。
昨日の夜から、ずーっと。
風は、そんな母様に何も言う事が出来ないで居ました。
でも……今は。
「母様」
「どうしたの……?」
泣き続けた目蓋は真っ赤になっちゃって、目も充血で真っ赤になっちゃってます。
そんな、優しい母様に風が言うべき言葉は一つなのです。
「母様……風は、風は……、行ってきます」
帰れる保証なんて全くないのです。
むしろほぼ間違いなく帰る事すら出来ないのです。
でも、風はこう言うのです。
そうすれば、何時か帰って来られる気がするのです。
ただいま、と言う義務が生まれるのです。
「っ……! ええ……行ってらっしゃい」
そして、風は馬車に乗り込みました。
──それが、風の知る最後の母様です。
**
/霞
「……朝や」
酒臭い中、はっと目が覚めたウチ。
辺りを見回せば、力尽きたおっさん共とその頂点で豪快なイビキをしとる文ちゃん。
……あ、そっか。昨夜ウチらの歓迎会やったっけ?
尤も、主賓であろうウチと一刀は殆どおとなしくちびちび馬乳酒飲んどっただけなんやけど。
「はぁ……」
なんや気分が重い。
文ちゃんも顔ちゃんも良い人で、オッサンも見た目怖いけど良い人で、他の人達も皆陽気で良い人で。
……でも。
馴染めんなぁ。
一刀も嬉しそうやったし、助けてもろた恩もあるし、ウチも文ちゃんとか顔ちゃんと話しとると楽しいやけど。
やっぱ……あれやな。
此処の人達が、馬賊ってなのっとる事やな。
……一刀はそういうんの詳しいし、この人達が良い人やー、とか、馴染みやすいーとか感じるんかもしれんけど。
ウチには、違いがよう分からん。
一刀の上司とここのオッサンの違いも分からんし、やる事の違いも分からん。
それに、義賊っちゅうのも良く分からん。
義賊とか侠とか耳触りのええ言葉ばっか聞いたけど、実態が解らん。
もしそれが唯の隠れ蓑で、実際は唯の賊やったりしたら、ウチは自分が恥ずかしくて自害するかもしれん。
調子のええことばっか言っとって、それでなんもしとらん人を理由なく殺してまったりしたら、ウチは恥ずかしくてお天道様に顔向けできんし生きてけん。
一刀は、それを分かった上で、自分を殺して働くと思う。
ウチを、本当に大切にしてくれとるから。手を汚してでも、霞には……とかって。
自分で思って恥ずかしいな……。や無くて。
そんなんで、一刀が不幸になったらウチが喜ぶわけ無いのに。
でも、それを言っても一刀は頑なに変わらんと思う。実際、逃げる時にも言ったのに、一刀はやっぱ自分殺してウチの為に、ってしよる。
なら、ウチがここを見極めんといかん。ってそう思えてきて。
一刀に酷い事させん為に、一刀に守ってもらうだけや無しに、ウチも一刀を守るために。
んで、やっぱ一枚壁作ってまう。
……はぁ。
なんや気分重うなってもうたし、素振りでもするかな?
**
/一刀
「……朝、か?」
何を感じたのか、はっ、と弾かれた様に目覚める俺。
未だ重い目蓋を擦り、薄暗い辺りを見回せば死屍累々。主に酔い潰れたオッサン達で山が出来ていた。
そしてその頂点に文醜。十四でオッサンとの酒勝負に勝つとか将来が恐ろしい。
脇の椅子に腰かけ眠っているのは顔良。なんだか寝姿まで控えめとか泣けてくる。
一通り面子は揃って……って。
「……霞は?」
オッサン山ん中でオッサンに塗れて無いのは少し安心だけど……じゃなくて。
日が昇りきって無い様な時間なのに、霞は何処に行ったんだろうか。
と、そこへ……。
「ふっ……、はぁっ! やあっ!」
「……外?」
声のした方向、天幕の外へ俺は、アルコールが残ったままの頭を振って立ち上がると、ゆっくり向かった。
幕を開けば、やっぱり辺りはまだ薄暗いままで。日の出は……もうすぐか? いやまだ早いか。
「はあぁっ!! ……おっ、一刀! おはようさんやな」
「ああ、おはよう。どしたのさ、こんな早い時間に」
俺の家で暮らしてた頃も、放浪してた頃も、霞は基本朝日が昇ると行動を始めてた筈だけど。
「んにゃ、なんとなし目ぇ早うに覚めてな? 久し振りに素振りでもしよかなーって」
「なるほどね。でも、霞って昨夜飲まなかったっけ?」
酒飲んで、翌朝すっきり快調……想像出来んな。
あれ、でも昨夜は霞も割と飲んでたような……。
「んー、馬乳酒あんま旨うないやん? ウチ杯がそない進まんかったんやって。精々二、三十杯しか」
「いやめっちゃ飲んでますやん」
「……なんでウチの口真似?」
「あ、いやつい、な」
ツッコミは関西弁の方がし易いもんね。
因みに霞の喋ってるのは関西弁じゃなくて并州弁だけどね。
「まぁええけど。どや、一刀も一緒にやってく?」
「……んー、じゃあやるかな」
「うんっ、そうこなくちゃ、やで!」
一緒に住んでた頃は良く霞の素振りに付き合ったもんだった。
俺のトレーニングにもなるし、霞も嬉しそうだったし。
まあ、たまに手合わせするとフルボッコされてたけど。
「んじゃ、始めよか」
「おうっ」
そこから先に言葉は無い。
俺はひたすらに木刀を振り、霞は偃月刀の型を繰り返す。
互いに無言、押し黙ったまま、肩を並べて体に動きをすりこむ単純な作業を繰り返すだけ。
でも、居心地は不思議と良い。
なにより、久し振りに過ごす、霞との二人のまったりした時間。
……なにも無い、っていいなぁ。
思考が爺ちゃんだけど、偶には良いよね?
**
「んお? ふぁぁ……お前ら、朝早くから何やってんだ?」
二刻程経った頃か、再び天幕が開き現れたのは意外にも文醜だった。
あんなに飲みまくってたから起きるのも遅いかと思ったが、意外とそうでもなさそうだ。
「お、文ちゃんやん、おはよーさん」
「文遠、お前朝っぱらから鍛錬かよ……ご苦労なこった」
うげぇ、と舌を出す文醜。どうやら鍛錬とかは余り好きじゃ無いらしい。
「なんだ文醜、お前鍛えたりしないのかよ」
「げぇっ、北郷も熱血か? あたいにゃそーいうの合わねーからなっ」
「いやまだ何も言ってないから」
「顔が言ってるぜ、『ぐへへ、俺と文醜の処女を賭けた決闘をや ら な い か』って」
「一刀……あんた……」
「いや言ってないからな? 思っても無いからな? って霞さんすすすっと距離をとらないで!?」
霞がマジ引きしてた。俺が一歩近づくと一歩下がって、二歩近付けば二歩下がって……。
「う、ウチは気にせんよ? 一刀がど、どんな趣味もっとっても、な?」
「じゃあ離れないでよ!?」
「いや……それはちょっと、なぁ?」
「あっはっは! 北郷マジ引きされてやんのーっ!」
……。
「よし、文醜。俺がその曲がった性根を徹底的に強制してやる、物理的に」
「あっはっはっはっははは……えっ?」
「覚悟はできたか? 俺は出来ている。遺書の用意は? 遺産分配は済ませたか?」
「あはは、北郷冗談きついぜ」
「残念ながら大真面目なのよね」
「そ、そんな御無体なっ!?」
「目には死を歯には死を、が座右の銘なので」
「……オヤジ、あたい、もう駄目かもしれないぜ……」
といっても文醜のおちゃらけた性格は昨夜存分に理解させてもらっている。
だから矯正だの何だの言っても、所詮はぬかに釘、暖簾に腕押し。秩序なき変態にドロップキック。
やってもどうせ一時(約二時間)経てば忘れてケロッとしてるだろう。
なので、日頃霞にボコボコにされている分の発散もかねて、思う存分文醜にヘッドロックをかけさせていただいた。
「あでででで、ちょ、もう無理、無理無理無理ぃ!!」
「許さない、絶対にだ」
「……かぺっ」
「あ、落ちた」
「そのままブレンバスター」
ぼふっ、と音を立てて干草の山に頭から突っ込ませた。
「泣きっ面に蜂、やな」
泣きっ面どころか白目剥いてるけどね。
リアル犬神家の完成だ。すけきよーっ。
**
「ふぁあ……あれ、北郷さんに文遠ちゃんに……文、ちゃん?」
最後に、俺が干草をぱんぱんと払っている所に顔良が現れた。
眠そうな目を擦りながらゆっくりと天幕を出ると、此方に気付いたのかとととっ、と駆け寄ってきた。
文醜が疑問形なのは未だ頭から刺さったまま動かないから、見えている部分は腰から下だけだからだろう。
「顔良さん、おはようございます」
「顔ちゃんおはよーさん」
「あ、はい。おはようございます、二人とも早いんですね」
俺と霞が干草に刺さった文醜に触れなかったことから何か感じたんだろう。
ニコリとわざとらしい笑顔を作ると、普通に何事も無かったかのように挨拶を返してきた。
「まぁ癖みたいなもんだよ。俺は仕事出るのが毎朝早かったしね」
「それに一刀が早いから、ウチも何だかんだで早起きしとったんよ」
「へぇー。 って、事は二人は同棲してたんですか!?」
今の話題が顔良の琴線に触れたのか、凄い勢いで食いついてきた。
鼻息荒く、カッ!と目を見開いて、これでもかと俺と霞の方に身を乗り出して。
これも昨夜嫌という程思い知らされた事だが、顔良はソッチの話が、恋バナからや ら な い か♂ まで幅広く好きらしい。
驚いたことに、あの艶本も顔良が持ち出して染められたのが文醜だそうだ。
まぁ、十三歳なんて思春期真っ盛りだと多少あるのかも知れんが。
……何となく五,六年後くらいに黒歴史になってそうだな。
その反動で普通の女の子的な感じに戻るけど
文醜は逝き過ぎて帰ってこなくて百合百合な感じなっちゃって
私が引きこんじゃったし文ちゃん大事だしで結局ちゅっちゅしちゃう様な関係になってる気がする。
と、俺が未来予想図描いてると、熱意というか邪念というかに折れたらしい霞が若干引きながらも顔良の質問に答えてた。
「ま、まぁ一応やけどな」
「凄ぉーい!! ねね、文遠ちゃん、私にもっと詳しく教えて!
その二人の爛れ愛欲に塗れごふっ!?」
「あ、ゴメン顔良さん。つい」
霞にまたおかしなことを吹き込む前に偃月刀の柄で殴る俺。
ゴゥン、と頭からしちゃいけない音がしたけど……大丈夫か?
「ぅぅうううう……并州ではつい偃月刀で殴るの?」
あ、割と平気そうだ。
「まぁ、時と場合によっては」
「たとえばどんな時ですか?」
「親の仇打ちとか」
「具体的な法律に当てはめるとどれくらい相当に?」
「そりゃあもう、国家転覆罪並みに」
「超重罪だ!?」
「当たり前じゃん。この歩く十八禁め」
「お、女の子にだって性欲はあるんですっ! ねっ、文遠ちゃん」
「え、ウチ? ……そりゃ、まあそれなりには……ってなに言わせとんねん!」
おお、教科書に載ってそうなテンプレなノリツッコミだ。
でも……。
「ベタベタだな」
「ベタベタですね」
「え、何この疎外感」
意外とこの顔良俺と合うかもしれん。
漫才コンビ的な意味で。
「なんて寒い突っ込みは置いといて。文遠ちゃん、さあしっぽりぬっぷりと北郷さんとの性活を」
「からのバックドロップぅ」
「ちょ待っ」
そして干草の山に刺さる以下略。
「ふぅ……これで有害図書は滅んだな」
「うわぁ……なんや凄い光景出来てもうとるな……」
爽やかな朝日に照らされる真っ白な雪原と二つの下半身。シュールな光景だね、うん。
あ、文醜に雀が止まった。
**
「なんだお前ら、朝早えんだな。あと猪々子と斗詩のありゃなんだ?」
ふぅ、と俺が悪を滅した達成感に浸っていると、三度天幕の入り口が開いて貞亯のオッサンが現れた。
相も変わらず厳つい姿。某史上最強の親子よろしく本気出したら背中に鬼の顔が出そうな感じだ。
「猥褻物の末路です」
「北郷も大変だな。まぁ家の娘共は頑丈だから良いけどよ」
「……頑丈て。おっちゃん適当やなぁ? 娘に嫌われるで?」
「がはは、親離れくらいそろそろさせてもいいだろ」
「寂しく無いん?」
「いや、寂しいぜ? そりゃもう寂しくて死んじまう兎くらいに」
「オッサン、あんたにゃウサ耳は似合わんぜ?」
「なんだと、試してみなけりゃわからんだろうが」
「やってもいいけど、ぜってぇオッサン衆道野郎っぽく見えるぜ?」
「うわ。そーいうんウチ無理やわー」
「おいコラ、まだ俺なにもしてねぇだろ」
「おっちゃん、ちょっと離れてぇな?」
「霞も大概酷いよな」
オッサン相手だとトークが進むな。
ネタ振りしても絶対答えてくれそうだし、見掛けからネタだし。
「おい北郷、お前今絶対失礼な事考えただろ」
「さて何のことやら。んでオッサン、こんな早起きしてどうしたんだよ」
「おお、そうだすっかり忘れたぜ」
緩んでいた空気を変える合図の様にぽん、と右の拳を左手に当てる。
途端に雰囲気が引きしまり、オッサンは真面目な表情で言った。
「──坊主、仕事だ」
**
ロクな説明も受ける間もなく俺と霞、あと刺さってた二人を引っこ抜いて、オッサンの部下四十人を加えた総勢四十五人で雪原を駆ける。
馬蹄の音が大気を震わせ、猛々しい雰囲気が空気を歪めている様な錯覚を感じる。
「なぁオッサン、仕事ってなにするんだよ」
「ウチらには説明あらへんの?」
「……ちょっと待ってろ坊主共。もうすぐ見えるだろうからよ」
さっきから何を聞いてもこの調子、文醜顔良のおちゃらけコンビですらこんな風だ。
……どーなってんだよ?
「……見えた」
オッサンがぽつりとつぶやいた。それに釣られ、霞と一緒に目を前方に凝らす。
「……おいおい、マジかよ」
「ッ……!?」
霞は絶句し、俺は軽くめまいを感じた。
目標に、そこに揺らめく旗印は、『漢』。
「野郎共、剣を抜けェッ!!」
「おおっ!!」
「突っ込め! 蹴散らせ! 目撃者を残すな!!」
勇ましくも野蛮極まりない、味方を鼓舞する賊らしい掛け声。
それに応える四十の厳つい雄叫び。
そこで向こうも此方の存在に気付いたのか、ある者は武器を抜き抗戦の構えを、ある者は馬車を走らせ離脱の準備を始める官軍。
「ちょ、官軍襲うのかよ!?」
「北郷、あたいらは義賊なんだぜ? 義賊は誰から奪うか、分かんねぇのか?」
俺の声を聞きつけた文醜が並走し、ご親切に質問に答えてくれた。
雇用される前に労働場所の環境や業務内容はチェックすべきだね、本当に。
「……いや、残念ながら回答見えてるからな。あー、こりゃもう堅気にゃ戻れねーな」
「にししっ、そりゃ残念。 まぁ、アンタらの事あたいらはもう仲間だと思ってるから安心しろよな」
「何処に安心しろってんだ……なぁ霞? ……霞?」
「……ん? あ、ああ、ウチは大丈夫やで? ほれ一刀、前向いとらんと危ないで?」
反応が無い事を訝しみ振り返ると、唇を噛みしめ俯く霞がいた。
一寸遅れ声に反応したけど、その声にいつもの覇気が感じられない。
「大丈夫か霞。何か問題あるなら言えよ?」
「大丈夫大丈夫、全然無問題やさかい」
心配するも、霞が大丈夫だと言ってしまえば俺にはそれ以上追及できない訳で。
一抹の不安を抱えながらも、時たま霞を後目に様子をうかがいつつ眼前の光景に集中することにした。
「……凄ぇ」
数の差は二倍、いや三倍はあるだろうか。
官軍の人数は目測だけでもゆうに百を超えていそうだ。
「豚共が散ったぞ! 全員駆り尽くせェッ!!」
しかし、そんな程度の差はオッサン達には無いも同然だった。
恐ろしい程の一点突破力で隊列の横腹をぶち抜くと、直ぐに反転。
半分に分かれたそれぞれの隊が再び隊列の側面を貫いた。
そして、それだけで相手は完全に戦意を喪失。
武器を捨て降る者、最後の抵抗を試みる者、逃走を開始する者。
人によって反応は様々だが、指揮系統が完全に崩壊しているのは火を見るよりも明らかだった。
「降る者は殺すな! だが抵抗する奴、逃亡する奴は皆殺しにしろ!」
貞亯のオッサンの声に、益々武器を捨てる者が増える。
街で時たま見かける傲慢な官軍の面影などこれっぽっちも見当たらず、ヘコへコと米つきバッタよろしく頭を地面にこすりつけていた。
プライドの欠片もねぇ奴らだな。
俺も人の事言えないけど。実際こんな目に有ったらこいつらよりも早く土下座する気がする。
**
/霞
「……北郷、文遠、これが俺たちの仕事だ」
一通りの掃討が済んだらしく、オッサンは離れた場所で眺めるウチと一刀に近づいてきた。
「なんちゅーか、凄いなアンタら。あんな突破力初めて見たわ」
「連中は何を運んでいたんだ?」
ウチが感想を言うと、一刀がなんやよう分からん質問をした。
「ほお、見ただけで俺たちの狙いに気付いたのか」
「あんな物々しい装備と飾り気のない馬車の団体を襲うなら金目のモノはなさそうだからね」
「ああ、坊主の言うとおりだ。俺らの狙いは、塩だ」
「官の塩を奪うなんてオッサンら、凄ぇ馬賊だな」
「義馬賊、だ。俺らはそこらの馬賊みたいに、誰かれ構わず襲う訳じゃねえ。
相手は塩にふざけた税を掛けて、貧民達から根こそぎ絞り取る腐った国の連中だけだ」
熱く拳を握りしめるオッサン。
オッサンにに何があったかは知らんけど、これだけの事をする決意を持たせるだけの何かがあったんやろう。
……でもなぁ。
「そっか……」
「なんだ文遠、ヤケに冷めてんな」
「うん、冷めとる」
「……んだと?」
「……」
オッサンの纏う空気が五度は冷たくなった気がした。
そして、言葉次第ではウチ叩き切られるかもしれんわ、とそう思わせるには十分過ぎる殺気を感じさせた。
「だってさ、官軍だって半分、いや八割は唯の民草の出やで?
あの輸送の連中はむしろそのオッサンの言うふざけた税の掛った塩を買う側じゃないん?」
でも、ウチにはオッサンの言い分が納得できん。
……いや、違う。
心地の良い大義名分に浸って満足げな顔してるだけにしか感じん。
義賊って名前を盾にしとるだけにしか見えん。
だから、敢て喧嘩を売るような質問を投げかける。
一刀はそんなウチの内心に気付いたんか、そっと手を握ってくれた。
……やっぱウチ、情けないわ。こんな啖呵吐いとるんに、オッサンに気押されとる。
でも、一刀。ありがと、アンタがおるだけで、ウチ、震えも止まってまうわ。
「かもしれねぇが、そんな事は俺には関係ねぇ。官がふざけた税を掛け、民がそれで苦しむ。
それを見える範囲の中だけでも解消してぇんだよ、俺は。今日、ここで出会った官の人間は確かになんも悪かねぇが、不幸だった、そんだけだ」
しかし、オッサンは言い淀むこと無く、己の大義を主張した。
此処で言い淀むような人間なら、オッサンは耳触りの良い言い訳にかこつけてた、そう言うことになる。
しかし、オッサンは言い淀むことなく、殺しさえも主張として肯定しおった。
「……そっか。うん、じゃあ次からウチもアンタらの仲間やで、加えてな?」
なら、ウチもこの人の為に働こう。
善悪がどうこうだなんて、そんなの主義と見る角度で様変わりするようなモノでしかない。
ウチがしっとる正義の官軍も、貧しい人から見ればえばって嫌味で酷いことする悪に変わってまうみたいに。
それを、一刀に教えてもらったんが、エラい昔な気がする。たった半年前やのに。
そんな正義と悪の脆さ、それを知ってからウチはそんな曖昧で適当なモノより、淀み無く言い切った大言の方を信じる様になった。
それが、どんなに甘ったるくて夢見がちでぽわぽわだったとしても、それを言い続ける人間なら、ウチは信じる。
何が起きても、面と向かって自分の主張を怒鳴り散らせる人間を信じる。
そういう人間なら、信じられる。己の想う善悪感を信じて、それを実行することを言い淀まんという人を、ウチは信用する。
やで、ウチはこのオッサンを信用する。
そう思ったら、途端に陰鬱な気分が吹っ飛んでまった。
壁が無くなって、やっとウチも仲間や、って思えた。
「ほお、北郷は兎も角、文遠はてっきり拒絶するかと思ったが、なんだ。意外と世の中知ってんだな」
「ウチも色々経験してるんやで」
「そか。んじゃ、改めて。
北郷、文遠、ようこそ安邑義馬賊団へ」
差し出されたオッサンのぶ厚い手を、ウチはしっかり握った。
こんちゃ、甘露です。
今回は風ちゃんの章への導入と、霞の仲間入りでs
原作霞は曲がったコトが嫌いな性格だったんで、義賊とは言え所詮賊、。
ぽんと仲間になったぜと言われて納得するかと言われれば、曲がった事が嫌いな人はしないですよね。
という訳で仲間になる理由づけの為にウチの霞ちゃんには耳触りの良い事だけを言う人は嫌いって風になってもらいました。(ぇ
結果はこのとおり。
なんだかなー、と思いつつ可愛いからいっか、でうpに至る(殴
ではー
次回は恐らく水曜です
アンケ
猪々子パパが予想外に大人気だったので。
彼をこれからどういうポジションに置くべきだと思いますか?
1,パパス「ぬわーーっっ!!」
2,オルテガ「私は もう だめだ……。 そこの 旅の人よ どうか 伝えて欲し(ry
3,その他
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