始業のチャイムが響きます。私には、大きすぎる音です。
栞を挟み、本を閉じる頃には、既に担任の先生は教卓に就いていらしたようで、私が顔を上げる前に「起立」の号令がかかってしまいました。少し遅れて立ち上がると、周囲の視線が全て私に向いた気がして、恥ずかしさのあまり嫌な汗が背中を濡らします。
鞄を机の上に置いて俯き、ほとぼりが冷めるのを待っていると、朝のホームルームが終わり、私以外の生徒は皆動き始めました。一時間目は体育で、そのため女子は更衣室へと移動します。
私にとっては一番憂鬱な時間…
なので、体育のある火曜日と木曜日は、少し嫌いでした。
バスケットボールに疲れ果て、亀の歩みのような更衣を済ませると、一直線に教室へと戻ります。鞄を一旦机の上に置き、席に就いた後にそれを机の横のフックへと掛け直しました。
そして机の上に目を戻すと、先程までは確かに無かった文章の落書きが、そこにあったのです。
書き出しは、こうでした。
『突然ゴメン。本当は直接言いたいのだけれど、目を見て話せる気がしなくて。だから、消されるかも知れないけど、机に、こうして言葉を書いてみたんだ。』
何だか、奇妙だと思ってしまいました。
私は、あまり社交的ではないと自認してしまっています。何故か、『楽しく』『明るく』という雰囲気には、どうしても馴染めないのです。
私自身、暗い自分は疎ましく感じていました。
文章は、こう続きます。
『僕は、君の事が好きなんだ。』
!!
そ、そんな事あるものか、と思いました。なぜなら、私は学校で一度も男子と話した事なんて、無いからです。
冒頭が『突然ゴメン』だったので、もしかして…と少し期待したのはしましたが、「ありえない」と即座に放棄していました。
でもまさか…その、もしかして、とは…
まだ、文章は残っていました。
『本当に、突然でゴメン!でも、いつまでも伝えないままだと、最後まで機会が無いと思ったから、決意した時に書いたんだ。ホント、ゴメン。
返事は、この後に書いてくれると嬉しいかな…。嫌なら、消してくれても構わないから』
最後には、薄く儚い文字で、筆者のイニシャルが書かれていました。
正直言うと、不気味です。方法もそうですが、まず私が告白される理由が、皆目見当がつかないからです。
ですが…嬉しく思うのも…事実です。
嫌なワケ…ありません。
私は、人に見られていないと思っていましたから。
恐らく、お互い、他人と会話する事が苦手だから…
…文章で、会話しようとしてくれました。
二時間目の数学が始まり、私は一生懸命頭を働かせます。
もちろん、授業などは欠片も頭に入ってこず、単語ひとつひとつに思いを馳せていました。
ノートを取る振りをして、夢中になって机の文章を見つめます。
先生が接近している事に、気が付かないくらいに。
「コラ!机に落書きするな!」
「!!っ…すいません…」
一同の視線が私を刺しているのが、俯いていても分かりました。
「ちゃんと、消しておけよ」
「え…」
思わず、はっと先生の顔を振り仰いでしまい、
「…消しておけ」
そして、先生は黒板の方へと帰っていったのです。
…これ以上注目されるのが嫌になり、私は泣く泣く筆箱から消しゴムを取り出しました。
自分の気持ちを伝えられないのは、とても辛い事だと中枢神経に刻みつけ、そして―――
私は、文章を消さずに、『ありがとう。嬉しいです』と書きました。
次の体育が、とても待ち遠しくなりました。
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恋愛描写2 皆さん、素敵な恋に出会えるといいですね。