No.341897

机の上の思い

蝋燭さん

恋愛描写2 皆さん、素敵な恋に出会えるといいですね。

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2011-12-01 15:10:58 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:234   閲覧ユーザー数:234

 (もみじ)の葉もすっかり赤く色付いた、晩秋です。木枯らしが開いた窓から吹き込み、私のスカートを揺らしていきました。ですが私は、いつもと同じように読みかけの小説を栞のページで開き、黙々と読み(ふけ)っています。

 始業のチャイムが響きます。私には、大きすぎる音です。

 栞を挟み、本を閉じる頃には、既に担任の先生は教卓に就いていらしたようで、私が顔を上げる前に「起立」の号令がかかってしまいました。少し遅れて立ち上がると、周囲の視線が全て私に向いた気がして、恥ずかしさのあまり嫌な汗が背中を濡らします。

 鞄を机の上に置いて俯き、ほとぼりが冷めるのを待っていると、朝のホームルームが終わり、私以外の生徒は皆動き始めました。一時間目は体育で、そのため女子は更衣室へと移動します。

 私にとっては一番憂鬱な時間…

 なので、体育のある火曜日と木曜日は、少し嫌いでした。

 

 

 バスケットボールに疲れ果て、亀の歩みのような更衣を済ませると、一直線に教室へと戻ります。鞄を一旦机の上に置き、席に就いた後にそれを机の横のフックへと掛け直しました。

 そして机の上に目を戻すと、先程までは確かに無かった文章の落書きが、そこにあったのです。

 書き出しは、こうでした。

『突然ゴメン。本当は直接言いたいのだけれど、目を見て話せる気がしなくて。だから、消されるかも知れないけど、机に、こうして言葉を書いてみたんだ。』

 何だか、奇妙だと思ってしまいました。

 私は、あまり社交的ではないと自認してしまっています。何故か、『楽しく』『明るく』という雰囲気には、どうしても馴染めないのです。

 私自身、暗い自分は疎ましく感じていました。

 文章は、こう続きます。

『僕は、君の事が好きなんだ。』

 !!

 そ、そんな事あるものか、と思いました。なぜなら、私は学校で一度も男子と話した事なんて、無いからです。

 冒頭が『突然ゴメン』だったので、もしかして…と少し期待したのはしましたが、「ありえない」と即座に放棄していました。

 でもまさか…その、もしかして、とは…

 まだ、文章は残っていました。

『本当に、突然でゴメン!でも、いつまでも伝えないままだと、最後まで機会が無いと思ったから、決意した時に書いたんだ。ホント、ゴメン。

 返事は、この後に書いてくれると嬉しいかな…。嫌なら、消してくれても構わないから』

 最後には、薄く儚い文字で、筆者のイニシャルが書かれていました。

 

 

 正直言うと、不気味です。方法もそうですが、まず私が告白される理由が、皆目見当がつかないからです。

 ですが…嬉しく思うのも…事実です。

 嫌なワケ…ありません。

 

 私は、人に見られていないと思っていましたから。

 

 恐らく、お互い、他人と会話する事が苦手だから…

 

 …文章で、会話しようとしてくれました。

 

 

 二時間目の数学が始まり、私は一生懸命頭を働かせます。

 もちろん、授業などは欠片も頭に入ってこず、単語ひとつひとつに思いを馳せていました。

 ノートを取る振りをして、夢中になって机の文章を見つめます。

先生が接近している事に、気が付かないくらいに。

「コラ!机に落書きするな!」

「!!っ…すいません…」

 一同の視線が私を刺しているのが、俯いていても分かりました。

「ちゃんと、消しておけよ」

「え…」

 思わず、はっと先生の顔を振り仰いでしまい、(まぶた)が非常に熱くなっていくのが分かりました。

 

「…消しておけ」

 

 そして、先生は黒板の方へと帰っていったのです。

 

 …これ以上注目されるのが嫌になり、私は泣く泣く筆箱から消しゴムを取り出しました。

 

 自分の気持ちを伝えられないのは、とても辛い事だと中枢神経に刻みつけ、そして―――

 

 

 私は、文章を消さずに、『ありがとう。嬉しいです』と書きました。

 

 

 次の体育が、とても待ち遠しくなりました。

 


 
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