No.341688

ノベルス:第4話「ペア解消をここに宣言す?」part2

リヴストライブというタイトル、オリジナル作品です。 地球上でただ一つ孤立した居住区、海上都市アクアフロンティア。 そこで展開される海獣リヴスと迎撃部隊の攻防と青春を描く小説です。 青年、少女の葛藤と自立を是非是非ご覧ください。 リヴストライブはアニメ、マンガ、小説等々のメディアミックスコンテンツですが、主に小説を軸にして展開していく予定なので、ついてきてもらえたら幸いです。 公式サイトにおいて毎週金曜日に更新で、チナミには一週遅れで投下していこうと思います。公式サイト→http://levstolive.com

2011-11-30 22:51:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:405   閲覧ユーザー数:401

ノベルス:第4話「ペア解消をここに宣言す?」part2

プレハブのレクリエーションルームで昭和を交えての反省会。

とは言っても彼から何かを語られるようなことはあまりない。どこまでも放任主義と言うわけだが、それが良いときも悪いときもある。

 各々は昭和の前に栄児と紋匁を先頭に、まばらに立ち彼の言うことを聞いていた。

「今日も御苦労だったな。無事別のエリアの部隊もリヴスの殲滅に成功した。内容はどうあれ、俺たちは結果を残し続けていくのが宿命だ。一度たりとも負けることは許されない」

 一度でも負ければ、全てを瓦壊する。鍛え上げた能力も、信念も、誇りも、一度の敗北の前では無価値なものになり下がるのだ。

「さてと、バディの方も良好だな。最初はどうなるか心配だったが、台場と宮御前のツートップ体制もなかなか良い感じだ。相手が相手だったから、いろいろ試せる部分があったよ」

 昭和にとってはあれを相手にお試しを使う余裕があったと言うのだ。通常の思考の持ち主なら、まず失敗を恐れて安パイを踏むだろう。

「射程距離の被りをどう補うか見させてもらったが、宮御前チームは西堀を上手く使ってリヴスを沈めたな。疑似的に囮を使ったのはなかなかだ。だが……、晴海、お前最後喰らったろ? 命に関わるからなるべく無暗に突っ込むのは止めとけ。宮御前ぐらい戦闘に長けているならまだしも、お前はまだひよっこだ」

 それを聞いて鉄平が眉を吊り上げ、どしどしと栄児と紋匁の間をかき分けて鉄平が昭和に手向かった。

「ちょ、なんだよそれ。俺は俺なりにやってんだよ。それに反射神経なら誰にも負けねえよ? あれはたまたまだ、たまたま。全然余裕だって」

 それを聞いて返事を用意していたのは、昭和ではなく紋匁だった。

「そのたまたまがお前を殺すぞ」

 彼女は腕を組んで、彼を見下すように言った。背丈で言えば鉄平の方が大きいのだが、紋匁の態度を見るに彼女の方が大きいように錯覚させられる。

「ああ?」

 鉄平はその言葉にカチンと来たが、そんなことはお構いなしに紋匁の口は止まらない。

「お前からは芯に据えた何かが感じられない。戦闘だって舐めきっているし、訓練だってこなしてはいるが、どこか手を抜いているのは立ち会っている私が一番良く知っているんだ」

「別に手なんて抜いてねーし。それに結果だって残してんじゃねーか」

「個別でお前の戦績を見たらそうでもないぞ」

「ぐっ」

 鉄平はその言葉に声を詰まらせる。

「何でそんなに自信過剰なのかは知らんが、舞い上がり過ぎだ。地に足がついてないのが良くわかる」

「うるせーな。いちいち小せぇことをグダグダグダグダと」

 紋匁はまるで観念したかのように俯くと、こんなことを言った。

「少し我慢していようとは思ったが、ここら辺が私の度量の限界らしいな。田和さんもいるし、良い機会だから私から提案させてもらうよ」

「?」

 何のことなのかと把握できずにいる一同。だがそれが朗報だと思う人間は一人もいなかった。

「田和さん、彼とのバディを解消して、誰か別の人間を新たに招聘することを要望します」

「ちょ、お前何を――」

 突然のことで取り乱す鉄平。それもそのはずで、まさかこの場所で隊を外されるような話になるとは夢にも思わなかったからである。

 紋匁は、そんな鉄平を気にかけるような素振は一切と見せず、昭和への提言を重ねた。

「このままでは彼はいずれどこかで命を落とすことでしょう。勇んで死に急ぐような奴のことまでカバーするなんて芸当は私には出来ません。田和さん、どうか検討してくれませんか」

「つまり、お前は俺に辞めろって言ってんのかよ」

 紋匁は昭和から視線を外し、流し目で鉄平を見遣る。

「つまりじゃなくても、そういうことを言っている。ここら辺が潮時だよ、晴海鉄平君」

「な、」

 鉄平は呆気にとられ開いた口が塞がらない。がくがくと、口を空動きさせたままである。

しかし昭和にとっては、それも別段驚くようなことではなかったようで、

「良いだろう、当然バディを組むには連帯責任が問われるからな。それに当代きっての実力者の言うことだ、少なくとも考慮はさせてもらうよ」

 昭和は、半ば彼女の提言を受け入れる下地があるように振る舞った。

「おい田和さん、それどういう意味だよ。分かったぞ、こいつが金持ちだからだろ、それで融通を利かせようとかそういうことなんだ」

「金で命が買えるか! ……少なくとも私とあそこの縁はとっくに――」

「とっくに……なんだよ?」

「いや、なんでもない……それに今はそんなことはどうでもいい……どうでもいいんだ」

 昭和は気が長い方でもなく早々に話を早々に切り上げようとした。

「あー、とにかくこの件は一端俺が預かっておく。だが晴海、現時点ではお前の立場は分が悪いぞ、それだけは言っておく。俺はこう見えても能力主義だから、使えない奴は容赦なく外すよ」

「けっ、勝手にすればいいじゃねーか! 使える兵隊をとっかえひっかえして街を守れりゃ文句ねーだろ。いなくなりゃ補充して、まるで弾丸込めるみたいに死ぬまで撃ち続けてりゃいいさ」

「百発の無駄弾よりは一発の高品質な弾丸を、ってな。別に俺はとっかえひっかえなんてするつもりはない、不毛だからな。何より、お前を選んだのは俺なんだ。お前の真価を発揮して見せてみろ」

「はいはい、みんな戦争ごっこがお好きなこって」

 そこへようやくと言った具合に、栄児が口を挟んだ。

「なあ、紋匁……、君は本気なのか?」

「まだこの隊が形を成して一カ月と経ってないが、君はある程度、私の気質というものを理解していると思っていたんだがな、違うか?」

「いや、何て言うか――」

「君も君だ。組織を統べる者が、それに注力していないように見えるのは私だけか? 特装三課を通して何か別のものを見ているようなそんな風に見受けられるぞ」

 核心を突かれたようで栄児は内心ゾッとした。見られていないようで、人は他人をよく見ている、と痛感させられたのだ。

何より紋匁という女は、そういう部分に鋭いのかもしれない。自分に厳しく人にも厳しい紋匁なら、それもあり得る話なのだろう。

「……それは――……言いがかりだ。もしそう思われたのなら俺にも至らぬ部分があったということだ。反省する。だが今回の件は――」

「くどいな。いいから君は事の次第を見守っていればいいんだ。それが長たる者の務めでもあるんだぞ」

「……君が――君がそう言うなら見届けさせてもらうよ。その結果が吉と出ても凶と出ても、俺は俺の責務を果たすさ」

「それでいい。私たちが優先すべきは内輪の事情ではなく、都市の存亡だ。始まったばかりの隊だからと言って、右往左往している場合じゃないんだよ」

 この件に関して霞は話を切り出せずにいた。無論鉄平を庇いたいという気持ちが大半を占めていたのだが、霞の中でのある種の使命感がそれを脇へと追いやった。

 それはいつしかの命を落とした同胞を思ってのことであり、その経験則から来る優先すべきものの順序をわきまえていたからだ。

 一方で、鉄平は栄児と紋匁のやりとりにいいかげん嫌気が差していた。

「あーあ、ったく頭堅いことばっかり並べ立ててんじゃねーよ。こっちまで頭堅くなってきちまうじゃねーか。もうヤメだ、ヤメ。付き合いきれねーってーの。辞めさせたきゃ、勝手に辞めさせればいいじゃねーか。俺は知らねーよ、好きにしろ!」

 紋匁は言った。

「おい、鉄平、私から一つアドバイスだ。これからも訓練には欠かさずに来い。それが出来るかどうかが進退の分かれ目だ、いいな」

「誰が行くかボケ!」

 鉄平はそれだけ言うと、鉄砲玉のように部屋を飛び出して行ってしまった。

 そこにいたみんなは浮かない顔で立ち尽くしていたが、実はリィだけは違っていた。というか、彼女はいつ何時も平常心なのでそうそうに顔色が変わることはない。

 そういう中で、リィはぽつりとこぼした。

「紋匁さん、随分優しいんですね」

 その言葉に、栄児と霞はぎょっとした顔を見せた。リィの空気を読まない具合が半端ではなかったからだ。しかし紋匁はこれと言って顔色一つ変えず毅然としてこう言った。

「ふんっ、何のことだ?」

 その返答にリィは不思議そうに首をかしげたが、そのことについてこれ以上何かを言うようなことはなかった。

       *

「おい、この不良男児ぃ。なーに不貞腐れた顔してんだよー」

 女性は何やら無愛想な青年をいじっては楽しそうにしていた。その挙動はとても三十路を越えた年齢のそれとは見えず、十代の女の子がきゃぴきゃぴと振る舞っているような感じだ。

 小柄な体格に、自称アイドル顔が相まって上手い具合に歳を重ねている。

「うっせ、黙ってろババア」

 青年は、ぶすっとした仕草を崩さずに淡々と作業をこなしていた。

「お、何かい。私とやろうってかい。いいだろう受けて立つよ、この真剣鉄板焼き二刀流に勝てると思っているのかね」

 女性は鉄のヘラを両手に携え、キンキンと打ち鳴らして不思議な戦闘態勢を取っていた。明らかに楽しんでいる。

「どういつもこいつもまったく……、おい親父、この女どうにかしてくれよ」

 それは、お好み焼屋〝焼き亭〟の中でのやりとりだった。普段はぽつりぽつりと客の入るお店なのだが、既に閉店しているために今は鉄平と母の里香、父の源造の三人である。

 店内は鉄板四つが並ぶだけの狭い空間、そこに張り紙のメニューがびっしりと並んでいた。

 店の奥で水仕事に従事する源造は煩わしそうに返答する。浅黒い顔にTシャツ一枚というラフな格好から見るにまるで漁師のようだが、これでもここの店主である。

「バーロ、聞き分けのないのが可愛い気ってもんだ。そこんとこ分かっっちゃいねーようじゃ、お前もまだまだだな」

ソースの香りがほのかに香り、粉物を焦がした臭いが店内に満ちていた。

 アーケード街という大山商店街自体作りが古く、老朽化によって痛みが激しい部分がある。それはこの焼き亭も例外ではなく、内装はとても煌びやかとは言えない。

 地域住民を相手に自転車操業がいつまで持つかという、不安を抱えたお店だが今のところまだ持ちこたえているようだ。

「鉄平、この私に話してみさらせ。その顔は絶対何かあった顔だ。お前は分かりやすいからねえ……ああ、分かった! 霞ちゃんから聞いてるよー。あんた部隊の女の子に可愛がられているそうじゃない。さては、その子となんかあったなー、このこのー色男が」

「そんなんじゃねーよ! なあ母ちゃん、頼むから黙って手を動かしてくんねーか。明日俺学校なんだぜ。てか今日、誰も客来てないはずだろ。みんな避難してたんだからよー」

「いいのいいの、やることないんだから暇つぶしには丁度いいのー」

 鼻歌を歌いながら得意げな母がいた。源造もそれに呼応する。

「準備を怠らないのが俺流よ、そいで当てが外れても後悔はないぜ。お前もちっとはそういう俺を見習えよ」

「けっ……そうかよ……」

 漫才のような夫婦。これが晴海家である。

「そうそう、でもそうは言ってもウチの鉄平もなかなかやるよん。だって、あの特装の一人だかんね。今日だって無事にこうして帰ってきたんだ、街が守られた証拠さね、良きかな良きかな」

 そう言って、里香は誇らしげに息子の背中をバンバンと叩いた。

「っ痛ッ、おい痛ぇーな、こら。止めろって、馬鹿」

「そう謙遜しなさんなよ少年。母ちゃんは結構誇りに思ってるんだぜ! キャー、言っちった言っちった」

「言っちったじゃねーよ、しかもキャーって、お前自分の歳考えろって」

「うるさいねえ、あんたは。細かいことは気にしないの!」

 小さな身体が、ぴょこぴょこと鉄平の周りをうろつくものだから目障りでしょうがない、鉄平はそう言った顔をしていた。

「なんていうか母ちゃんよく知らないけど、シンデレラストーリーっていうのはこういうことを言うんだろうね」

「いや、なんか違くね?」

 それに父も便乗した。

「いや合ってるぞ、母ちゃんので合ってる。お前はシンデレルだ」

「いや言えてねえし、シンデレラだろ」

「そうそう、そのシンデレルストーリーがこの大山商店街から生まれたわけよ。母ちゃんねえ、近所でも鼻が高いのよ」

「いや、だからシンデレラだって。デレてどうするんだよ、デレて」

「あの札付きの悪がここまで立派になったんよ、そりゃ嬉しいもんだって」

 勝手に夢心地に浸る里香。もう鉄平もここまで来ると投げやりだ。

「母ちゃん、ここ最近それしか言ってねーぞ」

 源造は鼻をしゃくって、こう言った。

「馬鹿、お前水を差すんじゃねーよ。良い夢見させてやんな、それが親孝行ってもんだ」

「人事だと思って勝手言ってくれるよな。もうこっちはクビ宣告されて――」

 しまった、と鉄平は思った。うっかり口が滑ってしまったのだ。それにいち早く口を挟んだのは、もちろん里香だった。

先ほどとはうって代わって、眉毛の端をぴくぴくとさせている。

「クビぃ? 鉄平、クビってどういうことよ」

「あ、やべ……」

「やーっぱり何かある顔だと思ったよ、母ちゃんはそういうとこには鋭いんだからね。何があったんだい、怒らないから言ってみ」

「言うか」

「言いな」

「言わねーよ」

「ふーん。あんたがそう言うなら、もういいよ、母ちゃん知らない。川にいって誰かに拾われるんだね、きっと大事に育ててくれるよ」

「じゃあそうするわ」

 不気味に流れる沈黙。

「………………」

「………………」

「いいじゃないか、ちゃんと話しておくれよー、親子だろー」

「いや、お前さっき俺を川に捨てたよな」

「川の水に流そうぜ」

 もうこれ以上は付き合いきれないと踏んだ鉄平は、その場を後にすることを思い立つ。濡れ布巾を放って、奥の厨房横にある階段を目指した。

「……あーもう、明日学校だから二階行ってるわ」

「お、逃げんのかー、そんなんじゃモテないぞ、童貞」

「おいババア!」

「ふんっだ」

「あのなあ一つ言っておくがクビじゃねーぞ。クビ、一歩手前だ」

「へー…………」

「な、何だよ」

 里香は何だかにやにやとした表情を浮かべている。鉄平にとってはまったくの不快。しかし、その口から漏れた言葉を不快と取るには温かく、励まされるような言葉だった。

「鉄平、根性の見せどころだよ」

「お、お前ぇに言われなくても分かってんよ、ったく……」

 そう言って頭を掻きながら階段を上ろうとしたとき、父の源造とすれ違う。その際に源造は、耳打ちするような声で鉄平にこう言った。

「鉄平……」

「あ?」

「母ちゃん泣かすなよ」

「けっ」

 そんなこと分かってるよ、とでも言いた気な顔。鉄平は消耗した身体を休めるべく、早々と二階の寝室へと向かった。


 
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