No.339623

ヒースの花が、枯れないように

蝋燭さん

恋愛描写 短編小説です。こんな恋をしてみたいなという願望を込めて。

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2011-11-26 11:42:51 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:257   閲覧ユーザー数:256

 

 

 桜も散りかけた春の終わりに、ぼくは君を見つけた。

 小さな身体に、不釣合いな程、長く黒い髪。

 まるで日本人形みたいだった。

 君は、「皆と仲良くなりたいから」なんて言って、クラス中に人に声をかけて、そしてぼくの所へとやってきた。

「よろしく」と言って笑ったその顔は、眩しすぎてとても目を合わせられなかったよ。

ぼくは、君に憧れたんだ。

臆病なぼくには決してできない、未知の人間とのコンタクト。

容易に歩き回る君と比べると、ぼくはまだゆり籠に揺られている赤ちゃんだ。

自分の世界に籠もると、「君と話したい」と強く思うようになって、胸が締め付けられた。

その長い髪に触れてみたい。

その小さな身体を、抱きしめたい。

君に惹かれている事に気付いた時には、君はもう見慣れない人達の中心になっていた。

たった一度話しただけなのに

何をしていても、君の事が頭から離れなくなった。

 

 だから、秋も終わりに近づいた、金曜日の放課後、君が一人でいるのを見て、

「今日、今から時間、ある?少し、話そうよ」

 噴火しそうなくらいの勇気を出して、君に話しかけたんだ。

 快い返事をしてくれて、心の中で舞い上がった。

 でも、君が何かを言う度に表情を曇らせていったら、さすがのぼくも疑問に思うよ。

「どうしたの?何か、元気無いよ」

 健気に微笑んで「そんな事無いよ」と言っても、やっぱりどこか暗い雰囲気がでていた。

「…な、何か困ってる事、ある?」

 突飛な質問で、ぼく自身も驚いた。

 だけど、君はもっと驚いた様子だった。

 

 …あれ?

 どうして、泣いているの?

「ご、ごめん…」

 意味も無く慌てるぼくに、君はどうして抱きついてきたの?

 

 身動き、できないよ…

 

「友達と、ケンカしたの。向こうがどう考えても悪いのに、他の皆は私のほうが悪いって…」

「それで、落ち込んでたんだ」

「うん…」

「だから、今日一人だったんだ」

「…うん」

「大丈夫だよ」

「え…?」

「ずっと言えなかったけど、ぼく、君の事ずっと見てたんだ。君に憧れた。だって、ぼくみたいに臆病じゃ、ないから」

「ううん、私は臆病なの。嫌われても、除け者にされても、どこかに居場所があれば良いって、たくさんの人に話しかけて、逃げられる場所を作ってたの…」

「それが、裏目に出たんだね」

「多分…。私、寂しくて、悔しくて、どうしたらいいか分かんなくなって…。

…本当は、苦しいの…」

 

 

「…ねえ、浅く広くじゃなくて、深く狭くじゃ、ダメかな…?」

「え…?」

「ぼく、君の事、好き、なんだ」

 

「ぼくと一緒にいてほしいな。逃げ場所でも良いから、傍に」

 

「…いいの…?」

「うん。できれば、ずっと」

「ありがとう…嬉しい…」

 

 教室に置いてある、ヒースの花の鉢植えの、表面の土が、渇いてしまっていた。

 この花は、水分に満ちていないと枯れてしまうらしい。

 

 君と、同じだね。

 

 ぼくが満たしてあげるから

 

 君は、ずっと笑顔でいてね。

 

 

 
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