桜も散りかけた春の終わりに、ぼくは君を見つけた。
小さな身体に、不釣合いな程、長く黒い髪。
まるで日本人形みたいだった。
君は、「皆と仲良くなりたいから」なんて言って、クラス中に人に声をかけて、そしてぼくの所へとやってきた。
「よろしく」と言って笑ったその顔は、眩しすぎてとても目を合わせられなかったよ。
ぼくは、君に憧れたんだ。
臆病なぼくには決してできない、未知の人間とのコンタクト。
容易に歩き回る君と比べると、ぼくはまだゆり籠に揺られている赤ちゃんだ。
自分の世界に籠もると、「君と話したい」と強く思うようになって、胸が締め付けられた。
その長い髪に触れてみたい。
その小さな身体を、抱きしめたい。
君に惹かれている事に気付いた時には、君はもう見慣れない人達の中心になっていた。
たった一度話しただけなのに
何をしていても、君の事が頭から離れなくなった。
だから、秋も終わりに近づいた、金曜日の放課後、君が一人でいるのを見て、
「今日、今から時間、ある?少し、話そうよ」
噴火しそうなくらいの勇気を出して、君に話しかけたんだ。
快い返事をしてくれて、心の中で舞い上がった。
でも、君が何かを言う度に表情を曇らせていったら、さすがのぼくも疑問に思うよ。
「どうしたの?何か、元気無いよ」
健気に微笑んで「そんな事無いよ」と言っても、やっぱりどこか暗い雰囲気がでていた。
「…な、何か困ってる事、ある?」
突飛な質問で、ぼく自身も驚いた。
だけど、君はもっと驚いた様子だった。
…あれ?
どうして、泣いているの?
「ご、ごめん…」
意味も無く慌てるぼくに、君はどうして抱きついてきたの?
身動き、できないよ…
「友達と、ケンカしたの。向こうがどう考えても悪いのに、他の皆は私のほうが悪いって…」
「それで、落ち込んでたんだ」
「うん…」
「だから、今日一人だったんだ」
「…うん」
「大丈夫だよ」
「え…?」
「ずっと言えなかったけど、ぼく、君の事ずっと見てたんだ。君に憧れた。だって、ぼくみたいに臆病じゃ、ないから」
「ううん、私は臆病なの。嫌われても、除け者にされても、どこかに居場所があれば良いって、たくさんの人に話しかけて、逃げられる場所を作ってたの…」
「それが、裏目に出たんだね」
「多分…。私、寂しくて、悔しくて、どうしたらいいか分かんなくなって…。
…本当は、苦しいの…」
「…ねえ、浅く広くじゃなくて、深く狭くじゃ、ダメかな…?」
「え…?」
「ぼく、君の事、好き、なんだ」
「ぼくと一緒にいてほしいな。逃げ場所でも良いから、傍に」
「…いいの…?」
「うん。できれば、ずっと」
「ありがとう…嬉しい…」
教室に置いてある、ヒースの花の鉢植えの、表面の土が、渇いてしまっていた。
この花は、水分に満ちていないと枯れてしまうらしい。
君と、同じだね。
ぼくが満たしてあげるから
君は、ずっと笑顔でいてね。
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恋愛描写 短編小説です。こんな恋をしてみたいなという願望を込めて。