No.338584 戦の狼煙2011-11-23 22:14:31 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:573 閲覧ユーザー数:573 |
まだ薄暗い空の下、朝日が登ろうとしていた。山並みが太陽の光に照らされて入るが、まだ辺りは闇に包まれているに等しい。
それでも朝方とあって、手に桑を持ち畑を耕す農民や鳥の囀りが時折聞こえた。
「おはようございます、片倉様!」
「ああ」
農道を歩く農民たちに挨拶をするのは、奥州伊達軍の竜の右目と呼ばれる片倉小十郎だった。刀ではなく桑に持ち替えて土を耕す。今日はようやく人参を収穫することができた。次は何を植えるかと考えていた最中、妙な気配を感じて桑を地面に置いた。
「誰だ」
「いやーさすが、片倉の旦那、気配を隠しきれないね」
木々の中から姿を現したのは、真田忍隊の長である佐助だった。
「わずかな気配だけを出しておいて何いってやがる」
「怒らない怒らないっと。用事があってきたんだからさ」
飄々とした口調の佐助に、小十郎は警戒心を怠ることはしない。相手は忍びだ、必ず何かある。
「野菜ほしいんだけど」
「……あぁ?」
予想外すぎる佐助の言葉に、小十郎の態度がヤクザのように荒々しくなる。
「旦那の野菜は旨いって聞いたからさ」
「なんでてめぇにやらなきゃならんのだ」
「それに栄養もあるだろ」
「当たり前だ」
妙なことを聞いてくる。何を探ろうとしているのか、真意が見えない。甲斐の虎は何を欲しているのか。
「いずれは知る所だろうから、言っておく」
不意に佐助の気配が変化する。冷徹な忍びとしての空気を肌で感じた。
「親方様の容態が芳しくない」
小十郎の目が驚きによって見開かれる。あの甲斐の勇猛な虎が不調だというのか。
「嘘か真かは旦那の判断に任せる。いずれにしても多方面に知られることとなる。そうなると」
「勢力図が激変するな」
全国に名立たる武将が点在し、現在も戦は起こっている。誰か一人でも倒れれば、その隙を突いて攻めてくることもあり得る。絶好の機会を逃すことはしないだろう。
「それをなぜ俺に言う?」
「奥州は手負いの虎を食おうとはしないと思ったからさ。それに」
頬を掻きながら、徐々に明るくなってきた空を眺めて呟く。
「真田の旦那がどうなるかもわからないからな。親方様が不調であることに不安を抱えている」
「そうだろうな」
武田信玄と真田幸村の主従関係は強固であり、強い絆で結ばれているようにしか誰の目から見ても明らかだった。
その虎が不調となると、幸村の心労は多大なものとなっているだろう。
「牙の失われた虎を伊達の旦那は……」
「政宗様は興味ももたれないだろうな」
「だから伝えた、それだけのことさ」
有益ともいうべき情報ではあった。勢力図が変化しようとする前に、準備をすることができる。
「礼は言わん」
「だから野菜くれって」
ほらっ、と手と手を合わせて皿のような形を作る。
「本気の虎と戦いたいだろ?」
「……」
確かにそれは政宗が望むところだ。弱体化した相手を倒したいとは思わないだろう。
「ほらよ」
「えー」
渡されたのは人参が三本、あまりの少なさに佐助は不服そうに頬を膨らませた。この忍びはどこまで相手を小馬鹿にするのか。
「もう少しくれよ、旦那~」
「甲斐の虎だけに食わせるなら十分すぎるだろうが」
「俺の分は……ごめんなさい」
小十郎から放たれる殺気に、佐助は口を閉じてその場を音もなく去っていった。
「伝えねばな」
嘘か真かはわからない。だが甲斐の忍びが奥州にわざわざきてまで伝えてきた。何かある。
地面に置かれた桑を片付け、側に置いておいた刀に手を伸ばした。
竜の右目の眼光に光が宿る。
今日もまた戦国の世に身を投じるのだ。
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戦国BASARA、片倉小十郎と佐助の小話。畑を耕していたところに佐助がやってきて……。初書きになります。