No.338244 そらのおとしものショートストーリー3rd リアリティー2011-11-23 06:14:58 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:3111 閲覧ユーザー数:2340 |
リアリティー
『へっへっへ。ニンフぅ~~♪ さあ、無駄な抵抗は止めて観念しやがれっ!』
『……ダメよ! 私たちはまだそんな関係になるには早いわよ、智樹っ!』
私は伸びてくる下劣な欲望に染まりきった腕を必死に跳ね除けようとした。
けれど、智樹の荒々しい手に逆に両腕を掴まれて押し倒されてしまう。
そして──
『と、とっ、智樹のケダモノぉ~~っ! 嫌ぁああああああぁっ!』
絶叫と共に部屋に活けられていた牡丹の花がボトリと落ちた。
チュンチュンチュン
嵐のような、悪夢のような一夜がようやく明けた。
『智樹の……バカぁ。こ、こんな無理やりじゃなくても私は、私は……』
智樹に征服され尽くされた自分の体を見ながら呆然と答える。
昨日までの清い体の自分はもういない。今の私はもう違う存在なのだ。
乱れてしまった髪をツインテールに結わえ直しながら智樹に意図を尋ねる。
『智樹は、私のことが好きなんだよね? 好きだからこんなことをしたのよね?』
『くっくっくっく。そうだな。今から俺が出す課題をクリアできれば一生愛してやっても構わないぞ。ああ、本妻としてな。げっへっへっへ』
智樹から発せられる下卑た笑い。
その智樹から出された課題とは──
ニンフと智樹の真実の愛に至るまで 第11話 了
「よしっ。投稿完了っと♪」
日課となっているインターネット上への小説投稿を終えてホッと息を吐く。
毎週決められた時間にアップできるように心掛けているので、水曜日の午前零時前後は毎週結構緊張する。
「さて、お風呂にでも入って来ようかしらね」
投稿を終えて緊張も解けてやることもなくなった。
守形のノートパソコンを解析して自分で作ってみたパソコンの電源を切る。
反応があると嬉しいなと思いながらお風呂へと向かう。
次の話の構想を練りつつゆっくりとお風呂に入る。
1時間ほどしてお風呂から上がり、濡れた髪を乾かしながらパソコンの前に再び座る。
反応はどうかなと期待しながらスイッチを入れて、インターネットに接続する。
すると、感想が3件来ていた。
『怪鳥』『三月』『イカ娘ロス』
よく感想を送ってくれる3人だった。
怪鳥: 智樹の超鬼畜ぶりに怪鳥胸を打たれたわぁ~♪ それで、智樹はどうやって残酷にむごたらしく死ぬのかしら~?
三月: 前半部で智樹を誘惑するニンフがエッチ過ぎるよぉ。あれじゃあ、智樹の野獣が目を覚ましちゃうのも仕方がない気がするよぉ
イカ娘ロス: 話が稚拙過ぎます。きっと作者も幼稚で胸がない哀れな存在に違いありません。それからニンフが襲われる体裁を取りながら誘惑してビッチ過ぎます。きっと作者もニンフ同様にビッチなのだと思います。
本名も素性も知らない人から感想をもらえるのは嬉しい。
けれど、もらえる感想の全てが嬉しいわけでもない。
特にこのイカ娘何とかというハンドルネームの感想はいつも腹が立つ。
作者に対する悪意を常に感じる。ムカつくんなら感想書くなって感じ。
あんまりムカつくから、どんな奴が感想を書いているのかハッキングして調べてやろうと思った。
でも、相手は相当にコンピューターの扱いに慣れているのか正体を掴ませてくれない。
どこからインターネットに接続しているのかわからない。
ふざけるなと思って本気で解析してみると、このコンピューターから接続したという本当にふざけた結果が出て来る。
私が管理しているコンピューターに外部から接続できるかっての!
そんなこと、直接このパソコンのスイッチを入れない限り無理。無理に決まってるわ!
なのに、私の分析結果は何度やっても同じ答えを出してしまう。
シナプス最高の電算頭脳を持つ私が、人間に手玉に取られているというの?
ほんと、あらゆる意味でムカつくわね、このイカ娘何とかって奴っ!
「……ニンフ、さっきから何をそんなにイライラしているの?」
アルファがお茶を持って私たちの部屋に入ってきた。
「別に何でもないわよ」
アルファには私がインターネット上に小説をアップしていることを知らせていない。
それに大体この娘は、高度な電算能力を持っている癖にパソコンの操作がまるでできない。ノートパソコンをトレイ代わりに使おうとする娘だ。
そんなローテクノロジーの中で生きているアルファに私がインターネット上で抱えている悩みを理解できる筈がない。
「……私の完璧な偽装にすっかり騙されているようですね。ニヤソ」
「何か言った?」
「……ううん。何でもない」
アルファは涼しげに顔を横に振った。
アルファのことは放っておいて、あのイカ何とかへの対抗策を考えないといけない。
ううん。
こんな考え方をしていたんじゃいけない。
私の創作はイン何とかの為にしているわけじゃない。
もっと沢山の、日本語が分かる全世界の大勢の読者の為に書いているのよ!
そうよ。
もっと多くの読者が見るようになればきっと感想の数も増えるに違いないわっ!
感想数が増えればイン何とかが1人で何を書こうと気にならなくなるわよ!
「よしっ! もっと良い作品を書いて閲覧数も感想の数もガンガン増やすわよっ!」
新しい目標が生じた。
「……あんな稚拙でエロいだけの小説で何を血迷っているの?」
「何か言った?」
「……ううん。何でもない」
アルファは涼しげに顔を横に振った。
アルファのことは放っておいて、次回作をより良くする為に頭を捻ることにする。
さて、どうしようか?
参考となるのは3つの感想。
とはいえ……内容がエッチ過ぎるという以外にあまりヒントはない。
でも、ストーリーの今後に関してはヒントが載っている。
怪鳥という読者は下種な智樹が無残な最期を迎えることを望んでいる。
確かに作中でニンフを力尽くで襲って己が欲望を満たした智樹は許し難い。
けれど、この物語は天使のような慈愛を持つ少女ニンフによって悪逆非道で下種な智樹が更生し2人が真実の愛によって結ばれることを描くラブストーリー。
従って怪鳥の言う様に智樹を殺す展開にはできない。
今後は読者たちに誤解を与えないように智樹の更生に力点を置いていこう。
後、参考に出来そうな部分と言えば
『話が稚拙過ぎます』
やっぱり、これか。
悔しいけれど、このイン何とかの感想しか他に参考にするものがない。
私をバカにしているだけとも言えるけれど、一考の余地はあるかもしれない。
話が稚拙って言うのはどういう意味だろう?
ストーリーが単純すぎるということだろうか?
それとも、人物関係図が入り組んでいないことだろうか?
それとも、設定が大雑把過ぎるとか厨二病とでも言いたいのだろうか?
考えるほどに難解。
「……マスターに押し倒されて胸を揉まれたこともない分際で似非リアリティー。ニヤソ」
「何か言った?」
「……ううん。何でもない」
アルファは涼しげに顔を横に振った。
私は悩みながら夜を明かした。
明け方まで考えたが答えは出ない。
気分転換とヒントを捜しにちょっと外を歩いてみることにした。
目的もなく歩いている内に川原に到着。
するとそこには、中央にメガネの男、左右に2人の少女が立っていた。
メガネの男、守形は縄でグルグルに縛られて身動きが取れない状態だ。
そして守形の左右では美香子と智子が激しくにらみ合っている。
……いつもの光景だった。
「どうしてお前たちはそんなに仲が悪いんだ? 俺には少しも理解ができん」
相変わらず守形は何故2人が争っているのか理解していない。
智樹以上の鈍感って多分、地球上でもそうはいないと思う。守形はそんな稀少人間の1人だ。
「英くんは私たちが何故争っているのか後で理解してくれれば良いわよ~。智子ちゃんが死んだ後にゆっくり教えてあげるわ~」
「そうですよ、守形先輩~♪ そこの年増女を葬ったら、智子の話をちゃんと聞いてくださいね~♪」
……ほんといつもの光景だった。
「で、今日は何で勝負するんだ?」
2人の対立に慣れ過ぎている守形は面倒くさそうに声を発した。
「今日の対決はこれよ、英くんっ!」
「じゃ~んっ!」
2人が背中に隠し持っていた原稿用紙の束を取り出してみせる。
「「今日のお題は小説対決っ!」」
本当は2人、とっても仲良しなんだろうなと確信させるぴったりと息の合った声で2人が宣言する。
何ていうか呆れる。だけどその内容が小説と聞いて、私は俄然興味を惹かれた。
「どっちの小説が上手か英くんが判断して頂戴っ!」
「負けた方は死にます。死ぬしかありません」
「……おいっ」
かつてこれほど過酷な勝負の判定を要求される小説審査員がいただろうか?
「じゃあ早速会長から行くわよ~♪」
「ああっ! ずるい~っ!」
智子に構わずに美香子は小説の一部を読み始めた。
「
英四郎のメガネの奥の冷徹な瞳が美香子の早熟した体を嘗め回す。
その舐める様な視線に美香子の体は無意識に震え出す。
あの、英くん?
黙ってろ。今、品定めの最中だ。
普段の英四郎は鉄の仮面を被っていると噂されるほどに無表情。
だが、水着姿の美香子を前にしてはその鉄仮面も剥がれ落ちざるを得ない。
フッ。評価が定まったぞ。
あの、さっきから何のことを言っているの?
そのいやらしいビッチな体を特別に俺が所望してやると言うのだ。ありがたく思え。
しょ、所望って! 英くん、貴方は一体何を言っているの?
美香子は慌てて両腕で胸元を隠す。だが、その動作は守形の加虐心に火を付けただけだった。
クックック。その動作。俺を誘っているとしか思えないな。このビッチめが。
酷いわ、英くん。私は、私はっ!
必死に反論を試みる美香子。だが、ゆっくりと近付いて来る英四郎を前にして震えることしかできなかった。 」
美香子の小説は更に過激な描写が続いた。
うん。変態だ。
自分をモデルとしてあんな恥ずかしい物語を書くなんて、その神経がよくわからない。もっとこう、18禁的な表現は控えるべきだと思う。
「やりますね。インモラルな年増女の下卑た願望が余すことなく小説に表現されています。でも、智子には敵いませんよ」
智子は自分の原稿の束を手で叩くとその一部を朗読し始めた。
「
ヤレヤレ。智子は悪い子猫のようだな。これは一度きちんとしつけをせねばなるまい。
先輩に会えた喜びで思わず背中から抱き着いちゃった智子。
でも、智子が抱き着いたせいで先輩は大事にしていた美少女フィギュアを落としてしまいました。
先輩はいつもと同じ表情のように見えますがとても怒っています。
先輩と相思相愛の仲である智子にはそれがわかるんです。
智子は一体、どんなお仕置きをされちゃうんでしょうか?
智子が二度と俺に迷惑掛けない様に絶対服従を叩き込んでやらないといけないようだな。
きゃる~ん♪ 智子はいつだって先輩に絶対服従ですよ~♪
智子は先輩の為なら何だってできます。
まだ、したことないけれどエッチなことだって全然問題ありません。
ヤレヤレ。これでは今から体に刻み込む罰が本当に罰になるかわからんな。
智子は我慢強いから先輩になら……滅茶苦茶にされても良いですよ。
本当にこれは、何をしても罰にならんかもしれんな。
そう言いながら先輩は智子の腰に手を回して強く抱き寄せたのでした 」
智子の小説は更に過激な描写が続いた。
うん。変態だ。
自分をモデルとしてあんな恥ずかしい物語を書くなんてその神経がよくわからない。もっとこう、18禁的な表現は控えるべきだと思う。
「さあ英くん。私と智子ちゃんのどっちの小説が良かった? 勿論私よね」
「智子に決まってますよね。きゃる~ん♪」
2人の少女が守形に擦り寄る。
負けた方は命がなくなる真剣勝負の結果は果たして!?
「そんなもの引き分けだ引き分け」
守形は面倒くさそうな声で審判をくだした。
「何を言っているの英くん? こんな頭の中にお花畑が広がっているとしか思えない小娘と私のノーベル文学賞クラスの作品が同じ評価だなんて?」
「何を言っているんですか先輩? 婚期を逃して惨めに焦っている行き後れのババアと智子のフレッシュ・ピュアな100万部突破しそうな作品が同じ評価だなんて」
ほんとこの2人、守形が関わると同じような低水準なことしか考えられなくなるらしい。
そんな2人に対して守形は大きく溜め息を吐いてから理由を述べた。
「お前ら2人とも作品の中にリアリティーがなさ過ぎる」
リアリティーという言葉に私の脳内に大きな衝撃が走る。
「何を言っているのよ? 私は凄くSに見えるけれど、本当は英くんに無理やり滅茶苦茶茶にされたい少女をきちんと描いたつもりよ」
「美香子は真正のSさ」
守形は何の躊躇もなくそう言い切った。
自業自得とはいえ、ちょっと美香子が可哀想だと思った。
「智子は先輩になら何をされても良いっていつだって考えてますよ~♪」
「俺は女子を辱めるようなお仕置きはしない」
智子の意見も一刀両断された。
「実在の人物を小説の題材に使うなら、もっとリアリティーを大事にしろ」
キッパリと言い切る守形。
その守形に私は自分の疑問の答えを得た気がした。
急いで飛んで桜井家へと戻る。
玄関を開けるのももどかしく全速力で居間へと向かう。
「どうした、ニンフ? どこへ出掛けていたんだ?」
智樹は味噌汁を飲みながらパジャマ姿で朝食を採っていた。
丁度良かった。
私は、自分の小説に欠けていたものを大声で叫んだ。
「私は智樹の赤ちゃんが欲しいのっ!」
そう。
最終回の構図通りになることが私が創作を続ける上では重要なのだ。
私が実際に智樹の赤ちゃんを産めば、非常にリアリティーに溢れる文を書けるようになるに違いない。
うん。私が求めているのはこれだったのよ!
「ブ~~~~~~っ!?」
一方智樹は口の中に入っていた味噌汁を豪快に噴き出した。
「ニンフっ! お前っ、自分が何を言っているのかわかってるのかっ!?」
「わかってるわよ。智樹の赤ちゃんを産んで子育てしたいのよ」
それこそが、私の小説を上達させる最善の道。
後、やっぱり結婚もしてみたいし。
うん。何の問題もないプランよね♪
「さあ、智樹。これから赤ちゃんを作りましょう」
「ちょっと待てぇ~~っ!」
私が智樹の肩に手を触れようとした瞬間だった。
「…………ダウナー(チビ蟲)死すべしっ! アルテミス発射っ!」
熱源体の存在を感知した私は慌てて智樹から距離を置く。
「ねーねーっ! 私も朝ごはんをご馳走になって良いよ……わらばぁあああああぁっ!」
爆発を吸収するクッションのおかげで私も智樹も怪我をせずに済んだ。
それにしても……。
「いきなり攻撃なんて危ないじゃないのよ!」
私を襲撃した、赤い瞳の女王に非難の声を浴びせる。
ヤンデレ・クイーンは味噌汁の入ったお鍋を持ったまま私に対して怒りを露にしていた。
「…………マスターは誰にも渡さない。こんなビッチに寝取られるぐらいなら私が葬って誰の手にも触れられないように」
「ニンフもイカロスも一体全体何を考えているんだぁ~~っ!」
智樹の絶叫が爽やかな空美町の朝に木霊した。
『ニンフと智樹の真実の愛に至るまで』の第12話から、智樹を執拗に付けねらう変態ストーカーメイドを登場させたら小説の閲覧者数が増えた。
イカ娘ロス: 話が稚拙極めています。作者の幼稚性が全て出ています。それからヒロインをアルファに変えて智樹と結ばれる展開にするのが良いと思います。アルファはニンフに比べてヒロイン資質に溢れすぎています。
イカ娘何とかからの非難は更に激しくなったが、まあこれも有名税と思うことにしよう。
ところでこのイン何とかって結局誰なのだろう?
私の創作に付きまとう最大の謎はまだ解かれていなかった。
了
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