No.337707

リング・ル・ヴォワール 1話

さん

映画「リング」と恐山ル・ヴォワールからの影響を受けた小説です。
ある日、呪いのブルーレイを見てしまった和行。その1週間後、彼の元に出てきたモノは……。
http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana/  こちらの日記にも絵を書いています。なお日記絵は描いている時の様子を見ることができます。アニメ塗りの講座に使えるかもしれません(笑)

2011-11-21 23:06:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:428   閲覧ユーザー数:426

 

 俺――浅川和行がそのブルーレイを見たのは、そう8月1日のことだ。

 

あの日、俺たちは大学の夏休みを利用して山間のペンションに泊まりに来ていた。

美沙が商店街の福引で温泉つきペンション1泊2日を当てたというので、俺、竜司、美沙のいつものメンバーで行くことになったのだ。

幼馴染3人ということで気楽な小旅行だった。

3人でカレー作り、男同士の裸の語り合い(竜司と二人で露天風呂に行っただけ)、温泉後の美沙も交えた卓球バトルコロシアム。

ペンションでの定番は押さえたつもりだ。

そんな折、俺はいつも見ていたアニメをそのペンションで予約録画したわけだ。

どうしてわざわざ録画したかって?

そりゃ美沙のヤツが

「は!? 旅行先でアニメ!? ありえない。却下」

その鶴の一声で禁止されちまったのだ。

けど「こいつのアニメ好きは今に始まったことじゃないだろ。録画くらいなら見逃してやれ」という竜司の理解ある言葉で無事録画だけはできた。さすが我が親友。

ちなみに深夜アニメだったのだが、その時間帯に美沙は既に爆睡していたことも付け加えておこう。

 

 

余談はさておき、問題はペンションから帰った後だ。

俺は家のパソコンで、ブルーレイに録画してきたアニメを再生した。

……だが。

そこに映されたのはいつもの見慣れたアニメじゃなかった。

 

井戸だ。

古びた井戸だ。

井戸から手が伸びる。白い手。女の手。

 

目が離せなかった。目が離れなかった。

 

暗転。

画面に一字、一字文字が浮かぶ。

『一週間後、お前は死ぬ』

 

ビデオは、終わった。

 

沈黙。

 

冗談だろ……?

これ…どこかで聞いたぞ…?

かなり昔のふざけたゴールデンの特番だ。都市伝説がどうのこうの、そんな番組。

――見れば死ぬビデオ――

まさかな。まさかだろ。あるわけねぇだろ……?

だが、今の映像から俺は本能的に感じ取っていた。

……『死』そのものを。

 

途端に電話。

鳴り続ける。

鳴り続ける。

取るしかなかった。

 

水が落ちるような音。うめき声。

俺はすぐさまその電話を切った。

 

 

「「はぁ~っ?」」

美沙のバイト先である喫茶ファミーユの4人掛けアンティークテーブル。

そこで幼馴染二人の素っ頓狂な声がハモった。

まるでネッシー目撃談を聞いたときのような反応だが、

「間違いない。あれは……呪いのブルーレイだった」

話している俺は至ってマジだ。

きょとんとしていた美沙だったがその口元が徐々にヒクヒクしていき、終いには

「あ~っはっはっは! 呪いのブルーレイだってっ! あははははっ! 呪いも時代とともに最新機材使うのねっ! あはは…ぐっ ゴホッゴホッ! む、むせ、むせたっ! 水っ!!」

ああ、わかってた、わかってたよ!

コイツがこういう反応するのは想定済みだった!

気分で幽霊を信じたり信じなかったりするような気まぐれなヤツなのだ。

っつーか、バイト上がりとはいえ店内で爆笑するなよ。

隣で爆笑するもんだから、美沙の揺れまくるポニーテールが腕に当たってなんともこそばゆいだろ。

当然ながら俺が相談したかったのは美沙ではない。

「ケーキ気管に入った…っ」とむせている美沙の様子にため息をつきながら、俺の向かいでブラックコーヒーを静かに口に運んでいるヤツに目を移した。

「竜司、どう思う? お前なら何かわかったりするんじゃないか?」

「呪いか」

 

――高山竜司。大学2年。

身長は180センチ、パーマがかかった髪に鋭い目つき。耳には小さなグリーンのピアスが光っている。Tシャツを着流しストレートのジーンズを履いているだけなのに無駄にクールに見える。

こんな見た目でも神社の跡取りなのが驚きだ。(本人は頑なに拒否しているが)

詳しくは知らないが結構腕の知られた鬼祓師(ものはらいし)らしい。鬼祓師とは、鬼(モノノケ)――いわゆる「憑き物」を祓う専門家だ。

俺たちと遊んでばかりで修行とは無縁の本人としてはそんな自覚はゼロのようだが。

俺も昔お世話になったことがあるんだがそれは置いておこう。むしろ置いておいてくれ。いい思い出じゃないからな。

こいつにさえ相談すればこの手のことは万事解決――

 

「アニメの見すぎだろ」

「お前は信じておこうよ!?」

それっぽくコイツの経歴を思い描いた俺が恥ずかしいじゃん!

「信じろと言われてもな」

面倒くさそうにボリボリと頭を掻いた竜司が俺の周りをじっと見つめた。『見えないモノ』を見るときの目だ。

「今のカズからは何の気配も感じない。何よりその呪いのブルーレイ(仮)もなくなったんだろ?」

「(仮)じゃない、見たんだって。まあ……デッキ開いてみたけどなくなっちまってた」

「ごほっごほっあはははっ、何、やっぱりそれってさ、最後は『――なお、このブルーレイは自動的に消滅する』とか言ってた? あ~っははははっブホッ!? ゲッほっゲほっ!!」

「美沙はもう話に割って入ってくんな!」

美沙は美沙で、女とはいえないほど悲惨なむせ方をしている。

もう放っておこう。あまりつつくと最終的にキレるからな、コイツは。

「はぁ……」

信じてもらえないってのはこんなに寂しいものなのか。

ショートケーキのイチゴを外し、残りのスポンジを口に放り込んだ。

その切ない心情を知ってか知らずか、

「少なくとも今のカズからは何も悪いモノは感じない。安心しておけ。オレが保障してやる」

「竜司……」

コイツがそう言うなら問題はないんだろう。

そう思えるだけの信頼関係がある。

「ごほっごほっ……! あー死ぬかと思ったっ!」

さっきまで咳き込んでいた美沙がグイとアイスティーを飲み干した。

「じゃあ、和行の呪い(仮)を吹っ飛ばすべく、カラオケにでも行きますか!」

「だから(仮)じゃねぇって!」

「はいはい、そーですね。あたしミクの新譜歌いたいんだ」

「俺のアニメ好きをどうこう言うくせに、そういうところは押さえてるのな」

「ミクはいいのっ! さ、行きましょ。あ、いただきっ」

「ちょっ!? 最後に食べようと思ってたイチゴーッ!!」

「ったく、お前等は……」

 

 

最初は気になっていたあのブルーレイだが、いつもと変わらない日常を繰り返すうちに嘘のように思えてきた。

あの出来事は白昼夢かと思い始め、それさえも記憶から薄れていった。

 

 

その時までは。

 


 
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