開けてはいけない扉
その扉を開けたとき、そこにいたのは許子将さん?
「あなたは・・・・・許子将さん!?」
許子将さんが小さく頷く
「久しいな若いの」
許子将さんと出会ったのはずいぶん前の話になる
この人が大局に逆らうなと教えてくれたんだ
「どうしてここにいるんですか?天和たちはどうしてこんなことになっているんです!」
今は許子将さんより天和たち三人が心配だ
俺は天和たちがどうなっているのか問い詰めた
けれど許子将さんは天和たちに見向きもせず
「大局に逆らえば身の破滅。なぜ大局に逆らい続けるのじゃ」
「逆らい続けてこの身は一度滅びましたよ。だけど、俺はここにいます」
許子将さんの目が、かっと見開きこちらを睨む
「それはそうじゃろう、破滅はその後に始まったのじゃからな」
「後に?ならどうして俺は消えたんですか」
許子将さんが杖を突きながら窓際に向かって歩き始める
外はすっかり夜になっていた
空は雲ひとつ無く、漆黒の暗闇と、炎上する城の炎だけが不気味に揺れている
「おぬしは消えてなどいないよ、むしろ消えるべきであった」
消えるべきだった?
「大局とは何であるのかのぅ」
「大局は、俺の知ってる歴史のことでは・・・・」
許子将さんはあきれ気味に
「おぬしの知る歴史が大局で、その歴史から外れきったから存在が消えた、か。なら聞くが、貴様の知る曹操は女子だったのかのぅ」
「うっ・・・・・」
「貴様の知る三国志に真名などあったかのぅ、それでも歴史が繋がると思うたか?」
そうなんだ
俺の行動なんて関係ない
この世界が俺の歴史に繋がるなんてありえない・・・・
「3度も戦乱の世を生き抜いたおぬしのことじゃ、大局が何であるか、気づいておるのではないか?」
「えっ」
3度?
俺は3度も戦乱を経験している?
「この世界から存在が消滅しようとした時、おぬしは消滅することを受け入れなかった
そこでおぬしは新しい世界を作ったのじゃ。呉にめぐり合う新しい世界を」
「世界を作った・・・・・」
「さらに、呉の運命を受け入れられなかったおぬしは再び新しい世界を作った。蜀とめぐり合う世界を」
「蜀に、俺が・・・・」
「蜀で安らぎを見出したおぬしは世界を終端へと導くはずじゃった。しかし、魏とめぐり合う世界だけが消滅しておらんかった
終端がなく創造主もいない魏の世界は不安定な状態のまま2年以上も放置されてしまった。これがどれほど危険なことであるか分かるまい」
「創造主である俺をあなたが秋蘭を使い呼び戻した・・・・・」
「そうじゃ、この世界の終端を迎えるために」
「終端・・・・・まってくれ、この世界が終端を迎えたら、華琳は、春蘭は、秋蘭は、皆はどうなる?どうなっちまうんだ?」
「当然、おぬしと共に消えてなくなる」
「そんなこと受け入れられるか!!」
俺がどうなるかなんて問題じゃない
華琳達が消えてなくなるなんて・・・・・・
許子将さんは俺がこう答えるのも予想していたように
「そうであろう、だから曹操と共謀しこの大乱を起こしたのじゃ」
「この大乱を・・・・・・・・・まさか」
「この大乱は・・・・・恋姫全員を排除するための戦いじゃ」
華琳達の消滅を望まない俺は終端を受け入れない
なら方法は一つ
物理的に華琳達を排除してから俺に終端を受け入れさせる
それがこの戦争の理由
「そのためにみんなが戦ってるってのかよ・・・・・殺しあうためだけに・・・・・」
「避けれる道ではないからのぅ」
「もし・・・・もし俺が終端を受け入れなかったら・・・・・・どうなるんだよ」
「これをみよ」
許子将さんは部屋の奥、張三姉妹の光が向かう先を杖で指した
そこには1メートル四方の木箱が置いてある
「その木箱をどけてみよ」
俺は木箱に向かった
部屋の嫌な空気はその木箱から漏れ出していた
木箱に近づくたびに嫌な汗があふれ出す
木箱に手を掛け、意を決した俺は一気に木箱をあげた
「こ、これはっ!!」
そこにあったのは一冊の本
そして、その本の後ろには60cmほどの長さの亀裂が見える
その亀裂の後ろにはなにやら不気味な気流が蠢いていた
「絆創膏?」
「うむ、なかなかうまい例えじゃ。その本は太平要術の書、そしてその亀裂は、世界崩壊の兆し」
「これが、世界崩壊の兆し・・・・・」
許子将さんは窓の外の暗闇を見つめ
「最初に亀裂に気づいたのは曹操じゃった。曹操はすぐさまわしを呼び寄せ対策を練った
そして、一時的に食い止める方策をわしが進言したのじゃよ」
「その方策が」
「ふむ、張三姉妹を生贄とし、太平要術の書で亀裂の増大を抑える策じゃ。他に方法はなかった」
「天和たちを起こしたらどうなるんだ」
「張三姉妹は太平要術の書を暴走させないための制御の役割をしておる。三姉妹を起こし制御を失った書は、亀裂から発する負の力を吸収し続け
やがて負の力が暴走し、世界が消滅するほどの大爆発を起こすであろうな」
「じゃあ、天和たちは」
「残念じゃが。もう起こすことはできぬ」
「そんな・・・・・」
これが、華琳の言っていた罪なのか
強いめまいに襲われ、その場で両膝を地面につき蹲ってしまった
「話を戻そう。大局とは何であるか、感づいていたのではないかのぅ」
俺は言葉も出せず
ただ首を横に振るだけだった
「ふむ、ならばあれを見よ」
許子将さんが杖で空を指し示す
そこには大きな満月が浮かんでいた
「満月・・・・・」
「よ~~く目を凝らしてみよ。あれは本当に満月かのぅ」
言われるがままに目を凝らして満月を凝視した
どこからどう見ても満月だ
「満月にしか見えない」
「・・・・・これならどうじゃ」
許子将さんがそう言うと杖をすぅーと横に振る
すると
「満月が二つ?」
「これならどうじゃ、あれは満月か?」
「満月が二つ・・・・満月が・・・・ううっ!!」
突然強い頭痛に襲われ、頭を抱えうめき声を上げた
「ぐっ・・・ウウウウ」
「よく見るのじゃ、あれは満月ではない」
「満月じゃない、あれは・・・・」
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許子将に告げられた悲しい運命