No.336162

双子物語-17話-

初音軍さん

過去作より。高校生編。二人は分かれて別の道へと向かう。雪乃は新しい出会いを、彩菜は自分を見つめなおすことを体験することになる。

2011-11-18 16:31:20 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1045   閲覧ユーザー数:433

【第2部】

 

 新幹線で目的の駅で降りて地図で確かめながら目的地に行こうと、タクシーを捜す。

場所が遠いので歩いてはいけないのだ。時間は少し早めで入学式そうそう遅れるわけには

いかないからだ。バッサリ切りすぎたせいか、首の後ろがスースーする。

 入学式はとりあえず、中学の制服を着ながら出席して。その後、教室で受け取る

予定となっている。しかし、お嬢様学校ではないにしろ、けっこうしっかり教育している

せいなのか、見事に黒髪の生徒が集まっていた。わざとではないが、自分の白髪が少し

気になってしまう。

 いきなり弱音を吐いても辛くなるだけなので、少し前向きに切り替えることにしよう。

全てを整理するためのため息を一つ吐いてから進もうとしたら後ろから声をかけられた。

 

女性「君も新入生か?」

 

 胸元の変わったタイがついている制服を着ている女生徒が呼びかける。髪のことを

言われるのかと思い、その時のための「地毛です」というのを用意していたが、彼女が

言いたいことはそういうことではなかった。

 

女性「そろそろ時間が近づくけど大丈夫?」

雪乃「へ?」

女性「もう、みんな行っちゃったよ」

雪乃「あっ…!」

 

 気づけば私はその生徒さんと二人きりで他には誰もいなかった。しかも後をついて

いけばいいやと気楽に考えていたからまた調べないといけない。そう思った矢先に

私の手をその人が優しく手にとって歩き始める。

 

女性「案内するよ」

雪乃「あ、ありがとうございます…」

 

 初対面だけど、なんだかいい人っぽい気がするが。でもまだどんな人かわからないから

警戒しておかないと。いきなり体育館裏まで連れていかれて「何髪染めてるんだよ」とか

になりかねないし。そんな、無駄な想像をしながら歩いていると向こうから声をかけて

きた。しかもすごく楽しそうに。

 

女性「ここではね、下級生は先輩たちのことをお姉さまって言わなければいけないんだよ」

雪乃「そんな、どこぞの女性向け文庫じゃあるまいし」

女性「少なくとも私は言ってるなぁ」

 

 じゃあ、この人のこともそう呼ばなきゃいけないのだろうか。いくらなんでも初対面

で嘘は言わないだろう。それで、質問ついでに「お」まで言った辺りから遠くから

走ってきた他の女子が、私の隣の人に声をかけてすごい速度で走り去っていった。

その時の台詞が。

 

「先輩、先に行ってます!」

 

雪乃「違うじゃないですか」

女性「ちっ、もう少しで聞けるとこだったのに」

 

 あぶないあぶない。もう少しで恥ずかしい思いをするところだった。そんな私の顔を

見てニヤニヤしている。なんて意地の悪い先輩なんだ。こんな人たちがいると思うと

後々大変なことは目に見えている。こんなとき、彩菜がいてくれれば。そう思っていたら

ハッと気づく。

 痛い思いをさせて、何を今更。向こうも悪かったけど、私もやりすぎた気がするし。

もう、許してもらえないだろうか。テンパっていたからなんか暴言も吐いていた気がする。

思い出したら憂鬱な気分になってきた。そんな私を見ていた先輩はさっきのことで

 気分を害したと思ったのか、慌てて謝ってきた。

 

女性「ごめんごめん、そこまで気にするとは思わなくってさ」

雪乃「別に、さっきのこととは違いますよ。それより、場所案内してください」

女性「クッ、いいよ。行こう行こう」

 

 何、その含み笑い。何か私は変なことを口走ったのかな。でも、その後何事もなく

質問に聞かれたことを返していたら、桜並木が見えてきてそのすぐ近くが私の通う

学校だという。ちなみに、質問されていたのは外部の生徒とか至って普通のことだ。

 というか、道がわからない時点で外部の人間ということはわかることだろう。

ここは、中高大と繋がっているから内部だったらよほどの方向音痴か認知障でない

限りは毎日通うのだから間違いようがないのだ。

 校門まで辿り着くと手を離してお礼を言ってから目的の場所まで行くのが

セオリーだが、私はその手順のうちで相手の顔を見た後に少し予定がずれる。

なんと、目の前の女性は口をタコのように尖らせて私に迫ってくるではないか。

私は冷ややかな目で彼女を見ると、とりあえず早く行かないと、という気持ちが強く

なり頭を下げてお礼を言った。

 

雪乃「ありがとうございました。では、私はここで」

 

 そう言ってやや強引に手を離してからしばらくして振り返るとその先輩は口を尖らした

まま呆然としていたのを見て思わず笑みがこぼれてしまった。変な人だと印象がついて

しまったのだった。

 そうして、特に中学と変わりなく入学式が終わり。連れていかれた教室内で寮に住む人

とそうでない人はそれぞれの行動に別れ、私も住む方の行動をとっていく。配られた

教科書をしまい。先生に案内された、学校から少し離れた敷地内なのかどうかよく

わからない場所に少し古びた、だけどどこか豪勢な外観の寮が見えた。

 最初、それを見た周りの生徒たちが驚きと感動の声を上げる。私も、まるでどこかの

話に出てきそうなロマン溢れる外観に少し驚きはしたが、そこまで乙女ではない。

もう、宅配便が来ていたのか指定された部屋に案内されていたときにいくつかの

ダンボール箱が置いてあった。ベッドが二つある辺りここは二人部屋なのだろう。

 せっかくだから、新たな出会いに思いを馳せるのも一興だろうが今はこのダンボールを

片付けることを優先させよう。同じく、隣のベッドの近くにも私と同じようなものが

置いてある。相手も外部だったら同じ境遇だろうから安心できる。

 …まぁ、性格までは安心かどうかわからないけどね。渡された制服をとりあえず

着てみることにする。制服は二重になっていて上がセーラーカラーに引っ掛ける型の

タイがついていて真ん中の装飾に十字架がついている。そして、裾にはひらひらが。

下の方はワンピース型になっていて上下が繋がっている。上のは白が基準で下が

黒と緑が混ざった色合いになっている。下の長さは今時珍しい膝が出るか出ないか

くらいの長さ。靴はどこの中学高校で使われているローファーと普通の上履き。

制服の予備も確認済み。そして、最低限の私物も片付けてなんとかすっきりした。

 ダンボールは畳んでベッドのしたにでも置いておいた。そして、その後不意に

ドアが開き、私は振り返るとその人は一言。

 

生徒「あっ、天使がいる」

 

 なんだかまた変人のニオイがしそうな人だと思った。

 

・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 いつも隣にいるはずの雪乃がいない。もう、それだけで世界が滅亡したくらいの

気持ちで入学式の準備をしていると、ママが髪を梳きにきた。どうやら、まだやって

いないことが多かったようだ。どうでもいいけど。

 

菜々子「こらっ、しっかりしなさい。雪乃が呆れるよ」

彩菜「だってぇ、別に見られてないしぃ~」

菜々子「全く、ここまで放心するのは予想外だわ」

 

 呆れるママ。しかし、それも当然。できれば見送りたかったのに、わかったのは

見送った後にそのことを聞かされたのだ。完全に嫌われてると思った私は携帯で

メールの一つも送りたかったが、送れないでいた。嫌われていたときの場合のことが

怖いのもあるが、気持ちが一段落ついてからと言うママの言葉で自粛しているのだが。

 

彩菜「もう、雪乃分が足りないよう」

菜々子「そんな栄養分はありません、さっさと出る」

彩菜「は~い」

 

 だらけたからって、雪乃が戻ってくることはないのはわかるが。全然やる気が出ないの

だからしょうがないのだ。だから、せめて歩くことだけに集中していくことにする。

場所は中学からそう遠くないし、道順はほとんど変わらないので迷いはしない。

 しかし、一人と二人ではこんなにも歩いているときの時間が違うものかと驚く。

なんだか背後から雑音が聞こえる気もするが気にせず歩くことに集中していると

背後の雑音から突っ込まれる。

 

大地「おい、返事くらいしろよ!」

彩菜「あ~。やぁ、ヘタレ野球部員」

大地「入学式早々、喧嘩を売るのはやめてくれないか?」

彩菜「だるい、もうめんどい、しゃべるな」

大地「ひどい…!」

 

 マジで大地なんかに構っている気力がないのだ。そこのところわかってくれと

心の中で呟く。すると、今度はあまり見ない顔の可愛い女の子が目の前に立ちふさがる

ではないか。そして、馴れ馴れしく私に声をかけてきた。

 

女子「お久しぶり、元気してた、彩菜」

彩菜「だれ?」

 

 まるでマンガでショックを受けたかのようなポーズで固まる女子。ふざけてるなら相手

しないと歩き始めると、すぐさま追いかけてきた。本当に悲しそうな顔をしている

からしょうがないから相手してやることに。

 

女子「ひどいよ、私のこと忘れたの!?」

彩菜「え?」

女子「春花だよ!東海林って書いてしょうじ!東海林春花!」

彩菜「春花…、ああっあの春花!?」

春花「ああっ、思い出してくれた。よかったぁ・・・」

 

 本当に心底安心したのか、少し涙目でホッと胸を撫で下ろしていた。本気で心配だった

ようで、悪いことしたとは思うが。心が空っぽな私には大した反応はできなかった。

 

彩菜「久しぶり…」

大地「いやぁ、懐かしいね。可愛くなっちゃって」

春花「大地に言われても嬉しくない」

 

 ここでも邪険にされるとさすがに少し哀れに思えてくる。大地くんはショックのあまり

固まっていたが構わず春花は私にじゃれついて、腕に自分の腕と絡めてくる。

 

春花「元気ないけどどうしたの?」

彩菜「別にぃ」

春花「それに雪乃の姿も見えないし」

 

 すると、見えないなにかが私の心臓を貫いたかのような痛みが走ったような気がした。

春花は知らないとはいえ、けっこうきつい一言。私の表情を読んで、春花も暗くなる。

ようやく空気を読んだかとホッとすると。

 

春花「そうか…体弱かったもんね。でも、いつでも彩菜のことを見守ってると思うよ」

彩菜「勝手に殺すな…」

大地「実はね、かくかくしかじか、なんだよ」

 

 本当に便利だな、その言葉。そして大地の言葉により春花はさっきよりもショックを

受けていたみたいだ。

 

春花「えっ、なんで。まさか雪乃を襲っちゃったとか!?」

彩菜「ぐぅっ・・・!」

 

 私の反応を見て二人は目を合わせてほぼ同時に同じ台詞を私に浴びせた。

 

二人「マヂで!?」

彩菜「さぁ、そんな話はやめて。学校行くよ!」

 

 初っ端から嫌な気分で新しい学校へ行くことになってしまった。ことの詳細を

知っているのは家族だけだから、だと思いたい。ママは割と信頼できると思う人

には知らせていそうだから性質が悪い。こういうことは内緒にしてほしいものだ。

 

春花「ムラムラしたなら私が相手するのに!」

 

 変なことを言う春花を無視しながら早歩きで距離を広げていく。まぁ、広げた

ところで同じ学校で同じ学年なのだから合わないということはできないのだが。

いつの間にか大地もまいてしまったらしく、一人になっていた。余計なことを

言う人がいないのはいいのだが、やや心許無い。そうか、一人で登校するという

のは初めてだったと、今気づいた。いつもは隣に雪乃がいたから。

 気配を感じた右側にはその愛しかった存在はいない。私が心配するのは

どうかと思うが、誰もいない場所でちゃんとやれているのか。少し、いや。

私は大分気になっていた。

 

・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

雪乃「天使…、何?」

 

 なんだか現実ではなかなか聞きなれない言葉を投げかけられ戸惑う私に入ってきた

メガネの少女が私を見ながら少しぼ~っとした後に目をきらきらさせて近づいてきた。

 

女子「私、同室の羽上瀬南といいます」

雪乃「あっ、どうも。澤田雪乃です。ええっと、ハガキさん?ハミガキさん?」

瀬南「ハガミやて」

 

 少し発音が違う気がする。もしかして、関西の人かな。なんか、ツッコミ好き

そうだし。いや、それは偏見というものか。しかし、さっきから私を見る目が

王子様を見る女の子のようなもので見られてる気がする。気のせいか?

 

雪乃「あの、羽上さん?」

瀬南「ああ、私のことは瀬南でええよ。私も下で呼ばせてもらうわ」

雪乃「ええっ…」

瀬南「で、なに?」

雪乃「え?」

瀬南「聞きたいことあるんちゃう?」

雪乃「ああ、なんで私のことジッと見てるのかなって」

 

 さっきからチラチラ目が合うから言いたいことでもあるのかなと思って気になるから

聞いてみた。よくても悪くても知った方がモヤモヤしなくてすむから。すると、向こう

の瀬南さんは。

 

瀬南「ああっ、いや。人間美しいものを見るときはじっくり眺めるやん?」

雪乃「まぁ、うん」

瀬南「それと一緒」

雪乃「はっ?」

 

 どうやら好意を持たれてるのはわかった。それは普通に嬉しいがなんだか彩菜

の言葉を聞いているみたいでくすぐったい。思えば彩菜以外で褒められた?のは

初めてかもしれない。しかし、なんか引くわぁ。

 

瀬南「あれ、もしかして引いてる?」

雪乃「うん」

 

 思わず本音が漏れた。すると苦笑しながら瀬南さんは私とは反対側のベッドに

座って真剣な眼差しで私を見つめた。

 

瀬南「ごめんな。でも、思うのは私の勝手やんな?」

雪乃「そこは冗談であって欲しかった」

 

 私が言うとじわじわと心に笑いがくすぶっておなかで笑っていた。声に出すほど

ではないが、神経張っていたのが少しほぐれたような気がした。

 昔から友達を作るのは苦手中の苦手だったが、この調子ならどうにかなるかも

しれない。その後、彼女は学校の内容が書いてある紙を広げて立ち上がった。

 

瀬南「せっかくだし、一緒に学校見学といかへん?」

雪乃「ああ…」

 

 そうだった、ここに来るまでの間に目を通しておくはずだったけど電車内では寝て

ここに着いてからはドタバタ続きでろくに読んでいなかった。瀬南の申し出は私に

とってありがたいことであった。

 その前にここは寮である。寮の規則と概要を先に確認しておくのもいいかもしれない。

私はそのことを彼女に告げるとその子は快く頷いたので私たち二人は部屋を出て

廊下を歩き出した。ここの寄宿舎はそれなりの年数がいっている。小奇麗にはなって

いるが、床を踏み出すたびに小さくキシキシなっているのがわかる。

 窓の外はどこからでも見えるように植えてある大きい木がある。途中で顔を合わせた

生徒からは、春のちょうどいい時期になると綺麗な桜の花が咲くみたいだ。

今年は天気が落ち着かなかったので、早めに散ってしまったのだろう。

 大きめの屋敷くらいはある、この寄宿舎には中等部と高等部の子が入ってこれるように

なっていて、主に外から入ってきた生徒専用となっている。事情などによっては

家が近くにあっても入れるらしいが、基本家からの登校の方が気は楽ではないだろうか。

 一階の広間は食堂になっていて、愛想のいいおばちゃんが顔を出してくれた。

どうやら仕込んでいるようで少し忙しそうだ。新入生と聞かれて私たちは「はい」と

応えて、適当に世間話をしてからぐるっと回って入り口に辿り着いた。

 

瀬南「広いから覚え辛いなぁ」

雪乃「そう?結構単純だから私はある程度は覚えたけど」

 

 後は、まだ見ていないけど大浴場とかあるらしい。そして、靴を履いて歩いて10分

くらいかけて学校に着くと生徒の数は半分くらいまで減っていた。部活に勤しんでいる

生徒だけ残っているのだろう。その時、不意に肩に手をかけられ変な声を発してしまった。

 

雪乃「ふやっ…!?」

声「ふやっ、だって。ははは」

 

 振り返るとそこには朝世話になった生徒さんが腹を抱えて笑っていた。どこがそこまで

ツボに入ったか不思議だった。

 

雪乃「で、何かようですか?」

女性「いやっ、新入生だろうし、案内してあげようかなって。それと、自己紹介も

  まだだったし」

雪乃「はぁっ…」

 

 瀬南の方を見ると、私と同じようにやれやれといった表情で目を合わせて

再び視線を戻す。なぜか女性は自信満々に胸を張っていた。よく見れば

黙っていると良い感じの黒髪美人だなとは思えた。よく手入れされた長い

ストレートの髪の毛はとても綺麗だったが、その態度で+-0な気分である。

 

女性「私は生徒会の副会長をやっている黒田美沙よ」

雪乃「はぁ、私は澤田雪乃です」

瀬南「同じく、一年の羽上瀬南といいます」

 

 私たちの普通のテンションの挨拶が意外だったのか、少し動きが固まった後

とても不思議そうに私たちを見ていた。

 

美沙「この私に普通の態度でいられるなんて面白いわ、あなたたち」

雪乃「何様ですか」

美沙「こう見えて私にはファン倶楽部なるものがついているんだけど…」

 

 言い終わる前に遠くから地響きのような音がしたかと思えば私たちの背後から

黄色い歓声が徐々に大きく聞こえてきたものだから、私は危険を察知してすぐに

避けるように動くと直後に横を突進してくる女子生徒の群れがいた。

 先輩と思える生徒は私が避ける前にわかったのかすぐに走って逃げていたのだ。

群れが通っている間は「きゃーっ、ミーシャせんぱーい」という言葉がずっと

聞こえていた。静かになったときには瀬南と私以外誰もいなかった。

 

雪乃「マンガか」

瀬南「ナイスツッコミ」

 

 こういう光景を見ていると創作物もあながち誇張ばかりではないということが

わかってしまったのだった。わかりたくもなかったが。なんか、色々ありすぎて

少し疲れてきた。それから、校内をうろうろしていて目新しい発見があったのは

購買所と学食、温室等。前にいた学校にはないようなのがちらほら見えたが

基本は同じようなつくりとなっていた。

 

瀬南「こんなもんかな」

雪乃「そうね」

 

 寄宿舎に向かって歩いていたとき、瀬南が先頭で歩いて私は少し斜め後ろで歩きながら

ふと、瀬南に声をかける。振り返る瀬南に私は自然と出た笑み浮かべて。

 

雪乃「今日はありがとね」

 

 素直に言葉を伝えた。

 

雪乃「慣れていない場所だったから瀬南がいてくれて助かったよ…ってどうしたの?」

瀬南「え、ああ。なんでもない」

 

 少し顔を赤らめてすぐに瀬南は顔を逸らしてしまった。何か悪いことを言っただろうか。

コミュニケーションが苦手な私はよくわからず首をかしげた。すると、うっすらと

聞こえる言葉で瀬南が呟いた。

 

瀬南「その笑顔、反則やわぁ」

 

・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

入学式も簡単に終わり、教室に入ると二度あることは三度あるって言葉は本当に

あるんだなぁって思った。いやいや、最初を入れると四度か。そう思うのも目の前に

 おなじみの県先生がいたからだ。

 

県「静粛に!私もこの高校に入るのは初めてで君たちと同じ一年生の宵町県だ。よろしく」

 

 満面の笑みを浮かべてそう説明をする先生。いや、私たち以外は確かにその通りなの

だろうが、大地もまたかと苦笑いをしているみたいに私も苦笑するほかないのだ。

以前のテンションならばここは喜ぶところなのだろうが、今の私は素直に喜べる状況

になかった。自由行動に入ってからは私を積極的に誘ってきて校内を見て回った。

 その時に知ったのは給食がなくなったことが一番印象にあって、昼には弁当を

持参したり、学食で食事するというもの。他は対して変わっていなかったので

印象としては薄い。学校のつくりなんて大体同じなので説明する気もない。

 

県「みんな、どこか部活はいるのか?」

大地「俺は野球部に」

春花「私は彩菜と同じとこに」

彩菜「私は…」

 

 少し言葉に詰まってから仲良し組みに告げると、多少なりとも驚いたのか反応に

困っていた。私はこう言ったのだ「私は、どこにも入らない」と。

 

 


 
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