No.335332

School days 2

ないるさん

南葛中学1年生の井沢君のお話

2011-11-16 17:40:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3379   閲覧ユーザー数:784

School days 2

 

 

 

南葛中に入学して、早二ヶ月――――――。

 

 

 

学校生活に関しては、すっかり馴染んだ井沢だったが、肝心のサッカーに関しては、正直、フラストレーションが溜まっていた。

 

 

というのもこの2ヶ月、ゲームはおろか、サッカーボールにまともに触れることも出来ない状態が続いていたからだ。

ライン引きや、ボール磨き等が主な作業で、その裏方の仕事が終わったと思ったら、

あとはひたすらランニングと筋力トレーニング。

 

 

 

公立の中学の風習なのか、ここは完全な縦社会であり、

中学一年生の井沢達は、いくら小学生時代に、全国大会に優勝した輝かしい実績があっても、まずは先輩達のサポートをしなければならなかった。

 

 

 

サッカーボールを蹴る先輩を横目に、ひたすら筋トレに励む毎日が続いていた。

 

 

 

 

********

 

 

 

 

「はぁ…つまんね。サッカーやりて~!!」

 

 

部活帰り、来生がついに想いの丈をぶちまけた。

 

仲間達皆が、同じ想いだった。

 

 

 

「愛しのトモダチと触れ合えない、この辛さ。わかるだろ?翼。」

 

 

翼に同意を求める。

 

 

「うん…、基礎体力作りも大事なのはわかるけどね。やっぱりサッカーやりたいね!!」

 

 

そこは翼も同じ想いだったようだ。

 

 

 

 

井沢は、そんな翼を見て、何故だかそれがとても嬉しく思った。

そして皆にウインクしながら、思わず提案する。

 

 

「んじゃ、久しぶりにやりますか?」

 

 

「おう!」

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

そうして、河原のわずかなスペースで、ミニゲームが始まった。

基礎トレーニングで身体は疲れているはずなのに、そんな事をすっかり忘れて、日が暮れるまで、みんな夢中でボールを追った。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…。やっぱ、サッカー楽しいな!」

 

「うん、試合出たいな~。」

 

「ぜぃ、ぜぃ…、やっぱ、ゲームだよな!!」

 

 

 

 

全力でボールを蹴り合った後、河原に座り、暮れ行く夕陽を見ながら、自然と皆が自分の想いを口にし出す。

 

「だいたい、一年だからってだけで、まともに練習させてもらえないって、おかしいよな。」

 

「そうそう、ぶっちゃけテクは俺等の方が上じゃね?」

 

「だよな!たいした事ね~って思ったぜ!」

 

 

 

「いやいや、オマエに言われる筋合いは無いって!」

 

 

 

全員に突っ込まれる、石崎であった。

 

 

 

 

「オレ、しばらくしたら、監督に直談判しようと思う。」

 

 

そんな中、唐突に翼が呟いた。

 

 

 

「え!?直談判って何を?」

 

 

皆一斉に、翼を見る。

 

 

 

 

「何をって…、皆が今言ってた事だよ。一年だからって試合に出れないのは、おかしいって。」

 

「バカっ!!やめろよ!そんな事言ったら、お前殺されるぞ!!」

 

 

皆慌てて、翼を止めにかかった。

 

 

 

 

 

先程は、デカい口を叩いていたが、実際一年からスタメンで出るなんて、不可能だってわかっていた。

中学生は1番身体が成長する時期だ。

中学1年と3年では、身体の大きさも強さも違い過ぎる。

競り合った時に絶対にまるで歯が立たない。

 

そして、何より生意気な事を言って、先輩に目を付けられ、集団リンチにでもあったら―――――。

 

 

そんな皆の心配をよそに、大空翼というサッカーバカは、簡単にそれを飛び越えて行く。

 

 

 

 

「そりゃ、お前だったら3年にも勝てるだろうけど、サッカー以外で大変な目に合っちまうかもよ?」

 

「でも…。」

 

「そうだよ、翼。やっぱり先輩は立てとかないと。」

 

 

来生・滝が説得するが、それでも翼は首を縦に振らない。

 

 

 

 

「でもオレ決めたんだ!!中学の試合は全部出る。そして全部勝つって!!そして、中学を卒業したらオレ、ブラジルに留学するんだ!!!」

 

そう言って、翼は仁王立ちし強い眼差しで、夕陽を見た。

 

 

 

「翼…、お前まだ諦めてなかったのか。」

 

 

 

 

南葛SCのメンバーは皆知っていた。

翼は全国小学生選抜大会で優勝したら、ロベルトと一緒にブラジルへサッカー留学をするはずだった事を。

 

 

 

 

――――――だけど、それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

ロベルトは翼を置いて、単身ブラジルへ帰ってしまったのだ。

 

 

泣き叫ぶ翼を見て、流石に酷いと思った。

 

 

その後、あまりのショックで、しばらくサッカーも出来ない状態だった翼を、皆で励ましたな…。

 

 

 

 

 

 

井沢は、翼の横顔を見ながら、そんな事を思い出していた。

 

 

まだ、半年前の出来事なのに、翼は立ち直り、自分の力で夢を掴み取ろうとしている。

 

 

 

(そんな彼に比べて、自分はなんなんだろう?)

 

 

 

井沢はふいに自分のことを考えた。

 

 

 

(そりゃ、オレだって将来はサッカー選手になりたい!と思ってる。

だけどその為に、単身ブラジルにサッカー留学するなんて、できるか!?

 

・ ・・ダメだ。自分にはとても出来ない・・・。)

 

 

 

 

自分と同じ歳の翼は、既にはるか彼方、地球の反対側のブラジルを見ている。

 

 

 

そして、世界を――――――。

 

 

 

 

(若林さんも、そうだったんだろうな…。)

 

 

 

 

やはり彼らは、自分とは違うのだ。

 

 

凡人と天才との違い―――。

それを認めたくなくて、目を背けてきたが、いま、この瞬間、

それをまざまざと見せ付けられてしまった。

 

 

 

きっとこの先、彼らとの差はどんどん広がって行くのだろう。

 

 

 

明日、明後日と―――――― 。

 

 

 

 

(この太陽が沈まなければ良いのに・・・。)

 

 

今日の夕暮れを、とても寂しく感じた井沢だった――――――。

 

 

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

シリアスな展開になってまいりました。

 天才・翼との溝を思い知る、井沢少年12歳――――。


 
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