No.334952

真・恋姫無双~君を忘れない~ 六十四話

マスターさん

第六十四話の投稿です。
激突する益州軍と南蛮軍。南蛮軍の持つ兵士に一刀たちは苦戦を強いられてしまうが、天才はわわ軍師こと朱里が逆転の策を提案する。そして、その中で敵の思惑が徐々に明らかになるのだが……。
今回もひっそりと投稿。いつも以上に駄作なのはスランプが原因です。誹謗中傷は控えて頂きながら、御覧ください。どうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

続きを表示

2011-11-15 17:30:03 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7071   閲覧ユーザー数:5306

一刀視点

 

 翌日、俺たちは祝融を追って軍をさらに進めた。二日目ともなると茂みを掻き分けて行軍することにも慣れてきて手際よく進むことが出来た。木々を断つ先遣隊と、斥候を別々にして放ち、祝融たちの行方を探った。

 

 しばらくそうしていると、放った斥候からこの先に開けた場所があり、そこに南蛮族が集結しつつあるという報告を得た。

 

「お館様、おそらく祝融はそこにおります。準備は宜しいですな?」

 

「大丈夫です。朱里、策を説明してくれ」

 

「はい。敵は完全に地の利を得ています。長期戦になると、それだけ敵が有利になりますので、速戦にて決したいと思います」

 

「分かった。斥候からは兵力の報告はあったよね?」

 

「はい。現在、四万程の兵力で、未だ続々と集まっているようなので、今の内に一撃を加えて、敵の威を殺ぐのが賢明かと」

 

「よし、それで行こう。先鋒は愛紗、後詰めに桔梗さんと紫苑さんが弓兵を指揮して、敵の出鼻を挫く。そうしたら、速やかに兵を返して、敵の様子を窺おう」

 

「御意っ!」

 

 一晩明けてしまっていたけれど、どうやら敵の軍備は完璧に整っていないようだった。南蛮族は確か部族ごとに行動しているというから、祝融が孟獲から指揮権を譲渡されたところで、彼らを一つの場所に集めるのには時間がかかるのだろう。

 

 しかし、朱里の言う通り、速戦で終わらせてしまわないと、相手は広大な大地に住む南蛮族だ――その総兵力は未知数であり、四万を超えても尚、続々と集まっているということが、彼らの地力が如何に計り知れないかを表している。

 

 俺たちは精強である自負はあるが、率いている兵は五万に過ぎない。相手の兵力が正確に分からない以上、殲滅作戦を選択することは愚策であると考えた方が良いだろう。

 

 南蛮族が祝融の指揮によって集団行動をしているとすれば、その祝融さえ倒してしまえば、統率を失い、戦闘不能にすることが出来るかもしれない。すなわち、俺たちの勝利条件は祝融を倒すことにあるのだ。

 

 愛紗、桔梗さん、紫苑さんに一万ずつの兵を与えて、敵が集まっているというところに向かわせた。残りの者は俺たちと共にその後に従った。

 

 兵を進ませてしばらくすると、報告通り、森を抜けて、開けた場所が見えてきた。そこには確かに多くの南蛮兵の姿があった。

 

「関羽隊、突撃するっ! 私の後に続けっ!」

 

「厳顔隊、援護射撃用意っ!」

 

「黄忠隊も続きなさいっ!」

 

 まずは愛紗が先頭に立ち、敵陣へと突撃の構えを見せると、桔梗さんと紫苑さんがそれを援護すべく兵に一斉掃射の命を出した。

 

 まずは弓矢にて敵の動きを封じ、そこに愛紗率いる歩兵が突っ込むということなのだろう。桔梗さんと紫苑さんが率いる弓兵ならば、敵の嫌がるところに正確に矢雨を降らせることが出来るだろう。

 

「放てっ!」

 

「放ちなさいっ!」

 

 二人の号令と同時に兵士たちが矢を放った。

 

 雨霰と降り注ぐ弓矢は――さすがは益州が誇る名手だけある二人の正確な指示通りに、南蛮軍の前衛に向けられた。それを喰らっては、さすがの南蛮軍も手も足も出ないだろう。

 

 避けようと各自が動いてしまえば、その後に続く愛紗たちの突撃に晒され、かと言って、避けようとしなければ、弓矢の被害を受ける。防ごうにも、見たところ、彼らは盾らしきものも持っていないのだ。

 

「よしっ! 本隊も続くぞっ!」

 

 このまま一気呵成に攻め立てて、痛烈な一撃を加えるべきだと判断し、兵士たちにそう告げた。朱里もそれに賛同したようで、ちらりとそちらを見遣れば、笑顔で頷いていた。

 

 弓矢で混乱したところに、愛紗の猛然たる突撃、さらに本隊もそれを続けば、確実に緒戦を制すことが出来る。戦において、緒戦を制せば、その後の大勢も優位に進めることが出来るだろう――と、そう思っていた。

 

「御主人様、待ってっ!」

 

 俺に制止の声をかけたのは桃香だった。

 

「どうした?」

 

「あれ……、見て」

 

 桃香の指し示す方を見て、俺も言葉を失ってしまった。

 

 南蛮軍は降り注ぐ弓矢に対して、一切の防御態勢を布いていなかったのだ。避けるでも受けるでもなく、彼らは俺たちの存在を感知すると、突撃する愛紗の歩兵のみに意識を傾けて、迎撃しようと身構えていた。

 

 弓矢は彼らに直撃しているのにも関わらず、その身を傷つけることなく、弾かれるように地面に落ちていった。桔梗さんと紫苑さんの放った弓矢がまるで通じていないのだ。

 

「そ、そんな……馬鹿な……」

 

 思わず漏れてしまったそんな言葉も、実際に目の前で起こっているのだから、仕方がない。そして、俺はその原因に思い当たったのだ。

 

 藤甲兵――藤の蔓に油をしみこませ、今度はそれを乾かし、この作業を何昼夜も繰り返すと、槍も通さない強力でしかも水に浮くほど軽い素材が出来あがり、それを装備させた兵士たちのことだ。

 

 三国志演義においても、蜀軍を苦しめた藤甲兵が今度は俺たちの前にたちはだかっているのだ。彼らを何とかしない限り、俺たちに勝利はない。

 

 

 矢も槍を通じない藤甲兵は、矢の猛襲を物ともせず、愛紗たちの突撃を正面から受け止めた。さすがに愛紗クラスの武人ならば、その鎧ごと藤甲兵を斬り捨てることが出来るが、一般の兵卒ではそうはいかない。

 

 兵士たちは相手が矢も槍も効かない相手であると気付き、酷く狼狽した。特に今回の相手は未知の南蛮族である。繰り出す攻撃を平然とした表情で全て受け流す彼らを、もしかしたら化物のように思っているのかもしれない。

 

「恐れるなっ! 敵は我らと同じ人間だっ! 鎧の繋ぎ目を狙えっ!」

 

 愛紗は早々に藤甲兵の身に付けている鎧が特別製であることに気付き、首などの素肌の剥き出しの部分に攻撃するように声を嗄らすが、一度混乱してしまった兵士たちを鎮静化するのは至難の業のようだった。

 

 矢による攻撃が無意味であると気付いた桔梗さんと紫苑さんは、速やかに兵士たちに弓から剣へ得物を変えるように指示し、愛紗たちを援護すべく横撃を仕掛けようと兵士たちを動かした。

 

 しかし、それすら、南蛮兵たちには通用しなかった。

 

「ば、ば、化物だぁぁぁぁっ!」

 

 誰かが叫んだ。

 

 その声に反応して、周囲を窺うと、そこには確かに化け物がいた――それは、この時代に住む者であれば、誰もが見たことのない生物であり、その巨体さ、異様な姿は、きっと化物だと思ってしまうだろう。

 

 南蛮にのみ生息し、哺乳類では最大級の大きさを誇るあれを目の前にしたら――そう、あの象を。

 

 それ程に数は多くなく、数頭といったところだったが、轟然と俺たちの兵士に向かって突進し、兵士たちを木の葉のように散らせていった。兵士たちの混乱は極みに達し、俺たちはすぐに退き鐘を鳴らせた。

 

 愛紗は自らが殿を守り、南蛮兵たちの追撃を食い止めていたが、藤甲兵と南蛮象の攻撃により、被害は少なくないだろう。それでも、愛紗が力戦してくれたおかげで、被害を最低限の状態に留めることが出来た。

 

「くっ! 申し訳ありません……」

 

 帰陣した愛紗は申し訳なさそうに頭を垂れていたが、藤甲兵と南蛮象の存在を忘れていたのは俺なのだから、責任は俺にあるし、今はそんなことよりも、どうやって彼らの相手をするかを考える方が先決である。

 

「まさか、あんな化物が相手なんて……」

 

「槍や矢が通じぬのでは戦になりますまい」

 

 実際に戦った桔梗さんと紫苑さんが苦虫を潰したような表情で呟いた。

 

「いや、あれは決して化物なんかではないよ。相手は特殊な鎧を身に付けているだけだし、あの大きなやつも象って名前の普通の生き物だ」

 

「え?」

 

 俺の発言に皆が目を丸くした。皆に藤甲兵と象について説明してやると、感心したように声を漏らしたが、相手の正体が分かっただけで、それに対する策を講じない限りは、彼らを倒すことは出来ないのだ。

 

「桔梗さんと愛紗は兵たちの間を巡回してくれ。おそらく、さっきの戦いで怯えているだろうから、敵の正体をしっかり説明した上で、なるべく落ち着かせてあげて」

 

「分かりました」

 

「御意に」

 

 二人はすぐに兵士たちの許へと向かっていった。藤甲兵と象の正体が明らかになったところで、すぐに不安が解消される訳ではないだろうけれど、何かしら兵士たちには希望的観測を持たせてあげないと、心の方が折れてしまうだろう。

 

「それから、焔耶は敵の奇襲がないように周囲の警戒に当たってくれ。相手はこちらの意表を付いた場所から襲ってくるかもしれないから、厳戒態勢を布いてね」

 

「分かった」

 

 よし。これでひとまずは安心だろう。

 

 俺は朱里と紫苑さんと共に天幕に戻り、そこで今後の方針を練ることにした。

 

「御主人様、藤甲兵の弱点とかは御存知ないんですか?」

 

「いや、弱点なら知っている。藤甲兵の見に付けている鎧は、藤を油に浸して乾燥させたものだから、火に異常に弱いはずなんだ」

 

 朱里の質問に答えた。確か、演義でも諸葛亮が火計にて藤甲兵を率いた兀突骨たちを殲滅させたはずだった。

 

「では――」

 

「だけど、それが上手くいくのかは自信がない」

 

「どういうことですか?」

 

「相手が祝融だからだよ。彼女はきっと恐ろしく頭の切れる人間だと思う。だから、藤甲兵の弱点が火であることも知っているし、俺たちが火計を使うことも計算に入れているような気がするんだ」

 

「そうですわね。私もあの人は一筋縄では勝てないと思いますわ」

 

 紫苑さんもあいつの只ならぬ雰囲気を察したのだろう。単純に火計を用いたところで、彼女たちを倒すことは出来ない。何故か確信を持ってそう言い切れることが出来た。それだけ、あの祝融と人物は並々ならない存在なのだ。

 

「私に一計があります」

 

 朱里が静かに告げた。

 

「詳しく話してくれるかな」

 

「勿論です」

 

 朱里は策について説明してくれた。単純な火計が通じないのであれば、単純ではない火計を用いれば良い。そして、それを成功させるキーパーソンが、益州が誇る弓の名手、紫苑さんなのだ。

 

祝融視点

 

「兀突骨、済まないね。わざわざあんたに来てもらってさぁ」

 

「いやいや、祝融殿のためであれば、一族を挙げて協力いたしますぞ」

 

 とりあえず緒戦はものに出来たであろう。敵はあたしたちのことを知らないだろうが、あたしたちはあいつらのことをよく知っている。漢民族などに、私たちがそんな簡単に負けるものか。

 

「それにしても、我が藤甲兵に、祝融殿の操る象を見たときの、あやつらの顔ときたら、今思い出しても笑いが込み上げてきますわい」

 

「あんまり調子に乗るんじゃないよ。あいつらだって、大陸で名を馳せる連中なんだ。今回は勝てたけれど、次は分からない」

 

「いやいや、我らに勝てるものなどそうはおりませんよ。既に他の部族の奴らも来ていることですし、今度はこちらから攻めますか?」

 

「いや、あたしたちから攻めない」

 

「何とっ! 祝融殿ともあろう御方が怖気づいたのですかなっ!」

 

「馬鹿言っちゃいけないよ。あんたの藤甲兵は確かに強力だけど、一つだけ弱点があるだろう。おそらく連中はそれに気付いているよ」

 

「馬鹿なっ! たった一度見ただけで、我が一族の秘伝の鎧の弱点に気付くはずなど――」

 

「だから言っているだろう。あいつらはこれまでの相手とは違う。天の御遣いの噂くらい、あんたの耳にも届いているだろう?」

 

「し、しかし――」

 

「分かったら、あんたは一族をしっかり纏め上げておくんだね。勝ちに乗じて勝手な真似でも許してごらん、あんたの首が無事にそのまま胴に繋がっていられるとは思わないことだね」

 

「……分かりました」

 

 まだ何か言いたそうな顔をしていたが、兀突骨はそのまま素直にこの場を後にした。あれでも烏戈国の王だ。あたしの命令に背くだなんて馬鹿なことはしないだろう。他の連中にも釘を刺しておかないといけないね。

 

 もう間もなく残りの部族も集結するだろう。そうなれば、あたしたちの兵力は総勢八万を超えることになる。益州の奴らはたかが五万だ。ここで奴らを完膚無きまでに叩きのめせば――この地を二度と踏みたくないと思わせれば、あたしたちの平和がやっとこの手に戻ってくるんだ。

 

 あたしはあいつらを許さない。決して生きてここから戻すわけにはいかないんだ。この地は私たちで守り通すんだ。それがあたしと『あんた』との約束だからね。それは死んだって反故には出来ないよ。

 

 あいつらが憎い。

 

 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。

 

 いくら憎いって思ったって、足りないくらい憎いんだ。八つ裂きにしなければ――いや、肉一片だって残しておけない。これまで、あいつらはそれだけのことをあたしたちにしてきたんだ。

 

「祝融、にゃにをそんにゃ怖い顔をしてるにゃ……?」

 

「……大王、起きたのかい?」

 

 あたしの後ろの草の上で今まで暢気に眠っていた大王がいつの間にか目を覚ましてしまたようだ。

 

 いけない、いけない。思わず感情に身を任せてしまうところだったよ。きっと、さっきのあたしは大王の言う通り、とても酷い顔をしていたのだろう。憎しみに思考を委ねてしまうなんて本当にいけないよ。

 

 そして、そんな顔を大王に見せるわけにはいかない。あたしは常に大王の側で笑っていなければいけないんだから。どんなに苦しくても、憎悪で頭が狂ってしまいそうでも、この娘の側ではそれを見せてはいけない。

 

「ごめんよ、大王。何でもないんだ」

 

「本当にゃのにゃ……?」

 

 あたしの表情がそれだけ怖かったのだろう。大王は私が声をかけても、瞳に涙を滲ませながら、不安そうな顔で私を見上げていた。

 

 笑うんだ。大王の前ではとびきりの笑顔を見せるんだよ。

 

「勿論さ。益州の奴らを叩き潰すことを考えていたらね、自然とこう、嗜虐的なことも頭に浮かんでくるさ」

 

「にゃにゃー、祝融のことはいつも難しくて、みぃにはさっぱりにゃのにゃ」

 

「いいんだよ。大王はいつも通りにしてくれれば。考えるのはあたしの仕事だからね」

 

 大王の無垢な瞳を見ているだけで、胸の中に渦巻いていた憎しみの荒波が少しずつ収まっていった。今浮かべている笑顔だって、偽のものではなく、本物だった。

 

 大王の頭を優しく撫でながら、再び草の上に横たえると、両腕を一杯に伸ばして欠伸をした。布で瞳に浮かんだ涙を掬い取ってやり、そのままもう一度眠るまでずっと大王の頭を撫で続けた。

 

 この娘は戦争の何たるかなんて知るべきではない。人の怒りや恨みや憎しみが湧きあがり、それが血となって大地を紅く染めることなんて、人が生きるか死ぬか、怒号と雄叫びが飛び交う阿鼻叫喚な世界なんて、知るべきではないのだ。

 

 大王も、トラも、ミケも、シャムも、そんなことなんて知る必要がないんだ。あいつらにはただ楽しく生きて欲しい。怖い思いも、辛い思いも、しなくていい――もし、そうする必要があるのなら、あたしが全て引き受けてやる。

 

 美以、お前は必ずあたしが守ってあげるから、安心して眠っていていいからね。

 

 誰であろうと、あたしたちの大地を穢そうとする者は、情け容赦なく排除する。それがあたしの使命だから。あたしと『あんた』の最後の約束なのだから。

 

一刀視点

 

 それからしばらくの間はお互いに小競り合いばかりを繰り返していた。

 

 こちらから攻めたところで、相手には藤甲兵と象がいるのだ。今の段階で決戦に踏み切ったところで、俺たちが勝てる可能性は低いだろう。

 

 相手も、俺たちの攻撃を受け切って、背中を見せても、追撃してくることはなかった。おそらく火計を警戒しているのだろう。やはり、俺が思った通り、祝融は俺たちが火計にて藤甲兵を燃やし尽くそうとしていることは知っているに違いない。

 

 そうしている間に、とうとう南蛮族は勢揃いしたようで、総勢八万まで膨れ上がってしまった。俺たちは援軍を簡単に呼べるほどの余力はなく、仮に呼んでしまっても、兵糧の関係で自爆してしまう可能性もあるから、五万を維持している。

 

「まだ……かな……?」

 

 しかし、いくらこちらが攻めたところで、全ての攻撃を藤甲兵に弾き返されてしまい、更には象による手痛い反撃まで受ける始末で、俺たちの士気は見る見るうちに下がってしまい、さすがに焦りを覚えてしまう。

 

「落ち着いて下さい。ときは必ず来ます。そうすれば、私たちにも反撃の機会は訪れます」

 

 朱里が必死に励ましてくれなければ、痺れを切らして敵に突撃を命令していてもおかしくない状況だった。将校の中にも、決戦を主張する者が少なからずいた。俺自身が焦ったところで仕方ないのだ。

 

 南蛮で対陣してから一週間が経とうとしていたときだった。

 

 ついにそのときが来た。

 

 大地に潤いを与える大雨が降り始めたのだ。

 

 俺たちはすぐに軍議を始めるために、諸将を集めた。

 

「これより、俺たちは南蛮軍と戦い、敗北する」

 

「ご、御主人様っ!?」

 

 そう俺が告げると、愛紗が驚いたように声を発した。

 

「あぁ、負けるといっても本当に負けるわけではない。負けたふりをしてもらって、敵を誘き出してもらいたいんだ」

 

「ですが、これまで何度も追撃の機会があったにも関わらず、敵はそれを見逃しておりますよ」

 

「いや、今日だけは必ず追撃してくるはずです。敵は――いや、俺たちもこの日を待っていたのですから」

 

「どういうことです?」

 

「それは私から説明します」

 

 そこで朱里が今回の策を皆に説明した。

 

 敵の藤甲兵は火に弱い。だからこそ、一番有効的な火計を警戒し、俺たちを追撃することがなかったのだ。待ち伏せされ、逃げ場のないところで炎に包まれることが、敵がもっとも恐れることなのだから。

 

 だからこそ、敵はこの雨の日を待っていたのだ。

 

 雨の日ならば、仮に木々に火を点けようとしても、上手くはいかない。すぐに消えてしまうだろう。火計の心配がいらないと分かれば、さすがの南蛮軍だって俺たちが背中を見せれば追撃をするだろう。

 

「だからこそ、私たちもこの日を待っていたのです。敵が追撃を仕掛けるであろう、この雨の日を」

 

「い、いや、待ってくれ。あやつらに火が有効なのは分かったが、それでもこの天候では火計を用いることは出来ないと――」

 

「いいえ、一つだけ方法があります。少しでも火を点けることが出来れば、私たちは勝利することが出来ます」

 

「それは……?」

 

「愛紗、もう時間がない。朱里の策を信じてくれないか。この雨もすぐに止んでしまうかもしれない。そうなってしまえば、次にいつ降るかは分からないし、兵の心も既に限界だろう」

 

「……分かりました。固より私はどんな命令にも従う所存です。御主人様と朱里を信じます」

 

「ありがとう。ではこれより、出陣する。朱里、指示を頼む」

 

「はい。桔梗さんと愛紗さんで三万の兵を率いて下さい。一度、本気でぶつかって、敵に押し返されたらすぐに撤退して、敵をこの隘路に誘導して下さい」

 

「分かった」

 

「うむ」

 

「ではお願いします。紫苑さん、俺たちも準備しましょう」

 

「ええ」

 

 速やかに俺たちは兵を発した。

 

 おそらくこれが藤甲兵を打ち破る最初で最後の機会だろう。朱里の策が上手く成れば必ず勝つことが出来る。今まで兵士たちにも辛酸を舐めさせていたのだから、これを逃すわけにはいかない。

 

 愛紗たちは手筈通り、最初の一撃は戦力でぶつかったが、やはり正面からの戦いでは藤甲兵に勝てないようで、程なくして撤退を開始した。

 

 そして、今回はやはり南蛮軍も追撃を決めたようで、藤甲兵を中心にした三万程の部隊が愛紗たちを猛然と追いかけていた。

 

「よしっ! では、俺たちも行きましょうっ!」

 

 俺たちも勝利をこの手に掴み取るために出発するのだった。

 

あとがき

 

 第六十四話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、前回までギャグの多かった南蛮編ですが、今回から戦も始まり、ギャグは一切ありません。

 

 今回は戦の緒戦と祝融の心情について描写してみました。

 

 戦に関しては、やはり忘れていけないのが、兀突骨率いる藤甲兵と南蛮象ですね。

 

 アニメでは兀突骨は普通の少女として描かれていましたが、本作品では名前がちらりと出る程度のわき役に留めました。メインは祝融ですからね。

 

 戦の描写はいつになっても苦手で、一応盛り上げるために策などを用意するものの、いつも上手く書けないのが悩みの作者なのですが、今回ばかりは無理があるだろうなと。

 

 果たして朱里が思い描く勝利とはどのようなものなのか、それは次回明らかにしたいと思いますが、どんな展開になるかは期待しないで下さい。駄展開なのはいつも通りです。

 

 さてさて、今回もっとも書きたかったのが祝融の心情描写なのですが、何やら彼女にも負けられない理由があるようですね。

 

 それがどのようなものなのか、彼女は一体誰と、どのような約束をしたのか、妄想を楽しんで頂けると幸いです。

 

 紳士の皆様に一つだけ質問を。幼女好きに、果たして本物の悪党はいるのでしょうか?

 

 さてさてさて、南蛮編は急遽順番を変更して挿入することになり、また作者が原因不明のスランプに陥っていることもあり、普段より倍以上に駄作になっておりますが、早く書き切りたいと思います。

 

 そして、気持ちを一新して南蛮編なんてなかったこと――いいえ、南蛮編以上のものを書けるように頑張りたいと思います。

 

 今回はこの辺で締めようと思います。期待せずにごゆるりとお待ちください。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
56
4

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択