No.334651

恋姫異聞録128 -点睛編ー

絶影さん

大変遅くなりましたことをお詫び申し上げますm(__)m

入院だったり、事故があったり、本当に悪いことは続きますね
Twitter見てくれていた人はなんとなく知っていると
思います。お陰でちょっと書くのが遅くなったり、コメント

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2011-11-14 22:13:56 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7787   閲覧ユーザー数:6108

 

敵を休ませる事無く繰り返される闇に乗じた奇襲

すでに二日目の夜。ならば此処が正念場だとばかりに統亞達は攻撃を繰り返す

少し下がっては矢を放ち、時に間断なく攻め、時に時間を大きく開けて攻める

 

緩急を付け、攻撃を続ける統亞達に蜀の輜重大隊はみるみる内に疲弊し、前方を行く前線部隊は後方を気にするあまり

足は鈍る。蜀にとって悪循環とも言える行軍が兵の足を遅らせ、休むことも出来ず疲れを膨らませた

 

肝心の蜀の将、魏延と厳顔に対してどうしたかと言えば、一度の反撃に即座に対応し、三人以外に指揮官を立て

魏延には梁と苑路が、一番に厄介な厳顔に対しては獣の様に鋭い動きを見せる統亞が一人で抑え続けていた

 

「ちっ早い。だがそうでなければ戦とはいえん」

 

統亞を好敵手と見た厳顔は、轟天砲をただ振るうのでは手が間に合わないとばかりに地面に武器を突き刺すと

素手で統亞の呼び名である飛燕の名の如く左右から襲い来る剣戟を払い続け、少しでも統亞に隙が出来れば轟天砲を握り

居合い切りの様に統亞へその刃を振るう

 

唸り声を上げ、時には狼のような咆哮を上げて、己の体の限界を超えて攻撃を繰り出す統亞は、素手で攻撃を流され

崩れる体制を無理矢理片足で、時には手を地に着いて、劉協の前で見せた舞で躱し、切り抜け

 

目の前で見たこともない体術と攻撃方法に厳顔は眼を輝かせ、笑い、躱しきれず己の身を切り裂く攻撃に

怯むこと無く身を投じる

 

「くそっ化物二人が相手か!蜀の犬共めっ!!」

 

厳顔は不死身か?と苑路が驚くほどに、厳顔は己の傷を物ともせず、それどころか統亞の攻撃の間に自分の拳や武器を

無理矢理に入れてくる。それはまるで自身の命をなんとも思っていない。今、ただ今の瞬間を切り結ぶ為だけに

振るっている武

 

美しさと儚さを併せ持つ様に見えるのはそういう理由かと苑路は顔を顰め、梁の鉞に抑えられた魏延へ

統亞が肩口に着けた傷目掛け突きを放つ。動きの止まった魏延は驚き、金棒を引いて苑路の攻撃を防ぐが

切っ先の当たる音は小さく軽い。苑路は突きが当たる瞬間、武器から手を放し、勢いを殺さず拳を魏延の顔へと

叩き込んでいた

 

三尖刀を真正面から抑えていた魏延は拳を綺麗に鼻先に入れられ仰向けに倒れ

好機を逃さぬと梁は武器を振り下ろすが、魏延は身体を捻り、叩きつけられる鉞を避ける

 

体制の崩れた魏延は直ぐ様身体を起こし、身構えるが苑路は「退却だ」と声を上げた

立ち上がった魏延の眼に映るのは、拳を振るう厳顔の肉体に突き刺さる統亞の連続蹴り。形容しがたい舞のような体捌きで

身体を逆立ちにしたまま腹、顎へと統亞の蹴りが突き刺さり、流れるように四つん這いの獣の構えへ戻ると

森の闇へと消えて行く

 

巧すぎる。そうとしか言えない絶妙のタイミングで苑路が声を上げ、蜀の輜重隊を削り森の中へと退却していく

 

「桔梗様っ!」

 

「案ずるな、この程度大したことはない。だが・・・」

 

敵が来ることが解っていてこの損害。すでに荷は半分以上燃やされ、荷馬は何頭も逃げ出し、先行する部隊を支える

にギリギリの状態まで追い込まれていた。何よりも一番に厄介なのが、厳顔の動きを上回る速さを見せる統亞

武器を地に突き刺し、素手で応戦するもその速さに紙一重で追いつくことができずにいた

 

「あの蒼い衣服を纏う将。桔梗様でも手こずる相手ですか」

 

「クククッ。そうだ、命を櫛る戦い方。ワシの戦い方よりも上。明日の事、いや次の瞬間すら捨てた攻撃」

 

流れる血を乱暴に拭い、笑を深く深く、獣のような笑を見せる厳顔は身体を震わせた

何と心躍る戦であるか、久しくこのような心をひりつかせる戦場を楽しんだことは無かったと厳顔は笑う

次こそはその獣の如き速さを捉えて見せると

 

 

 

 

 

西門では魏王と呉王の武器が激しい音を立てぶつかり合う

 

「やるじゃ無いのっ!武まであるとはやはり天才ね」

 

「フフッ、貴女にそう言われるのは悪い気はしないわ」

 

「だけどその首は私がもらうっ!」

 

「簡単に差し出せるほど軽いモノではない。合わせなさい春蘭、昭ほどではなくとも貴女なら合わせられるはず」

 

華琳の言葉に春蘭は御意とだけ答えると、大剣【麟桜】を振るう

華琳の肩口に目掛け振るわれる剣を破壊し、孫策の手から剣が無くなれば流れるように返す刀で孫策の腹を狙い剣を振るう

だが、孫策も周瑜から投げられる剣を3つ重ね合わせ、破壊されるのを覚悟で受け止める

 

間を狙った華琳の一撃を、剣を投げた周瑜がすかさず武器を振るって妨害し、孫策と周瑜の連携に華琳は楽しそうに口元を

緩めた

 

次々に破壊されていく孫策の武器。だが兵と周瑜から次々に投げられ追加されていく

春蘭の武器に対抗するには此れしか無い。そして、狙うは春蘭が隙を見せた時、もしくは無理に攻めてきた華琳の首

 

「甘いわね」

 

だが華琳は決して隙を見せず、春蘭もただひたすらに自分に向かう剣を叩き壊す

隙を作り出すために速さを増す孫策の攻撃に、春蘭は身体の力を抜き、我流の指先で剣を持つと、韓遂と対峙した時の

剣術を見せる。仁王立ちでクルクルと指先で回し、孫策の攻撃を全て流麗に叩き伏せていく

 

破壊され舞い散る刃の破片。それを弾幕に、周瑜は己の武器である鞭「白虎九尾」を振るい、弾き

春蘭に襲いかかる散弾のような破片

 

春蘭は自身に襲いかかる刃の破片を見た瞬間、本能のままに、己の才の導くままに剣の柄を両手で握りしめ剣閃が弧を描く

 

春蘭の身体を中心に、円状に振るわれた大剣は綺麗に破片を吹き飛ばすと、その隙を逃さぬとばかりに春蘭の持つ大剣

程ではないが、大剣と言うに相応しい古錠刀を肩に担ぐ様にして一直線に間合いを潰す孫策

 

身体を低く、其れこそ地を舐めるように。虎と言う言葉が相応しい姿で咆哮を上げて春蘭の頭に

担いだ剣の勢いを殺さず振り抜けば、春蘭の背後から春蘭の顔をそぎ落とすかの様に現れる大鎌の刃

真下から掬い上げるように振るわれた刃は振り下ろされる古錠刀を抑える

 

「軽いっ!その程度じゃっ」

 

目の前を過ぎ去る、其れこそ鼻先を掠るほどの大鎌に微動だにしなかった春蘭の胆力、そして王に対する信頼に目を見張るが

己の剣を抑えられないと気合と共に大鎌の刃を圧し込み、春蘭の身体を切り裂こうと力を込めれば

孫策の眼に映るのは信じられない春蘭の動き

 

大剣【麟桜】を振り回した終わりに片手を離し、仁王立ちで目の前を通り過ぎる大鎌の刃を微動だにせず

振り下ろされる古錠刀の刃をとめた大鎌の峰を【真下から拳で思い切り叩き跳ね上げた】のだ

 

跳ね上げられ、呆然と両手を上げたままの格好になる孫策

 

「嘘でしょ・・・」

 

棒立ちになる孫策。眼前には片手で大剣を握りしめ、同じように足を肩幅に広げ仁王立ちする春蘭が歯を噛み締める姿

メシメシと悲鳴を上げる大剣【麟桜】の柄。右の瞳に灯る烈火の炎は赤壁での一撃を恐怖を孫策の身体に呼び起こし震わせる

 

攻撃力を削ぐために揃った両腕を切り飛ばそうと剣を横薙ぎに振るう春蘭

友の危機に声を上げ、武器を振るい攻撃を阻止する周瑜

 

「無駄よ」

 

だが、周瑜の思いを切り裂く様に、振るう九ツの鞭は突然真上からまるでギロチンの様に振り下ろされた

華琳の大鎌に切り落とされてしまう

 

かち上げられたままの勢いを殺さず、身体の軽い華琳は大鎌に引かれるまま春蘭の肩に軽く足を掛け

空中に舞い上がると上空から周瑜の動きを把握。身体を捻り、真上から周泰の身体を切り裂いた時の様に

武器を狙い身体を病魔に襲われる周瑜の攻撃力だけをそぎ落とす

 

大鎌を自信の身体の一部であるかのように使う、正に【天才】その言葉が呟く様に脳裏で響く周瑜は両腕を切り落とされる

友に声を上げた

 

「させないっ!」

 

響く声に応じるように間に合った!そう声を上げるのは周瑜。振り向いた華琳の眼には、城門から現れた呂蒙の投げる縄鏢が

孫策の両腕に巻き付き城門の方向に引かれ、春蘭の剣閃を逃れる姿。長い袖から投げられた縄鏢は九ツ。一本は孫策の両腕に

残りは時間差で投げられ、剣を振り抜いた後の隙の出来た春蘭へと襲いかかった

 

「させない・・・。させないとは此方も同じ。策は上々、動きはずれもなく。新鮮で僅かな齟齬すら無い情報が

私の脳を埋め尽くす。楽しみはこれからです。そうでしょう霞?」

 

「その通りやっ!!」

 

響き渡る金属音。迫る縄鏢を薙ぎ払ったのは霞の振るう偃月刀。騎馬に乗り、現れた霞の後ろには稟が乗り

眼を見開いて笑を浮かべていた

 

二人の出現に窮地を脱した孫策の隣で呂蒙が口を開けたまま固まってしまってた。そんな馬鹿な、先ほどまで南で指揮を

とっていたはずだ。張遼にいたっては思春殿が当たっていたはず。まさか既に討たれたのかと

 

周瑜も同様に、何故違う場所を攻めていた将が二人も集まるのかと驚くが、一瞬で理解する

いや、理解してしまう。郭嘉ならば、あの赤壁を掌で転がしたかのように駆け抜けた鬼才ならば此処まで見通していると

 

「フフ、城の中に兵を指揮する人間が少ないのだから大変ですね。一方此方は楽なものです。

決められた攻撃を繰り返させるだけなら指揮官は要らない。ならば無徒殿を戻さず空いてる東門に無駄な勇気で勝手に

集まった敵兵を無徒殿率いる霞の兵で背後から攻めさせればいいんですから。北など未熟な孫権一人であの三人を崩す事等

できないでしょう?三方向が成すすべなく、此方の王が前へ出たら喜び勇んで城の中の将が城から出て集まってくるなんて

笑えますねぇ」

 

馬から降りると眼を細めきつい眼差しと笑を浮かべる稟。今頃は脱出路を確保すべく意を決し東門に突撃した敵兵の背後から

無徒率いる騎馬隊が自分達の城の堅固な城壁に追い込み、逃げる場所なく食い荒らされていることだろう

何故なら逃げる場所等、城の中の兵が城門を開けねばならないからだ。城内の兵が、迫る敵軍を前に城門を開けるはずもなく

城壁の矢が届かぬ場所から騎射を繰り返され、城壁の前で固まる呉の兵士は唯死ぬのを待つか、強力な、装備を外していない

遊軍の騎馬兵に決死の突撃をかけるしか道は無いのだから

 

そして南では、稟が言うとおりに単純に決められた攻撃。城壁に矢を降らせるだけで、将の居ない敵の動きを止めれば良い

北は迫る孫権を流琉と季衣がいなす。姉の危機に焦る孫権は冷静さを失い精細さに欠けた用兵であり、二人でも

容易く兵を減らすこと無くいなすことが出来、桂花は城門を見つめ睨んでいれば良いだけ、待機し動かない魏兵達の重圧で

勝手に警戒し、敵は動かない。実に簡単な仕事で敵の逃げ場を無くしていた

 

「強固な城壁を持って居るのは昭殿の情報から知り得てましたから、城壁に仕掛ける攻撃など適当で十分

いかに敵を外に出すか、門を崩すかが肝要」

 

軍師である周瑜と呂蒙にはわかる。郭嘉が現れたと同時に今いる西門に迫る敵兵が僅かながらに減っていることを

城門を通れる兵士の数は門の幅に左右される。郭嘉は此処を素早く通れる数だけ残し、他は東や西に兵を向かわせている

 

同時にそれは、城門の前で戦っている自分達を手持ちの将で抑え、目の前の西門から兵を通すと言う郭嘉の自信の表れ

 

「ウフフフフフッ、アハハハハハハハハッ」

 

突然大きく笑い出す稟の瞳は益々鋭さを増していた

 

「此れより華琳様含める三人は私の指示どうりに動いて頂きます」

 

見開く稟の瞳。頷く華琳、春蘭、霞

稟は確認すること無く右腕を横に伸ばし指を三本立てる。即座に兵は反応し、空に打ち上げる煙矢

左腕は真上に、後方に居る騎馬兵達は城門近くで弩を放つと同時に下馬し、槍を手に縦に陣形を創りだす

城門を抜けられる横幅に合わせた陣形を

 

「春蘭さまは孫策へ攻撃。霞は私と呂蒙へ、華琳様は周瑜を封じて下さい」

 

指示に駆け出す春蘭は一直線に孫策へと剣を振るう。華琳もまた、大鎌を振るい武器を壊された周瑜を追い詰めていく

稟と霞は?と言えば、霞を前にして呂蒙へとスタスタと無人の野を行くが如く近づいていた

 

「霞、偃月刀を前へ。暗器が飛び出しますから偃月刀を弧に回し、敵の武器を破壊した後は足元へ斬撃を

下馬した兵は騎馬隊の一斉射撃後、槍を前に突撃を開始。孫策、周瑜、呂蒙を無視し、城内へと突撃を開始する。

続いて煙矢、信号を新たに一つ。南門に銅鑼を鳴らさせ敵に重圧をかける。更に東門に時間差で煙矢を

西門から合流させた兵に門を攻撃させよ。北も同用に銅鑼を鳴らさせよ。前後からまるで挟撃を掛けられているかのように

重圧を掛ける。桂花ならば音と重圧を利用し、城門を少数の工作兵を使って崩すはず」

 

目の前で攻撃を繰り出す呂蒙の動きまでを先読みし、霞に指示を送る稟。更に兵を流れるように操るだけに収まらず

四方の動きを掌握し、指示を次々に飛ばしていく

 

春蘭の攻撃の嵐に何とか食いつくが動きを封じられた孫策と、同じように華琳に武器を構えられ下手に動くことが出来無い

周瑜。何とかこの状況を打開しようと攻撃を繰り返すが稟に先読みされ、霞に片手で攻撃をいなされる呂蒙

 

呉の将三人の眼前には、美しく編隊を組む魏の兵士達。後方から突撃する騎兵は城門の天井ギリギリを狙い弩を放ち

城門前で盾を構え、自分達の王を援護しようとする兵士達を風切音を立てる矢が飲み込んでいった

 

 

 

 

矢を受けて崩れる呉の兵士達。稟は笑いながら上げた手を振り下ろす

槍を構えた兵士達は、怒号を上げて城門に突き進む。無論、目の前で戦う三人の将を迂回し、無視し、まるで無いモノ

であるかのように通り過ぎ、矢を喰らい崩れる呉の兵士を更に突き崩し、稟の「抜刀」と言う言葉を受けて腰の剣を抜き取り

城内へとなだれ込んでいく

 

「城内に入った兵は速やかに3つの隊に分かれよ。一つは残る3つの門へ、内部から門を崩す。一つは城壁の兵を襲え

一つは城内に火を放て。城内の民は逃がしてあるのでしょう?アレだけの大軍勢で逃げ込んだのだから、城内に民など

入れておける余裕は無い」

 

矢継ぎ早に出される稟の指示に城は外から、中から切り刻まれ崩されていく。城壁に登った兵士は、城壁から攻撃する

敵兵を斬り殺し、攻撃の薄くなった門へと三方向の魏兵は攻撃を激化させていき、城内には火が放たれまるで赤壁の時

の様に真っ赤な炎を上げ呉の兵たちは心が絶望に染まっていく。銅鑼の音、燃え上がる炎、城内に侵入した魏の兵士に

呉の兵達の士気は削られ混乱し始める。程なくして桂花から指示を受けた工作隊が北の門を開き、内部の兵士と合流し

城内の兵を文字通り駆逐していった

 

「眼の前に有る。此れ以上に新しく、新鮮な情報源など無いでしょう?隠しようもなく、確たる情報」

 

目の前の情報を脳内に記憶させた情報と統合し、答えを即座に弾きだしていく稟は脳に激しく負担をかけているのだろう

鼻血を流し始めるが、稟は乱暴に掌で拭い用兵と霞だけに治まらず近くの華琳や春蘭にまで攻撃を指示しはじめていた

 

それはまるで夏侯昭と同じ、龍佐の眼で読み取ったかのような先読み。だが決定的に違うのはやはり将に対する指示は

要点だけの大雑把なもの。しかし兵に対する指示は、目に入らない北、東、南にまで及び、全体を把握しているということだ

其れも目の前に居る、そして稟の情報に無い者は居ないと言う点から最早この城は、いや、天変地異でもない限り

この一帯は稟の掌の上で有るということであった

 

「もっと、もっとだ!容姿、趣味趣向、毛先から指先、容姿。癖に表情、にじみ出る感情、全てだ!

まるで幼子が悪戯を吐露するように私の脳漿に貴女達の姿を映せ!もっと私に情報をよこせええええぇぇえぇぇぇぇっ!!」

 

まるで飢えた獣の様に叫び、吠える神機妙算の戦術士郭嘉を前に必死に攻撃を繰り返していた呂蒙は手が止まり

怯え、震え、膝を地に着いてしまっていた

 

 

 

 

 

 

「統亞、おいっ統亞っ!」

 

「ぁ・・・ゲボっ・・・あぁ?」

 

「陽が登るぞ、三日目だ」

 

「・・・ぁぁ。アリガトょ、大将」

 

森の影から空を見上げ、雲の無い空に三日目の登る日が目に入る苑路は掠れる声と震える身体、そして吐く様に咳を繰り返す

統亞の身体を揺らす。統亞は三日目の朝日を目にし、心の奥で舞続けていた男に感謝すると

地面に膝を着き、身体を投げ出すように崩れ落ちた

 

心の奥底の暗闇でゆっくりと足を止める統亞の中の男の姿。少しだけ振り向いた男の横顔は確かに笑っていた

 

「統亞っ!しっかりしろ、死ぬんじゃ無い」

 

「し・・・ぬかよぅ。まだ、やること・・・ゲホッ・・・のこってんだろぁ?」

 

連日の連戦で既に統亞は限界に、側で心配そうな顔をする梁は右腕が魏延の一撃で折れ曲がり丸太の様に膨れ上がり

苑路も足に金棒を受けたものの、三尖刀で無理矢理いなしたお陰で折れる事は免れたが歩く事も出来なくなっていた

 

「ああ、最後の仕上げだ。梁、吠えろ」

 

頷く梁。既に兵は何人も討たれており、補充を繰りかえしながら抑えてきたが其れでも多くの兵を無くした

城に居た兵は厳顔の出現で半数に迫るほど討たれており、此処に残る兵達も苑路の言葉で覚悟を決めていた

此処を死に場所に、敵を止める最後の仕事だ。前を行く仲間は逃がすことが出来た、敵の先行部隊は未だ

新城には着いては居ないだろう。俺達は誇り有る戦いを最後までするのだと

 

闇に紛れることなく、森の中の道へと全兵士、凡そ三百が道を塞ぎ。武器を構え待ち構える

統亞は三尖刀を支えに立つ苑路に身体を支えられ、二人を後ろから支える梁

 

「-------っ!!」

 

空に向かい上げられる梁の咆哮。まるで雷が落ちたかのような木々を揺らす爆音に兵たちは心を燃やす

 

道の先から最初に姿を現したのはやはり厳顔、そして魏延

厳顔は統亞に着けられた傷を乱暴に布で止血し、轟天砲を手に騎馬を駆る

魏延も同様に左目に包帯を巻き、至る所を赤紫に染めて統亞達へと迫ってくる

 

真正面から立ち向かうとは良い度胸だ今度こそは打ち破り、後方の劉備達を安全に通してみせると魏延は声をあげていた

 

迫り来る蜀の猛将二人。だが統亞は笑い、身体に鞭打ち苑路から離れると一歩二歩と前へ出て腰の武器を投げ捨てた

その仕草に魏延はまたあの速度で襲いかかってくるのかと身構え、騎馬の勢いを殺さず後方の兵もろとも吹き飛ばそうと

した時、並走する厳顔に横から手綱を捕まれ急停止する騎馬

 

「わわっ!!なっなにをっ!?」

 

神妙な顔つきで、厳顔は騎馬から降りると三間ほど離れた所で統亞の真正面へと立つ

理解の出来無い魏延は馬を寄せると、同じように騎馬から降りて隣へと立った

何が起きても厳顔を即座に守れる様にと

 

「こ・・・降参だ」

 

真正面に立つ統亞から掠れた声で放たれた言葉は魏延の、そして魏の兵士達の予想の出来無い言葉

今なんと言ったのだ?と魏延が、そして統亞の引きつれる兵士達が耳を疑い、呆然と立ち尽くしていた

 

「俺の・・・仕事は、終わった。こ、これいじょぅ・・・ゲボっ」

 

限界なのだろう、地に座り込み嗚咽混じりに言葉を紡ぐ統亞。そして苑路と梁の後ろでは「何故だ」

「どうして」との兵達の声が響き渡る

 

だが一番に納得は行かず、ふざけるなと声を張り上げ武器を振り上げるのは魏延。此処までしておいて降伏だと?

虫がよすぎるにも程がある。我らが受けた仕打ちの報復を受けろと武器を振り上げるが、腕を捕まれ厳顔に止められてしまう

 

「まて」

 

「何故ですか桔梗様っ!?」

 

「仕事は終わり。そういう事か・・・目的は達した。ならばこれ以上兵を死なせたくはないと言うことだな」

 

項垂れるように笑を浮かべる統亞に兵たちは声を上げる「何を言うんです」「俺達は死ぬまで戦う」「たとえ一人になっても

戦い続ける」と。だが統亞は聞く耳を持たず、目の前の蜀の将二人に苑路と梁も武器を地面に投げ手放していた

 

「首・・・やる」

 

「俺もだ。無論、梁も一緒だ。三人の首であれば三百の兵を解放するには十分だろう」

 

精一杯の声を絞り出し、首と言葉にした時。苑路と梁は統亞の横に座り込み、同じように眼の前に立つ将二人を見据えていた

 

「いい度胸だ。ならば貴様らの首を取り、曹操の前に晒してやる」

 

統亞達の言葉に怒りは治まらず、珍しく厳顔の手を振りほどくと武器を振り上げ走りだせば、統亞達三人の前に立ちはだかる

魏の兵士達。武器を構え、自らの身体を盾のようにして統亞達を囲んでいた

 

魏延はその姿に茶番だと益々怒りを募らせ、兵士ごと打ち滅ぼす。そう決め武器を振り下ろそうとした時

掠れた声で統亞が声を発した

 

「テメェら忘れてんじゃねぇっ!生きるために戦うのが俺達だ!」

 

激しく咳き込み崩れる統亞を支える苑路は、統亞の言葉を続けた

 

「目的は達した。此れ以上の戦いも、死人も必要はない。死した仲間も望んではいまい誇りなき戦いを。

胸を張れ、己の戦いを誇れ。俺達は護れたのだ。信じろ軍師を昭様の言葉を、曹操様の魏を」

 

誇りなき戦い。そう、此れ以上は唯の殺し合い。目的を達した以上、これ以上は憎しみをぶつけ合う行為でしか無い

唯の自殺行為。生きるための戦いを誇りとする魏の兵士達にとっては最も忌むべき行為

 

だが其れは逆に魏延にも言える事であった。降伏している敵に怒りをぶつけ、首を差し出す敵将に対し

敵将どころではなく、己の首を命を差し出してまで守ろうとした兵を共に殺そうとした

唯の虐殺行為に他ならない

 

気がついた魏延は振り上げた武器を下ろし、顔を歪め視線を落としていた

今自分は何をしようとしていたのだ?降伏する敵を、兵を、無抵抗な相手を殺そうとしていたのか?

手が震え、怒りに身を任せた事に恥じるよりも、情けなさで視界が歪んでいた

 

気がついた厳顔はそばに寄り魏延の頭を掴み、自分の身体に抱き寄せていた

 

「逃げられぬと判断した上でか・・・追い込まれようとも誇りを忘れぬとはな。見事、此処までは我らの負けのようだ」

 

見れば魏兵達は疲弊しきり、将も満足に動けない状態。この状態で下手に逃げれば兵は追われ、殺されるだろう

降伏と言う手段を獲らねばまだ戦いは続いているのだから

 

「兵を頼む。我が名は于毒、真名を苑路。真名を貴殿に預けよう。いかにようにしてくれても構わない」

 

「承った。首を獲るかどうかは我らが王に通してからだ。だが悪いようにはせん、我が真名にかけて」

 

ぼそぼそと声を出す梁に苑路は頷き、梁の真名と気絶した統亞の真名を厳顔に預けると、兵士達はボロボロと涙を流す

だが顔を流した涙で濡らしたまま、兵たちは統亞達三人の背後に回ると胸を張り綺麗な列を作り顔をあげていた

 

誰ひとり声をあげず、まるで戦自体に勝利したかのように誇らしげに将の後ろで並ぶ姿に厳顔は眼を細めていた

 

「あ・・・あぁ・・・・」

 

魏の兵を見つめていた厳顔の胸で、狼狽える声を出す魏延。後方から来る何かから身体を隠すように厳顔の身体に

隠れると、厳顔は溜息をつく。そして少しだけ強引に、自分の身体から引き剥がすと二人は地に膝を着いて

恭しく頭を下げた

 

何事かと苑路は顔を厳顔達の後方に向ければ、翡翠色の篭手、短甲、挂甲に身を包み、腰に剣を佩く一人の女が登る太陽を

正面から受け止め、此方へゆっくりと歩いてくる姿。頭を下げる厳顔と魏延を素通りし、気絶して倒れこむ統亞に近づいた

その女は、優しくまるで赤子を抱きしめるかのように統亞を抱きしめていた

 

女が来た道を見れば、輜重隊だけではなく馬の牙門旗。そして並ぶもう一つの牙門旗に苑路は確信し

女から流れる独特の雰囲気に、そして引き連れる兵たちに喉を鳴らした。此れが蜀の王かと

 

 

 

 

「巧い、騎馬に慣れてる。罠も何も対処が早すぎだよ」

 

統亞達から兵を渡され逃げる鳳達は、道の途中に馬防柵や罠を張り、後続の補給兵として置く兵を木の上へ配置し

高い位置から矢を降らす作戦をとっていたが、騎馬を中心にというよりもいかにして騎馬を使って戦争に勝つかと

いうことを繰り返してきた涼州の兵だからだろうか、普通なら走ることも出来無い、人ですら移動に難儀する

生い茂った森の中を騎馬で、しかも疾走して此方の罠や伏兵を即座に探り出し対応してきていた

 

通常では考えつかない事、騎馬を使って危険な森の中を通るならば歩兵を引き連れて罠や伏兵に対抗するのが普通

其れを無理矢理騎馬で押し通す。これが涼州の強さであり、誇りで有るのだろうと認識する鳳

 

鳳は焦る一方で、後方に残った統亞達に感謝をしていた。とてもではないが、後方で奇襲を繰り返してくれなかったならば

此方を厳顔が涼州の騎馬兵と共にしつこく追い回したあげく三日など持つ事無く飲み込まれていただろう

 

「何とか逃げれる、ようやく三日目。此れで、此れで行けるはずっ!」

 

責任を感じてか鳳と李通は共に最後尾の殿に着き、訓練された統亞達の兵と共に尻にかじりつく涼州兵を振り払っていた

 

追いついてくる涼州兵に鳳の羅漢銭が突き刺さり、態勢を崩した所に李通の短槍が突き刺さる

そして機を見計らい、自分達よりも先に行かせた部隊の仕掛けた罠を発動させ、少しずつではあるが兵を削られながら

新城へとその足を向かわせていた

 

「も、もう持ちません。私は行かせて頂きます。後はお願いします」

 

「待って下さいっ!」

 

攻撃を受け、傷ついた兵士は己の身がもたないと判断すると自信の身を後ろから迫る敵軍の中に踊らせていく

何度も李通は止めるが兵士は聞かず、皆他の者達を頼むと口にし馬の、または自分の足を遅らせ涼州兵に槍を振るう

少しでも、ほんの僅かでも己の命を使って足をとめることが出来ればと

 

「鳳さんっ!もうっ、もうっ!!」

 

「集中してっ!私達ががんばらなきゃ皆死ぬよっ!」

 

己の身体を仲間の血で真っ赤に染め上げる鳳は、眼を敵兵から逸らさずに追いすがる敵兵に衣嚢の中の小銭を投げる

遂に衣嚢の中に入れた小銭が底をついた時、彼女は鳳の腰の剣を抜き取り、軍師でありながら剣を振るっていた

 

自分の背後で勇敢に剣を振るう友の姿に李通は驚く。かつて鳳が剣を振るっている所など見たことは無い

それどころか軍師である以上、このような危険な場所である殿に、己の身を置くことなど無いはずだ

なのにも関わらず、武器を振るい殿で戦うと言うことは、それだけ現状が危険であるということの証であると

 

ならば自分は戸惑っている場合などではない、文官で有る人間が此処まで命を張っているのだ

何故武官で有る自分が武器を振るわず言葉を発する?武官ならば、戦で武を振るうが役目

 

鳳が剣に振られ、身体を崩した所を見て突出する涼州の兵。今が絶好の機会だとばかりに槍を鳳に向け一直線に突き出すが

鳳の脇の下から伸ばされた短槍は、鳳の身体を支え涼州の兵の突き出した槍の切っ先を李通は寸分たがわぬ精度で短槍の

切っ先に合わせる。まるでつながった一本の槍の様に、涼州兵の槍と李通の短槍がつながり、次の瞬間

涼州兵の槍は巻かれ、下に叩き伏せられ、前のめりに馬から落ちそうになった所に李通の短槍が涼州兵の頭を貫いていた

 

「さすっが。助かったよりっちゃん」

 

「いえ。馬を走らせる事は出来ますか?」

 

「え?走らせる位なら」

 

「なら交代です」

 

そう言うと李通は短槍を口に咥え、鳳の腰に腕を回すと鳳を前へ、馬上で前後を入れ替え手綱を鳳へと渡す

驚く鳳を他所に李通は後ろ乗りを、先程から鳳が後方の動きを見るためにとしていた様に、進行方向とは逆方向

に向いて騎馬に乗ると短槍を構え、闘気を漲らせた

 

「ちょ、りっちゃん!?」

 

「此処からは任せて下さい。私が何故、武を学び始めた幼き時に万億と呼ばれたかお教えいたしましょうっ!」

 

前後を入れ替え馬の足が遅れた隙を見逃さぬと迫る涼州の兵、その数十

李通は気合を一つ。短い黒髪をなびかせ、半包囲され同時に襲いかかる敵の槍と剣

 

襲いかかる剣と槍に鳳は身ついを屈めるが、聞こえてくるのは打ち付ける雨の音の様に叩かれるような金属音

伏せた瞳を恐る恐る開いてみれば、迫る剣と槍を全て叩き落とす李通の短槍。一撃防ぎ、叩き落すたびに

加速する李通の槍撃。一撃受ければ二撃を返し、三撃受ければ六撃にして返す。次第に攻守が入れ替わり

 

囲んでいたはずの涼州兵が李通の槍撃を一方的に防ぐだけになってしまっていた

 

「一の斬撃を私に振るうなら百を返しましょう!百ならば万を!万の刺撃であるなら億の槍撃を持って冥府へ案内仕ります」

 

加速する李通の槍撃。霞とは違う、相手の攻撃、力を利用し反動と勢いを持って多方向へ短い槍を小刻みに動かし繰り出す

攻撃をされればされるほどに、李通の槍は速度を増していく。其れこそ李通の槍が、手が、無数に増えているかと錯覚して

しまうほどに

 

遂に囲んだ兵が、一人二人と李通の槍に風穴を無数に空けられ落馬し、苦し紛れに騎馬を狙い槍を振るえば

背を合わせる李通に余裕を取り戻した鳳が騎馬を加速させ、敵の攻撃を躱し、李通の槍が炸裂する

 

「行くよ、このまま太陽の方向に逃げる。もう少しで新城だ」

 

「はいっ!」

 

登る三日目の朝日に向かい、鳳と李通は馬を走らせる。兵を、仲間を削りながら、其れでも諦めず

もう一つの部隊。魏の雲兵と合流するために、時間を稼いだ今、唯生き残るために新城へと走る

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした。お兄さん」

 

「・・・ご苦労だった」

 

新城より少し離れた地に風が引き連れた兵。新城などに残された僅かな警備兵やこの日の為に集めた私兵達が顔を並べ

陣を作り上げていた。赤壁から北上した雲兵達は鳳の手に入れた大宛馬の活躍により、予定よりも早く風が陣を敷く

場所へとたどり着いていた

 

「予定よりも早かったのはそういう事ですかー」

 

「風が運んでくれたお陰だろう。強き風が共に有るならば、俺達は何処へでも行ける」

 

汗で濡れた髪を乱暴に掻き上げ、流れ落ちる汗を気にもとめず。男は唯、敵が来るであろう方向にある森を凝視していた

風の言った予定よりも早かった理由。其れは此処に来るまでに兵達は大まかな事情を聞いたのだろう。皆、身体から闘気を

漲らせ、眼は怒りに燃えていた。その様子に警備兵や、風の私兵達は生唾を飲み込み怯えていたが、まるで感染するかのよ

うに感化され、同じように身体から闘気を次々に漲らせていた

 

凪達三人も同様に拳を握りしめ森を凝視し、秋蘭はより冷たい空気を身体に纏い、其の怒りは一番に際立っていた

 

そんな中で、一番に皆の予想に反しているのが夏侯昭であろう。彼は無表情に、唯森の方向を見ているだけなのだから

 

「目的は達せたの?」

 

「はいー。お陰様で登用することが叶いましたよ。漢中に足を伸ばし続けたた事が報われました」

 

何時もと変わらぬ、眉間に少しだけ皺を寄せた詠が風に問いかける。目的は達したのかと

すると風は頷き、眼を細めて近くの兵に「お願いします」と伝えれば、少しして姿を表す妙齢の女性

目鼻立ちは美しく、右の瞳に涙のようにほくろが一つあり、長い赤みがかった髪を纏めてゆったりとした長衣に身を包む

柔らかい雰囲気を醸し出すその女性は「好」と呟く

 

「まさか本当に登用出来るとはね、昭の見立て通りだわ」

 

「彼女のお陰で風は新たな力を手に入れました。ようやく、稟ちゃんと逆の道を歩き続けた事が報われたと

言うところでしょうか」

 

新たな力?と詠が問おうとした時、妙齢の女性が落ち着いた茶を基調とした長衣を揺らし、詠と風の間を通りぬけ

森を見続ける男の隣で怪しい笑みを浮かべた

 

「好、好。その怒りも強き心を支える支柱を愛するが故。此処で滅ぶも一興、流れに逆らうも又生。面白き人に会えた」

 

男よりも少しだけ低い身長の女性は此方を見向きもしない男の横顔を覗き、ニコリと微笑むと「好」とまた一言呟き

風の肩を叩いて「後はお願いね」と後ろへ下がって行って仕舞う

 

「加わって貰わないの?」

 

「そうですねー。何しろお兄さんのお話をしたら、お兄さんと共には戦いたくないと。華琳様とならば好といっていました

ので」

 

「ふーん。でも、その顔は自信が有るんでしょう?」

 

勿論です。と珍しく強く応える風に詠は笑を返す。怒っているのは自分だけでは無いのだと

そう、自分だけではない。兵も、将も、此処に居る魏兵の全てが怒りに溢れているのだと

 

ならば男は?男は一体どうなのだ?先ほどの女性が怒りを感じていたようだが、その無表情な顔からはうかがい知れない

一番に怒りに震えているはずの男が、背後の新城に居る愛娘の危機に拳を握り締めるわけでもなく、唯静かに敵を待っている

 

一瞬、詠の脳裏に嫌な記憶が蘇る。定軍山での男の行動。もう、あのような事は無いように、心身を鍛えたはずだ

だが本当に、男は本当に怒りを克服し、あの夏侯の名の如く夏の燃えるような熱さを持つ怒りを抑えこむことが

出来るのだろうか?

 

判断をしたいが男の表情は変わらない、それどころか少しも感情を感じないのだ。そのことに詠は益々不安になってしまう

 

「さて、それでは少し手伝って下さい」

 

「えっ!?わ、わかったわ、何するの?」

 

「はい。早速、風が手に入れた力を、風と雲の力をお見せします」

 

「風と雲の力?」

 

「はい。我らに仇なすと言うことはどういう事か、日輪(華琳)と龍(皇帝)に牙を剥く事がいかに愚かであるかを

思い知らせます。そして、お兄さんの天の御使の名を思い出してもらいましょう。【龍王の儀式】で」

 

男の事が心配であったが、風の口からでた【龍王の儀式】という言葉に詠は思考が停止し固まってしまう

風のしようとしていることが理解出来たからだ。だがそれは誰にでも出来ることでは無い、あの稟ですら

不可能だと言えることだ。詠が心の中で叫んだ言葉は【何故そんな事を知っている?】の一言

 

頭の中で風の言葉、新たな力、龍王の儀式で合点がいった詠は先ほどの女性の去った方向見れば

妙齢の女性はまるで詠が此方を見るのを知っていたかの様に、足を止めて微笑みと共に此方を見ていた

 

「・・・今から僕も風の指揮下に入る。昭はあの通りだから、言わずとも解っているでしょう」

 

そう言うと詠は風から指示を受けて走りだす。将と兵に指示を出し、準備を整えるために

そして此処から行われることは一つとして見逃さず、目に焼き付けようと

 

 

 


 
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