北郷一刀は男……否定、女。
彼女たちのことを部下ではなく仲間……否定、敵。
戦いで命のやり取りをする事を嫌い、たとえ捕虜となった人間でも殺そうとはしない……否定、戦いで命のやり取りをする事を好み、捕虜となった人間は殺す。
ある程度親しくなった者であれば、少々理不尽な言動をとられたり、振り回されたりしても、困惑する事はあっても決して反発しない無限とも言える優しさと懐の広さを持ち合わせる……否定、ある程度親しくなった人間では、理不尽な言動をとられたり、振り回されたり、困惑する事はがあれば反発し、自己中心的な器。
女性に対しては遠慮がちな上に鈍感だが、その優しさから恋愛関係になりやすい……否定、女性に対しては鋭くな上に過敏で、すぐに恨みを買って敵関係になる。
「節操なし」「女好きである」という認識……否定、人間、この世界そのものを嫌う。
彼……彼女は『否定の北郷』。
「くだらない」
否定の北郷は劉備がいる荊州へ逃げていく馬超と馬岱を見て呟いた。
魏軍率いる曹否軍と西涼を治める馬超軍が激突したのだが、勝敗は呆気ないほどの曹否軍の勝利で幕を閉じた。しかも互いに一切の犠牲もなく、戦わずして西涼を手に入れてしまった。
「馬超と戦う前に、すでに内部に進入した闘争の北郷が西涼を制圧していたからな。馬超は戦う前にして、負けていたのさ」
策略の北郷は、笑みを見せて策の成功に喜ぶが、否定の北郷は退屈そうな顔しながら策の否定をした。
「闘争の北郷の存在は、戦争を継続させるための存在だったはず。それがなぜ、戦わない策に乗じた?」
「理由は三つ」
策略の北郷は三本の指を立たせた。
一、曹操の病気がこのままだと年内で死ぬと判明したため、一日も早く三国の誕生や関羽を殺す段取りをつけるため。
二、曹操の病気が治せるのは、華佗しかいないと言われたために皇帝が華佗を探すため。ただし、これは皇帝の命令。
三、今後は原作通りに再現するのは不可能とわかったから。
策略の北郷はその三つの理由を述べる。だけどそれでも否定の北郷は否定する。
「なら、益州制圧はどうする気だ? こんなにも早くに馬超達が劉備軍に加わったら色々と不味いはず」
「それなら問題ないさ」
策略の北郷はそれこそ無用の心配だよと微笑んで否定する。
「だって、馬超達はある意味おまけの存在だよ。それは三国志の歴史物語を創る上で証明しているだろ?」
――――――※※※――――――――※※※――――――――※※※―――――――――※※※――――――――※※※―――――――――※※※――
友達の諸葛亮が大活躍だと噂を聞き、自分も劉備軍に身を投じようとする鳳統という少女がいた。
だが……。
『う~ん……なんか頼りないから信用できないよ~』
劉備の意外な言葉により、耒陽の県令という職で仕事を命じられていた。
「あわわ……劉備様に外見で判断されてしまいました~……」
その日から、鳳統は恋人の北郷と一緒に仕事もしないで料理研究を始めてしまう。もちろん一切仕事には手をつけていないから仕事の量は溜まるばかり。
やがて、それは劉備の耳にも届き、当然なんらかの処置をしなければと劉備と張飛が耒陽に赴く……が。
「ごめんね。雛里ちゃんを外見や話し方で判断して……」
逆に劉備が鳳統に頭を下げることとなった。
実は、仕事もしないで料理研究ばかりしていたのは鳳統の策であり、こうしておけば何らかの動向が自分に動くだろうとワザとしていた。もちろんその策を見合うだけの頭脳や才能はあり、普通の人なら一年はかかるほどの溜まった仕事を半日で終わらせるという才能を発揮させた。
「………では、桃香様。さっそくですがご提案があります」
諸葛亮と同じ役職である軍師中郎将に任命された鳳統はさっそく自分が思っている考えを劉備に述べた。
「このままでは、いずれ魏と呉に倒されてしまいます。だから私は、益州を手に入れることを提案します」
その提案に、三人の顔が動いた。
諸葛亮は、同意権という顔。
劉備は、益州の主が同族の劉璋のため嫌な顔。
北郷は、不敵な顔を。
――――――※※※――――――――※※※――――――――※※※―――――――――※※※――――――――※※※―――――――――※※※――
益州を治める王が変わった。
劉璋は病死。
次の当主は、北郷と男になる。
彼は、偽善の北郷。
一を助けるために十を捨てるという考え方。
つまり大切な人を守るためなら他の者すべてを殺すということ。
そして、その一は………。
第五話へ続く……
Tweet |
|
|
7
|
0
|
追加するフォルダを選択
第四話
『反逆の北郷 中編』