一刀帰還よりひと月ほど前 とある山中
「ゲゲルはいつから始まるんだ!!」
ひとりのクモの怪人らしき男が赤いドレスを着た女に詰め寄る。
「落ち着きなさい、グムン。もうじき始めるわ」
バルバは隣の軍服姿の男に目配せをする。
すると、軍服姿の男は怪人姿をものともせずグムンの手を後ろにひねり上げる。
「わかったから、放せ!」
落ち着いたのを確認し、ガドルはグムンの手を離す。
「どうですか、皆さんご気分は」
白装束の男が怪人たちに近寄る。
この場には約100人以上の怪物、人間が混ぜこぜになっていた。
「たしか…于吉とか言ったかしら」
彼らのリーダー格であるバルバが『于吉』と呼ばれた少年に話しかける。
「はい。皆さんも以後お見知りおきを」
「それで?私たちを復活させたのはあなたって話だけど、どうやったのかしら?」
「それは僕も興味があるな」
暗がりにいた白いYシャツ姿の青年が于吉に歩み寄る。
「彼らを復活させられるのは僕だけだと思っていたけど。それに僕のベルトが壊れているのはどうしてかな?」
彼はプレッシャーを出しながら于吉に話しかける。
彼の周囲にいた下位の怪人はうずくまってしまう。
しかし、そんなプレッシャーもものともせず、于吉は胸のペンダントをいじりながらさわやかに答えを返す。
「あぁ、ダグバ。今日も素敵なプレッシャーですね。うーんなんと言いますか、我々の場合は少々特殊な状況下にありましてね。まぁ、一言でいえばそう願った人がいるからあなた方はここにいる。という事です」
「ふぅん。私たちが見たこともない恰好してるのもそのせいなのかしら?」
バルバが横やりを入れる。
「さすが、理解が早いですね。あなた方を『そう』と認識している人たちがここより強い世界にたくさんいるんです」
「そっか。で、僕たちを復活させてどうしようってのかな?」
ダグバがほほ笑みながら話しかける。
しかし、その裏には『下手なことを言えば殺す』という意図があることも于吉は十分理解できていた。
「なんという事はありません。あなた方にはある人方々を抹殺していただきたいのです。
「抹殺?そんな事君たちでやればいいじゃないか」
ダグバは心底つまらなそうにそばにあったソファーに身を投げ出す。
「君たちは『世界』とやらに力をもらってるんでしょ?だったら君たちでやればいいじゃないか。
僕たちはもっと…そう、クウガのように強い奴と戦いたいんだ」
「とんでもない。我々の力というのは『特殊な力』であって、あなた方のように殺戮に向いているわけではありません。現に今のあなたの力でも、我々が1万人いたって敵いっこないでしょう。
それに…こと『強さ』において彼女らの右に出る者はそうはいないでしょう」
「へぇ。強いんだ」
ダグバが身を乗り出す。
「でもそれだけじゃね、僕たちは急ぐ必要がない。確かに強い奴と戦える、それは確かに魅力的だ、でもそれでおしまい。僕たちが普通にゲゲルをしていてもいつかその人たちにあたるでしょ?
なら楽しみを先に潰す必要はないよ。成長させて、成長させて…たっぷり強くなったところで殺すんだ。それはもう、やみつきになるよ。」
ダグバが見たものを戦慄させるような笑みを浮かべる。
「…私は遠慮しておきます。なるほど、一理ありますね。あちらの方々がゲゲルを行う『理由』、それは確かあなたを倒しあなたのベルトを受け継ぐことですよね」
ダグバの眉がピクリとする。
「そうだよ。よく知ってるね」
「なら、あなたが『究極の闇』を完遂させると何があるのですか?」
「…」
ダグバは于吉を見据える。
「まぁ、話さないならいいでしょう。ですが、私はあなたの完全体以上の力を引き出すことができます」
「何?」
ダグバの目の色が変わる。と同時に周りにいた怪人たちも騒ぐのをやめる。
「興味深いね。やって見せてよ」
于吉はニヤリと笑う。
「だめですよ。それこそが取引の肝なんですから。ですが…いきなり信用しろというのも無理な話です。そこで一度デモンストレーションをしてみましょう」
そういって、于吉はいつの間にか交渉していたテーブルの周りに群がっていた怪人、人間入り混じった集団に目を向ける。
「そうですね…この中で一番弱い人は誰ですか?」
「そうだね…あれ?『ベ』の奴らは?」
「あぁ、彼らですか…彼らは復活させてません。あなた方は別の世界でも復活していますが、『クウガ』に手も足も出なくなり、あなたが『整理』の名目で皆殺しにしたんです。ですから、今回我々の目的に必要ないと判断しました」
「ふぅん…となると、一番弱いのはザジオだけど彼はプレイヤーじゃないからな…正直集団の上位以外は有象無象だよ」
「ふむ…では…そこのコウモリさん。こちらへ」
『コウモリさん』と呼ばれ一人の怪人が前に出る。
歩きながらコウモリの姿が、黒いコート姿の青白い男の姿へと変貌する。
「俺を選ぶとは目が高いじゃないか…さぁ、やってみろ!」
集団の後ろで、スーツ姿の女が嘲笑を浮かべる。
「まったく、『ズ』の奴は無様ね。バカにされてることも気付いてない」
その横で、頭にバンダナを巻いている男も笑みを浮かべる。
「まぁ、奴らがバカなおかげで実験台になってくれる。感謝しないとな」
于吉が椅子から立ち上がりゴオマへと向く、その手は五角形のペンダントへとのびる。
「これは『地の石』といって、あなた方に力を与えることができる特殊な石です。…覚悟はいいですね?」
「早くしろ!殺されたいのか」
ゴオマは今にも于吉につかみかからんばかりの勢いで殺気を向ける。
しかし、ダグバの殺気に眉一つ動かさなかった于吉にとってはゴオマ程度の殺気など無いに等しかった。
「では」
于吉が言葉を発すると同時に、紫色のペンダントに光が走り、次の瞬間電撃を帯びた力の渦がゴオマを飲み込む。
「おぉ、おおおおおおおおおおおお!!!」
ゴオマは苦しみもだえながらも、自分の体に力がみなぎるのを感じた。
数分後。ゴオマの周りに迸っていた力の波動が消える。
「ご気分はどうですか?」
于吉が満足げにペンダントに目を落としながら、ゴオマへと話しかける。
「最高の気分だ!!」
ダグバは目を細める。
「ふうん。少しは強くなったみたいだね。力試しをしてみなよ、そうだな…同じ階級の奴ら皆殺しにしてみてよ」
「俺に命令するな。何なら今すぐお前を殺してやってもいいんだぞ」
ダグバの上からの物言いに反発したゴオマがつかみかかる。
「やめときなよ。また、『あの時』みたいになるよ」
「『あの時』?いつの話だ」
「あれ?君は覚えてないんだ。まぁいいや、早くやりなよ」
「だから!俺に命令するんじゃ…!」
「じゃあこうしましょう、ゴオマ。あなたが『ズ』の奴らをすべて殺せたら、あなたに優先的にダグバへの挑戦権をあげる。文句ないでしょう?それともルールを破るつもり?」
ずっと静観していたバルバがゲームのルーラーとしてゴオマに提案する。
「ふん…。それならいいだろう。待ってろ、ダグバ。今すぐ殺してやる」
「あぁ、待ってるよ」
勝負は一瞬だった。
ゴオマが動いたと思った瞬間には60人以上いた集団は半分になっていた。
次の一瞬に勝機のなさを悟った怪人どもが山の中へと逃げ込む。
それに気づいたゴオマが彼らを追う。
しかし、いくら力が強くなっても素早さに特化している怪人にちりじりに逃げられると、追いきることは出来ない。
逃げることさえ叶わなかった愚鈍な連中を一掃しゴオマは山中へと消える。
その場に残されたのは、50人の死体の山と見物に来た数人の上位集団と于吉だけだった。
「いかがでしょう」
于吉は隣で顔をしかめているダグバへと声をかける。
「これでもあなた方にメリットがないと?」
「…そうだね。でもこのペンダントが力の元なら君を殺して奪い取ればいいんじゃないかな?」
「やめておいた方がいいかと。私を殺した途端、私の体もろともペンダントも消えてしまうようになってます」
「…じゃあ、さっきの話を詳しく聞こうか」
「ふふ、そう言っていただけると思ってました」
「ちなみにこの世界にもクウガはいるの?」
「今はいません…が、恐らく我々と敵対するグループがあなた方を倒した世界にいるクウガを連れてくるはずです」
「じゃあ、僕も倒されちゃったんだ…そいつは最高だね」
そう言って顔をそらし、洞窟へと足を向けるダグバの顔には今までにない凄絶な笑顔が浮かんでいた。
お久しぶりです。
更新ペースが上がらない。
今回はグロンギサイドです。
読んでいただければわかるとおり、『仮面ライダークウガ』の世界の記憶は若干ですが、一部のキャラクターには残っています。
グロンギ側は作中ほとんどグロンギ語でしゃべっていたので、しゃべり方でキャラ付けをすることがほとんど困難でした…ので、キャラクターがぶれていたとしても、発言内容に特に誤りがなければスルーしていただけると助かります。
いっそ、恋姫の世界に乗っ取って全員女にしてしまおうかとも思ったり…
そもそも、放映から10年以上たってる今怪人の容姿が浮かんでくる人なんてどれだけいるんでしょうね…(汗)
バルバはなんとなく(CV:ゆかな)で書いてます(笑)
次回はイカ討伐です。
ではまた次回!!
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今回はグロンギサイドです。
キャラ付けが難しい…