No.332816

織斑一夏の無限の可能性30

赤鬼さん

第30話です。

やっと書き上がりました。

待っていてくれる方、本当に待たせてしまって申し訳ないです。

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2011-11-11 10:57:35 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5251   閲覧ユーザー数:4953

 

 

 

 

 

 

 

Episode30:学年別トーナメント③―織斑一夏は悪の帝王―

 

 

 

 

 

 

 

【楯無side】

 

 

私は彼を探していた―――そう、IS学園で噂の織斑一夏を。

 

私の試合は午後からなので、一夏の試合を生徒会室にあるモニターで観戦していた。

 

四月と五月は所用で学園を空けていたので、彼の試合を見るのは初めてだった。

 

データ上でしか知らなかった彼の実力。

 

初めて彼がISを駆る様をモニターした感想を率直に言ってしまえば、”異常”だ。

 

IS学園に入学するまでISに触れた事もなかった彼が各国の代表候補生に引けを取らない実力を有している事が現実では有り得ない。

 

各国の代表候補生、しかも専用機持ちともなれば、いわゆるエリート中のエリート。 なりたくてもなれないそんな彼女達にIS初心者の彼の実力が伯仲しているという現実がそもそも有り得ない。

 

更識家の当主として、IS学園の生徒会長として、学園唯一のロシア代表として、そこに至るまで私だって時間が掛かった。

 

いくら天才と言われても、始めからIS適性値が高かったといっても、努力しなかったわけではない。

 

だからこそ、学園に入学して二ヶ月しかISに触れた事がない織斑一夏の急成長が信じられない。 というよりも有り得ないのだ。

 

中学時代まで普通の男子中学生であった彼。 世界最強”ブリュンヒルデ”の称号を持つ織斑千冬の弟だからというだけで、彼の急成長の理由にはならない。

 

そして先程の試合を見た限り、彼はまだ全力を出していない。 だからこそ、彼に対して興味を持つ。

 

まだ一度の逢瀬しか経験していないが、織斑一夏を知りたいと思う私がいる。

 

織斑一夏の持つ無限の可能性、彼がこの先どうなっていくのかを見てみたいと思う私がいる。

 

そして、彼なら......

 

唯一の父親から道具としてしか扱われなかったシャルロット・デュノア―――試験管ベイビーとして生まれたラウラ・ボーデヴィッヒの心の闇を晴らしてくれた彼なら、”あの子”の支えに、―――そして私を支えてくれる存在になってくれるかもしれない。

 

まだ一度しか会った事がない織斑一夏にこんな事を思えてしまう。

 

おかしい話だ。 最初から信用できる人間なんていない。

 

表情は笑顔でも内心では正反対な事を考えるのが人間だ。 これまでそういう人間ばかりを見てきた。

 

もちろん人間全てがそうだとは言わない。 でも、初めて接触する人間を信用できるほど、私はおめでたくもない。

 

でも彼はこれまでの人間とは違う―――そう思えてしまう。 何故だろう? 何で彼がこんなに気になる?

 

世界唯一の男性IS操縦者だから?

 

―――違う。

 

世界最強”ブリュンヒルデ”の称号を持つ織斑千冬の弟だから?

 

―――違う。

 

シャルロット・デュノアを包み込み、ラウラ・ボーデヴィッヒを変えてしまったから?

 

―――違う。

 

どうして彼を知りたいと思うのだろう?

 

IS学園生徒会長としてではなく、更識家当主としてでもなく......ただ純粋に彼を知りたいと思う私がいる。

 

 

「んふふ♪」

 

 

でも、この感情は悪くない。

 

さてさて、話題の一夏君はどこにいるのかなぁ~とキョロキョロしながら、彼を探してみる。

 

そして探し物はすぐに見付かった。

 

壁に隠れ、肩で息をしながら潜む彼の姿を。

 

取り合えず、面白そうなので気配を殺し、彼に近寄ってみる。

 

そして彼の視界を塞ぐように両の手で彼の目を塞ぐ。

 

 

「だーれだ?」

 

 

「へ?」

 

 

さぁ、お姉さんを楽しませて♪

 

 

 

 

【一夏side】

 

 

「だーれだ?」

 

 

「へ?」

 

 

突然、目の前が真っ暗になった。

 

え? え? え? 誰だ?

 

いくら気を抜いていたとはいえ、近付いてくる気配に気付けなかったなんて。

 

しかし、聞こえてきた声に敵意はなく、ただ俺をからかってるだけのようで、楽しさが滲み出しているような笑みがその言葉に含まれていて、イタズラを楽しむ子供のようにも聞こえる。

 

こんな事をしてくる女性の知り合いって、俺にいたっけ?

 

取り合えず、箒、セシリア、シャルロット、ラウラ、清香さんのお仕置きから逃げ出している最中だからこの5人は有り得ないし、鈴はまだ試合が終わったばかりだから違う。 それに鈴はこんな大人びた声はしてない。

 

 

「ぶー、本当に分からないの?」

 

 

「え? い、いや、えっと......」

 

 

未だに誰か分からない俺に焦れた相手が非難してくる。

 

 

「はい、時間切れ」

 

 

結局、誰か分からないまま目隠しから解放された俺は、背後にいるであろう相手を確認しようと後ろを振り向くと、そこには頬を大きく膨らませ、ジト目で睨んでくる先輩がいた。

 

 

「えっと、何してるんですか? 先輩......」

 

 

「ふん、だ」

 

 

そっぽ向く先輩。

 

うわぁ~、機嫌損ねちゃってるよ。

 

第一印象は年上のお姉さんで油断ならないって印象を受けたけど、今目の前にいる先輩はそんな第一印象を木端微塵に粉砕してくれるほどに子供っぽい。

 

 

「どうせ私は遊びだったのね。 そうよね、周りにあれだけ女の子がいるんですもの。 私なんて所詮、遊びの女でしかなかったのね」

 

 

およよ、と泣き崩れる先輩。

 

しかし何て分かりやすい泣き真似をするんだ、この人は。

 

 

「え、い、いや、あの、だって......まだ先輩とは一度しか会った事ないじゃないですか」

 

 

「楯無、もしくはたっちゃんで」

 

 

「はい?」

 

 

「先輩じゃなくて、楯無、もしくはたっちゃんでも可」

 

 

くっ! この人......めんどくさいっ!

 

 

「じゃ、じゃあ、楯無さんで」

 

 

「さん付はいらないんだけど、まぁ及第点を上げておこう♪」

 

 

さっきまでの機嫌の悪い表情が一転して、あどけなさを残す笑顔で俺に笑いかけてくる。

 

どきっ。

 

その表情につい見惚れてしまう。

 

 

「おや? おやおや?」

 

 

ずいっと俺に詰め寄り、顔を近づけてくる。

 

楯無さんは黙ってれば、間違いなく美人である。きめ細やかな肌にこちらの奥深くまで見抜くような瞳、そして長く綺麗な睫毛、そして制服の上からでも分かる立派な双丘―――そう、箒の核弾頭級《ダイナマイト》にも全く引けを取らない、完璧な美巨乳が俺の視界いっぱいに迫ってくるっ!

 

 

―――司令部よりおっぱい01! 即座に撤退せよ! 目の前の敵はお前にはまだ荷が重い! 直ちに撤退せよ!

 

 

くっ! 頭の中で冷静なもう一人の俺(?)が撤退を促してくる。

 

確かに目の前の楯無さんは俺の理性を粉々にするほどの兵器《おっぱい》を持っている。

 

いくら伝説のおっぱい戦士であるこの俺でも敵わない者はいる。

 

これまでは千冬姉だけだったが、楯無さんに勝てる気がしない......っ!

 

 

「んふふ~♪」

 

 

首に楯無さんの両手が絡みついてくるっ!

 

ふわりとした花の匂いが俺の理性を惑わすかのように、心の奥底まで染み込んでいくようだ......。

 

 

―――司令部よりおっぱい01! 撤退! 撤退ィィィィィィィーーーっ!

 

 

はっ!

 

くそっ! 俺とした事が一瞬、意識を飛ばしてしまったっ!

 

ナイス! 俺の理性を司るもう一人の俺よ!

 

この人は危険だ!

 

勝てる気がしないっ!

 

 

「逃げようとしても無駄だよ?」

 

 

くそぉぉぉーーーっ、この人、俺の先の先まで読んでやがるっ!

 

何気に首のホールドが解けないぃぃぃぃぃぃっ!

 

 

「それにもう逃げても無駄だと思うよ?」

 

 

楯無さんのその一言はまさに俺にとって死刑宣告だった......。

 

気が付けば、俺と楯無さんを囲むように、般若面のような箒、セシリア、シャルロット、ラウラ、清香さんがいたのだ。

 

 

「「「「「ふふふふふふふふふふふふふふ」」」」」

 

 

「ひぃっ!」

 

 

五人の雰囲気に気圧され、ガタガタ震える俺。

 

 

―――司令部よりおっぱい01......! 既に状況は決してしまった......! 潔く散れ......!

 

 

おぃぃぃぃぃぃぃーーーーっ!

 

見捨てるんじゃねぇーよっ、もう一人の俺ェェェェェェェェェェェっ!

 

あれ? そういえば、さっきまで俺をしっかりホールドしていた楯無さんがいない!?

 

どういう事だ!?

 

きょろきょろと辺りを見回すと、五人の後ろで扇子をぱんっ、と開きながら笑っていた......。

 

開いた扇子には『暗雲低迷』と書かれていた。

 

言葉の意味は”今にも危険や破局が起こりそうな不安なさま”......そのまんまの意味じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!

 

 

............

 

 

.........

 

 

......

 

 

...

 

 

もう、このオチ、やめてェェェェェェェェェェェっ!

 

 

............

 

 

.........

 

 

......

 

 

...

 

 

 

 

*◇*◇*◇*◇*◇*◇*

 

 

 

簀巻きにして転がされてる俺。

 

THE☆無様。

 

そんな俺を訝しげに見てくる鈴。 試合を終えて、ISのコア・ネットワークを利用して俺達がいるロッカールームに来たようだ。

 

 

「で、これ、どうしたの?」

 

 

ははは......これ扱いですよ。

 

主人公なのに......これですか......。

 

ドチクショーーーーーーーーーーーーーーー!

 

 

「何か文句でもありますの?」

 

 

顔は笑顔なのに怖いオーラを醸し出すセシリアさん。

 

 

「イエ、文句ナドアルハズモアリマセン。僕ガ愛シテルノハセシリアサンデス」

 

 

「うふふ、よく言えましたわね。 私も愛しておりますわ、一夏様」

 

 

俺の感情の無い言葉でも気にした様子でもなく、怖いオーラを引っ込めていくセシリアさん。

 

 

「待てっ! 一夏は私の事も愛しているのだ! お前だけではないぞ!」

 

 

お約束の箒さんも登場です。 もちろん逆らえる筈もありません。

 

 

「勿論、箒サンモ愛シテオリマス」

 

 

「あ、あ、あ、愛してる......」

 

 

俺の言葉を反芻しながら箒さんは顔を真っ赤にし俯いてしまう。

 

その様子を見ていたラウラに清香さんまで俺を睨んでくる。

 

 

「ラウラサンモ清香サンモ当然、愛シテイマス」

 

 

「う、うむ。 さすが、わ、私の嫁だな」

 

 

「えへへへへ~」

 

 

取り合えず、彼女達を怒らせてはいけない。 俺自身の為にも!

 

そう、これは逃げではないのだっ!

 

ぞくぞくぞくぞく!

 

ふと、とんでもない負の気配を感じる。

 

最早、誰が負の気配を醸し出しているのか想像も容易いのだが、視線を向けたくない。 向けたら俺が色んな意味で終了してしまう気がする。

 

 

「そ、そうだ。 午後の試合って、確かのほほんさんペアじゃなかったか?」

 

 

苦し紛れと思われるかもしれないが、話題転換するしかないのだっ!

 

 

「そういえば、確かのほほんさんのペアって四組の代表候補生なんでしょ?」

 

 

清香さんも気になっているのか、のほほんさんのペアが四組の代表候補生という事しか知らない。

 

何しろ、四組の代表候補生は専用機持ちなのに諸事情により専用機が今まで無かった為に、前回のクラス対抗戦にすら出場していない。

 

だから誰もどんな人か知らないのだ。

 

 

「イギリス代表候補生として、他の国の代表候補生の事は気になりますわね」

 

 

「それじゃ、試合を見に行くか? この時間ならまだ始まってないだろう」

 

 

セシリアを始め、ラウラも気になったみたいだ。

 

 

「じゃ、じゃあ、試合見に行こうぜ、な?」

 

 

俺の言葉に皆が同意してくれ、俺を縛っていた縄も解いてくれる。

 

ふぅ、久し振りに自由を得たぜ。

 

やれやれだぜ。

 

どこかの学ランを着る某主人公のような決め台詞を頭の中で再生。 今ならJ○J○立ちでも何でも出来るぜ。

 

 

「......、一夏、後でお話ししようね?」

 

 

ぼそっと一言。 俺の背後に立ったシャルロットさん。 男装している為、公に自分の感情を露わにできない苛立ちが隠しきれていないせいで、その雰囲気は鬼気迫るものがある。

 

 

「......はい......」

 

 

がっくりと項垂れる俺には肯定しか出来ませんでした......。

 

 

 

 

*◇*◇*◇*◇*◇*◇*

 

 

 

 

【簪side】

 

 

私の大好きな勧善懲悪もののヒーロードラマ。

 

しかし現実にヒーローという存在がいるものではないと思う。

 

私にとって、織斑一夏は悪の帝王。 私の専用機の開発は織斑一夏の専用機開発に人を回されたため、後回しにされた。 完全無欠な姉と少しでも肩を並べたくて頑張ってきた私を邪魔した存在。

 

逆恨みだって分かってる―――でも、彼の噂を耳にすればするほど、彼を好きになれなかった。

 

たくさんの女性をはべらせる浮気性な男。 しかも本音まで彼に対して想いを寄せてるかのような節がある。

 

打鉄弐式を本音と一緒に組み上げてる際にしきりに話題に上ったのは織斑一夏の話ばかり。

 

 

―――おりむーはね~、IS初心者なのに代表候補生に勝っちゃうんだよ~。

 

 

―――この前、おりむーが遅刻して来たら織斑先生に見付かって出席簿で頭を叩かれてね~......

 

 

―――おりむーは~......

 

 

ウンザリだった。

 

私からしたら本音は織斑一夏に毒されている。

 

でも、本音は私にとって子供の頃から一緒に育った幼馴染であり、友達の少ない私の大事な親友でもある。

 

だから思う。

 

 

―――親友を夢から覚ましてあげる。

 

 

―――悪の帝王は私が打倒してみせる、と。

 

 

「おいで......打鉄弐式......」

 

 

ぱぁっと光の粒子が私の体を包み込む。 そして装甲を纏うのと同時に浮遊する。

 

打鉄弐式......やっと組み上がった私の大事な愛機。

 

その外見は打鉄と大分違う。

 

スカートアーマーは機動性を重視した独立ウイングスカートに換装され、腕部装甲もよりスマートなラインへと変化させた。 防御型の打鉄に対して打鉄弐式は機動性を重視している。

 

肩部ユニットもシールドではなく大型のウイングスラスターが一つに、小型のジェットブースターが前後で二基搭載されている。

 

打鉄と打鉄弐式の共通点は頭に装着されたハイパーセンサーくらいしかない。

 

隣には本音が既に打鉄を装着して待機していた。

 

 

「本音、いこう?」

 

 

「りょ~かい~」

 

 

アリーナに飛び立つと既に対戦相手が待機していた。

 

初めての実戦。

 

大丈夫。 この子は私と本音で組み上げた大事な愛機。

 

瞼を閉じ、試合開始の瞬間まで瞑想する。

 

逸る気持ちを抑えつけるように、この場から逃げ出したいと思う不安な気持ちを落ち着けるように。

 

そして試合開始のアナウンスが流れる。

 

ふぅ、っと一息。

 

対複合装甲用超振動薙刀〈夢現〉を呼び出し、両の手で握りしめる。

 

本音が傍にいてくれる。

 

打鉄弐式は私に応えてくれる。

 

大丈夫、私はやれるっ!

 

試合開始の合図と共に二人の対戦相手は距離を取る。

 

二人とも見たところ、ラファール・リヴァイブであり、銃撃戦を得意としているのかもしれない。

 

だから自分に有利な距離を取り、先制攻撃を仕掛けるつもりのようだ。

 

 

「かんちゃん!」

 

 

「分かってる......行くよ......打鉄弐式!」

 

 

集中力を高め、ハイパーセンサーで相手二人をターゲットロックする。

 

 

「逃がさない......」

 

 

肩部ウイングスラスターに取り付けられた六枚の板がスライドして開く。

 

その中から現れたのは粒子組成が終わった八連装ミサイルポッド〈山嵐〉が六ヶ所、計四十八発。

 

 

「ロックされてる!?」

 

 

ロックされた相手が焦ってるようだが、もう逃げられない。

 

連続でミサイルが発射される。

 

凄まじい音を立てて、六ヶ所、計四十八発のミサイルが相手に襲い掛かる。

 

 

「ちょ、ちょっ!」

 

 

「うきゃぁぁぁーーー」

 

 

一人当たり二十四発のミサイルに一斉に襲われる。 普通の学園生徒では避け切れるものではない。

 

 

「本音!」

 

 

「ほーい」

 

 

私は対複合装甲用超振動薙刀〈夢現〉を構え、左側の敵に、そして本音は私とは逆の右側の敵に向かって飛び立つ。

 

決着は直ぐについた。

 

相手もすぐさま近接ブレードを展開するが、先程のミサイル攻撃に虚を突かれた形になったため、体勢を整えられていない。

 

そんな状態で相手はこちらに対して優勢に立つ事も出来ないまま、個別撃破された。

 

 

―――『試合終了。 勝者―――更識簪、布仏本音』

 

 

私は負けない。

 

完全無欠な姉にも―――そして悪の帝王、織斑一夏にも。

 

絶対に負けたくない。

 

私の戦いは今日から始まるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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