No.332353

アイマスモバイルの旅その1『東北本線・宇都宮~那須塩原間にて』

mikiyaMANOさん

栃木、那須高原にイチゴ狩りレポートの仕事に行くことになったプロデューサーと春香。その車中でのワンシーン。アイマスモバイルで宇都宮にて取得できる画像をイメージしています。

2011-11-10 05:18:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:683   閲覧ユーザー数:678

 

 今日は営業で春香と、栃木の那須高原まで向かっている。普通なら新幹線などの高速鉄道などを使うところだが、経費の関係などで鈍行電車での旅になった。

 

「始発から行かなきゃ間に合わないとはなぁ・・・。」

 

ため息をつきながら外の風景を眺める。早朝から出発した私たちは、お昼前についた宇都宮から東北本線に乗り換え、それに揺られていた。畑の広がる平地をどんどん進んで行く電車から見える風景は、日頃見ているビルの並ぶ街並みとはちがう。今日は那須塩原でイチゴ狩りレポートの仕事だ。地方TVの仕事とはいえ、放映は全国区にもなるので、少し無理も呑むしかなかった。春香は前日のうちに近くに住居がある千早の家に泊まっていたようだ。申し訳ないことだ。

 

「うちからもう少し経費が出せりゃなぁ・・・。」

 

「まぁまぁ、こういう旅もいいじゃないですか。」

 

宇都宮で買ったイチゴのお菓子を食べながら、春香は笑顔である。

 

「そうは言うがなぁ。千早にも迷惑だったろうし、帰りも遅くなってしまいそうだし。」

 

「千早ちゃんはいつも朝早いから大丈夫だっていってましたよ。」

 

「うーん・・・。まぁ少しでも仕事して立場を変えていかなきゃな。」

 

俺は腕組みしてついつい唸ってしまう。

 

「それにしてもいい風景ですねぇ。」

 

「ん、そうだな。新幹線の移動じゃこうは行かないな。」

 

途中の駅付近に家が増えたかと思うと、少し進むとまた畑が広がる。しかし、一様ではない。山が近づいたり遠のいたり、少しずつ変わる風景は俺たちを楽しませてくれる。

 

「ですよー。せっかく旅行みたいですから、楽しみましょうよ。」

 

「・・・ははは。そうだな、楽しもう。」

 

俺は宇都宮駅で買ったレモン乳酸菌飲料を飲む。

 

「・・・レモン乳酸菌だな。」

 

そういうしかない味わい。小さい牛乳パックと同じ形の容器に、小さく書かれた『栃木』に対して、大きい『関東』の文字。他の関東圏でほぼ見ないことを見ると、これは栃木に住む人々のソウルドリンクなのかもしれない。

 

「おいしいですか?」

 

「まぁ、おいしいといえばおいしいな。たくさん飲みたいとは思わないけど。」

 

「へぇー、じゃあ、半分ください。」

 

「・・・このままか?」

 

パックにはストローを刺して飲んでいた。

 

「・・・あ。え、えーと、気にします?」

 

「ん、まー、気にしない、けど、嫌だったらストローとって直接飲みなさい。」

 

「・・・じゃあこのまま。」

 

ストローでレモン乳酸菌を飲む春香。少し顔が赤いかもな。・・・まぁいいか。

 

「それにしても、こういう向かい合う席の電車、慣れないなぁ。」

 

東北本線は、四人座りの向かい合う席がある。旅行にうってつけではある。

 

「そうですか?東海道線こんな感じの電車もあるから・・・。」

 

そういえばそうだった。前に神奈川の営業で春香の家近くに行ったとき、乗ったのを思い出す。

 

「子供のころから乗る電車といえば普通の電車ばかりだったからなぁ。観光地とかに向かう路線にはこういうの多いみたいだな。」

 

向かいに座る春香の家は、箱根とか伊豆とかに向かう東海道線の途中にある。

 

「そうなんですよねー、東京の地下鉄にはほとんどああいう電車ないですよね。」

 

「まぁ、人をたくさん運ぶ電車には邪魔だからなぁ、これ。」

 

「えー、東海道線だって人多くて大変なんですよー!」

 

「朝とかのには余りこういうの使ってないんじゃないか?」

 

「・・・そういえば、そうかも。新発見ですね!」

 

手を打ち、笑顔でなるほど~、という春香を見て苦笑い。いつでも楽しそうだ。

ふと見ると、前方の席に家族連れがいる。若い夫婦と、一人の4歳くらいの男の子だ。

 

「あ、あの人たちも旅行ですね。」

 

俺の視線に気付いたのか、後ろの方を見ながら、春香はいう。

 

「・・・一応俺たちは仕事なんだぞ?」

 

「・・・わ、わかってますよぉ!遊び気分ばっかりな訳じゃないですよ!」

 

釘を刺す俺に、あわてて両手を振って弁解する春香。それを見て俺は噴出してしまった。

 

「・・・あ~、からかいましたね!」

 

「・・・い、いや、一応本気で釘を刺したつもりだったんだがな。反応が面白い・・・。」

 

「むぅ~・・・。」

 

ふくれっ面になった春香はプイ、と窓の方を向いてしまった。しまったな。機嫌を損ねたか・・・。

 

「いや、すまん。」

 

「・・・反省してます?」

 

視線だけこっちに向けた春香に頭を書きながら俺は謝ることにする。

 

「ああ、反省した。」

 

「・・・じゃあ、許します!」

 

春香はこっちを向いて笑顔で親指を立てた手を前に出した。あー、これは別に本気で怒ってなかったか。

ふと先ほどの家族を見ると、電車のおもちゃで父親と子供が遊んでいた。

 

「いいですね・・・。」

 

その平和というか和やかな風景に、春香は微笑みながらつぶやく。

 

「春香は結婚したいとかあるの?」

 

「え?あー、そうですねー・・・。ひとつの夢ではあるというか、憧れというか。」

 

「結婚が?」

 

「暖かい家族を作ること、ですね!うちの家みたいな家族を作りたいなーって。」

 

「ふーん・・・。」

 

春香の言葉は素直で、とても深みがあった。すこし、俺には眩しいかもしれない。

 

「プロデューサーさんは、あまりそういうのないんですか?」

 

「・・・そうだなぁ。あまり家族にいい思い出ないしなぁ・・・。面倒くさそうなイメージしかなくてね。昔から一人が好きだったからなぁ・・・。」

 

「・・・そうですか・・・。」

 

しまった。つい本音が出てしまった。雰囲気を暗くしてしまった。実際春香の顔が少し曇っている・・・。

 

「・・・いや、今はそうでもないかも。」

 

「え?」

 

「家族作ってみるのも悪くないかもな、とは思えるようになったかも。765プロで働き出してから。」

 

春香の顔が明るくなる。

 

「そ、そうですよー!きっといいものになりますよ、プロデューサーさんなら。」

 

「そうかなぁ。ま、春香がそういうならそうかもな。」

 

「ですよ~。えへへ~。」

 

なんか思ったより元気が出たみたいだな。良かった良かった。・・・まぁ今の言葉に偽りはない。今は確かに楽しいし。

いつか結婚して子供が出来て。家族でこの電車に乗ることがあったとして。俺はそのとき、子供にこういうかもしれないな。

 

 

『昔ね、この電車に乗ったことがあるんだよ。そのとき、お父さんが一番大切にしてた女の子とね。』

 

 

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択