第3章
桐乃達が企画した温泉旅行。その夜。
晩飯ありついた俺達は、一息ついて次何するかと考えていたが、桐乃達はすでにやることは決まっていたらしく、俺はそれに
拒否権なく従うことになっていた。
「ちょ、ちょっと、なにあんたはやる気満々なのよ、も、もしかして妹相手に変な事考えてるんじゃないでしょうね気持ち悪い!!」
桐乃は顔を真っ赤にして怒っているが、俺も大して変わらない。
「馬鹿、んなわけねーだろ、こんなのさっさと終わらせようぜ」
「へッ、それとも何か?お前ビビってんのか?」
この時の俺は半分ヤケになっていたのだろう
らちがあかないと思い挑発してみた。俺だってこんなことさっさと終わらせたいもん。
「ぐ・・こ、この!・・わかったわよ、あんたこそ途中で逃げたら根性無しのチキン男って呼ぶからね」
「な、なんだと!?」カチンと来たぞこの野郎、俺達は火花をちらし、2人でポッキーの端と端を銜(くわ)えた。
そしてポッキーゲームと言う名のチキンレースは始まった。もうこれはたんなるポッキーゲームではない。兄妹のプライドを賭けた戦いである。
その様子を五人の少女達は生唾を飲みながら眺めていた。
「なんだか意外な盛り上がりを見せてきたでござるな」
「そうね・・・これって絵的にマズイんじゃないかしら・・・なんだかドキドキしてきたわ」
「うひょーおいおいたまんねーぜこりゃぁ」
うきうきしながら加奈子はデジカメを構えてきる。
「桐乃~あんまり無理しなくていいんだからね!」
あやせは心配そうに見ている。
だがこのとき俺は周りの目なんか気にしている場合じゃなかった、一口一口噛んで行く。
ポッキーの全長は約15cm。
1cmづつ噛みながら間を詰める。
コリッ コリッ コリッ コリッ
少しづつ噛み続ける。場は変な緊張感のある空気に包まれている。
今どれくらい進んでいるんだろうか、俺は目をつぶってちょっとづつだが近づいて行く。
まだだ、まだ止めるわけには行かない。桐乃だって流石にギリギリまで来ると止めるだろう。だから、俺はもう少しだけ行けると
ふんでポッキーを噛み続けた
コリッ コリッ コリッ
「・・・・・・・・・」
待てよ?今何回噛んだ?目をつぶっているから解らない。
桐乃の返事がない、回りからも何も聞こえない。俺はうっすらと目を開けてみた。
「~~~~~~~~~~~~~~!!?」
俺の目の前にはなんと桐乃の顔が目と鼻の先にあったのだ。
もう数センチもない。まてまてまてまてまてまて!!桐乃なんでお前目つぶってんだよ!!
別に目をつぶっていなきゃいけないというルールはない。
しかも桐乃の勢いは止まらなかった。
待て待て!うわーっ!!
「んん!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はむっ
「!!!??」
「ぶはっ!!」
俺は勢い良くのけぞった。
「な、ななななななな・・・な・・・」
桐乃は茹でダコのように赤くなり、目は渦巻がぐるぐる円をえがいていて、震えた手を口の前に出し、口をぱくぱくさせて動揺していた。
「お、おま!!今はむっって!!」
沙織と黒猫とあやせは呆然としている。
「うひょーマジかよ、マジでちゅーしやがったこいつら!!やべぇ、もしかして出来てんのかおまえら」
「な・・・なんてこと・・あなたたちやっぱり・・・」
黒猫がドン引きした。
「加奈子殿・・いや桐乃様、今のはどうでしたか?」
仕切りの沙織が加奈子に向かって問いかけた。
「うむ。満足じゃ」
満足じゃ、じゃねーよ!!なんて事しちまったんだ俺達は!!ほんの一瞬、ほんのちょびっとだったが、確かに桐乃の唇に
触れた感触が・・・
「あわ・・わわわわ、ノーカン!ノーカンだから!!今の無し!!無し無し無し!!」
桐乃が混乱しながらも両手をブンブン振って否定する。
「あたりまえだ!!」
「ま、まぁ兄妹だからいいではないですか2人とも、海外では家族同士のキスなんて挨拶みたいなものでござるよ?」
それとこれとは話が違うだろう沙織殿!、・・・はぁ・・・俺達はちょっと顔を洗って来ると言って洗面所に行き、10分ほど
して、落ち着きを取り戻し戻ってきた。
「ふぅ・・・やっと落ち着いたぜ・・」なんて恐ろしゲームだ桐乃様ゲームは。
桐乃は俺に目を合わせなくなった。戦う前の殺伐とした空気はどこに行ったのか、こりゃもう当分口聞いてくれないだろうな。
「さぁさぁ盛り上がってきた所で、2周目を始めますよ!」
「おおーっ!」
ちょ、マジ勘弁してくれ。これまだ続けるのか?
そんな思いも虚しく、一人ずつ何もないことを祈りながら割り箸を引いた。
俺のは【1】と書いてある。
「おおっ!私が桐乃様ですぞ!!」
隣りから浮かれた声が聞こえた。沙織か、ほっ
沙織なら大丈夫だろう。こいつは人の事をちゃんと思いやる事が出来るやつだ。
そうそう困ることはないはず。
「ゴホン、ではでは今からいうことを必ずやってもらいますぞ」
沙織は咳払いをして口をにんまりさせながら言った。
「3番と4番がkiss」
「以上でござる」
「ちょお!!ちょっと待てぇ!!」
「何でござるか?」
「いくらなんでも倫理に反するだろこれ!!」
「何をいっているのかね京介氏、これは王様ゲームではなく桐乃様ゲームですぞ?
先ほども申した通りキスぐらい外国じゃ挨拶見たいなものだと」
沙織の目は本気だった。なんだろう・・・このゲームに異常な気合を感じるんだが・・。
って言うかいつの間にグラサンを掛けてるし!そういやこいつメガネで性格変わるんだったっけ。
俺はそんな沙織の気迫に根負けしてしまった。
「げ・・・また私じゃん」
一人は桐乃かよ。またさっきのような惨劇があるのかとなるとげんなりするぜ。
「チッ」
なんかあやせが舌打ちしたんですけど!?
そしてこの中でひときわ変な奇声を上げた者がいた。
「・・・・なんてことかしら、こんなことがありえるなんて」
その声は黒猫か、お前も災難だな
割り箸をもつ手が震えている。
「おやおや、どうやら桐乃さんと黒猫殿が当たりを引いたようですな」
「わたしちょっと気分が悪いので頭を冷やすしてくるわ」
そう言って立ち上がった黒猫はガシッとグラサンをかけた沙織に背後から両腕を掴まれていた。
「~~~~~~~っ!!」
ジタバタする黒猫だったが、意外と沙織の力は強いらしく、逃げられない状態だった。
「ちょ、ちょっと!あ、あなたも見てないで抵抗しなさい!こんな命令聞くぐらいなら自害して死んだ方がマシよ!!」
「まぁあんたならしょうがないわね。キスぐらいやってあげるわよ」
なぜか桐乃は乗り気だった。っていうかよく見ると目が血走っていて正気じゃない。こりゃ俺とキスしたことが相当応えているようだ
「ふーっ・・・ふーっ・・ふーっ」
桐乃の顔が黒猫に近づいていく
「あら・・あんたよく見ると可愛い顔してるじゃない」
「ひぃ!?」
桐乃は両手でガシッと黒猫の顔をロックし、そのまま顔を近づけた。
ぶちゅううううううううううううううううううううう
「ん!?・・んんんんんんんんんんんんんn~~~~~~~ο∇ёp■※v△n~~~~~~~!?」
ううおお・・マジでやりやがった・・・えげつねぇ~~
黒猫の必死の抵抗も虚しく、結構長い時間キスは続いた。
でも女の子同士のキスってなんかドキドキするな。
数分後―――
「しくしくしくしくしく」
黒猫は畳の上に敷いた布団に突っ伏してすすり泣いている。なんとも無残な光景が残っていた。
もう立ち直れないかもしれない。不憫な奴だ・・・
そんな黒猫を無視して、第3回戦が始められた。
「そろそろ最後にしようぜ?なんだかこのゲームトラウマしか残らない気がするんだ」
「ううむ・・仕方ないですなでは次を最後にしようかと思います」
うむ、それがいい、そしてこのゲームは二度とやらないように封印すべきだ。
そして手にとった割り箸に書いてあったのは
【桐乃様】
「お!俺じゃん!」
キタ━(゚∀゚)━!
とは言っても何を命令したらいいのか思いつかない。困ったもんだ。簡単すぎると怒られそうだし、うーむ。
「お、そうだ」
みんなの表情をうかがいながら
「じゃぁ2番が桐乃様に膝枕で耳掃除をしてほしいな・・・なんて」
どうだ、これならいままでキスだかなんだかに比べて健全じゃないか、これなら誰も文句は言うまい。
「ありゃ、私?」
麻奈美だった。
「はい京ちゃんおいで」
麻奈美は正座して太ももをポンポンと叩く。
俺は素直に膝に頭を乗せ、耳掃除をしてもらった。
「あら京ちゃんけっこうたまってるね、どう?こんな感じ?」
「おお、もう少し強くしてくれ・・うん・・そこ・・」
柔らかい太ももに頭を乗せてもらい耳をホジホジする。
ヤバイ・・・気持ちいい・・・ふふふどうだ、見たか?この健全な命令を。こういうのなら安心してやれるものを。
ふと目を開くとそこには鬼の形相をした桐乃とあやせが立っていた。
「あれ?」
・・・みんなの視線が冷たい。
一人だけ空気が読めない男というか、キモい虫を見るような目で俺を見下ろしていた。
「どうやら、麻奈美さんがこのゲームを征したようですね」
バキィ!「ふん!」
桐乃はおもいっきり持っていた割り箸をへし割り、風呂に行ってくると出て入った。
なんだろう・・・なにがいけなかったんだろう・・・
「おや?そろそろ時間ですな。この辺でお開きにしますか」
そんなとき沙織はこの遊びを切り上げてみんなで温泉に入り直しにいこうという提案になった。
ほっ・・やっと終わったのか。しかし今まだ21時だ。ちょっと遊び足りないような。
まぁ十分疲れは溜まった気がするが。
また混浴みたいなことになるんじゃないだろうな。とか思ったが今度は普通に別れて入った。
それから一時間程たっただろうか風呂に入った俺は、牛乳を飲んでゆっくりした後、田村家や親父達と
世間話をし、部屋で寝ることになった。
もう頭の痛みはほとんど引いていた。
ここで部屋割りの説明をしよう、高坂家、田村家、が一部屋ずつ。それと黒猫や沙織達女性陣のいる部屋が後2つ。計4部屋とってある。
俺は高坂家の部屋で寝ようとしたのだが、桐乃に止められた。
「ああ、あんたはそっちじゃないから」
「? なんで?」
「こっちこっち」
連れてこられた部屋は、みんながいる所から少し離れてた場所で、4階のちょっと景色のいい場所だった。
「?・・」
きょろきょろして部屋を見ると、布団が2つくっつけて敷いてあり、そこにはあやせが和服姿で座っていた。正直ぎょっした。
「じゃ!ごゆっくり!」
「え!?なんだよこれ、ちょ、待て桐乃・・・?」
バタンという音と共に桐乃は帰って行った。
あやせと俺の2人きりの部屋になる。
なんなんだあいつ・・ってかこの状況をどうしろと?まさか・・・一緒に寝る・・とか・・?
・・・いやいやいやまてまてまてまてまてまて
色々な妄想が俺の頭をぐるぐる巡る。
そんな考えをめぐらせていると、あやせに呼ばれた。
「京介さん!ちょっとこっちに座って下さい」
「は、はひっ!」
う・・これは叱られるパターンじゃないだろうか・・・
俺は素直にあやせが座っていた布団の隣に正座した。
「京介さんに聞きたいことがあります」
「・・・はい・・・ないでしょう」
「京介さんはここのところ変です」
う・・・その話か・・・俺の心が全部見透かされてるみたいだ。受験が上手く行かなくて落ち込んでるなんて、まぁそりゃちょっと考えれば分かるよな。
「だって、私に・・・その・・・」
『ほっといてくれ』なんて言えるわけがない。俺は、あやせの言葉を全部受け止めるつもりで聞いた。
「私にエッチな要求をしてこないんだもん!!」
「・・・・・・・・・・」
「は?」
「だ、だって、私と付き合ってるというのをいいことに、エッチなコスプレをさせて無理矢理襲ったり、
手錠させて動けないことをいいことに襲ったりするつもりなんでしょ!?」
「しねーよ!!」
いや、それは結構魅力的な提案ではあるが今そんな話じゃないはずだ!!
「あと、わ、わわ・・私のパンツをかぶらせろって言うんでしょ!?わかってるんだから」
「なんでだよ!俺はそんなにパンツをかぶりたいように見えるのか!?」
やっぱり前言撤回する!コイツ俺の心なんて全然見透かせてなんかなかった!!
「い、言ってくれれば・・その・・私だって京介さんがどうしてもって言うんなら・・・してあげてもいいんですからね」
「マジで!?」
あ、いかん、あやせの変なペースに俺も載せられる所だったが、歯を食いしばって留まった。
「なぁ聞いてくれあやせ」
俺はあやせの肩を掴み真剣な表情で見つめた。もう、全部話そう。ぐずぐずしてるよりきっとそうした方が俺のためにも、
あやせのためにも良い筈だ。
「俺、受験が上手く行かなくて落ち込んでたんだよ!」
「もし大学に落ちたらさ・・・俺・・その・・お前と付き合う資格はない」
「だからさ・・・お前ともう恋人でいられないかもしれないって思って・・」
ぐ・・ついに言っちまった・・・。
2人の間に沈黙が流れる。そりゃそうだよな。これじゃほとんど別れ話だ。
「だから、避けてたんですか?」
あやせは悲しそうな表情でこちらを見つめてくる。
「ごめん・・・」
「ぐすっ・・・最低です・・・」
あやせの目から涙がこぼれる。
う・・あ・・・なんてこった。大好きな人を泣かせてしまった。最低だ俺・・・。
俺は何も言えなかった。弁解のしようがない。こんな最後を迎えるなんて思ってなかったから。
「最低・・・私の事は・・結局その程度のものだったんですね」
う・・ぐ・・確かに受験に失敗したのは俺のあやせへの気持ちが弱かったのかもしれない・・・終わった事は何を言っても無駄だろう。
「だって私のこと本当に好きなら、無理矢理襲って、お嫁にいけない体にしちゃえばいいじゃないですか!」
「な!?」
けして冗談を言ってる顔ではなかった。本気の真剣なあやせがそこにいた。
「京介さんは私の事全然分かってません!!」
「受験が上手くいかなかったぐらいで・・・私のこと諦めるなんて、最低です!」
あやせは俺の体に抱きついた。そのまま布団に押し倒され、暖かくて柔らかい体が俺の体を包んだ。
「だ、だって大学落ちたら死んでもらうって言ってたじゃねーか」
「そんなの・・・両親に交際を認めてもらう口実にすぎないもん・・私は・・・京介さんがそばにいてくれればそれだけで幸せなんです」
「っ・・・」
正直・・・・びっくりだ。
あやせがこんなに俺のことを思っていたなんて。
相手の気持ちをわかっていなかったのは俺の方か。
「寂しかったんだから!受験が終わってから全然連絡くれないし、私・・・京介さんに嫌われたってずっと思ってて・・・ぐすっ・・」
俺はあやせの背中に腕を回して、抱きしめた。あやせの存在を確かめるように。どうやら、あやせが好きって気持ちが
全然足りてなかったみたいだ。
「私の事・・・襲ってもいいんですよ」
「っ・・!?」
抱きついていたあやせの顔がこちらを正面から見据えていた。
「お、お前・・・何を言ってるんだ」
いきなり何を言ってるんだこいつは。変な物でも食ったのか?・・なんて冗談に思えないぐらいあやせは本気の表情をしていた
体が、声が 震えている。今俺とあやせは体が密着した状態でいる。心臓の鼓動がトクントクンと力強く、直接体に響いてくる。それは俺の心臓も同じだった。
「京介さんが私の事本気なら、私を・・お嫁にいけないような体にしちゃえば、京介さんのものになりますよ。」
悪魔の囁きだった。さっきはビビッて気づかなかったが、良く見ると風呂上がりで髪の毛がつやつやしていた。
胸元から白い肌が見えて色っぽい。そこには可愛らしい女の子が俺の体の上に乗り、目と鼻の先で密着している。
こんなあやせを目の前にして、我慢が出来そうにない・・ゴクッと無意識に唾を飲む。
少しづつ顔がこちらに近づいてくる・・・もう息がかかる距離だ。
「京介・・さん・・」
「あ・・・あやせ・・・んっ」
「ちゅ・・」
唇が重なり、本日2人目のキスだった。
ブブブブブ・・・・ブブブブブブ・・・ブブブブブブ
その時携帯のバイブレーションが鳴った。
話はその少し前にさかのぼる―――――
風呂から上がり、兄貴とあやせを部屋に送った後、自分の部屋に私達はいた。
夜風が気持ちいい。のぼせた体を覚ますには丁度いい。
部屋のベランダから窓を開けて外の景色を見る。だいぶ冬は抜けたみたいで、寒くはない。
そうだ・・けして今の気分を紛らわそうとかそういうのじゃない。
私――高坂桐乃と黒猫と沙織の3人は風呂上がりののぼせた体を木を編んだような椅子に座り涼ませていた。
麻奈美は家族の所に行き、加奈子は隣りの布団で寝息を立てている。加奈子はこのオタク仲間をみて幻滅しないか少し心配したのだが、
顔を合わせてみると、意外と気が合っていたようだ。私の状況を察すると仕事で疲れてるからと言ってさっさと寝てしまった。私は良い友達を持ったものだと思った。
「これで良かったのかしら?」
「なによ、これであの二人の中もちょっとは進展するでしょ」
「いいのですか?これで。」
そばにいた黒猫と沙織は私を訪ねてきた。
「何が悪いのよ、あの二人ぎこちなくて見てらんなかったのよ」
黒猫は私の顔を見てニヤニヤしている。なんかムカツク。
「ちょっと何が言いたいのよ、言いたい事があるならはっきり言いなさいよ」
「じゃぁ言うけど、今あの子たちはさぞ仲良くちちくりあってるんでしょうね」
「な!?ちちくり!?」
「当然でしょ?逆に聞くけど彼氏彼女が旅行に来て夜することと言ったらちちくり合う以外何するっていうのよ」
「あ、あ、あ、兄寝取られたorz」
2人の前で跪き四つん這いになって落胆した。
「はは・・・まぁそりゃそうよね。エロゲでそんなシチュあるし」
「どんなエロゲよ」
沙織が心配そうにこちらを見ている。
「桐乃さん。やっぱり京介さんの所に行ってみてはどうですか?」
「いや、だから私は2人の中を邪魔するつもりは・・・」
その言葉を口にしたら最近ずっと私が感じている不条理や憤りがこみ上げて来て目からじわりと涙がこぼれてきそうになった。
「あなたもしかして、自分の気持ちが自分でも理解してないんじゃないでしょうね」
「はぁ?なに言っちゃってんの!?んなわけないじゃん。あやせと京介が仲良くなった方が私もいいに決まってるし」
そんな私を見た黒猫が呆れたように言う。
「はぁ・・あんたねぇ・・・ちょっと鏡でも見て自分の面でも拝んで来たらどう?」
「よっぽど間抜けな顔が映るわよ?」
「なっ! うっさいっての!!私に喧嘩売ってんの?」
「は~あ、もうあなたに付き合うのは疲れたわ、喉渇いたし、何か飲み物買って来てちょうだい」
「なんで私があんたの飲み物買ってこなきゃいけないのよ」
「おう、そういえば私も喉がカラカラで干からびそうですぞ!ちょっと行って来てくれませんかね?」
沙織は大げさに喉を押さえてもがき苦しむ様子を見せる。
「・・・・・・・チッ、分かったわよ。ちょっと自販機まで遠いから少し時間かかるかもしれないから」
そう言って私は黒猫達の部屋をあとにした
そしてまた京介の部屋――――
「電話だ・・・出ていいか?」
「う・・・いいとこなのに・・・しょうがないですね」
立ち上がり、携帯を取り出す
ディスプレイには桐乃と表示されていた
すぐさまボタンを押し携帯を耳にあてる
『ぁ・・あの・・・助けて』
「は?なんだって??」
『・・・いや・・やっぱいい・・・・ブッ・・・ツー・・ツー・・・ツー・・』
「切れた」
なんだ?今のは。イマイチ聞き取れなかったが、一体何がしたいんだよ。
『助けて』
一瞬そう聞こえたような。
「なぁちょっと出て・・」
そう言いながら振り向いた瞬間だった。
「なっ!!?」
その光景を見て俺は、手の感覚がなくなり持っていた携帯を床に落とした。
あやせの服が床に落ちていた。つまり裸になった一糸まとわぬ姿のあやせがいた。
「わたしにかまってくれないのは・・・やっぱり桐乃の方がいいからですか?」
「私と桐乃。どっちが好きなんですか?」
う・・・あ・・・・
なんだこれ・・・一体どうなってるんだ・・・あやせが裸で目の前に立っている。
いや、え?なんだって?・・・桐乃と私どっちが好きかだと?
そんなのは選択肢にすらなっていない。
あやせは恋人で、桐乃は妹だ。選ぶ以前の問題だ。
「あやせ聞いてくれ。桐乃の様子がおかしかった。」
「そんなのきっと桐乃があなたを心配させようとして気を引いてるだけです」
「桐乃は私の大好きな親友ですけど・・・でも今は・・今だけは引きたくありません!京介さん!」
あやせは俺の体にしがみついて止めようとしている。
でも俺のやることなんて、もう決まっていた。
「ごめんあやせ。すぐ戻るから、お前はそのままここにいてくれ」
そう言って俺は部屋を飛び出した―――
ダッダッダッダッ
「はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・どこだ!?くそっ」
行き先を聞いてない。桐乃はどこにいる!?
寝る部屋にはたぶんいない。
廊下を走り回った。
ちょっと想像し辛いが、あやせが言ったように俺の気を引くだけだったらそれでも構わない。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
ただどうしても、胸騒ぎがした。なんだこれは、嫌な予感がする。
この不安を誰かなんとかしてくれと願いながら走って行くと、何かもみ合ってる声が聞こえてきた。
一階の自販機のある所だ。
そこに足を運ぶと、そこには桐乃の後姿が見えた。
「桐乃!!」
良かった無事か。
桐乃は振り向いて、顔を確認すると
・・・・な ん だ こ れ は
桐乃の頬がほんのり赤い。
それは恥ずかしくて赤くなるという類のものとは違った。
これは・・・・・・・叩 か れ た ?
『ブチッ』
そう頭が理解した瞬間、全身の血が沸騰するような気分だった。
「おい!!テメェ!!」とっさに目の前にいる男に叫んでいた。
誰 だ こぃ つ は?
「あ?なんだてめーは」
「お前がやったのか?」
桐乃はとっさに京介の後に隠れた
「ププっなんですかその顔、正義ずらのつもりですか?」
金髪の頭がトンガっていて、キラキラするパンクな服を着ている。見るからに素行の悪そうな男だ。
昼間見た不良っぽい連中の一人か。
「ククッ 今俺はな、ちょっと生意気な娘をしつけようとしてた途中なんだよ、お前は出て来んなや」
「・・・・・・・・・」
「あれ?どうした黙っちゃって、あ、もしかしてびびってんの?女の子助けるために出てきといて」
顔を真っ青にしてびっくりしている桐乃。赤い頬を俺からわからないように髪で隠しているのが見えみえだった。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」バコッ!!
右ストレートと言うのだろうか振りかぶった右腕はパンク男の頬に当たり、その衝撃でパンク男は吹っ飛んで地面に転がった。
上等だテメェこの野郎。お前は一番やっちゃいけない事したよ、
乱闘だ、乱闘パーティだ!!受験後の受験生の失うもののない俺の全力見せてやんよ!!
「ぐっ・・がはっ・・イキナリんだてめぇ!!お前はその女の何なんだよ!!」
「ちょっと、もおいいって」
俺の後から桐乃が心配そうに声をかけてきたが、聞こえない。
「こいつは・・・こいつはなぁ俺の大事な恋人だ」
「!!」
「こいつに手を出したらたとえどんな奴だって許さねぇ!!俺が全力でぶっ殺す!!」
そんなことを言って騒いでいると、周りから何があったのかと客やら旅館の人が騒ぎだした。
そりゃここは旅館の廊下だ。人も通る。
「チッ・・・覚えてろ!クソが!!」と言い残し、パンク男はその場から逃げて行った。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」興奮収まらッずその場にしゃがみこんだ。
く~受験生パンチなめんなちくしょう。殴った手がズキズキ痛む。
手が赤い。これ殴った方もめちゃくちゃダメージあるな。でも、だとしても。
はっ、手ぐらいなんだ、俺が桐乃をほっといた代償にはかるすぎるぜ。
くそっ!!その腕を地面に振り下ろし、また拳を痛めた。
「ちょっと兄貴!!」
その声で正気に戻った気がした。
「桐乃・・そうだ、おい桐乃!大丈夫か!?」
「私は大丈夫。ちょっと打たれただけ、こんなのすぐ治るしたいしたことないから」
「そうか・・それなら・・・良かった・・・」
その後、旅館の人に事情を聞かれ、親父にはそのことをかいつまんで話した。事情を全部正直に話したら今すぐ飛び出していきそうだったから桐乃が
関わっていたことは話さなかった。
「頬大丈夫か?」
「うん・・もう腫れも引いたしなんともない」
「そう・・か・・・」
顔を見るとほんとになんてことないみたいだ。俺はほっとして、桐乃を部屋に送って行こうとした。
「ちょっと待ってよ」
桐乃が俺の腕をがっしりつかんできた
「なんだ?」
「あ・・あの・・あんた、さっき言ってたのはどういうこと?」
「は?さっきって・・何のことだ?」
「私のこと彼女って言ったじゃない」
・・・・・・・・・・そういえば言ったような・・
「い、いやあれはとっさにさぁ、やっぱ相手も妹より彼女って言った方が諦めると思ってさぁ」
「俺今からあやせんところに行かなきゃいけないんだよ、だから明日にしてくれないか?」
あやせはあれから俺を待ってるだろう。あっちも一人にはしておけないと思ったのだが・・・
「やだ」
「はぁ?」
嫌がりながら俺の腕に桐乃が抱きついてきた。
「わ、私・・・あんたの彼女だもん・・だから・・今日は一緒に寝る」
だだをこねる子供のように、いや・・というよりはまるで恋人の彼氏に甘えるように見えた。
・・・・・
こいつはほんとに俺の妹の桐乃だろうか?
「お前今ものすごい事言ってるの気づいてるか?」
「・・・う・・うっさい!あやせの所行くんなら私も連れてってもらうからね!!」
自分の言葉を思いだしたのか、顔を真っ赤にして俺に訴えかけた。しかも手は緩めるどころか余計に強く抱きついて顔を腕に埋めてきている。
うわっ!い、いきなりなんだコイツは・・・!?妹の可愛さにちょっとときめいてしまうじゃないか・・・ってぇ!!い、いやいやいや落ち着け俺!
ないないない!!とにかくもうコイツ連れてくのはしょうがない、一緒に連れて行ってあやせを説得しよう。
俺は親父にうまいこと説明して、2人であやせの部屋に向やかった。
ガチャリ
「おお、あやせ待たせたな」
「ぶっ!?」
部屋に入った瞬間桐乃が吹き出した
なぜなら―――説明したくはない、できればこの状況から現実逃避したかった。
一言で言うと、
あやせが全裸なままだった!!
「おまっ!なんで服着てねーんだよ!!」
「え!?いや、だって〝そのまま”そこにいろって言ったじゃないですか?」
それはそういう意味で言ったんじゃねーよ!
桐乃は顔を真っ赤にして動揺している
「あ、ああああああああああんたあやせとここで何やってたの!?」
「い、いや聞いてくれ桐乃!違うんだ!」
鬼の形相で俺の首袖を掴みぎゅうぎゅう締めつけ、壁に俺の体を叩き付けてきた。ぐえ・・
「あ、あんたねぇ!ことと次第によっちゃただじゃおかないんだからね!!」
桐乃の顔が怖い。
「あの・・京介さんが無理矢理・・」
「おもいっきり捏造するなあやせ!!」
「・・やっぱり乳くりあってたんだ」
ちちくりってお前・・いや、桐乃から電話が来なかったらあのあとどうなってたのか分からん。乳くり合うってのもあながち間違ってないのが恐ろしい・・。
「と、とにかく服を着てくれあやせ」
「・・・しょうがないですね」
しゅるしゅると床に落ちていた着物を着直した
結局布団を並べて3人で寝ることになる。
この前の夏以来だろうかこの3人で寝るなんて。(詳しくは小説を見直してくれ)
懐しいような気もするが、あのときとは状況が全然違う。
「おい桐乃」
「・・・なによ」
「手をはなしてくれないか?凄く寝にくい」
桐乃は俺の腕をさっきから離さなかった。体を密着しているので肩に息がかかっている、しかも柔らかくて暖かい感触がある。
こんな状況で寝れるわけねーだろっ。
「っさい」ゴスッ
「ぐえっ、イテテ、蹴んなってばよ!」
左腕を上げて桐乃から手を離そうとするといっそう強く抱きついてきた。さっきの不良に絡まれたのがよっぽどこたえたのだろうか。
その態度に、もう離れる気にはならなかった。
右腕の方、反対側を見るとあやせは俺の腕を枕にして脇から顔を出している。桐乃と大して変わらず目と鼻の先に顔がある。
「はぁ~・・・」なんだこの状況・・・
「それで、さっきの話の続きなんですけど」
少しの沈黙のあと、あやせは話を切り出した。
「桐乃とわたし、どっちをとるんですか?」
「・・・・・」
そう言ってさっきと同じ問いかけをする。
桐乃とあやせ・・どちらをとるだって?
なんだその質問は。質問になっていないぞ。
「お前は俺の彼女だし、桐乃は俺の妹だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「どちらか一人しか選べないんです。――その意味をよく考えて下さい」
そう言ってあやせは寝息を立てた。
・・・・どういう事だろうか。
ふと気づくと、目の前には天井からぶらさがっている電灯の小さなオレンジ色の灯りが見える。
真っ暗な部屋は静かでシンとしていた。
「なぁ・・・桐乃、どう思う?・・・桐乃?」
自分ではよくわからない。桐乃に問いかけてみた。
「・・・・・・」
返事がない、ただの桐乃のようだ。
「すぅ・・すぅ・・すぅ・・・」
寝てるし。お前らよくこんな状況で寝れるなおい・・。
「ふぅ~・・・」だいたい選ぶもなにも。今の俺にはどちらも選ぶ資格なんてないと思う。
今の俺は、受験に失敗して、彼女に連絡も取れず、ただ毎日部屋でうずくまって何もしていないクズ野郎だ。
しかもそんな自分が情けなくてみっともなくて、誰にも相談すら出来なかった。
・・・そんなこと考えてると目の前の天井にもやがかかってきて歪んで見えた。
「ぐ・・・ぐすっ・・・」
「ごめ・・ごめんな・・2人とも・・」
そう口にすると、涙が止まらなくなり、ひたすら泣いた。
「・・ばか」
「バカですね・・」
その時ささやかれた小さな声に気づきもせずに。
【つづく】
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ちょつと挿絵入れようと思ってるんですが、いつ完成するかもう謎なので、文章だけでも上げようかと思います。次回でラストです。