No.329577

クローズファンタジー 蒼の巻3 

これは三つの種族が織り成す繋がりのファンタジー。
『まず最初に蒼き瞳に蒼き翼と尻尾を有した青年とその仲間達の冒険談が記された巻を開くとしよう。
長い長い物語が今、産声をあげる__』

※これは続き物です。話の流れを把握したい方はプロローグから読むことを推奨します。http://www.tinami.com/view/305293

2011-11-04 22:45:08 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:391   閲覧ユーザー数:391

 

同日 20:00

 

 強風吹き荒れる崖の上でローブを靡(なび)かせながら、竜の紋章が描かれたロッドを振りかざす男が立っていた。飛んだり魔法で空間移動(テレポート)でもしない限り登れないような崖の上にいるローブ姿の男には生憎、翼も無ければ空間移動などと言った高尚な魔法も無い。

「来い。ヴェイン!」

 ならば、どうしてローブ姿の男は崖の上に佇んでいるのか? その答えは轟々しい音で羽ばたき雄叫びをあげながら崖の目の前、いわば足場のない空に現れた。

 巨大な二本の翼、強靭な鱗に覆われたその体躯。二本足は鳥の鉤爪をより鋭利に研ぎ澄ましたかのような形をしている。

 それは竜人ではなく、まさしく本物の竜。分類するなら飛竜(ワイバーン)と呼ばれる存在。

「良い子だ」

 ローブ姿の男が手を差し伸べると、飛竜は翼で仰いだだけで強風が巻き起こる巨体を子犬のように摺り寄せる。その首を撫でてやりながらローブ姿の男は満足げに微笑んだ。雲さえも突き抜けて天空を優雅に飛び回る飛竜の背に乗れば、断崖絶壁の頂上に居座るなど容易い。

「__フフ、じゃれているところ申し訳ないんだけど」

 ともすれば、他者の声が聞こえるのは非常に不自然で、飛竜と戯れていたローブ姿の男にとっては耳障りな事この上ない存在が現れた。

 それは竜人でも鳥人でもない。増してや、ローブ姿の男と同じように飛竜の背に乗って崖の上までやってきたわけでもない。移動という手順を省いて、この場にやってきた。

 人一人が収まるぐらいの赤い煙が立ちこみ始め、一人の少年が煙から飛び出してきた。その姿を忌々しげにローブ姿の男は睨みつける。その姿は、ローブ姿の男も充分なほどに不気味な雰囲気を漂わせていたが、それすらも凌駕するほどに異様だった。ローブ姿の男が不気味と表現されるなら、煙から飛び出してきた少年は奇抜で、奇妙で、妖艶な雰囲気を漂わせている。

 ピエロのような格好をした、その少年は赤色のスーツを纏い、服装とは対照的な青色の髪、顔には変てこな三日月のような模様を刻み込んでおり、不敵に笑いながらローブ姿の男と飛竜を眺めていた。

 空間移動(テレポート)。

 どんな影響も受けずに、この世の法則を無視して別の場所に移動する能力。いや、厳密に言えば能力ではなくて、少年が使用している”魔法”である。

 一歩、間違えれば出口の無い壁の中に埋まったり、体の半分だけが取り残されたままになる空間移動は魔法の中でも禁忌とされ、そもそも使おうと考える人間すらいないに等しいのだが目の前の少年は、その空間移動を何度も何度も使用しており、失敗した光景をローブ姿の男は一度も見ていない。というよりも、この少年が今までに空間移動以外の手段で現れた瞬間を見たことが無かった。

「……何の用だ?」

「いやー、計画に支障が出ると困るじゃない。こうやって、わざわざ報告の為に出向いたって訳」

「話せ」

 飛竜から手を離し、ローブ姿の男が不機嫌な様子で少年に面と向かって立つ。

「僕が折角敷いたオモチャが台無しにされちゃったんだよね。一体のお人形さんとは”糸を切る”ハメになっちゃったし」

 残念そうに少年は無邪気な表情を浮かべる。それはオモチャを壊された子供そのままであり、不自然な点はないように見える。

「ああ、でも”糸を切った”のは僕だし。はぁ、危うく猫のおじさんに名前をバラされるところだったよ」

 道化師プルチネイラ、実名であるかどうかはローブ姿の男にも分からないが目の前の少年には、外見に相応しい通り名がついていた。

「無駄に情報を密告(リーク)される前に記憶を消してあげたけど、バラされるぐらいだったら、口封じの為に体をバラしてあげたほうがよかったかな?」

 無邪気で純粋で、にも関わらず狂気に溢れたその言葉は道化師たる所以か、ただの演技なのか、ローブ姿の男には検討もつかなかったが、

「相変わらずの悪趣味だな」

 おそらく少年の姿も仮初なのだろう。プルチネイラの不愉快極まりない言動にローブ姿の男は聞かなければ良かったとそっぽを向く。

「それと、もう一つ情報がある。まあ、そっちにも行き届いてるだろうけど鼠が数匹、セッティング中の舞台に紛れ込んだみたいだね」

「ギルドの人間に騎士団か。チッ、”生贄(ニエ)”まで逃げ出したというのに」

「飛び入り役者は僕としては大歓迎なんだけどね」

 まるで演劇のように、いやプルチネイラにとってはまさに劇のようにしか映っていないのだろう。鉱山内で行われる衝突もアトラクションとして愉しんでいるに違いない。

「ふふっ、早速、一匹目の鼠が勇猛果敢に飛び込んできたみたいだよ」 

「そうか……ヴェイン」

 ローブ姿の男は待機させていたヴェインという名の飛竜に声をかけると、その背中に跳躍する。

「ああ、魔鉱石の方向にも鼠が数匹紛れ込んでるみたいでね。そっちは僕に任せて」

 豪!と手の平に炎を灯しながらプルチネイラが心底楽しそうな笑みを浮かべながら飛竜の背に向けて叫んだ。

「ふふっ、少女の脱走劇というのも興味深いけど。

 まだ、舞台は開幕すらしていない。レイド、君が何処まで強くなったか僕に見せてよ」

 遠くも近い場所にいる、一人の青年の名を呟きながらプルチネイラは赤い煙に巻かれて蜃気楼のように姿を消していく。

 

 

 

 
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