No.329458

呼吸を奪う

愛羅さん


サブマス大好きだぁああああ!でも難しさに挫折した……最後の方の雑さったらないわ……でも愛情だけは詰め込んだんだ!BLじゃないサブマスだけど、ね……サブマスでBL書こうとするとどちらのCPも愛しているがゆえに書けなくなる不思議。オリキャラ出てきます。前ボス出てきます。でもいません←


2011-11-04 19:01:06 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:702   閲覧ユーザー数:700

 

 

 

 

 まるで、呼吸を奪うような、鮮烈な一撃。

 貴女のあの一撃が、どうしても忘れられない。

 ――――今日から、貴方達がサブウェイマスターよ、ノボリ、クダリ。

 あの勝負は貴女が勝っていましたのに、どうして貴女はワタクシたちを遺したのでしょうか。

 ワタクシたちは、貴女に勝つためだけにその腕を磨いてきたと言いますのに。

 ああ、まだワタクシは、あの攻撃を、忘れ、られ、な……

 

 

 

「おい、聞いたか? 地下に棲む女トレーナーの話」

「おう、聞いた聞いた! 何でも、昔に死んだサブウェイマスターが憑いてるんだろ?」

 地下独特の湿った空気が完全に排された空間で、二人の駅員が話しこんでいた。

 それは、寒くもないのに悪寒を伴わせる新手の怪談だった。

 面白おかしく脚色された台本は、しかし場を盛り上げるには十分なのか、それとも男二人で真夜中の列車点検は怖いための気の紛らわせか。

 どちらにせよ、話はすすめられる。

「美人で誰からも慕われる滅茶苦茶強い女サブウェイマスターが、最後のバトルで勝てなくて、その怨念でここから出られないんだろ?」

「こっえーよな。でも、そのサブウェイマスターってたしか、十年ぐらい前までココに居たんだろ?」

「ああ。ノボリさんとクダリさんの前任らしい」

 最初はひそひそと。

 しだいに声は大きくなる。

「ええ! じゃぁその前任はノボリさんとクダリさんが殺したようなもん……」

「しっ! 声がでけぇ!」

 急いで口に手があてられる。

 ココは駅構内。どこで誰が見ているか分からないのだ。

 二人は、すっかり静かになって再び駅の中を歩き始める。

 

 

 ――――そう、どこで誰が見ているかなんて、分からないのだ。

 

 

 

 

「女サブウェイマスターの話?」

「はい……ここ最近それでもちきりで……」

 疲れ切ったように言ってきた駅員に、バトル前のクダリはそう問いかけた。

 まだダブルトレインが出るまで時間がある。クダリは、その駅員の話を聞くことにした。

「それがどうかしたの?」

「いや……あの、おかしいなって思って……」

「おかしい? 怪談が広まるのが?」

「はい……だって、十年も前じゃないですか!」

 思いつめたように切り出した言葉は、もっともらしい正統性を帯びていた。

「確かに当時は話題性もあって盛り上がっていたみたいですけど、でも、今更……」

「……確かに、怪談広まるの、おかしい。でも、それはしょうがない」

「な、なんで!?」

 もうすぐ、ダブルトレインの出る時間だ。

 クダリは駅員に背を向けて歩きだした。

「きっと、赦されたいんだよ」

 

 

 

 

 

 車内は赤に染まっていた。

 小柄な女性が泣きじゃくって一体のポケモンを抱えている。

 男は、あまりにも冷徹な瞳でその光景を見下ろしていた。

「……本当に、今更、ですね」

 贖罪を乞うような声で、断罪を乞うような一撃が、二人に見舞われた。

 

 

 

 

 

 

「ノボリが?」

「ええ。やりすぎだと乗客から苦情が……」

 今日もよく働いた。そんな満足感を楽しみながら所長室へと返ってきたクダリを出迎えたのは、楽しんでいた感情全てが吹き飛んでしまうような報告。

 サブウェイマスターノボリのバトルが、オーバーキルだと。

 ポケモンバトルは突き詰めてしまえばトレーナーとポケモンの意思疎通の度合いを測る『競技』に他ならない。

 当然そこには殺意なんてものは存在しないし、それは暗黙の了解……つまりは確認するまでもなく当然であること、だ。

 そのため、この場での『オーバーキル』という表現は『行き過ぎた殺し』ではなく『行き過ぎた行動』であることをさす。

 ノボリのやった行為は戦闘不能間近の相手にオーバーヒートなどのウェポン級の技をかました挙句に戦闘不能になったポケモンにまで戦闘を強いているということであった。

 クダリは、その笑みを崩さぬまま考える。

 確かに、ここ最近ノボリの様子が変ではなかったかと問われれば、それは間違いなく肯定を示すものだろう。ノボリは、確かに最近おかしかった。兄弟の贔屓目を含めても、おかしかった。

 いつも何か思いつめたようにポケモンたちを見つめているし、それにポケモンたちがおびえても構うことはない。クダリが言えば止まるが、その間隔が短くなっていたのはたしかだ。

 それでも、

 ――――ノボリは大丈夫

 そんな無責任な言葉で自分は納得していた。

 なるほど。これは自分がさぼっていたつけが回ってきたという奴だろうか。いや、そうだろう。そうとしか考えられない。

 クダリは、コートと帽子を脱いだ。

 クダリに報告をしていた駅員が焦って問いかける。

「ボ、ボス! どうされたんですか?」

「今からボク、お休み」

「は?」

「ノボリきっと困ってる。だからボク助けに行く」

「い、いや、ですが……」

「きっと、ボクらが『サブウェイマスター』なのがいけないんだ」

「へ?」

「だから、今はお休み」

 一方的にそう言ったクダリは、未だ焦る駅員に食えない笑みを一つ残す。

 そして、モンスターボールを六つ、机に置いた。

「この子たちの事、よろしくね」

「え、あ、はい」

「じゃぁ、『いってくる』ね」

「? はぁ……」

 どこかいつもと違う響きを持った言葉を残して、くだりは所長室を出て行った。

 

 

昼間だと言うのにここは随分と暗い。

 駅の車両の一つで、ノボリは一人、そこにいた。

 バトルサブウェイは運航を中止。しばらくは見合わせとなった。

 その原因が自分のしでかしたことであると、ノボリは重々承知している。だが、それを顧みることは一生ないだろう。

 ――――今日から、貴方達がサブウェイマスターよ、ノボリ、クダリ。

 未だにふに落ちない言葉が、胸の中でぐるぐると回っている。それが吐き出す出口を求めてさまよっているのが、落ち着かないこの体がよく理解していた。

 あの時、彼女の引退試合であり次代のサブウェイマスターを決めるあの試合の時。

 ノボリとクダリは全力で彼女に挑んだ。だが、全力とはいえ当時の二人はまだ十代。それこそデモンストレーションのような闘いになるはずだった。

 予想に反して、二人は善戦した。誰もかれもが二人を応援した。

 けれど、最後の一撃。先走って指示を出してしまったノボリのシャンデラが見舞ったオーバーヒートが、彼女のカメックスが放つハイドロポンプによってかき消され、勝負は決した。

 誰もが分かるほど、ノボリの判断ミスだった。

 しかし、クダリはそれを責めることなどなかった。ただ、こちらを向いて「やったねノボリ!ボスをあそこまで追い詰めたよ!」そう言って笑ったのだ。

 そのあと、彼女は他の猛者たちを事も無げに振り払って、唯一善戦したノボリとクダリに次代サブウェイマスターの座を明け渡したのだ。

 そして、全ての手続きを終えた後、遺書も残さずに服毒をして自殺をした。

 ――――あの座は、クダリ一人のもののはずだった。

 だだ、クダリ一人では抱えきれないからと、ノボリも付け加えられたのだ。

 だというのに、シングルトレインを受け持ち、クダリと二人でマルチトレインまで持ってしまった。

 自分は、クダリの足を引っ張ってしまうような、そんな存在だと言うのに。それでも片割れはそこで笑っている。

 自分が、憎かった。

 死んでしまいたくなるような、みじめさだった。

 今でも、彼女のあの一撃が、全てを狂わせた一撃が忘れられない。

 どうか、消えてしまえるような、この呼吸ができなくなるような闇を、だれか、取り払って……。

ガゴンッ

 乱暴な訪問者が、車両の扉をこじ開けた。

 

 

 

 

 

 目に入ったのは、白、だった。

 あまりにも表情がいつもと違うので気付かなかったが、それが自分の片割れであることをノボリは思い出す。

「クダ……リ?」

「どうしたのノボリ。そんな驚いた顔して」

 実際驚いているからこんな顔をしているのだと、そう言おうと思ったのに口が思うように開かない。

 それをいいことにクダリはまくし立てた。

 

「あのさ、ボスのことから立ち直れてないからってなにやってんの?」

 

 それは、いつもの片言な、独特な喋り方ではない。

 彼の、本気で怒っている時の、声。

「怪談自分ばらまいて、本当に人殺しになって、それで退職でもしようとしてるわけ?ふざけないでよ」

 核心を抉るような言葉に、ノボリは耳をふさぐ。

 それを構わずにクダリは続けた。

「何のためにボクたち二人でサブウェイマスターになったと思ってるんだ。何のための二人だと思ってるんだ」

 泣くような声音で、叫ぶ。

 それが何を意味しているかなんて、分からないノボリではなかった。それでも、なおさら強く耳をふさぐ。

「ボスがあの時、誰に対しても本気でなかったことは、知ってるだろ!」

 分かってなかったわけでは、なかった。

 ボスは、本当に強い人だった。自身の非力さをカバーするように強くあり、そしてポケモンたちも彼女に全幅の信頼を寄せていた。

 だからこそ、あの場に居たような駅員や自分たちが、かなうはず何て無かった。

 最初から、彼女は手を抜いていたのだ。

「……知らなかったわけでは、ありませんでした」

 シャンデラのオーバーヒートも、ベストタイミングだった。

 これ以上ないくらいのチャンス。あれが本気の試合であれば二人は勝っていた。

 だからこそ、許せなかった。

「それでも、ワタクシたちは、負けたのですよ……!」

 なぜ、あの時自分たちに勝たせてくれなかったのか。

 人殺しの汚名を背負って、この地下で薄汚れながら生きていかなければ行けなくなったのか。ノボリは分からなかった。

「もう、ワタクシには……耐えられません……!」

 十年。子供も成人するような年月だ。

 その期間、二人は耐えた。事実を知る者も、そうでない者も皆が皆二人を嫌煙する中で必死に信頼を築き上げて、誰もがうらやむようなバトルセンスを磨いて。

 そんな、長い時間二人は耐え抜いた。

 それに、ノボリが耐えられなくなっただけだ。

「……だから、怪談の中の僕らが、ボスに勝ったことにしたの?」

「そう……です」

 勝ちたかった。どうしても、どうしても勝ちたかった。

 それを、せめて話の中だけでも完成させてしまおうと、ノボリは嘘をついた。

 ――――現サブウェイマスターに負けた前任のサブウェイマスターが、さまよっている。

 クダリは、ため息をついた。

「……あの時、ボスに全力で挑んだのは、ボクらだけだったんだって」

「……は?」

 唐突に呟かれた言葉に、ノボリは目を見開いた。

「ボスは強すぎたから、他の駅員たちはどこか諦めたように闘ってた。でも、ボクらは最後まであきらめなかった。……あの時は分からなかったけど、今なら分かるよ」

「クダ……リ?」

 ゆっくりとノボリに歩み寄る。

 そして、当然とも言わんばかりに手を差し伸べる。

「ボクは、いつまでもノボリとここでバトルをしていたい。だから、ここから先はノボリの意思だ」

 手をとって立ち上がるか。

 それとも、ここで腐り落ちていくか。

 二人の視線が、交わる。

 ノボリは、手を伸ばしかけて、そして、やめた。

「――――――――――」

 心底つらそうな顔をしたクダリが、手を引っ込める。

 それは、泣きそうな顔だった。

「なにを、そんな顔をしているのです」

 そう言って、ノボリは自分の足で立ち上がる。

 それに目を見開いたのはクダリだった。

「ノボリ……」

「ワタクシがここでサブウェイマスターの仕事を放り投げてしまうのは簡単です……ですが」

 言葉を区切り、帽子をかぶりなおす。

「それに、犠牲がついてきてはいけませんね」

 昼間の少女を思い出す。

 ああ、謝りに行かなければと、頭のどこかで思考が働いた。

「ノボリ!」

「ワタクシは一週間ほど謹慎の身になります。それまで、よろしくお願いしますよ?クダリ」

「うん!」

 言葉を交わして、二人は列車を出ていく。

 ああ、明日からまた仕事が待っている。

 ほら、急がなくちゃ。時間は待ってくれないのだから。

 

 まだ、あの一撃は忘れられないけれど。

 いつか、それをしのぐ攻撃を、天国の貴女へと送ってあげるから。

 それまではまぁ、気長に待っていてください。

 

 

 後日、サブウェイマスター両名が、負傷した少女とポケモンの見舞いに訪れて殴られた。

 

 

 

 

 

 

後書きと言う名の懺悔

サブマス本当に難しすぎる……そしてノボリさんの病気具合っていったらもう……。

とりあえず、今のサブマスがいるってことは前任のサブウェイマスターもいたって事だろうから、って思って書きました。ノボリさんは前サブマスに恋をしていると良いな!

ちなみに、前ボスがカメックスを使っていることの違和感は、書き終わってから気づきました。すみません。イッシュにはいませんでしたね。

ここまで読んで下さった方に感謝!!

 

 
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