No.329391

ハルナレンジャー 第一話「迫り来る魔手」 A-3

ナイアルさん

A-2続き

2011-11-04 15:45:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:343   閲覧ユーザー数:343

Scene3:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所 AM11:00

 

 駅前商店街のすぐ裏手。騒ぎがあったスーパー「カミオカ」から徒歩数分。

 ちょっと築年数がかさんだ雑居ビルが建ち並ぶ、地方都市のオフィス街。

 その一角にその建物はそびえ立っていた。

 鉄筋コンクリート製築20年。

 5階建て。

 電気・ガス・水道完備。

 エレベーター付。

 地下ガレージ有。

「…なんとも豪勢なアジトだな、おい」

 その一室で。

 シェリーがこめかみを押さえた。

 安物の事務机にキャスター付きの椅子。

 どこにでもある普通の事務用品の前に座る軍服に手甲を着けたシェリーの格好はどうにもちぐはぐなのだが。

「内装外装とも居抜きで買い取ったままですから。何しろ急な作戦でしたので」

 涼やかに答えたのは、シェリーの後ろにたたずむ長髪の青年。

 線の細い美形なのだが、痩せた体躯に妙にごついローブを纏い、目には片眼鏡と、胡散臭いことこの上ない。

「お望みとあれば、如何様にも変更致しますが」

「いい、お前に任せる。テント暮らしや墓穴住まいに比べれば充分ましだ」

 うるさそうに手を振ると、青年は一礼して下がろうとする。

「ああ、アレはどうしている?」

 思い出したように聞くシェリー。

「アレ、と申しますと?」

「おはようございますでやんす、将軍!」

「…アレだ」

「アレですか」

 扉を元気に開け放ち、「アレ」登場。

 今日も無駄にはち切れんばかりの体に、いかついが実用性は微塵もないだろうアーマーを着けている。

 背後には二人の戦闘員が、モップとバケツを持って待機。

「お部屋のお掃除をしにきたでやんす!」

 びしっと敬礼。

 後ろの戦闘員も慌てて敬礼。

「……」

 はああああっと大きなため息を吐くシェリー。

 軽く答礼を返すと、ちょいちょいっと指招き。

「は、なんでやんすか?」

 しっぽがあったらちぎれんばかりに振っていそうな面持ちでてててーっと小走りに駆け寄ってくる「アレ」。

 側まで来た「アレ」に、更に指招き。

「なんでやんすかなんでやんすかー?」

 顔を近づけてきたところへ。

「貴様はっ!戦闘詳報も上げずにっ!何をやっとるかーっ!」

 ぐりぐりぐりぐりっと拳でこめかみを責める。

「ギニャー!?痛い痛い痛いっ!こめかみがっ!いたた!鉄っ!いたいいたい!」

 じたばた暴れる「アレ」。

 しばらくして、ぐったりと動かなくなった「アレ」の首根っこを掴んで放り投げる。

 あわてて介抱する戦闘員達。

 

「で、レミィ。彼らをどう思う」

 意識を取り戻した「アレ」……レミィに質問するシェリー。

 レミィの方は将軍の前で直立不動。

 こめかみがまだじんじんするのだが、下手にさすったりとかしたらまた怒られそうなので我慢我慢。

「冗談みたいな連中でやんすな」

「……連中も、お前にだけは言われたくなかろう」

 シェリーはジト目でレミィの……特に胸の辺りを見やる。なんだアレは。何食ったらあんなバカスカでかくなるんだ……じゃなく。

「だが、現に負けていたではないか」

 責めているわけではない。現状と敵勢力の確認。そもそもあんな目立つ格好で出したのは威力偵察も兼ねているのだ。負けるのも織り込み済みである。

 それはレミィも重々承知。承知なのだが……負けるのはやっぱり悔しいし、問いつめられれば怖いわけで。背中にはじっとりと嫌な汗が流れている。

「こここ交戦規定のせいでやんす」

 ちょっとどもった。

「交戦規定?」

「……周辺への被害を極力抑えること、特に兵器の利用を厳禁、とご指定なさっておられましたが」

 シェリーの背後に控えていた青年の口添え。

「ああ、なるほど」

「周りの棚とかお客さんに被害を出さないようにみんな頑張ってたでやんす!だから不覚を取ったでやんす!」

 部下思いのレミィの熱弁に後ろで掃除をしつつ聞き耳を立てていた戦闘員はちょっと感動、ちっちゃくガッツ。

「でも、あいつらも結構強かったでやんすよ」

 レッドやイエローはきちんと訓練を受けた人間特有の、無駄のない動きをしていた。

 ブルーは荒削りながら実戦慣れしていた。

 ピンクは……なんかすげえ馬鹿力だった。

「どこの誰かはわからないでやんすが、みんな格闘、それもかなりの実戦経験者でやんすね」

「ふうん?」

 バカに見えても実働部隊を任されているだけあってレミィの目は確かだ。疑うわけではないのだが。

「当局の介入はないと認識していたが?」

 この平和ボケした国で実戦経験者となれば、その多くは警官か自衛隊員と言うことになる。そうした当局組織の介入はないと判断しての作戦だ。もし介入が確認されたら、方針の変更を考慮しなくてはならない。

 だが、責めるように問いかけられた青年―軍師ジルバはどこ吹く風だ。

「彼らの正体に関しては、鋭意捜索中です」

 介入があった、とも無かった、とも言わない。

 眼鏡の奥の本心を見せないこの男はどうも信用出来ない、とシェリーは思う。

 

「ああ、昨日の件で一点だけよろしいでしょうか」

 冷えた空気の中、ジルバが懐からファイルを取り出す。

「今朝方、邂逅地点のスーパー店長から電話がございまして」

「何だ?物的・人的被害なら補償すると伝えておけ」

 行って良し、というか、邪魔だという風に手でレミィを追い払うシェリー。

「ああ、いえ。レミィさんもお聞き下さい」

 すごすごと出て行こうとしたところを呼び止められて、振り返るレミィ。

 なんだかとっても嫌な予感……

「評判が良かったので是非またやって欲しい、と。日当も充分な額を提供する用意があるそうです」

 

 

<Aパート終了ここでCM>

 


 
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