No.329367

人を馬鹿にしてはいけない

siaさん

ぴくしぶ等に投稿した作品。

2011-11-04 13:34:22 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:502   閲覧ユーザー数:502

 

朝の散歩ついでに行きつけの喫茶店で紅茶を飲んでいるとクラスメイトの橘と出合った。彼女はサバサバした性格でとても話しやすい。なので僕は特別好意を持っていた。

くだらない話を交わしていると、途中から僕が読んでいた週間雑誌の話題に移った。

何を読んでいるのと聴かれたので、少し迷ったが正直に北野クニエ・天真爛漫野外ヌードといったら彼女はヤヤ冷めた目をしつつも、やはり男はこういうものに興味があるのかと問うた。

僕は言った。女の裸が見たいんじゃない。彼女の裸が見たいのだと。

 

北野クニエ。本名北野幸子。貧乏な家に生まれたが特にいじめられることもなく平凡な毎日を過ごしていた。社会見学や修学旅行なども参加していたし、多少数は少ないもののお土産を買って帰れるくらいの金は貯えていた。毎日人並みのご飯も食べる事ができていたらしい。しかし中学卒業の直前、父親がリストラされ普通の生活もできなくなってしまった。姉を無理して大学に進学させたため、退職金や失業保険。社会保障も生活の足しにはならなかった。故に彼女は高校へ行く事を断念したのだ。姉は大学を辞めて働くと言ったが、幸子がそれを止めた。姉には翻訳家という立派な夢があるが、自分にはない。だから私は別に高校なんて行かず働くと言ったらしい。両親は内心幸子を高校へと行かせたかっただろう。しかしながら困窮には勝てず、また成績優秀な姉の将来を憂いてか、幸子の提案に反対できなかったのである。

幸子は働いた。その日を生きるため。両親のため働いた。姉のために働いた。父親はなんとかコンビニでアルバイトとして雇ってもらったが、時給780円では家族を支えることもできなかった。

母親は病気がちであったが、なんとか内職をして家計の足しにしようとした。

しかしすべては悪い方向に行ってしまう。

父親は自殺し母親は倒れてしまった。

姉は今度こそ大学を辞めると言ったたが、幸子の一言に肩を震わせ、再度勉学の道に進み、自分の夢をかなえると誓った。

お姉ちゃんだけが私たちの生きる希望だから、頑張って大学を卒業して夢をかなえてよ。

彼女は笑顔で言った。父が死に母が倒れ、自分の生活すらままならない幸子がである。姉は泣かずにはいられなかったという。

そんな中幸子に転機が訪れた。いや、転機といえるかどうかは人それぞれの価値観でまた違うと思うのだが、少なくとも幸子と僕にとってはそれはまさに人生を変える出来事であった。

働き詰の幸子はある日休みを半ば強制的にもらったので、古くからの友人と街へ出かけた。もちろんその友達は幸子の事情を知っており、同情といえば聞こえが悪いが、苦労が少しでも和らげばいいと思いご飯をご馳走したのだ。その帰りのことである。

友達がトイレに行っている間、彼女は妙な男に話しかけられていた。

すこし様子を見ているとどうやらスカウトといわれる役職につく人のようで、なんでもヌード写真の被写体に是非にとのことであった。

友人はすぐに駆け寄り彼女を助けようとしたのだが、幸子はその彼を制止して落ち着いた様子でこういったのである。

いくらもらえるんですか?

ヌード専門アイドル。北野クニエの誕生であった。

当然母親と姉は反対した。しかし幸子は、たかが裸を見られる程度のことで今までの倍以上のお金をもらえるなら別にいいじゃないかと平然と言ってのけた。長い貧乏生活の中で、彼女の価値観は少しずつ社会的通念からずれていったのかもしれない。

そんなわけで今では立派に有名雑誌に載るまでになった。その筋ではかなり有名らしいが僕にはよくわからない。

 

話が終ると橘さんは言葉につまったようで、なぜか僕に謝ってきた。

謝ることなんかないさと、やや自虐的な笑みで僕は言った。

 

 

あの時スカウトされていた彼女を無理矢理にでも止めるべきだったのかどうか。それは今でもわからない。ただ一ついえることは、幸子は今、人生の中で一番幸せだということだ。

 

 

 
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