No.328922

【DQ5】遠雷(7)【主デボ】

sukaさん

デボラ様へんな夢を見るの巻
※2012年1月8日 ちょっと加筆しました。
*の部分のデボラ様が変な夢を見てぼんやりしているあたりです。
あんまり変わってませんけども。

続きを表示

2011-11-03 17:23:31 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1687   閲覧ユーザー数:1678

 

 

 ―― 高いところ。

 ―― 白い塔。

 ―― 雲の上のお城。

 ―― 竜の神様。

 全部知っている。気がする。

 何処で知ったのか、何を見たのか、何時から解っているのか、全然覚えていない。ただ、識っているのだ。

 

 そのお城は、もう、世界の何処にも無い。神様が消えてしまったから。

 神は死んだ?

 人々はそれを知らない。この世界に神様など存在しない。

 消えたのだ。

 いずれ、人の心からも消える。

 そうしたら、神は完全に死ぬ。

 

 ―― 教えてあげなくちゃ。神様を殺しては駄目。

 

 

 遠雷が微かに響く、その中を走る。

 ―― 教えてあげなくちゃ。

 人々が神様を心の中から消してしまったら、この世の何処にも神様が居られなくなる。夢も現実も――

 “妹”の手を取る。彼女がいなければ、己は何事をもなせない。二人で一つなのだ。手を離してはいけない。

 一緒に、降りていかなければ――

 

 ―― 一緒に……

 

 奇妙な夢を見た。デボラは胃の奧にむかつきを覚え、ため息を吐く。

「なんで!この私が!こんな目に遭わなくちゃあならないのよ!」

悪態を吐いても、今は、受け止めてくれる相手はいない。

―― あんたの所為なのに。

 デボラがどんなに罵倒しようが蹴飛ばそうが、笑いながら受け入れてくれる、異常に懐の深い“しもべ”は、今はいない。無事に帰ってくる保障も無い。

「ただ待ってるだけ、っていうのは、性に合わないのよねぇ……」

 早く帰ってこい、とは言わない。会いたい、だとか、寂しい、だとかは絶対に言わない。言ってしまったら、空虚な気分になる。

 手触りのよいシーツを撫でる。ふかふかの毛布を二三度叩く。同じようにふかふかの枕の上で方向転換する。腹に負担がかからぬように寝返りを打つのにももう慣れた。

「踏みつけたい時にいない、っていうのは、気分が悪いわねー……。」

 何度目かのため息を吐き、“しもべ”の顔を思い浮かべようとしたが、うまく思い描けなかった。

 ―― そういえば。

 あの時も、変な夢を見た。それは、“しもべ”と出会った後―― 結婚した日の夜だった。それから、もっと前。

「あの時も、見たわ。」

 今思い出すと、顔から火が出そうになる。それでも、平然としていなくてはならない。

 デボラは、“しもべ”と出会った日のことを思い出した。あの時は、デボラは妹のことで頭がいっぱいになっていた。それなのに、“しもべ”は、たった一瞬ですべてを覆してしまったのだった。

 そんな経験は、あとにも先にも無いだろう。デボラは、占い師でもなんでもないが、それだけは確信があった。

 

 

(7)

 書庫から出てくると、その外の明るさが目にしみる。鼻の奥がむずむずして、デボラは盛大なくしゃみをした。書庫の埃が、己にも降り積もっているような気分になる。

「あーあ……」

ため息を吐いても埃は消えない。けれども、デボラはもう一度ため息を吐いた。

 自室へ向かう階段を一段一段、のぼりながら考える。

 結局、フローラの結婚を阻止する策も思い浮かばず、デボラの気分は最悪だった。

―― 私、何をやってるんだろう。

またため息を吐く。ため息を吐くだけでどうにかなるならば、何度でも吐く。だが、どうにもならない。どうにもならないから、更にため息を吐く。本当にどうにもならない。

 かぶりを振る。二階にたどり着いていた。このフロアにはフローラの部屋がある。

―― フローラが、結婚したらどうするんだろう。

不意に、考えてしまう。こんなことを考えては駄目だと思っていても。

「……お昼寝しよう……。」

煮詰まった時は昼寝に限る。デボラは自室へ戻ろうとした。その時、背後に何かがぶつかったような衝撃があった。

「何すんのよ!私を誰だと思ってるの!!!」

苛々にまかせて叫ぶと、ぶつかってきた本人は、悲鳴のような声で謝罪しだした。

「ごめんなさい、お姉さん。」

フローラだ。デボラは驚いた。普段ならば、彼女がこのようなそそっかしい真似をすることなどないからだ。

「あ、フローラ……。」

フローラは、とても取り乱した様子で、何度も何度も頭を下げた。

「私ったら……、本当にごめんなさい。怪我はない?」

「うん……大丈夫よ。」

背中から腰にかけてがちょっと痛いけれども、怪我をしたわけでは無い。デボラは、ぺこぺこと頭を下げ続ける妹が可哀想に思えてきた。

「もういいわよ。」

そう言いながら、顔を上げさせる。フローラは、顔を真っ赤にして、大きな蒼い瞳いっぱいにデボラを映していた。

―― 様子がおかしいわね。

「どうしたの?」

不安に思い、問いかける。けれども、フローラは「なんでもないのよ。」と言うと、自室にこもってしまった。

「……なんでもない、って言われると、気になるのよねぇ。」

妹の走り去った方向を見ながら、今日何度目かのため息を吐く。

 そうしている間に、なにやら階下が騒がしくなっていることに気づいた。

「何かしら。」

何か、厭な予感がする。デボラは、一気に階段を駆け下りた。

 

(つづく)

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択