No.328469

スティナ山賊団日誌 4話

今生康宏さん

……百合好きの作者としましては、書いててにやにやだったお話です
年齢制限、要りませんよね?

2011-11-02 19:52:30 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:267   閲覧ユーザー数:267

四話「犯された罪。与える罰」

 

 

 

 翌日のお昼頃。ティナちゃんの仕事もようやく終わり、彼女はこれから数ヶ月の食費を賄えるだけの大金を手に戻って来た。

「ティナちゃん、お疲れ様です」

「ん、ありがと。でも、趣味の延長みたいなものだから、すごく楽しめたわよ。ご飯や夜食も良いものを出してもらえたし、こんなにもらって申し訳ないぐらい」

 流石に大金持ちは、金離れも良い、ということだろうか。

 ティナちゃんは旅の身、恩を売っておいてもそう利益があるという訳ではないから、単純に修理させた機械が金儲けの役に立つのだろう。損をして得をとる、というやつだ。

 そして、そんな金持ちのおこぼれでも、私達には大金。ありがたく使わせてもらうのが吉に違いない。

「よし、じゃあ食料を買い込んで行こうぜ。もう長居する理由もないだろ」

「……なんであんたが仕切ってるのよ。団長はあたしなんだけど」

「ふふっ、そして、会計は私ですね」

 といっても、帳簿の付け方もよくわからないのだけど、そもそも帳簿は渡されていなかった。

 なんとなく私が団の収支を把握しておいて、適切なお金の使い方をして行けば良いのだろう。

 未だに団員数三名。あまりきっちりとしなくても、なんとかやって行ける人数なのだし。

「次は北に進路を取るつもりだから……確か、北東のマーケットがそこそこ安い保存食を売っていたわね。買い物をしたら、直ぐに旅立ちましょう」

「おう!……って、北か?」

「うん。北」

「北か……」

 土地勘のない私は、シロウさんの疑問系の抑揚の意味がわからない。そもそも、ティナちゃん達もこの辺りは初めての筈なのだけれど。

「北に、何か?」

「ああ……気候の問題だ。知っての通り、この辺りには春夏秋冬、四季がある。だが、これ以上北の地域だと、冬がない地域になるんだ。しかもそこを更に北に行けば、常夏、なんてのも有り得る」

「熱帯、というものですか」

 この星が丸い形をしていて、四季に彩られた温帯気候の地域ばかりではない、ということは本で知っている。

 星の半径……赤道と呼ばれるものの付近は、常に異様なほどの暑さで、逆に赤道から最も離れた地点には、暗黒の世界の様な寒々しい大陸があるという。

 しかし、いずれもそれは、遠く離れた世界……そう思っていたが、なるほど、温かな気候ということは、灼熱の気候の地域がすぐ近くにあるということになる。ここは南半球に位置しているから、北に熱帯が、南に冷帯の地域が広がっているということだ。

「この辺りでさえ夏なのに、なんで更に暑い所に行くんだ、って疑問でしょ?でもね、山は涼しいわよ。しかも、きっと兵器は眠っているわ」

「その確証はどこから」

「昔、中東と呼ばれた地域では最も多くの血が流された。比喩ではなく、大地は血に染まったというわ。だから、中東地域の地面は赤銅色をしている……と言うの」

 ――ああ、なるほど。わかった。

 暑いからこそ、ティナちゃんは怪談話をしようと言うのだ。

 しばらくは、平坦な道を行く。

 北を目指しているんだという意識の所為か、いよいよ夏も深まって来たのか、私の普段着は風通しが良いのにも関わらず、直ぐに汗がじっとりと浮かんで来た。

 張り付いた前髪を払い、苦し紛れに手で仰いで風を送るが、それぐらいで暑さがマシになるほど夏の太陽は有情じゃない。

 一時間近く、数分の休憩を挟みつつ行けば、上着も下着もなくなるぐらいびしょ濡れだった。にわか雨に降られたといっても、十分通用するだろう。

 その状況はティナちゃんもシロウさんも大して変わらず、半袖ミニスカートのティナちゃんがいくらかマシな程度だ。

 いきなり真昼に町を出てしまったのは、失敗かもしれない。夕方の出発では、大した距離を移動出来ない訳だが、疲労の度合いは格段に違って来ているだろう。

「北に進路を取った途端に暑くなったみたいだな」

 話して体力を余計に消耗するのも馬鹿か、と皆黙っていたが、ある時シロウさんがそう漏らした。

 いつもならティナちゃんが「だったら付いて来るな」とでも言いそうだが、全くの同意見なのか何も返さない。

 少し北に行っただけでこれなら、常夏の国の住人はどうやって生きているのだろうか、と疑問になって来る。

 もっと涼しい格好をして、そもそも旅なんて考えないのかもしれないし、元々暑さに強く出来ているのかもしれない。それなら、なんて羨ましいことだろう。

 照り付ける太陽の下、一応用意されている街道を進んでいると、私の好きな「思考」も順繰りになってしまっていた。

 いつもなら私は、歩きながら様々なことを考えている。新しく出来た、素敵な友人のこと――目前で揺れている綺麗な金の尾のことや、初めて間近で見る同年代のdんせいのこと――や、それだけではなく、豊かな自然や、好きな詩の一節、印象的なリフレインを歌謡曲のサビの様に頭の中で何度も繰り返し読んだり、旅路の先に辿り着く町に思いを馳せた。

 だけど、この暑さはそれを許さない。ただただ、太陽への憎しみと、伝う汗の気持ち悪さに嫌悪を覚えるだけだ。

 小川の一つ、泉の一つでもあれば、思い切りに水を呑めるし、水浴びも出来るというものだが――と、白昼夢の様にぼんやりとした内に思っていると、どこからか水の流れる音が聞こえて来た気がした。

 いよいよ、幻聴までやって来てしまったらしい。これからのことを思うと、贅沢に口を付けていられなかった水筒だが、このままだと倒れてしまいかねない。飽くまで控えめに水を含み、咀嚼する様にゆっくりと喉の奥へと流し込んだ。

 砂原に零した一滴の水滴が、驚くべき速度でそれに吸収され、見えなくなってしまう様に、手に水筒を持っていなければ、私が水を飲んだのだという行為も忘れてしまうほどに呆気なく、それは消えて行ってしまった。

 その後に来るのは、もっと飲みたい、という悪魔の誘惑。どうせ水筒は豊富に用意してある。ここで一本空けてしまっても、大した痛手にはならないだろう……そんな甘い考えが起こる。

 が、元々私は禁欲的な生活には慣れている。孤児院でそのまま修道女にもなれる教育をされたのだから、簡単に欲望に流されることもなく、踏み止まることが出来た。

 さあ、正しい方向へとこの足を運ぼう……と思った辺りで、おかしいな、という思考が起こり、慌てて後ろを振り向く。真後ろではない、東の方……野原の一角、小高い丘の様になっている地形がある。

 その方向から、未だに水音がしていた。恐らく、幻聴じゃない。

「リア?どうしたの?」

 急に立ち止まった私を不思議に思ったティナちゃんが、私の見つめるのと同じ方向を見る。それから、耳を澄ませると彼女にもわかったのだろう。

「よく気付いたわね、リア。シロウ、水よ!危険がないか確かめて来なさい!」

「へいへい。副団長は何でもやりますぜ、団長」

 流石の彼も疲れているのか、とぼとぼと丘の方へと歩き出す。

 意識すると、水音はどんどん大きくなって来ている気がした。

 地下水が湧き出て、一つの泉を形成しているのだろう。ということは、あの丘は地震で地面が隆起したものなのだろうか。

 結果として出来た地面の亀裂から、水が染み出した……そう考えられる。

『おーい!普通に美味い水だぞー!』

 「危険がないか確かめる」というのは、野生生物や盗賊が居ないかの確認だったと思うのだが、シロウさんは水が飲めるかどうかの確認まで済ましてしまった様だ。地味に抜け駆けしている辺り、案外したたかかもしれない。

「なら、水筒の水は捨てて良いわ!あたし達が着くまでに、給水を終わらせておくこと!……じゃあ、あたし達も行きましょ、リア」

 荷物持ちはシロウさんの役目で、雑用もシロウさんに押し付けられていること。我等が「団長」は的確に指示を出して、私の手を引き歩き出した。

 わざわざこんなことをしてくれるなんて、それほど私が頼りげなく見えたのだろうか。でも、ティナちゃんの私以上に細く、華奢な手の感触には愛おしさを感じた。……変な意味ではなく。

「ほい、全部移し替えておいたぜ。宿の井戸の水が、いかに不味いかよくわかったな。町で湧き水が馬鹿高い値段で取引されてるのも、なんとなく頷ける」

「ふぅん……確かに、綺麗な泉ね。底面までくっきり見えるわ」

 隠される様にあった泉の水面には、宿敵である太陽が光を落としていて、きらきらと輝いて見える。

 その光が不純物に遮られることもなく、水底にまで届いていて、見ているだけで涼しげだ。

 大きさは、横四メートル、奥行き三メートル、水深は、どれほどだろう。やはり二、三メートルだろうか。私達は勿論、シロウさんでも足は付かないと思う。泉というには深過ぎるかもしれない。

「すごいですね……こんなに綺麗な自然の泉、初めて見ました」

 私の町には、小さな噴水があった。それはそれで、当時は美しく見えたのだが、この泉と比べると水の美しさがまるで違う。

 今思えば、あれは何度も循環させられ、汚く濁った水だった。

「まあ、そうでしょうね。あたしもここまでのは、あんまり見たことがないもの」

「泥水みたいなのを飲んだりな……ぐふっ!?」

 余計なことを口走ったシロウさんに飛ぶ蹴り。爪先で腹を蹴り上げられ、シロウさんは今飲んだ水が逆流した様だった。

「相変わらず、バイオレンス……」

「ほらリア、馬鹿は放っておいて飲むわよ。十分喉を潤したら、水浴びもしましょう?その後は洗濯。水がある内にそういうことは済ませておかないとね」

「う、うん」

 ティナちゃんは早速靴を脱ぎ、靴下を下ろす。といっても、そのまま足を突っ込む様なことはなく、屈み込んで泉の水を手に掬った。

 手で作ったお椀の中に、透明の水が輝く……当たり前のことなのに、それがすごく美しく見える。ティナちゃんが、幼いながらも美人の素質を秘めているからだろうか。

「んっ、冷たくて美味しいわ。本当に綺麗な水ね」

 私も手を軽く洗ってから、一口含んでみる。

 手で感じるよりも水は冷たくて、その澄んだ美味しさも相まって思わず溜め息が出た。

 今まで飲んだ水の中でこの味は、一番かもしれない。飲み水を大切にしながらの旅路で、慢性的に水分が不足していたのを加味したとしても。

 夢中で何杯も飲んでしまい、それだけでお腹がいっぱいになるほどだった。人が水を飲むだけで生きていける、というのも信じられる気がする。

 清らかな泉の水は、それほどの感動を与えてくれた。

「ふふ、リアがそんなに食欲見せたのって、初めてじゃない?」

 ティナちゃんがからかう様に言う。彼女にとっても意外だったかもしれないけど、私も自分がこんなに夢中になってしまうなんて、不思議だった。

「そうかも。それだけ、暑くて喉が渇いていた、ということかな」

「でしょうね。さ、それじゃシロウ、あんたはどっか行っときなさい。これからあたし達で水浴びするから」

 蹴りのダメージも癒えきっていないシロウさんに言う。

 シロウさんは何か反論したげだったけど、女の子の裸を見る訳にもいかない、と判断したのか黙って街道の方へ行ってしまった。

 せめて日陰に居れば良いのに。本気で怒った訳ではなさそうだが……。

「一番風呂は団長の特権。ついでに一番に沐浴するのも団長の特権ってね。それに、レディファーストって言葉もあるじゃない?」

「それは、何か違っている気が……」

「細かいことは良いの。それに、あいつも無意味に街道に目をやった訳ではないのよ?もし変な輩に襲われたら、大変でしょう」

「あ、なるほど」

 相手が街道の方から来ると限った訳でもないが、街道と逆の方向は見通しが良い。ティナちゃんも全く不用心という訳でもないのだし、人が近付けば気付くだろう。

 何気なく二人は、阿吽の呼吸で見張りの態勢を築き上げていたということだ。

 ……今更ながら、ティナちゃんとシロウさんの言外の会話には感心してしまう。

 我がままだったり、横暴だったりするティナちゃんに、仕方なく付き合っているだけの様に見えるシロウさんだけど、彼女を信頼していて、また、ティナちゃんもしっかりと「団長」をしている。

 私とは、今までの人生の濃密さが違うのだ、と思い知らされた。

「色々と物想いに耽るのも良いけど、さっさと服脱ぎなさいよ。涼しいわよ」

「あ、はい、うん」

 ぱっとティナちゃんの方を見ると、脱ぎかけだった靴下はきちんと脱いで畳まれていて(彼女はオーバーニーソックスをはいている)、スカートも上着も体から離れていた。

 残るのは、パンツとブラジャーだけ。同性でも、あまり人のこういう姿を見たことのない私には、中々に刺激的な光景だ。

「ティ、ティナちゃん」

「何、顔を赤くしてるのよ?」

「いえ……意外と、あるんだな、と」

 胸が。

 服越しでは、年相応。まだ未発達だと思ったのに、これは本当に意外だった。

 もうはっきりと膨らみがわかる大きさで、もしかすると同じ頃の私より大きいかもしれない。

 最近になって、自分の大きさを自覚した私だけど、軽く妬いてしまう。

「なっ!?い、意外とは余計よ!それにあんたが言うと、イヤミにしか聞こえないわよ!?」

「そんなことはないよ?私、直ぐにティナちゃんは大きくなると思うな。多分、私より」

「僻みがましい目を向けられても、それはそれで嫌なんだけど!?」

 今まで得だと思ったことはなくても、やっぱり悔しさはある。

 でも、今は私の方がずっと大きい、と自慢せんばかりに上着を脱いだ。

 実は着痩せをするのは私も同じ。服に抑え込まれていた胸が弾ける様に自己主張をする。

 あまりじろじろ見られたいとは思わないけど、女の子、ティナちゃん相手なら問題もない。

「ちょっ、あんた、何センチよ!?九十ぐらいあるんじゃないの、それ!」

「ううん。私はウエストが細いから、八十前半だったかな、と。最近は計ってないけど、まだ服はきつくなってないし……」

「何よその、将来性あるけど、みたいな含みを持たせた言い方!絶対あたし、抜けないわよ!今の発言で自信がぶっ壊されたわ!」

「えへへ、そうですかー?」

「黒い……あんた絶対、清純派に見えて実は黒い系ね!?」

 本心からの言葉ではなかったけど、少し意地悪。

 だって、本当に少しティナちゃんが羨ましかったから。

 地味な見た目の私と比べて華があるし、「可愛い」なのか「美人」なのかどっち付かずな私とは違い、ティナちゃんのブロンドの長髪の似合う美人に成長する未来は、今からでも容易に想像出来る。

 ……ティナちゃんは半泣きだし、ちょっと悪いことをしてしまった。

「ティナちゃん。あまりシロウさんを待たすのも悪いし、早く水浴びしてしまおう?ごめんね。意地悪言っちゃって」

「うぅ……こうなったら、あんたを虐め抜いてやるんだから!ほら、生意気な胸はこれでしょ!揉みまくってやるわ!」

「ひゃっ!?ちょっ、ティナちゃん、こそばい……」

「うるさい、うるさーい!これは報復なんだから!」

 下着越しだけど、ティナちゃんの手が荒々しく私の胸を掴んで来る。

 当然、彼女の小さな手に収まりきらない訳だから、ぐにゅんぐにゅんと形を変えて、それは跳ね回る訳で……。

「ひゃうん!いやぁ……ティナちゃん、そんな乱暴に……」

「ほんっと、訳わからないぐらい大きいわね!百グラムぐらい寄越せー!」

「はぅっ……ティナちゃん、胸は牛ひき肉みたいに量り売り出来ないよぉ……」

「じゃあひき肉にしてあげるわ!ほらっ、こんな風に揉まれたいんでしょ!」

「私っ、そんなえっちな子じゃ……」

 ティナちゃんは、もう私の胸から手を離してくれそうにないし、私の力では引き離すことも出来ない。

 もう、相手の好きな様にされるがまま……つーっ、と涙が流れて来た。

 女の子同士だけど、こんな風に乱暴されるのは、初めて……。

「ふっふっふっ……泣いたからといって、許されるとは思わないことね!あたしの心は、今この時も涙を流し続けてるの!もっとあんたの胸と涙を搾ってやるわ!」

「もういやぁ……」

「いくら泣き叫んでも、助けは来ないわよ?シロウは遠くだし、そもそもこの辺りは人通りが少ない筈だわ。観念することね!」

 ……目の前が、真っ暗になって行く気がした。

「……俺はな。もう少しお前が、常識ある奴だと信じていた。そう、信じていたんだ。だが、お前はそんな俺の信頼を裏切った。――古来、組織というものの中において、裏切りとは重罪とされている。だから俺は今、ここでお前に一番重いと思う罰を与える。リア、異存はないな?」

 あれから、数十分後。

 やっと解放された私は、上着をかき集めて、その足でシロウさんに助けを求めた。

 「うおっ!?そ、その格好……」なんて驚いたシロウさんだけど、私の訴えを聞くと、物凄いスピードでティナちゃんに詰め寄った。その後どうなったかは、わざわざ言葉にする必要もないだろう。

「はい。孤児院でも、悪戯の過ぎる子には罰が与えられたものです」

「……よし。スティナ、これよりお前に罪状を言い渡す。お前は、無抵抗なリアに猥褻行為を行い、辱しめた。これにより、リアは大きな心の傷を負った。これの償いは、お前も同等の辱しめを受けることによってのみ、為されるだろう。……リア、あんたが言ってくれ」

「は、はい」

 渡された罪状(といっても、書いたのは私)から、ティナちゃんに与えられる罰を読み上げる。

「……ティナちゃんに、これから三日の間、私のことを『お姉ちゃん』、シロウさんのことを『お兄ちゃん』と呼ぶこと。また、これからシロウさんに対する暴力行為は自粛することを求めます。もしこれを守れなかったら、私がティナちゃんの胸を揉むことが許されるそうです。ティナちゃんがしたのと、同じ時間。ねっとりと」

 私は、しっぽりとシロウさんに叱られて、涙目なティナちゃんに追い打ちの様に畳みかけた。

 ……自分でも、自分が酷い女だとわかる。でも、私もまた、傷付いていた……だから、人を傷付けても良いという訳じゃないと、理解している筈なのだけど。

 衝撃的な罰を言い渡されて、悔しそうな顔をするティナちゃんを見るのが、少し楽しかった。恍惚を覚えてしまった。

 悪い女だ。本当に、最低の女だ。

「何よ、それ……あたしがしたことと、どんな関係がある訳!?」

「だから、お前のしたことへの罰だ。リアを泣かしたことと、常識外れなことをして、俺の信頼を裏切ったことに対する、な。屈辱だろ?物心ついた時から、父親のことを『親父』、母親のことを『ババア』なんて言ってたお前にしてみれば、有り得ないことの筈だ。それを強要される。辛いことだろ?」

 ……そんな過去があったのか。

 というか、親父は兎も角、お母様のことをババアというのは、流石に弁護出来ないというか……ティナちゃん、家でも滅茶苦茶な子だったんだなぁ、としか言えない。

「くっ……わかったわよ。三日間だけ、あんた達に頭下げて、へいこらしとけば良いんでしょ!?やってやるわよ!……お兄ちゃん」

「ぶわっ!……くはっ、スティナがっ、あのスティナがっ、お兄ちゃん……くははっ!ヤバイ、すげぇ気持ち良い」

「このっ……四日目、覚えときなさいよ。百倍返ししてやるんだから!」

「ティナちゃん。シロウさんへの暴力自粛は、ずっとだよ?」

「なっ……何それ!これからあたし、どうやってストレス解消すればいいのよ!」

「さあ。ボールでも買えば良いんじゃないですか?」

「かぁーっ!お姉ちゃん、あんたやっぱり、黒いわね!」

 ……お姉ちゃん。

 あのティナちゃんが、お姉ちゃんと私を呼ぶなんて……罰とはいえ、少しときめいてしまう。

 本当に妹が出来たみたいで、色々とティナちゃんに世話を焼いてあげたくなる。

 ――ということで、私の手は早速彼女の頭の上に置かれていた。

「なっ、何のつもりよ!」

「いえ。なんとなく、してみたくて」

 ティナちゃんを抱き寄せて、頭を軽く撫でてみる。

 さらさらの髪の感触と、子供らしい甘い香りが心地良くて、ずっとこうして居てしまいそうだ。

「ティナちゃん。温かいね」

「あ、暑いんだから当然でしょ!って、そんな体寄せて来んな!あんた、そっち系の趣味!?」

「ううん。ティナちゃんが、可愛いから」

「やめなさいよっ!これじゃ、胸揉まれるのとそんな変わらないじゃない!離れなさい!このバカお姉ちゃん!」

「えへへ、もっと言って。ティナちゃん。バカ、何だって?」

「何、微妙に変なスイッチ入ってるのよ!このバカお姉ちゃん!さっさと離れろー!」

 

 ……こうして、結局この日は泉の近くで夜を明かすこととなった。


 
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