No.328150 そらのおとしものショートストーリー3rd アイス2011-11-02 00:07:25 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:3362 閲覧ユーザー数:2428 |
アイス
「うぉおおおおおおぉっ!? 夏期限定発売のリガリガくんDXが食いたいぃいいいぃっ!? 今すぐそのアイスを食わないと俺は死んでしまうぅうううぅっ!」
もう11月に入り、所によっては雪も観測したというのに今日も智樹は絶好調だった。
いつものように発作を起こして苦しんでいる。
毎回毎回智樹の発作に付き合っていたのでは私たちの身が保たない。
今回はもう放っておこうかなと思う。
アルファは百合モノ同人誌を描くのに忙しいし、デルタは空腹で倒れて動けない。
カオスは今日も海の中だし、そはらは買い物の最中。
日和は農作業に励んでいて誰も智樹の願いを叶えるつもりはない。
智気はいい加減、欲にまみれた我が侭ばかり言っていると、女の子の心が離れていってしまうことを覚えた方がいい。
「リガリガくんDXを持ってきてくれた子に俺は一生分の恩義を感じずにはいられないぃいいいぃっ! どんな願いでも1つ叶えてやらざるを得ないぃいいいぃっ!」
また、そんな甘い言葉で私たちの心を弄ぼうだなんて。
そんな手には引っかからないんだからね!
「ジャミングシステム起動! 福岡県にある全てのシステムにハッキングしてガリガリくんDXの在庫を探すわよ!」
アイスは常に冷やした状態で置いておかないといけない。
そして業務用の冷凍庫は限られている。
なら、在庫の有無さえ確認すれば必ずリガリガくんDXに辿り着ける筈。
この勝負、私の勝ちなんだからねっ!
「みつけた! たった1本、まだ在庫が残ってたわ」
一生の幸せをもたらすアイスを私は遂にみつけた。
「えっと……在庫の場所は……」
解析を更に続ける。そしてアタシは遂に探り当てた。
「シナプスマスター駄菓子商店の冷蔵庫の中ねっ!」
求めるアイスはシナプスにあった。
「……そう。アイスはシナプスのマスター(ゴミ)が持っているのね。ニンフ、探してくれてありがとう。そして、ご苦労様」
「へっ?」
ゴンッと頭の後ろから大きな音がした。同時に意識が急激に薄れていく。
それがアルファによる攻撃だと気付いたのは地面に倒れた後からのことだった。
「……マスターにアイスを届けて、お願いを叶えてもらうのはこの私」
アルファは買い漁った百合モノ同人誌の束を凶器にしてアタシの頭を叩いたのだ。
二次元BLは好きだけど、百合が苦手の私にそれはアポロンを直撃されたのと同等のダメージを与えたのだった。
「…………詰めが甘かったわね、ニンフ。これでマスターは私だけのもの」
「久々に病んでるぅうううううぅっ!」
最近妄想癖ばっかり見ていて忘れていたけれど、アルファはヤンデレ・クイーンだった。
真っ赤に染まった瞳はアルファの本気を表している。
「フッ。甘いのはイカロス先輩も同じですよっ!」
いつの間にか庭に出ていたデルタが急加速しながらシナプス目指して飛んでいく。
「どんなにイカロス先輩の火力が凄かろうと、私の翼の加速についてこられるエンジェロイドは存在しませんよ!」
デルタの翼は超加速型。
直線飛行でアルファはデルタに敵わない。
でも……。
「うっきゃぁああああああああぁっ!!」
ごく太レーザー砲がデルタを直撃し、黒こげになってバカが落下していく。
「シナプス防衛システム・ゼウスが発動したみたいね」
「…………シナプスのマスターは私の邪魔をする。なら、潰すまで」
大きな翼を羽ばたかせてアルファは上空へと舞い上がっていく。
「…………ウラヌス・システム起動。目標ゼウス。全彈発射」
そして3000mほど高度を取ったかと思うとウラヌス・システムを異次元より呼び出して、攻撃を開始した。ヤンデレ・クイーンの本領発揮。
アルファとシナプスの激しい攻撃の応酬。
空美町の上空はあっという間に黒煙に覆われて何も見えなくなってしまう。
私も視認による状況把握は諦めて声を拾うことに専念する。
アルファはご丁寧に倒れている私の上に百合同人誌を積み重ねて飛び去った。百合同人誌封印を施された私は動くことができない。
アルファたちが動かないものと高を括っていた私の大失策だった。
後は誰が勝者の座に着くかという話だけど……。
「フハハハッハ。このゼウスは暇にあかせてこの俺が作り上げたシナプス最強の防衛システム。如何にウラヌス・クイーンとて打ち破ることはできん!」
「…………シナプスのマスターのくせに生意気です。アストレアバリアっ!」
「うっきゃぁああああああああああぁっ!?」
アルファが今でも最強のエンジェロイドであることは変わらない。
けれど、相手はシナプスという要塞そのもの。
個人の力で基地を落とすのは容易ではない。
「イカロスお姉さま。カオスも加勢するね♪」
「及ばずながらこの風音日和も加勢いたしますっ!」
よくはわからないけれど、カオスも日和もシナプス攻撃に参加しているらしい。
「殺人チョップ・エクスカリバーっ!」
更に街中から一筋の巨大な光が上空に向かって駆け上っていく。
あれはそはらの必殺殺人チョップに違いなかった。
みんなが智樹の願いを叶えようと必死だった。
「貴様らっ、何故シナプスを襲うっ!? その行動に何の利益がある?」
形勢不利になったらしいシナプスのマスターがアルファたちと交信を始める。
「…………つべこべ言わずにマスターがご所望のアイスを差し出してください。手向かうならシナプスごと消えて頂きます」
アルファが冷淡な声で元マスターに宣告する。
愛はエンジェロイドを変えるのだ。
「だが、あの商品はダイダロスに嫌がらせまでして必死に仕入れた俺の店の主力商品。命に替えても渡せん!」
「…………じゃあ、死ね」
上空から大きな爆発音がした。
「フッフッフ。甘いな、アルファよ。俺には最終防衛システム・パピ子・パピ美のツインバリアがある。この2枚の翼がある限り俺にダメージを与えることはできん」
「マスター……酷すぎますぅ。ガクッ」
「あの、それってパピ子の次はわたしが盾にされるってことなんじゃっ!?」
「そういう戦法取られると、私とキャラが被るので断固反対ですっ!」
空は大騒ぎだ。
「…………じゃあ、連続攻撃。目標パピ美とアストレア。特に念入りにアストレア」
「何で私までぇえええぇっ!?」
「イカロスお姉さま、加勢するね。覚悟してね、アストレアお姉さま♪」
「アストレアさんを攻撃すれば良いんですよね? いきますっ!」
「殺人チョップ・エクスカリバー・オルタナティブっ!」
「パピ美バリアっ!」
「マスターの鬼ぃいいいいいいいいぃっ!」
「攻撃私にばっかり集中してるぅうううぅ。うわらばぁああああああぁっ!」
とても大きな爆発音が空美町の上空に響き渡る。
「…………さあ、アイスの在処をさっさと吐いてください。でないととどめをさしますよ、アストレアの」
「何で私のとどめぇっ!?」
デルタの絶叫がうるさい。
「クッ! 味方にこれだけ惨い仕打ちを平然と行うとは、アルファたちよ、貴様ら本気なのだな」
「…………味方ではありません。アストレアは踏み潰してぐちゃぐちゃにするのがお似合いのダウナーです」
今日のアルファはノリノリだ。
「…………さあ、ダウナーマスター。早くリガリガくんDXを寄越してください」
「何故、リガリガくんDXを欲する? サクライトモキはあのアイスを手に入れて何をするつもりなのだ?」
「…………アイスを持って行くと、マスターが何でも1つ願いを叶えてくれるんです。だから」
「貴様らっ! そんなつまらぬ欲望の為に悠久に渡るシナプスの歴史に終止符を打とうとしたのか」
シナプスは陥落寸前らしい。
「欲にまみれてシナプスを裏切った貴様らのことだ。どうせハレンチ極まりない願い事を叶えてもらうつもりなのだろう。このシナプスの面汚しどもめ!」
シナプスのマスターの言葉がムカつく。そして耳が痛い。
智樹に何でも叶えてもらえるとなれば願い事なんて決まっている。
口では言えないようなあんなことやこんなことを智樹にしてもらうのだ。
そして智樹には男らしく責任を取ってもらって結婚してもらう。
ハレンチだろうと何だろうと私たちの願い事に他に何があると言うのよ!
「…………私はマスターに同人誌のベタ塗りを手伝ってもらいたいだけです。頭の中でエロいことしか考えないニンフと一緒にしないでください」
「私は退屈だったから桜井智樹と遊ぼうと思っただけよ。エロ魔神のニンフ先輩と一緒にしないで!」
「カオスはね。公園でいっぱいいっぱいお兄ちゃんと遊んでもらうの。ニンフお姉さまと一緒にしないでよぉ」
「私は桜井くんにお米の収穫を手伝ってもらおうと思って。その、ニンフさんみたいなエッチなことは考えただけで頭がおかしくなってしまいます」
…………っ!
「どうして私だけエロキャラ扱いなのよぉおおおおおおおおぉっ!」
絶対アルファの方が年がら年中ハレンチなこと考えているはずなのにぃいいぃっ!
「どうせ私は……ニンフさんと同じでエッチなことばかり考えてるわよぉおおおぉっ! 殺人チョップ・エクスカリバーっ!」
3度光の渦が上空に向かって舞のぼっていく。
とにかくこれで、みんなが私のことをどう認識しているのかよくわかった。
アイツら、みんなムカつくぅうううぅっ!
「フッ。貴様らの望みはわかった。だが、アイスは1本しかない。望みを叶えられるのはこの中で1人だけ。さあ、誰がサクライトモキの元へアイスを運ぶ?」
「…………ウラヌス・システムが世界で最強であることを今ここで証明します」
「第二世代型の実力をお姉さまたちに見せてあげるね」
「如何に強力な火力を持とうと、ニンフさんを越える電子戦能力を持つ私の前では無意味ですよ」
「アイスさえなくなっちゃえば智ちゃんは誰の手にも渡らない。殺人チョップ・エクスカリバーっ!」
「パピ美・パピ子・アストレアバリアっ!」
「「「何で私たちがとばっちりをぉおおおおおおぉっ!?」」」
再び大きな爆発音が鳴り響き出す。
今度の音は先ほどのゼウスとの攻防戦よりも遙かに大きい。
みんな、それだけ本気なのだ。
さて、誰が勝者になるやら。
動けない我が身が悔しい。
「智樹、上がらせてもらうぞ」
と、ここで玄関が開いて男の声が聞こえた。
あの声は守形だ。
「近所の駄菓子屋のお婆さんにアイスを幾つか分けてもらってな。うちには冷蔵庫もないからお前にもお裾分けだ」
アイスが詰まったビニール袋を掲げた守形が居間に入ってきた。
えっ?
もしかしてこの展開って……。
「おおっ! これはリガリガくんDX。どこの情報を検索しても売り切れだったのに、どうしてここにっ!?」
「あの駄菓子屋のお婆さんはローテクで、パソコンは扱えないからな。インターネット上に情報など元からないのだろう」
私も見逃していた意外な穴があった。
「とにかく俺はリガリガくんDXをもらいます」
「どうせもらいものだ。好きなものを選んでくれ」
守形の手からリガリガくんDXを受け取る智樹。
ああ、またいつもの展開だ。
「先輩は俺にリガリガくんDXをくれましたので、お礼に何でも1つ叶えたいと思います」
「じゃあ今日午後から行うグライダーの飛行実験を手伝ってくれ」
「お安いご用ですよ」
こうしていつもの如く上空での女同士の戦いは無意味になった。
「ところで先ほどからニンフは背中に同人誌を積み上げて何をやっているのだ?」
「アルファにやられたのよ。封印されて動けないから取って」
智樹と守形に同人誌をどけてもらう。
やっと解放された。
ホッと一息吐く。
「何が起きたのかは知らないが、まあアイスでも食べて体を休めてくれ」
「ありがと」
りんご味のアイスを受け取る。
「ニンフは本当にりんご味が好きだな。りんご飴も好きだし」
智樹が私を見ながら楽しそうに笑う。
「仕方ないじゃない。だって……好きになっちゃったんだもの」
りんごは私と智樹を結び付ける幸せの味だから。
「ニンフも飛行実験を手伝ってくれないか? 計測要員が欲しい」
「いいわよ。どうせ暇だし」
アイスを食べて3人で外に出る。
空美町の青いキャンパスに墜落してくるシナプスと大空に笑顔でキメているパピ美、パピ子、デルタの姿が浮かび上がった。
了
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先週はリアルと一次創作で無茶苦茶忙しかったなあ。
今回のテーマは何だろう? 『組んだ覚えはない』かな?
ていうか、5本作ったストックが気が付くと切れている。
また書き溜めしないと……。
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