No.327399

天馬†行空 一話目 ある少年の一日

赤糸さん

 真・恋姫†無双の二次創作小説です。
 初投稿かつ処女作です。のんびり投稿していきたいと思います。

※主人公は一刀ですが、オリキャラが多めに出ます。
 また、ストーリー展開も独自のものとなっております。

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2011-10-31 21:44:05 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:13558   閲覧ユーザー数:9662

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい北郷! ここらで飯にしようや!」

 

 日に焼けた顔を城壁の上へと向け、三十台前後の男はその少年に声を掛けた。

 

「はーい! 後少しで終わるんでそれから行きます!」

 

 声を掛けた男と同じく土や(ほこり)などの汚れが目立つ麻の服を着て、コテで城壁を(なら)していた少年は振り返り、こちらも日に焼けた顔に笑みを浮かべて答える。

 額の汗をぬぐいながら空を(あお)いだ少年の目には夏の(あお)が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ~て、飯飯っと」

 

 日が昇り始めた頃から仕事をしていたので背中とお腹がくっつきそうだ。

 竹の皮で包んだ弁当の包みをせわしなくほどいて、俺はおにぎりをがっつく。

 

「んぐんぐ……んっ!」

 

 !! やばい! 水、水っ!!

 

「なにをしてるんですか、あなたは」

 

 後ろから聞こえてきた声と同時に目の前に竹筒(たけづつ)が差し出される。

 

「……んっ、ごくっごくっごくっ……ぷはぁ」

 

 慌てて受け取り一気にのどに水を流し込む、ふぅ、間一髪(かんいっぱつ)

 

「……ふぅ、助かったぁ。ありがとう、徳枢(とくすう)

 

「どういたしまして、と言いたいところですが……少しは落ち着いた振る舞いができないのですか、あなたは」

 

 非常に温度が低い眼差(まなざし)を向られる。うぅ、いつもながらキツイ。

 まったく、と溜息を()きながら眼鏡をくい、とあげるこの少女は程秉(ていへい)、字を徳枢と言って、ここ交趾(こうし)太守(たいしゅ)士燮(ししょう)さんの客将(きゃくしょう)である。

 まあ、初めて会った時には一悶着(ひともんちゃく)あったんだけど。

 

「何を遠い目をしてますか、あなたは」

 

 またもや突っ込まれる。

 

「いや、徳枢と初めて会った時も今みたいに突っ込まれたなあ、と」

 

 そう、あの時は……

 

 

 

 

「なにをしてるんですか、あなたは」

 

 気が付いた時には自分を覗き込むように見ている砂色のショートカットの眼鏡を掛けた女の子、その後ろに青い空が見えて初めて俺は地面に寝転んでいることに気付いた。

 

「えっと、その、なに? と言われても俺も何がなにやら」

 

 野外、女の子、明らかに眠る前に居た自分の部屋ではない。……て言うか、ホントにどこだよココ!?

 ま、待て。落ち着け、落ち着くんだ俺。落ち着いて眠る直前のことを思い出すんだ。

 ええっと、確か入学式の後に同じクラスになったテンションのやたら高いやつ……そう、及川(おいかわ)って言ったっけか、そいつと話しながら部屋に帰って、疲れてたから制服のまま横になって……

 

「ええええええええええぇぇっ!!!!」

 

「やかましいですよ、あなたは」

 

 思わず絶叫する俺、耳をふさいで抗議する女の子。

 

 

「少しはそのへんちくりんな頭が冷めましたか、あなたは」

 

 一頻(ひとしき)り叫んで少し冷静になった矢先に浴びせられる冷ややかな突っ込み。

 よほど頭に響いたのかこめかみの辺りを指で押さえながら女の子は顔を(しか)めている。

 

「あ、いや、い、いきなり大声出してゴメン」

 

「これ以上は御免ですよ、まったく」

 

「ほんとにゴメン、えっと……」

 

「程秉、(あざな)は徳枢です」

 

「へっ?」

 

「私の姓名と字ですよ、次はあなたの番です」

 

 眼鏡のブリッジの部分に中指を当てながら名乗った女の子、いや程秉さん? は早くしろと言わんばかりにこちらを見据える。

 

「あっ……と、北郷一刀(ほんごうかずと)

 

「姓が北、名が郷、字が一刀ですか、ふむ、珍しい姓名ですね」

 

 ほう、と腕を組む程秉さん、いや、俺からすれば貴方のほうが珍しい名前です。

 というか、姓名と字って組み合わせはどこかで聞いたことがあるような?

 

「いや、北郷が苗字……じゃなくて姓で名が一刀だよ。字とかは無いよ、というか姓と名以外の呼び方は無いんだけど」

 

「? 妙なことを言いますね、あなたは。字は無い方はいますが、名乗らぬとは言え真名(まな)が無いなどということはありえないでしょうに」

 

 (いぶか)しげに首を(かし)げる程秉さん。また解らない単語が出てきた、何だろうか……うん、ここは恥を忍んで聞いてみるのが一番。

 

「?? えと、程秉さん? でいいのかな? ちょっと聞きたいんだけど」

 

「字で呼んでもらって結構ですよ。で、何ですか?」

 

 腕を組んだままなにやら考え込んでいる様子の彼女に、

 

「真名って何?」

 

 尋ねてみた。

 

 

 

 

「するとあなたはこの国の者ではないと」

 

 目を覚ましてからの事情を説明してしばし、無言で俺の話を聞いていた徳枢さんが口を開く。

 

「しかも現在より先の時代からやって来たと」

 

 眼鏡を中指でくい、と上げる。

 

「……信じ難い話ですね。確かにあなたが着ているその服は珍しいものであると思いますが、それだけではどうにも」

 

 うん、まあそうくるよな。むしろ問答無用で変人扱いしないだけ徳枢さんはすごいと思う。

 それはそうと何か見せられる物は無いかな…… ! これがあった!

 

「これなんかどうかな?」

 

 ズボンのポケットに入れていた携帯電話を見せてみる。

 

(ぎょく)ですか? ……それにしては妙な形ですね?」

 

 徳枢さんは俺が取り出したそれを恐る恐ると言った風に見つめる。

 

「これは遠くにいる人と話をするための道具で電話って言うんだ。とは言ってもココじゃ使えないんだけど」

 

「? つまりは役に立たない箱、であると?」

 

 うお、ずばり核心を突いてくるな。

 

「いや、まだいくつか出来る事があるけど」

 

 ぱちりと携帯を開く、解り易いのはカメラ機能かな。

 

「!?」

 

 驚いている徳枢さんをよそに自分に向けてシャッターを切る。

 

「! 今度は音が!? な、何をしているのですか?」

 

「ええと、こういう事が出来るんだけど」

 

 液晶画面を向けると彼女の目が大きく見開かれた。

 

「……これは、一体」

 

 信じられないものを見たとばかりに彼女は画面を凝視(ぎょうし)している。

 

「まだ写せるけど?」

 

「いえ、充分です。確かにこのようなものは見たことも聞いたことも無い」

 

 俺が携帯をポケットに入れるのをどこか残念そうに見ると徳枢さんは僅かに溜息をついた。

 

「なるほど、真名を知らなかったり、字が無かったりするのも頷けました」

 

 では、と口にした程秉さんはそこで言葉を切ると神妙(しんみょう)な顔で辺りを見回す。

 

「……ですが一先(ひとま)ずは移動しましょう、西に進むと近くに街があります。話の続きはそこで」

 

 日が暮れてしまうと賊に出くわすかもしれませんから、と声を潜めて呟いた。

 

 

 

 

「結局あの日は宿に着いても寝かせてくれなかったっけ」

 

「誤解を生む言い方は止めて下さい、まったく。字や真名の説明をした後に夜が明けるまで質問攻めをしただけではないですか」

 

「いや、しただっけて……そういやあの時の徳枢の目は怖、じゃなく生き生きしてたなあ」

 

「未知のものに興味が湧くのは当然です」

 

 それにしても有意義な時間でした、とあの日のことを思い出してかポーカーフェイスのまま目だけを輝かせている徳枢。

 

 あの後、貴方のその光る服は人目を引きすぎるでしょうから、と背負っていた荷物から厚手の布のマントを取り出して貸してくれた徳枢にお礼を言いつつ、何とか日が沈む前に交趾に辿り着いた。

 で、徳枢が宿を二人で一部屋にしてしまい焦る俺に(知的好奇心を満たす意味で)迫ってきたのだ。

 

 翌朝になって開放されてからすぐに泥のような眠りについて目を覚ましたのは夕方になってからだった。というか、徳枢に起こされたのだが。

 少し遅めの夕食を一緒に摂った後で、交趾の太守、士燮さんの客将になったと告げられた。

 あなたはこれからどうしますか? と訊かれて、そう言われてもこの辺りのこともよく分からないし、そもそも今の時勢はどうなっているの? と尋ね返すと徳枢は丁寧に質問に答えてくれた。

 

 驚いたことに、今は、どうも三国志の時代に差し掛かったあたり(黄巾の乱がまだ始まっていない頃)らしい。けれどこの時期にはまだ健在のはずの孫堅が亡くなっていたり、(ここが肝心な部分なのだが)袁紹や孫策などが女性であったりと俺の知る三国志とはかなり違った世界のようだった。

 

 次に、交趾という三国志演義では聞いた事の無い土地について。この交趾を含む交州は漢の支配が及ぶ最南端の地であり、今の中央の腐敗に嫌気(いやけ)が差した人達や中原の戦に巻き込まれるのを嫌った人達が訪れてくる所だそうだ。士燮さんも以前は洛陽に出て官職に就いていたが親父さんが亡くなった際に辞めてこちらに帰って来た。その喪が明けると荊州(けいしゅう)南郡の()という所の県令(一万戸以上の県の長のこと)に任命されて、しばらく勤めてから交趾の太守(前述の県を複数合わせた郡の長のこと)になった、と聞いた。その人となりについては徳枢曰く、「威張り散らすことしか脳の無い汝南の役人達とは比べるべくも無いですね、というよりも比べること自体が士燮殿に対して無礼に当たります」と、初対面で凄い絶賛ぶりだった。

 

 とまあ、現状の説明を一通り聞き終わってどうしようか、と悩んでいると徳枢はよかったら私の手伝いをしませんか? と誘ってくれた。正直な話、この世界で生きていくのに当てなど無かったのでその提案に一も二もなく飛び付いた。それからというもの日中は徳枢の仕事の手伝いをする、それが無い時は街で斡旋されている様々な仕事をして、夕方から夜に掛けては徳枢の話し相手をしたり写本作りの手伝いをしている。士燮さんと会って何度か話をしてからは時々徳枢や他の文官の人を交えての話に加わるようになったり、剣道をしていたことを話してからは三日に一度は稽古をつけてもらえるようにもなった。

 

 

 

 

「そういえば」

 

 俺が回想に(ふけ)っている横で徳枢がふと、何かに気づいたように俺の顔を下から見上げてきた。

 

「この一年でずいぶんと背が伸びましたね、あなたは」

 

 う~ん……そうかな? あんまり伸びたようには思えないんだけど。

 

「それに体付きも変わりましたね。線が細いのは変わりませんが、筋肉がかなり付いたのではないですか?」

 

 ああ、これは実感している。現にさっきまでやっていた城壁の補修作業なんか初めの頃は筋肉痛の日々を送っていたから。

 

「力が付いてるのは自分でも分かるけど、そこまで変わったかな?」

 

「ええ、出会った時と比べると一目瞭然(いちもくりょうぜん)です。まあ、だいぶ日に焼けたというのもありますが」

 

「は、はは……そういえば最近おやっさん達に混じっても見分けが付かなくなったような気が」

 

「……健康的なのは良いことですよ?」

 

「微妙なフォローありがとう」

 

「ふぉろう?」

 

 ! しまった!

 

「また知らない言葉が出てきましたね。ふぉろう、とはどのような意味を持つ言葉なのですか?」

 

「と、徳枢? あの、さ。今は疲れてるからまた今度に」

 

「ふふ、また新しい知識が得られそうですね。ああ、疲れているのなら私の部屋へどうぞ。お茶でも出しますから」

 

 がしり、と肩を掴まれ、すごい力で引っ張られ……って、服! 襟! 首が絞まって!

 

「さあ、行きましょうか」

 

 ちょ、ロ、ロープ! ブレーク!! ギブ……

 

 

 

「ぎぶあっぱ!?」

 

「はあっ!?」

 

 自分でも意味不明な声をあげて飛び起きると眼前、息がかかるくらいの位置に空色の瞳。

 

「ひゃあああっ!?」

 

「とくすっぶろっ!?」

 

 ――うなる平手。

 

 

 

「申し訳ありませんでした」

 

 やや朦朧(もうろう)とした意識の中、目が覚めるとそこには頭を下げる徳枢の姿が。

 どうも気を失った俺を部屋に運んでくれたようだ。額と頬に置かれた布が冷たくて心地よい。

 

「自分でも抑えが効かないというか、その、本当に申し訳なく」

 

 

 さっきの一撃もあるけど、「フォロー」のことのようで。

 

「いや、俺も不注意だったし、お互い様ということで」

 

 つい、口に出てしまった訳だし。徳枢の『スイッチ』を知っていたのにすっぱり忘れていた俺のミスでもある。

 彼女は学者であり、そのせいか知識の収集にもの凄く貪欲(どんよく)で、特に俺の世界の事や言葉などには興味津々である。

 その為、どんな些細(ささい)な事であっても自分の知らないモノを見聞きすると他の事よりもそちらを優先する。

 そして、その際にはいつもの冷静さが失われて猪突猛進(ちょとつもうしん)なタイプになってしまう。その上やたらと力も強くなる。

 このことは、初めて会った日の夜に身をもって知った。

 それからは度々話をせがまれることもあって、忙しくない時や疲れてない時に付き合うようにしていたのだけれど。

 

「それでは私の気が済みません。あなたが疲れていると言っていたのに私が無理に連れて行こうとした所為で」

 

 なおも謝罪する徳枢に再度気にしないで、と言うと彼女はまた頭を下げた。

 

 

 

 

 少し落ち着いてから、ふと気付いて。

 

「あっ、そうだ」

 

「なんですか?」

 

「わざわざ城壁まで来てたけど、何か用でもあったの?」

 

 そう尋ねると、まだ気まずそうに(うつむ)いていた徳枢が弾かれた様に顔を上げた。

 

「そうでした! 威彦(いげん)殿が明日のお昼頃に私達二人に執務室に来るよう伝えてくれ、と」

 

「威彦さんが? 何だろう? 左伝(さでん)はまだ読み終わってないんだけど」

 

 威彦さんというのは少し前に言った士燮さんの字である。身分の高さとは裏腹に非常に気さくで穏やかな性格の人だ。

 会った当初は俺も徳枢も『士燮さん(殿)』と呼んでいたのだが本人からすぐに「字で呼んでくださいな」と言われたのでそうしている。

 左伝というのは……正式には春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)というタイトルの本なのだが、この本を「面白いから読んでみると良いですよ」と貸し出して貰っている。

 はじめは読むのにも一苦労だったけど、分かるようになるとこれが……っと、脱線した。

 

「いつもの講義ではないということですが、行けば分かるでしょう」

 

「それもそうか」

 

 でも何だろう、う~ん気になる。

 文字や古典の講義じゃない……かといって徳枢が一緒だから武術の稽古って訳でも無さそうだし。

 何かしら仕事があったとしても俺は徳枢のお手伝いさんな立場だから直接呼出しがあるなんてことはないはずだけれども。

 

 ……考えても仕方ないな。

 徳枢の言うとおり、明日になれば分かるんだから。

 お休みなさいと挨拶して徳枢が退出すると、ふっと気が緩み疲れが出てくる。まどろみを誘う心地よいその疲労に身を任せながらゆっくりと寝台に横になると、すぐに目蓋(まぶた)が下りてきた。

 

 

 ……お休み徳枢、また明日。

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 はじめまして、赤糸と申します。

 作品説明にも記載しましたが、初投稿で処女作となります。

 短めのプロットを立てつつ七転八倒しながら文章をひねり出しており、非常にゆっくりとした更新になるかと思います。

 これからよろしくお願いします。    

 

 

 

 

 

 

 

 
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