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さて、お菓子作りに精を出しますかね。by私
1 私
私の目の前には今たくさんの数の道具が並んでいる。それら一つ一つに道具以上としての価値は無いがこれらの道具はお菓子を作るうえで非常に大切な商売道具である。この御菓子屋妙前は和洋中から様々なお菓子を取り扱っておりそれらを作る上で必要なものがほとんどだ。これ一つ一つをお菓子を全く作らないという人に渡してみるとまさしく豚に真珠、猫に小判。数々のことわざどおりに使いこなすどころか使い方すら分らないものがほとんどであろう。とまぁ長々と今私が使っているものの説明をしてみたのだが、まぁ知らなくても良いようなものばかりだ。
ふと、時間が気になり時計を確かめる。良かったまだ十一時だもう少し時間がある。私が経営している店『妙前』は午後の三時、いわゆるおやつの時間帯がいわゆる開店の目安である。これは私が店を始めた当初から心がけている事で、その珍しさからか何故かその事が反響を呼びこの妙前は結構な有名店となっていた。
この御菓子屋妙前は私が、三年前にイタリアでのパティシエの修行を終え日本へと帰国した際せっかくなので自分の店を持とうと思い立ち創設した年期の浅い店である。年期の浅い店であるからして働こうとするものが少なく、というよりいないので一年は一人で頑張っていたのだが、予想以上に大変だったためバイト募集を出した所ちょうどたまたまそれに来た野乃村が今妙前で働いている唯一のバイトさんである。
そうこうしているうちに予約が新たに入った分のスポンジが焼けたようだった。私はそれを丁重に取り出すと長年の修行にて培った。技術を使いササッとそれにクリームを塗りたくる。
一息つくと予想以上に自分の額に汗粒が浮かんでいた。まさか商品に汗を吹っかけるわけにも行かないので俺はその場を離れ持ってきていたハンカチタオルで汗を拭う。
予想以上の暑さに参りそうになっていたので少し休憩する事にした。作業着を脱ぎ、この店の近くに設置されている自動販売機から一本お茶を買う。本当はスーパーまで行って少しでも節約しようかと思ったのだがそこまでの時間は無かった。
私はその買ったお茶を片手に持ち落ち着いて飲めてかつ、木陰になっている所が無いか探し始めた。ちなみに妙前と私の自宅の距離はそう遠くは無いがそこそこある。お茶を飲むためにわざわざ家に帰るという考えは浮かばなかった。そうして数分ほど歩いているとちょうど良い感じの公園が目に入った。
私はそこへとりあえず行ってみようと思い行ってみると予想通り大きな木がありその傍らにはその気の影に隠れるようにちいさなベンチが置いてあった。
今の時間帯はちょうどお昼を過ぎた辺りなのでいつも騒いでいる子供はいなかった。さすがにお母さん連れの子はいるかと思ったが人っ子一人おらず、弱弱しい風にブランコがさびしそうにゆれていた。
「そうか、今の時代外で遊ぶ子供は少ないのか・・・・・・」
私は一人今気づいた大変な事実を口にする。そういえば最近はゲームという物が普及されていて外で遊ぶ子供はめっきり減り室内で遊ぶ子供が増えているという物を聞いたことがある。それは、最近増えている生活習慣病の促進を促しているのではないか?ふと、疑問に思った。いや、疑問にするほどのものでもないのか・・・・・・これが時代の流れというものなのだ。そう自身で結論付ける。
ベンチに座り買ってきたお茶に口をつけると、先ほどまで暑苦しいせいでじめじめしていて干からびかけた身体が少しだけだが蘇るようなすがすがしい気持ちがした。
よく、世間のくたびれた親父殿たちが仕事帰りにビールを飲んで生き返るといっているがあれと同じようなものだろう。ただ、自分的には若いつもりは無いがまだ年を食っているつもりも無いのでこの気持ちがすることが親父っぽく思えることが少し嫌だった。
ふと、飲んでいたペットボトルを口からはずし、隣の木を何とは無しに見てみるとちょうど視線の高さにセミがいた。頑張って自分の存在を訴えかけようと必死にわめいている。
自分はこのセミが嫌いだ。秋に良く鳴く鈴虫やこおろぎ達と比べてみると良いまるで月とスッポンだ。秋の風情を高めてくれる鈴虫やこおろぎと違ってセミは夏の暑さを嫌という程思い出させてくれる。
すこし、というかほとんどが自分の偏見だが個人が持つ感想なんてそんなものだろうと気にしないで置く。
それからしばらく木陰で涼む。この暑さの中そよそよとうごめく風と影のお蔭で私はウトウトと眠りこけそうだった。しかし、店主がまさかの寝坊をするわけにはいかないので眠らないようにこらえる。
「まずい。これは本格的に眠りそうだ」
私が持っているお茶のペットボトルに目をやると、まだ半分ほど残っているようだった。
公園の時計を見るとあと少しで自分が帰るには良い時間となっていた。なので私はその場で眠るわけにもいかなかったので妙前へと帰る事にした。
2 菓子好
店まで戻った私は開店のために急ピッチで作業を進めていた。この時間帯野々村はいまだ学校にいるので妙前を一人で切り盛りしなくては行けないのだ。以前野々村がいたときに常務的に入ってくれるパートの募集を出そうかなどと言った所何故か野々村が涙目になって止めてきたので今のところは募集をしていないがこれは考えなくてはいけない。
今私が行っている作業は今日作ったお菓子を店頭に並べるというだけの物なのだがいかんせん量が多かった。予想以上の時間を食ってしまった
やっとの事で品物を全て出し終え、私は先ほど買っておいたお茶の残りを一気に飲み干す。冷蔵庫の中で冷やてあったのでほてった身体を一気に冷ましてくれた。
「ふぅ・・・・・・」これまでの作業に思わず溜息が出てしまう。壁がけの時計を確認する「よかった。間に合った・・・・・・」
私は店を開けようと思い、店の暖簾(のれん)を持ち店の入り口を開ける。京都での御菓子屋という物には私は横開きのドアのイメージがあったので横開きのドアである。カラカラと音を立てながら開かれる事も風情があってよい。と常連さんからも好評だ。私もそこらへんはグッドポイントだと思っている。
「おや、こんにちわ。今日も早いですね」
私は外に出、いつもどおりそこに座っていたこの店の常連さん一号に挨拶をする。するといつもどおり「ウム」と言って私が暖簾をかけるのを見ている。
彼女は菓子好(かし このみ)さん。その名の通りお菓子が大好きな人である。今年で22歳を迎えたそうでその時は妙前店主である私が他の常連さん達と一緒に全力を持って祝わせていただきました。
「今日は何をお求めで?」
私は好さんに尋ねる。すると、ウーム、と考え込んでしまった。長い黒髪をこさえた彼女が少しだけ顔を傾けて悩む姿は大変目に優しいものだった。眼福眼福。これだけで今日一日頑張れる気がします。
好みさんは少しの間考えていたが何もいわずただ首を振って答えた。どうやら特に理由無くここに来たようだった。
すると彼女はなにやら満足したようでいつも持っているギターケースを持ちこの場を離れようとしていた。彼女が誕生日で私の家に来たときに職業はなにかと聞いたところ「秘密・・・・・・。」と言われただけで明らかにならなかった。私はいつもギターケースを持っているのでミュージシャンか何かかと思ったがどうやら違うようだった。
「ちょ、ちょっと待ってください。せっかくですから時間がありましたら上がっていきませんか? 金唾くらいならサービスしますよ」
私はせっかく来てくれた常連さんなのに何もせずに帰ってしまっては悪いと思い呼び止めた。すると、彼女は良いの?とでも聞くように首を傾ける。あぁ、癒し系だ。彼女は猫のように人を癒す能力を持っているのかもしれない。
「いいですよ、せっかく来ていただいたのですし。いつもご贔屓いただいているお礼です」
私は接客スマイルではない笑みを彼女に向ける。彼女とは既に店主と客ではなく普通にお友達な関係である。ここで接客スマイルなど出したら失礼だ。
私はどうぞこちらへと言わんばかりに入り口に片手を向け彼女を招き入れる。そしてレジの近くにある、ちいさな椅子に座る。すると、彼女の長い髪の毛が床に着きそうだった。ついさっき床を大変な思いをして拭いていたことに感謝した。何気ない今日はいわゆる要人の方が見えるという事で少しでも綺麗に見せ様と床を拭いていたのだがそれがこんな所でも功をきしたようだった。彼女のあの綺麗な黒髪が汚い床などについてしまったらそれこそ私は彼女に華麗なる土下座をして許しを得るしかないだろう。まぁ、そんな事になったら彼女は困惑するだけなので実際にはやらないが・・・・・・
彼女はそこに座ると人の家の子供のようにあたりをキョロキョロし始める。これは毎回思うことだが何の意味があるのだろうか。当然のことながら彼女は常連であるのでこの店に来る事は初めてではない。しかも他の常連さんたちに比べ早くに常連となっていたので一番この店に来ている客と言えば彼女なのである。店の間取りも滅多に変えないので真新しい事などあるはずも無いはずだ。彼女の視線をたどってみるが分るはずも無い。
まぁ、良いか。それよりも金唾だ。他のお客さんたちもまだ来ていないようだし。こういうサービスは誰もいないときにするに限る。
私はそのまま彼女を店の中に置き部屋の奥へと進む。そしてそこにある冷蔵庫を開けて作りおきしておいた金唾を一つ手に取った。これは元々野々村が食べたいとうるさく言ってきていたので作った物なのだが、今は好さん優先だ。私は更に金唾を食べるための楊枝を取り店内へと戻る。そこでは、先ほどと同じく椅子に座ったままの好さんがいた。
「お待たせしました」
私は彼女に声をかける。どうやら彼女は私に気づいていなかったようで、ビクッとしてこちらを振り向いた。
「どうぞ」私は手に持っていた金唾を彼女に渡してあげる。彼女は受取るとフムフムという擬音が聞こえてきそうな食べ方で金唾を食べていった。
3 小久保官房長官
さて、先ほどまで順調に仕事をこなしていったわけだが、問題はこれからである。時刻をみるともうすぐ5時そろそろのはずだ。
普段なら、さして緊張感もなく終わるこの仕事であったが今日は勝手が違っていた。
これから来るであろうお客様は、今この日本の指揮を執っている慈善総理(じぜんそうり)の官房長官を務める小久保(しょうくぼ)という人物なのだ。この小久保と呼ばれる人物、どうやら風の噂とやらで私の店の評判を聞きつけたらしく、つい三日ほど前に一つの予約が入った。どうやら、この小久保官房長官は無類の甘党であるらしく是非私の店のショートケーキを食べたいと言う事でホールでの注文が入った。一人でどれだけ食うのだろうか。太るぞ? いや、既にあの人は太っていたか。
その為に今日バイトがあるはずの野々村には少しばかり遅れて店に来るようにと言っておいた。何かのミスで私の信用が下がってしまっては冗談ではない。
「ふぅ」ついつい溜息が漏れてしまう。こんなにも緊張するのは何時依頼だろうか。私は万全を期す為に接客マニュアルを頭の中で復唱していた。
そうしたまま無碍にも時間は流れ、時計の針が一秒を刻むごとに私の胃もキリリという音を立ててしまっていった。
そしてついに、目の前に一つの縦長い車が到着した。いち早く運転手が降り後部座席の左側の扉を開ける。そして小久保官房長官がその姿を現した。
その姿に私は絶句をするという表現がぴったり当てはまる位に声が出なかった。野々村から聞いていたこともあり、小久保官房長官はかなり体系がふくよかであると知ってはいたのだがこれはこれは、どうした事か正直想像以上であった。
私はそのまま店内のレジにて相手がその横開きの扉を開けるのを待つ。
カラカラカラという風情溢れる音を立てて開かれた扉から最初に現れたのはSPと思われる方だった。そのSPと思われる方が二人店に入った後小久保官房長官がこの店内に足を踏み入れた。そしてノシノシという言葉と共に私がいるレジの前まで歩いてくる。小久保官房長官が入った後新たにSPの方が二人現れた。この店内にいるSPの方の数はこれで四人だ。
「ようこそいらっしゃいました。小久保官房長官殿」私は一番無難だと思われる挨拶をした。
「うむ、ここが妙前という店か、中々風情があってよいではないか」
「お褒めいただきまことにありがとうございます」
「よいよい、では頼んでいたものをいただけるかな?」
「はい、ただいま」そういうと私はケーキを持ってくるべく颯爽と奥へと消える。話している間中思っていたことだが小久保官房長官よりも回りのSPの方々の視線が痛すぎる。根が小心者である私は胃に大ダメージを食らってしまった。奥にいる隙に私は胃薬を飲む事に決めた。
私は、奥へとやってくると先ず最初にホールケーキを探す事ではなく胃薬を探す事にした。確かここの奥の部屋に来て直ぐの棚に入っていたはずだ。この奥の部屋というのは厨房の事ではなくよく従業員が使うような簡単な事務室的な部屋である。
かくして私の目的物である胃薬は何なく見つかった。それと同時に気つけの薬も見つかったので同じく服用しておく事にする。これでいくらかは持つはずだ。
さてお次はメインディッシュである。ホールケーキである。これは今朝作り上げていたものである。盗まれるという事が無いよう冷蔵庫に厳重にしまっておいた。よし、問題なく置いてあるな
「こちらでございます。小久保官房長官殿」そう言って私は手に持っていたホールケーキの入った箱を官房長官に手渡す。
「ありがとう。こちらは代金だ。少しばかり多いがこれから長く付き合う上での気持ちだと受取って欲しい」
そういって官房長官は私に本来の代金とは少しばかりというかかなり多い代金を私に渡す。これはアレだろうか賄賂(わいろ)とかいう奴なのだろうか。こういう事ははじめてであったのでどうすればよいのか・・・・・・。といった感じに私がその多めの代金に戸惑っていると官房長官は大きな声で笑い出した。
「ハッハッハッハ、君は実に面白いお方だなぁ。大丈夫だ、これは受取ってくれてかまわないよ。また、ここに顔を出すかもしれないからその時はよろしく頼む」官房長官はそのまま笑いながら着た道を戻っていった。
お付きのSPさんの話によるとあの小久保官房長官は気に入った御菓子屋があると初めての時はああやって元とは多めに支払うそうだ。そうやって常連となっていくきっかけを作っているのだという。
そこまで聞いてなるほどと私はおもった。確かにお金を握らせておけば自らのことを無碍に扱ったりはしないだろうしこれからはお得意様としてその店からは認識されるだろう。それを為せるのはあの人が今官房長官という高位な地位についている事とその財布の底が底なし沼のお蔭だろう。要するにお金をあげるから友達になっておくれと、いう事か。
まぁ、私の店は中々ユニークな常連さんたちがたくさんいるからその中に官房長官、国のトップに近い人が常連になっても大丈夫だろう。私は最後にとりあえずこれからもご贔屓よろ
しくお願いいたします。と言っておいた。
小久保官房長官がお帰りになってから私はしばらく一般のお客の相手をしていてふと、時計を確認する。
「そろそろ、野々村 野乃が来る時間だな」
これで少しは私の仕事の負担がなくなるだろうそう思い、野々村よ早く来いそう願った。
4 野々村 野乃
とにもかくにも時間という物はあっさり過ぎていってしまうもので今朝から今日は要人のお客があると言う事で胃をキリキリとならしながら痛めていたのに、存外その時が来てしまえばあっさりと難なく過ぎ去ってしまうものである。いわゆるやるしかないという状況下によってそれは起こりうる。そしてそれが過ぎ去ってしまえばこれから起こるあらゆる事に対してもそれ相応の気構えが出来るという事である。
何故私が今数人しか店内にいない状況でそんな事を考えているのかと言うとそれ相応の気構えが出来てしまった事でこれから来るであろう可愛らしいバイトさんのことを思うとあんなプレッシャーに耐えられるのだろうかという、すこしばかりありがた迷惑的な彼女の将来への不安をふつふつと覚えるからである。今日、彼女には少しばかり小久保さんが来るということでバイトの時間をずらしてもらったが実際はプレッシャーに慣れさせるという意味ではいてもらったほうが良かったかもしれない。今思っても既に後の祭りでしかないのだが。
「こんばんわー。店主さん」
おっ、来たな?先ほどの声が家でバイトしている唯一の存在野々村野乃(ののむらのの)である。バイトである彼女であるが路地裏にある裏口から入れるというようなことをする事も無く普通にお客さんと同じドアから入ってきてもらっている。女性が一人路地裏とか危険だし。
「おや、ののちゃん。今日は少し遅いんだねぇ」
「えぇ、ちょっと店主が今日は大事なお客さんが来るとかいうのでちょっと時間をずらしたんですよ」
何をやっているのだろうか普通にこの店は扉を開けたら即店内なので今彼女が他のおきゃくさんと喋っているのが丸分りなのだが。喋るのが悪いというわけではないのだが一応仕事場に来たのだからそれなりの節度は守ってもらいたいものだ。
「野々村、お喋りはそこらへんにして奥で着替えてきてください」
私のその言葉に野々村は「はーい」と可愛らしく返事をするとトタトタと店の奥へと歩いていった。
「ほっほっほ、店主さんも勘弁してやってくださいよ。私みたいな老人には彼女みたいな子はまさに宝なんですから」
先ほどまで野々村と話していた老人が今度は私へと話しかける。いえ、まぁそれは分ってるんですけどねこちらにも雇っている側としての責任がですな・・・・・・。
「ほっほっほっほ・・・・・・」
野々村野乃、血液型O型。身長158cm、体重??km。彼女はここの近所にあるT高校に通っている現役女子高生。部活はやっておらず趣味もとくに分らない。
彼女はそこそこに長く黒い髪の毛とそのちいさな顔に掛けられている、大きなめがねが特徴的な可愛らしい娘だ。先ほどの老人との会話からも分るとおり彼女にはこの店のマスコット的存在として活躍してもらっている。彼氏はいないそうだ。彼女は可愛らしいので彼氏の一人や二人いてもおかしくは無いのだが。
「あーーーーっ!!」
私が脳内で野々村の軽いプロフィールを紹介している時に奥にいる、野々村の悲鳴が聞こえた。どうした?ゴキブリでも出たか!?一応綺麗にはしているはずなのだが・・・・・・
「どうしたんだい!?」
その野々村に反応したと思われる野々村目当てで毎日来ているこの老人が大きな声をあげる。そのままの勢いで店の奥に入ってしまいそうなので私はそれを押しとどめ億で何があったのか確かめるべく野の村の元へと向かう。
「おーい、どうしたんだー?」
私は少々けだるげな声を出しつつ部屋の奥へと向かう。店主である私がレジを離れるなど本来はありえないことなのだが、この店ではこういった事は良くある事なのでお客さん達は慣れっ子である。いや、それはそれでどうかと思うのだが。いや今回にいたってはありがたいことなのでそのご好意に甘えるとしよう。
私は無機質な廊下を一人歩き野々村のいる奥部屋へと向かう。
「店主さ~ん。私が頼んでおいた金唾が無いの~」
私が奥部屋につくと冷蔵庫を開けてその前で女の子座りをしながら目の端に涙を浮かべている。その道の人が見れば萌え~などと叫びたくなるような様子ではあるが私にはその気は無いのであまり意味は無い。
それにしても金唾? はて、何の事だったか・・・・・・。私は今日は昼時におにぎりを食べただけで金唾などは食べていないはずなのだが・・・・・・。
「私は知らないな。まぁ、あとで金唾なんていくらでも作ってあげますから。今はバイトを頑張ってください」
言うと野々村はで頬を膨らませてブーと唸った後、そのまま作業着に着替えようとするので私は無言でその部屋を出て行った。
「あぁ、そういえば。好さんに金唾を差し上げたのでした」
そして私は店へ戻っている間に何故金唾がなくなっていたかを思い出した。しかし、これを言うと後々面倒な事になりそうなのは目に見えているので野々村には黙っている事にした。
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