自宅の窓から何気なく外を見やる。空中戦艦「佐々木次郎」がいつもの朝の出迎えのために接岸しようとしていた。
それはごくありふれた日常の光景。全長312メートルの黒光りする物体が空から徐々に高度を落とし、海面に接触すると同時に津波のような波で海辺を蹂躙し、大怪物の雄叫びを彷彿とさせる汽笛でカモメの群れを追い払い、ようやく沈黙する。
そんな光景がもう半年以上も毎朝繰り返されているのでそれは既に町の日常の一部と化していた。
ややもして、戦艦の後部甲板から多目的ヘリ戦機が飛び立つ。といってもほんの数十メートル進んだだけで駐車場に着陸し白い軍服姿の男が降り立った。
男は真っ直ぐに目先の民家へ向かう。何の変哲もない、むしろ周囲の他の家と比べても一回り小さいこじんまりとした一軒。男は迷うことなくチャイムを鳴らし、言った。
「佐々木次郎大元帥閣下を、お迎えに参りました!」
呼ばれた大元帥、佐々木次郎は、寝ぼけ眼でパンの切れ端をくわえながら、学生服の襟フックを引っ掛けつつ、玄関のドアを開けた。
「だからさ、呼びに来てくれるのはいいんだけどもうちょっと声の大きさを抑えてくれないかな。朝っぱらから近所迷惑だし」
「はっ。大変申し訳ありません!」
多少緊張しているらしい若手に見えるその士官に対して、第一特務艦隊司令長官佐々木次郎は更に輪をかけて若い。若いというより幼いと言った方が正しかった。実年齢16歳と4カ月。丸みを帯びた眼鏡をかけた相貌はどこにでもいそうなごく普通の少年のものだ。髪も別段長くもまた短くもなく、生来の黒色。身長は同世代の平均よりやや低くまた小柄でもあった。
そんな少年に対して、士官はなおも強張った言い方で続ける。
「しかし、大元帥閣下であらせられる佐々木提督のお供をさせていただくという大任務、同輩のうちでもこの上ない名誉と言い合われております故、気抜けた態度で失礼をお見せするわけには・・・」
「・・・だから毎朝呼びに来る人が違うのか。堅くならなくていい、って毎朝言い続けるのも疲れたんだけど」
次郎を乗せたヘリ戦機は慎重に浮かび上がり、ほとんど何の振動もないうちに元の甲板の上に着艦した。甲板上には既に数十人規模の乗員が整列しており、次郎の乗艦を待機している。形式上、次郎は敬礼を作って彼らに応じた。一月前まで毎朝のように軍楽隊が音楽を奏でていたが、さすがにそれは止めさせていた。減るものではないがそのままでは次郎の神経が減ってしまう。
次郎は甲板の上を歩きながら戦艦「佐々木次郎」の艦橋を見上げる。
いつ見ても、その名とはまるで無関係そうな厳然とした戦闘兵器の外観だった。
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どこにでもいるごく普通の少年佐々木次郎。地球滅亡の危機を前に、スーパーコンピューター「メサイア」が新型戦艦の艦長に彼を選んでしまう。。。
気が向いたら続き書きます。タグは適当なのでご自由に改変下さい。