No.324652

あおばらせんそう【試し読み】

にしうらさん

まきまき14に出すローゼン小説の総集編から、蒼星石が主人公の短編『あおばらせんそう』です。
童話風でお話が進み、アリスゲームをしたいのにできない蒼星石の苦悩は意外な方向へと向かって行きます

2011-10-27 15:36:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1546   閲覧ユーザー数:859

 蒼星石は悩んでいました。

 姉妹たちときたらみんな怠け者でぜんぜんアリスゲームをしようとしないのです。

 

 毎日真紅や雛苺、翠星石を諭しましたがいっこうに誰もアリスゲームをする気配がありません。

「どうしてみんなアリスゲームをしないんだい?」

 蒼星石が質問します。

「アリスゲームなんかよりくんくんのほうが大事だわ」

「アリスゲームなんかより昼寝のほうが大事ですぅ」

「アリスゲームよりうにゅーの方が大事なのぉ」

「アリスゲームより明日の食事のほうが大切よぉ」

「アリスゲームは……美味しくない」

 みんなまるっきりだめだめだったのでした。

 

 そんな無気力なみんなに腹を立て、翠星石は宣言します。

「たとえ僕一人でもアリスゲームを始めてみせる!」

 蒼星石はそういうと鞄から庭師のはさみを取り出しました。今にも襲い掛からん様子の蒼星石をみて、真紅が提案します。

「じゃあ、アリスゲームのことを前向きに検討しましょう」

「ほ、本当?」

 まるで夢のようです。やっとアリスゲームができるのです。

 

 真紅は言います。

「公平なルールに基づいたアリスゲーム。これこそ真のアリスへの道だと思わなくって?」

「全くそのとおりだね」

 真紅の言うことに、蒼星石は納得しました。純粋な宝石のようなアリスになるためには、卑怯な手段ではなく穢れない方法でアリスになる必要があるでしょう。

 

「じゃあ、民主的に選挙でアリスゲームの賛否を決めましょう。公平ですもの」

 そういうと真紅はどこからか箱と紙切れを取り出すと、薔薇乙女を全員集めて投票を行います。

 みなそれぞれに投票用紙にアリスゲームについての賛否を書き込むと、投票箱に放り込んでいきました。投票が終わると、ラプラスによってそれは集計され、みんなどきどきで経過を見守っています。

 しばらくすると、アリス選挙速報のテロップがどこかに流れました。

 

アリスゲーム反対‥四票

アリスゲーム賛成‥二票

無効票‥一票

 

「というわけでアリスゲームはできないことになったわ。残念だったわね」

 

 

 おじいさんにしばらく留守にする、という置手紙を残し、思いつめた蒼星石はnのフィールドの扉を開けます。nのフィールドの奥深く、蒼星石だけが知る細道を他のドール図に気づかれないようにこっそりと進んでいきます。

 蒼星石がたどり着いたのは薔薇の生垣に囲まれた白亜のお屋敷でした。

 

「やあ、僕。よくきたね」

 出迎えてくれたのは、なんと蒼星石です。白亜のお屋敷に住んでいるのは、原作の蒼星石。アリス選挙に負けたのは、アニメ版の蒼星石なのでした。姉妹の誰もまともに話しを聞いてくれないので、蒼星石は禁断の秘術『自分会議』を使ったのです。

「例の件かい?」

「うん、あの話なんだ」

 やはりどちらの蒼星石も蒼星石なだけあり、代名詞だけで話がスムーズに進んでいきます。

 

 原作の蒼星石はアニメの蒼星石よりもすこし険しい表情をしています。

「まったく彼女たちにも困ったものだね」

 そう、原作の蒼星石もアリスゲームをしない姉妹たちにご立腹だったのです。

 

 二人は浮かない顔でお茶をしながらブレインストーミングをするのですが、何もアイディアが浮かびません。

「ああ、もっとたくさんの僕がいれば妙案が思いつくかもしれないのに」

アニメ蒼星石は嘆きます。しかし、原作蒼星石は、ひらめきました。

「それだ! さすが僕、賢明だ」

 原作蒼星石は気がついたのです。二人でだめなら三人いればよい。それでだめならもっともっと増やせばいいのです。二人ではどうにもならないことでも三人寄れば文殊の知恵ともいいますし、そうでなくても、沢山いれば数の暴力に訴えることもできるでしょう。

「よし、早速探しにいこう。善は急がないと」

 原作蒼星石とアニメ蒼星石は早速世界樹へと向かい、手分けして平行世界をしらみつぶしにあたることにしました。

 沢山の可能性の分岐をひとつずつあたってnのフィールドを一世界ずつ進んでいきました。

 

 

 アニメ蒼が原作蒼に会いに行ってから一週間がたちました。

「もしもローゼンがチャンピオンで連載されていたら」

「もしもローゼンの原作者が板垣恵介だったら」

「もしもローゼンの作画がさいとうたかをだったら」

「もしもローゼンが実写映画だったら」

「もしもローゼンのアニメの製作元がゴンゾだったら……」

「もしもローゼスメイデンが本当のローゼンメイデンだったら……」

 沢山の平行世界を渡り、二人は多くの世界から半ばやけくそ気味に自分をかき集めました。そうすると、なんと一万五千八百六十人の蒼星石が見つかったのです。

 一万五千八百六十二人の蒼星石達は姉妹に戦争を挑むことにします。

「僕たち蒼星石は君たちに戦争を挑む!」

 一万人を超える蒼星石の軍団が、雄たけびを上げました。

 これが後に蒼バラ戦争とよばれる、血まみれの戦いの始まりだったのです。

 

 まずは、かつて大敗した選挙をやり直します。圧倒的多数でアリスゲームの再開が決まり、蒼星石たちは歓喜の声を上げました。蒼星石たちは大喜びで、他の姉妹たちは面倒くさそうな顔でいやいやアリスゲームの準備を始めたのでした。

 

 戦争は翠星石との戦いから始まりました。

 一万五千八百六十二人の蒼星石はここぞとばかりに翠星石の恥ずかしい思い出を淡々と朗読していきます。思い出の朗読が百二十五人くらいになったあたりで、翠星石は耳まで真っ赤な顔で敗北を認めたのでした。

 

 二戦目は雛苺との戦いでした。

一万五千八百六十二人の蒼星石は腕によりをかけて一人一個うにゅーを作ります。一万五千八百六十二個のうにゅーを雛苺に差し出すと、一万五千八百六十二個のうにゅーの山に埋もれた雛苺はアリスゲームを放棄する書面に署名をします。アリスゲームを放棄した雛苺はうにゅーの山に埋もれ、安らかな顔をしていたということです。

 

 三戦目は水銀燈でした。

 一万五千八百六十二人の蒼星石が一枚ずつそれぞれ千円札を持ち寄りました。そして、その千円札の山を水銀燈に渡すと、一言言い添えるのでした。

「それだけのお金があれば百年以上毎日朝晩ヤクルトがのめるよ」

 水銀燈はヤクルトを買いにすっ飛んでいって、それきり戻ってきませんでした。

 

 四戦目は金糸雀です。一万五千八百六十二人の蒼星石は金糸雀に頭脳勝負を挑むことにしました。自称策士だけあり、金糸雀は頭脳に自信がありましたので、それを受けることにしました。

(ふふっ、カナに頭脳勝負を挑むなんて百年早いかしら!)

そうして、蒼星石の出す質問に金糸雀が答える形で勝負は始まったのです。

「お父様が嫌いな果物をひとつ答えよ」

「す……スイカだったかしら?」

「ちがいまーす」

「一たす一はなーんだ」

「二かしら!」

「ちがいまーす」

「あつくなればなるほどうすくなるものなーんだ」

「わ、わからないかしら……」

 一万五千八百六十二問全問に不正解だった金糸雀は泣く泣く薔薇乙女一の頭脳派の地位を返上し、己の敗北を認めたのでした。

 

 五戦目は真紅との戦いが待っていました。

 くんくんを邪魔されてイライラが最高潮に達している上に、もとからの主人公補正によるステータスの高さと、近接格闘スキルなど、蒼星石側の苦戦が予想される戦いでした。

 

 戦いが始まると、蒼星石達の予想以上の苦しい戦いが待ち受けていました。原作(幻冬舎版)、ヤンジャン版、ノベライズ、アニメ合計二期、オーベルテューレ。全てで主人公の座を守り抜いており。それ以外にも巻かれなかった世界などすべての世界で主人公の座を確保している真紅の主人公補正は、因果を束ね、絶大な力を生み出していたのです。

 

「自分から戦いを挑んだというのにひどいざまね!」

 真紅がステッキを一振りするだけで蒼星石のいた床が粉々に砕け散ります。

「くんくん視聴の邪魔をしたつけを、体に言い聞かせてあげるのだわ!」

スピードも、集中力もさすがに主人公だけあって大変なものでした。気がつけば回り込まれ、真紅が腕を一閃する度に何かが破壊されていきます。

 圧倒的な戦力に、蒼星石達の群れはすこしずつ削られていきました。まさかここまで真紅が強いと思っていなかった蒼星石達はチームワークや戦術などというものを一切用意していなかったのです。

 それに対してドール最強の物理火力を持っている真紅にとって、蒼星石達が群れて襲ってくることなど脅威にもなりません。

 ばたばたと、ピクミンのように蒼星石達は倒れていきます。

「僕が死んでも、代わりはいるもの……」

 そういいのこして、何人もの蒼星石が真紅の火力の前に倒れていきました。

 しかし、一万五千八百六十二人もいるのです。次々と襲いかかる蒼星石の数の暴力前に真紅はついに力尽き、降伏したのでした。その時残っている蒼星石は三千四百人あまりだったので、どれだけ真紅の怒りが強かったのか、後日蒼星石はしみじみと回想するのでした。

 

 苦しい戦いから、なんとか蒼星石達は体を癒して、最後の戦いへと向かいます。 

 ラスボスは雪華綺晶でした。

「お姉様、ゴチになります!」

 そう叫ぶと、雪華綺晶は蒼星石達の群れに目をキラキラさせて襲いかかっていきます。

 

 雪華綺晶はたいそうお腹がすいていたのでした。雲霞の如く襲い来る蒼星石を、かたっぱしからちぎっては食べ、ちぎっては食べ。

 一万五千八百六十二人いた蒼星石はひとりも残らず雪華綺晶のお腹の中に消えてしまいました。

「ああ、満腹満腹」

 雪華綺晶は極限まで張り詰めたお腹をさすります。これだけあれば一年は空腹をしのげるでしょう。こんなにお腹いっぱいになるまで食べたのは人生で初めてのことでした。

 幸福感と満腹感で、雪華綺晶はうとうととまどろんでいた、その時でした。

 ちくちくと、不快な感触をお腹に感じます。あれ? と思っているうちに風船が割れるような大きい音がして、雪華綺晶のお腹の中から一万五千八百六十二人の蒼星石達がその手にそれぞれ鋏を持って飛び出してきました。

 かわいそうな雪華綺晶は、一万五千八百六十二人の蒼星石にお腹をちょきときと切り刻まれて真っ二つ。

 これではしばらく縫い合わせるだけで精一杯で、動けないでしょう。もちろん、最終戦も蒼星石の勝利でした。

 

 全ての姉妹に勝利した一万五千八百六十二人の蒼星石はお父様に面会を許されます。一万五千八百六十二人の勢いに圧倒されたお父様は、ついうっかり蒼星石がアリスと認めてしまったのです。

 青バラ戦争はここに集結し、蒼星石はアリスとなりました。

 

 そうして、一年が経ちました。現在、蒼星石は世界樹の何処かに、一万五千八百六十二人の蒼星石が仲良く暮らせるアリスの国を作って、みんなで幸せに暮らしているということです。


 
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