あれほど強かった夏の日差しは影を潜め、心地いい日差しが地表に降り注いでいる。
ときより吹く風は、そんな季節が変わってきている事を感じさせるのに充分だった。
周りをよく見れば、長袖や着込んでいる人が多くなってきている。
季節は夏から秋へ。
そして、冬へと確実に進んでいた。
そんな少し寒くなり始めた空の下、数名の女の子が笑顔で歩いていた。
彼女達は夏のある日、突然この世界へ来た恋姫達である。
最初は戸惑いも多かったが、あれから数ヶ月が過ぎこの世界にもだいぶ慣れてきていた。
特にあの世界にはなかったものや風習など、様々な興味の惹かれるモノがある事も慣れを早めるのに役立っていた。
これは、そんな彼女達と彼女達が慕うある一人の男の話である。
カレンダーは10月になり寒い日も増えてきた。
街中の至る所にカボチャの置物や魔女の格好などが飾られ、ハロウィンの文字が躍っていた。
季衣と流琉はそれを見て、一刀に聞いてきた。
「兄ちゃん!! ハロウィンって何?」
「ハロウィンか……。確か……」
「ハロウィンとはカトリック系のお祭りで、子供達が様々なお化けの格好をして『トリック・オア・トリート、お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』と言いながら家々を回ってお菓子をもらえるみたいね。もっとも、国によっても違うみたいだし、特にこの国ではそういう事はやらず単純にその日を楽しむだけみたいだけど……」
お菓子をもらえるという部分に季衣が反応した。
「お菓子もらえるんだって!! 流琉、お化けの格好をしようよ!!」
「季衣……、この国じゃそういうのはないって……」
「そうだぞ、季衣。それよりも、桂花……」
季衣達にハロウィンを説明しようとした一刀に割って入ったのは桂花だった。
持ち前の勉強心で、この世界の風習を色々憶えたようだ。
そのおかげで、一刀が説明しようとした事を全て説明してしまった。
「俺が説明してやろうと思ったのに!!」
「何よ!! あんたがグズでノロマで全身精液男だから悪いんでしょ!!」
この発言にさすがの一刀もカチンと来た。
「ちょっと待て、なんだよその言い草は!!」
「忘れたとは言わせないわよ!! この子達や私にした事を!!」
桂花の発言に周りがざわめく。
一刀のハーレムっぷりはもう有名なので今更驚かないが、色々な噂は流れていた。
一番多かったのは、そのみんなとすでに関係を持っているというものだったが、それは一刀が必死になって火消しした。
だが、この桂花の発言はそれを裏付けるのに充分だった。
女性からは非難の声、そして男性からは羨ましいという言葉と、一刀への殺意を感じさせるものが上がっていた。
一刀は必死に否定した。
「そんなの覚えがないなぁ」
「ちょっと、ごまかす気?」
発言を肯定できればどれだけ楽だろう。
だが、あっちの世界ではそれほど問題にならなかった一刀の行為は、こっちでははっきりいって非常識だった。
だから、一刀は必死になって否定しなければならなかったのだが、相手が桂花では分が悪い。
それでも、一刀は頑張って否定し続けていた。
一方、流琉は突然勃発した言い争いにただただオロオロするばかりであったが、季衣は特に憶する事無く笑顔だった。
「季衣、止めなくていいの?」
「大丈夫だよ。ボク習ったもん、ケンカするほど仲がいいってね」
この季衣の発言は、言い争いをしている二人に届いた。
「「仲なんかよくない!!」」
ピッタリと二人の声が重なった。
「ほらね」
「ホントだー。心配して損しちゃった」
声が重なった事で、二人は仲がいいと認識する季衣と流琉。
そんな二人の反発する一刀と桂花。
「私がこいつと仲いいですって!!」
「こいつって何だ!!」
再び始まった一刀と桂花の言い争い。
本当は仲がいいと思っている季衣と流琉だったが、さすがに呆れ始めていた。
そんな四人に近づく二つの影があった。
「皆さん、どうしたんですか~?」
「あっ、風ちゃんと稟ちゃん!!」
それは、魏の軍師の残りの二人、風と稟であった。
二人は、季衣と流琉に簡単な挨拶をすると一刀達を見た。
「一刀殿と桂花は何をしているのですか?」
「ボクが兄ちゃんにハロウィンの事を聞いたら桂花が先に答えちゃって……」
「それでなんで答えるんだと兄様が言い出しちゃって……」
「それでですか……。しかし、一刀殿があそこまで反論するのは珍しいですね」
「いえ~、あれは別に珍しいのではないのですよ~。よく言うじゃないですか~」
「夫婦ゲンカは犬も食わぬってな!!」
宝譿がとどめの言葉を放った。
この言葉に一刀と桂花の動きが止まる。
季衣と流琉は言葉の意味が分からない。
「えっ、それってどういう意味?」
「私も知らないです」
そんな二人に宝譿が答えた。
「いいか、よく聞きなお嬢さん達。夫婦ゲンカは犬も食わぬって言うのは、夫婦喧嘩は一時的なものだから仲裁はするなって事だ」
「夫婦……」
「えー、兄ちゃんと桂花って夫婦だったの~!?」
流琉は何を想像したのか顔を赤くし、季衣は今思った疑問を素直に口にした。
一刀と桂花はこの発言に反論した。
「ちょっと、なんで私とこいつが夫婦なのよ!!」
「そうだ!! さすがにそれには異論を唱えさせてもらう」
風に詰め寄る二人。
そんな二人に風は答えた。
「風は知っていますよ~、桂花ちゃんがなんでこんなに頑張っているのかを~」
風の言葉に顔を赤くする桂花。
「今日のハロウィンの事だって……『ちょ……ちょっと待ちなさいよ!!』」
風の言葉を桂花が遮る。
桂花の慌てぶりに疑問を持つ一刀達。
「何をそんなに慌てているんだ?」
今まで言い争いをしていたとは思えない一刀の優しい表情に、さらに真っ赤になる桂花。
あうあうと何を言っているのか判らない言葉を発している。
なんでこんな事になっているのか分からない一刀は風に聞く事にした。
「風、なんで桂花はこんなに慌てているんだ?」
「それは、桂花ちゃんがこんなに頑張っているのはお兄さんのせいだからですよ~」
「俺?」
「そうですよ~。桂花ちゃんは口ではああ言ってますが、この世界に来てお兄さんに凄く感謝しているのです~」
「へぇ、桂花がね……」
そう言って、一刀は桂花の方向を向いた。
先ほどまでの慌てぶりからは回復したのか、桂花はそっぽを向いていた。
しばらくして、一刀の方向をむき直すと言った。
「そんなのでたらめよ!! 私が感謝し敬っているのは華琳様だけよ!! 今回のパーティーだって……」
パーティーという言葉に季衣が反応した。
「ねぇ、パーティーって何?」
「ハロウィンの事を調べていたらパーティーをするという事が多いようなので、みんなでやろうと桂花ちゃんと稟ちゃんと話をしていたんですよ~」
「へぇ、そうなんだー」
「それで桂花ちゃんにお兄さんを呼んできてもらおうとしたらこんな様子だったのです~」
「なんだよ。それならそうと早く言えばいいじゃないか!!」
一刀は思わず怒鳴ってしまった。
「しょうがないでしょ!! あんたがケンカ売ってくるから!!」
「先に売ってきたのは桂花だろ!!」
また再び言い争いを始める二人。
だが、周りの三人は止めなかった。
「また始まっちゃったよ……」
「あの……、大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫ですよ~。先ほども言ったじゃないですか~」
「夫婦ゲンカは犬も食わぬってな!!」
「「だから、蒸し返すなー!!」」
今回も見事に言葉が重なった二人。
他の三人は呆れてモノも言えなかった。
「と……、とにかくハロウィンにはパーティーをするわよ。けど、別にあんたの為にやるわけじゃないからね!!」
「分かっているよ」
桂花の発言に風がめざとく反応した。
「いえ~、桂花ちゃんはしきりにお兄さんの事を気にしていたと思いますが~」
「なっ!!」
風の言葉に再び顔を赤くする桂花。
「そうなのか?」
「そ……そんなはず無いじゃない!!」
「桂花ちゃん、素直じゃないですね~」
「えーっと、こういう性格の人って何て言うんでしたっけ?」
「ボク知っているよ。えーっと……」
「ツンデレだろ!!」
宝譿が再びトドメの一撃を放った。
この言葉に今まで見た事無いくらい顔を真っ赤にする桂花。
「ツ……ツンデレじゃないわよ~!!」
そんな捨て台詞を吐きながら走って行ってしまった。
残された四人は唖然となってしまった。
しばらくして一刀が話しだした。
「それで、パーティーってどうするんだ?」
「そうですよ~。それをお兄さんに聞こうと思って桂花ちゃんに呼んできてもらいたかったのですが~」
「そうなのか……。うーん……」
一刀は腕を組んで考えてしまった。
正直、今までハロウィンのパーティーなどやった事がなかったからだ。
だが、何となく想像は出来る。
それを提案する事にした。
「ハロウィンってお化けとか色んな格好をするから、そういう格好でパーティーをすればいいんじゃないか?」
「仮装パーティーですか~」
「楽しそう!!ボクやりたいな!!」
「そうですね。私は料理を作りますね」
「そうだな。みんなで仮装すれば面白そうだ。そんな感じでどうだ、風?」
「いいですね~。それじゃ、お兄さんは華琳さまや皆さんに伝えてきて下さい」
「わかった!!」
「ボクは春蘭さまに伝えようっと!!」
「私はハロウィンの時期に合う料理を色々探してみますね」
今後の方針が決まったところで一つ忘れている事があった。
「風、そう言えば稟が一緒にいなかった?」
「稟ちゃんですか~。……あっ」
風が向いた方向には鼻血を流して倒れている稟がいた。
その口からはしきりに「一刀殿と桂花が夫婦……」と漏らしていた。
流琉と同じような想像をして限界を突破したようだった。
「風、稟の介護よろしく……」
「分かったのですよ~。では、お兄さん達は華琳さま達への伝言お願いしますね~。それ以外の事は風達で進めておきますので~」
こうして魏の武将達によるハロウィンパーティーが開催される事になった。
華琳達を探していた一刀と季衣は女子寮に来た。
そこで、ちょうどロビーにいた華琳と春蘭、秋蘭に風達が提案してきたハロウィンのパーティーの事を話した。
もちろん、ただのパーティーではなく仮装パーティーであるという事も付け加えて。
「ハロウィンの仮装パーティーねぇ」
「仮装って事は、何かに変装しないといけないわけよね?」
「そうだなぁ。ハロウィンだからお化けとか魔女とかそんな感じかなぁ」
「お化けや魔女……、ちょっと楽しそうね」
華琳は乗り気のようであった。
その横で、季衣からの必死の誘いになかなか首を縦に振らない春蘭がいた。
「ねぇ、春蘭さま~。仮装パーティーしましょうよ~」
「仮装などと恥ずかしいではないか!!」
仮装がどういうものか想像をしているか分からないが、春蘭は恥ずかしいようであった。
そんな姉の様子に妹が苦言を呈した。
「姉者よ、季衣がこれほど頼んでいるのだ。首を縦に振ったらどうだ? 華琳様も意外と乗り気みたいだぞ」
秋蘭の言葉に春蘭が華琳を見てみると、お化けや魔女の仮装に関して一刀から色々聞いているようだった。
春蘭の視線に気付いた華琳は、春蘭を見ると言った。
「春蘭は、仮装パーティーに反対なのかしら?」
「そうなのか、春蘭? 理由は分からないけど、せっかくだしやろうぜ仮装パーティー」
華琳に続き一刀にも言われた春蘭は、しばらく考えると言った。
「そ……そこまで言われると仕方ないな」
「じゃあ、春蘭さまもパーティー参加するんですね!! やったー!!」
春蘭が参加すると分かり喜ぶ季衣。
その一方で、一刀が誘った事で態度を一変させた春蘭に華琳が反応した。
「あら、春蘭は一刀に頼まれると反対しないのね?」
華琳の言葉に春蘭が慌てた。
「か……華琳様!! そんな事無いですよ」
「だが、姉者。先ほどまでの会話の流れだと、北郷に言われたから参加する事にしたと取られてもおかしくないぞ」
否定した言葉を、秋蘭に簡単に覆された。
不利な状況の春蘭は、一刀に当たることにした。
「北郷!! お前のせいだぞ!!」
「ちょっと、俺が何したんだよ!!」
「と……とにかく、お前が悪いんだー!!」
言われない批判だが、自分の身の危険を感じその場を逃げ出す一刀。
「あっ、兄ちゃ~ん!!」
季衣を置いたまま、一刀はその場を逃げ出した。
女子寮を逃げ出した一刀は、商店街へと来ていた。
おそらくここにいるであろう他のメンバーに会うためだ。
「多分ここに……、あっいた!!」
カフェテラスでお茶をしている三人を見つけた。
北郷隊の三人娘、凪と真桜と沙和であった。
「おっ、隊長や~ん!!」
「ホントなのー!! 隊長も一緒にお茶しようなのー!!」
「お疲れさまです」
一刀は空いている席に座った。
「実は三人を探していてさぁ」
「私達を……ですか?」
「なんや、閨の相手かいな? うちは今夜空いているで~」
「私も空いているのー」
「ふ……二人とも何言って……」
一刀や凪の事などお構いなしに、二人は夜の話で盛り上がっている。
一刀はそんな二人に呆れながら本題を話しだした。
「実は今度のハロウィンにみんなでパーティーをしようって事になって、誘いに来たんだよ」
一刀の言葉に三人の顔がより一層明るくなる。
「パーティーって楽しそうなのー」
「せやな~!! なんか楽しそうや~!!」
「パーティーというのはどういうものなのですか?」
「ハロウィンっぽい格好をして、みんなで楽しむんだよ」
「ハロウィンっぽい格好ってなんや?」
一刀の言葉が抽象的すぎて、首を傾げる真桜。
凪や沙和も同じように疑問に思ったようだ。
真桜と同じように首を傾げている。
一刀は、華琳達に話をしたのと同じようにお化けや魔女の格好をするという事を伝えようとした。
だが、ここで少しいたずら心がわいてしまった。
「ハロウィンにする格好ってね……」
そう言いながら、一刀は三人に耳打ちをした。
一刀の言葉を聞いた三人の顔が赤くなってくる。
「そ……そんな格好をしないといけないのですか?」
「なんや、恥ずかしいなぁ」
「沙和もちょっと考えちゃうのー」
案の定の反応を見せる三人。
一刀は、もう一言加えた。
「三人のそんな格好見てみたいけどなあ」
この言葉を聞いて、凪がグッと握り拳を作った。
「分かりました!! 隊長が望まれるなら私は頑張ります」
「おー、凪ちゃんがやる気なのー」
「凪がやるなら、うちらもやらなしゃーないな」
惚れた女の何とやらだろう。
一刀が望むならと、先ほどまでとは違い三人は息巻いている。
「それじゃ、よろしくね。パーティーの細かい日取りはあとで教えるから」
そう言って、一刀はその場を離れた。
だが、三人はそんな一刀に気付いていないのか、沙和を中心にこんな格好にしようとファッション談議に花を咲かせていた。
一刀はそのまま商店街を歩いていた。
ある人物に会うためである。
少し歩いたところで、その姿を確認できた。
「おー、一刀やん!!」
一刀の姿を見て陽気に手を振っているそれは霞だった。
そう、一刀が会おうと思っていたのは彼女だ。
「それじゃ、お嬢ちゃん。わしらはこれで」
「おっちゃん達、ごめんなー」
「いや、いいよ。二人の子供早く見せてな」
「子供って……。何言ってるんや!!」
「あははは……」
そう言って、霞と一緒に飲んでいたオヤジ達はどこかへ行った。
「子供か……」
「霞、どうしたの?」
先ほどのオヤジの捨て台詞と、今の霞の言葉は一刀には聞こえなかったようだ。
「い……いや、なんでもあらへん」
慌てて否定する霞。
その顔は、かなり赤くなっていた。
「なんだ、飲み過ぎているのか? それとも風邪? 熱でもあるのか?」
そう言って一刀は、自分のおでこを霞のおでこに合わせようとした。
「なっ、なんやのー!!」
霞は突然顔を近づけてきた一刀に驚き、思わず手で押しのけてしまった。
一刀はそのまま尻餅をつくような格好で、後方に転げてしまった。
霞は、慌てて手を差し伸べた。
「あっ、一刀。ごめんなー」
「なんだよ、いきなり」
「せやかて、一刀が急に顔を近づけるから……」
「それはおでこを合わせて熱があるか確認しようと思ったんだよ」
「そうやったんや。ごめんな」
霞はただただ平謝りするほか無かった。
その顔は、別の意味で赤さが増していた。
「まだ赤いぞ。大丈夫か?」
「ああ……、大丈夫や。ちょっと飲み過ぎたのかもしれへん」
「昼間っからそんなに飲んじゃダメだって……」
「わかった。気を付けるわ」
そう言って、霞が笑った。
一刀が霞の元に来てから、そこそこの時間が経とうとしていた。
冷静さを取り戻した霞が、一刀を隣の席へ案内した。
一刀は、案内された席へと腰掛けた。
「そんで、一刀はウチになんの用や?」
冷静さを取り戻した霞が、改めて聞いてきた。
「ああ、そうだった!! 実は……」
一刀は、もうすぐハロウィンだという事と、それに伴って華琳達とパーティーをする事になった。
その際に色々な仮装をして参加するという事を話した。
それを聞いて、霞は何やら考えると言った。
「仮装っちゅーことは、要するに最近はやりのコスプレってやつやな」
「コスプレって……。確かにそうかもしれないけど、何か違う気がするなあ」
「仮装って普段とは違う格好をするやつやろ?」
「そうだね」
「ならコスプレやん!!」
そう言って、霞は目を輝かせた。
一刀は知らなかったのだが、霞は最近コスプレにはまっているのだった。
一刀の話を聞き、霞は完全に自分の世界へと入り込んでしまった。
「霞ー?」
「はっ!!」
一刀の声で、霞は我を取り戻したかに見えた。
「こうしちゃいられへん!! 一刀、また後でなー!!」
「あっ、おい霞!!」
そう言って、霞は寮の方へとかけていった。
一刀は、霞にハロウィンの格好はどういうものかを説明できなかった。
さらには、店の支払いを済ませておらずそれが一刀に来た。
一刀は仕方なく財布にあったお金を払って残りはつけにしてもらった。
財布の中身がかなり軽くなった一刀は、再び商店街を歩いていた。
最後に彼女達に会うためである。
しかし、全国的に有名となった彼女達に会うのは至難の業だった。
自分のような存在がいては、彼女達の迷惑になる。
そう思い意図的に避けているのだ。
彼女達も、そんな一刀の意図を汲み取ってあえて会うような事はしていない。
そんな間柄なのだから、簡単には会えるはず無いのだ。
一刀は商店街を抜け、郊外にある公園に来た。
木々の葉は色づきはじめ、秋の訪れを感じさせた。
確信があったわけではない。
特に情報もなかった。
だが、ここに来れば彼女達に会える。
不思議とそんな感覚が、一刀の心の中にあった。
色々なことを考えながら公園の中心近くで佇む一刀の目が突然塞がれた。
「だーれだ!!」
甘い香りと背中に感じるふくよかな感覚。
そして、幾度と無く聞いた声。
すぐに答えは分かった。
「天和だろ?」
「えー!! なんで分かったの!?」
そんな声が聞こえて、一刀の視界が明るくなった。
振り返ると、そこには変装をしているが確かに天和の姿があった。
その横には地和と人和の姿もある。
そう、一刀が会いたがっていたのは今や日本を代表するアイドル張三姉妹であった。
「そりゃ、分かるよ。背中の……」
言いかけた一刀を、人和が睨む。
「そ……その声を聞けばすぐ分かるって」
「そっかー」
「だから、言ったでしょ姉さん。すぐにばれるって」
「だって、一刀を驚かせたかったんだもん」
人和の言葉に、反論する天和。
そんな天和の姿に、一刀はいたたまれなくなって言った。
「いや、充分驚いているよ」
「ほんと!! よかった」
一刀の言葉を聞いて、天和が子供のように飛び跳ねる。
胸元の二つの膨らみが、重力に反発するかのようにはねる。
一刀は思わず、注視してしまった。
そんな一刀に向けて人和は咳払いをした。
一刀はそれに気づき我に返った。
「それで、一刀はなんでここにいるの?」
「ちぃに会いに来てくれたんだよね?」
天和に言葉に重なるように、地和がわざとらしく話す。
「ちーちゃん、一刀は私に会いに来てくれたんだよ!!」
「違うわよ!! ちぃでしょ!!」
天和と地和が、一触即発の状態になった。
人和がそんな二人を抑えながら言った。
「一刀さん、本当のところはどうなんです?」
「いや、三人に会いに来たんだよ。会えるとは思ってなかったけど」
一刀が遠慮がちに答えた。
その言葉を聞いて、人和が話を進めた。
「私達に用事ですか? あんまり時間がないので手短に」
その言い草は、まさにマネージャといった感じだった。
一刀が手伝うまでは、人和がマネージャっぽい事もしていたんだったな。
そんな事を思い出しながら、一刀は言った。
「ハロウィンの日に華琳達とパーティーをしようって事になったんだ。三人もどうかなと思ったけど忙しいよね?」
一刀の言葉に、三人の表情は沈んだ。
人和が答える。
「ごめんなさい。その日はテレビで生ライブするの」
「そっか……。それじゃ仕方ないね」
一刀は、残念そうに言った。
そんな一刀の表情を見て、天和が意を決するように顔を上げていった。
「一刀、その日忙しいかもしれないけど、テレビを見てね」
「そうだよ。ちぃ達の歌う姿を見て!!」
「そうですね。私達はその場にいないけど、テレビ越しに一緒にいるって思って欲しい」
天和に言葉に、地和と人和も合わせる。
一刀は、三人の顔を次々に見ると言った。
「分かった。その日は必ずテレビを見るよ。良かったら放送局と時間を教えて」
「この時間よ」
地和がメモ帳を取り出して一刀に教えた。
一刀は携帯を取り出すと、その時間を記録した。
「これでよしっと」
一刀が記録するのと同じタイミングで、人和が時計を確認する。
もう時間のようだ。
「ごめんね、一刀。もう時間みたい。また話しようね」
「テレビちゃんと見てよね!! あと、浮気はダメだよっ!!」
「それじゃ、一刀さん、また」
「ああ。三人とも頑張って!!」
こう言い残して三人は、近くに止めてあった車に乗り込んだ。
一刀は、車が見えなくなるまで見送った。
そして、ハロウィン当日。
パーティー会場は、学園の多目的スペースを利用することにした。
当初は女子寮でと思ったのだが、よく考えたから女子寮に一刀は入りにくい。
なので、学園のスペースを借りることにした。
この学園には、生徒や関係者に無償で貸し出してくれる教室がいくつか存在していた。
今回はその一室を借りて行われることになった。
会場では、着々と準備が進んでいた。
飾り付けはどういったのがいいのかイマイチ分からなかったが、ネットや本などの資料を参考に行った。
テーブルには、流琉特製の料理が所狭しと並び始めていた。
ハロウィンの料理などよく分からない流琉だったが、そこは華琳さえも唸らせた料理人。
僅かな準備期間だったにもかかわらず、充実した料理が出来上がっていた。
仮装も見よう見まねで頑張っているようだった。
多くはカボチャ頭のジャックオーランタンだったり、魔女だったりする。
一刀もジャックを模した帽子のようなものをかぶり、それっぽく演出した。
霞は、時間がかかると言うことで別の場所で着替えている。
ハロウィンの仮装が何かを伝えていないのだが、そこまで変な格好では来ないだろうと一刀は思った。
そして、準備が済みハロウィンパーティーが始まった。
全員に飲み物が配られた。
華琳が挨拶をするのかと思ったが、一刀に促された。
「一刀、あなたがやりなさい」
「華琳がするのがいいんじゃないのか?」
「――いいからやりなさい!!」
ちょっと怒鳴り気味に言う華琳。
その顔は少し赤くなっていた。
一刀は、華琳の気持ちが何となく分かったので、特に反論することなくみんなの前に立った。
「それじゃ、華琳に代わって俺が。今日は楽しい時間を過ごそう!! 乾杯!!」
「「乾杯!!」」
皆手に持ったコップを上に上げて乾杯をした。
そして、流琉の料理に舌鼓を打ちながら思い思いに会話を交わしていく。
一刀も春蘭に絡まれたり、桂花に睨まれたりしながらも楽しい時間を過ごしていた。
そんな一刀に近づく三人の姿があった。
そう、凪、真桜、沙和の北郷隊三人娘だった。
三人の格好は、明らかに浮いていた。
それもそのはず、あの時一刀が教えた格好はハロウィンのそれとは違っていたのだ。
「隊長……、騙しましたね?」
「ほんまやー!! こんな格好うちらだけやん!!」
「本当なのー!!」
三人の格好は、フリルのエプロンが付いたいわゆるメイドさんの格好だった。
「いや、パーティーの給仕係の格好をね。でも、三人とも可愛いよ」
一刀の言葉に、顔を真っ赤にする三人。
「隊長が喜んでくれるなら、いいかな」
そのような事を小声で言いながら、モジモジし出す三人。
そんな四人の様子を、ちょっと怒りの表情を浮かべながら見ている者がいた。
その者は、足音を立てず一刀の元に近づいた。
そして、ここぞとばかりに怒りのオーラを一刀に向けた。
そのオーラを感じた一刀が振り返る。
「か……華琳……」
一刀は、蛇に睨まれた蛙よろしくその場で身動きが取れなくなった。
「一刀……。この三人の格好は何なのかしらね?」
「あ、いや……。パーティーの給仕係の格好を教えたんだけど……」
「なら、この子達は給仕係なのかしら?」
「え、いや……」
自分の好みで教えましたとは言えず、ただただ圧倒されるばかりの一刀。
北郷隊の三人も、華琳のただならぬ様子に声も出せない。
そこに、そんな様子などお構いなしに霞が近づいた。
そして、華琳の肩に腕を乗せると言った。
「華琳~!! せっかくのパーティーなんやから楽しくせなあかんで!!」
「霞……」
「霞、そう言えばその格好は?」
霞の格好は、どこかで見たことあるような姿をしていた。
「あー、これは最近はまっているんや。どや、似合っているやろ?」
「そうだね、よく似合っているよ」
一刀がそう言うと、霞は嬉しそうにほほえむ。
と同時に、華琳が憮然となった。
霞は、そんな華琳の様子を見て一刀に言った。
「一刀。ちゃんと皆も褒めてやらなあかんよ。なあ、華琳?」
突然振られて動揺する華琳。
「わ……私は関係ないわよ……」
「いや、華琳にもよく似合っていて可愛らしいよ」
「……ありがと」
華琳は、他の人には聞こえないくらいの声で言った。
「あー、兄ちゃん。ボクもどう?」
「風はどうですか~?」
華琳を褒めた事で、他の者達も一刀に褒めてもらおうと近づき声をかけてくる。
一刀は、一人一人に褒める言葉を言っていった。
一刀は、腕時計を見た。
もうすぐ始まる時間である。
「ごめん、ちょっとテレビをつけてもいいかな?」
「いいわよ。見たいモノでもあるのかしら?」
「ちょっとね」
そう言って、一刀は教室にあるテレビをつけた。
そして、あらかじめ教えてもらったチャンネルに切り替える。
「あっ、天和達だー!!」
季衣が声を上げた。
そう、天和達に言われたテレビの生ライブの時間だったのだ。
「天和達がテレビに出るってよく知っていたわね」
「実は、以前会った時に教えてもらったんだよ。是非見てねって」
「ふーん」
華琳とのやり取りの間、テレビでは司会者が三人に色々質問をしていた。
その質問に無難に答えていく三人。
テレビ慣れしているその姿に、一刀は本当にアイドルなんだなぁと改めて思った。
そして、歌う前の曲紹介が始まった。
その曲は、本邦初公開というものだった。
「この曲はどんな曲なんですか?」
「はい。この曲は、私達の大好きなあの人の事を想って作りました」
「大好きな人って彼氏って事?」
「彼氏ではないのですが、昔から私達を支えてくれた大事な人です」
「その人モテモテだからねー。彼氏って言うのは難しいんだ」
「こらっ、ちぃ!!」
「あっ、ごめんなさーい」
このやり取りを見て、テレビの前は若干気まずい空気になっていた。
「これって一刀の事……かしら?」
「さ……さあ……」
華琳の質問に、曖昧な答えをする一刀。
正直答えようがなかった。
「地和ちゃんは相変わらずだね。それじゃ、その人は今テレビを見ているのかな?」
「見てくれていると思います」
「精一杯歌うので見ていて下さいねー!!」
「それじゃ、スタンバイどうぞ!!」
曲紹介が終わり、三人がカメラ外に出ていく。
スタンバイが終わるまでの間、司会者が三人の簡単な紹介をしていた。
そして、曲が流れ始めた。
それは、明るい感じの曲だった。
悲恋じゃない。
明るく、そして前向きな曲だった。
音楽に詳しくない者でも、一度聴けば忘れない。
これもヒットするな。
一刀はそう思った。
そして、曲の最後一番いいところで、三人が歌った。
「私は」
「私は」
「私は」
「「「あなたを愛しています!!」」」
一刀は思わずドキッとなってしまった。
自分が言われているようなそんな気分になったのだ。
隣で一緒に見ていた華琳は正直面白くない。
三人の想いは分かっているのだが、どうにも気分がモヤモヤしている。
素直になるとはこういうモノなのか。
あちらの世界ではあり得ない感情に支配され、正直どうしていいか分からない。
三人の出番が終わり、一刀がテレビを消した。
「ごめんな。それじゃ、パーティーの続きをしよう!!」
そう言って促すが、微妙な空気が辺りを支配していた。
「隊長、さっきの歌はどうなんですか?」
「そうですね~。風も気になります~」
「ボクもちょっと気になっちゃった」
皆が口々に歌の事を聞いてくる。
「いや、それはあの三人に聞いてみないと……」
一刀としてはこう答えるよりほかなかった。
正直、一刀にも分かっていない。
三人には好かれていただろうし、その自負もある。
だけど、確実な事は何も分からなかった。
皆が一刀を質問攻めにする中、華琳だけは黙っていた。
一刀からすれば、その沈黙こそが少し恐怖に思えて仕方ない。
しばらくして、華琳が口を開いた。
「さっきの事の真相は分からないわ。だから、一刀をいじめるのはこれくらいにしましょ」
「はーい」
華琳の言葉に、皆が答える。
一刀はホッとしたが、華琳は言葉を続けた。
「けれど、やっぱり気になるから一刀には後で個人的に問い詰める事にするわ」
「えっ!!」
それは要約すると、今夜は私に付き合えという事に他ならない。
「華琳様、酷いですね~。今夜は風と稟ちゃんでお兄さんと一緒にと思っていました~」
「風と二人で……。ぶはっ」
風の言葉に、稟が想像していつもの鼻血を出した。
「華琳といえど譲らへんで!!」
風に加え、霞も参戦。
そこから次々と名乗り始めた。
一刀は男冥利に尽きるなと思いながらも、今夜も眠れないのかと肩を下ろしていた。
あとがき
書いてみました、ハロウィンネタ。
正直ハロウィンでなくてもいいんじゃないかという話になっちゃいましたね。
しかも、オチがない。
相変わらずの体たらくですみません<m(__)m>
当初は、蜀や呉の面々もと思ったのですが、これ以上混乱するのは目に見えていたので魏のみにしました。
そこは自らの技量を呪うだけです。
蜀編や呉編は多分書けません。
日数的に厳しいかなぁ。
ネタ的にも同じ感じになってしまいそうです。
その辺りの補完は別の話でと思っています。
霞のコスプレ好きは思いつきです。
なんか、そういうの似合いそうな気がして……。
霞ファンの皆さんすみませんです。
今後もこんな感じにポツポツと作品を書いていくつもりです。
長編はどうだろうなぁ。
先の信長ネタがまとまればといった感じです。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真・恋姫無双の二次小説です。
現代に来た皆でハロウィンパーティーをすることになったのですが
という感じの話となっています。
ただ、恋姫と銘打っていますが、出てくるのは魏の武将のみです。
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