No.320743

そらのおとしもの ありのままの君でいて 前編

tkさん

『そらのおとしもの』の二次創作になります。
 今回のテーマ:綺麗な智樹とツッコミ以外で活躍するそはらさん
 たったこれだけのテーマに七転八倒。何故だろう。
 後編はもう少し早く書き上げたいです。

2011-10-19 15:14:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1173   閲覧ユーザー数:1149

 こんにちは、智樹です。

 いきなりですが、今の僕は窮地に立たされています。

 

「私、トモキの事が好きなの…!」

 潤んだ瞳で見つめてくるニンフ。

 

「わ、私だってあんたの事が好きなんだから!」

 照れくさそうにそっぽを向くアストレア。

 

「…愛してます。マスター」

 耳まで真っ赤にして俯くイカロス。

 

 三人の未確認生物から告白されるという状況。これだけならまだラブコメのラストシーンとして通用するかもしれません。

 僕もその手の主人公らしく、『ま、まいったな…』とか、『俺は、○○が好きなんだ…』とか言えたでしょう。

 …ですが。

「その前に、だ。お前らの持ってるソレはなんだ?」

「ああ、これ? 私達が色々相談した結果なの」

 笑顔のニンフが手にしてる出刃包丁。

「だって、私達が三人であんたが一人じゃ数が合わないじゃん」

 不満げなアストレアが持っているのは30センチ定規。

「そこで、妥協案がでました」

 無表情なイカロスが持っているシナプスの量子変換機。

「…どんな結論なのでしょうか?」

 思わず敬語になってしまう僕。

 この無秩序なラインナップに何故か嫌な予感がするからです。

 

「マスターを三等分して仲良く分けようという結論です」

 よし、逃げよう。

 出刃包丁+30センチ定規+量子変換機=三等分。これで良い未来が想像できるはずがありません。

 

「逃がさないわよ!」

「今日からあんたは三つ子になるんだから!」

「大丈夫です。私達の愛情は三等分になりません」

「俺が物理的に三等分にされるじゃねぇか!」

 忍び寄るどころか全力疾走してくるDEAD ENDの足音。

「やめろ話せばわかる! 俺はお前らを等しく愛してみせアッーーーー!」

 そして、それを避ける術を僕は持っていませんでした。

 

 

 

 ~ありのままの君でいて~

 

 

 

 

「トモちゃーん? 遅刻しちゃうよー」

 いつものように玄関から声をかけてもトモちゃんの返事はなかった。

「…まったくもう」

 またイカロスさん達と何かしているのかなと思って、私は靴を脱いで廊下に上がる。

「トモちゃーん」

 もう一度廊下に向かって声をかけると、バタバタとこっちに走って来る人影が見えた。

「うひょひょひょ~!」

 スケベ顔をした全裸で三頭身の男の子。

 うん、いつものトモちゃんだ。

「チチシリフトモモ~!」

 私に向かって欲望丸出しで飛びかかって来る男の子。

 うん、いつものトモちゃんだ。

「ふんっ!」

「うごべばっ!?」

 だから、いつも通りにチョップで撲殺した。うん、日常の一コマ。

「まったく…」

「チ、チチシリフトモモ…」

 瀕死のトモちゃんを担いで居間へのふすまを開ける。そこには予想通りイカロスさん達がいた。

『………』

 ただひとつ違ったのは、無言の三人は表情が優れないという事だ。

「どうしたの?」

 私の問い掛けへの答えは三人の視線の先にあった。

 

「…えへへ。あ、そはらだー」

「………え?」

 

 慌てて自分が抱えている物を確認する。

「チチシリフトモモー」

 うん、トモちゃんだ。

「うぇへへー。そはらー、なにしてあそぶー?」

 そして縁側で鼻を垂らしているこれまた三頭身の男の子。

 それもまたトモちゃんだった。

「トモちゃんが、二人!?」

 イカロスさん達が私から視線をそらす理由が分かった気がする。

 これは、もしかして―

「…その、ごめんな、そはら」

 そして台所から申し訳なさそうに顔を出した、いたって普通の男の子。

 それもトモちゃんだったのだ。

 

 

「…つまり、トモちゃんを三等分して量子変換機にかけたらこうなったと」

『ごめんなさい』

 誠心誠意の土下座をするイカロスさん達を責める事はできなかった。

 トモちゃんを一人占めにしたい。私にもそんな願望がなかったわけじゃないから。でも。

「よりによってこんな分かれ方…」

 

「チチシリフトモモー!」

 即席の牢屋で暴れる『エッチな』トモちゃん。

 

「たいらんれいぶー。うへへへへ」

 鼻をたらして精神崩壊一歩手前にしか見えない『お馬鹿な』トモちゃん。

 そして―

 

「なんか、本当にすまん。そはらにも迷惑かけるな」

 申し訳なさそうに頭を下げる『まともな』トモちゃん。

 その数、なんと三人。某赤い三倍の人もびっくりするかもしれない。

 

「気にしないで。悪いのは発案者のニンフさんと共犯のイカロスさん、全然理解してなかったアストレアさんだから」

「うぐっ!」

「………っ!」

「あうう…」

 トモちゃんを気遣った言葉に、何故かイカロスさんたちは胸にナイフが刺さったみたいに身もだえた。

 できるだけ何でもない事みたいに笑顔で言ったつもりだったんだけど、うまくできなかったかな?

「ニンフせんぱぁい。そはらさんすっごく怒ってますよぉ」

「仕方ないでしょ。非はこっちにあるんだから」

「…やっぱり、四等分にするべきでした」

 イカロスさんの解決策は完全に間違ってるし、私はちっとも怒ってない。

「それにしても物理的に三等分とか怖いよねー。トモちゃん大丈夫だった?」

『本当にごめんなさい』

 怒ってなんかいないのだ。

「いや、俺は大丈夫だから頭上げろよお前ら」

「マスター…」

「トモキ…」

「そ、そうよね! どうって事ないわよね!」

 

「小遣い一割カットで済ませてやるから」

 

「制裁っ…! 圧倒的制裁っ…!」

「デルタのバカー! あんたが余計な事言うからー!」

「私が悪いんですかぁ!?」

 まともになっても、この辺はいつものトモちゃんらしい。

 つまりイカロスさん達の面倒は真剣にみているという事だ。

「さて、そろそろ学校行かないか? もう完全に遅刻だけどさ」

「そうだね。今からでも行こっか」

 トモちゃんの提案は本当にまともだった。

 いつもならこのまま学校をサボって遊びに行こうと言うのに。 

 

 

 

 

「桜井くんがまともですって…!?」

 部室でいつものメンバーに事情を説明すると、一番驚いたのは以外にも会長だった。

 いや、いつもトモちゃんを虐め抜いているサディスト全開のこの人だからこそかもしれない。

「ほ、ほ~ら桜井くん。うっふ~ん」

「うわっ!? なにいきなり脱いでるんですか! 破廉恥ですよ会長!」

「………うそ、でしょ…」

 いつものトモちゃんならスケベ顔で飛びかかるだろう会長のお色気攻撃も無意味だった。

「美香子、俺もその振舞いはどうかと思うぞ」

「ち、違うのよ英くん! これは桜井くんを試そうと思って…!」

 そして盛大に自爆する会長。

 ある意味、トモちゃんは会長に日ごろの仕返しができた事になる。

「お、俺だってそんなの試されても困りますよ!」

 本人は無自覚だけど。

 

 それから数日。

 とりあえず他のトモちゃんは家で飼う(この表現が一番近いと思う)事にして、まともなトモちゃんが学校に通う事になった。

 そして、トモちゃんの豹変はクラスに大きな変化をもたらした。

 

「おい桜井、次は体育だぜ! もちろん分かってるよな!?」

「…何が?」

「おいおい、冗談言うなよ。覗きだよ、覗き!」

「な、何言ってんだ! そんな恥ずかしい真似が出来るか!」

「…さ、桜井がおかしくなっちまった! 見月が叩き過ぎたせいか!?」

「私のせいなの!?」

「おかしいのはお前らだ! 覗きなんて最低の行為だ! つーか犯罪だろ!」

「おお神よ! 俺達の知る桜井は死んだ! 何故だ!」

「死んでねぇよ!」

 その日、トモちゃんが率いていたフラレテルビーイングという名の覗き集団の歴史は静かに幕を降ろした。

 

「ねえ、あのゴキブリ桜井ってばなんかかっこよくない?」

「何言ってんのよ。あのゴキブリよ?」

「でも最近は真面目よねー。覗きやセクハラもしないし」

「どうせ私らが油断するのを待ってるのよ。姑息なやつー」

 

「よし、今日も破廉恥な覗きが出ないか見張りするか。なんか俺が始めた事みたいだし」

 

「え? マジ? 最近覗きが出ないのってあいつのおかげなの?」

「…よく見れば顔良いよねあいつ。それになんか輝いてるっつーかさ」

「あ! あんた手のひら返すの早すぎ!」

 あれから日増しに女子の信用は回復。むしろ密かなファンがついた。

 うん、まあ真面目な顔をすればそこそこ格好いいんだよね。真面目なら。

「………ガッデム。いまさらマスターに色目を使う蟲どもが増えた」

「ふん。どうせトモキの顔しか見てない有象無象よ。恐れるに足らないわ」

「じゃあなんで釘バットにスタンガンなんて持って…いえ、なんでもないですイカロス先輩、ニンフ先輩」

 対してイカロスさんとニンフさんの機嫌は急降下。アストレアさんはその巻き添えをくっていた。

 私? 私は大丈夫。だってニンフさんの言っていた事が正しいから。あれでもトモちゃんは身持ちが固いのだ。

「あの、見月さん」

「何? 風音さん?」

「筆箱、曲がってますよ」

 ああ、つい握りしめちゃった。失敗失敗。

「…桜井くん、ちょっと変わりましたね」

「…えーと、うん」

 風音さんはトモちゃんが豹変した詳しい経緯を知らない。

 あんな間抜けな経緯を知られたくないというトモちゃん自身の希望だった。

「でも、やっぱり根っこは変わってないと思います」

「え…?」

 風音さんの感想は私を驚かせた。私からすれば今のトモちゃんはいつもとの違いばかりが目立つから。

 

「待てイカロス! 学校に釘バットなんて持ってきて何する気だ!?」

「…蟲の駆除です」

「そこはハリセンにしなさいっ!」

「ハリセンでは殺傷力が足りません」

「大丈夫よトモキ、私のスタンガンで気絶させれば誤殺なんてしないから♪」

「本当に蟲の駆除なんだよな!? なんか怖い事考えてないよな!?」

「…問題ありません。ただの淫らな蟲の駆除です」

「淫らってなんだよっ!?」

 

「だって、今も楽しそうじゃないですか」

「………そう、かな」

 風音さんの視線の先で騒いでいるトモちゃんとイカロスさん達。

 確かに、ああして叱っているトモちゃんはいつものトモちゃんだ。

 

「果てしなく怪しいから没収!」

「…無念です」

「ちっ。もっと携帯性の良い凶器が必要ね」

「ニンフ先輩の辞書に諦めるという文字は無いんですねー…」

「あるわけないでしょ。というかデルタがそんな単語を知っている事の方が驚きよ」

「ひどっ!? これでもがんばってべんきょーしてるんですよ!」

「いいから帰るぞ。もう放課後なんだからな」

 

 トモちゃんがまともになったのは良い事だ。

 セクハラも覗きもしないし、皆を困らせる騒動も起こさない。

 

「ん? 風音とそはらも今帰りか?」

「はい、私も一緒でいいですか?」

「もちろん。………そはら、どうかしたのか?」

「えっ? う、ううん、何でもない」

 

 でも、なんだろう。

 やっぱり何か足りない様な。そう思うのは私だけなんだろうか。

 

「今日の晩飯はなにかなー」

「ハンバーグの予定です」

「お、いいなー」

「はいはーい。私の分は大きめにお願いします!」

「意地汚いわよデルタ」

「お野菜もちゃんと摂らないと駄目ですよ?」

 

 皆一緒なハズなのに、奇妙な疎外感。

 なぜか晴れない気持ちのまま、私は家路についた。

 

 

 

 後編に続く


 
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