No.320232

外史異聞譚~黄巾の乱・幕ノ四~

拙作の作風が知りたい方は
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2011-10-18 12:50:55 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2899   閲覧ユーザー数:1725

≪冀州・漢中軍本陣/羅令則視点≫

 

私達は曹孟徳殿ご一行を陣の外まで見送る事にしました

 

礼儀でもありますのでそれはいいんですが、仲業さんの一言でみなさんお通夜みたいな雰囲気になってしまって、非常にいたたまれないです

 

そんな雰囲気の中、彼女らの馬を引いてこさせる間に曹孟徳殿から

「ねえ貴女達、私のところにこない?

 待遇は保証するけど」

と言われました

 

口調は冗談めかしてはいましたが、視線は本気です

 

これも仲業さんが

「あはははははは!

 これは光栄の至り

 しかし残念、今のところボクは漢中に大事な相棒を置いてきていてね

 とてもじゃないがそれを見捨てていくなんて無理なんだ」

と、これも冗談っぽく切り返してくれました

 

「相棒?」

 

再び怪訝そうに効く曹孟徳殿に向かって悪戯っぽく

 

「ああ、可愛くて仕方がない相棒さ

 大熊猫の蘭々と漣々だよ」

 

こう切り返してくれたので、私はそっと首を横に振るだけで断ることができました

 

こうした切り返しはさすが仲業さんというべきで、曹孟徳殿も表向きは機嫌を損ねることなく帰っていただくことができました

 

気が変わったらいつでもいらっしゃい、と言い残していかれたので、とりあえず今日のところは諦めたという感じではありましたが

 

さて、少々お説教の時間です

 

「仲業さん、ちょっと言い過ぎですよ」

 

「いや、済まないね

 あれだけ愛でる花が咲き乱れてると、ちょっと悪戯したくなってね」

 

そう笑っていますが、さすがに何年もの付き合いがありますので、誤魔化されてあげる訳にもいきません

 

「嘘は嫌いです

 正直に言わないと嫌いになっちゃいますよ?」

 

私の言葉に

「やれやれ、敵わないな」

と呟いて仲業さんが表情を改めます

 

「ま、ボクは確かに美女や美少女や美少年を愛でるのは大好きだけどね

 一応好みってものはあるんだよ」

 

え?

そんなもの仲業さんにあったんですか?

 

そんな私の驚愕が顔に出ていたのか、かなり傷ついた表情で肩を落としています

 

「まあ、単に外見を愛でるだけなら好みの幅は広いさ

 でもね…」

 

そう言いながら顔を上げます

 

「ボク達は確かに卑怯卑劣と誹られても仕方がない謀略を働いたよ

 言い訳なんかしやしない

 だけど彼女らはどうだい?」

 

それは私も感じた事なので、黙って頷く事で返事を返します

 

「程度や方向の差はあるだろうけどね

 あの一刀と付き合ってきたボクにしてみれば、結局彼女らも“同じ”なんだよ」

 

恐らくは彼女達は理解してはいないでしょう

私達が彼女達を“試すため”に食事を用意したということを

出された食事はなんら特別なものではなく、私達が兵士のみならず捕獲した捕虜達と“全く同じもの”を食べていて、それを彼女達に供したのだという事を

 

さすがに捕虜に飲酒は認めてはいませんが、漢中では一刀さんは彼らと同じものを食べて日々を過ごしています

恐らく今現在も、我々と同じものしか食べようとはしていないでしょう

むしろ、逆に粗末なものを口にしている可能性が高いくらいです

 

そこに疑問を抱かなかった彼女らは、私達にとっては官匪や既存権益に縋る諸侯豪族と、程度の差はあっても“同じ”なのです

色々と理屈をつけ、結局は民衆より上から何かを行う

この時点で私達にとっては選ぶ必要もない、ということに恐らく最後まで気づいていないでしょう

 

そんな“厳しさ”を彼女達から感じることは残念ながらできませんでしたし、そういった点が仲業さんの気に触ったのだろう、というのは私にも解ります

 

「いやー…

 ボクも随分と一刀に毒されたもんだ…

 困ったねこりゃ…」

 

ちっとも困っていない顔で笑う仲業さんに、私も笑って応えます

 

「もうどうしようもないですよねー…

 あの性格の悪さに毒されちゃうと、他じゃ物足りないですもんねー…」

 

「違いない!

 あははははははは!」

 

「あはははははは!」

 

急に笑い出した私達に周囲がびっくりしていますが、私達は笑うのを止められないでいます

 

そんな私達の所に、忠英さんが戻ってきました

 

「おやおや、何か楽しい事でもあったんかい?」

 

「いやなに、ボク達も随分一刀に毒されたと思ってね

 そうしたら笑いが止まらなくなったのさ」

 

「そりゃ確かに…」

 

私らみーんな物好きだからね、と苦笑する忠英さんに、私は笑いを堪えながら尋ねます

 

「ところで、頼んでいた斥候はどうでした?」

 

それにニヤッと笑う忠英さん

 

「予想より離れていたけど、こっちの状況には気付いたみたいだよ

 後はまあ、うざったいあの連中を巻き込まないようにやれば大丈夫だね」

 

「ふむ…

 思った以上に抜け目のない人物のようだったし、ちょっと警戒は強めておこうか」

 

「そうですねー…

 今日はいらないと思ってましたが“犬”も出しておきましょうか」

 

私達は歩きながら相談しつつ、次の布陣を打ち合わせる為に本陣へと向かいます

 

 

もうすぐ終焉を迎える、この騒乱の次を考えながら

≪冀州・漢中軍本陣/高忠英視点≫

 

さて、困ったもんだが、流石は曹孟徳というべきなのかね

 

早速こっちの陣に細作を放ってきやがったようだ

 

こっちとしては、その後の行動にくっついていられる方がなにかと迷惑だし、斥候に張り付かれるとうちの軍略がばれちまう可能性もある

 

そうなると色々と面倒なんで、こっちとしては細作には適度に欲しいものを持って帰ってもらって、多分陽動や示威を兼ねてる斥候に関しては、こっちの予定に食いつきそうなのを遠慮なく潰させてもらうことにするとしよう

 

お互い後暗い所がある行動だからね、あっちも面と向かってはこちらを非難できないって事だ

 

そこで敢えてやりあおうっていうなら、曹孟徳も所詮は猪、構う必要もない愚物って事になる

 

 

実際、細作が何を欲しがっているのかは判らないが、持ち出せるのはいいところ一般兵用、それも私達が“零号装備”と称してる旧来の装備に鈍器を加えただけのものだろう

他の装備は持ってきてないんだし、まさか犬や鳩を連れていく訳にもいかないだろうしね

 

結果、得られるのは鈍器の材質に関してだけってことで、これは私の判断で“くれてやってもいい”と二人には言ってある

必要なら一刀への言い訳や説明も私がするって事でね

 

まあ、鈍器に関してというか、今の漢中軍の装備の胆は“合金”という技術な訳なんだが、これは言う分には簡単だが、実際はそう簡単なもんじゃない

なぜかというと、量産するにはかなり大型の炉や溶鉄設備、それに大量の水が必要なんだ

特に溶鉄設備に関しては、漢中でだって十分な量がある訳じゃない

鉄が溶けて煮え滾っても融けない釜なんか、そう簡単に作れるもんじゃないってことだ

 

つまり、大規模な邑に匹敵する人員と土地や設備を投入している漢中ででもなければ、簡単に真似はできないってことになる

 

しかも、鈍器という性質から、この合金は他の武器防具や馬車等といったものには非常に転用が難しい

私は一刀の知識を元にそれらの鉄と別の金属の配合を知っているから簡単に研究も進んだし調整も可能だし、更にそれを推し進めた研究もできるけど、他はそうはいかないだろうな

 

まず他に何をどれだけ混ぜるのか、これに費やす時間が尋常ではないと見ている

 

どうせ気づけば誰かが戦場跡で拾ってどこかの諸侯にいずれは流れ着く技術だというのもその根拠なんだがね

 

必死で隠せば無駄に腹を探られる

 

なら適当なものをくれてやって、頑張って遠回りをしてもらおうか、とまあ、そういう事な訳だ

 

なのでこれに関しては私が技術開発担当として全責任を負うってことでふたりには納得してもらった

 

 

まあ、邑の鍛冶屋程度が必死で頑張ったとしても、設備がなけりゃあ10年はかかるだろうとは踏んでいる

 

もしそれを短時間で可能にするような才能と理解が曹孟徳の下にあるなら、それはそれで面白い

 

研究者としては、ひとりで独走というのは味気ないもんでね、一刀がいうところの乱世を、そういう意味で競える才能がどこかにあってくれれば有難い話だよ

 

まあ、今のところそれが可能そうなのは水鏡塾にいたという諸葛孔明くらいなもんだろうがね

 

 

しかし、研究者としてはこの反乱鎮圧は本当に味気ないとしかいえない

 

実戦で研究の成果を試す機会が全くないってんだからさ

 

 

まあ、それは後日、一刀がいうところの“本当の戦い”とやらがはじまるのに期待するとしようかね

 

とりあえず今回は“陥陣営”として武で貢献するとしますか

 

それももうすぐ終わりだろうけどな

≪同時刻・洛陽郊外/司馬仲達視点≫

 

「そろそろ冀州の衝地攻略がはじまっている頃ですね」

 

実際にはもう終わっているのですが、神ならぬ身の私に解ろうはずもありません

 

今は最後の詰めを検討するべく、前線にいる方々とそれに従軍している皓ちゃん明ちゃん子敬ちゃんを除いた全員で会議をしています

蛇足ですが我が君と令明もいません

 

「なんというか、令則ちゃん頑張り過ぎ…

 ウチの連中が悲鳴をあげてるよ」

 

そうぼやくのは公祺殿です

 

とにかく負傷兵が多く、一定以上の医療技術をもっている人を交代で休ませるのが精一杯とのことで、さすがに疲労が隠せないようです

 

「これがもう一ヶ月も続いたらアタシは過労死するね」

 

私の見立てでは、そう言えるのなら後三ヶ月はいけると思うのですが

 

同様に元直ちゃんもげんなりしています

 

「さすがにきつい…

 仲達、あんたの体って鉄か何かでできてるんじゃないの?」

 

失敬な………

 

「あうあうあうあう~…」

 

巨達ちゃんもへろへろになっています

 

「あう~…

 漢中と洛陽と前線の調整もそろそろ限界ですぅ…」

 

その部分は確かに限界が近いです

特に宦官と大将軍の周辺が面倒になってきています

そこの部分は現在水際で食い止めている賈文和殿もさぞ苦労していることでしょう

 

「そろそろ輜重も余裕がなくなってきていますね

 当初の予定の倍は捕虜としたことで、かなり国庫に負担がかかってきています

 このまま当初の予定通り青州制圧をしたとすると、今季の収穫までは相当な苦労をする事になるかと思います」

 

見た目に反して割と頑健な伯達ちゃんは、しゃきっとしていて笑顔です

その報告は流石に聞き逃せませんので、確認をすることにします

 

「輜重に関しては漢中ではどう言っていますか?」

 

「前線の糧食の質と量は落とせないので、今回は限界まで吐き出してもいい、と言われてはいます

 ただ、買うにしても物資がないため別の手段を早急に講じてはみる、との事です」

 

澱みなく返ってくる返答に私は頷きます

 

「前線からの報告はどのような感じでしょう」

 

それにぐったりしながら答えるのは元直ちゃんです

 

「黄河流域より北では順調なるも、袁本初と接触したため予定の変更を余儀なくされている、との報告が届いています

 ただし、反乱そのものはほぼ鎮圧を終了しているとの事ですので、予定より多少遅れは出ますが帰還する、と言ってきています

 ですので河北西部に関してはほぼ予定通りかと」

 

儁乂殿に皓ちゃん明ちゃん、ご苦労様です

 

「冀州東部に関してはこれから反乱勢力の物資集積拠点の攻略に入るはずで、何事もなければ一両日中には攻略は完了するかと思います

 その後は予定通り河北南東部・青州の残存兵力を鎮圧に向かう予定です」

 

令則さん達にはかなりの無理を強いましたが、こちらも順調なようでなによりです

 

「冀州南部に関しては、張将軍と華将軍が頑張ってくれています

 呂将軍が前線に出た事もあり“あの風評”もあるため、極めて順調とのことです

 むしろ勝手に降伏してくる勢いだそうで…」

 

まあ、あれを信じろと言われても難しいですが、飛将軍の威名で楽ができるのならむしろ有難いことでしょう

 

「ただ、予想を遥かに超える状態のため、こちらも糧食に不安が出てきています

 これに関しては陳軍師が支援要請をしてきていますので、少量でも配慮は必要かと思われます

 また、袁公路の横槍があったようで、いささか難儀しているようです」

 

糧食はどうにか捻出できても、それはどうにもなりません

袁公路は非常にうざったいでしょうが頑張ってください

 

「結論としては、ここで私達が踏みとどまってみせれば、ほぼ予定通りに終わるという事になりますね」

 

それに全員が頷きます

 

それを確認して、私はここでの最後の策を行うことを宣言しました

 

「では、当初の予定通り、最後のあがきを見せる反乱勢力の命脈に杭を打ち込むことにしましょうか」


 
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