穏やかな日差し、誰もが外へ足を伸ばしたくなる陽気
風も心地良く吹き抜け、足取りも軽くなる人々
市を覗けば沢山の人達がそれぞれに心地良い陽気と市の活気を楽しんでいる
そんな中、人混みを避けるように露天や店の前を縫うように歩く小さな人影
人混みの中から特徴のある帽子がひょこひょこと上下する
おっかなびっくりに市を歩く彼女の名は鳳統。大徳、劉備玄徳に仕えし蜀の大軍師
その愛らしい風体からはとても一目でかの大軍師、鳳統とは誰も思わないだろう
だが周りの市の様子を見ながら呟く言葉は市で密集する屋台や警備の穴に関する事ばかり
言葉を耳にすれば市に関する着目点に誰もが彼女こそは軍師であると頷くことだろう
本来は此の様に人が多く、密集する場所を好む彼女ではないが、長い時間をこの地で過ごしたお陰か
友とこの町を歩き馴染みが増えたせいか、温かい陽気に誘われ珍しく一人で出かけていた
始めは自分の中の知識を育て、新しい風を吹きこむ為に本屋へと足を運ぶだけにしようと考えていたが
暖かな陽気が彼女をちょっとした冒険に誘った。どうせ此処まで来たのだ、城で待つ皆に何かお土産でもと
思いついた時には足は市へと向かい、様々な店を覗きながら歩いてみれば一軒の店に引き寄せられる
様々な果物が並ぶ中、芳醇で優しい香りを放つ果物が二つ目に入る。其れは友人の好きな果物
甘く、口に含めばたっぷりの果汁が口の中に広がる桃である
店主によれば、今日入荷した桃はどうやら近年稀に見る出来合いのものらしく
朝に大量に仕入れたにも関わらず、昼を待つ前に既に残り二つだけになってしまったと言うことらしい
「おお、軍師様。運がいいね、これが最後の二つ。これほどの物はそうそう入荷しないよ!」
威勢のいい店主の言葉に「あわ・・・」と少々驚くが、目の前に置かれた柔らかく甘い香りが鼻をくすぐり
心を落ち着かせ、店主に一言ことわりを入れて桃を一つ手に取る
この桃を朱里ちゃんにお土産として買って帰ったらどんな顔をして喜んでくれるかな
きっと素敵な笑顔を見せてくれるはずだ、もしかしたら美味しいって言葉を口にするだけで舌を噛んじゃうかも知れない
友である朱里の笑顔、舌をかんでお互いに笑いあう光景を想像し、雛里は小さく微笑む
「・・・・・・可愛い」
微笑む少女に見とれる店主。無理もない、目の前に立つのは大きなリボンの付いたとんがり帽子にヒラヒラとしたスカート
淡い紫陽花のような色の髪をもつ可愛らしい人形のような少女
宝石のような翡翠色の瞳、小さな笑みを作る唇は薄い桃色
色白な肌と帽子に表情を隠す仕草は頼りなさげで、己が守ってあげなければという気持ちにさせられ
正しく可憐という言葉が当てはまる
「でも二つ・・・」
手に取る桃に雛里は少しだけ表情を曇らせる
城に居る皆を想い、此れほどよい物を自分と朱里ちゃんだけで楽しむことは出来無い
残念だけどと諦めようとした時、己に見惚れる店主に気がついた雛里は不思議そうに首をかしげる
すると店主は顔を赤くしながら大げさに一つ咳払い、そして目の前の少女を先ほどのように驚かせまいと優しく声を掛けた
「え~、お嬢さんは運がいい。貴女が丁度百人目のお客さん、その桃はお嬢さんに贈りましょう」
「えっ!?そんな、お金も払わずに頂くことは出来ません」
「そのかわり、この桃の味と店の宣伝をお願いしますよ軍師様」
突然の贈り物に驚き、受け取れないと口にすれば店主は自分の頭を精一杯に使って少女が受け取ってくれるように
知恵を絞る。そんな姿を見て店主の考えや気持ちを少ない言葉の中から汲み取ったのか、始めは城にいる愛紗達の事を想い
買うのを諦めようと思っていたが控えめに「頂きます」と目を細め、店主へ恥ずかしそうに笑みを送っていた
「有難うございます。必ず皆さんに宣伝を、それと・・・」
「はい?」
「今度は朱里ちゃんと、私の友達と此処に桃を買いに来ますね」
笑顔とまた来ますとの言葉に店主は顔を輝かせ、小さな籠に丁寧に桃を入れて渡すと「今後もご贔屓に」と
嬉しさを込めて声を上げれば大きな声量に驚き肩を震わせ、何時もの口癖を呟いてしまう。店主はしまったと
慌てて顔を青くして雛里を落ち着かせていた。その後、慌てる店主に心を落ち着かせた雛里は大丈夫ですと笑顔を返し
店主を安心させ、丁寧にお辞儀をするとその場を後にした
大切な物を扱うように籠を兩手で抱える雛里は「朱里ちゃん、喜んでくれるかな」と呟きながら、人の並を避けるために
店側、露天側近くを歩く
少し前に一人で市に来た時、人の波に飲まれ涙目でいた事があり、彼女は一人で人混みを歩くときは
流れの止まっている店の近くを歩くようにしていた
ちょっとしたウインドウショッピングのように露天の品を横目で見ながら帰ることが出来るこの歩き方を楽しみながら
城へと向かう帰り道、雛里はふと何か小さな声のようなものが耳に入る
市の活気の溢れる騒音の中、店と店の間から確かに聞こえる微かな声
少し高めの泣き声のような音に驚き、雛里は帽子のつばを握り締める
周りを見回せば、気がついているのは自分だけ。声なき声は人々の活気に消されていた
すすり泣くような声、そして小さくドスのきいた声が重く響き、次にくぐもったような痛々しい音が聞こえる
雛里は益々身体を震わせるが、もし罪なき人が虐げられていたらと身を屈めながら恐る恐る店と店の間の路地を覗くと
小さな二人の子供、城にいる紫苑の娘、璃々よりも少し大きいくらいの子供達が一方的に暴力を振るわれる光景
拳を振るい、蹴りを入れる男達三人はそれぞれに子供たちを口汚く罵る
良く見れば子供たちの髪の色は何処か自分達とは違う、瞳の色、肌の色、そして何より悲鳴らしき声は
自分達の使う言葉とは違っていた。恐らく移民、其れも何処か遠くから来た人間であると
男達の罵声も人種、そして人格を否定するような言葉ばかりが吐かれ続け
凄惨な光景に彼女は一瞬怯み、怯えるが、目の前で虐げられる子供たちを見て心を奮い立たせる
例えどの様な場所から来ようとも此処は蜀。大徳、劉備玄徳の治める地
来るものは拒まず、全ての者が平等に、人としての尊厳が守られる場所であると
即座に雛里は周りを見渡し、警備隊人間を探すが見当たらず、誰かに助けをと声を上げようとするが
良く見れば男達が短剣などを手にしている姿が目に入り声を止める。恐らくは流れてきた盗賊崩れの者達なのだろう
ならば下手に声を上げれば彼らは子供たちを盾に、何をするかわからない
罪人であるならば、余計にこの場から逃げ出すために目の前の子供たちを利用するだろう
自分が何とかするしか無いと細い路地に眼を配る。路地を見れば桶や籠を売る店と桶を染色をする店の間にあり
大小さまざまな桶や籠が並ぶ。桶や籠を作る店が直ぐに染色し、売れるようにと隣に店を持ったのだろう
重ねられ、路地にところ狭しと並ぶ桶と籠を見て雛里は小さく、力強く頷く
「此処と此処を崩せば・・・」
下卑た薄ら笑いを浮かべる男達は、自分達の劣等感を消すために自分達よりも力なく矮小な者へ力を振るう
「ヒッ」
「おらぁっ!」
バキィッ!!
だがその時、拳を振り上げた男の顔に木切れが当たり拳は空を切る
「ふぁ・・・あぅ」
声を上げて男を止めようとしていたが男達が恐ろしく声を出せない、ならば注意を引くためにと
男達の近くに投げた木切れは放物線を描き男の顔へと直撃
よろける男は痛む顔をおさえつつ、木切れの飛んできた方向を睨む
「だ、誰だっ!チクショウっ!!」
「あ・・・あわわわわ・・・」
見れば路地の入り口で身体を震わせる少女
恐怖で固まる愛らしい少女を見た一人の男が醜い笑みを浮かべた
「お嬢ちゃん、いけないなぁこんな事をしちゃぁ」
「チッ、お前も好きだな。気付かれんようにしろよ」
固まる雛里に手を伸ばし、路地へ引きこもうと近づく男
雛里は小さく声を上げるが、直ぐに男と眼を合さないように帽子のつばを握りしめ、顎を引く
「もう少し・・・あと一歩・・・・・・」
男はフラフラと近づき、手を伸ばせば掴める位置へ差し掛かった瞬間、男の耳に聞こえてくるのは目の前の少女の呟き
怪訝な顔を浮かべ「あ?」と眉根を寄せると
「今っ!!えいっ!!」
急に立て掛けてある桶に手を伸ばし、両手で突き倒され崩れる桶の塔
よほど雑に積まれていたのか、雛里の倒した桶を皮切りに路地の両端に隙間なく積まれた桶がたゆみ
グラグラと音を立てて崩れ始めた
高く積まれった桶が次々に崩れ落る。一番初めに被害を受けたのは雛里を捕まえようとした男
顔にすっぽりと落下した桶がはまり込み、視界を奪われた男は驚き、直ぐに桶を外そうとするが
大量に落下してくる桶に身体を押され、つまずき、桶の下敷きに
不味いと感じた二人の男は目の前の子供へ手を伸ばそうとするが、落下する桶がまるで子供たちを守るように
堅牢な壁を作り出し、驚く男達に更に降り注ぐ桶や籠
これはたまらないと身体を丸め、瓦解する桶が治まるまで耐える男達
「動くな、動けばやられるぞっ!!」
一人の男が冷静に事態が治まるまで待てと言うが、既に二人目の男は桶の下敷きに
舌打ちを一つし、辺りが落ち着いた所で目の前の桶を払い、子供たちを盾に逃げようとするが、視線を感じ固まる男
見れば崩れる桶の音に、大通りを通っていた大勢の人々が集まり、雛里の後ろで何事かと路地を覗く大勢の人々
これだけの桶が音を立てて崩れれば当然の結果だろう
多くの人々の視線に加え、警邏の兵の声まで聞こえ、男は仲間を助けようとする事無く一目散に逃げ去り
その姿に雛里は安堵の溜息を漏らし、胸をなでおろしていた
「鳳統様、此れは一体?」
「ご苦労さまです。今しがた数人の男の人が子供たちに暴力を振るっているところを見たので」
「なっ!申し訳ありません、我らの眼が行き届かず」
「いいえ、今日は人通りも多いし、後で今日のような日の時の巡回方法と増員を考えましょう」
事態を把握した兵士は桶だけで男三人を撃退した鳳統の手際に感心し、雛里の指示のまま桶に埋もれる男
二人を引きずりだし、雛里は桶で創り上げた壁を手伝ってもらい崩せば、二人の子供たちは何が起こったのか?と
顔を呆けさせ、雛里を見つめていると次第に起こったことを理解したのだろう
桶の間から現れた雛里に泣きながら抱きついてきた
「ふあっ!?」
「うぅうぅ・・・うあああああああ」
抱きつかれて雛里が驚いたのは一瞬、子供たちの顔に残る痣が目に入り
直ぐに子供たちを抱きしめて「よかった。もう怖くないよ」と優しい声をかける
「軍師様、男達と崩れた桶に関しては我らにおまかせを。しかし、そちらの子供の方はいかがなさいましょう?
見たところ、この国の者ではなさそうですが」
兵士の言葉に雛里は子供たちを抱きしめながら思案する
(取り敢えずはこの子達に両親が居るなら探してあげよう。もし居なかったら此処で私が育てることは出来無いから
水鏡先生にお願いして・・・)
等と子供たちの今後について考えていれば、急に小さい方の子供が膝を着いてその場に蹲る
驚いた雛里は、まさか先ほどの暴力で何処かひどい怪我をしたのかと慌てれば、耳に聞こえてくるのは
小さなお腹の音。顔を真赤にして俯く女の子に雛里は安心し、柔らかい笑みを見せると躊躇いもせずに
先ほど貰った桃を籠から取りだし二人の子供に差し出した
「はい、お腹が空いていては戦は出来ない。大丈夫、此の桃はいただき物だから」
差し出された桃に蹲る女の子は手を伸ばすが、一度止まり隣の女の子を見上げる
恐らくは姉なのだろう。だが雛里は姉の方にも桃を差し出し「遠慮しないで」と声をかければ
二人の女の子はお互いを見て、桃を手に取り丁寧にお辞儀をして口にしていた
よほどお腹が空いていた、では言い表せないほどに一心不乱に桃を食べる姿
恐らくは食べ物を何日も口にしていなかったのだろう
「フフッ、こんなに喜んでくれるなら朱里ちゃんもきっと許してくれるよね」
直ぐ桃を平らげ、満面の笑顔を見せてくれる二人に雛里は心が落ち着いた所を見計らい、口を開く
「・・・私は雛里といいます。御二人のお名前を教えてくれますか?」
「・・・ジョルジャ」
「フィリッパだよ」
子供たちの返答に雛里は「やっぱり」と呟く。どう聞いてもこの国の人間ではない、ずっと西の
西涼に来る羅馬からの行商人が同じような名前であったことを思い出す
(やっぱり。それならきっと、ご両親はもう・・・)
沢山の理由が考えられる。だが目の前に居る子供のボロボロの服、そして何日も食事を口にしていない様子から
導き出される答えは身寄りの無い子供という答え
「これから行く宛はありますか?何処か頼る場所は」
「・・・どこも無い。デモ、二人ならイキテ行ける」
「良かったら私の恩師の所を紹介できますよ」
雛里の言葉にジョルジャと言う名の子供は何故自分達にと警戒し、雛里を見るが
優しく微笑み掛ける人形のような彼女にジョルジャは顔を赤くして俯く
「tata(お姉ちゃん)、コノヒトいいヒトだよ」
俯き甘えてしまいしそうな自分を抑えるように、服を握り締める姉に妹は素直に感じたことを伝えれば
姉は少しだけ妹を見て、顔を上げる
「安心して下さい。水鏡先生はとても素晴らしい人です。言葉を覚える必要もあるでしょうし先生の所なら直ぐに言葉も
覚えられますよ」
少しだけ強く頷く雛里に姉は信じていいのか?それは本当なのかと必死に訴える
言葉は異国の言葉が混ざっていたが、仕草や表情で読み取った雛里は「保証します」と笑顔で答え
姉は妹をきつく抱きしめると瞳から大粒の涙をこぼして泣いていた。ようやく落ち着ける場所に妹を連れていけると
「ではお城に行きましょう。少しお話を聞かせて下さい」
その後、妹の手を取り、姉を落ち着かせ城へと戻れば帰りが遅いと心配した朱里に驚かれ
事情を話せば更に驚かれていた。無理も無いだろう、市へ一人で出かけたどころか賊を追っ払ってきたと言うのだから
更に城のみなへ話せば皆も同様に驚き、連れてきた小さな子供二人の事情を話せばを歓迎してくれた
特に桃香に関しては「何時までもいてくれて構わないんだよ」と優しい言葉をかけていた
それから直ぐに司馬徽へ文を送れば返事に迎える準備をするので数日待ってくれとの事が書いてあり
騒動から数日、子供達は城で過ごすことになった
広い庭園で笑顔で遊ぶフィリッパと妹と戯れる姉のジョルジャ
雛里は朱里と庭園に置かれた長椅子に座りその様子を見ていた
「雛里ちゃん、あの子達ずいぶんと元気になったね」」
「うん、来たばかりの頃は痩せていて立っているのもやっとだったから」
「あの時、偶然雛里ちゃんが通りかからなかったらあの子達は今頃どうなっていたか解らない。勇気を出して
あの子達を救った雛里ちゃんを私は誇りに思うよ」
「そんなこと、あの時、私は助けなくちゃって思っただけで」
友人に褒められて顔を赤くする雛里に朱里は思いを行動に移せる勇気が素晴らしいと賛辞を贈り
益々顔を赤くして帽子に顔を隠してしまっていた
「笑顔が見れるようになってよかったね」
「うん・・・でもね朱里ちゃん」
「どうしたの雛里ちゃん?」
「ふぃりっぱちゃんは笑ってくれるようになったけど、お姉さんの方は心から笑ってくれないの。寂しく微笑むだけで」
少しだけ顔を曇らせる雛里に庭園で遊ぶ二人を見れば、ふと妹から離れた時に姉のジョルジャは寂しそうに
顔は妹の為に無理に笑みを作っているだけだった
きっと両親の事を思い出しているのだろう、気丈な彼女は妹と自分の身の安全を確保出来たことで心の緊張が
解けてしまったに違いない。あの寂しい笑みは戦で両親をなくした子供たちと同じ笑みだと雛里は思う
でも自分に一体何が出来るのだろう、あの子たちに出来ることなど自分には無いのではないかと目線を落とす
そんな雛里の考えを表情から読み取った朱里は雛里の小さな手に自分の手を重ねた
「それならお姉さんにも笑顔になってもらえるよう何かしてあげよう。私も手伝うよ雛里ちゃん」
「朱里ちゃん・・・・・・うんっ!」
ああ、やっぱり朱里ちゃんと友達で良かった。いつも踏み出すことのでき無い自分に勇気をくれる。そう心の中で呟く雛里
朱里ちゃんも手伝ってくれる。友達と一緒なら何でも出来る
あの子に自分は何をしてあげられるだろうと二人で考えていれば足に軽い衝撃
見れば遊んでいた蹴鞠が転がってきたのだろう、足元に転がる蹴鞠を拾い上げれば膝に飛びついてくる妹のフィリッパ
「どうしたヒナリ?ゲンキ無い?」
「大丈夫、そんなことないよ」
笑顔で顔を覗き込むフィリッパの頭を撫でながら「あ・・・」と数日前の事を思い出す
助けた時にお腹が空いていて、桃を食べる顔は輝くようにとても良い笑顔だった
ならば何か、彼女の好きなものを作ってあげて笑顔にしてあげることは出来ないかと
「ふぃりっぱちゃん。お姉さんは何か好きな食べ物とか無い?」
「んー。madre(お母さん)が作ったケーキ」
「けーき?」
「うん、madreは死んじゃったけどtata(お姉ちゃん)はmadreのケーキがダイスキだったよ。たまにタベタイって」
彼女を笑顔にする緒を見つけたと思った雛里は「けーき・・・」と呟き考えこんでしまう
初めて聞く食べ物の名前。一体どんなものか想像すらつかないその食べ物に雛里は困ってしまう
少しでも情報を集めて想像の中で形にしてみようと目の前の少女にケーキの事を聞いてみれば
「ふわふわしてて、口にイレルとMieleみたいでprofumoヨ」
まだまだ此方の言葉を使いこなせず、異国の言葉と混ざっており切欠すら掴めない事態に雛里は顔を曇らせる
(語感で想像して作っても彼女たちが生まれた場所での語感とは齟齬があるはず。どうしよう)
出だしからつまずき押し黙ってしまえば、目の前でフィリッパが悲しい顔をして自分が何か変な事を言ってしまったのかと
泣き出しそうになってしまい、雛里は慌てて笑顔を作る
だが実際は目の前の少女の考えの通り。こうなれば仕方がない何か違う物を考えようと考えた時
「任せて雛里ちゃん。私が西涼の行商人さんに話を聞いてみるよ。お母さんが作っていたなら家庭料理、きっと誰か
知ってる人が居る筈だよ」
「あ、そうか。家庭料理なら皆が普通に知っている物かも知れない、流石だね朱里ちゃん」
「えへへ、だから雛里ちゃんはその子から覚えてる事を聞いてみて、材料とかなら集められるかも知れない」
そういって、早速とばかりに庭園から城の外へと走っていく
本当に朱里ちゃんと友達でよかった。自分では気がつかない部分に彼女は気がついてくれると雛里は遠ざかる背中を見送り
早速とばかりに目の前のフィリッパに聞こうとするが、此方をじっと見つめる姉の姿に言葉が止まる
(どうせなら内緒で作ってびっくりさせてあげよう。きっと素敵な笑顔をみせてくれるはず)
そう考えた雛里は、フィリッパの耳元で囁く「お姉さんを喜ばせたいから後で力を貸してくれるかな?」と
するとフィリッパは顔を輝かせ、同じように雛里の耳元でささやいた
「tataを喜ばせるんだね、有難うヒナリ」
子供ながらに察しのいいフィリッパに驚くと、少女はにっこり笑顔を向けて姉に気がつかれないようにと蹴鞠を拾って
姉の元へと駆けていった。雛里と何を話していたのかと怪訝な顔をする姉だが妹の遊びへの強引な誘いに
聞くことも出来ずに引っ張られていた
「よし、頑張ろう。あの子の笑顔を取り戻すために」
その日から始まった雛里の未知の食べ物を探る日々。期限は水鏡先生からの迎えが来るまで
まずは妹のフィリッパからどの様な物を材料としていたか?ということを探るため
市へと連れていき、色々な食材を見せて心当たりのあるものを購入する事に
「なるほど、それなら任せてくださいよ。果物だけじゃなく、ウチはいろんな物を揃えてますからね
食いもんに関しちゃコノ市全体のをある程度は把握してる。なぁに約束を守ってくれたお礼です」
「有難うございます。今度はちゃんと朱里ちゃんを連れてきますね」
「ええ。それじゃあ嬢ちゃん、ウチの物で何か覚えのあるヤツはあるかい?何なら地面に描いてくれてもいいぜ」
市へと連れていけば、この子と出会った時に桃をくれた店主が自分に任せてくれといい
店の物を次々に妹へ見せていき、更には言葉が解らず伝えられない物は地面に絵を描いて伝えてもらう
「これは蜂の絵」
「これから取るのMiele」
「と言うことは蜂蜜、蜂蜜のように甘い食べ物、と言うことはやっぱりお菓子」
地面に描かれた絵と店に並ぶ品を見ながら指を指し、食材を次々に店主は集めていく
(小麦粉、砂糖、油に卵を沢山。お饅頭のようなものかな?蒸篭を使ってふっくらとした食感の)
食材は意外に少なく、小麦粉を使うことから雛里の頭には饅頭のようなものが浮かんでいたが
地面に描かれた絵を見て雛里は首を捻る。饅頭だと思っていたのだが台形で、饅頭よりもずっと大きい
「後ねー甘いpannaをこうやってグルグルしてー、出来たケーキにかけるととってもgustoso」
ニコニコと兩手で頬を抑える姿に最後はとても美味しいと言う意味なのだろうなと理解するが
pannaと言うのが解らない。どうやらかき混ぜて、出来たものを最後にかけるようだが
何を使うのか、何が材料なのか解らない。どうやらこの店にも無いらしい
店主も首を捻り、色々とあれこれと出すが結局解らず。色が白い、液状のものであるとしか解らなかった
「う~ん・・・」
「ヒナリ、これだけデモできるよ。足りないだけで」
「そうだね、白い液体はもしかしたら朱里ちゃんが何か掴んで来てくれるかも知れない」
フィリッパの言葉に雛里は取り敢えず作って見ることに、どうやらこの材料だけでも出来るものらしく
ただ、その白い液体があればより美味しく、姉の好きな味になるということらしい
だが手に入らず、正体も解らぬ物を探しまわるよりも行商人から情報を聞きに行った朱里に賭けたほうが建設的だと
自分は取り敢えず作ってみようと店主に礼をいう
「何時でもどうぞ、材料は補充しておきますよ。何時でもお越しください」
事情をきいた店主は材料は任せてくれ、必要なら城へと届けますと言い、雛里はもう一度礼を言って城へと向かった
城へと戻った雛里はフィリッパを連れて厨房へと真っ直ぐ進み、彼女の記憶をたどりながら料理を開始する
「まずは、たぶん篩に掛けるのかな」
身振り手振りで、時には絵を描いて説明するフィリッパに雛里は必死で想像を膨らませていく
「卵黄に砂糖を入れて、混ぜるみたいだけど。こんな器具、見たこと無い」
地面に描かれた見たことのない器具、泡だて器に雛里が思案するのは一瞬
直ぐに職人の居る工房へと出向き、絵と手振りで説明すれば、工房の職人は直ぐに竹ひごで泡だて器を作り上げ
また厨房へと戻ると作業を開始。フィリッパの言うとおりに、粘り気が出るまで卵黄と砂糖を混ぜ続ける
「うぅ~、はぅぅ~」
ようやく出来上がったと思えば今度はそこに水を少しずつ加えながら更にかき混ぜて、次に油を水と同様に少しずつ
加えて混ぜていく
予想以上に混ぜる作業が多く、雛里は顔を顰めて苦しそうな声を出すが其れでも諦めず一生懸命にかき混ぜていく
「次はこれ、コナをイレルんだよ」
「ま、まだ混ぜるの?」
この時点で既に雛里の腕はパンパンになっていたが、其れでも姉のジョルジャの笑顔を思い出し
予め篩にかけておいた小麦粉を入れて更に混ぜ始める。フィリッパの指示通り、粉っぽさがなくなるまで
小麦粉が入り重くなった生地は雛里の腕に更に負担をかけるが其れでも歯を食いしばり、混ぜ続ける
「じゃ、次はコレをまぜまぜして、モコモコにするんだよ」
「・・・・・・」
ようやく終わったかと思えば、フィリッパが差し出してきたのは卵白。コレでメレンゲを作れと言っているのだが
既に雛里の腕は限界。今までお菓子を作ることは幾度と無くあったが、此処まで混ぜる事をする菓子や料理を
作ったことも、見たこともなく。混ぜ続ける作業の多いこの料理に雛里は唖然として言葉を無くしていた
「・・・ダイジョウブ?ツカレタ?ヒナリ」
「大丈夫、頑張るよ。笑って欲しいから」
心配そうに覗き込むフィリッパにへこたれては居られないと少しだけ手を休めると、フィリッパは雛里の腕をもみ
疲れが取れると直ぐに泡だて器を握りメレンゲを作り上げ出来上がったメレンゲを三分の一ずついれてかき混ぜ
最後に木ヘラで切るようにかき混ぜる
「あ、カタと焼くのドウシヨウ」
「焼く?これは焼き菓子なの?」
出来上がった生地を見て首を傾げるフィリッパに雛里は驚く。此の様な物だから恐らくは型に流し込み
蒸し上げる物だとばかり思っていたが、どうやらそうではなく地面に描く絵を見れば窯で焼きあげるものだと理解する
(窯で、なら陶器を焼き上げる窯はどうだろう。絵に描いたような窯は無い、陶器を焼く窯なら職人さんに
手伝ってもらって温度も調整出来る。後は型、この形なら兜を変形させて)
考えをまとめた雛里は再度職人の元へ訪れ、薄く作った兜を変形させ台形の形に
更に陶器を焼成する窯を持つ職人の元へ赴き、頭を下げれば面白い事をするのだなと快く承諾してくれた
出来上がった型を水でよく洗い、生地を台形の型に流し込み、そのまま焼成場の窯ヘ入れてもらい焼きあげる
窯の前で二人は高鳴る胸を抑えながら、焼き上がりを待つ
「っと、こんなものかな?」
そう言って職人によって窯から引き出されたケーキは真っ黒に。どうやら窯の温度が高すぎたようだ
初めだから失敗はつきものだと、取り敢えず焦げた部分を剥ぎとり、冷まして型から取れば
良いきつね色に焼きあがったケーキ、切ってみれば黄金色でふわふわの生地が顔を出す
「わぁ、凄い良い匂い。コレがけーき」
「たべようよヒナリ」
良い香りと食欲をそそる黄金色の生地に雛里は頷き、さっそく切り分けた生地を口に含めば
二人は顔を見合わせて首を傾げる。食感はパサパサしていてふわふわそうに見えた生地は硬く
何より焦げた部分の苦味が味を損なう
こんな物ではないとフィリッパは顔を伏せてしまうが、雛里は気丈にも笑顔を見せる
初めて作る料理に失敗はつきものだ、この程度では諦めたりしないと
「失敗だね、でもなんとなく解ってきた。もう一度やってみよう」
「うん、ガンバロウ」
再度、市の店主に材料を運んでもらい何度も試行錯誤を繰り返しケーキに挑戦する二人
そんなことが数日間続き、姉は妹を心配に思い厨房に入ろうとするが妹に止められ、何をしているのか全く解らず
部屋に戻らぬ妹を心配する日々が過ぎていった
「出来た。重要なのは水の量。水の量でしっとりしたりフワフワになったりするんだね」
「うん!スッゴクお・い・し・い?ダヨ」
遂に出来上がったのはシフォンケーキ。材料もそれほど必要なく、水の分量だけでフワフワにもしっとりにも
することが出来る洋菓子。雛里はあらゆることを試し、温度から水の量まで完璧に創り上げた今
味も三種類ほど作り上げていた
「でもこれじゃ足りないんだよね?」
「うん、pannaがあるともっとおいしいダヨ」
ケーキは出来上がったが終始、白い液体が何であるかが解らないまま
フィリッパが言うにはケーキ自体はとても美味しいものだが、やっぱり一味足りないと言う
其れが一体何なのか?一体どうやって手に入れるものなのか?市の店主にも探してもらったが全く解らず
水鏡先生から迎えに人をよこすとの手紙が雛里の元へ届き、雛里は焦っていた
もうすぐ迎えが来てしまう。その前に彼女の笑顔をもう一度と、焦る雛里
「お待たせ雛里ちゃんっ!」
「あっ!朱里ちゃん」
考え込んでいた所に厨房へと飛び込んできたのは朱里。その手には竹簡を持って、そして何やら巾着をぶら下げている
「良く此処が解ったね」
「行商人さんに聞いたら直ぐに解ってくれて、竹簡に纏めて雛里ちゃんの所に行こうとしたら
厨房に居るってその子のお姉さんに」
どうやら妹が心配でのぞきに来ていたのだろう。だがどうやら二人が一生懸命何かを作っているようだったので
邪魔してはまた妹に怒られると部屋に戻ろうとした所で朱里と会ったらしい
「竹簡に・・・なら白い液体の事も?」
「白い液体?もしかしてコレ?」
そう言って朱里が手に持つ巾着から出したのは小さな陶器の瓶に蓋をして入れられた生クリーム
蓋を開けて見せればフィリッパは眼を輝かせてコレだと。コレでケーキが完成するとはしゃいでいた
「コレがぱんな。何処でコレを?」
「行商人さんに聞いたらコレは欠かせない物で、この大陸でも手に入るけど採り方が解らないだろうって譲ってもらったの」
どうやら牛の乳の上澄み液のようなものらしい。それで早速朱里から受け取った生クリームを器に移し
フィリッパの言うとおり別に用意した器に冷たい水を入れ、生クリームを入れた器を水に浸して
砂糖を入れて泡だて器で泡立てる
「はわっ!雛里ちゃんの手が凄い速さでっ!!」
何度となく繰り返した作業に雛里は何時しか表情も変えず、高速で泡だて器を使いこなすようになっていた
その姿に驚く朱里は小さな声で「元直ちゃんにもコレは出来無いかも」と呟くほどであった
みるみるうちに出来上がる九分立のホイップクリーム。味見とばかりに三人はサジに取って口に含めば目を閉じて
その口に広がる甘さ、コク、柔らかい香りに驚いていた
「凄い、こんなの初めて食べたよ」
「私も、それじゃ早速食べてもらおうか。丁度三種類の味でケーキが焼けた所だったから」
「tata呼んでくるよーっ!」
ケーキの完成にフィリッパは厨房を飛び出し、姉の待つ部屋へと走ると扉を乱暴に開け
驚き、困惑する姉の腕を引っ張って厨房へと連れてい行く
「ナニ?ナニがあったの?」
「良いから来て、ヒナリが良いものツクッタからっ」
今まで二人で何かをしていると思ったら今度は私を連れて何をするの?と困り果てるジョルジャ
恐らく妹が離れ一人で居る時間が長かったせいだろうか、少しだけジョルジャは気弱な顔を見せる
だがそんなことはお構いなしに、妹は手を引き厨房へと入る
「こんなトコロへ連れてきて、一体なに・・・が・・・」
厨房に入るなりジョルジャの眼に入ったのは懐かしい物、懐かし匂い。きつね色に焼きあがった生地
台形で中央に穴の開いた土台のような形をしたケーキ
忘れもしない、今は亡き母が特別な日に作ってくれたシフォンケーキと全く同じものが目の前にある
「どうぞ、こっちに座って」
「それじゃ切り分けるね」
朱里に椅子を引かれ、妹に手を引かれるまま椅子に座れば目の前に置かれた台形のケーキが切り分けられ
中からは黄金色の生地が顔を出し、フワリと甘く卵の柔らかい匂いが辺りを包む
皿には二切れ切り取ったケーキが置かれ、その上からはたっぷりのホイップクリーム
生クリーム特有のミルクの甘い匂いが鼻をくすぐり、真っ白いクリームがケーキを包み込む
「どうぞ、食べてみて?お母さんほど美味しくは無いかも知れないけど」
そう言って箸を差し出せば、ジョルジャは少しだけ雛里を見るとそのまま視線を目の前のケーキに
箸をゆっくりケーキに入れてみれば、柔らかくまるで雲の中に箸を入れたかのような感触
そのまま小さく切り取り、ホイップクリームを絡ませ口に運ぶ
ゆっくり咀嚼する姿に朱里と雛里は方付を飲んで見守る
味はどうだろう、フィリッパちゃんの記憶に近いものに出来ているはず。柔らかさもだから大丈夫のはず
手を握りしめ、笑顔を待つ雛里に朱里は優しく手を握り頷く。きっと大丈夫、笑顔を見せてくれるよと
「・・・・・・」
だが雛里の眼に映ったのは笑顔ではなく涙。ボロボロと次々に瞳から流れ落ちる大粒の涙に雛里と朱里は驚く
姉の隣に居たフィリッパも泣き出す姉に驚いていた
「お、美味しくなかったかな?」
顔を曇らせ、自分の作ったケーキは失敗だったか、それとも彼女記憶の母親の味を穢してしまったのかと不安になる雛里
しかし、ジョルジャから聞こえてきたのは意外な言葉
「madre、madre、madre」
お母さんと何度も呟き、手で止まらぬ涙を何度も拭いグシャグシャの顔で雛里に顔を向ける
「有難う、有難うヒナリ。美味しいよ、とっても美味しぃ」
流れ落ちる涙をそのままに、初めて見た時よりもずっと良い、まるで出会ったあの日の陽気のように温かい笑顔を見せて
くれたジョルジャに雛里も瞳を涙で滲ませてしまう
「madre、また会えたね。もう思い出さないなんて思わないよ」
己の心を気丈に保つために、途中から母の死を思い出さぬようにしていたのだろう。ジョルジャの言葉は重く
だが懐かしむようにケーキを口に運ぶと涙を流しながらゆっくりと味わっていた
(良かった。本当に良かった。きっとこれが私達の目指すもの、皆に笑顔を)
帽子のつばを握りしめ、顔を隠す雛里に朱里は「良かったね」と目の端に涙をためて
それじゃあ折角だから皆で食べようと出来上がった三種類のシフォンケーキを切り分ける
「わ、コレは小豆?それにこれはもしかしてお茶の?」
「うん、色々試したんだけど小豆やお茶でも出来たの。食べてみて、とっても美味しいよ」
待ち切れないとばかりにフィリッパはせがみ、早速お茶のシフォンケーキにホイップクリームをたっぷりつけて
口に運べば「ん~っ!!」と身体を震わせ、大げさだよと笑みと共に口に入れた朱里も
同じようにプルプルと身を震わせ、雛里はその姿を見て笑っていた
「tata、これ美味しいよ。teのケーキ」
「本当だね、madreのより美味しいかも」
ジョルジャも珍しいと口に入れれば口の中で広がる茶の良い香りと卵の風味、更にはフワフワとした生地の
食感が舌を楽しませ、濃厚なホイップクリームは茶と卵の香りを包み、より柔らかく膨らみ鼻を通り抜ける
いつしか流れる涙は止まり、心からジョルジャは笑う。母の味、そして妹の笑顔、目の前の二人の素晴らしい人物の想いに
翌日、二人の少女の元へ水鏡先生からの使いだと言う人物が現れ、雛里は遂に二人との別れの時が来た
城門の前に荷馬車が着けられ、使いの者が二人の少ない荷物を載せる
「有難うヒナリ。お陰でmadreの事、沢山思い出せた。一人じゃない、思い出さなくても大丈夫って思ったけどダメだね」
「お母さんのこと、思い出すのはダメな事なんかじゃ無い。きっと何時でも、記憶の中でも支えてくれるはず」
「うん、思い出さないと寂しい。きっとmadreも一緒」
頷く雛里にジョルジャは顔を近づけ頬にキスをすると雛里は驚き、顔を真赤にしていつもの口癖を呟き
顔を帽子に隠してしまい、フィリッパはからかうように「アイサツダヨー」と同じように顔を近づけて頬にキスをしていた
「あはははは。これ、餞別です。昨日のうちに竹簡にけーきの作り方をまとめておきました」
「良いの?ヒナリが作ったモノまで書いてある」
「うん、それでお母さんだけじゃなく私達も思い出してくれると嬉しいかな」
朱里の言葉に勿論と頷き、受け取ると大事そうに両手で抱きしめるジョルジャ
そろそろ時間だと使いの者が言い、二人は荷馬車へと乗り込む
遠ざかる馬車に雛里と朱里は手を振り、フィリッパも応えるように大きく手を振り返す
次第に二人の姿が小さくなる頃に、ジョルジャは立ち上がり大きな声で手を振り替えした
「有難う、忘れないよ。おおきくなって、言葉をタクサン覚えたら何時か必ず会いに行く」
言葉は聞こえたかどうかは解らない。だが城門の前で立つ三角帽子の少女は笑顔で手を振っていた
―数年後―
とある一軒の店から【笑顔を運ぶ雛鳥】と言う名のシフォンケーキと言う焼き菓子が大陸中に広がる
何でもあまりの美味しさに、口に含めばどんなに辛いことがあっても皆笑顔になれると言うのだ
店主はかの有名な司馬徽、水鏡先生の教え子の二人というからなおさら信憑性があり、大陸に広がるのもうなずける
人々に聞くと、このケーキの特徴は必ずマジパンで作られた可愛らしい人形が乗っているということ
店主に人形の事を聞くと「皆の笑顔を見たいと言う願いを、自分達のケーキを通して人々に伝えたい」と言うことらしい
店に並ぶケーキには必ず小さな一人の少女が恥ずかしそうに微笑む姿
とんがり帽子に長く左右に束ねられた髪は紫陽花色の可愛らしい少女が今日も店に訪れる人々に
春の日差しのような温かい笑顔を届けていた
ちょっとだけ後書きです
書いてあるのはイタリア語です
古代ローマがどんな言語を使っているか、いまいち
解らなかったので、イタリア語を使用させて頂きました
それと、応援メッセとコメント返せずごめんなさい><
入院してました・・・
皆さん季節の変わり目はご注意を
Tweet |
|
|
55
|
8
|
追加するフォルダを選択
何時も書いている異聞録とは違います
雛里ちゃんが主人公のSSを書きました
更に、そらったま様が挿絵を描いて下さいましたっ!!
続きを表示