No.316936

Duet

フジさん

.何番煎じか解りませんがデビューして数年後のお話です。トキヤが全米デビュー()とかしちゃう感じの捏造です。◇Twitterでフォロワーさんが「この曲すごく音トキっぽい」と紹介されていた曲を聴いて、滾ってしまったが為の結果です。ひどい自己満足ですほんと。◇音トキのつもりで書きましたが友人にはどっちにも見えると言われたので、両方のタグ入れておきます(´・ω・`)

2011-10-12 01:50:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:608   閲覧ユーザー数:607

 

ピュウっと吹き付ける風が肌を刺すような冷たさだ。

未だ来ぬ待ち人に、溜息をついて、口元をマフラーへと埋める。

流石にこの時期に、外での待ち合わせをするのはバカだっただろうか……そんな事を考えていたら、突如目の前が暗闇に覆われた。

 

「へへっ、だーれだ?」

「……こんなくだらない事をするのは、私の知る限りあなただけです」

 

真後ろに、懐かしい空気を感じる。

そっと目元を覆う手の腕を掴んで、目隠しを外させると、取り戻した視界をくるりと回転させて、後ろの人物を振り返った。

 

「それに、……声でバレバレですよ、音也」

 

今のは少しだけ、ウソだ。無言でも、触れなくても、きっと音也だと解っただろう。

 

「あはは、トキヤ久しぶりーっ」

 

ウソを見抜いたわけではないだろうが、音也が心の底から嬉しそうに笑う。

キラキラと輝くような微笑みは昔も今も変わらない。この無遠慮な顔の距離も、慣れ慣れしく触れてくる掌も。

私の手に掴まれたままの腕が、躊躇なく腹の辺りに回されて、ぎゅっと抱き締められる。背にぴったりとくっつくのは、ただの衣服のはずなのにじんわりと温かくて、この体温が無性に愛しくなる。

後ろから肩口に顎が乗ると、至近距離で視線が絡んだ。

 

(……そういえば、視線の位置は変わってしまいましたね)

 

「誰かに見られたらどうするんです」

「大丈夫、こんなとこ誰も来ないよー」

 

まあ音也の言う通りだろう。そういう場所を私が調べて、私が選んだ。

抱き締める腕に安堵する内心を隠しながら、軽口を叩いて音也とのやり取りを取り戻す。以前と変わらないように、と気を使いながら。

 

「いずれにしろ重いので離れてください。本当に無駄に大きくなって……」

「無駄ってなんだよー? トキヤひどいよー!」

「無駄は無駄でしょう。全く、あの頃は可愛かったというのに……」

「あれ? やっぱりトキヤって俺の事可愛いとか思ってたの?」

 

ただでさえ近かった顔の距離を更にずいっと近づけて、悪戯気に問い掛けてくる。あどけなさは減ったものの、やはり音也の瞳は子供ように輝かしい。

調子に乗るだろう前兆に、音也の鼻をくにっと摘んで「バカな子ほど可愛い、というニュアンスの可愛いですよ」と、釘を刺して微笑う。

 

「なーんだ、ちぇっ」

 

いじけた素振りで唇を尖らせる音也に、やはり以前と変わらない彼を見つけて。

吸い寄せられるように顔を近づけた。

ふっと一瞬だけ触れ合う唇。乾燥した空気の中でも、それはしっとりと重なった。

 

「……ちゃんと手入れをしているのですね」

「……うん。前にトキヤに怒られてから、ちゃんとしてるよ」

「そうですか。…………では、ご褒美です」

 

再び近付く唇に、どちらからともなく互いに瞼を伏せた。

ぷるぷるとした肉厚の唇が押し付けられる。柔らかく食まれると、この大きな口に食べられてしまうような錯覚が起きる。

けれど、乱暴で性感を煽られるようなキスには至らない。

数度啄ばんでからゆっくりと離れていく。

薄っすらと瞼を開けると、睫毛が触れ合いそうな距離で、音也の瞳だけが視界に広がる。

 

「ホント、久しぶりだね。こうやってトキヤとキスしたりするの……」

「……そうですね」

 

切なく揺れる瞳に射すくめられる。

音也の口が何か言いたそうに開いたが――結局飲み込んで、沈むように顔を伏せた。

きっと、私と音也は今、同じ刻を思い出している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはいつかの音也の部屋でのこと。

ベッドの上、シーツに包まれて音也が嬉しそうに提案する。

 

「ねえトキヤ。今度デュエットしよ?」

 

突然の提案に一瞬耳を疑った。

思わず音也を振り返ると、わくわくとした面持ちで私の返答を待っている。

断られる事なんて、想像だにしていないようだ。

ハァ、と溜息をついて視線を手元の台本へと戻し、冷たくあしらう。

 

「……共演する事すら嫌だというのに……デュエットなど以ての外です」

「えええっ! どうしてっ!?」

 

大げさな音也の反応に、また溜息が出る。「……全部顔に出てるからですよ」と苦々しく言って、眉間を指で押さえた。音也が何か喚いているが耳に入ってこない。

 

この間、バラエティ番組で共演した時。――確か、互いに別の新ドラマの番宣を目的とした出演だったか。どちらか勝った方が、より多くの時間番宣が出来るといった趣旨だというのに、このバカは私の応援ばかりして――あまつさえ私が勝てば喜んだりして。

あの時の共演者たちの異様な視線を思い出してぶるっと身震いが走る。

司会者が「元同級生で仲良しですもんね」などと拾ってくれたから良かったものの。

かねてから不安に思っていた現実が、すぐそこまで迫っているような危機感を感じている。

(――これはやはり潮時、なのですね)

手に持った台本をパタンと閉じて、音也へと向き直る。

 

「――丁度良い機会ですね。前から言おうと思ってたんですが」

「な、何?」

 

不穏な空気を感じ取ったらしい。こういった事には野生の勘でも働くのか、いつも敏感だ。

音也が少し怯えたように私を見ていて、心苦しくないといえば――ウソになる。

けれど、もう決意は固まってしまった。言うしかない。

 

「暫く付き合いを改めたいんです」

「え? ……ええっ!!」

 

音也が飛び上がって大声を上げた。

呆然とベッドの上に立ちあがって、混乱と懇願の視線で私を見下ろしてくる。

 

「ウソっ、ウソだよね?! 付き合いを改めるって、わっ別れるってこと?!」

「……私は本気ですよ、音也。このままでは互いに駄目になってしまう」

「そんなの解んないじゃんっ」

 

激しく食ってかかる音也に視線をそらし、本日何度めかの溜息をつく。

既に固めたはずの決意に、ヒビが入り始めている。顔を見てしまったら、きっと負けてしまう。

わざとらしい程に冷たく接しなければ――。

 

「なんで……?なんでだよ、突然、意味解んない」

「突然じゃありません、ずっと考えていたことです」

 

ずっと、の言葉に音也がぴたりと動きを止めた。

 

「あなたは嘘を吐くのが本当に苦手ですからね。ちゃんとプロとしての自覚を持って、自分の気持ちを抑える事が出来るようにならないと――」

「なるよ!俺、絶対なる!」

 

ドサッとベッドに腰を落とし、私の正面へと回り込んできた。

まっすぐ私の瞳を捉えて、熱視線で見つめてくる。音也のひたむきさが、こんなときは憎い。揺れる内心を見透かされたくなくて、また、視線をそらしてしまう。

意気地のなさに我ながら呆れるが、……もう、どうしようもない。

 

「………なら、努力してください。そして私にそれを証明してください」

「証明出来たら……?」

 

微かに見えた光明に縋るように、続きを促す声が期待に震えている。

 

「そうすれば、……デュエットを考えてあげます」

「そっち?!」

「はい」

 

盛大に期待が外れたらしい、音也がガクッと項垂れた。

暫く沈黙の時間が二人を支配して、室内には壁掛け時計の秒針の音だけがコチコチと響く。

悠に10分は経過しただろうか。唐突にガバっと音也が顔を上げた。

そして、静かな声で「決意は固いんだね?」と念を押すように私に尋ねる。

今までずっと音也を視界に入れないよう注意していたが、この時ばかりは彼を正面から見据えて、深く頷いた。

 

「………ええ」

「そっか………そっか……」

 

自分自身を納得させるように、同じ言葉を何度も繰り返して、――気が付けば、ぽろぽろと音也は涙を流していた。

大粒の涙がシーツに染みを落としていく。

本人に自覚はないのか、拭いもせず、ただ虚空を見つめるだけなのが痛々しくて堪らない。

(――仕方のない人ですね)

胸がキュウキュウと締め付けられて、悲鳴を上げている。抱きしめたいけれど、ぐっと拳を握って我慢するより他ない。

 

このままだと二人ともダメになってしまう――それだけは明確なのだから。

……私は時折、音也が怖かった。

何よりも私を優先して、私に全てを捧げて、私の全てを手に入れようとする音也が―――…。

これは、ただの逃げなのかも知れない。

けれど、このままだと二人とも――――…。

音也をダメにしてしまう自分が怖い。

音也にダメにされてしまう、自分も怖ろしい。

 

(――これは、必要な事。仕方がない事)

そう、強く私自身に言い聞かせる。

 

「音也。今まで、好きでしたよ」

 

そっと屈んで音也の唇に――最後だと決めたキスを落とす。

音也は特に反応しなかった。

ベッドの傍に落ちた衣服へと袖を通して、極力音也の顔は見ないように気をつけながら、部屋を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あれは、ウソです。

今でもあなたが好きなこと、きっとあなたも気付いているでしょう?

だから、この呼び出しに応じたのでしょう。

 

 

 

 

「トキヤ、あのね」

 

真剣な声音にはたと我に返る。

後ろから抱きしめられた格好のまま、随分長い間想い出に耽っていたようだ。

肩口から顔をあげた音也がこちらを見つめていて、至近距離で視線が重なる。

 

「……なんですか」

「俺、トキヤが好きだよ」

 

いつになく真剣な表情、真剣な声音。

たった一言なのに、その言葉に全てが内包されているように感じて、熱いものがこみ上げる。

ツンと鼻の奥が痛い。

心臓がきゅっと絞られる。

 

「……知っています」

 

なんとか返した言葉は震えていなかっただろうか?

解らない。

眼の奥まで熱くなって、これ以上ポーカーフェイスを気取るのは無理そうだ。

けれど、泣き顔は絶対に見られたくない。

思わず、身体ごとくるりと回転して、音也を正面から抱き締めた。

顔を音也の肩に埋めて隠す。

音也は驚いたように硬直したが、直ぐにそのままぎゅっと、背がしなるくらいの強い力で抱き返してくる。

 

「俺、誰よりも知ってるよ。トキヤが今まで頑張って来たこと。だから、絶対大丈夫。トキヤなら出来るよ」

 

責めるでもなくただ現実を受け入れて、且つ私を励ましてくれる音也に、胸から溢れる想いの奔流と一緒に、涙が堰をきったように流れ出す。

音也の前で泣くのなんて絶対嫌なはずのに、どうしても我慢出来ない。

熱い滴が頬を伝って、音也のジャケットを濡らしていく。今が冬で良かった。きっと直ぐにはバレないはずだ――。だから、今だけ。

そう自分に言い分けして。

 

「それに俺、信じてる。これからずっと、トキヤの横にいるのは俺だって」

 

(――当たり前です。誰が、誰が………)

声にもならない、頭の中ですら上手く言葉にならない。

 

「それから、忘れてないでね。俺がトキヤを好きなこと」

 

(――忘れません、絶対)

声にするのは諦めて、こくりと小さく頷く。

 

「ずっと変わらないから、この気持ち……」

 

音也の声音が優しすぎて、涙が止まらない。

バラバラに砕けそうだった心が、今きゅっと引き結ばれて小さな塊に戻った。愛しい鼓動が蘇る。今、漸く呼吸が出来た気がする。

何も言えない代わりに、より強く音也を抱き締めることで感謝と愛情を精一杯伝えたかった。

 

「あはは、痛いよトキヤ……」

 

 

 

 

 

 

抱きあっているとは言え、この寒空の下。

すっかり身体が冷えてしまって、――それと一緒に頭も冷えて。漸く気持ちが落ち着いて、身体を離した。

きっと瞳が赤くなって、頬に涙の痕が残って、泣いていた事など一目瞭然だっただろう。

けれど、全く言及はせず音也はにこっと笑って、いつものお日様の笑みを浮かべ「待ってるね」、とそれだけ告げられた。

(――もう音也は昔の音也じゃない)

それが寂しくもあり、嬉しくもある。

複雑で、至極勝手な心情に思わず苦笑してしまう。

――そして、決意を一つ。

 

「音也」

「ん?」

「私が帰ってきたら、いつかの願いを叶えてあげます」

「へっ?」

 

素っ頓狂な声を上げて、私の顔をじっと見つめる音也。

 

「え? え? どういうこと?」

「解らなければ、別にそれで構いませんよ」

 

瞬きを繰り返しながら、焦ったように手をばたばたと動かす音也に少し笑って、「じゃあ、音也。――また」と、決めていたセリフを告げる。

慌てる音也をその場に残し、颯爽と身を翻しその場から遠ざかっていく。

ぽつん、と残る音也に後ろ髪をひかれないと言えば嘘になるが、振り返ることはしない。

カツカツ、と足早に歩みを進めて、雑踏の日常へと戻ってくる。ポケットに入っていたサングラスを掛け、人混みにまぎれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ねえ音也、知っていますか。

私が誰よりもあなたを愛してること。ダメになりそうだったのは私の方だったこと。

 

きっと、見抜いてましたよね。だから、あのまま引き下がったのでしょう。

 

 

(――我ながらズルイですね)

 

フッと苦笑して、手帳に走り書きを綴っていく。

いつか、あなたと歌うデュエットの為の歌詞。

これを一緒に歌えるのはいつだろう。

 

 

遠い未来じゃない事だけは、確かだ。

 

 

 
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