No.316780

鳳凰一双舞い上がるまで 第三章 7話(上編)

TAPEtさん

真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。

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2011-10-11 21:27:17 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:3542   閲覧ユーザー数:2968

一刀&雛里&蓮華 拠点:痴情喧嘩再び

 

蓮華SIDE

 

「…そろそろ、出ていくか」

「へ?」

 

いつものように勉強をしていた私は、一刀のその呟きを聞いて一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。

 

「一刀……?急にどうしたの?」

「先日鮫江賊団の連中も甘寧義賊団に溶け込んできているし、これ以上ここに残っている必要もない」

「あ」

 

一刀たちが私の軟禁された屋敷に留まって早三ヶ月。あの寒かった冬も過ぎて時は丁度良い春になっていた。

そんな春の気持ちに浮かれて私は忘れていたのかもしれない。

彼が私にとって他人であることを。

そして、彼がいずれはここを離れること、私から離れていくことを忘れていた。

何の信じる当てもなく、彼がいつまでもここに居てくれるだろうと勘違いしていた私にとって、彼のその呟きは蒼天が崩れるよりも遙かにおぞましいものであった。

 

「明日にでも皆に言って直ぐに行こう」

 

明日?そんなに早く!?

 

「そんなのダメ!」

「え?」

 

彼の言葉に思わず大声を出してしまった。どうしよう……

 

「い、いえ、つまり、私が言いたいことは、そんなに急に行こうとしたら、皆まだ準備もできていないじゃない。明命たちなんて、最近随分仲良くていつも一緒に居るのに、急に明日出発するなんて言っちゃったらお別れいう暇も無いじゃない」

「……それは、確かにそうだな。明日というのは急すぎるのかもしれない」

「それに、ここから豫州まで行く道のりは険しいわよ。一刀はともかく、鳳統や諸葛均たちには歩いて行くのは無理よ」

「じゃあ、どうすれば?」

「私は馬を手配してみるわ。荷馬車みたいなのがあったら移動するにも楽でしょうし」

「蓮華が?…いや、それはちょっと…」

「遠慮することないわ。今まで助けてくれたこともあるし、それぐらいのお礼はしたいの」

「……うん……」

 

一刀は少し考えこんで、

 

「分かった。取り敢えず、皆にはそろそろ行こうとだけ行っておく。その件は、蓮華に任せるよ」

「ええ、任せて頂戴」

 

これで直ぐに行っちゃうことにはならなくて済んだけど、でもそのうち結局行かせなければならない。

私、どうすれば……

 

 

 

 

「よくよく考えてみたら、一刀が行くからと言って私が慌てることなんてないじゃない。そうよ。一刀は赤の他人。ここには思春の部下たちの調練の手伝いがてら私の屋敷に過ごしていただけのことじゃない。そもそも、一刀たちは旅の途中だったわけで、今までここに居たの自体、彼の言う通り長居しすぎてるのよ。軟禁状態である私も、あまりお金に潤った生活をしているわけじゃないし、あまり彼らが長く居ると、私を監視する者たちが一刀たちに何をしてくるかも知れない。赤の他人である一刀たちが私のせいでひどい目に会ってしまうことも本意じゃないし、ここは大人しく彼らを送ってあげることが………」

 

………

 

「はぁ……」

 

何やってるのだろう。私……

自分で言ったとおり、ここに長くいること自体、一刀たちを危険に晒すことになるのに、私は自分の気持ちだけで一刀をここに残しておいて欲しいと思っている。

どうして?

良く分からない。今はどうすれば一刀がもっと私の側に長くいてくれるだろうかそれ以外は考えられない。考えたくもない。

…どうすれば一刀は鳳士元や他の娘たちと旅立たないでここに居てくれるかしら。

 

「蓮華さま、お探しでしたでしょうか?」

 

明命に思春を連れてくるように頼んでおいた。

明命や私は軟禁状態なためいつもどこかで監視されているか分からない。

明命は短い間は他の者にバレずに出回ることができるけどあまり長く屋敷を離れているとこっちに変な動きがあると察した袁術や荊州の劉表が何をしてくるか分からない。

そのため、外のことに関しては、思春に色々と頼っている。

思春は今は私たちが持ってる決め札のようなものだから、今バレてしまったらいいことがないので、できるだけ隠密に呼び寄せている。

 

「思春……ええ、馬と馬車が一つ欲しいのだけれど、なんとかなるかしら」

「荷馬車用の馬なら市場でそれなりのものを買えますし、馬車は時間があれば造れます……さすれば北郷たちがここを立つのですか?」

「……ええ、準備出来る次第行くと言ってたわ」

「……分かりました。できるだけ早急に手配します」

「いえ、そんなに早くしなくてもいい!……ゆっくりしても良いから……」

「……蓮華さま?」

 

どうなってるのかしら、私。

 

「…とにかく、お願いするわ。私や明命は建前上ここから出られないから、外のことに関しては頼れるのがあなたしかないわ」

「……わかりました。私にお任せください」

 

思春はそう言って礼をしてから去っていった。

思春は明命並みに人の気配を察することに手馴れているらしく、彼女と私が一緒に居る姿を見た者の中で自分の上の者に報告出来たものはないと思う。

 

でも、今はそんなことはどうでも良い。

思春が準備してくれるまでどれぐらいかかるかしら。3日?4日?さっきああ言ったから五日ぐらいにしてくれるかも知れない。

……いや、だからって何になるのよ。

結局ここで彼を別れるともう二度と会うことなんてできない。

一刀たちは姉さまのことを恨んでいるから、今はまだ私と居ることに拒否感なく接してくれていたけど、姉さまと一緒に居る私を会って、彼らが今のように接してくれるとは思えない。

 

……姉さま、私一体どうすれば…

 

 

 

 

雛里SIDE

 

「旅立つ、ですか?」

「ああ、自分が植えた種だったとは言っても、あまり長くいすぎたみたいだ」

 

水鏡先生に今の現状を伝える書信を書く最中、一刀さんが入ってきてもうすぐまた出発しようとの話をしてきました。

 

正直、一刀さんがいつ言ってくれるか待っていた次第です。

最近、誰かが私を付いて来ているような気分になることがあります。

他の人たちには言っていませんが、恐らく袁術や劉表軍の間者なのでしょう。

荊州軍ならまだ大丈夫です。むしろ荊州軍ならこっちから利用することだって可能です。

聞く話だと、前の私が江賊団に捕まったにも関わらず、その地域の水軍が自分の港を守るおろか、私たちを甘寧さんと一緒に江賊団の一員だと捕まろうとしたことがバレて、第2次荊州政すとらいきーが起こりそうになったそうですけど……

 

問題は袁術軍です。

私たちは別にやましいことなんてないですけど、ここに長居したことで、私たちを孫策軍の協力者と勘違いされたら、これからの豫州行きに問題が発生します。

 

「そうですね……ここに居て三ヶ月ぐらい経ちましたし…できるだけ早く出発した方がいいと思います」

「そうだな…そろそろ付け回る連中を始末するのも手に負えなくなってきたし」

「……え?」

 

なんですか、それ?

 

「一刀さん……まさか」

「うん?ああ、大丈夫だよ。殺してないから。ただ短時間の記憶が亡くなるようなツボを押しただけだから」

「なにそれ怖いです」

 

一刀さん何でそんなことできるんですか?

 

「……雛里ちゃん、この前の肩揉みは気持よかった?」

 

あ、なるほど…って

 

「一刀さん、普段それ使って私に何かしてたりしてませんよね?ね?」

「失礼なこと思っちゃうよね。あんな危険な技雛里ちゃんにするわけないじゃないか」

「……この前真理ちゃんたちとお茶した時に、何気に私に食べさせてあげたり、散々倉ちゃんと真理ちゃんの前で恥ずかしい様を晒された記憶があるのですけど…」

「普段の愛情表現の範囲内だろ」

「人に見られるのは恥ずかしいんです!!//////」

「つまり二人きりだと何しても大丈夫だって」

 

なんでも……!!

 

「/////////んもう、話は分かりましたから用が済んだら出て行ってください!」

「怒った?」

「知りません!!」

 

一刀さんの馬鹿ー!

 

「…まぁ、僕も雛里ちゃんが嫌なことはしたくないし。…じゃあ、そういうことだから、準備しておいてね」

「あ……」

「それじゃあ」

 

そうやって一刀さんが帰って私一人になると、私は目の前の、水鏡先生に送る書簡に目を移りました。

ここに来て一度書信を送ってます。

私が江賊団に誘拐されていたこと。

言わないかも思ったんですけど、隠したところで結局先生の耳にも入ることですし、私の手で話した方が良いかと思いました。

朱里ちゃんなんて、今頃一刀さんに対してすごく怒っているに違いありません。

でも、一刀さんのせいじゃないです。

一刀さんについて行こうとしたのも私ですし、外にどんな危険があるだろうか知らなかったわけでもありません。

むしろ、一刀さんが一緒に居たから助かったのです。一刀さんが助けてくれると信じていたから、江賊に囚われていたあの時も、全然怖くありませんでした。

……と、書信にはちょっとした嘘を書いてみます。

でも、一刀さんが私を危険な目にあわせているなんて、そんなとんでもない勘違いをされたくはないのです。

あんなに優しい人が、人を危険な目に遭わせるなんて、できるはずもありません。

 

…自分を殺した人の妹とあんなに仲良く出来る人なんですから。

 

「一刀さん、私、最近ちょっと不安です」

 

ここに居てから…一刀さんと会ってる時間が減った気がします。

それはもちろん水鏡塾に居た頃にはちょっとやりすぎたと思われるぐらい一緒に居ましたけど、ここだと一刀さんは私と一緒に居る時間ほど孫権さんや、あの事件で出会った人たちと過ごす時間も長くなりました。その分、私と一緒に居る時間は減ってますし。

 

孫権さん、明らかに綺麗な人ですし、私なんて子供同然な体型なのに比べて、孫権さんは胸も大きければ体型も一刀さんの噛みあってます。

二人が並んでいると、誰が見ても恋人同士です。

私と一刀さんが一緒に居ると……どっちかと言うと兄妹に見られちゃいます。

別に一刀さんが浮気してると思ってるわけじゃないですけど、ちょっと、最初に孫権さんに会った時よりは自信がなくなってるのは確かだと思います。

自分から見ても、あの二人だとすごく互いに合ってるなぁと思ってしまうのですから……。

 

だからなのでしょうね。ここから早く出たいと思うのって……

 

コンコン

 

「?」

 

一刀さんかな……

何か忘れたことでも……

 

でも、私が門を開けると私が思ったのとは違い、そこには孫権さんが立っていました。

 

「孫権さん……?」

「鳳士元殿、少し話があるのだけれど、大丈夫かしら」

「……はい、取り敢えず、入ってきてください」

 

 

 

 

一刀SIDE

 

「はうあ!一刀様、それは本当ですか?」

「……行っちゃうの?」

「ああ、一人で急に決めちゃってごめん。でも、もうこれ以上長く居ると蓮華たちにも迷惑になるし、僕たちにとっても益はない」

 

雛里ちゃんの所から、僕は真理ちゃんの部屋に向かった。

そしたら周泰と倉も一緒に集まって、おしゃべりをしていた。

丁度三人一緒に居るし、僕は三人に雛里ちゃんと蓮華に言ったのと同じことを話した。

 

「てわわ…それじゃあ、出発はいつになるんですか?」

「正確には言えないけど、3日ぐらい後になると思っていてくれ」

「……一刀、もうちょっと長く居ちゃダメ?」

 

倉がすごく子猫のような目でこっちを見ている。

僕は精神的ダメージ35を受けた。

 

「倉、気持ちはわかるけど、別れを遅延させたところで何も変わることはないよ。僕たちは旅をしようと決めてここまで来たんだ。覚えてるよね?」

「………うん」

 

倉は頭を俯いて頷いた。

でも、直ぐにふと頭を上げて、

 

「…じゃあ、明命ちゃんも一緒に行く」

「はう…倉ちゃん、それは無理です」

「…どうして?」

「倉ちゃん、周泰ちゃんと孫権さんは軟禁されているの。制限された所から無闇に出ると、本家の孫策さんたちが困ることになるの」

「……別に、あいつが困ってもどうでも良い」

「てわわ…、倉ちゃん……」

 

倉がそうつぶやいたけど、正直僕たちと蓮華たちの組み合わせは不思議なところがあった。

言わば呉越同舟。敵同士であるはずの二組が同じ屋根の下で仲良くしていたわけだ。

でも、その分、この微妙な空気の原因である、孫策の話になると、両方とも言葉を謹んでした。

こうして倉に関しては例外だけど。

 

「倉、あまり我侭を言うんじゃないぞ。そんなにいうのだったら、倉はここに置いていこうか?」

「!……!!……!!」

 

僕が意地悪そうにそう言うと、倉はすごく困ったような顔で、また僕をにらみ付いた。

精神的ダメージ52を受けた。

 

総HPが100なので、かなりヤバい状態である。後一撃でも入ったら沈むので、さっさと逃げることにしよう。

 

「じゃあ、そういうことだから、二人ともそのつもりで……」

「……ぅ!」

 

物理的ダメージ13を受けた。

<<SYSTEM>>勇者が倒れました。

 

「てわわ、倉ちゃん、部屋の中で暴れちゃダメ!!」

「倉ちゃん、落ち着いて!」

 

 

 

 

雛里SIDE

 

孫権さんが来たので、手紙を書く作業を止めて卓にお茶を用意して孫権さんを座らせました。

ここに来て最初の時は孫権さんに私が知ってる兵法について教えてました。

でも直ぐに一刀さんと替わってしまってました。

それから一刀さんは午前中は孫権さんと一緒に居ました。

孫策さんとの出来事は今でも忘れられませんが、だからと言って孫権さんに対してまで嫌な顔で見るとしたら私がそれほどの人でしかないなのでしょう。

 

「………今なんとおっしゃいました?」

「だから、ね、私がお姉さまと話してあなたたちとの事について詳しく調べさせて、姉様に非があったら謝らせるから、そうなったら私たちのところで一緒に孫呉の復興のために働いてもらえるかしら」

「…つまり、それは私たちに、孫呉に仕官して欲しいと、そう言いたいのですか?」

「ええ、あなたたちの実力は私の目で見たし、姉さまも私が言ったらきっと解ってくれるはずよ。今は孫呉に取って厳しい時。少しでも多くのちからを集めたいの」

 

……はい、私はそれほどの人間です。

 

「孫権さん、一刀さんがどうして孫策さんのことが嫌いなのか分かりますか?」

「え?……確かそれは…姉さまが倉の家族だった以前盗賊だった群れを殺したから」

「それは倉ちゃんが孫策を許せない理由です。一刀さんが孫策さんを嫌ってる理由は別にあります」

「…それは…?」

「孫策さんは人の命を軽く見すぎていたのです。誰かはあれほど頑張って救おうとした命を、あの人たちはあまりにも簡単に殺してしまった、その上に仕方ないことだと、彼らにとって当然な懲罰だと思いながら自分たちがしたことが正しいと思ってました。少なくも間違いだとは思ってませんでした」

 

人を殺すことに正道なんてありません。

命の軽重なんてありません。人を殺すことに罪悪感を持たないこと。自分が人を殺すことが正しいと人に思いやらせること。一刀さんが孫策さんに対して許せないのはソレです。

 

「…だけど、それは」

「解ってます。それはこれからも孫権さんたちがやらなければならないことです。いくら私たちが言っても、私たちがあの白鮫江賊団をどう扱ったのかを見た上でも、孫権さんは私たちのようにするよりは、孫策さんがしたようにするでしょう。……でも、それでも一刀さんは孫権さんの方に賭けてました。それは私も同じです」

「それなら、ここは私の顔を見てでも、一度姉さまを話をしてもらえないかしら。これから豫州に行くのだったらきっと姉さまとも会う機会があるは……」

 

ほんとに…

 

「ふざけるのも程々にしてください」

「なっ…!」

「孫権さん、勘違いしないでください。孫策さんと私たちは相容れない人たちなのです。あんな人のために働く気もありませんし、そもそも、たとえ一刀さんが孫策さんを許すとしても、私は孫策さんのこと、絶対に許しません」

 

倉ちゃんが孫家を嫌う理由。

一刀さんが孫策を殺したいほど許せない理由。

そして、私も孫策さん、そして孫権さん、あなたのことが許せません。

 

「孫権さん、何故『私』が孫策さんのことを嫌ってるのか教えてあげます。これは一刀さんは言ってないことですし、話そうともしてなかった話です。でもこれは事実ですし、孫策さんも否定しません。あの人と私の目の前で見えたものですから。この話を聞いてまだ孫権さんからその話が出てきたら、私ももう孫権さんに何も言いません。何も期待しません」

 

一刀さん、ごめんなさい。

このまま丸く収まっていくことを願っていたつもりですけど、もう無理です。

この人見てるだけで、相当苛立ちます。

 

「孫権さん、あなたの姉、孫策さんは一刀さんのことを……」

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

蓮華SIDE

 

自分の部屋の扉を激しく閉じて私は自分の寝床に頭を伏せた。

何がなんだか分からなかった。

 

「大切な人を殺したという話だけじゃなかったのね」

 

自分自身もまた、姉さまに殺されていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「私が倉ちゃんを安全なところに行かせて戻った時には、既に一刀さんは孫策さんによって殺されていました」

「……へ?」

 

一瞬、何を言っているのか分からなかった。

 

「何…言ってるの……?」

「『私と一緒に居た一刀さん』あの時、あの場所であなたの姉に殺されました」

「でも…一刀は今…」

「蘇ったのです。一刀さんは普通の人とは違う力を持っていて、一度死んだら新しい体で蘇ります。そして、今居る一刀さんは一度孫策さんに殺されて、蘇った後の姿です」

 

信じられない話だった。

というより、普通ありえない話だった。

だけど、今まで彼らを見てきた私にはそれを嘘だと決め付けることができなかった。

 

何よりもその話を言っている鳳士元の顔がひどく歪んでいく姿を見て、私は彼女が言っていることが本当のことだと分かった。

そして、私の姉という人が彼らにしたことが私が思った以上に取り返しのつかない真似だったということも…

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ちょっとした悪知恵だった。

一刀たちが姉さまと和解したら、姉さまも我々の現状からしてより多くの人材を集めようとするはず。私もまた進言すれば、彼らを孫呉の一員にさせることもできるのではないだろうか。そんなことを思っていた。

でも、思いの外彼らの姉さまに対しての怒りはそれ以前の問題だった。

 

正直よくわからなかった。死んで蘇ったとか、別人になったとか。

でも、姉さまがあの場で彼が死ぬほどの傷を負わせたなら、彼に私たちの一員になって欲しいというのはあまりにも残酷すぎるし、それ以前にそんな話受けてくれるはずもなかった。

結局私彼の傷を抉った以外にはしたことがなかった。

もしかしたら、私と一緒に居るここ三ヶ月間、彼はずっとそう考えていたのかも知れない。

自分を殺しかけた人の妹。怨霊になってでも苦しめたいと思うはずなのに彼は何もしなかった。むしろ彼には色々と助けてもらった。それはとても嬉しいことだった。

でも、少なくとも私はこれ以上を求めることはできなかった。孫呉に来て欲しいとか、私の側にずっと居て欲しいなんて、言えるものじゃなかった。

 

結局、彼とはこうして別れるしかなかった。

 

「蓮華」

「!」

 

その時、門を叩く音がした。

あの声は…一刀なの?

 

「大丈夫か?」

「か、一刀?どうした?今日の勉強会は終わったはずじゃ…」

「……蓮華が心配で来てみた」

 

え、私が……心配?

もしかして、さっきの話、一刀も聞いていたの?

 

「入ってもいい?」

「だ、だめ」

 

それなら、尚更彼の顔見ることなんて出来なかった。

 

「そうか。じゃあ聞くだけでいいからそこでそのまま僕が言うことを聞いてくれ」

 

そして、一刀は話を始めた。

 

「雛里ちゃんの話を聞いて驚いたかと思う。でも雛里ちゃんの言う通り、僕はあの場で孫策に殺されていた。だけど、それは孫策本人の意志でやったわけではない。あの時期の僕はある妖剣を持っていて君の姉はその妖剣に取り憑かれていた。その妖剣は、人を殺すことしか考えられないようにする力があったから孫策も自分がしたくて僕を殺したわけではない」

「だからって何が変わるのよ。姉さまがあなたを殺したことには代わりないじゃない」

「でも僕はこうして生きてる。蓮華はそれで十分と思わないか?」

 

……どういうこと?

 

「確かにあの時の僕は死んだ。それは確かだよ。だけどその後僕は再び生を得た。たとえ違う体に違う性格だとしても、僕は北郷一刀だ。彼が持っていた感情と記憶が僕にもある。だから僕には解る。僕は、孫策が僕を殺したからと言って、彼女や蓮華を恨んでなんていない」

「一刀……」

「僕がただ孫策に許せないのは、孫策が自分たちが正義だと示すために多くの人々を殺したこと。僕はそんな孫策のやり方が正しくないと思った。孫策が自分の正しさを示すために罪なき人を殺し続けるのなら、僕は何をしてでも彼女を止める。だけど、だからって僕が孫呉の再興を望まないとは思わないで欲しい。僕はただ孫策のやり方で建った孫呉は、また彼女のやり方で大きな犠牲を起こすことが見たくないだけだ。だから僕は蓮華、お前に賭けたいと思った」

「私に…賭ける?」

「そう、百合さん…諸葛子瑜さんや、見てはないけど孫策が率いる孫呉の軍を去った魯子敬も同じことを言っていた。蓮華が居る孫呉ならいけると、蓮華が長に立つ孫呉なら快く仕えることが出来るって…そして僕も蓮華を見てその人たちと同じ気持ちになった。蓮華は今はこうして軟禁されている身だけど、知らないところで多くの人々に期待されているんだよ」

 

私が、姉さまを抜いて孫呉を率いる長になる?

ありえない……

でも…待って、それって。

 

「一刀、それじゃあ、もし私がこれから姉さまの元に帰ることになったら、孫呉に来てくれる?」

「………」

 

ほんのちょっとの願望だった。

今までこんなに必死に何かを求めたことなんてなかった。

 

「あなたが姉さまに対してどう思ってるかはわかっているわ。でも私にとって姉さま誰よりも孫呉の長の座にふさわしい人よ。だから、私は孫呉の長になることはできない。でも、あなたがそんなに私に期待してくれているのなら、せめて私と一緒に孫呉に居て頂戴。それなら私も頑張れるから。私も孫呉があなたが思っているような国になり果てないように頑張ってみるから。だから私の側で力になってほしいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

「一刀…今なんて」

「分かったって言ったんだ。蓮華は孫呉に戻ることになったら、僕も孫呉に…いや、蓮華に仕官する」

 

……

 

蓮華、

 

これからあなたがすることは、あなた自分の意志じゃないわ。

きっと五胡の妖術使いがあなたを嵌めようとあなたの体を操っているに違いない。

 

「…!蓮華」

「一刀…!」

 

門を開けた途端、私は目の前に立っている一刀を抱きしめた。

 

「ありがとう……ありがとう………一刀」

「……蓮華」

 

一緒に居てくれる…今直ぐでもなく、何年後になるかも知れない後ほどのことを約束しただけ。

なのにそれだけでも嬉しかった。

彼の口で、また逢えると言われただけで嬉しくて涙が止まらなくなっていた。

 

「一刀……一刀………」

「…………」

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀SIDE

 

「いてて……倉のやつ…容赦なく叩きやがったな……後で覚えてろよ…」

 

倉の機嫌を損ねてフルボッコにされてから僕は雛里ちゃんの部屋に戻ってきた。

さっき見ていたら、水鏡先生当てに手紙を書いていた。

僕からも少し報告したかったので、僕の分もかいて欲しいと言うつもりだった。

 

「……そんな話が信じられるか…!!」

 

そしたら、部屋の中から蓮華の声が聞こえて、僕は門を開けようとする手を止めた。

蓮華の声には熱が上がっていた。怒っている?

 

「私の目で見たことです……想像つきますか?目の前で愛していた人が人の手に殺される場面を見られた気持ち」

 

!!

 

雛里ちゃん…何を話してるんだ。

 

「一刀さんが死ぬ前の日、私は一刀さんの告白を断ってました。急すぎたせいもあったけど、それ以前に怖かったんです。突然人にあんなに迫られたことがなかったものですから……でも、今じゃあの時あの告白を受けなかったことが今までで一番後悔する事です。結局、一刀さんの死んだ体に言うしかなかったんです。好きだって…愛してるって……」

 

…………

 

「そんな愛してる人を殺した人、そしてその妹。孫権は自分の母である文台さんを殺した甘寧さんを許したつもりでしょうけど、もし孫権さんが文台さまの死を目の前で見ていたら、甘寧さんを見た瞬間持っていた剣を振るってなかったと自信できますか?」

 

やめろ、雛里ちゃん。

 

「そしては、死んだ彼とは『まったく違う人』が私の前に居たんです。顔も性格も何もかも違う人…ただ私を好きだと言ってくれることだけが同じな一刀さん。

でも、孫策さんが殺した私の一刀さんは、もう二度と戻ってきません。だから、私はあなたちのこと、絶対に許しません」

 

………

 

やがて門が激しく開かれて、孫権が顔を赤くして出て行った。

続いて門を締めるために門に近づいてきた雛里ちゃんが、門の側に立っていた僕を見て顔を白くした。

 

「…一刀さん」

「………どうして、孫策が『僕を殺した』って話した?」

 

顔の表情一つ変えずにそう聞いた。

雛里ちゃんは今まで一度も、変わった僕のことについて言ったことがなかった。

雛里ちゃんは、初めて僕が『今の僕』になった時『私を愛してくれる人なら、その人が私も愛してる人だ』。そう言ってくれた。

僕はそれで雛里ちゃんが僕を認めてくれているのだと思っていた。

 

「……一刀さん、私は…」

「話した?」

 

でも違った。

雛里ちゃんにとって北郷一刀という男は、雛里ちゃんが愛していた男は一年前孫策との戦いで戦死した。

僕は……雛里ちゃんにとって『北郷一刀』のかわり者なだけだ。僕は彼女にとって『北郷一刀』には成れない。

 

「……ごめんなさい…怒らないでください」

 

怒る?

まさか、僕にそんなことできるはずもない。

僕は雛里ちゃんのことが大好きなんだ。そうなるように『造られてる』のだから…

 

「それが理由なの?」

「………」

「僕が孫策に一度殺されたことが、そんなに孫権と孫策を許せない『雛里』ちゃんの理由なの?」

「………」

「じゃあ、今雛里ちゃんの前に立ってる僕は誰?……ただ名前だけ貸してる別人?」

「そんなんじゃないです!」

「じゃあ何だよ!」

「!」

 

僕だって今ここに来るまで迷わなかったわけじゃない。

雛里ちゃんに僕の存在はなんなのかいつも自分に問いただしてきた。

僕は本当に北郷一刀なのか?僕と、あそこで死んだ北郷一刀、雛里ちゃんにとって同じ北郷一刀なのか?僕は『北郷一刀』?それとも、ただの『二号』?

 

「僕は誰だよ……僕は北郷一刀じゃないのか?私の心からお前を愛しちゃいけなかったのか?」

 

いつも僕自身のどこかがおかしいということは知っていた。

いつも雛里ちゃんのことばかり考えていた。雛里ちゃんが愛おしくて仕方なくて、いつも雛里ちゃんの姿だけを見ていたかった。

ふと考えれば、僕は正常の人間の思考をしていなかった。

僕の存在は、まるで雛里ちゃんのためだけで生まれたかのように、常に彼女を中心に動いていた。

僕にとって、雛里ちゃんは存在意義であって、存在そのものだった。

怖い時もあった。もしこの感情が嘘だったら?この度を過ぎている感情が、実は僕の意志でなく、前代の僕の存在から受け継いだただの強迫観念だとしたら…

それでも良い。それが僕の在り方なら、それでも構わないと…雛里ちゃんに愛されることができるのであれば、たとえ偽りの感情だとしてもその感情に頼っていきようと思った。

 

でも、そんな彼女に存在を否定されてしまったら、僕は一体どうすれば良い。

そうだとしても、僕はそれでも彼女のことを見続けなければならない。なぜならそれが、((僕|北郷一刀))なのだから………

 

…………?

 

 

 

 

嫌。

 

嫌、そんなの嫌だ。

もうそんな『嘘』に塗れた生を生きたくない。

 

僕だって……僕だって僕という人で居たい。

人間なら、たった一人の人間に存在を定められたりなんかしない。

 

「………」

「一刀さん!」

 

体が振り向こうとする。

体だけじゃない。心も、彼女の声に耳を傾けろと言っている。

だけど態とそれに反する行動を取ろうとした。

気づいてしまった。

まるで僕の中にもう一人の僕が…あの戦いで死んだ『北郷一刀』の亡霊が取り憑いて、僕はそいつの意志通りに動くからくり人形のように覚えてきた。

僕は僕の意志で雛里ちゃんを愛していたと思ったのに、実は違ったのだ。

それは嫌だった。

僕が今まで実は好きでもない女の子に、愛してると囁いたり、キスをしたり、愛してると言われただけで頭がぼぉーっとしていたとしたら…僕は、僕は……

 

「愛してます!」

「!!」

「一刀さん、こっち向いてください。…私が悪かったです。謝りますから……いつもみたいにキスしてください。愛してるって言ってください」

 

………!!

 

僕は……

 

「ごめん、雛里ちゃん」

「……一刀さん?」

「僕は君が想ってる『北郷一刀』じゃない。だから、僕にそれ以上『彼』を求めないでくれ」

 

僕は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「一刀…!一刀、しっかりして!」

「一刀さん!」

 

僕は……誰だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

「一刀さん…」

「分かってる。ちょっと恐いよね。これって人の常識遙かに越えてる……。でも雛里ちゃん、こう考えてみて。流星と共に落ちた人があるのに…自分の傷をすごく早くスピードで癒せる能力を持っていたところで……それほどおかしくないんじゃないかな」

「…………一刀さんって…本当に『人』なんですか?」

「…さぁね…分からないよ……雛里ちゃんはどう思う?」

 

 

「……一刀さん」

「うん?」

「……私のこと…好きですか?」

「………言ったでしょ?愛してるって」

 

……

それじゃ…

それじゃ、ですね。

 

「構いません」

「……え?」

「一刀さんがどんな人でも…人じゃなくても別にどうでも良いです……私を愛してるって言ってくれる人なら…」

「………」

「……そして、」

 

 

「私が愛してる人……です」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

この上が問題の場面になっています。(※二代一刀登場直後の幕間、ある日2から)

 

今回の一刀の爆発は実は雛里ちゃんと二人の間に無言で話し合うことを拒否していたこと、つまり、孫策に殺された一刀(一代)と姿が変わった一刀(二代)に対して雛里ちゃんがどう思っているか、そしてそれについて一刀がどうおもっているのかという問題です。

 

先ず、一刀(二代)においては自分は最初から一刀(一代)なんてなかったみたいな感じになってます。でも、雛里ちゃんに告白したのも、彼女が愛していたのも実は自分ではなく以前の一刀(一代)なのではないのかという矛盾の中にあります。

 

雛里ちゃんの場合本文にあったように一度孫策が一刀(一代)を殺したことを理由で、孫権とこれ以上なじむことを拒みます。でもそれ以前に今回雛里はんが孫権にあの話をしたのは、恋敵にもなりうる孫権を完全に排除するための策だったのでしょ。

でも、これは一刀(二代)から思えば悲しいことです。自分がここに居るのに、雛里ちゃんが『一刀さんを殺した孫策と孫家の人たちなんて許せない』と言っていたら、自分の存在が否定されるようなものです。

あの雛里ちゃんの発言によって、一刀h雛里ちゃんが『一刀は死んだ』という認識を持っていると思いました。でもそうなると自分の存在が危うくなります。

 

裏設定ですが、実際一代に比べてより感情の起伏が激しい二代一刀の感情は死んだ一代に影響されているものがあります。故に、二代自分も自分の思考が、実は自分が思う通りにいってないと思う時があるのです。雛里ちゃんに好きと言われて頭がショートするとかがその例です。

 

二代一刀のこんな考えは、やがて本当は自分たちは互いに愛していないのではないのかという考えにまで至ります。

二代一刀自身は自分が雛里ちゃんが好きだと思っているのが自分の意志とは関係なく一代がそうであったからそうなっただけ、と考えます。また雛里ちゃんの場合も、一代から蘇ったのが二代の自分だから実は自分が愛した一刀はもう死んだけど、二代一刀を代わり者にしているのだと思ってしまいます。

こうなったら今までこの二人がしていたのは恋もなんでもなくなります。

 

 

 

結果的に、一刀は精神的ショックが強すぎて倒れてしまいます。

最後に蓮華の告白に近い申し出を受けてしまう一刀(二代)の必死さが伝わればいいのですが、まぁどうせアレですしね。脳内設定ですしね。

下篇は消化ターンになります。

おまけに倉ちゃんの真名も発表するとしましょう。

コメントの中で気に入るものがあったのでそれを使わせて頂きます。

実は自分はまんまと愛火(あいか)とか考えていました。

愛はあとで愛紗さんと絡め用と思ってつけたんですけど、まぁ、今考えると別にどっちでもいいじゃん?と思ったので、コメントの中にあったアレで行きます。

 

では、後編は……金曜日まで完成させるのを目標にしましょう。

頑張ります。

 

MM理論なんていらねー…

 

ノシノシ

 

 


 
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