魔女の気配を感じ取った魔法少女らが、魔女と戦っていた。
「はぁ!」
何度も、爆発と何かのちぎれる音がその場に木霊する。それと共に少女たちの声が駆け巡る。最初は激しかった音がしたが、徐々にその音が消えていく。
そして、その結果は魔法少女の勝利で終わりを告げる。それは魔女の敗北を意味する。
その証として、地面へとグリフシードが音もなく落下した。
「ふぅ……これで大丈夫ですよね?」
少女が、グリフシードを拾うと少女と共に戦ったそのものに振り返る。それ以外には誰もいない。
「そうね、“大丈夫”じゃないかしらね」
そのものが答えると笑う。その笑い顔には邪気が一転もなく、きれいな笑い顔であった。その評定に少女は安堵した。
「……どうかしたんですか?」
だけど、ただ一点だけそのものに不審を感じたのか、少女が尋ねた。
「どうしてそんなことをいうのかしら?」
そのものは表情を変えない。
「だって、だったらなんで“まだそのマスケットを構えている”んですか?」
少女の言葉通り、そのものは左手でマスケットを支え右手でいつでもトリガーを引けるようにしていた。
「それはね……!」
そのものの言葉が甲高いパンという音でかき消される。
「えっ!?」
少女にはそれがなぜ起きたのかわからないという表情をした。
「ふふふ」
その姿をみて、そのものから笑みがこぼれる。
「どう……して?」
少女が苦しそうに片膝をつくとそうつぶやく。
少女の左肩から少女の服を赤く染める血が流れていた。左肩を抑える右手の指の隙間から赤く染まっていて、血の流れを止めることが出来ていなかった。
そのものの手に握られたマスケットからは、白煙が空へと上がる。
「どうしてなんですか、“ ”!」
少女がそのものの名前を呼ぶ。
「……」
少女の問いにそのものは答えない。
「ふふ」
そのものはその場で一回転をすると、さらにその場に大量のマスケットを召喚する。その数は30を軽く超えていた。
そのものは照準を少女に合わせようとしゃがみ込むとサイトを覗く。
マスケット銃の音が響き渡ると、少女の右足にはその痕跡があらわれた。そこから、赤い血が勢い良く飛び散る。
「や、やめてください! どうして、どうしてこんなことをするんですか! 教えてくれたのはあなたなのに! あなたは私たちの先輩のはずなのに!」
少女が痛みに耐えかねてもう片方の膝もつく。そして、少しでもマスケットの射程距離から離れようと、撃たれた足を引きずりながら後退していく。傷口から流れる血は少しずつ弱くなっていくが、傷口を完全に止めることは少女の残る魔力ではすることができなかった。移動の影響で少女の白かった服が赤く染まっていく。それは服の装飾であったかのように、赤と白の縞模様が出来上がる。
「どこいくの?」
そのものがその場を軸にするとすばやくマスケットを拾っては撃ち、拾っては撃ちと5回の銃声が鳴り響く。
「くぅ……!」
5回の銃声は少女を的から外すことはなかった。両手首、お腹、右肩、右足。
そこから、血が少女を赤く染め上げる。さらなる追撃を受けた少女は口を食いしばりながら、足に鞭をうち動かす。
後ろへ、ただまっすぐ。少しずつ確実に距離をとろうとする。
「……」
やはりそのものは答えない。
答えようとしない。ただ、狙いをつける。サイトを覗く。
的は外さない。
本来狙うはずの魔女はそこにいない。
その的は、魔女ではなく“少女本体”。
覗いてしまえば、後はトリガーを引くという作業を残すのみ。その作業はサイトを覗いて的に狙いをつけるよりも数倍早い動作で行える。
「はぁ……はぁ……痛みが止まらない……、魔女との戦闘に力を使いすぎたから……? それともあの人の能力!?」
少女が動く。それから逃げるように。少女が発する声には必死さしかなく、余裕は感じられない。
――少女は知っていた。
例え、後ろへ後退したとしてもそのものの射程外へいくのはこの足では無理だと。それに少女と違って、そのものの両手足とも目立った負傷はどこにも見当たらない。だから、逃げたとしても追いついてしまう。
だけど、少女はそうするしかなかった。目の前の恐怖から逃げるために足を動かす。
「……はっ!」
そのものが声を発すると少女にむけて胸から何かを飛ばした。
それは避けられることなく少女へと辿り着く。
まるで最初からそこにあったかのように。
――黄色いリボン。
黄色いリボンが少女の左足に取り付き咲いた。
「えっ!?」
そこからのことは一瞬であった。
少女の左足に咲いたリボンからヒモが一斉に少女の身動きを封じるために動く。
それは植物の根のように少女の身体を絡めとる。
「こ、これは、リボン!? と、とれない」
少女は、身体に絡まるリボンを解こうとするができなかった。動けば動くほどよりそれは強くなっていく印象を少女は感じて焦り始めた。
それは、少女がこのあとに起こることを知っていたからだ。
――動けない標的がどうなるか。
射的の的がなぜ動かないのか……、それは撃ち落とされるためにそこに置かれているからだ。
ならば、魔法少女が魔女を封じ込めるために使う魔法はなんのためにあるのだろうか。
――そう、それは魔女を倒すため。
敵を倒すために、動きを封じるのだ。
つまり、動きを封じられた少女がまつ運命を少女は必死に回避しようと試みていた。
「くっ……!?」
右手、右足、左手、左足と完全にリボンが少女の動きを封じ身体に巻き付く。その頃には少女は地面に仰向けに倒れていた。
そのもの頭を差し出すように。その姿は一見すると、芋虫のようにみえる。
「……あなたは、私のエサだったのよ。いえ、“私たちの”」
そのものがそういうと、足元にさらに大量のマスケットを召喚する。打ち終えていたマスケットは既に魔法で消失済みであるようで、近くに落ちていなかった。
「ね、“シャルロッテ”ちゃん」
そのものが、少女ではない何かにそう話す。その目線は、少女の後ろの方に向けられいた。
「……?」
少女がゆっくりと後ろを振り返ると、ピンク色の長い耳をもった人形のような形をした生き物がピタピタとかわいい音をたててこちらに歩いてくるのが見えた。口元には何か茶色い液体がよだれのようについている。
「えっ!?」
それは、魔女と呼ばれる存在だった。
少女たちが倒した魔女とはまた別の魔女。
「どうして、ここに魔女がいるの……!? 魔女は倒したはず! ま、まさかそんなことは……」
少女がまわりを見渡す。まわりは先程と同じ魔女の結界の中であった。
魔女。それは不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみといった禍の種を世界にもたらす存在。
そして、魔法少女が倒すべき敵。
少女は気づくべきだった。
なぜ、魔女を倒したのに魔女の結界がなくらならないのかを。
「……!」
シャルロッテと呼ばれた魔女は、口を開けると何かを話すかのように口元を動かす。
「……えっ!?」
でも、それは少女には何を言っているのか聞き取れなかった。むしろ、何かの音が出るのか今の少女には判断する力さえ残っていなかった。
「そうね、“そうしましょ”」
そのものには声が聞こえているのか、手に持っていたマスケットを少女へと向ける。
「ね、やめましょう? 私たち魔法少女は……ぅ!?」
1発、2発、3発とそのものの足元に存在するマスケットが少女へ次々と放たれる。
それと共に少女から声が痛覚を感じさせる声が発せられる。
「はぁ……はぁ……」
発砲が終わった時、少女の足元には赤い貯まりが存在していた。
血溜まり。
それは、少女の身体からそこに流れ落ちる。黄色かったリボンの拘束ももう血で黒く濁っていた。
「あ、ぐっぅぅぅ!」
少女の悲鳴が一瞬その場に響き渡ると、もう少女の声がそこで聞こえることはなかった。
「……ふぅ」
少女の身体が一定のリズムでビクンと痙攣を繰り返す。それをみたそのものは、少女をリボンで空中に上げると地面へと何度も叩きつける。
「はぁ!」
そして、確かめるようにその動きを止める。
少女の痙攣が止まっていることを確認すると、
「ふふ、これで大丈夫」
とつぶやき、少女だったものを地面へと下ろした。
「ね。……シャルロッテちゃん?」
そのものがふりかえると、嬉しいのか一度ジャンプをしてシャルロッテと呼ばれた魔女が少女に向かって歩き出す。その歩く音は人とは違い何かビーズが落ちたかのような音をしていた。
「……ぁむ」
ただ、むしゃむしゃと何かを噛み砕く音だけが響き渡る。
「……?」
口元を赤く染めたそのものが何かを発見したのか、
「かかかか」
と、声にならない声で笑った。
――チーズはまだ見つからない。
☓ ☓ ☓
「ぁむ……」
水色のパーカーを羽織った佐倉杏子が、公園の看板に寄りかかりながらポッキーを頬張るように食べていた。それとともにサクサクとスナック菓子特有の音が鳴る。子供がそれを覗いて、ほしそうな顔をちらつかせていたが、杏子が見つめると逃げてしまった。
「はぁ……」
杏子が虚しく溜息をつく。内心では、驚かすつもりも睨みつける気もなかったと感じていたが、すぐにどうでもいいやと開き直っていた。その隣には食べ終わったと思われる食べ物の残骸が積み重なっていた。
数にして、10箱。およそ20cmものさし程度まで積まれていた。
中身がなくなってきた菓子袋を上下に揺らし、残りの食べ残しも左手に出すとぺろりと舐める。
「……あ」
その顔はまだ足りないと嘆いていた。
とはいっても、杏子のもっていた食べ物はそれで全てで、ポケットを何回も調べても何も出てこなかった。当然、それが最初入っていた白い袋には何もない。
「はぁ……」
お菓子もなくなったので、杏子は景色を見ることにした。他に時間を潰すものがここにも何もないからだ。雲がゆっくりと空を流れている。そこに絶望はなく、どちらかといえば希望があるように見える。
視線を下に戻すと目に入るのは、学生。
杏子はそれをつまらなそうな目で学生の通行を見つめる。男子生徒、女子生徒数多くの人が歩いている。それ自体に興味はまるでなかった。興味があるのはただひとつ。
――とある少女。
歩いてくる学生に探している少女はいなかった。
時刻は、16時。
学生の幾人かは帰宅する時間帯であり、杏子はある人物を探していた。その人物はだいたい同じ時間に帰宅する。大抵は、ピンク色の髪を持った少女か、緑色の髪の色をした少女と一緒に帰っている。
探している少女の髪の毛は青髪のショートカット。
性格は少し生意気で、でも本当はすごく優しい娘。
名前は、美樹さやか。
そして、かつてこうあろうとした自分を思い出させてくれる娘。だからこそ、杏子はさやかの現状を守ろうと思っていた。
“魔法少女”として。
「あ……!?」
その娘を発見して、おもわず杏子から言葉が溢れる。その声は陽気で心の中がそのままあらわれているようであった。
青髪の少女、さやかが坂上の通路奥から歩いてくる。友達は近くにおらず、一人で空を眺めるように公園と向かって歩いている。その顔はどこか退屈そうでたまにあくびをしていた。それを見て、くすりと杏子がにやけていた。
その坂道は、学校からさやかの家までの通行道でいつもさやかはこの坂道を使っていた。坂を登れば学校に続く道へとつながっている。他の生徒や先生等も使っているようで、道としてはかなりきちんと整備されていて小さな子どもや、年寄りも歩くのに苦労しない。
だからこそ、こういう中間地点のような公園も置かれていた。そこをいつも杏子はさやかを待つ拠点として陣取っていた。
「さーやか。学校終わったのか?」
公園の看板に寄りかかっていた杏子がさやかの近くまで飛び跳ねると、そう話す。その距離三メートルといったところか。さやか以外が見たらそれは驚く距離だ。幅跳びの大会に出たら、おそらく入賞できる程度であろう。
そのことを注意しても直そうとしないことをさやかは何度も経験していて知っていた。だからこそ、さやかは「はぁ」とため息をつくだけで何もそれについてコメントしない。
「……あ」
さやかははじめてさやかがそれを見たときは驚いて、腰を抜かしそうになったのを思い出して少しし顔を赤くした。
とはいっても、最近は“暁美ほむら”というもう一人の超人のような人間を見ているせいか、さやかは杏子のそれを不思議に感じることが少なくなってきていた。
暁美ほむらは転校生で、心臓が弱いと言われていたはずだが勉強はできるし、運動もできた。そして、ほむらには秘密があった。
――それは、佐倉杏子と同じ魔法少女であること。それにまどかが追われていたため、さやか自身はほむらに対してあまりいい印象を持っていなかった。どちらかといえば、嫌いともいえた。
「ん? どうかした?」
さやかがそんなことを考えてることも知りもしない杏子が尋ねる。
「いや、終わったところだけど。あんたにそれが何か関係あるの?」
さやかが目を細めるとそういった。さやかには興味がなかった。さやかはいつも通り病院に行く予定があるだけで他に特別な用事はなかった。
帰る途中に、杏子がいようといまいとさやかの予定は何も変わらない。
「ん、いや関係ないけどさ」
「そうだ……、あんたさぁ、少女失踪事件って知ってる?」
さやかが心配そうに杏子にそういう。それは学校で先生が話していたことだった。
若い少女が、毎日1人ずついなくなっていること。見つかるのはその少女の血か、衣服のみ。警察は事件だと判断し、調査しているが何もつかめていない。
各自注意するとのことで、親御宛の連絡紙ももらっていた。
「なにそれ、おもしろいのか?」
「はぁ……、あんたさ、もう少し世間を知っておきなよ。あたしがいえたことじゃないのはわかってるけどさ」
ある意味予想をしていた答えだったためか、頭を抑えたさやかがため息をつく。
「別にアタシは興味ないし、これからなんてどうでもいいさ。それに……」
杏子がさやかを見つめる。
「そ、それに何よ?」
その視線があまりに直線的に見つめてきたのでさやかが顔を赤らめると慌てて目をそらした。
「別になんでもねーよ。それよりもゲーセンいこーぜ、さやか」
杏子がさやかの右手を引くと、坂を下ると走りだす。
「ちょ、ちょっと待って、引っ張んなくてもいくからさ!」
それに合わせるかのようにさやかも走りだす。その顔は言葉とは裏腹に笑っていた。
☓ ☓ ☓
「へぇ、相変わらず、うまいね。それもむかつくくらいに」
様々なゲーム音や、雑音が混じったゲームセンターで杏子のゲームプレイを見た感想をさやかが皮肉を言いたそうな顔でそういう。
「さやかもそういわずにやればいいじゃない? ほら隣空いてるしさ」
ゲームのステージが終わったのか杏子がさやかの方を振り返る。そのプレイ画面には、パーフェクトとかかれており、ミスが1つもないことを表していた。
「あたしは、そういうの得意じゃない。どっちかというと聞く専門かな。ってかあんたの隣でやったら、あたしが比較対象最悪すぎて、残念娘じゃない?」
「そうだけどさ。聞くって、恭介ってやつのヴァイオリンかい?」
杏子が足で次に何の曲を遊ぶかを選ぶ。
「そ、それはもう聞けないんだよ。言っただろ、恭介は左手がもう……」
さやかが下をうつむく。
「そうだったな。でも、聞くだけじゃつまらなくない?」
新しいステージに入った杏子が踊りながらそういう。その動きは洗練されており、パフォーマーと呼べるものであった。
「そんなことはないよ、あたしはそうやって恭介と一緒にさ……」
「恭介か……」
ゲームが終わったのか杏子の動きが止まる。
「ん、どうしたの? いつもはパーフェクトなのに」
さやかが見つめるゲーム画面では、ミスが大量にかかれており、『NOT CLEAR』と表示されていた。
「いや、別になんでもないさ」
杏子がつまらなそうな顔をすると、ゲーム台から降りる。
「あ、ごめん。もう時間だからいくね」
うで時計をみたさやかはかばんを肩にかけると
「じゃあね」
そういって、ゲームセンターの入り口で一回手を振ると杏子の元を去っていった。
「恭介か……」
それを悲しそうに見つめる杏子だけがそこにいた。
「……」
☓ ☓ ☓
あたしはいつもの時間通り恭介の病室にいた。これがあたしの日課であり、唯一の祝福のときなのかもしれない。
「……」
でも、恋人のような進展もなく“ただの友達”として過ごす。
あたしは、本当はどうしたいかなんて考えたことない。
――いや、考えないようにしている。
だからこそ、あたしは普段通りに会話するだけ、京介が辛くないよう、音楽に少しでも触れていられるよう。あたしは恭介の奏でる音楽が好きだから。
「……」
でも、ここはいつもと違って沈黙が支配していた。
いつもはあたしを恭介は見てくれている。でも、今日はずっと窓の外を見ていた。それは、どこか寂しさを感じる。空は夕日で赤く染まっていた。
恭介、やっぱり……。
「何を聴いてるの?」
沈黙をあたしは耐え切れなかった。だから、イヤホンで耳を塞ぐ恭介に話しかける。
そう、これはあたしのわがまま。聞こえていないかもしれないし、聞こえているかもしれない。
もしかしたら、音楽聞くの邪魔しちゃうかもしれないから怒るかもしれない。
「……『亜麻色の髪の乙女』」
恭介が、ポツリと小さい声で答えた。
よかった。聞こえてたんだ。
恭介は相変わらず、部屋に入った時と変わらず外を眺めてる。
そこに何かあるのだろうか。夕日だけがあたしには見える。
「ああ、ドビュッシー? 素敵な曲だよね」
確か、そんな曲だった気がする。最近は、聞いてないなぁ。
「あ、あたしってほら、こんなんだからさ、クラシックなんて聴く柄じゃないだろってみんなが思うみたいでさ」
恥ずかしくて頭をかく。でも、話すのをやめない。やめたら、また沈黙がこの場を支配してしまう気がするから。そうしたくない。
「たまに曲名とか言い当てたら、すごい驚かれるんだよね。意外すぎて尊敬されたりしてさ」
恭介は、動かない。聞いてるかもわからない。でも、あたしは声を出すのを止めなかった。
「恭介が教えてくれたから、でなきゃあたし、こういう音楽ちゃんと聴こうと思うきっかけなんて、多分一生なかっただろうし……」
「さやかはさぁ……」
あたしの声を遮るように恭介がつぶやく。
「え、何?」
「さやかは、僕を苛めてるのかい?」
低い声で恭介があたしにそういった。
「えっ……」
「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ。嫌がらせのつもりなのか?」
恭介がイヤホンを外して、冷たい目であたしを睨みつける。
「だって、それは……。恭介、音楽好きだから」
だから、あたしは暇なときにいろんなCDとか探し回っている……。
「もう聴きたくなんかないんだよ! 自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて。僕は……僕は……っ! さやかにはわからないんだ、僕の気持ちなんて!」
その言葉と共に恭介は自分の左手を動いているCDプレイヤーにぶつけた。回転しているCDに巻き込まれて恭介の左手から血が飛び散った。
「やめて!」
恭介の動きを抑える。これ以上自分を傷つけないで。
「動かないんだ……もう、痛みさえ感じない。こんな手なんてっ! 血が出てるだろ? でも、それだけなんだよ。痛みも何もない。ただ、何かが流れているだけ? 何も感じない自分を気持ち悪いとさえ感じるんだよ!」
絶望した目で、あたしを見つめる。
「大丈夫だよ。きっと何とかなるよ。諦めなければきっと、いつか……」
「諦めろって言われたのさ」
恭介があたしを睨みつける。
「もう演奏は諦めろってさ。先生から直々に言われたよ。今の医学じゃ無理だって、僕の手はもう二度と動かない。奇跡か、魔法でもない限り治らない」
恭介がうつむく。もうここには絶望しかないと語るかのように。
「あるよ」
こんな恭介は見たくなかった。
「え?」
だから、あたしは勢いで言ってしまう。
「奇跡も、魔法も、あるんだよ」
と。
でも、それはあたしのやっと決めた答えだった。それが大変なことはわかっているつもり。
☓ ☓ ☓
学校のチャイムが学校中に鳴り響く。それは終了の鐘で教室のみんなが一斉に騒ぎ出すと、各々かばんをもって教室の外へ出ていった。
部活に行く人、帰る人、寄り道する人とそれぞれだ。
ここにいるほとんどの人は知らないだろう。
この日常が本当は魔法少女と呼ばれる少女が必死に守っていることを。
「まどか、ちょっとマミさんの部屋にいってくるんだけど一緒に来る?」
まどかに聞こえるように大きな声を出す。どうせ、誰も聞かないことだし。みんな自分のことで精一杯だ。それにもう、ほとんど教室内には残っていなかった。
「うーん、ちょっと今日は無理かな。仁美ちゃんにちょっと用事頼まれたから」
鞄の中に教科書とノートをしまい込む。まどかはまだ荷物の整理が終わっていないみたいだ。
「そういえば、仁美は?」
「うーん、なんか先生に呼ばれて、チャイムが鳴った瞬間ぐらいに出ていっちゃったよ?」
「ふーん、そうなんだ」
気づかなかった……。ま、いっか。
「そっか、仁美ならしょうがないね。じゃぁ、また明日ね」
まどかに手を振ると、足早に教室を出た。
目的地は、マミさんの部屋。
あたしは決めてしまった。魔法少女にあたしはなる。
この後、マミさんにそう話す。奇跡と魔法でしか治せないならあたしがそうするしかない。それをする現実が今、目の前にぶら下がっている。だけど、それをつかんでしまえばあたしは普通の日常へと戻れない。
魔法少女として、魔女を倒す毎日が始まる。
――マミさんと一緒に。
マミさんとの出会いは、そうまどかが転校生“暁美ほむら”に絡まれたときだった。無我夢中で転校生からまどかを守ろうとして走ったら、あの空間。魔女の結界と呼ばれる、魔女が支配する世界にいたんだ。そこでマミさんがあたしたちを助けてくれた。そして、あたしたちは魔法少女ということと、魔女という存在、魔法少女になると奇跡が叶う。
そして、その見返りとして魔女として戦わなければいけないことを知った。
怖くない。そう言いたいけど、本当は恐い。でも、それはきっとマミさんの手助けになる。こんなあたしでも人の役に立つ日がくるんだ。
「ふぅ……よし」
顔を叩く。少し気合が入った気がする。
恭介のために、あたしは魔法少女になる。
別にそれはあいつに頼まれてやるわけじゃない。
全ては、あたしのため。恭介の引くヴァイオリンがもう一度聞きたい、ただそれだけ。
気がついたら、屋上に来ていた。
――あれれ、おかしいな。どうしてだろう。
大きく息を吸うと、ここからみえる世界を見つめる。何事も無く歩く人、動く車、飛ぶ鳥……。これは表の世界で、あたしたちが知らない裏の世界が存在している。心ではわかってるけど、身体は正直ってやつなのかもしれない。
銀色のフェンスを掴むと、反発するようにあたしの指を押し上げる。
「まどか……」
学校からまどかが走っていくのをみつけた。学校の門に仁美が立っている。きっと、待ち合わせていたんだろう。
まどかとは、もう別の道を歩いていくことになる。
「……」
――まどかにこのことは相談しなかった。
あの娘は関係ない。そうあたしが叶えたい夢があるだけ。
「よし、いこう」
かばんを強く握り締めると一歩前へ歩き始める。マミさんの部屋までそう遠くない。
――それが……、あたしが、あたしといられた最後の時であった。
☓ ☓ ☓
「はぁぁぁ!」
群がる使い魔を斬りつける。何度も何度も。それは空から、地中から空間どこからでも現れる。魔女の結界内にいるのだから、当然といえば当然であろう。あたしにとって、魔女が敵であるように、魔女たちにとってあたしは敵。だからこそ、こうして、魔女の元へと行かせないようにする。
「ぐぅぅぅ」
あたしはマミさんと一緒に魔女の結界内へと突入していた。学校の帰りにマミさんが魔女の気配に気づいてやってきたわけだ。まどかは、ちょうどよくあたしと行動を別にしていた。正直、良かったと思っている。こんなヘタクソな戦いをするあたしを見せたくなかった。それでなくても、もうまどかはこういう場所に連れてきたくない。
――せっかく一度友だちを救うことができたんだ。
そこにもう一度手を引くことはあたしにはできない。でも、あの娘はそんなことを望んでないかもしれない。魔法少女になった姿をみたまどかは、すごい顔していた。でも、『ありがとう。私二人のこと応援しているからね』と納得してくれたように話してくれた。
そのときが、あたしが初めての魔法少女としての仕事だった。その結果として、魔女の口づけをされた仁美とそれを追いかけていたまどかを救った。それだけでも、あたしは魔法少女になってよかったと感じた。
まどかとそれからの付き合い方も変わらない。魔法少女になる前のあたしと同じようにまどかは接してくれた。あたしがいる世界をあの娘は守っていてくれているような気がして、あたしは嬉しかった。
だから、この空間にはマミさんとあたししかいない。
……転校生はもしかしたら、どこかにいるかもしれないがそんなことを考える余裕はない。使い魔があたしたちの進行を食い止めようと襲いかかる。それをあたしは斬り、マミさんが撃つ。
前衛と後衛という立場だ。
「へや!」
使い魔が一点に集まるのを予測し、そこに飛び込む。それは先程使い魔が攻撃したパターンであった。この予測は見事に的中し、20体ほどの使い魔を一度に撃破できた。
行動が分かれば、あとはあたしにもできる簡単なこと。
長剣を振るう。時に投げ、相手を切り裂くあたしの武器。マミさんと違って、直接近づく必要が多い武器だけどあたしの動きに合わせるのに適していた。深いことを考えず、ただ振ればいい。そうするだけで、倒すことができる。
「ふぅ……」
このあたりの敵はあらかた倒したかな。あたしもやればできるもんだ。ふぅと息を吐き出す。
「美樹さん、後ろ!」
「後ろ? うわぁ」
マミさんの声に反応し、後ろを振り返ると目の前に使い魔が鎌で振りかざそうとしているその瞬間であった。
「……あっ」
それを避けることは無理であった。身体が、手が、右手が動かない。それが徐々にあたしに近づいてくる。それは、スローモーションで何秒にも感じられる。
――ここで死んでしまう。
脳裏にそれがよぎった。走馬灯って、こういうことをいうのかな……?
「っ!?」
だが、その鎌はあたしの首にぶつかる寸前に消滅した。使い魔本体と共に。
「大丈夫?」
その消滅する向こう側にマミさんがマスケットでこちらに向けていた。
そのマスケットは、白い白煙をあげている。あたしに攻撃がこなかったのはマミさんが補助してくれたからだと思う。また、やってしまった。どうしてだか、一度倒すと安心感に包まれてぼーとしてしまう。癖ではないが、なぜかそうしてしまう。きっと慣れていないだけなんだと思いたい。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
勢いよく頭を下げる。恥ずかしかった。そうしてしまうあたしが。だから、声を上げ頭を下げる。
「すみませんでした」
と、マミさんに言った。
「な、何を言っているの美樹さん? ほら、頭をあげて」
マミさんがそんなあたしを見て、瞳を大きくした。
「は、はい!」
マミさんに支えられる形で身体を起こされると、マミさんは笑っていた。すごく優しい顔で。その笑顔に少し後悔と、安心感を得た。
「大丈夫よ。私とあなたはペアなんだから、美樹さんは私が補助するわ」
「で、でもそれじゃぁ……」
それは、あたしが結局マミさんの手助けじゃなくて足を引っ張っているだけだ……。マミさん一人でいけばいい、そう感じてしまう。
「だから、かわりに私を補助してよね」
マミさんがあたしにウィンクした。その言葉はとても嬉しかった。思わずにやけてしまう。
「はい!」
長剣を強く握り締める。今度からはもう失敗しない。あたしはマミさんを補助するんだ。
「じゃぁ、行くわよ。まだ、先にいるみたいよ」
マミさんがまわりを確認すると先に歩いてしまう。あたしも置いていかれないようそれについてく。
その後姿は、すごく眩しくてあたしもこんな人になれるのかって、思ってしまう。
それから、あたしは魔法少女として、一歩一歩前へ進んだ。
とはいっても、マミさんの後ろについていって一緒に戦っているだけだけど。
やっぱ、マミさんはすごいと思う。
あたしなんかと比べものにならない。そもそも、比較できないや。
あたしが足を引っ張っている。でも、そんなことをマミさんは一言も言わない。強くならなきゃ!『マミさんの後輩だ』って胸をはれるように。
「マミさん、これで最後ですか?」
長剣を引き抜くと、魔女の使い魔が消滅する。これで何匹目だろうか。この結界に入ってからもう5度目になろうと思われる襲撃。
いずれも魔女と思われるモノとは遭遇していない。
「そうみたいね。魔女もいないみたいだし」
魔女は今回もいなかった。
使い魔だけ。とはいっても、ボリュームが半端ない。
「そうですか……」
ふぅとさやかが溜息をつくとその場に勢い良く座り込む。
「はぁー、疲れた」
「ふふ、上出来よ」
「そうですか?あたしちゃんとできてますかね?」
「えぇ、これなら私の後輩として紹介できるわ」
「へへへ、そう言われると照れちゃいますね」
さやかが恥ずかしそうに頭をかく。
「さて……帰りましょう。私たちの日常へ」
地面に落ちたグリフシードを拾うと、マミは魔法少女の服装から普通の服へと変わった。それと共に魔女の結界もなくなった。
「結局、魔女今回もいませんでしたね」
最近は、魔女に合わない。使い魔だけ。それも何か都合いいタイミングであらわれる。こちらの様子を伺うように。
魔女は呪いを振りまく存在だ。そんな意味のないことはおそらくしない……はずだ。
「そうね、でも、使い魔だとは言っても頬っておけば人を脅かす害となるわ」
「そうですね!」
「そうだわ、美樹さんに紹介したい娘がいるの」
「紹介? 人ですか?」
「そう、“魔法少女”よ」
そう言って、あたしたちは解散した。魔女の痕跡があればお互い報告しあおうと決めて。
☓ ☓ ☓
教室内が騒がしかった。「明日休みだから遊びにいこうぜ」とか、「隣のクラスの金田さんがコクられたらしい」とつまらない話をしている。
「はぁ」
思わずため息がでる。以前あたしがいた世界。今あたしがいない世界。魔法少女。魔女。みんなはその存在を知らない。だからこそ、笑っている。守られる世界から、守る世界へとあたしは飛んだ。
マミさんと守る世界。いわば、ヒーローみたいのもの。
顔色がかわっていたのか、まどかが「大丈夫?」と声をかけてきた。
「うん、平気。大丈夫だよ」
そう、平気そうに答えた。まどかには、こっちの平和な世界にいてほしい。あたしには叶えたいものがあった。だからあたしは、魔法少女になった。だけど、まどかはそういうのはない……と思う。
だからこそ、いざというときまでそのことから離れて生活してほしい。魔法少女になってからわかったけど、やっぱりマミさんがいうようにこれはきつい仕事だった。
いつもと違って、人が少ない。何人か“少女消失事件”に巻き込まれたとかなんとかと聞く。今になってわかる。少女消失は魔女の口づけのせいだ。それによって、魔女に食われたか、使い魔に殺されたんだろう。
早くそうしている魔女を倒さないと手遅れになる。
「んっ?」
転校生と目が合った。口元が動く。声は聞こえなかった。
けれど、頭の中で声がした。あたしたち魔法少女だけが聞こえる声で、
『まどかは、私が守る』
と、そういって転校生はまどかと廊下へ出ていった。
かばんをもったあたしは、地面をけると走りだす。転校生とまどかとはち合うのがいやで、反対側に走った。後ろからまどかの声が聞こえるけど、聞こえないふりをする。
転校生というのが不安だけど、何も知らないやつより知ってるやつが守るって言ってくれるのは少し心強かった。あたしにはまどかはまだ守れない。
―これが魔法少女としての世界……か。
マミさんとまた、魔法少女としての仕事をしなければならない。ヘタをしたら、また罪のない人が魔女に殺されるかもしれない。だからできるだけ急いだ。もう、だれも消失させない。
「はぁ……は」
不思議と走っているのに疲れない気がした。魔法少女としての何か違う力なのだろうか?
☓ ☓ ☓
「えっ」
魔女の気配を追ってやってきた敷地には、予想外の人物がいた。
「なんで、ここで子供がいるんですかね?」
それは子供だった。しかも、女の子でちょうど魔女の結界に入れる場所の前に陣取っていた。
「ユキね。子供じゃないモン!」
身長110cmといったところか、とにかく子供。小学生なのかな。ランドセルが似合いそう。
すっごく小さい。
この子がいるのはまさか、魔女の口づけのせいなのか? でも、それはある意味催眠術のようなものでこうもはっきりと自分の意思をもっているものじゃない。
そう、意識がなく。いわゆる無気力状態というやつだ。
結界の入口の前に座っていたから、もしかして魔法少女? いや、魔法少女ならとっくに入っているかもしれないし、マミさん以外の魔法少女は……と、転校生ぐらいしか知らない。転校生が何をしているかは、マミさんも知らないみたいだけど、どうやら魔女を倒したりするのは邪魔してこないみたいで、何か別の目的があるんじゃないかとマミさんが言ってた。
あたしは別にどっちでもよかった。あの転校生はなんか信用出来ないし、したくもない。だから、それ以外の魔法少女をあたしは知らない。
「ここは危ないから、さっさとあっちいってな」
こんな小さい子が魔法少女なわけがない。女の子の肩を掴むとそのまま、敷地外へ押し出そうとする。そう、今から戦うのは魔女。人間が太刀打ちできる相手ではない、あたしたち魔法少女をおいては他にいない。それにまたマミさんと一緒に行くのだ。あたしができることをする。
だからこそ、こういうのに巻き込んじゃないけないんだ。そう、まどかのように少し距離を取らなければいけない。
「やーだー、ユキもいくの!」
女の子が足でブレーキをして、なかなか進まない。子供の癖に、すごい力でなかなか押し出せない。
――生意気。
「マミさんもなんか言ってくださいよ」
助力を求めるように後ろを振り返る。
「それはね」
マミさんは口に右手を添えると、何が可笑しいのかすごく笑顔でいた。『そんなことしてないで助けて下さいよ』とは言えない空気だった。なにより、マミさんだ。何か考えがあるのかもしれない。うん、きっとそう。あたしの大先輩だもの。
さらに力を込めようとした瞬間、
「もう、こうしちゃうもん」
「えっ!?」
女の子が力を緩めてあたしの手の呪縛から離れしゃがみ込んだと思うと、そこから空に跳んだ。
――空に跳ぶ。
そういう距離であった。距離にして、あたしのイメージでビル4階分。その飛距離をその女の子は、助走も補助も何もない状態でその場で跳んだ。
「え、えぇ、どういうこと!?」
そして、落ちてこない。完全に空に浮いていた。飛んでいるといったほうがいいかもしれない。
「あぁ、美樹さんにはいってなかったかしらね。彼女も魔法少女よ。金田ユキ。私はユキちゃんって呼んでるわ。以前言っていた紹介したい女の子よ」
マミさんが雪のほうを向きながらそういった。
「ユキちゃん……?」
ユキちゃんと呼ばれる女の子は依然として、空にいて落ちてくることはなかった。魔法少女は空を飛べない。そう、それがあたしの中に暗黙の了解としてあった。あたしが飛べないし、マミさんも飛んでいない。
だからこそ、不思議にみえた。なぜ、ユキが空を飛んでいるのかが。
「マミさん、あのこ落ちてこないけど?」
「そうね、それがあのこの魔法の力かしらね」
マミさんが落ち着いた声でそう話す。
「それはどういう意味?」
「それはね……」
マミさんの話だと飛行機が事故で落下しているときに、キュゥベぇと契約したみたいだ。死なないように空を飛びたい。だからこそ、ユキは飛べるのだと。
空を飛びたいと昔思ったことがある。小さい時にみたものの影響。実際、あたしも空を飛んでいるようなものだった。ジャンプ力なんて普通の人間の何倍も跳んでいる。ただ、空と呼ばれる空ではなく、“魔女の結界内の空”限定。
キュゥベぇが言っていたのを思い出す。祈りの結果により、魔法少女の能力が決まるみたい。だからこそ、あたしはすぐ傷とかが治る。らしい。
「飛べるとは言ったけど、アレがないと無理みたい」
マミさんが指さす。
「……あっ」
――傘。
遠くてあまり見えないがそんなものをユキは持っている気がする。とはいっても、魔法少女となってからは、遠くの距離のものはある程度はっきりみえるようになっているんですけどね。だからこそ、傘といえる。あれは傘だと。
「傘ですか?」
「そうね」
マミさんに尋ねると間違っていなかった。でも、どうして傘……? 攻撃手段として役に立つのだろうか?
「えぇー、でもどう考えても持ってるの傘ですよね?」
「そうね、傘よ」
「うーん……?」
頭をひねるあたしの前に音もなく着地したユキが空の色を表した水色と白の雲のようがある傘を開いたり閉じたりしている。これが武器ね。ありえない。まじ、ありえないんですけど。
「よいっしょっと。えへへ」
というか、さっきまで上にいたのに……なんて落下速さなんだろう。気づかなった。
あー、よく見たらいつのまにか魔法少女の服装になってる。うさぎの耳に、全身白のうさぎのコスプレのような着ぐるみって……。
まさに子供。そういえる。
「あんたそれで何ができるの?」
「全部だよ」
間髪を入れずにユキがそう答えた。上等じゃない。ちょっと試してやる。マミさんに目を送る。
マミさんはしょうがないわねぇという感じにため息をついた。
あたしは、ソウルジェムを前に掲げると魔法少女に変身した。白いマントを羽織ったあたしだけの服。
「じゃぁ、これも防げるんだよね?」
あたしを中心として長剣を36個召喚する。
「うん……?」
それを一回転すると全てユキに投げつける。
――大丈夫、かすりもしない位置に投げる。へたすれば、“当たるかもしれない”けど、そのときは家に帰ってアニメで見てもらっていよう。
そう、軽い気持ちであった。
「な、な、な……!」
しかし、その結果は期待を裏切る形となった。あたしが投げた長剣は、当たることはなかった。
全て、ユキの後ろにある壁に刺さっている。
しかも、それほど強くも早くも投げていないはずなのに、刀身は見えない。深く壁に入り込んでいた。
よほどの速さでなければこうはならない。つまりは、そうなることをこのユキはしたということだ。
「?」
ユキは何が起きたのか、自分でもわからないって顔をしている。
「彼女は、あれでなんでもできてしまうのよ。そういった意味でいえば私のコレよりは使いやすさはあるかもね?」
いつの間にか変身している黄色い服を着たマミさんがあたしにマスケットを見せる。
「……」
あたしの長剣ですら同じようなことはおそらく無理であろう。
「ん、お姉ちゃんたちどうしたの? ほら、行かないの? 魔女を倒しに」
「そうね、行きましょうか」
そういって、マミさんが魔女の結界の入り口を開いた。
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魔法少女さやか☆マギカ サブタイトル未定 A6の160ページ予定 杏子がもう最初からいる設定となっています。 COMIC ZINにて委託しました(http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=10729 )