No.315866

真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第25話

葉月さん

少し遅れてしまいましたが
第25話投稿です!

あとお知らせとして今週の投稿は出来そうにありません。
理由は後付で!

続きを表示

2011-10-10 12:20:58 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10514   閲覧ユーザー数:7172

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第25話

 

(一刻=1時間)、(一里=4km)

 

 

【新たな得物】

 

 

 

《愛紗視点》

 

「愛紗ーーーーーーーっ!」

 

目を閉じている私の耳に届いたのは鈴々の叫び声だった。

 

(ヒュンッ!)

 

呂布から得物の振り下ろす音が聞こえた。

 

「ーーっ!」

 

(ガキンッ!)

 

「……?」

 

これで私の命は尽きたと思っていたが一向に体に痛みは無く、変わりに金属がぶつかり合う音が聞こえた。

 

「……っ!な、なんだこの武器は……」

 

目を開けてみるとそこには先ほど呂布に折られたはずの私の得物、青龍堰月刀が地面に刺さり、呂布の攻撃を防いでくれていた。

 

「いや、違う……似ているがこれは青龍堰月刀ではない」

 

良く見てみると所々にあった傷は無く、新品同様のようだった。

 

「……?」

 

呂布も不思議そうにその武器を見ていた。

 

「っ!」

 

我に返った私は、その武器を手に取り呂布との距離をとった。

 

「……なんだこの武器は……手に馴染む」

 

手に取ると更に実感する。この武器は瓜二つといって良いほど私の得物に似ていた。

 

姿形だけではない。その重さ、重心に至るまで同じなのだ。私の得物を複製したかのような出来だ。

 

実際、同じようなものは作れても、若干だが重さ、重心は異なるものだ。それが寸分違わず同じということはそうそうある事ではない。

 

違っていたのは、龍を模った彫像の目には私の得物には無かった赤く燃えるような石が光り輝いていた。

 

「はぁ、はぁ。愛紗、無事だったか?」

 

「え?……その声はっ!」

 

私の後方から聞こえた声。それは私が敬愛する者の声、ご主人様の声だった。

 

「ご主人様っ!」

 

振り返りそのお姿を探す。すると肩で息をするご主人様が目に入った。

 

「ま、間に合ったようだね……は~!疲れた」

 

そう言うとご主人様は地面に腰を落とした。

 

なぜご主人様がここに?ご主人様は後方に居たはずでは?

 

だが、そんなことはどうでも良かった。なによりこうしてまたご主人様のお顔を見ることが出来たことが何より嬉しかったからだ。だが、聞かねばならない。

 

「ご主人様!なぜここに!」

 

ご主人様に近寄り、話しかける。

 

「いやさ。俺が気を失ってる間に愛紗たちが出陣したって雪華に聞いてさ。慌てて出てきたんだよ。そのせいで全力で走ってきたからペース配分し忘れちゃったんだけどね」

 

微笑みながら答えてくれるご主人様。

 

ぺぇすとは何なのか良く分からなかったが、ご主人様は私を心配して息を切らせて駆けつけてくれたことに胸が熱くなった。

 

「愛紗ーーーーーっ!」

 

「おっと、行き成り飛びつく奴が居るか、鈴々」

 

鈴々は勢いよく走ってきて私に抱きついてきた。

 

「肝が冷えたぞ愛紗。それになぜ主がここに居るのですかな?」

 

「まあ、色々あってね」

 

「左様ですか。では、その色々と言うのを後ほど聞かせて貰いましょうかな」

 

星は鈴々と違い、歩いてくるとご主人様に話しかけていた。

 

「……一刀」

 

「呂布っ!ご主人様、お下がりください!」

 

「にゃ!これ以上、愛紗を苛めさせないのだ!」

 

「うむ。苛めてよいのは主と私だけなのでな」

 

呂布の近づく気配に鈴々と星は構えた。

 

しかし……苛めていいのはご主人様と星とはどういうことだ!私は苛められっ子ではないぞ!

 

「……約束」

 

呂布は鈴々と星を無視してご主人様に向けて喋っていた。

 

「約束だと?呂布よ。お前はご主人様と何か約束をしたのか?」

 

「……………………(フルフル)」

 

呂布は長い沈黙の後、首を振った。

 

あ、怪しい……

 

私の勘がそう告げていた。そう思った私はご主人様に話しかけた。

 

「ご主人様。これはどういうことですか?」

 

「え?ああ、実は先の戦いで呂布と約束しちゃったんだよね」

 

「何をされたのですか?」

 

「……勝負」

 

「しょ、勝負だと!?駄目です!そんな事、私が許しませんよご主人様!」

 

呂布の言った言葉にすぐさまご主人様に文句を言った。

 

「そ、そうは言っても」

 

「いいえ。こればかりは許しません!これもご主人様の御身の為。ご自愛ください!」

 

「……お前……邪魔」

 

ご主人様に何とかあきらめて貰おうと説得していると呂布が得物を向けてきた。

 

「邪魔とは何だ!ご主人様をお守りするのが家臣である私の務め!」

 

「……お前より一刀、強い」

 

「うぐっ!」

 

呂布の答えに思わず何も言えなくなってしまった。

 

「確かに主の方が強いな」

 

「なのだ」

 

「お前たちはどっちの味方なのだ!大体、お前たちはな!」

 

呂布に同意するように星と鈴々は頷いていた。

 

「……お前たち、やっぱり変」

 

「失礼な。他はどうであれ、私は普通だぞ呂布よ」

 

「なっ!お前が一番普通ではないわ!」

 

星の言葉に思わず突っ込みをしてしまった。

 

「とにかくだ!ご主人様を呂布と戦わせるわけにはかない!星!鈴々!呂布を倒すぞ!」

 

「仕方ない。無双な主を守るというのも可笑しな話だが、それが私たちの務めだからな。呂布よ、お相手願おうか」

 

「お兄ちゃんと勝負していいのは鈴々たちだけなのだ!だからお前は駄目なのだ!」

 

私たち三人は先ほどと同じように呂布を囲むようにして立った。

 

「ご主人様!この得物をお借りします!」

 

「ああ。それは愛紗の為に作ったんだ。自由に使ってくれて良いよ」

 

「~~はいっ!」

 

ご主人様のその言葉に戦場に居るにもかかわらず、胸が高ぶってしまった。

 

ご主人様が私の為に……これは、なお更負けるわけには行かないな。

 

「すまんな呂布よ」

 

「……?」

 

首を傾げる呂布に私は言い放った。

 

「負けられぬ理由が更に出来てしまった。始めから全力で行くぞ!」

 

「……来い」

 

やる気になったのか呂布は己の得物を構えた。

 

僅かだが一瞬、微笑んでいるように見えたのは気のせいだろうか?

 

「いざっ!はぁぁぁああああっ!」

 

私は地面を蹴り、呂布に攻撃を仕掛けた。

 

(ガキンッ!)

 

「っ!……強くなった?」

 

「ふっ。当たり前だ。ご主人様の前で惨めな姿を晒す訳には行かぬからな」

 

以前の得物と変わらぬはずだが、軽く振っただけだというのに今まで以上の力がでた。

 

「その通り、呂布よ。ここで負けて貰うぞ!」

 

「そうだそうだ!鈴々たちに負けるのだ!」

 

「……恋も負けるわけには、いかない」

 

(グググッ!)

 

呂布は今まで以上に力を入れて私を押し返してきた。

 

「くっ!なんて力だ。私が押し負けているだと」

 

「加勢するぞ愛紗!」

 

「鈴々も行くのだっ!」

 

「っ!ふっ!」

 

「くっ!」

 

向かってくる星たちに気がついた呂布は私を思いっきり突き飛ばし挟み撃ちにならないように位置を取った。

 

「……お前たち、面白い。でも、強い」

 

「お、面白いは余計だ」

 

「……(フルフル)面白い」

 

「くっ!この私が、あの星と同類だというのか」

 

「随分と失礼だぞ愛紗よ。主よ、私はまともだと思うが如何かな?」

 

「え?あ、ああ。そうだな」

 

「主よ。主もそうお思いなのですな!」

 

ご主人様に話を振る星だったが、ご主人様の曖昧な返事に批難していた。

 

「くっ!相応しい主と着いてきたが私が間違っていたのか……こうなれば、真名を返上していただき、別の陣営に……」

 

「っ!ないない!星は至ってまともだよ!俺が保障する!」

 

ご主人様は慌てて訂正していた。

 

「ふっふっふ。だそうだ、どうだ愛紗?」

 

星はニヤニヤと笑いながらどうだと言わんばかりに私を見ていた。

 

「……やっぱりお前達、変」

 

「ぐっ!……こ、この状況では否定できないではないか……」

 

呂布の言葉に言葉を詰まらせた。

 

「呂布殿~~~~~~~~~っ!!」

 

その時だった。虎牢関の方から馬だけが走ってきた。

 

「馬が喋っただと!?」

 

「……陳宮?」

 

すると呂布は馬に向かい名前らしきものを呟いていた。

 

う、馬の名前か?

 

「愛紗よ。流石に馬は喋らないであろう」

 

「う、うるさい!そんなことは分かっている!」

 

星に言われてしまうとわ……何たる不覚!

 

「愛紗よ。今、失礼なことを考えなかったか?」

 

「気のせいだ。それより注意しろ、どれほどの手練か分からぬぞ」

 

「いや。どう見ても馬に隠れるような背丈で武術は無理であろう」

 

「い、いや。ここにもちびっ子が居ると思うんだけど?」

 

「鈴々は別ですぞ。ちびっ子はちびっ子でも別格のちびっ子ですからな」

 

ご主人様の言葉に星が当然とばかりに答えていたが。それは褒めているのか?貶しているのか?

 

「?にゃはは。良く分からないけど褒められたのだ!」

 

ま、まあ。鈴々が喜んでいるのならそれで良いが……

 

《一刀視点》

 

「呂布殿!もう虎牢関は持たないのです!ここは撤退をした方が良いのです!」

 

「……霞は?」

 

「張遼殿は曹操の将と交戦中なのです」

 

張遼が曹操の将と戦っている?そうなると多分だけど、張遼は曹操に降るだろう。史実通りならね。

 

俺の知っている歴史だと張遼は曹操に降り、その後、曹操の覇道に大いに貢献していた。

 

「……助ける」

 

「無理なのです!それに張遼殿なら自力で脱出出来るのです!ですから呂布殿も早く逃げるのです!」

 

「……駄目。陳宮だけ、逃げる」

 

「な、なんですとーーっ!!危険すぎます呂布殿、お止めくださいなのです!」

 

「大丈夫」

 

言い争いをしている二人。と言っても、一方が喋ってるだけなんだけど、そんな二人を俺たちは黙ってみていた。

 

「あ、あの一刀様?この状況は一体なんなのでしょうか?」

 

「ああ。明命か」

 

俺の後を追いかけてきたのか遅れてきた明命はこの状況を見て首を傾げていた。

 

「なんだか撤退するか、しないかで揉めてるみたいなんだよ」

 

「は、はぁ……ですが、どちらかと言うとお馬に乗っている人が一人で喋ってるようにも見えますが」

 

「明命もそう思うか。あ、ところで、明命はこんなところに何をしに?確か、桃香たちと一緒に居たと思うんだけど」

 

「はい。雪華さんに一刀様が慌てて飛び出していったと聞き、桃香様の命で私が前線の様子を見に来ました」

 

「そっか、理由も言わずに飛び出してきちゃったからな」

 

桃香たちに悪いことしちゃったかな。あとで謝っておかないと。

 

「そうだ!ちょっと明命に頼みたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「はい。私に出来ることでしたら!」

 

「うん。実は―――を―――して―――――欲しいんだ。お願いできるかな」

 

「はうあ!そ、そんなことをしてしまってもいいんですか!?」

 

「愛紗たちは怒ると思うけどね。でも、桃香なら分かってくれると思うんだよ」

 

「わかりました。では、行って参ります!」

 

「ああ、よろしくね」

 

明命は一礼するとその場から消えたかのように走り出した。

 

「……流石は隠密って感じだな。さてと」

 

明命を見送り愛紗たちに向き直る。

 

「呂布殿!わがままを言わないでください!一緒に逃げましょうなのです!」

 

「……(フルフル)いや」

 

「ま、まだやってたのか……」

 

まだやり取りをしていることに俺は、思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

「愛紗。ちょっと……」

 

「なんでしょうかご主人様?」

 

困惑している愛紗を呼び、ちょっとしたお願いをした。

 

「ちょっと呂布と話がしたいんだけどいいかな?」

 

「駄目に決まっています!」

 

やっぱりな。きっとダメって言うと思った。

 

「そこを何とかさ」

 

手を合わせてなんとか了解を得ようとする。

 

「良いではないか愛紗よ」

 

「星!しかしだな」

 

「愛紗は心配しすぎなのだ」

 

「当たり前だ。主を心配しない家臣が何処に居る」

 

「大丈夫だから。別に戦うわけじゃないんだから」

 

「本当ですね」

 

「ああ。本当に話すだけだよ」

 

「……わかりました。ですが私も付いて行きます。それならば認めましょう」

 

「わかったよ。それじゃ、危なくなったら愛紗に助けてもらおうかな」

 

「この身に変えましてもご主人様をお守りいたします」

 

ホント、愛紗は律儀だな……でも。

 

「流石に、身に変えられたら困るな。愛紗の変わりは誰一人として居ないんだからね」

 

俺は愛紗に向かって笑いかけた。

 

「で、でしたら。無茶なことはお止めください。本当でしたらご主人様はこの様な場所に来てはいけないお方なのですから」

 

「でも、ここに来たから俺は愛紗を助けられたんだ。愛紗だけじゃない。鈴々や星だって危なくなったら俺は無茶してでも駆けつけるよ」

 

真剣な顔で俺は鈴々や星たちを見る。

 

「ふっ。では主に助けられぬように我々はもっと精進しなくてはいけませんな」

 

「なのだ!だからお兄ちゃん!もっともーーっと!鈴々と戦って欲しいのだ!」

 

「ああ。都合さえ付けばいつでも鍛錬に付き合ってあげるよ」

 

「なっ!鈴々!お前だけずるいではないか!私とてご主人様と手合わせをして頂きたいというのに!」

 

「へっへ~ん!早い者勝ちなのだ!」

 

「ぐぬぬっ!」

 

愛紗は鈴々に向かい恨めしそうに見ていた。

 

「別に鈴々だけって訳じゃないんだけどな。もちろん愛紗だって気兼ねなく誘ってくれて良いからね」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

愛紗は嬉しそうに目を輝かせていた。

 

「よし。それじゃ行こうか愛紗」

 

「はっ!」

 

そして、俺は愛紗を連れて呂布たちの元へ行った。

 

「ですから!ねねは一人で行くわけには行かないのです!軍師としてこればかりは譲れませんぞ!」

 

「……(フルフル)」

 

「ま、まだやってたのか」

 

「むっ!何奴ですか。今ねねは呂布殿の説得で忙しいのです。話なら後にしやがれなのです」

 

「貴様、ご主人様に向かってなんて言葉を!」

 

「まあまあ愛紗。少し落ち着いて……えっと、まずは名前を教えてくれるかな?」

 

「ふんっ!貴様のような男に名乗る名など無いのです」

 

「……陳宮」

 

教えるつもりが無い女の子の横で呂布が数拍置いて一言しゃべっった。

 

「陳宮?」

 

「りょ、呂布殿!?なぜ、名前を教えるのですか!」

 

「……一刀。いい人……だから教えた」

 

「だからと言ってねねの名前を教えるのは酷いですぞ呂布殿ぉ~!」

 

「え、えっと陳宮でいいのかな?俺は北郷一刀」

 

「北郷?どこかで聞いた名前ですね……」

 

陳宮は腕を組み考え始めた。

 

「う~ん……っ!思い出したのです!天の御遣いが確かそんな名前だったのです!それで?その御遣いがなんの用ですか」

 

「あれ?張遼から話しは聞いていないのか?」

 

「張遼殿から?……ああ、そう言えば何か言っていたですね」

 

「なら話が早い。大人しく虎牢関から撤退してくれないかな?」

 

「ですから。その為に呂布殿を説得しているのです!見て分からなかったのですか!」

 

「そう言えばそうだった」

 

「……ご主人様」

 

愛紗は俺の横で呆れたような哀れんでいるような表情をしていた。

 

「と、とにかく!呂布も撤退してくれないかな?」

 

「……(フルフル)」

 

呂布はまたも首を横に振った。

 

「……一刀と約束した」

 

「貴様!呂布殿と何を約束したのですか!大人しく白状するのです!」

 

陳宮は今にも食って掛かる勢いで詰め寄ってきた。

 

「り、呂布と約束したんだよ。次に会う時は勝負しようってね」

 

「……(コクン)」

 

「なんですとーっ!そんな約束を呂布殿としていたのですか!?」

 

「……ごめんね陳宮」

 

「呂布殿は、謝らなくてもいいのです。悪いのはこの男なのです!」

 

「お、俺!?」

 

思わず声が裏返ってしまった。って、愛紗も横で頷かないでよ。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいのです」

 

「どうでもいいんだ」

 

「何か言ったですか?」

 

「いえ。何も」

 

なんだかツッコんじゃいけない雰囲気だからやめておいた。

 

「それよりも!張遼殿が言っていたことは本当なのですか?董卓を助けてくれると言うのは」

 

「……陳宮?」

 

「ああ。呂布殿!実はですね、張遼殿から報告があったのです。天の御遣いが董卓を助けてくれると。ですが、余りにも荒唐無稽でしたので呂布殿に教える必要は無いと思ったのです」

 

「……一刀、本当?」

 

「ああ。必ず董卓を助け出して見せるよ」

 

「……」

 

「呂布殿?どうかしましたですか?」

 

「……帰る」

 

「りょ、呂布殿!?行き成りどうしたのですか!」

 

一言帰ると言った呂布は踵を返した。

 

「……一刀」

 

「ん?」

 

馬に跨り俺の名を呼ぶ呂布。

 

「……次に会ったら約束」

 

「ああ。次に会うときは全力で戦うよ」

 

「……(コクン)月もよろしく」

 

「ああ。必ず助けるよ」

 

「……ん(コクン)陳宮、行こ」

 

「で、ですが呂布殿。すでに敵に囲まれていて逃げ道が無いのです」

 

「……あっち」

 

流石は呂布だな。あっちは明命に言って壁を薄くするように兵に伝えに行って貰った方向だ。

 

「おい。天の御遣い」

 

「ん?」

 

「一応、感謝はしておくのです。でも、今回は見逃してやるだけなのです。次は無いのです!呂布殿はお前らのような奴に負けるわきゃぷっ!」

 

急に馬が転進をした為、陳宮は舌を噛んでしまったようだ。

 

「……陳宮。喋ると危ない」

 

「りょ、りょふほの、しゃべってるほきに馬をうごかひゃないれほひいのれふ」

 

「……わかった」

 

涙目で訴える陳宮に頷く呂布。

 

「……一刀」

 

「ん?」

 

「……ばいばい」

 

「あ、ああ。またな」

 

手を振る呂布に俺も手を振り返す。

 

「さてと!それじゃ、俺達も虎牢関に向かおう」

 

呂布たちは去り、次は虎牢関を攻め落とすだけとなった。

 

「いいえ。ご主人様は本陣に戻っていただきます。前線は我々三人で十分です」

 

「そんな。折角ここまで来たのに」

 

「い、い、で、す、ね!」

 

「は、はい。大人しく戻ります……」

 

愛紗の整った顔が俺の顔の前で睨みつけてきた。

 

俺はその気迫に頷くしかなかった。

 

「それじゃ、戻るけど。無茶だけはしないでくれよ皆。何度も言うけど愛紗たちの変わりは誰も居ないんだからね」

 

俺はそれだけを言って桃香たちの居る本陣に戻っていった。

 

《愛紗視点》

 

「まったく。ご主人様の奔放振りにも困ったものがあるな」

 

「だがそのおかげで助かったのであろう?」

 

「た、確かにそうだが……」

 

「それに乙女の危機に助けに現れる君主。中々出来ることではないと思うが?」

 

「う、うむ……」

 

確かに、私腹を肥やす州牧や相が多いこの時に、ご主人様のような方は中々居ないであろう……だが。

 

「そ、それとこれとは話が別だ。それに私は乙女ではない!ご主人様を守る盾、そして矛だ」

 

「主はそんなこと思っていないと思うが?」

 

「わかっている。だから困るのだ。もっと顎で使ってくれても良いと言うのに」

 

「分かっていないな愛紗よ」

 

「な、何をだ」

 

「では、逆に聞こう。人を人と思わぬ者に。桃香様や朱里たちが着いて行くと思うか?」

 

「……ない、であろうな」

 

「そういうことだ。主は主だから良いのだよ。良くも悪くもな」

 

星の言葉に確かにと思う。

 

「だが、女癖だけはやはり何とかして頂きたいものだ」

 

「おや。ヤキモチか愛紗よ」

 

「ち、違う!断じてヤキモチなどではない!」

 

「愛紗。顔が赤いのだ」

 

「う、うるさい!ほら!さっさと虎牢関を落とすぞ!桃香様たちがお待ちなのだからな!」

 

私は鈴々たちに顔を背け一人先に虎牢間へと目指した。

 

「やれやれ。もう少し、素直になれば可愛げがあるというのに。勿体無い」

 

「にゃ?なんのことなのだ?」

 

「鈴々にはまだ早い話だ」

 

「むっ!鈴々は子供じゃないのだ!」

 

「はっはっはっ!そうであったな」

 

「何をしている!早く行くぞ!」

 

後ろで未だに会話をしている二人に大声で叫ぶ。

 

「おっと。これ以上愛紗を怒らせないうちに早く行くとしよう」

 

「なのだ」

 

「まったく……星も鈴々も戦場のど真ん中だと言うのに弛み過ぎだ」

 

走りこちらに向かってくる二人を見ながら思わず愚痴を零す。

 

「何をそんな不機嫌そうな顔をして居るのだ愛紗よ」

 

「不機嫌そうではない。不機嫌なのだ」

 

「にゃ~。こういう時の愛紗とは一緒に居たくないのだ」

 

「何か言ったか鈴々」

 

「何も言ってないのだ!」

 

しっかり聞こえていたぞ。まったく、なら私を不機嫌にさせるのではないと言うのに。

 

「まったく。そんな顔では嫌われてしまうぞ」

 

「う、うるさい!こんなことでご主人様に嫌われるわけがないであろう!」

 

「おや。私は桃香様を思って言ったのだがな」

 

「っ!」

 

「なるほどなるほど。愛紗は主の事を思っていたのだな。なるほどなるほど」

 

「うぐぐっ!」

 

星のしたり顔に何も言い返せなくなってしまった。

 

「ふっ。何をしている。愛紗よ、早く虎牢関に向かおうではないか」

 

「わかっている!そう思うならからかうでないわ!」

 

「はっはっは。お前は乗りやすいからついな」

 

「ついではない……鈴々も星の後ろで笑っているな!」

 

「にゃ~。ばれちゃったのだ」

 

鈴々は星の後ろから笑いながら出てきた。

 

「お前達は……」

 

「おっと。説教は後にしようではないか」

 

くっ!後で覚えて居ろよ……まずはこの怒りを虎牢関を攻め落とすことで晴らすとしよう。

 

「ふ、ふふふ……ご主人様から頂いたこの得物で……」

 

私はご主人様から頂いた得物を握り締めた笑った。

 

「あ、愛紗が怖いのだ……」

 

「ちょ、ちょっとからかい過ぎただろうか。これでは虎牢関に居る兵に少し同情してしまうな」

 

「何をしている!ご主人様に勝利のご報告が出来るように気合を入れるぞ!」

 

私は虎牢関に向かい走り出した。ご主人様の為に、桃香様の夢の為に。

 

それから数刻。将と軍師が居なくなった虎牢関はそれほどの犠牲を出すことなく落とすことが出来た。

 

「お疲れ様。愛紗」

 

「ご主人様!」

 

虎牢関を落とし、城内に伏兵が居ないことを確認して連絡兵にご主人様たちに安全なことを伝えに行かせた。

 

暫くするとご主人様たちが入城をなされた。

 

「愛紗ちゃん!お疲れ様!」

 

「桃香様」

 

「よかった!どこも怪我っ……愛紗ちゃん。その顔や肩の傷どうしたの!」

 

桃香様は近づいてくると私のいたるところに傷があることに気がつき、顔を青くした。

 

「これは自分の得物を呂布に壊されその破片で傷ついたものです。大丈夫です。ただの掠り傷ですから」

 

「ダメだよ!掠り傷でも顔にあとが残っちゃうなんて!」

 

桃香様は自分の事のように私の心配をしてくださった。

 

「良いのです。これも武人としての勲章です」

 

「私は武人のしての愛紗ちゃんも大事だけど、お友達としての愛紗ちゃんの方がもっと大事なの!だからちゃんと治療しよ!」

 

「桃香様……」

 

桃香様は今にも泣き出しそうな顔で必死に訴えてきた。

 

「愛紗」

 

「ご主人様……」

 

桃香様の後ろから微笑みながらご主人様が歩いてきた。

 

「傷を見せて愛紗」

 

「い、いけません。こんな傷だらけなお体をご主人様に見せるわけには」

 

私はご主人様から顔を背け、傷を隠すように両腕で傷を隠した。

 

なぜだ……桃香様に傷を見られた時は誇らしかったのに、ご主人様にはなぜか傷だらけな私の体を見られたくないと思ってしまった。

 

「そんな恥ずかしがらなくてもいいよ。そんな傷で愛紗の事を嫌いになるわけがないだろ」

 

「ご主人様」

 

「頑張ったね愛紗。あの呂布にこんなになるまで……」

 

「お恥ずかしいです。ご主人様に稽古を付けていただいていたのにこの有様です」

 

「そんなことないよ。それに愛紗はちゃんと俺の言ったことを守ったじゃないか。呂布には三人で戦うって」

 

「ご主人様の命なら当たり前の事です」

 

「そっか……でも、ありがとうね愛紗」

 

「あっ……」

 

ご主人様は手を差し出し、私の頬にそっと触れてきた。

 

ご主人様の手は母に触られている様に温かくそして優しかった。

 

「……うん。やっぱり愛紗の顔は傷が無い方がいいね」

 

「え?……っ!傷が無くなっている?」

 

優しく微笑むご主人様を見ていると急にご主人様はそんなことを言ってきた。そしてご主人様が触れていた頬、傷があった頬に手を当ててみるとさっきまで有った痛みも無く、傷跡も無くなっていた。

 

「ご主人様、これは」

 

「うん。前に、愛紗の怪我を治したのと同じだよ」

 

そう、以前。ご主人様と初めての稽古をして頂いた時にも怪我を治して貰ったことがあった。

 

「ありがとうございます。ご主人さ……」

 

「こちらこそありがとう愛紗……ちゅ」

 

「「「っ!!!!」」」

 

「え、あ……え?ご、ご主人、様?い、今……なにを?」

 

私は今、何が起きたのか分からなかった。ご主人様にお礼を言おうとして、不意に前が暗くなり私のおでこのあたりに何か柔らかいものが当たった感触があった。

 

「ん?ご褒美、かな?いつも、妹にも何かあるとご褒美頂戴とか言ってせがまれるんだ」

 

「あ、ああ……ああああああっ!!!~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

「お、おい。愛紗?」

 

私はあまりの恥ずかしさにその場から叫びながら一目散に逃げ出した。

 

な、なななんてことだ!ご、ご主人様に……ご主人様に……お、おで、おでこにせ、せせ接吻をしていただけたっ!!!!

 

………………

 

…………

 

……

 

《一刀視点》

 

「?どうしたんだ愛紗。急に走り出して」

 

愛紗に妹の一姫と同じ、ご褒美をあげると暫く呆然としていたかと思うと急に立ち上がり走り出していってしまった。

 

「まあ、あれだけ元気があれば大丈夫かな」

 

「「「「むーーーっ!」」」」

 

そう思って振り返るとそこにはなぜか頬を膨らませた桃香、朱里、雛里に雪華が居た。

 

「ど、どうしたんだみんな。なんだか怒ってるみたいだけど……」

 

「みたい。じゃなくて怒ってるんです!」

 

「えっ。なんで?」

 

桃香の言葉に首を傾げる。

 

俺、桃香たちに何か怒るような事したかな?

 

「くっくっく……流石は主ですな。面白い出来事に事を欠かない」

 

星は桃香たちの後ろで面白そうに笑っていた。

 

「?どういうことだ星?」

 

「そして、なにもわかっていない。それでこそ主ですぞ。さて、私は鈴々と供に兵たちに指示を出してきます。桃香様、あまり主を苛めては可哀想ですぞ」

 

「わかったのだ!お兄ちゃんまた後でなのだ!」

 

そう言うと星は笑いながら鈴々を連れて居なくなってしまった。

 

「……えっと……俺、何か桃香たちを怒らせるようなことをしたのかな?」

 

「ご主人様!私達も頑張ったんだよ!」

 

「あ、ああ知ってるよ」

 

「私も、雛里ちゃんと頑張りました!」

 

「……(コクコクッ!)」

 

「……」

 

「ふぇ……あ、あの。私もご主人様の看病がんばりまし、た……」

 

も、もしかして桃香たちもご褒美が欲しいってことなのかな?

 

「そ、そうか。それじゃ桃香たちにもご褒美を上げないとね……ちゅ」

 

「はぅ!」

 

「ちゅ」

 

「はわわ……ふきゅぅ」

 

「ちゅ」

 

「あ、あわわ……はふぅ~」

 

「ちゅ」

 

「ふぇぇぇ……えへへ♪」

 

三者三様の反応。でも、みんな共通して嬉しそうにしてくれていた。

 

「よし。それじゃ、袁紹に遣いを出して俺達はこのまま洛陽を目指そう」

 

「はい!それじゃ朱里ちゃん!袁紹さんに出す、遣いの人を選んでね」

 

「わかりました!」

 

「雛里ちゃんは星ちゃんたちのお手伝いね!」

 

「お任せくだしゃい!」

 

「雪華ちゃんは愛紗ちゃんを探してきて!」

 

「わかりました!」

 

「よ~し!またご主人様にご褒美もらえるようにがんばろ~♪」

 

「「「「お~~~~っ!!」」」」

 

「……ま、まあ。気合が入ることはいいよね。うん」

 

俺は桃香たちの行動の良さに思わず驚いていた。

 

そして、後に俺の役に立つことをすればご褒美に『デコチュー』が貰えると言う噂が流れたとか流れなかったとか。

 

とにかく、俺達は洛陽に向けて準備を始めた。

 

《To be continued...》

愛紗「……」

 

葉月「どうも、こんにちは。葉月です。今回のお話は如何でしたか?」

 

愛紗「……っ!」

 

葉月「皆さん。一刀と呂布が戦うと思った人が多いのではないでしょうか?」

 

愛紗「~~~~~っ!」

 

葉月「残念ながら、皆さんの思うような展開にはなりませんでした!」

 

愛紗「……ふふ♪」

 

葉月「……」

 

愛紗「ご主人様~♪」

 

葉月「あ、あの。愛紗?」

 

愛紗「っ!な、なんだ葉月か。驚かすでない」

 

葉月「い、いや。もう奥付始まっているんですけど……」

 

愛紗「なに?そんなことがあるわけ……っ!なっ!もう奥付が始まっているだと!?」

 

葉月「だからそう言ったじゃないですか。まったく、一刀にデコチューして貰ったからって浮かれすぎですよ」

 

愛紗「う、浮かれてなど居ない!た、ただ……そう!無事に虎牢関が落とせたことを喜んでいただけだ」

 

葉月「まあ。そう言うことにしておきましょう。さて、前作で一刀の使った『風陣爆雷』の発動方法が分からないというご質問がありましたのでここでご返答させていただきます」

 

葉月「まず、一刀の武器、『双龍天舞』は二本で一対の刀となっています。そしてその刀に力を宿すために宝玉が存在しています。そして、雷の力を持つ宝玉と風の力を持つ宝玉をそれぞれの刀にはめ込みます」

 

葉月「そうすることで、宝玉の力を宿した刀。仮に言ってしまえば雷神剣と風神剣が出来上がるわけですね。そして、刀を振るうことによりその力を発動することが出来ます」

 

葉月「手順としては、風神剣で風を巻き起こし敵を囲み、雷神剣で落雷を発生させます。そして、地面に落ちた落雷は弾け岩や砂を宙に舞い上がらせ、竜巻の回転により宙を飛び回るといった具合です」

 

愛紗「なるほど。宙に舞った砂で視界を塞ぎ、そこを石や岩で攻撃するわけだな」

 

葉月「はい。まあ、落雷に当たるだけでも十分攻撃にはあるんですけど、これが『風陣爆雷』の特徴ですね。ちなみに、最初に使った『火龍演舞』も原理は同じです。風を巻き起こし、その中で炎龍を作り風の力で炎の威力を上げて、まるで龍が舞をしているように見せているんですね」

 

愛紗「色々と考えているのだな」

 

葉月「はい。ですが、宝玉を二個同時に使う技は大量の氣を使うため、その分リスクが伴います。だから一刀は力を抑えて使うわけですね」

 

愛紗「そうか。あまりご主人様に頼らないようにしなければな」

 

葉月「ですね。さてと、これが技の発動手順でしたが、ご理解いただけたでしょうか?」

 

愛紗「判らなければまた聞いても構わんぞ。それが葉月の仕事だからな」

 

葉月「……さ、さてと!次回ですが……と、言いたいところですが」

 

愛紗「なんだ。なにかあるのか?」

 

葉月「はい。実は今週と来週、社内研修があり。作品を書くことが出来ないのです。よって、今週の投稿はお休みと言うことにさせていただきます」

 

愛紗「なるほどな。私は構わぬぞ」

 

葉月「随分と気前がいいですね」

 

愛紗「な、何を言うか。私はいつも気前が良いぞ」

 

葉月「ああ。一刀にデコチューされたか」

 

愛紗「わー!わー!わーーーーーっ!!」

 

葉月「はいはい。わかりました。言わなければいいんですね。ホント恥ずかしがりや何だから愛紗は」

 

愛紗「う、うるさい!」

 

葉月「さて。本日はここまでとさせていただきます。では、今回は二週間後にお会いしましょう!」

 

愛紗「さらばだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃香「えへへ♪ご主人様におでこにちゅーされちゃった♪きゃーーっ!どうしよう!もうお嫁さんにいけないよ!」

 

朱里「と、桃香様。それではご主人様のお嫁さんになれないのでは?」

 

桃香「え?……っ!ち、違うよ!お嫁にいけないって言うのはね!ご主人様以外のお嫁さんってことで!だから……だから……ご主人様!私を貰ってください!」

 

雛里「あわわ。ぬ、抜け駆けはずるいですぅ~」


 
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