No.313323 XXX -kimi no tonari 2-浅野 悠希さん 2011-10-05 23:21:45 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:2069 閲覧ユーザー数:2068 |
【前半より抜粋】
タクミくんの誕生日をいつものみんなで祝って、期末テストもなんとかクリアして。あっという間にやってきた夏休みは、私にとってとても楽しい時間が続いた。
去年までも家族旅行に行ったり友達とお祭りに行ったりと楽しいことはたくさんあったけど、今年は彼氏と一緒に過ごすことが出来る特別な夏休み。
お互いの家で夏休みの宿題をして、そのまま一緒にお昼ご飯を作ったり夕飯の買い出しをお手伝いしたり。学校がある日でも毎日会えたけど、お小遣いを奮発してデートなんか行かなくたって、こうして一緒に過ごせるだけでも十分に幸せだなって思うんだよね。
「そういや、由奈は臨海学校に参加するのか?」
「もちろん! 恭介くんと海に行けるの、楽しみにしてるんだから」
もう夏休みも後半に差し掛かり宿題を殆ど終えた私たちは、恭介くんの部屋でタウン誌を広げて面白そうなイベントの記事を読みふけっていた。
何度か短期バイトに入って遠出をしたこともあったけど、毎日遊べてしまう夏休みじゃお小遣いがいくらあっても足りはしない。だから私は、学校行事とは言えそういう心配せずに遊びに行けるこのチャンスを嬉しく思っていた。
「俺も。……でも、私服に水着なんだよな。おまえ、ちゃんと用意出来るのか?」
「酷ーい。確かに何を持って行こうか迷うだろうけど、ちゃんと荷造りくらい出来るよ」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
恭介くんの小さなため息の意味が、私には全くわからなかった。
雑誌を見ていた視線がゆっくりと私の頭からつま先まで見ると、もう一度ため息。そんなにおかしな格好をしているつもりは無いけれど、もしかして恭介くんの好みじゃなかったのかな。
服装を褒めてくれることが無いから、遊びに出かけるときはふわふわのワンピースを着てみたり、宿題するぞってときにはちょっぴり大人っぽく見えるスタイルにしてみたり。
今日はお部屋でまったりする予定だったし、家事のお手伝いもしやすいようにとタンクトップの上にピンクのパーカーを羽織って、デニムのホットパンツでやってきた。
「あ、パーカーとか子供っぽかった? それとも、もっと可愛い感じのが良かったかな」
初めてデートに出かけたときは、何を着ようかと前の日から悩んで大変だったのに、今ではすっかり落ち着いて服を選べるようになってしまった。それが裏目に出てしまったのだろうかと、パーカーの裾を掴んで俯いてしまう。
「馬鹿。何着たって可愛いから心配してんだよ」
「え……?」
今まで何も言ってくれなかった恭介くんが、初めて可愛いって言ってくれた。似合ってないのか、好みじゃ無いのかと心配していた私の気持ちを優しく包み込んでくれるような声音に顔を上げれば、机を挟んで向き合っていたはずの恭介くんは私の目の前に来ていて。
急に近くなった距離が恥ずかしくて座ったまま後ずさりしてみるけれど、その分恭介くんも前に進んでくるから一向に私たちの距離は開いてくれない。
寧ろ、背中をベッドに取られてしまって隙間はどんどん埋まってしまう。
「そうやって、薄着でウロウロされたら……誰に狙われるかわかったもんじゃねぇよ」
すっと伸びてきた手に顎を捕まれて、瞬いている間に軽く触れるだけのキス。今までと違って唇にされたそれに驚いていることなんて気づかないのか、恭介くんはがっしりともう片方の手で私の肩を押さえ込んだ。
「あの、ちょっと待ってよ恭介くん。何言ってるのか、よくわからな――」
「今まで十分待ってきたんだ! 待つしか出来なくて、すげぇムシャクシャして……やっと俺のだって言えるようになったのに!」
これは、私の知っている恭介くんなのかな。
めんどうくさがりに見えて結構神経質だったり、恐そうに見えて優しかったり。それから猫に嫌われただけで落ち込んでみたりするような、ちょっと可愛いところがあって。
ずっと見ていたから、恭介くんのことは何でも知っているつもりになってた。だけど、こんな風に強引にキスをしてくるような恭介くんを、私は知らない。
【後半より抜粋】
想像を超えた豪華なペンションに荷物を運び込めば、すぐに夕食の時間。昼間は自分と遊んでいた由奈も夜には恭介とゆっくり過ごすだろうと思っていた和果菜だが、自由時間が訪れると司に呼び出されていると席を立ってしまった。
まだ自由時間も始まったばかりだし、大きく問題を起こしたわけでもなさそうなのですぐに解放されるとは思うが、これでは折角の海なのに彼氏と過ごす時間が少なすぎる。
仲直りするんだと言っていたにも関わらず、恭介とよそよそしい感じで過ごす由奈を心配した和果菜は、タクミの部屋を訪れた。
一緒に買い物へ出かけたときから少し気まずい思いをしていたようだし、これ以上拗れては取り返しにつかないんじゃないかと思ったからだ。
もちろん、自分がやろうとしていることはお節介だとわかってる。
だけど、気持ちがお互いに薄れているならともかく、互いに思う方向がすれ違って上手くいかないだなんて悲しすぎる。
自分のせいで親友を苦しめてしまったんだ、今度こそちゃんと幸せになって欲しいという気持ちを込めてノックすると、中からはけだるい声。由奈のことで話があると言えば、すんなり部屋に招き入れてくれた。
「……で? オレに何しろって言うのさ」
「それを一緒に考えてもらおうと思って来たんじゃん。アタシらなら、由奈たちを仲直りさせることが出来るでしょ?」
協力を頼むなら、いつも一緒に行動してたタクミしかいないと思って訪ねたのに、彼はククッと笑って舌なめずりをする。おまけにからかうような目で見下げてくる態度を見れば、協力的な返事が返ってくるとは思えない。
だが、タクミは普段からどこか掴めないところがあるのも事実で、じっと返事を待っていると表情が読まれないようにか背を向けた。
「そーだねぇ……もしオレも、実は由奈が好きなんだよねーって言ったら、どうする?」
「何バカなこと言ってんのよ。キミだって二人に協力したんでしょ?」
「それはキミも同じコト。手を結んだら、お互いに有益になるって思わないのカナ」
予想外の言葉を軽くあしらうと、続けざまに指摘された内容に思わず息をのむ。
確かに自分は恭介が好きでありながら、由奈の気持ちを知って潔く身を引いた。
でもそれは、最初から決めていたことだ。
付き合っていたと言っても片思いのまま無理矢理押しかけていたようなものだし、二人が両思いなのを分かった上で彼女の座に居座るようなみっともないことはしたくない。
だけどもし、これを機に恭介を由奈から引き離したら?
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