ルートヴィッヒが熱燗を持って居間に戻ってくると、本田が首のすわっていない頭をくてんくてんと揺らしながらぶつぶつとなにかをつぶやいていた。先に潰れたフェリシアーノをまたいで本田の隣に座ると、熱燗を本田の前に置いてやる。
「んあ。あぁ、ありがとうございます。」
「いや、かまわん。それより大丈夫か?」
「だいじょうぶですよ。」
ルートヴィッヒは、へらと緩んだ笑みをかえす本田に苦笑してドイツ人の手にはかなり小さいお猪口を手にとる。
「ああ、わらしがお酌しましょうね。」
「いや、自分でやるから。」
「らめです。手酌なんてらめですぅ。」
御銚子の取り合いをすると案の定、酒がこぼれてルートヴィッヒの袖にびしゃりと降りかかった。
「ああ、すいません。すいません。」
しょんぼりと謝る本田は慌てて布巾で袖を拭く。
「いや、気にしなくていい。やけどするほどではなかったから。」
「いえ、もうほんとうにすいません。」
「本田?」
「こんなことも満足にできないなんて。もう、私仕事もなにもほんとうに駄目すぎて本当に情けないです。私なんかが国やってていんですかね。」
「本田。」
「迷惑じゃないんですか。一人鎖国でもしてたほうがよそ様のためになるんじゃないですかね。もう私なんかいなくってもどうでも……。」
「本田!」
叱りつけるようなルートヴィッヒの声にはっとして顔を上げる。
ルートヴィッヒは酷く腹をたてているようで、眉間の皺が深くじっと目をあわせてくる蒼が痛い。
「弱気になるのもいいし愚痴を言うのもかまわん。だが、俺の前で自分を卑下するようなことを言うのはやめろ。少なくとも俺は……俺やフェリシアーノはお前のことをどうでもいいなどとは思っていない。」
「るーと、さん。」
「しんどいときに落ち込むのは分かる。だが、お前のことを大事に思っている奴もいるのだからそんな風に自棄にならずにちゃんと何か言ってくれ。少なくとも愚痴を聞くぐらいのことはできるんだから。」
眉間の皺はそのままなのに、さっきまで痛かった視線が今は優しくて。
本田は何か言おうとするが口元がふにゃふにゃとして上手く言葉にならない。言葉が出ない代わりにぽろぽろとみっともないくらいに涙が出た。
「……ふ、ふぇぇえええ。」
「!ほ、本田?」
慌てて顔を覗き込んでくるルートヴィッヒの胸にぼすっと倒れこんでそのままべそべそと泣きつづける。
どうしていいのかわからなくて最初はやり場のなかったルートヴィッヒの腕がためらうようにそっと抱きしめてくる。
「お前はよくやっている。だからもっと自信をもて。」
そっと頭を撫でると顔をふせたまま
「ありがとうございます。」
としゃくりあげて酷く聞きづらい声で答えてきた。
本田の涙はまだ止まらない様子で、ルートヴィッヒの胸元に顔を埋めたままなので好きなようにさせてひたすら頭を撫で続ける。
しばらく撫でていると何時の間に眠ったのか、小さな寝息が聞こえてきた。
ルートヴィッヒは苦笑すると本田を抱え直して、ぬるくなった日本酒に口をつけた。
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ついったーで勢いで書いたのをこちらにさらしてみる。