一刀が風邪をひいた。
最近何やら忙しくしているらしく、夜遅くまで部屋に明かりが灯っているのを度々見かけた。
そのせいかどうかは分からぬが、今は床で寝込むはめとなっている。
朝の調練も終わり少し時間が開いたので、様子見がてら見舞いしてやろうと一刀の部屋へと向かった。
すると何やら騒ぎ声が部屋の方から聞こえてきた。
「どけ!凌統!一刀様の世話は私がする!」
「いいえ!どくのは甘寧、貴方です!
一刀様はこの私が看病します!」
「これ、お前たち。何騒いでおる」
部屋の前で、思春と烈火がどちらが一刀の世話をするかをもめていた。
「いえ、祭様。こいつが悪いのです」
「なんですって!甘寧が邪魔をするのでは無いですか!」
「これこれ、病人の居るところで騒ぐでない」
「「はい……」」
再び喧嘩をし始めた2人をたしなめると、2人ともシュンとして肩を落とした。
「全くです。これじゃあ一刀様がゆっくりできないではありませんか。
旦那様ー、すりつぶしたりんごですよ。他に食べたいものはありませんかー?」
「「良々!お前!!」」
部屋の中を見ると、いつの間にか士徽こと良々が寝台のそばで膝立ちになり、一刀にさじを向けていた。
「だから静かにしろといっただろ!」
また叫び始めた思春と烈火に拳骨を落とすと、その場に頭をおさえながらうずくまった。
「2人とも仕事があるだろう。
一刀の看病は良々に任せて2人ともさっさと持ち場に戻れ」
「しかし祭様…」
「しかしも案山子もない!さっさと行け。
それとも、もう一発欲しいのか」
「「いえ!けっこうですー!」」
拳をつくり2人の前に出すと、思春と烈火は慌てた様子でその場から逃げていった。
「だから静かにしろと言っておるのに……」
部屋に入ると少し顔を赤くした一刀が良々に手伝ってもらいながら身体を起こそうとしていた。
「そのままで良い。どうじゃ、具合は」
「ああ、熱は引いてきたんだけど、体のほうがまだ怠くてね」
策殿を診に来ていた華佗がたまたまやって来ていたので、ついでに一刀も診てもらい薬を処方してもらったのだ。
それが効いているのか、思ったより元気な様子ではあった。
「まあ風邪じゃからな。
だが、だからといって無理をしてはいかんからな。もう少し安静にしておれよ」
「分かったよ。ありがとう」
「うむ。良々も一刀の世話、よろしく頼むぞ」
「はい、夫の体調管理も妻の役目。きちんとして見せます」
いつもの無表情だが、はっきりとした口調で胸を張りながら答えた。
その後、部屋を出る前にもう一度一刀たちの方を振り向くと、汗を書いた身体を拭くため服を脱がそうとする良々と、それをやめさせようと必死になっている一刀の様子がおかしく微笑ましいく思えた。
次の日。
「面目ありません」
良々は自身の寝台に寝ながら申し訳なさそうな(無表情なのだが)顔をしていた。
どうやら昨日の看病で一刀の風邪が伝染ったらしく、熱を出して寝込んでしまった。
「うう…一刀様の世話をしなくては……」
「これ、馬鹿者。そんな状態で行っても邪魔になるだけだろう」
「しかし……」
「一刀の看病は儂がする。今日は非番じゃし、丁度良い」
無理に起きだそうとする良々を押しと止め、再び寝かしつけると儂は一刀部屋へと向かった。
「一刀、どうじゃ具合の方は?」
「あ、祭。だいぶ良くなったよ」
部屋に入ると一刀は、身体を起こして寝台の台に竹簡を並べ、上げられてきた案件を眺めていた。
「これ、何をやっておる。いくらましになったからって、まだ無理をするでない」
「でも、あまり休むと溜まってしまうから」
見ると確かに、一刀の机の上には処理されていない竹簡が積み上げられていた。
「……分かった。
じゃが、まだ無理は駄目じゃ。少ししたらまた休めよ」
「分かったよ」
すると再び竹簡に目を落とし、一刀は政務に戻った。
儂は隣で一刀の机の整理や言われた資料を持て来たりと手伝いをしていた。
昼にあり少し腹がすいてきたなと感じた頃に、
「そろそろ終いにしろ。もうすぐ昼じゃ、儂が粥を作ってきてやろう」
「もう昼か。わかったこれが終わったら切り上げるよ」
書き物をしている一刀が返事をするのを認めると、儂は一刀の粥を作るために厨房へと向かった。
出来上がった粥を持って戻ってくると、ちゃんと言った通りに仕事をやめ、台のうえも片付けていた。
片付けられた台の上に作った粥の入った土鍋を置くと、
「祭の料理かー。そういえば久しぶりかもね」
一刀は少し嬉しそうに入った粥を見た。
「そうか?…そうかもしれんな。
そういえば、お前が小さい時は良くつくってやったのぉ」
堅殿はあれで料理は苦手じゃったからの、儂がかわりに策殿や一刀に料理をつくってやったな。
「小さい時にお前が熱を出した時も、今みたいに儂が看病してやったかの……」
一度昔のことを思い出すと、次々と他の思い出も蘇ってくる。
それらの記憶は嫌なものでは無い、皆心地よく大切な思い出だ。
「……何を焦っとるのじゃ、一刀」
最近の此奴の様子を見た素直な感想を言うと、はっとした顔で一刀はこちらを見つめ返した。
「…別に、って言ったら嘘になるかな。自分では普通のつもりなんだけどね。
……もうすぐ、この戦乱も終わるだろう。そのためにやれることは全部やろうって思っただけだよ」
前に冥琳と話した時、あいつもそんなことを言っておった。
もうすぐ魏との戦が起こり、その戦いが最後の戦になるだろう、と。
「それで身体を壊したら元も子もないじゃろうに…」
「そうだね、ははは……」
苦笑いをするその顔は、昔からちっとも変わっとらん。
体はでかくなっても小さい時のままの一刀、儂がずっと好きな一刀のままじゃった。
「一刀…儂のことは好きか?」
だから、今だからきちんと言う必要がある。もう、その時が迫っているのなら。
「えっ?急に何だよ…」
「良いから答えよ。好きか、嫌いか?」
「嫌いなわけ無いよ。祭の事、その好きだよ」
「それは母としてか、それとも姉としてか?それとも一人の女としてか」
「祭……」
我ながらなんとも浅ましい女だと思う。そんな言い方をされたら、優しい一刀のことじゃ、困ってしまうではないか。
「ふっ、済まぬ。今の話は…「待ってくれ!」…一刀?」
「待ってくれ。さっきの答えだけど、俺は祭の事を一人の女性として好きだ。
祭は俺の初恋の人で、大切にしたい、守りたいって思える
真剣で真っ直ぐなその顔は、まさに男の顔であった。
「たわけ。まだお前のような童に助けられるほど不抜けては居らぬわ」
照れ隠しに額をピンと指で弾いてやると、一刀は弾かれた部分をおさえながら苦笑いを返した。
話を終えると一刀は再び眠りにつくため布団に潜り込んだ。
「じゃあ祭、また休ませてもらうよ」
「ん、あ、ああ…」
しかし本当の事を言うと、一刀に眠って欲しく無かった。
好きな男の、一刀の男らしい顔を見せられて、久々に女の部分が疼いてしまった。
「そうじゃ…待て一刀!風邪を早く治すには汗をかくと良いらしいぞ」
「ん?そう言えばそんな事を来たことがあるな」
「そうじゃろ。寝る前に少し運動をせんか?」
「運動って?」
そう言い終える前に、首を傾げる一刀の上に儂は馬乗りになる形で跨った。
「ちょ、ちょっと祭!何、どうしたの!?」
「なあに、お前は寝転んどるだけでよい」
そう言いながら一刀にかかっていた布団を引き剥がした。
「さっき儂の事を好きじゃと言ったのは嘘だったのか?」
「そんな事無いよ、あれは本当だよ」
「なら、問題ない」
着ていた服を脱ぎ捨てると、一刀の穿いていた服もむしり取った。
「きゃっ!?」
「ふふふっ、観念せい。天井のシミを数えている間に終わるわい」
「それ、男が言う台詞じゃ無い!?」
「あ、だからと言ってあまり早くイッてしまうなよ。
どれどれ、小さい時からどれだけ成長したのやら……」
成長具合を確かめてやろうとすると、一刀は狼狽えていた。
本当にこいつを見ていると、いろいろな姿を見れて飽きない。
だから好きになったのかもしれない。愛おしいと思ったのかもしれない。
一刀達はもうすぐ戦いが終わると言った。
しかしその戦いは苛烈を極めたものとなるじゃろう。
その時こいつがどんな風に行動するか、
「ふふふ、期待しておるぞ」
ということで今回は祭の拠点でした。
前回から続く無双ターンですが、何が夢想かわかりましたか。そうです一刀君の珍宝が無双状態なのです。この無双状態、まだまだ続きますのでお楽しみ(?)を。
さて、前回は後あがきを書いてなかったのでここで冥琳の話を。
コメント欄を見ると「冥琳に死亡フラグが…」という意見がありましたが、ここで再び言いますが、冥琳は死なない!!作者は基本ひとが死んでどうこうと言う話があまり好きでは無いので、冥琳や他のキャラも(多分)死にません。だから安心して下さい。
続いて今回の祭の話。話の中で士徽の真名良々を皆言ってましたが、一刀に許した後(31話)皆にも良々は真名を託しました。なので皆彼女の真名を呼んでいるわけです。
真名の話でもう一つ。劇中で思春と烈火は互いに真名を呼んでいません。本当は互いに真名を預けあっているのですが2人とも過去の因縁があってなかなか呼び合うことができません。そのへんはもし機会があったら書いても良いかもしれませんね。
一刀が風邪を引いたのは祭に料理をさせる為です。祭の料理エピソードをどうにか出したいと思ってそれなら看病させようと思い病気になってもらいました。祭の母性あふれる看病になったら風邪なんてすぐに治るでしょう。まあその前に、搾り取られたんですけどね。
さて、次回は誰の拠点を書こうかな?ではこのへんでノシ
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無双乱舞第2弾!今回は祭の拠点です。
ではそうぞ!